四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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 お久しぶりです、前回の投稿からだいぶ時間が経ってしまいました。
 ようやく書き上がったので投稿しました。

 前回、劇場版は簡潔と言っておきながら、劇場版ネタです。
 アリシアに夢幻三剣士をやらせたくなってしまったので、書いてしまいました。
 早くリリなの編終わらせたかったのですが、つい…

 長くなってしまったので三篇構成です。
 連投しますので、楽しんでください





第十二話 アリシアの夢幻三剣士 前編

 

 

 

 

 

 プレシアも無事に戻ってきて、バードピアでのテスタロッサ家は落ち着いた日常を取り戻していた。

 話には聞いていたがハジメによってアリシアが魔法を使えるようになったことをプレシアは喜び、リニスの魔法の授業に自身も率先して参加するようになった。

 しかしフェイトの教育経験の差からリニスの教え方の方がアリシアの評価が高く、それを指摘されてプレシアが落ち込むなどと言ったハプニングもあった。

 

 落ち着いた日常を取り戻したが、アリシアも魔法の勉強ばかりは退屈とハジメに話題を求め、その中で以前解決したドラえもんの映画事件を話題に挙げる事になった。

 詳しい説明は省いて、物語と同じ事件が実際に起こりそれを解決していたことを教えた所、ドラえもんの映画に興味を持ってアリシアが面白そうと見る事になる。

 その中の一つで【夢幻三剣士】がアリシアの興味を引いた。

 

「ハジメさん、この夢幻三剣士やってみたい!」

 

「それは別に構わないけど…」

 

 別に駄目だという理由もないのでハジメは許可するが、一緒に映画を見ていたプレシアは少し不安になる。

 

「大丈夫なの? 映画で見る限り少し特殊なゲームの様だけど」

 

「夢である事に変わりはないですよ。

 ただとてもよく出来た現実のように感じるだけで、ゲームの夢の中でたとえ死んでも目が覚めるだけで済みます」

 

 何せ映画の事件だ。 ハジメが夢幻三剣士そのものを調べなかったわけがない。

 夢幻三剣士のカセットは夢の中に疑似的な世界を作り出して、物語の要素を配置すれば後は自然に回り始める自立した世界となる。

 創世セットみたいに世界を作り出す事も秘密道具なら難しくないので今更驚かないが、夢幻三剣士のカセットは夢を始めなければ物語も始まらないと分かったので、ハジメも手を出す必要は一切なかった。

 アリシアがゲームを始めれば、夢の世界ユミルメ国が救われるか滅ぼされるまで自動で進むことになる。

 始めたら終わるまで辞めにくいと、ハジメは夢幻三剣士に手を出す事は無かった。

 

「死んだら目覚めるって、よく出来た夢なら現実でショック死もあり得るんじゃないかしら?」

 

「うーん…時々安全性が考えられてるのか不安になる秘密道具が多いですから、ありえないとは言い切れないかも」

 

「ダメじゃない、そんなゲームアリシアにはさせられないわ」

 

 アリシアを大事にしているプレシアは当然反対する。

 

「大丈夫だよママ。 びっくりして死ぬことなんかないよ。

 死ぬのは慣れてるしね」

 

「…アリシア、それは笑えない冗談よ」

 

「生き返った事のあるアリシアだから言えるセリフだね」

 

 その後、アリシアの夢幻三剣士の冒険への熱意からプレシアが折れて、ゲームを始める事になる。

 

「けれど隠しボタンを押すのは絶対ダメよ。

 タダでさえ危険かもしれないのに、本当の現実みたいなったら本当に死んでもしまうかもしれないわ。

 いい、絶対よ」

 

「私知ってるよ。 それって押すな押すなってフリだよね」

 

「違うわよ! どこでそんなこと憶えてきたの!?」

 

「暇潰しに日本のテレビを受信出来るようにしたのが拙かったかな」

 

 日々逞しく?成長しているアリシアだった。

 

 

 

