「ふぁ〜あ…。今日はちゃんと起きなくちゃね。」
今日は綾女《あやめ》と一緒に夏祭りを回るのだ。朝のうちからしっかりと準備しておかなくては。
『にいちゃ〜ん?起きてる?』
「うん、起きてるよ。どうしたの?」
『今日のお祭り、誰かと行く予定…ある?』
「あー、ごめん。綾女と一緒に回る予定なんだ。」
『うーん、そっかぁ…。しょーがないね』
「もしかして、一緒に回りたかったの?それなら一緒に回る?綾女も瞿麦《なでしこ》ならおっけーしてくれるだろうし。」
『ううん。そうじゃなくて、にいちゃんと一緒に回りたいって子がいたの。』
「え、誰だろう…?」
『んとね、夏美《なつみ》ちゃんと芽美《めぐみ》ちゃんだよ。』
「あいつらか…。でも、断っておいてよ。ごめんねって伝えておいて。」
『うん、わかった!』
朝ごはん食べたら風呂入って、祭の準備するか。
トゥルルル…
「もしもし?綾女?」
『あ、桔梗《ききょう》?おはよう!』
「おはよう。ところで、どうかしたの?」
『ううん、でもちょっと確認したいこと。』
「確認?」
『うん。今日何時くらいにどこ集合かとか決めてなかったよね?それ決めようかなって。』
「あぁ、確かに決めてなかったね。どこにする?」
『あの…ね?桔梗の家がいいなぁ…って思ってるんだ。』
「え、僕のうち?」
『う、うん…。ダメだったらそれでいいだけど…。』
「うちは別に平気だよ、うん。じゃあ家で待ってるよ。」
『ほんと!?やった…!じゃあ、午後1時くらいに迎えに行くね?』
「わかった!待ってるよ。」
『うん!じゃあ、また後でね。』
「うん、また後で。」
ツー、ツー、ツー…
「よしっ!あと2時間もあるから、さっさと準備してゆっくりするか。」
寝汗がすごかったからまずは風呂入ろう。勿論湯舟にゆっくりと浸かってね。
「ふぅー、スッキリした…!ん?あと30分か、楽しみだな…!」
祭会場で何をしようか、どうやって回るかを考えているうちに時間はあっという間に過ぎた。
ピンポーン…
『あの、神崎です…。』
「あ、今行きます!」
ガチャッ!
「やぁ、綾女。こんにちわ。」
『こんにちわ。今日はよろしくね!』
「う、うん。こちらこそよろしく。」
『どうしたの?顔赤いけど、大丈夫?』
「い、いや…その浴衣がさ。」
『似合って…ないかな?』
「い、いや!その逆だよ!とても似合ってる。それに、可愛いよ…!」
『えと、その…。ありがと…///』
「そろそろ、行こうか…?」
『う、うん!』
祭会場の神社は歩いて10分くらいの場所にある。ただ、今日は人がとても多くて流石に10分ほどでは着かなそうだけど。
「顔赤いけど大丈夫?」
『えっ!?だ、だいじょうぶだよ…!アハハ…』
「そう?それならいいけど…。辛かったらちゃんと言ってね?風邪引かれても困るからさ…?」
『…好きな人とお祭なんて緊張するに決まってるよぉ…。』
「ん?なんか言った?」
『な、なんでもないよ!ほら、会場見えてきたよ!』
「本当だ。じゃあ、最初にどこ行きたい?」
『えっと…、綿あめ!綿あめ食べたいな!』
「おっけー!じゃあ、綿あめ屋さん行こうか!」
『あっちの店の方が大きいよ!あっちに行こ!』
「本当だね!じゃあ、あっち行こう!」
『うん!』
綿あめ屋台に着くとおじさんに「可愛い子連れてるな!」ってからかわれてしまった。綾女の顔が真っ赤になっていた。多分僕の顔も同じく赤くなっていただろう。
『綿あめ買ってくるね…///』
「あ、僕が買ってあげるよ!」
『え、そんな…悪いよ。』
「いいっていいって!」
僕は自分と綾女の2人分の綿あめを買った。その時おじさんに「彼女か?」と聞かれたが、綾女には聞こえていなかったみたいで安心した。
