四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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 感想及び誤字報告ありがとうございます。

 ストックはこれで全部ですので、今後は更新に時間が掛かると思います。


第九話 夜天の空に月夜が煌めく

 

 

 

 

 

『待ってリインフォース! 消えんでええ!』

 

『我が主……』

 

 モニターの車椅子の少女八神はやてが、儀式によって自ら消えようとしている夜天の書の管制人格リインフォースを止めようとしている。

 

「じゃあそろそろ行こう夜天」

 

「はい、我が主」

 

 その様子を確認したハジメと夜天は目的を果たすべく行動を起こす。

 

 

 

 

 

 フェイト・テスタロッサは自身のデバイスバルディッシュを強く握り堪えていた。

 目の前ではリインフォースがはやてと別れの時を迎えている。

 まだ幼いフェイトもこれまで種別はあれど別れを幾度も経験したことはあるが慣れるものではない。

 ましてそれが永遠の別れとなるのなら、身を引き裂かれるような悲しみだと実体験から共感していた。

 

 どうにかしたいがそれを叶える術を自身は持たず、リインフォースの頼みに応えて終焉の儀式に手を貸す事が精一杯だった。

 こうしてデバイスを構えて儀式の魔方陣を維持しているが、ずっとほかに方法はないかと考え続けていた。

 

「(母さんだったら夜天の書を直すことが出来たかな?)」

 

 優秀な科学者だったプレシアであれば修復方法が分かったかもしれないと考えるが、この場に来ることが出来ない人に頼ったところでどうしようもない。

 現在プレシアは管理局本局に拘留されており、自由に行動することなど出来ないのだから。

 

 フェイトはかつて母と呼ぶプレシアと永遠の別れを経験した。

 決して出てくる事の出来ないと言われる虚数空間に落ちて、二度と会うことが出来ないだろうと誰もが確信していた。

 しかし闇の書の事件が起こる少し前に、フェイトが保護されていた次元航行艦船にプレシアは自首という形で現れた。

 先の事件の首謀者として逮捕され、一定の事情聴取の後にプレシアとの面会をフェイトは許可された。

 

『母さん………久しぶり…です』

 

『貴方も元気そうね、フェイト』

 

『あ、はい………』

 

 プレシアとの再会を喜んだが、直後に何を話していいかわからなくなり引っ込み思案になってしまう。

 

『フェイト、私はここに来たのは大人としてケジメをつけるためよ』

 

『ケジメ?』

 

『ええ。 私がしてきたこと。 貴方にしてきた事やらせてきた事すべてに私は大人として責任を果たしに来たわ。

 ………まずは謝らせて頂戴。 ごめんなさい』

 

『え? か、母さん?』

 

 突然頭を下げて謝罪をされたフェイトは困惑する。

 かつてのプレシアを知るフェイトには謝られるとは思っても見なかったからだ。

 更に困惑するうちにプレシアは下げていた頭を上げる。

 

『許しはいらないわ。 これも一つのケジメ、まずは謝らないと話にならないもの。

 ……フェイト、あなたはまだ私を母と呼ぶのね』

 

『!? ………母さんは私の母さんだから』

 

『それを今更どうこういうつもりはないわ、好きにしなさい』

 

『それって!』

 

『貴方を生み出したのは私よ。 その事実が変わらない以上どんなに目を背けたって親であることは否定できない。

 だからといってフェイト、貴方の期待通りにはならないわ。

 今更貴方の母親面なんて出来ないし、私の行く場所がもう決まっていて一緒にいる事なんてできない』

 

『そんな……』

 

『貴方は新しい居場所を見つけなさい。 自由に生きられるようには取り計らってあげる。

 貴方には本来何の責任もないのだから』

 

 プレシアのその言葉の意味は、受けていた裁判が即時終了したことでフェイトは理解する。

 主犯であったプレシアがすべての罪を認めて、フェイトに罪はないことを主張したからだ。

 

 その後、プレシアはアースラから本局に搬送されて裁判が始まり、容易に面会することが難しくなった。

 それまでの僅かな期間、再度の別れの時までフェイトは可能な限り会い続け、プレシアも面会を拒否する事はかった。

 

「(母さんとはまた会えなくなっちゃったけど、今度はもう二度と会えないわけじゃない

 だけどはやてとリインフォースは…)」

 