 夢見る機にカセットをセットして夢幻三剣士を始めたアリシア。

 最初に舞台である自身の過ごす現実の風景、すなわち住み慣れてきたバードピアの光景が夢の中で広がっていた。

 これは夢幻三剣士の現実感のある物語への導入部分として、先ずは現実の見慣れた風景から始まるように設定されているからだ。

 

 さて、夢幻三剣士というだけあって主人公は一人とは限らず、初期で三人まで設定が可能だった。

 映画では三剣士という割に三人としての活躍が一切見られなかったが、アリシアは一緒にゲームに参加する者を募った。

 即座にプレシアが立候補したがアリシアに

 

「ママは魔女役でしょ」

 

 と、断言されて三剣士の候補から外された。

 魔女、もとい魔法使い役として確定はしたが、アリシアがどんなイメージを母に持っているかプレシアは尋ねるのが怖くなった。

 

 候補者としてアリシアが当然挙げたのが妹のフェイト。

 夢アンテナは一度外されていたが、もう一度つけるくらい朝飯前とハジメがフェイトの元まで届けてきた。

 

「姉さん、私も参加してよかったの?」

 

「もちろん! 一緒に夢の世界を救う冒険をしよう!」

 

「う、うん」

 

 これまで以上に現実感のある夢に、少し戸惑い気味のフェイトだった。

 

 最後の剣士役として家族のリニスやアルフが候補に挙がったが、剣を使うイメージじゃないのとどちらかを選ぶというのに気が引けて、あえて別の人を候補に挙げる事のした。

 

「しかし、私が参加してよかったのか?

 せっかくアリシアが家族と遊ぶというのに、関係のない私が参加してしまって」

 

「シグナムさんは剣士なんでしょ。 だったら三剣士にピッタリじゃない」

 

 最後の一人として、ハジメの傘下の方のシグナムがアリシアによって参加させられていた。

 理由はアリシアの言った通りで、ハジメも自分で判断していいと許可を出し、断る理由も無かったシグナムは誘いに乗った。

 

「主に許可をもらっているから、まあ構わんがな。

 剣士として腕を買ってくれたのならば力になろう」

 

「よろしくね、シグナムさん」

 

「ああ。 アリシアの妹のフェイトも先日以来だな。

 よろしく頼む」

 

「あ、うん。 えっと、よろしくシグナム」

 

 歯切れの悪い返事をするフェイト。

 

「? …ああ、そちらにはもう一人の私がいたのだったか」

 

「それもあるけど、はやての所にいるシグナムは私を『テスタロッサ』って呼ぶから、ちょっと違和感を感じて」

 

「そうなのか。 私の所にいるテスタロッサはアリシアとプレシアがいるから、名で呼ぶしか無くてな。

 気になるのであればもう一人の私と同じように呼ぶが?」

 

「ううん、知っているシグナムと違うんだから、そう呼んでくれるなら私も違いが判りやすいから」

 

「…もう一人私がいるというのはやはり難儀だな」

 

 そこへ空間にモニターが現れて、現実世界で夢見る機から様子を窺っていたハジメの姿が映る。

 

『ややこしい事にしてしまって申し訳ないね』

 

「あ、ハジメさん」「主ハジメ、お気になさらずに」

 

「こ、こんにちわ。 さっきはありがとうございます」

 

『ああ、アンテナの事か。 それくらいは気にしなくていい。

 それに今は君達は寝ている状態だからこんばんわが正しいかな』

 

「あ、はい、こんばんわ」

 

 ハジメに訂正されてフェイトは少し恥ずかしそうにする。

 

『プレシアさんがこのゲームでもしもの事があったらと危惧して、モニターしていてもらうように頼まれたんだ。

 僕がずっとついているわけにはいかないが、月夜か神姫の誰かがちゃんと見ている。

 ゲームオーバーになっても問題無い筈だが、夢の中で何か異常が起こったら強制覚醒させるから安心してくれ』

 

「ママったら心配性なんだから」

 

「それだけ姉さんが大事なんだよ」

 

「フェイトの事だって大事なんだからね!」

 

