四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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第十三話 アリシアの夢幻三剣士 中編

 

 

 翌日の夜、再び夢幻三剣士の冒険を再開したアリシア達は、残機+1を得て妖霊軍と戦うためにユミルメ国の最前線の砦に向かう事にした。

 リンディの案内で移動も問題なく進み、あっという間に目的の砦に着いて夢幻三剣士として砦の代表と会うことが出来た。

 

「僕がこの砦を守る将軍のクロノだ」

 

「今度はクロノ…」

 

「初めまして、白銀の剣士のアリシアです」

 

「夢幻三剣士の予言は聞いているが、二人は小さな子供じゃないか。

 そちらの彼女や魔女殿は腕が立ちそうだが、大丈夫なのか?」

 

 子供のアリシアとフェイト、大人のシグナムとプレシアを見比べてクロノは第一印象を述べる。

 

「小さくたって弱いとは限らないよ。 フェイトは剣士じゃなくたって強いんだから!

 それにあなただって小さいじゃない!」

 

「小さっ!………そうだな、小さいのは強さと関係なかったな。 今の発言は撤回しよう」

 

 小さいと言われて即座に発言を撤回するクロノは成長期。

 

「現在妖霊軍はこの砦に繰り返し攻撃を仕掛けてきている。

 有能な魔法使いたちの活躍で何とか追い返しているが、疲れを知らぬ妖霊軍の兵士に我が軍の兵士は疲弊してきている。

 魔法使い達の使う砲弾も残り少なく、ここらで決着を着けなければ僕達は砦を放棄して撤退しなければならなくなる。

 戦力はいくらあっても困らない。 ぜひ戦線に参加してくれ」

 

「まかせて!」

 

 アリシアが返答をするとフェイト達も静かに頷いて戦闘への参加が決定した。

 

 

 

 参戦が決まってから数刻の内に、土の精を兵士として引き連れた蜘蛛の妖怪スパイドル将軍が砦に侵攻してきた。

 アリシア達は戦うために前線に出ようとしたが、将軍のクロノの作戦でまずは魔法使いの遠距離からの攻撃を行なうのだった。

 

「ユーノ君、ヴィータちゃん、準備はいい?」

 

「大丈夫だよ、なのは」

 

「あったりめーだ」

 

 用意された砲弾の前で砦の魔法使い達が攻撃の準備をしている。

 

「砦の魔法使いはなのは達なんだ」

 

「ヴィータもいるな」

 

 現実の彼女達もゲームに参加していないので、イメージ補正によって選ばれたNPCのようなものだ。

 

「いっくよー! シュート!」

 

 周囲の砲弾が光を纏って浮かび上がり、なのはの号令に従って一斉に敵の土の精に向かって飛び出していく。

 土の精に着弾すると爆発を起こし、残骸となった土くれが飛び散った。

 

「アタシも行くぜ! うりゃぁ!」

 

 ヴィータはなのはと違い一個ずつ砲弾を浮かべると、槌を振るって砲弾を打ち出す。

 一発ずつの威力では、なのはの飛ばした砲弾より威力は高い様だ。

 

「ユーノ君、次の砲弾の準備お願い」

 

「わかってる!」

 

 ユーノはなのはの補佐で砲弾運びの様だ。

 

「あの魔法のお陰で、これまで土の精の軍団を退ける事が出来ていた。

 彼女たちがいなければ既に僕らは敗走してこの砦を放棄していただろう」

 

「すごい…魔法だね」

 

「現実のなのは達とは全然違う魔法だけど」

 

「いや、ヴィータはあれと似たようなことはやっていた」

 

「ミッドやベルカの魔法は使えないようね」

 

『世界観が違い過ぎるからかな? 魔法がこの世界の住人に再現されていたら夢幻三剣士の活躍の場がなくなったかもしれないしね』

 

 ミッド世界の魔法はこの世界では強すぎる。

 

「私とシグナムさんは蜘蛛の将軍を倒しに行きます」

 

「土の精の兵士は我々で抑えておく。 頼んだぞ」

 