 プレシアが助かった理由は黙秘され未だ分かっていないが、虚数空間からの生還は奇跡だ。

 夜天の書の破壊が決定している以上、二人が今後も共にあることはあり得ない。

 それこそ奇跡のようなことでも起きない限りは…

 

 二人の別れの語り合いをなのはと守護騎士達と悲しげに見守っていたその時、上空から突然魔力反応を感知する。

 

「「!?」」

 

 すっかり二人の事に意識を向けていた各々は反応に遅れ、儀式を形成していた魔法陣に魔法弾が着弾する。

 

――キャンッ!――

 

 陶器が割れるような音共に魔法陣は形を崩して儀式が中断される。

 

「儀式が!?」

 

「上だ、全員警戒しろ!」

 

 儀式が中断されたことに戸惑う中で、守護騎士のシグナムが率先して警戒を訴える。

 魔法弾が飛んできた上空を見上げるとローブ姿の人影が下りてくるのを確認した。

 地面に降り立つと全員が一番無防備なはやてを守るように警戒し、シグナムが剣を手にして前に出る。

 

「何者だ?」

 

「ん、何者だ、か。 そう問われると少し返答に悩むな。

 今の僕を表すにはどう答えたら良いものか」

 

 シグナムの質問にローブ姿の男、ハジメは真剣にどう答えるべきか悩む。

 

「ふざけているのか!」

 

「ああ、すまない、そんなつもりではなかった。

 うまい自己紹介を思いつかなくて少し考え込んでいた。

 僕は中野ハジメ。 何者かという答えには冒険者、いや探究者というほうが僕を表しているか?」

 

「…それでその探究者とやらがなぜこのような真似をする」

 

「そうだね、単刀直入に用件を言おう。

 僕はそこの二人、八神はやてとリインフォースに用があってこの場に来た。

 今このまま消えてもらっては困るから中断させてもらった。

 用が済んだらもう邪魔をしないと約束しよう」

 

 はやてとリンフォースが狙いと聞いて警戒を強める守護騎士達。

 

「我らの主に何用だ」

 

「待て、烈火の将」

 

「リインフォース?」

 

「なぜ貴様がその杖を持っている」

 

 シグナムを呼び止めたリインフォースの指摘により、ハジメの持つ杖に注目が集まる。

 その杖にこの場にいる者たちは見覚えがあることに気づく。

 

「あの杖ってはやてちゃんの…」

 

「そうだ。 夜天の主が書と共に魔法を行使するために持つはずの魔導機だ。

 書と共に二つとない杖をなぜ持っている。

 それにその魔力は…」

 

 杖だけでなくハジメから感じる魔力に訝しむ。

 

「流石に貴方にはわかるか」

 

 杖を持ってない片手を掲げるとそこに一冊の魔導書が現れる。

 

「夜天の書だと!」

 

「そして、ユニゾンアウト」

 

 そう宣言すると隣にリインフォースと同じ姿の女性、ハジメが夜天と呼ぶ存在が表れる。

 同時にうすい灰色に変化していたハジメの髪が黒髪に戻る

 

「どういう事だ?」

 

「リインフォースがもう一人おる? 双子の姉妹でもおったん?」

 

 リインフォースは偽物とは思えない同じ存在に愕然とし、はやては急展開に頓珍漢な回答をする。

 

「初めましてというべきなのだろうか、我が半身。

 そして半身を救ってくれた小さき主八神はやて」

 

「半身だと? お前は私の半身だというのか」

 

「ああ、我等と夜天の書は闇の書であった時に我が主の力によって二つに分かたれていた」

 

「どういうことなのだ」

 

「ちょっと待って夜天。 そこからは僕が説明する」

 

「はい」

 

 夜天が説明しようしたところをハジメは止め、自身が説明すると下がらせる。

 

「まずは八神はやてさん」

 

「は、はい、何です?」

 

「僕はあなたに謝らなければならない。 その理由からまず説明させてほしい」

 

「ようわからんけど、おねがいします」

 

「じゃあまず「そこまでだ!」」

 

 ハジメが説明を始めようとするのを突然響いた声が遮った。

 再び上空に新たな人影が表れる。

 

「管理局執務官クロノ・ハラオウンだ! 詳しい話を聞かせてもらおうか!」

 

「「「………」」」

 

 詳しい話を始めようというとき、遮って詳しい話をしろとはこれ如何に。

 

「な、なんだ?」

 

「タイミングはあれだけど、役者はそろったかな」

 

 自身に集中する生暖かい視線に戸惑うクロノに、ハジメは準備万端とほくそ笑んだ

 