 自分にばかり甘い態度を取るがフェイトにはそっけない対応しか出来ないプレシアに、アリシアは普段からヤキモキしていた。

 以前の様に嫌っているわけじゃないのはアリシアも分かっているが、もうちょっとはっきりとフェイトに対する受け答えを柔軟にしてほしいと思っていた。

 

 そんなプレシアのフェイトへの素直になれない態度をアリシアが思い出していると、夢の中のバードピアの光景がボンヤリと歪み始めた。

 

『おっと、どうやら物語が進み始めたみたいだ。

 一度モニターを消すよ』

 

 邪魔しないように見守るために、ハジメは夢の世界側のモニターを消した。

 アリシア達の目の前にはボンヤリとしたピンク色の靄が現れていた。

 

「何が起こってるの?」

 

「物語が始まったんだよ!」

 

「ゲームの事はよくわからん。 共に行くがどうするかはアリシアとフェイトで決めてくれ」

 

 遊びに近い物と判断しているシグナムは、一歩引いた立ち位置を貫くようだった。

 靄が人を包み込むほど大きくなると、その向こうから声が聞こえてきた。

 

『ユミルメ国よりお迎えに挙がりました、夢幻三剣士達。

 さあ、来てください。 夢の世界が貴方たちの救いを待っています』

 

 アリシア達を誘う声が靄の向こうからしっかりと聞こえてくる。

 

「じゃあ行くよフェイト、シグナムさん!」

 

「ああ、私は何時でも構わない」

 

「私もいいよ姉さん。 だけど、この声どこかで…」

 

 フェイトが声の主に引っかかりを憶えるが、それを気にせずアリシアがまず靄の中に飛びこんだ。

 

「えいっ」

 

「………」

 

「あ、まって!」

 

 アリシアに続き靄に飛び込むシグナムを見てフェイトも慌てて靄に飛び込むと、靄の中を三人はゆっくりと落ちていった。

 慌てて飛行魔法を使おうとするが、その前に浮遊感が三人を包み落ちる事は無くなった。

 そんな彼女たちの前に、小さな人型に羽を生やした妖精が姿を現す。

 

「ようこそ、夢の世界へ。 ユミルメ国は貴方達が来るのを待っていました」

 

「えぇ!? リンディさん?」

 

 妖精はフェイトがお世話になっているアースラの艦長のリンディの姿をしていた。

 

「はい、私が夢幻三剣士を導く役目の妖精のリンディです。

 出来る限り皆さんのお手伝いをさせて頂きます」

 

「どうしてリンディさんが?」

 

「ハジメさん?」

 

 困惑するフェイトに、アリシアは答えを知っていると思われるハジメの名前を告げる。

 するとすぐにハジメがモニター越しに現れる。

 

『ある程度のキャラクターの姿を、君らの知り合いで補完しようと思った結果だね。

 妖精役に収まったのが、たまたまリンディさんだったってだけだよ』

 

「じゃあ本物のリンディさんじゃないんですね」

 

『そう、別に本人が夢を見ているわけでもない』

 

「私達の知り合いってことはなのはも?」

 

『配役は分からないけど、どこかにいるかもしれないね』

 

 とりあえず本物ではないと分かり、フェイトは少しホッとする。

 先日発覚してしまった夢によるアリシアとの接触を隠していたので、また夢でアリシアと遊んでいる事を知られたくなかったからだ。

 

「さあ、夢幻三剣士達、ユミルメ国はこの先です」

 

 妖精リンディの誘導で三人は靄の中を歩いていく。

 そして靄が途切れて外に出ると、そこは空のど真ん中だった。

 飛行魔法も使ってなかった三人は、靄が切れて足場が無くなったところで当然落ちた。

 

「そういえば、靄から出たら空だった!」

 

「姉さん!? ッ、バルディッシュ!」

 

「レヴァンティン!」

 

 夢の世界に各々のデバイスを持ち込むことが出来ていた。

 フェイトとシグナムが即座にデバイスを起動させ、アリシアもまだまだ使い慣れてないがゆえにワンテンポ遅れて練習用の簡易デバイスを起動させる。

 三人とも飛行魔法を使おうとしたところで、先に浮遊魔法が掛けられ落下が止まった。

 

「止まった~…」

 

「姉さん、大丈夫?」

 

「これは浮遊の補助魔法か? 一体誰が…」

 

「私よ」

 

 落ちてくる三人に浮遊魔法をかけたのは、事件の時から見る事の無かった黒いドレスのバリアジャケットに身を包んだプレシアだった。

 

「母さん、どうしてここに!?」

 

「アリシアから聞いてないの?