「アリシア、危ないと思ったら逃げなさい。

 シグナム、アリシアの事をちゃんと守りなさいよ」

 

「わかっている」

 

「ママ、夢なんだからあんまり心配しないでよ。

 フェイトもママと頑張ってね」

 

「うん、姉さんも気をつけて」

 

 アリシアはシグナムを伴って砦から飛び出し、迫りくる土の精を白銀の剣と真紅の剣で一閃で倒しながら敵軍の中心に向かっていく。

 土の精の軍団を潜り抜けた先に、六本腕にレイピアをつけたスパイドル将軍をアリシア達は見つけた。

 

「見つけた! 貴方がスパイドル将軍だね!」

 

「その兜にその剣…。 まさか伝説の夢幻三剣士、白銀と真紅の剣士か!」

 

「その通り! これ以上ユミルメ国を妖霊軍の好きにはさせない!」

 

 ついに戦いが始まったことで、アリシアもテンションが上がって伝説の剣士のロールプレイに入っている。

 

「小癪な! いかな伝説の剣士と言えどもこのスパイドル、子供に後れを取るものか。

 いざ、尋常に勝負!」

 

 スパイドルが六本の剣を構えてアリシアに襲い掛かる。

 

「シグナムさんは下がってて! まずは私一人で戦うから!」

 

「わかった、危ないと思ったらすぐ下がれ」

 

「うん! いくよスパイドル将軍!」

 

 アリシアも白銀の剣を手にスパイドルを迎え撃った。

 

 剣戟が始まり金属がぶつかり合う音が幾度となく響き渡る。

 アリシア自身は剣の使い方など当然素人だが、白銀の剣を手にしたことで達人並みの剣士の腕で戦うことが出来る。

 六本の剣を使うスパイドルに白銀の剣一本では圧倒的に手数が劣るが、その達人並みの腕でアリシアは互角に打ち合うことが出来ていた。

 

 だが互角(・・)にだ。

 達人並みの剣の腕を振るえたとしても、初めて戦うアリシアと将軍と呼ばれるスパイドルには大きな経験の差があった。

 

「クッ、なるほど。 伝説に違わぬ剣の威力よ。 我が剣が一本であればたちどころに剣ごと切られていただろう。

 だが!」

 

 スパイドルは六本の剣を巧みに使って、白銀の剣を受け流す事で威力を殺して遂には受け止めた。

 

「受け止められた!?」

 

「我が剣は蜘蛛の剣。 どれほど威力があろうと絡め取る様に相手の剣を封じる。

 白銀の剣士と言えど剣を止めてしまえば無防備だ!」

 

 アリシアの持つ白銀の剣は、スパイドルの六本の剣が絡み合う事によって力を分散させて止められていた。

 白銀の剣を止めるのに六本の剣を使っているので攻撃は出来ないが、スパイドルには別の攻撃手段があった。

 スパイドルは蜘蛛の妖怪として糸を吐き出して、アリシアの体に絡める事で動きを封じた。

 

「きゃあ! 粘々して動けない…」

 

「こうなれば剣も振るえんだろう!

 死ね、白銀の剣士!」

 

 白銀の剣に絡めた六本の剣を開放して、アリシアを貫こうとする。

 だがそれをシグナムが黙っているわけもなく、割って入り真紅の剣でスパイドルの剣を弾き飛ばした。

 

「大丈夫か、アリシア」

 

「大丈夫だけど、蜘蛛の糸で全然身動きが取れないよ」

 

「少し我慢しろ」

 

 シグナムは手から炎を出して、アリシアに巻き付いた蜘蛛の糸を焼き尽くす。

 魔力の炎熱変換で炎を出しただけの、魔法とは言えない唯の魔力操作だが、蜘蛛の糸を焼くには十分だった。

 

「ありがとう、シグナムさん」

 

「それより奴は思ったより手強い様だ。

 ここからは私も手を貸そう」

 

「…うん」

 

 シグナムと共に、再びアリシアも白銀の剣を構える。

 

「炎の使い手か、厄介な」

 

 蜘蛛の糸という切り札のスパイドルにとって、火の魔法が使えるシグナム相手では相性が悪かった。

 

「これは少々分が悪いか………ん?」

 

 降ってきた雨雫の当たったスパイドルが空を見上げると、いつの間にか黒い雲が集まっており、直ぐに強い雨となって砦周辺の降り注いだ。

 

「雨だと、これでは土の精達が!