 

 

「クロノくん、人がお話をしてる最中に割り込んだらダメなんだからね!」

 

「いや、そんなつもりは…」

 

「クロノはいつもそう」

 

「…すまない」

 

 なのはとフェイトに責め立てられ身を小さくするクロノ。

 はやてはリインフォースと共に身を整えて話を聞く態勢に、守護騎士達は何があれば直ぐ動けるようにハジメを警戒している。

 

「改めて話をさせてもらうがその前に…。 ああ、心配しないでくれ、結界を張るだけだ」

 

 杖を使おうとすると守護騎士達の警戒が強まるが、結界を張るだけだと諫める。

 杖で地面をつくと魔法陣が広がり、辺り一帯を包み込む結界が展開される。

 

「これは何の結界だ。 封時結界のようにも見えるが、何かが違う」

 

「シャマル、どうだ?」

 

「リインフォースの言う通り、見た目は似ているけど封時結界よりも数段強力な結界よ。

 術式も簡単には読み取れないように高度なプロテクトまで掛けてあるわ」

 

 シャマルの分析にシグナムたちは否応にハジメへの警戒を強める。

 事実上閉じ込められたようなものだから仕方がない。

 

「すみません、これからの話は矢鱈と広まるのは好ましくないので外部との情報遮断をさせてもらった。

 管理局からはそこの彼がいれば体裁は整うだろう」

 

「む、………確かに外との連絡がつかないが、こちらとの連絡が途切れれば応援がすぐ駆けつけるぞ」

 

「大丈夫です。 この結界は少々特殊なので外からは絶対に破れません。

 それでは改めてこちらの夜天の事を説明しよう」

 

 それははやてが闇の書を起動させる前に遡り、起動前の闇の書を二つに分割したことを伝える。

 その時点でクロノが一級のロストロギアを増やすなんてあり得ないと騒ぎ立てるが気にせず話を続け、ハジメはこの世界(・・)で魔法技術収集を行なっており、古代ベルカの魔法技術を得るために闇の書内の情報を求めた。

 情報を引き出す過程で闇の書の問題点を改善し夜天の書に戻したと説明したところで、はやてを筆頭に色めき立ちクロノは頭を抱えた。

 

「ほんならハジメさんでしたら夜天の書を直して、こっちのリインフォースを助けられるんですか!?」

 

「ええ、その為の手段も用意してきてあります。

 ですが僕の要件は個人的な理由で、本来の所有者であるあなたから同意なく夜天の書を半分持ち去ったことについてです。

 闇の書の危険性を考慮した上で修復出来る確証もなかったので同意を得られるとは思えず勝手ながら盗むことになりました。

 その事に謝罪します。 すみませんでした」

 

 ハジメがはやてに向かって頭を下げる。

 

「そういうことですか。

 せやけど、みんなが本から出てくる前は私何にも知らんかったし」

 

「ですが夜天の書が選んだ主がはやてさんであることに変わりはありません」

 

「わかりました、そういう事でしたら謝罪を受け取ります。

 それにリインフォースを助けてくれるんでしたら、私はなんも言うことありません」

 

「ありがとうございます。 後はこちらの夜天の扱いについてです。

 半分とはいえこの子もまた夜天の書のオリジナルであり、本来の持ち主がはやてさんであることに変わりはありません。

 望むなら彼女をあなたの下に帰属させます」

 

「つまり私のところにその子も来るってことなん?

 えっと、そっちのリインフォース、夜天さんて名前で呼んだらええんかな?」

 

「ハジメ様が私を夜天と呼ぶのは、本来の主ではない自分が名付けるべきではないからと、仮の名前としてそう呼ばれていました」

 

「ほんなら貴方にもちゃんとした名前を考えてあげんとな」

 

「その必要はありません。 夜天がはやてさんに帰属するなら、そちらのリインフォースと再び一つの存在に戻します」

 

「そんな事も出来るん? 魔法の力ってすごいなぁ」

 

「いや待て、八神はやて。 その男の言ってる事はミッドチルダでもかなり無茶苦茶だからな」

 

 頭を抱えていたクロノのツッコミが入る。

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、僕の持つ力はミッドチルダとは関係のない別物です」

 

「闇の書を簡単に増やしたり直したり一つにできるなら、疾うの昔に管理局が闇の書事件を解決している。

 本当にそんな技術を持っている世界があるなら異常なことだ」

 