 私は魔法使い役としてこのゲームに参加してるのよ」

 

「フェイトが驚くと思って」

 

 アリシアの目論見は成功し、フェイトはプレシアの突然の登場にオドオドしている。

 

「…私は夢が始まったらここにいたわ。

 どうすればいいかと思っていたら、空から貴方達が降ってきたのよ」

 

『主役は三人までで、それ以上の参加者はそっちの国の住人扱いになるらしい。

 だから出発地点がアリシア達と一緒じゃなかったみたい』

 

 説明書の内容を読みながらにハジメが再びモニターで現れる。

 

「そういう事だったの。 まあアリシア達と直ぐ合流出来てよかったわ。

 それで、これからどうするのかしら」

 

「夢幻三剣士となる皆さんには、ヨラバタイジュの頂上にある剣と鎧をまず手に入れなければなりません」

 

 プレシアの質問にリンディが答える。

 

「あなたは…。 ハジメ、これはどういうこと?」

 

『かくかくしかじかで…』

 

 さっきと同じ質問をハジメはさらっと流す。

 現状把握に話し合っていたところを、飛来した矢が掠める。

 

「ひゃっ! な、なに!?」

 

「あれは、妖霊軍! あの砦は彼らに占拠されてしまったようね」

 

 眼下には石造りの砦があり、それらに浮いているアリシア達に向かって矢を放ってきたのだ。

 矢は一本だけでなく、続けて雨の様にアリシア達に向かって放ち始めた。

 

「きゃあ!」

 

「バルディッシュ!」

 

――ディフェンサー――

 

 即座にアリシアの前にフェイトが出て防御魔法で矢の雨を防ぐ。

 シグナムとプレシアも防御魔法で容易に矢を防ぎ、リンディも彼女たちの防御魔法の後ろに回って難を逃れている。

 

「うちの娘たちに何をするの!!」

 

――サンダーフォール――

 

 娘たちを攻撃された事に激高したプレシアが、砦の妖霊軍に向かって雷の雨を降らす。

 弱い妖霊軍の兵士にプレシアの魔法はオーバーキルで、あっという間に倒れ崩れ落ちていく。

 

「あっけないものね」

 

「すごいですね、これなら貴方だけで妖霊軍をすべて倒してしまうかも」

 

 敵を鎧袖一触したプレシアの魔法にリンディが称賛する。

 

「やりすぎだよ、ママ。 ママが敵を全部倒しちゃってどうするの。

 私達が冒険で倒していくんだから」

 

「あら、そうだったわね。 アリシアが攻撃されたからつい…」

 

「もう! 早く白銀の剣を取りに行こう」

 

「わかりました。 では、剣と鎧が納められているヨラバタイジュの元へ案内します」

 

 リンディが案内に先行して飛び、アリシア達もそれに続いた。

 

 

 

 飛行魔法の使えるアリシア達に歩いて苦労する程度の距離は大したことは無く、数時間でヨラバタイジュの元に到達した。

 

「ホントに大きな木だね、フェイト」

 

「うん」

 

「これを登るには人間には大変苦労する事になるのですが、皆さんには…」

 

「飛べばいいだけの話ね」

 

《フローター》

 

 プレシアが魔法陣を展開して、それを全員の足場にヨラバタイジュの頂上へと上がっていく。

 特に何の障害にぶつかることなく、アリシア達はタイジュの頂上へとたどり着いてしまった。

 頂上には映画とは違い三つの宝箱が並んで安置されていた。

 

『よくぞここまで辿り着きました、夢幻三剣士よ』

 