 先ほどまで雨雲など影も形もなかったぞ!」

 

 土の精は水に弱かった。 雨に降られては泥になって溶けてしまう。

 強い雨に降られたことで、戦っていた土の精達は慌て出しているがどうしようもなく、だんだんと形を崩し始めていた。

 

「ママ達がやったんだ!」

 

「流石だな」

 

「なんだと!」

 

 スパイドルが砦へ視線を向けると、防壁の上でプレシアとフェイトが魔法を使っているのを見た。

 本来得意とする雷雲を呼び起こす天候操作魔法を応用して、雨雲を作り出す事で雨を降らして土の精を一網打尽にしたのだ。

 

「あの魔女の仕業か!」

 

 魔女然としているプレシアに、スパイドルは一目で彼女が原因と判断した。

 一緒にフェイトも魔法を使っているが、プレシアに比べれば圧倒的に印象が弱かった。

 

「しかもあの容姿はまさか雷の魔女! 天候を操り雨まで降らすか!」

 

「雷の魔女?」

 

「プレシアはそのような名で呼ばれているのか?」

 

 夢幻三剣士とは別にそのような伝説があるのかと、スパイドルの言葉に疑問符を浮かべるアリシア達。

 

『たぶんユミルメ国に来た時に、プレシアさんが妖霊軍に雷を落としたのが原因じゃないかな。

 それで敵軍にプレシアさんの事が噂になってるとか』

 

「なるほど、それでしたら納得です」

 

「もう、なんでママが私達よりも先に有名になってるの!」

 

 夢幻三剣士よりも活躍してしまっているプレシアに、アリシアは納得いかないといった様子で憤っている。

 

「仕方ない、ここは引かせてもらう!」

 

「あ、待て!」

 

「逃がすか!」

 

 アリシア達はスパイドルの逃亡を止めようとするが、再び放たれた蜘蛛の糸に動きを止められる。

 アリシアは今度は効かないと白銀の剣で糸を切り払い、シグナムは真紅の剣に炎を纏わせて焼き払った。

 その一瞬の隙に、スパイドルは蜘蛛の様の素早く跳ね飛びながら森の中に姿を消していった。

 

「逃げられちゃった」

 

「仕方ない、砦を守れたのであれば、我等の勝利だ」

 

 敵を撃退して目的を果たしたのでシグナムは納得しているが、アリシアは納得いかない様子で口をへの字に曲げている。

 

「シグナムさん、私って弱いのかな?」

 

「ん? …そんなことは無かった。 白銀の剣の力だが、あの剣の冴えは一流の剣士の物だった」

 

「だけど私一人じゃ負けそうになっちゃったし」

 

「あれは経験の差だ。 剣の腕がどんなに優れていても、隙を突かれてはどんな強者も致命傷になりかねん」

 

 白銀の剣の力は強力でアリシアも強気になっていたが、あっさり負けそうになってしまった事で落ち込んでいた。

 

「映画ではあんなに苦戦するようなことは無かったのに…」

 

『僕もそれがちょっと気になった』

 

「ハジメさん?」

 

『だから説明書を見直してみたんだけど、どうやら難易度調整があるみたいなんだ。

 ゲーム参加者の実力に合わせて、主要の敵キャラが強くなるみたい』

 

「ゲーム参加者ってことは…」

 

 参加者はアリシア、フェイト、シグナム、プレシアの四人。

 アリシア 魔法は使えるけど戦闘経験なし。 戦闘能力・下の中。

 フェイト ミッド式を自在に使えて戦闘経験もそれなりにあり。 戦闘能力・中の上。

 シグナム ベルカ式を自在に使い歴戦の猛者。 戦闘能力・上の中。

 プレシア 戦闘経験は少ない研究者タイプだが大魔導士と呼ばれる。 戦闘能力・上の下。

 