『あの、ありがとう…!』
「ふふっ、いいよいいよ!今日は全部僕の奢りだよ!」
『えっ!それは悪いよ…!』
「綾女に誘われるまで祭行こうと思わなかったからさ、その分のお礼させてよ!」
『それなら…うん!お言葉に甘えて!』
「それじゃあ、祭思いっきり楽しむぞー!」
『おー!』
「次どこ行く?かき氷?りんご飴?」
『うーん…かき氷が良いな!』
「いいね!じゃあかき氷行こっか!」
『うん!』
かき氷屋台は意外と近くにあった。というか周りにたくさんある。
「何味がいい?」
『えっとね…、レモンとイチゴ!』
「おっけー!」
シロップはかけ放題だったので、2味でも3味でもかけることができた。綾女は昔と変わらずレモンとイチゴだった。
「はい!かき氷。」
『ありがとー!あれ、桔梗は食べないの?』
「あぁ、僕はいいよ。」
『ふーん、そっか。それじゃあ…こっち向いて?』
「ん?」
『一口、あげる♪』
「はふ、シャリッ!」
氷のしゃりしゃり感と冷たさが口の中に広がっているのはわかった。でも驚きと恥ずかしさで味は分からなかった。
『どぉ?美味しい?』
「う、うん!美味しいよ!」
『良かったー!それじゃあ、私も…ハムッ!あ、間接キス、しちゃった…///』
「な、何言ってるのさ///」
『アハハ…。ねぇ、ちょっと疲れたから休めるところに行きたいな?』
「そうだね、ちょっと休もうか。」
僕たちは神社の中にあるベンチに腰掛けた。綾女はあまり元気がなさそうだった。
「ねぇ、綾女?大丈夫?」
『う、うん。大丈夫…。だけど、桔梗に聞いて欲しいことがあるの…。』
「僕に?僕で良ければ話聞くよ?」
『ありがとう。実は…』
綾女の話を聞いた時、僕はとても驚いた。なんと、夏休み明けに引っ越すというものだった。
『…今通ってる学校も遠くなっちゃうから転校するの。まだ転校先は決まってないけど、
中頃には通知が届くって。引っ越しちゃうと桔梗と更に会えなくなっちゃうからさ…。だから、夏祭りに誘ったんだ…。』
「でも、なんで僕なの?好きな人と誘えば良かったのに…。あ、そうか。そういうことだったのか…。」
『うん…。それを伝えたくて誘ったの。だから、言わせて…。』
「う、うん…。」
『私は桔梗の事がずっと昔から好きでした。だから、だから私と付き合ってもらえませんか…?』
ずっと好きだった綾女から告白されるとは思ってもいなかった。最初はからかっているのかなとも思ったけど、綾女の目は本気だ。
「…僕もずっと昔から綾女の事が好きでした。なので、どうかよろしくお願いします…!!」
『本当に…?やったぁ…!私たち、両思いだぁ…!!これからよろしくね。桔梗!』
「うん!綾女の期待に応えられるように頑張るよ!」
『私は桔梗が好きなんだから、そのまんまがいいな♪』
「う、うん…///」
『て、照れないでよね…!私まで照れちゃうじゃん…///』
「それにしても、綾女引っ越すのかぁ…。」
『うん。でも、私に会いに来てよ?私の彼氏なんだからさ!』
「うん、もちろんだよ。」
『あ、ありがとう…//』
「それじゃあ、今年の夏は沢山思い出作らなくちゃね!」
『うん!!楽しい思い出沢山作ろうね!』
「じゃあ、次はどこ行きたい?」
『桔梗の部屋!』
「えっ!ぼ、僕の部屋?」
『うん!…だめかな?』
「大丈夫だよ!それじゃ、うち…行こうか?」
…という事で、僕の家に綾女が来ることになった。夜遅くに女の子を家に連れ込むと両親に何か言われそうだが、今回はいないので安心だ。綾女に、家族は心配しないのかと聞いたら『友達の家に1週間泊まる』と言ってあるそうだ。なんと仕事の早いことだろう。…って、もしかして1週間もうちに泊まるつもりなのか!?