「空を飛べたから簡単に辿り着いちゃったんだけどね」

 

「ね、姉さん…」

 

 何処からともなく聞こえてきた声を相手に、アリシアの言葉でフェイトが気まずそうにする。

 

『………あなた方には白銀の剣、黒金の剣、真紅の剣を授けます』

 

 その声に従って、宝箱からそれぞれの色を特徴とした武具が飛び出してきた。

 

「やったぁ!」

 

「え、私達も?」

 

「私にはレヴァンティンがあるのだが…」

 

 専用の武器であるデバイスを持っているフェイトとシグナムは、得られた武具を使うのに躊躇する。

 

「二人もとりあえず着てみたらいいよ。 使い辛いならいつものデバイスでいいんだし」

 

『出来ればちゃんと使って頂きたいのですが…』

 

 素で強い武器を持っている事を想定していなかったゲーム設定ミスだろうか。

 謎の声も使ってほしいと嘆願する。

 

 ともかく専用のデバイスを持たないアリシアは、気にすることなく白銀の装備を身に着ける。

 原作の映画と使用者の条件が違うからか、白銀の武具はのび太が使ったものと違う形状をしており、アリシアに合わせたサイズで姫騎士をイメージするドレスアーマーにサークレットのような額当てと側面に羽を思わせる装飾がされたヘルムだった。

 剣は原作と変わらず両刃の剣だ。

 

「映画とだいぶ違うけどカッコいい!」

 

「素敵よアリシア!」

 

 アリシアの剣士姿にプレシアが絶賛する。

 

 真紅の武具を与えられたのはシグナムだった。

 アリシアの白銀の鎧よりも飾りっ気がなく、軽鎧に手甲脚甲と防御力を維持しつつ動きやすい姿をしている。

 兜に至ってはアリシアの白銀の兜よりも覆う面積が広いが、シグナムの髪型に合わせてポニーテールを出せるようになっている。

 

「ふむ、悪くはないな。 剣もレヴァンティンと似た形状で扱いやすい」

 

「私の白銀の兜も映画と形が変わってたから、多分ゲームをやる人に合わせた形になるんだと思うよ」

 

「レヴァンティンには悪いが、ゲームの間はこの真紅の剣を使うとしよう」

 

 真紅の鎧を着る事をシグナムも悪くは感じておらず、剣を素振りして具合を確かめている。

 最後にフェイトが与えられた黒金の武具だが…

 

「ど、どうかな?」

 

「「「………」」」

 

 先の二人と同じように黒が特色の手甲脚甲を身に着けて、マントに大剣ともいえる幅広の両刃の剣を背に背負っている。

 ここまでなら何も可笑しくないが、胴体を守る鎧と言える部分が胸部と腰部しかなく、いわゆるビキニアーマーだったので他の三人は絶句していた。

 なお、案内役のリンディはシステム側なので、この程度の事では驚かないようだ。

 

「ハジメ、どういう事なの説明しなさい」

 

『アリシアとシグナムも鎧が二人に合わせて調整されているから、黒金の鎧もフェイトに合わせて調整されたんじゃないとしか…』

 

 気まずそうに眼を逸らしながらハジメは答える

 

「ほとんど水着じゃない! このゲームは一体何を考えているの!?

 子供向けだったんじゃないの!?」

 

『ドラえもんの映画は子供向けだけど、夢幻三剣士は説明書を見る限り子供向けとは書かれてないみたい』

 

「…ともかくその格好は無いわ。

 いえ、そもそもそんな格好という事はここで着替えたの!?