『…難度が高くなるのも無理はないね』

 

「私以外、皆強すぎだよ…」

 

 アリシアだけ他の三人より格段に能力が低いのが丸わかりだった。

 

「…シグナムさんは剣を使うのが得意なんだよね」

 

「ああ」

 

「じゃあ、剣の稽古をつけてくれないかな。

 次はちゃんと勝てるように!」

 

 自分が弱いのは仕方ないにしても、夢のゲームの世界でまで弱くて負けたままではいたくなかった。

 夢で負けても問題ないのなら、無謀でも挑戦する事にアリシアは躊躇しなかった。

 

「…白銀の剣のお陰で剣の扱いに問題はない。 付け焼刃でも全くの素人よりは幾分マシになるだろう。

 剣を使うというなら少々厳しくなるかもしれないが、かまわないか?」

 

「うん、お願いします」

 

「わかった、短期ではあるが手解きをしよう。

 ただし先にプレシアに了解をもらってくれ。

 怪我でもさせたら後が怖い」

 

「大丈夫、私が言えばママは何も言えないから!」

 

 だいぶ逞しくなってきたアリシアだった。

 

 

 

 撤退したスパイドルは、妖霊城で妖霊大帝オドロームの前で跪いて戦いの報告をしていた。

 

「スパイドルよ。 つまり貴様は軍を全滅させて逃げ帰ってきたというのだな」

 

「軍の敗北のついては弁解のしようもございません」

 

「私は失敗は許さん。 覚悟は出来ているのだろうな」

 

 オドロームは髑髏の乗った杖をスパイドルに向けて、失敗の処断をしようとする。

 大帝の怒りを感じたスパイドルは慌てて話を続けようとする

 

「恐れながら大帝様! 私は夢幻三剣士と交戦し力量を測りました!

 どうか処罰はご報告を済ませてからにして頂きたく!」

 

「…いいだろう。 聞かせてもらおうか、夢幻三剣士の実力とやらを…」

 

 スパイドルの意見を受け入れ、オドロームは今一度杖を下ろした。

 

「ははぁ! 私が見ましたのは白銀の剣士と真紅の剣士。

 そのうちの一人、白銀の剣士と一対一で戦いましたがなかなかの手練れで、追い込むのに苦労いたしました。

 私の蜘蛛の糸で捕らえあと一歩のところまで追い込んだのですが、真紅の剣士に助けに入られ仕留め損ないました」

 

「私はそのような言い訳を聞きたいわけではない」

 

「そうではございません! 私が言いたいのは夢幻三剣士の一人であれば十分勝機はありますが、二人以上では分が悪く、三人纏めて相手にするには将軍の私でも勝機は少ないのです。

 おそらく他の将軍でも夢幻三剣士を纏めて相手にするのはかなり厳しいかと」

 

「スパイドル将軍! この私が人間共に敵わぬというのか!」

 

 同じ将軍の象の妖怪ジャンボスが、スパイドルの言い分の文句を言う。

 

「ではジャンボス将軍。 貴様は私を圧倒して倒すことが出来るというのか?

 それくらい出来ねば、夢幻三剣士を相手にするのは厳しいと私は見るが…」

 

「ぐぬぅ…」

 

 同じ将軍の地位についているだけあり、二人の力量は戦い方の違いはあれどそんなに差はない。

 スパイドルが勝てないという相手に、ジャンボスは何の根拠もなく勝てるとは断言出来なかった

 

「大帝様。 夢幻三剣士を纏めて相手にするには将軍一人では厳しいと愚考します。

 複数の将軍が協力して戦わねば、夢幻三剣士に確実に勝つ事は出来ません。

 どうか私めに今一度チャンスをお与えください。 他の将軍と協力し夢幻三剣士の討伐を必ずや成功させて見せます」

 

「ふむ…」

 

 オドロームは少し考えて、スパイドルの提案に決断を下す。

 