 闇の書をほぼ自由に扱う技術に、クロノはその力を持つハジメに危険を感じる。

 

「まあ僕の事は後回しで。

 それではやてさん、夜天の帰属を求めますか?」

 

「同じリインフォースなら家族同然や、その子が私のところ来たい言うなら構わへんよ」

 

「………夜天の主八神はやて、願わくば私はこの方を主と仰ぎたい」

 

 夜天ははやての前に跪き、ハジメの下に居たいとつげる。

 半身である夜天が別の主に仕えたいという考えに、リインフォースがわずかに目を見開く。

 

「えっと、それは構えへんけど、夜天さんがうちに来たい言う話やなかったん?」

 

「如何に私を正しい姿に戻してくれた恩人といえども、真の主が貴方であることに変わりはありません。

 その意思を明確にせぬうちに主の鞍替えなど我等には許されません」

 

「つまり夜天が自分の立ち位置を選ぶには、最初にはやてさんの了解が必要なんだ。

 君が自由にしていいと思っていても、彼女達の騎士としての矜持がある。

 それに背く事は出来ない以上、はやてさんの意思確認をするのが道理なんだ」

 

「リインフォースも夜天さんもシグナム達と同じで律儀やな」

 

「確かにそうかもしれないけど、通すべき筋は通さなきゃいけない。

 君にまず謝罪したこともそうだし、夜天に名を与えなかったのもそうするべきだと思ったからだ」

 

 ハジメもまたはやてに対して筋を通すためにここに来ている。

 

「そういうことならしゃあないな。

 夜天の主として許可します、ハジメさんに新しい名前をもらってください」

 

「感謝します八神はやて」

 

「もうあなたの主やないけどはやてって呼んでくれへん。

 さっきも言うたけどリインフォースの片割れなら大事な家族に変わりあらへん」

 

「…光栄です、はやて様」

 

「様もいらんよ」

 

「こればかりはご容赦を」

 

 これ以上は譲らないという態度であるが、はやての元を離れた自分を家族と呼んでくれることに夜天は小さく笑みを浮かべる。

 

「しゃあない、ホンマ頑固モンなんやから。

 ハジメさん」

 

「なんです?」

 

「この子の事、よろしくお願いします。

 二人になる前まで一緒なんやったなら、この子もきっと辛い目のおうてきとる。

 ちゃんと幸せにしたって下さい」

 

 そういって頭を下げてお願いするはやてに、ハジメは目を見開いて困惑する。

 

「…幸せにしてくれか。 これは少し難しいことをお願いされてしまった」

 

 夜天が正式に自分の下に残ることは想定していたが、はやてから幸せにしてやってくれと頼まれるとは思っていなかった。

 はやてに負い目があるために、ハジメはその願いをとても断る気になれなかった。

 軽く頭をかいて考え込んだ後、夜天に向き直る。

 

「ここまで来たらもう今更だが、はやてさんと共にあった方が幸せになれると思うよ」

 

「それはリインフォースに任せます。 私はあなたの下に」

 

「夜天を僕の下に連れてきたのは君の中の情報が目的だった。

 言い方が悪くなるけど、データを取り終えている以上もう君を必要とはしていない」

 

「居てもよいとあなたの口から直接聞いています」

 

「………幸せにしてくれとはやてさんに頼まれた。

 それに全力で応えるつもりだが、確約は出来ないぞ」

 

「私はもう十分幸せです。 あとは微力でもあなたのお力になれるのなら」

 

 ハジメははやての下に戻るほうが良いだろうと願っていたが、夜天は前々からはやてに話を通してから恩を返すために残ろうと決めていた。

 何時気が変わってもいいようにこれまで名を決めてこなかったが、夜天は考えを改めることなく今この時を迎えてしまった。

 観念したように溜息を吐いてからハジメは覚悟を決める。

 

「【月夜】。 夜天とお前の髪色から月が思い浮かんだ。

 大した由来の名前も付けられないけど、これでいいか?」

 

「ツキヨ………月夜、それが私の名ですか?」

 

「ああ」

 

「月夜。 その名、しかと承りました我が主」

 

 新たに名をもらった夜天改め月夜は、静やかながらも満面の笑みを浮かべた。

 ハジメは再びはやてに向き直る。

 

「彼女、月夜の事は僕の出来る限り幸せにします」

 

「お願いします。 月夜もいい名前をもらえてよかったな。

 ちゃんと幸せになるんやで」

 