 ハジメあなた!?」

 

『いやいやいやいや!!』

 

 フェイトが着替えるのを黙ってみていたのでないかとプレシアに疑われたハジメは、ワタワタしながら即座に否定する。

 

「か、母さん! 私はあの更衣室で着替えたんだよ!」

 

「『更衣室?』」

 

 フェイトの指を指す先に、更衣室と書かれた洋服店にあるカーテンの着いた箱型の敷居があった。

 アリシアとシグナムの鎧は服の上から着られるタイプで、その場で装着していた。

 そうでないちゃんと着替えを必要とする鎧には、着替えるための更衣室が用意されていた。

 

『…ちゃんと着替えるスペースが用意されてたみたいですね』

 

「このゲームは本当に何を考えているのかしら…」

 

 人によって着替えを必要とする鎧になるのであれば、更衣室が用意されるのは別におかしい事ではないが、フェイトのビキニアーマーを見ればふざけているとしかプレシアには思えなかった。

 

「ともかくフェイト、その恰好はやめなさい」

 

「え、でも動きやすいし」

 

「倫理と節度の問題よ。 いくら動きやすくたってそんな露出の激しい格好は駄目よ。

 そんな恰好をしても気にしないなんて一体何を学んで…」

 

 何を考えてそんな恰好をしているのかとフェイトに咎めるが、成育過程において自身が環境を悪くしていたことにたどり着き、自己嫌悪に陥るプレシア。

 咎められていた所でプレシアが突然頭を抱えてしまい、フェイトはどうすればいいかとオロオロしてしまう。

 

「フェイト、私もその恰好はちょっと恥ずかしいと思うよ」

 

「そうかな? ソニックフォームみたいで早く動けそうなんだけど」

 

「それでも女の子なんだから、肌はあんまり人に見せない方がいいんだよ」

 

「え? 確かに皆よりちょっと薄着だけど」

 

 薄着?

 薄いというレベルではないと全員が思う。

 

「アルフだってこの恰好とそんなに変わらないし」

 

 フェイトの使い魔のアルフの普段の格好を思い出し、確かに彼女と比べればちょっと少ない(・・・・・・・)とも言えなくもない。

 プレシアはあの駄犬が原因かと憤りを覚えるが…

 

「それに肌を出しちゃいけないって言われても、母さんだって…」

 

 フェイトが視線を向けると、アリシア達もプレシアに視線を向ける。

 視線を向けられたプレシアは自身の姿を見直してハッとする。

 

「あ~、確かにママも人の事は言えないかも」

 

「服装にどうこう言うほど私に服のセンスは無いが、子供相手に何かを言える服装とは私にも思えん」

 

『普通の子供から見ると、その恰好は親としては無いんじゃないかって思うね』

 

「グハッ!」

 

 全員から酷評もらって撃沈するプレシア。

 改めて言うが、現在のプレシアの格好は嘗て時の庭園で管理局を相手に悪役を演じきった時のバリアジャケット姿だ。

 今のフェイトに比べれば露出は少ないが、胸元とかお腹とか太ももとかが見事に露出している。

 二児の母がどうとか言う前に、歳を考えてゲフンゲフン!

 

「そういえばフェイトの黒いバリアジャケットって、もしかしてママの?」

 

「うん、母さんと同じ感じにしたいってリニスと相談して決めたの。

 だからあんまり気にならなかったんだけど、そんなにおかしなことだったかな?」

 

「うーん、とりあえずフェイトはちょっと限度を超えてるかな?」

 

 フェイトの再教育は後日アリシアにリニスが付き添って行う事になり、巡り巡って元凶となったプレシアはへこんでおり、シグナムはどうしていいか分からず沈黙するのだった。

 

 

 

 フェイトの装備はとりあえずバリアジャケット+黒金の剣という事になり(武器ポジを取られたバルディッシュは少々不機嫌になった)、アリシア達は次の目的地を目指す事にした。

 映画での次の目的地は竜の谷で竜退治だが、アリシアは映画を見ていて行くべきかどうか思い悩んでいた。

 

「竜の血を浴びれば不死身になれるっていうけど、血なんて私浴びたくないよ。

 映画みたいに竜のだし汁なら一回復活出来るけど必要かな?」

 

 アリシアの言うように普通は血なんて浴びたいものではなく、映画を見る限り竜は攻撃しなければ無害な存在で手に掛けたいとはとても思えなかった。

 のび太達の様に一回復活出来るようになるのは魅力はあるが、フェイトにシグナム、それにプレシアの力を考えると、そのまま妖霊軍に戦いを挑んでも勝てるのではないかとアリシアは思っていた。