「よかろう。 他の将軍と共同戦線を組み、夢幻三剣士を倒すことが出来たなら、此度の失態を見逃そう。

 だが夢幻三剣士を倒せず戻ってくるなら、貴様の命は無いと思え」

 

「ははぁ!」

 

 スパイドルは平伏し、様子を窺っていた他の将軍たちもそれに倣った。

 

 

 

 

 

 先の戦いから数日、再び妖霊軍がアリシア達の居る砦に進軍してきた。

 以前よりも敵兵の数は圧倒的に多く、砦の方も補給物資を受け取っていたが戦力は圧倒的に劣っていた。

 

「あれほどの大軍団が相手では、我々の戦力では長くは持たない」

 

「じゃあまた私と母さんで雨を降らせればいいね」

 

「ううん、フェイト。 今度は土の精だけじゃなくて水の精や鉄の精の兵士もいる。

 土の精と鉄の精はママ達の雨と雷でどうにかなると思うけど、水の精はどうやって倒そう?」

 

 映画ではドラえもんの秘密道具で倒していたが、アリシア達は秘密道具を持っていないので倒す手段が解らなかった。

 

『ゲームだから秘密道具に頼らなくても倒す手段はあるはずなんだ。

 どうしようもないと思ったら秘密道具をそっちに送ろうか?』

 

「うーん…どうしようもなかったら、ハジメさんにお願いするしかないかな」

 

 アリシアも秘密道具は使わずにゲームをクリアしたいと思っているので、秘密道具は最終手段にするつもりだった。

 

「では、水の精の相手は私が受け持とう」

 

「シグナムさんが? でも水に火って相性悪いんじゃ」

 

「あの程度の水なら、我が烈火で焼き尽くす事など難しくない」

 

 真紅の剣に炎の魔力を纏わせながら、シグナムは確かな自信で言い切った。

 

「それじゃあお願いします。 私はこの前のリベンジ!」

 

 無数の妖霊軍の兵士の向こうに、スパイドル将軍の姿をアリシアは見つけていた。

 

「どうやら作戦は決まったようだな。

 砦の兵士だけでは長期戦は不利だ。 この戦いの勝利は君達がいかに早く敵を倒すかに掛かっている。

 後は任せる事しか出来ないが、頼んだぞ」

 

「任せてください」

 

「よし! では戦闘開始だ!」

 

 クロノの号令に兵士たちが妖霊軍に攻撃を始め、アリシア達もそれぞれの役割を果たすために動き始めた。

 

 

 

 プレシアとフェイトは先日の様にデバイスを掲げて、天候操作魔法で雷を伴う雨雲を作り始めていた。

 今回は土の精だけでなく鉄の精も攻撃する為に、雨と雷を同時に起こさないといけないから、先日よりも魔法の扱いが難しいが、二人掛かりなら不可能ではなかった。

 雨乞いをする祈祷師に様にデバイスを掲げていると、空から二人に目掛けて何かが飛んできた。

 二人とも集中していて気付かなかったが、インテリジェントデバイスのバルデッシュが気付いて、防御魔法を発動させた。

 

 

――ディフェンサー――

 

 

「え、バルディッシュ?」

 

「気をつけなさいフェイト! 攻撃よ!」

 

 攻撃に気づいた二人が空を見上げると、赤い羽毛を纏った鳥の妖怪が空を飛んでいた。

 

「お前が雷の魔女だな。

 私は妖霊将軍の一人、妖鳥のオウムス!

 ここで始末させてもらおう!」

 

 オウムスが大きく羽ばたくと、羽が矢の雨の様になってプレシア達がいる場所に降り注いだ。

 プレシアとフェイトは魔法のバリアを張る事で身を守った。

 

「なるほど、流石魔女と呼ばれるだけの事はある。

 私の矢羽では歯が立たんか」

 

「どいつもこいつも私を魔女呼ばわりして。

 そんなに私が魔女にしか見えないっていうの!」

 

「えっと…母さん落ち着いて」

 

 魔女呼ばわりされる事に腹の立ったプレシアをフェイトが諫めようとするが、魔女には見えないとは口にはしなかった。

 