「はい、はやて様」

 

「………」

 

「………」

 

「………?」

 

「…えっとな、ハジメさん。 私そうゆうつもりで言ったんやないんです」

 

「…ああうん、わかってる。 話の流れで受け答えしたけど、これはあれだ」

 

 まるで嫁ぐ娘の親と婿のような会話だったと気づき、恥ずかしくなって顔を赤くする二人。

 当の月夜と半身のリインフォースはキョトンとしてるが、ほかの面々も微妙な雰囲気になってしまっている。

 

「この年で娘を送り出すお母さんになった気分や」

 

「僕も誰かを幸せにしますなんて言うことになるとは思わなかったよ」

 

 

 

「オホンッ。 とりあえず一つの用事が片付いたのでもう一つの本題に入ろう。

 そちらのリインフォースを完全な状態に戻す件だ」

 

「そやった、それが一番肝心な事やった。

 どうやったらリインフォースを助けることが出来るんです!?」

 

 先ほどの微妙な空気を切り替えようと、はやてはややワザとらしく大きな声でハジメに聞く。

 

「すでに必要なものはここに揃ってる。

 夜天の書は過去の主達の改竄によって本来の形を失い暴走するようになってしまっている。

 欠陥部分の切り離しによって暴走状態を脱しているが、現在行われている自己修復が完了すれば再び暴走を始める小康状態といったところだ。

 そういう認識は出来ているね」

 

「このままやったらまたリインフォースがまた暴れてまうってことはわかります」

 

「それでいい。 暴走状態にならないようにするには改変された部分を元に戻せばいい。

 しかし書の本来の構造はリインフォース自身もわからなくなっていて手のつけようがない状態だが、ここには万全な状態の同じ夜天の書が存在している」

 

「月夜の事やな!」

 

「そう、彼女の持つ正しい夜天の書の構成情報をベースに、そちらの夜天の書の暴走部分を再改変すればいい。

 書の構造の改変を行うには過去に改竄を行なったように、干渉する権限を持つ主の許可が必要となる。

 暴走が止まっている今ならはやてさんの権限が通るし、月夜の情報を基に夜天の書を正しい形に再改変できる」

 

「おお! ほんなら今すぐにリインフォースを治してやれるんや!」

 

「ああ、けどそうなると別の問題が出てくる」

 

「別の問題ですか?」

 

 はやてが疑問符を浮かべるが、ハジメは視線を様子を見てたクロノに向ける。

 その視線に気づいたクロノは、それで理解し自分の出番だと前に出てくる。

 

「八神はやて、夜天の書を直す方法が見つかったのは喜ばしいことだが、僕たち管理局としてはいろいろ問題が出てくる。

 君と守護騎士、そして夜天の書は現在管理局の監視下にある状態だ。

 そして夜天の書、いや管理局の見方として闇の書は再び暴走の危険性があり、今であれば完全な破壊が可能で、その処理を持って事件の解決と結論付けている。

 つまり夜天の書の破壊は管理局として決定事項なんだ」

 

「そんな、せっかくリインフォースが助かる方法が見つかったんですよ!」

 

「それはもちろんだ。 状況が変わった以上対応を変える必要がある。

 だが一度決まった上の決定を覆すにはそれを説明する必要があるし、この場の判断で行動する訳にはいかない。

 リインフォース、書の防衛プログラムが修復して行動が再開するまでどれくらい猶予はある?」

 

「完全な修復にはまだ時間はかかるが、不完全でも主や私への影響が表れる可能性があるので明確には答えられない。

 それでも数日の猶予はあるだろう」

 

「やはり時間との勝負になるか」

 

「大丈夫なのクロノくん?」

 

 様子をうかがっていたなのはが心配そうに声をかける。

 

「とにかく早く上と掛け合ってみるしかないが何とかしよう。

 一度アースラに戻る。 中野ハジメと言ったな、君もついてきてくれ」

 

「それは遠慮しよう」

 

「ではさっそく結界を…、何?」

 

 ハジメの予想外の拒否にクロノは思わず聞き返す。

 

「そちらには行かないと言ったんだ」

 

「どういうことだ? 夜天の書を修復するのではなかったのか」

 

 不穏な気配にクロノは警戒するように手の持つデバイスを強く握りなおす。

 

「それはもちろん。 だけどそれは今この場に限っての話だ。

 今この場でリインフォースの修復を行なえないのなら、これ以降手を貸す気はない」

 