 

「いえ、たとえ夢でもゲームでもアリシアが死ぬなんて許さないわ。

 不死身になって安全を確保出来るならやるべきよ。

 大丈夫。 トドメなら私がさすし、首を切り落とすのは得意そうなシグナムにやらせるから」

 

「いや…まあ、私は構わないのだが…」

 

 一方アリシアが死ぬことを一切許せないプレシアは、きっちり竜殺しをやる事を勧めていた。

 竜を殺してアリシアが死なないのなら一切躊躇の無いプレシアだった。

 

「もうママったら! 竜を殺しちゃダメなのは知ってるでしょ!

 ハジメさんからも何か言ってよ」

 

『あー、プレシアさん。 主人公側が死ななくなって無敵になるのは、ゲーム的には無いんじゃないかと思うんだ。

 たぶん映画通りの一回復活出来るというのが竜退治の正しい報酬なんだと思う。

 竜の血を実際に浴びたら何らかのデメリットがあるんじゃないかな』

 

「…そうね、それがないとは言えないわね」

 

 ハジメの言い分に一理あり、竜の血で変な悪影響をアリシア達に与えるのは良くないとプレシアも考え直す。

 こんな序盤で不死身になって死んでも復活するようになるのは物語としては可笑しいのではないかとハジメは考えるが、ゲーム的にはコンティニューだと思えばあり得ないとは言い切れないとふと思う。

 『おお、勇者よ。 死んでしまうとは情けない』と言われて復活するのもゲームの話だった。

 

 更にふとハジメはこのゲームの竜の効果について考える。

 竜の血で不死身になれるかは未確定だが、出し汁で一回復活出来るのは確定だ。

 映画では四次元ポケットをとりよせバックで夢の世界に呼び込んだりできていたので、逆に竜の温泉を現実世界に取り出すことが出来るかもしれない。

 現実で死んでも復活できるようになる手段があるというのは興味深いと思い、アリシア達がゲームを終わらせた後にでも試してみようかと思案する。

 

「ハジメ………ハジメ、聞いてるの?」

 

『あ、すいません、ちょっと考え込んでました』

 

「…まあいいわ。 それであなたはどうするべきだと思う」

 

 竜の谷に行くべきか、このまま妖霊軍に戦いを挑むべきか意見が分かれていた。

 

『そうですね…。 飛行魔法があるので移動が楽ですから、様子を見に行くだけでもいいんじゃないですか?

 血を貰うのは無理でも、一回復活出来るようにしてくださいって頼めば案外うまくいくかもしれません』

 

「そうね、よく考えたらアリシアにトカゲの血を浴びせるなんて死ななくなると言ってもやっぱり嫌だわ。

 トカゲの温泉なら幾分かマシだし、そっちで手を打ちましょう」

 

「話せばわかってもらえるかもしれないんだから、乱暴は駄目だよママ」

 

「うん、お話するのは大事なんだよね…なのは」

 

 アリシアのセリフに、なのはを思い浮かべてしまったフェイトは僅かな動揺を見せる。

 自分も姉と一緒に、話し合いで物事を解決出来るように努力しようと思ったフェイトだった。

 

「それじゃ、次は竜の谷に案内お願いね、リンディさん」

 

「ええ、わかったわ」

 

 しっかり案内役を果たして、次は竜の谷までアリシアを導くリンディ。

 映画の妖精とは大違いの立派な案内役を果たしていた。

 

 

 

 竜の谷にも何事もなくたどり着くことが出来た。

 谷の入り口まで着たアリシア達は、そこで自分達を出迎えるかのように立っている少女に出会う。

 

「貴女方が伝説の夢幻三剣士ですか?」

 

「うん、そうだけど、貴女は?」

 

「申し遅れました。 私はこの竜の谷の近くの村に住む巫女をしているキャロと申します」

 

 桃色髪の少女が礼儀正しくお辞儀をしてアリシア達に自己紹介をした。

 

「ハジメ、また見覚えのある子なのだけど…」

 

『イメージだけで入力しちゃってますから、もうこの世界の人々がどうなってるか僕も分かんないです』

 

 かなりフライング気味の登場人物に、ハジメも少し冷や汗をかいてしまう。

 

「伝説の通り、夢幻三剣士の方々はこの谷に住む竜ヴォルテールを討ち、不死身と成りに来たのですね」

 

「えっと…まあ、そうだね」

 

 竜の谷の竜はヴォルテールらしい。 弱点の髭は何処にいった?