「ならばこの鋭い爪ならどうだ!」

 

 落ちるように急降下してきたオウムスは、フェイト達が張った魔法のバリアに鳥足の爪を蹴り込むように叩き込んだ。

 バリアを破られる事は無かったが、大きなひびが入って今にも壊れそうだと誰もが思った。

 オウムスは宙返りをしながら足を振って、回し蹴りのように追撃を放つ。

 

「これで終わりだ!」

 

「母さん!」

 

 追撃にバリアを破られてそのままプレシアに蹴りが当たろうとしたところで、フェイトがバルディッシュを戻して代わりに抜いた黒金の剣で割って入り、オウムスの鋭い蹴りを受け止めた。

 

「何!? その黒の大剣、まさかお前が黒金の剣士か!」

 

「母さんの邪魔はさせない!」

 

 黒金の剣を振り切って、フェイトはオウムスを空へと弾き返す。

 

「雷の魔女を守っていたか。 ならばまずお前からだ!」

 

「母さん」

 

 天候操作魔法の補佐をしていたフェイトはどうするべきかと考えて、プレシアの様子を窺う。

 

「こっちは一人でやるから、貴方はその鳥の相手をしなさい」

 

「でも…」

 

 雨と雷を同時に操作するのは大変なので、プレシアの負担をフェイトは心配する。

 

「貴女に心配されるほど魔法の腕は衰えてないわ。 ゲームの役割(ロール)位一人で果たせる。

 せっかく私がゲームに付き合ってあげてるのよ。 この夢の主人公なんだから、役割を果たしてゲームを楽しみなさい」

 

「…はい!」

 

 未だにアリシア相手のように優しく接することが出来ないが、プレシアに関しては敏感に意図を汲み取るフェイトにはちゃんとその気遣いを読み取って、嬉しそうにしながらオウムスの相手をするために飛翔魔法で飛び上がった。

 

 

 

 相性が悪いと思われた水の精を相手にシグナムは戦っていたが、彼女自身が思ってよりも簡単に倒すことが出来ていた。

 

「構造が簡単な疑似魔法生物のような物か。 魔力ダメージに弱いようだな」

 

 水が魔法で動いている様な水の精に対して、シグナム達の魔法の非殺傷設定による魔力ダメージを与える方が炎で焼き払うよりもずっと有効だという事に気づいた。

 そこからは魔力を込めた真紅の剣を振るうたびに水の精は弾け飛んでいく、シグナムの無双状態になっていた。

 

「そこまでだ、真紅の剣士!」

 

 しかし妖霊軍もそれを黙って見過ごすわけはなく、水の精を無造作に倒し続けるシグナムを止めるために新たな敵が現れた。

 

「貴様は?」

 

「俺は妖霊将軍、妖象のジャンボス!

 夢幻三剣士の一人、真紅の剣士だな。

 恐れぬならば俺と一騎打ちで勝負だ!」

 

「いいだろう。 私はヴォル…いや、夢幻三剣士、真紅の剣士のシグナムだ。

 一騎打ちとあらば騎士の本懐。 受けて立つ!」

 

 シグナムとジャンボスの戦いが始まる。

 

 

 

 アリシアは目的のスパイドル将軍目掛けて、敵の兵を切り払いながら進んでいた。

 魔法で身体能力を上げる事で、子供とは思えないほどの速さで敵陣を真っ直ぐ駆けていく。

 敵兵の壁を突き抜けるとスパイドルはもう目の前だった。

 

「スパイドル将軍、この前のリベンジだよ!」

 

「来たな白銀の剣士! 負けを恐れず再び挑んでくるとは見事と言っておこう。

 だが以前の様に助けてくれる仲間はおらんぞ」

 

「今度は私が勝つんだからいいの!」

 

「生意気な。 ならば今度こそ確実に私がお前の息の根を止めてくれる」

 

「絶対負けないんだから!」

 

 アリシアは白銀の剣を大きく振りかぶって飛び掛かり、スパイドルは柔軟に受け流すべく六本剣を軽やかに構えた。

 