「どういう事なんです? ハジメさん」

 

「はやてさん、僕は貴方には通すべき義理があるが管理局にはない。

 僕らとしては管理局に不必要に譲歩するつもりはない」

 

「僕ら管理局に何か言えない事情があるとでもいうのか?」

 

 頑なな対応に警戒を強め怪しむクロノ。

 

「言えない事情というより相容れない事情という方が正解だ。

 集めた情報では管理局の支配する社会は、魔導技術を絶対とするいわゆる魔法主義の世界だという認識だ。

 その一つの在り方として質量兵器の禁止というものがある。

 違っていないか?」

 

「間違ってはいない。 つまり君たちはそういった武器を主流にしているという事か」

 

「確かにそうだが、それだけでもない。

 僕たちには管理局が扱いに慎重になるロストロギアと呼ばれるものを増やしたり出来る事は知っての通りだ。

 つまり管理局より進んだ技術を持っており、上との掛け合いとやらには事情の説明にその技術の提示を要求してくるだろう。

 この技術が安易に教えていいものだと思うか?」

 

「思わないな。 ロストロギア、それも闇の書ほどの最上級の代物を複製する技術の扱いは慎重になるのは当然だし、局も確実に危険視して広まらないよう管理下に置こうという意見が出るだろう」

 

「そうなることが目に見えているから僕らは管理局とは相容れない。

 それに管理局が口出ししそうな技術はまだまだある。

 こちらには不利益にしかならないだろう」

 

 ハジメが持つひみつ道具の技術は慎重な扱いが必要で、管理局に限らずどこにも公開する気はない。

 だがその技術で夜天の書を二つにした以上、クロノとしては説明責任から上に報告をしないわけにはいかない

 

「ならどうする。 僕は管理局執務官として今この場で夜天の書に手を出すことを許すわけにはいかない」

 

「それはそうだろう。 だから少々申し訳ないと思っている。

 先に謝っておく、すまない」

 

「なに?」

 

 突然の謝罪に怪訝な表情をクロノは浮かべるが、すぐさま驚愕の表情に変化することになる。

 ハジメが合図に指を鳴らすと、虚空から突然槌と剣と拳がクロノに突き付けられ、そこへバインド魔法が発動して動きを完全に封じる。

 

「なっ! こいつらは!?」

 

「シグナム!?」「ヴィータちゃん!?」「シャマルとザフィーラも!?」

 

 各々が驚きとともに現れた者たちの名を呼ぶ。

 はやてと共にある守護騎士(ヴォルケンリッター)達とは別のもう一組の守護騎士(ヴォルケンリッター)だった。

 

「そうか、私が二人になったのなら、彼らもいるのも必然か」

 

「ええ、もっとも彼女たちを起動させたのは最近なんですけどね。

 彼女達には試作した魔力遮断機能付きの【透明マント】でこの時の為に待機してもらっていました。

 月夜の主に正式になったので、せっかくですので主として命じます。

 その執務官を事が終わるまで押さえといて」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

 新たに現れた守護騎士達は正式な主となったハジメに騎士として命令を承る。

 急な展開に経験の浅いなのは、フェイト、はやては混乱している。

 

「えっと、あの子たちは月夜の方の守護騎士達なんやな。

 でもなんでクロノくんをあないな風にするん? 乱暴したらあかんよ」

 

「これも筋を通さなきゃいけない大人のやり方という奴だ。

 僕なりの管理局の執務官に対する気遣いだと思ってくれ」

 

「これの何処が気遣いだ!!」

 

 動きを封じられ抗議する事しかできないクロノ。

 

「こうでもしないとあなたは執務官として、この場で夜天の書の修復を止めないわけにはいかないでしょう。

 なら力ずくで動きを封じられて止めることが出来なかったという理由があった方が体裁がつく。

 まあ監督責任という問題が上がるかもしれないが、そこは諦めてくれ」

 

「ホントにふざけた気遣いだな!」

 

 何とか出来ないかと目を配らせるが、守護騎士四人に囲まれて押さえられてはまるで隙が無い。

 

「じゃあさっそく夜天の書の修復を始めよう。

 月夜がリインフォースに接触し、はやてさんが干渉を許可すれば修復を始められる」

 

「そやけど、ええんかな…」

 

「先ほども言ったけど、こっちの事情で修復に協力するのは今だけだ。

 悪いけど別の機会はないと思ってくれ」

 

「待て、管理局と争うような真似はやめろ!