 

「ヴォルテールは挑んでくる者を拒みません。

 不死身を求め多くの戦士がヴォルテールに挑みましたが、全て破れて息吹によって石となってしまいました。

 私は竜の谷にやってくる者にヴォルテールの強さを伝えて、引き返す様に諭す役目も担っています。

 それでも多くの人たちは耳を傾けずヴォルテールに挑んでいきましたが…」

 

「どうしようハジメさん。 竜がすごく強くなってそう」

 

『まあ、そのメンバーを考えれば妥当な相手と言えなくもないけど』

 

 アリシアに実戦経験は無いが、フェイト、シグナム、プレシアと一流の魔導師が揃っているのだ。

 映画の竜では力不足とゲームに判断されたのかもしれない。

 

「伝説の夢幻三剣士と言えど、ヴォルテールに打ち勝つのは容易ではない筈です。

 くれぐれも油断をしないでください」

 

「えっと、キャロさんは竜の巫女なんだよね。

 私達がそのヴォルテールを倒しちゃってもいいの?」

 

「そうですがヴォルテールは挑むのであれば何者をも拒みません。

 そして、夢幻三剣士が現れる事は定めとされていましたから…」

 

 キャロはそういうが、少し悲しそうな表情を見せている。

 倒せるかどうかはともかく、アリシアは映画の様に竜を倒す気を無くしていた。

 

「それなら竜を倒すのはいいよ。 私達の都合で殺しちゃうなんて出来ないもん」

 

「よろしいのですか?」

 

「うん。 あ、だけど竜の温泉には入れないかな?

 入れば一回だけ生き返れるって聞いたんだけど」

 

「それでしたら大丈夫です。 ヴォルテールは温泉好きで毎日入ってますので、その温泉に入れば蘇生の恩恵は誰でも受けられます。

 私の村の人々も自由に入っていますので全然かまいません。

 尤もどれだけ長く入っても、復活出来るのは一度だけですが」

 

「それならここに来た甲斐があったよ」

 

「ご案内します、ついてきてください」

 

 キャロの案内で竜の温泉に入れることになったアリシア達は、意気揚々とついていく。

 その中でプレシアがふと振り返り…

 

「覗くんじゃないわよ、ハジメ」

 

『ハハハ、わかってますよ。

 月夜、悪いけど僕は先に寝るから、後はお願い出来るかな』

 

『わかりました。 後は私が見ておりますので、お休みください』

 

 現実世界からモニターしていたハジメは、これ以上見る訳にはいかないと月夜に任せて寝る事にした。

 アリシア達も温泉に入った後は物語の一区切りとして、夢から覚めて現実世界に戻るのだった。

 

 

 

 

 




 とゆうわけで、映画のストーリーをリリなのキャラで再構成した感じになりました。

 題名が夢幻三剣士ですが、映画ではジャイトスとスネミスが三剣士としてあまり活躍してないんですよね。
 ですのでゲーム参加人数を最大三人として始めてみました。

 ただし魔法を使える三人ですので、ゲームバランスの調整として他のキャラも強くなっています。
 映画よりも難易度難くなる流れです。

 竜の血についても、本当に不死身になったらゲームが簡単になってしまうと思うので何かしらにデメリットがあったと思うんですよ。
 ですので竜の温泉で一回復活が正規ルートじゃないんですかね。

 温泉を現実に取り寄せる考えは、この話を書いてたら思いつきました。
 秘密道具の応用は考えるのが楽しいですね。


 次は翌日に投稿します
 



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