 

 

 オウムスは鳥の妖怪である事を生かした、空中からの攻撃を得意としていた。

 羽の矢による相手の届かない所からの攻撃と、頑丈な敵には高高度からの鋭い爪を伴った蹴りが最大の武器だった。

 だから同じく空を飛ぶ相手には、オウムスの武器はあまり有効ではなった。

 

「はあっ!」

 

「くそっ!」

 

――ガキンッ――

 

 黒金の大剣を足の爪で弾く事で、何とか攻撃に耐えるオウムス。

 フェイトが飛行魔法で自身と同じように空を飛んで挑んでくるので、オウムスはめったにない空中接近戦を強いられて苦戦していた。

 

「おのれ! 人間の癖に空を飛んで私に挑んでくるとはどういうことだ!」

 

「え! えっと、ごめんなさい?」

 

「謝るな! バカにしておるのか!?

 黒金の剣士が空を飛べるなど聞いておらんぞ!」

 

 オウムスは悪態をつくのも仕方ない。 同じように空を飛んでいても、足の爪でしか攻撃出来ないオウムスの方が圧倒的に不利なのだ。

 両腕が翼になっているので羽ばたかねば飛び続けることが出来ず、自在に魔法で空を飛び回れるフェイトの方が有利だった。

 

「…あなたじゃ私に勝てません。 降参してください」

 

「妖怪が人間に降参できるか! 本気で馬鹿にしておるようだな、貴様!」

 

「あう、ごめんなさい」

 

 降伏勧告を怒って拒否されてフェイトは少し落ち込んでしまう。

 これが夢だと知っているが、非殺傷設定もなく本気でオウムスを黒金の剣で斬るのに躊躇があったため、フェイトは切り殺したくないと説得を試みたのだ。

 しかしこの夢は妖霊軍と完全に敵対しているので、降伏など出来るはずはなかった。

 

『何やってるのフェイト』

 

「母さん」

 

 天候魔法の制御をしながらも、様子を窺っていたプレシアが念話で声をかけてきた。

 

『敵なんだから説得出来るわけないでしょう。

 追い込んだならさっさと倒してしまいなさい』

 

「でも生きてるんだよ。 この剣で斬ったら死んじゃうよ」

 

『………そうね、この夢のゲームは本当に現実感があるもの。

 貴女が躊躇するのも無理ないわね』

 

 以前の自分であればさっさと殺せと何も考えず命じただろうが、娘として扱うと決めたからには躊躇しているフェイトにあまり残酷な真似をしろとプレシアは言えなかった。

 心配で様子を窺っていたもう一人の娘のアリシアは、躊躇なくスパイドルに白銀の剣を全力で振るって戦っているので、どちらの娘が正しく育っているのか母親として少し心配になってしまった。

 

『…仕方ないわね、そいつはバインドで捕らえてしまいなさい。

 そうしたら後は砦の兵士にでも預けておけばいいわ』

 

「うん、わかった」

 

 魔法への対処が出来ないオウムスは容易にバインドに捕らえられて、フェイトとの戦いは決着が着いた。

 

 

 

 シグナムとジャンボスとの戦いは剣と剣との激戦になっていた。

 フェイトのように空を飛んでいればシグナムは有利だったが、ジャンボスの正面から挑んでくる戦い方に水を差すような事はしなかった。

 しかし…

 

 

――バキャンッ!――

 

 

「くそう! 伝説の剣相手では俺の剣が持たなかったか」

 

 度重なる真紅の剣との打ち合いに、将軍が持つに相応しい名剣であっても耐えられずに折れてしまうのは仕方のない事だった。

 

「…このような形で決着が着くのは私も不本意だが、これは戦いだ。

 覚悟は出来ているな」

 

 フェイトの様に相手を倒す事に迷うことなく、シグナムはジャンボスを倒して戦いを終わらせようとする。

 

「まだだ! まだ俺は負けておらん!