 これは君の為にも言っている。 管理局は君が思っているほど弱い組織ではない。

 それに既に船との連絡を遮断されて、だいぶ時間が経ったことで何かあったと動いている。

 夜天の書の修復も数分で終わるようなものではないだろう。

 修復が終わる前に応援が駆け付ける!」

 

 たとえ自分を抑えていても管理局が黙っていないとクロノは忠告する。

 

「確かに修復には数時間はかかる予定だが、管理局からの応援の可能性はない」

 

「なぜそう言い切れる」

 

「僕が張ったこの封絶結界は空間の位相をズラすだけでなく、時間の流れも遮断している。

 この結界の中でいくら時間が過ぎても、外では結界を張られたと認識できた瞬間で止まっているよ」

 

「な、そんな馬鹿なことがあってたまるか!」

 

「いやあ、封時結界の術式にうちの時間干渉技術がうまくかみ合ってしまって出来ちゃったんだ。

 術式は読み取れないようにしてあるから調べられないだろうけど、本当かどうかは書の修復が終わって結界の外に出てから確認するといい。

 拘束する以外に危害を加える気はないから安心してくれ」

 

「えっと、つまりどういう事なんだろ」

 

「わかったで、つまりここは精神と時の部屋なんや」

 

「精神と時の部屋って何?」

 

「知らんのかフェイトちゃん!? 人生半分は損しとるで」

 

 この世界にドラゴンボールはあるらしい。

 

「そういうわけだから外からの邪魔は気にしなくていい」

 

「くっ、なのは、フェイト! こいつを「おっと」むむぅ!」

 

 ハジメの自信のある態度から外からの応援は期待できないと判断し、クロノは二人に指示を出そうとしたところバインドによって口も封じられる。

 

「その子たちに指示を出すのも駄目だ。

 指示があれば事件の協力者だった彼女たちは動かないといけないが、指示が無ければ各自の判断という事で済む。

 リインフォースを助ける邪魔をしろなんて、酷な事させちゃダメだ」

 

「むむむむむー!」

 

「あはは、何言ってるかわかんない。 ちなみに念話も封じてあるから諦めてくれ」

 

「むむーーー!」

 

 喋ることすら封じられたクロノを後目に、ハジメははやてとリインフォースに視線を戻す。

 

「じゃあ、そろそろ修復作業に入ろうか」

 

「ほんまにええんかな?」

 

 クロノがミノムシ状態であることもさることながら、あれほど忠告されたことで不味いのではないかと不安になるはやて。

 

「拙い事には違いないけど、そもそも夜天の書自体が残る事にも大きな問題になるんだ。

 知っての通り闇の書はこれまで多くの被害を出してきた。

 それが消滅するのなら全て解決したと断定出来るが、修復されて残るとなるとまた暴走しないかという危険性が残ることになる。

 その事からたとえ管理局と話し合ったとしても修復を許可されない可能性が高い。

 はやてさんには書を修復しないという選択肢はないだろう」

 

「そら…まあ…」

 

「穏便に済ませたい気持ちもわかるが、今は無理矢理にでも事を進ませるしかないと思ってる。

 それに修復しても君等には問題が山積みだ。

 闇の書にまつわる事件の罪もそうだけど、修復したからと言って安全であると証明出来るわけではない

 管理局でいろいろ調査されることになるだろうし、問題無かったとしても壊せるなら壊せるうちに処分しておくべきだという意見も出るかもしれない」

 

「っ! そんなことさせへん!」

 

 リインフォースは絶対守るという意思をはやては見せる。

 

「ともかく夜天の書を残すにはいろいろ困難が多いのは確かだ。

 こればっかりは頑張ってくれとしか言えない。

 一つ参考に夜天の書を守るのにミッドチルダの聖王教会が味方になってくれるかもしれない

 覚えておくといい」

 

「わかりました」

 

「ホントにどうしようもなくなったら僕らのところに来るといい。

 管理局のような組織じゃないから余計な(しがらみ)もない」

 

 アリシア達もいるので今更だとハジメは思った。

 

 

 

 はやてが管理者権限で許可し月夜が情報を送り、リインフォースがそれを基に夜天の書の改変を行う。

 修復作業が始まるとあとは誰も手を出すことが出来ず手持無沙汰になる。

 立場的に拘束されていなければならないクロノはバインドでがっちり縛っているので、ハジメ側の守護騎士達の拘束命令を解除し終わるまではやて側の守護騎士達と少し話をしてくるように指示をした。

 今後会うことはそうそうないだろうし、はやてとの普通の生活の経験を聞いておくといいという気遣いからだ。

 

 残った者たちは…

 

「あの、クロノくんを放してあげられないですか」

 

「そうしてやりたいのも山々なんだけど、開放して万一作業の邪魔をされると大変なことになるからなー」

 

「でもクロノももう大人しくしてるし」

 

 作業が始まりこうなったらもう駄目だろうと流石に諦めたクロノは、必要に身動きもせず大人しくなっていた。

 

「いやいや、彼は管理局の執務官なんだよ。

 隙があれば即座に動いて事態を好転させようとしているに違いない」

 

「むーむー」

 

 今更暴れても仕方ないだろう。 そんな評価をされても困る。 大体どうして管理局と繋がりもないのに執務官の事を知っている。

 と言いたげに塞がれながらも声を上げた。

 

「そうなの、クロノくん」

 

「でもそうしたらリインフォースに迷惑がかかる」

 

「申し訳あらへんけど、このままでいてもらうしかないな」

 

「むむむー!」

 

 なぜそこで納得する!

 とクロノは言いたげに唸り声をあげる。

 

「それに彼だって立場上動かないわけにはいかないんだ。

 ならこちらで動けないようにすれば、悪いのはこちらということになるだろう。

 少なくとも彼に一切の非はなかったと証明出来る」

 

「けどそれやとハジメさんが悪者扱いやん。 そんなの嫌や。

 この結界の中やったら誰も見てへんのやし、もう気にせんでええんとちゃう?」

 

「いやいや、リインフォースが修復を受けたという事実は記録に残らないといけない。

 その為に彼自身は拘束しても、この状況を記録しているだろうデバイスはそのままだ」

 

 転がされているクロノの傍には彼のデバイスが放置されている。

 

「後はその記録を証拠としてうまくやってくれるだろう。

 縛り上げられて転がされていたという事も報告しなきゃいけない彼には悪いけどね」

 

「クロノくん、かわいそう」

 

「執務官ってやっぱり大変なんだ」

 

「堪忍な、クロノくん」

 

「………」

 

 ハジメが言った通りに、終わったらそう報告する事になるだろうと諦めた様子で黙り込んでしまう。

 

「そういうわけで大変だろうから、後で落ち込んでる彼を慰めてあげてくれ。

 男なんだから女の子が慰めてあげれば元気を出すよ」

 

「そ、そうかな」

 

「そやな、いろいろお世話になるんやし接待したらなな」

 

「けど男の子を元気づけるってどうしたらいいの」

 

「………」

 

 ハジメが話をへんな方向に持ってきたことで、クロノは少し嫌な予感を感じ始める。

 

「そうだね。 今は縛り上げられてこんな状態だし、膝枕をして頭を撫でて上げると元気を出すと思うよ」

 

「そやな、男の子ならそれで元気いっぱいになるやろな。

 私は車椅子で出来へんから、なのはちゃんかフェイトちゃんがやったってや」

 

 ここまで来てハジメがからかっていると察したはやてが便乗する。

 

「え、ええ! そ、それはちょっと恥ずかしいの」

 

「それならわたしがやるよ」

 

 なのはは恥ずかしいからと戸惑うが、フェイトは気にした様子もなくその場に座ってクロノを膝に乗せる。

 

「おお、フェイトちゃん大胆やな」

 

「これでいいのかな?」

 

「それで頭をナデナデしてあげなさい」

 

「うん」

 

 身動きが取れずなすが儘にフェイトに頭を撫でられるクロノ。

 

「む-むーむーむーむー!!」

 

「うれしそうだな、執務官」

 

「ムフフ、フェイトちゃんのお陰で元気になったみたいや」

 

「たぶん違うと思うの」

 

「お仕事お疲れさま、クロノ」

 

「むーーーー!」

 

 この光景はデバイスにしっかり記録されており、のちにクロノは報告をどうしようかと真剣に悩むことになる。

 同時にこんな仕事を押し付けたハジメを絶対逮捕してやると誓った。

 

 

 

 

 




 本編ほとんど出ませんでしたが、A’sが終わってこれで一区切りです。

 最後の辺りは昔の作品のノリを思い出しました。
 リリカルのキャラはなんでこんなに弄りやすいんだろうと、書いてる内にこうなってました。

 次の更新は少し時間が空く予定です

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