 パオオォォォォォンン!!」

 

 壊れた剣の柄を投げ捨てて大きな雄たけびを上げると、ジャンボスの体がみるみる巨大化していった。

 

「これが俺の切り札だ! 剣で貴様を倒せなかったのは残念だが、俺は勝たねばならん。

 その命、大帝様への手土産となるがいい!」

 

 ジャンボスはその長い鼻をシグナムに向けて鼻息を噴出した。

 巨大化した体から放たれる鼻息の突風でシグナムは吹き飛ばされるが、即座に飛行魔法を使用する事で宙で体勢を立て直した。

 

「デカくなっただけでは私は倒せんぞ」

 

「空を飛べるとは、貴様もまだ本気ではなかったという事か。

 だが、勝つのは俺だ!」

 

 剣を失ったジャンボスはもはや武器は体だけと、拳と長い鼻を振るってシグナムを叩き潰そうとする。

 巨体から放たれる攻撃を受ける訳にはいかないと、シグナムは飛び回って回避し続ける。

 

「どうした、先ほど剣を振るっていた時より動きが鈍いぞ」

 

「おのれちょこまかと!」

 

 巨体となったことで動きが鈍くなったジャンボスの動きを回避しながら観察し、十分見切ったところで擦れ違い様に真紅の剣を振るわれた腕に走らせた。

 

「ぐっ…この程度、痛くも痒くもないわ!」

 

「動きは鈍ったがだいぶタフになったか。

 これは少々手間取るかもしれん」

 

 シグナムの攻撃は確かに当たったが、巨大化したことで与える傷が浅く、ジャンボスは傷を気にするとなく攻撃を続けることが出来た。

 ジャンボスを倒すには剣を振るうだけでは時間が掛かると、デバイスのレヴァンティンを出して魔法を使おうかと思った時だった。

 

「シグナムさーん!!」

 

「あれは…ヴィータとなのはという子か」

 

 砦からシグナムの名前をなのはが大声で呼んでいた。

 

「これから大きな攻撃をしますから避けてくださーい!」

 

「何かはわからんが、まあいいだろう」

 

 シグナムは了解したことを伝えるために、なのは達に向かって剣を掲げる。

 

「よそ見とは余裕だな。 あんなガキ共にこの俺が倒せると思っているのか」

 

「私がお前に梃子摺っているから懸念をさせたらしい。

 あの者達は私の知る者たち本人ではないが、侮れる相手ではない筈だぞ」

 

 何をするのかとシグナムは砦の方を見ていると、その上に一個の砲弾が浮かび上がりだんだんと目に見えて巨大化していくのが見えた。

 巨大化する砲弾は桜色の魔力を帯びており、なのはの魔法によって大きくなっているのがわかった。

 

「な、なにぃ!?」

 

「これは危なそうだな」

 

 自身にも負けないほど巨大化する砲弾にジャンボスは驚き、シグナムも巻き込まれたら危ないと退避する。

 

「特別おっきいのいきます! せーの…シュート!!」

 

 砲弾もまた巨大化したことで動きは遅いが、ジャンボスに向かって射出された。

 まるで風船のように放物線を描きながらゆっくり飛ぶ砲弾だが、同じく巨大になったジャンボスには素早い回避は無理だった。

 ジャンボスはその巨体で砲弾を受け止めるしかなかった。

 

「ヌオオオォォォォォ!! こ、こんなものおぉ!」

 

 受け止めた砲弾は射出された勢いがついており、踏ん張って受け止めるジャンボスをずるずると押し続けた。

 それでも体勢を崩さず砲弾の勢いが弱まり始めた所に、追撃のヴィータがあとから迫っていた。

 

「こいつはおまけだ! 食らってけ!」

 

 ヴィータも自身の武器の槌を魔法で巨大化させ、ジャンボスの受け止めている砲弾にまとめて潰すように叩き込んだ。

 

「グオオオォォォォォ!!!」

 

 その一撃によってジャンボスの膝は地に着き、槌との間に挟まれた砲弾はその衝撃で限界を迎えたかのように光を放つ。

 次の瞬間、砲弾に込められた魔力が限界を迎えたように解放され、ジャンボスを巻き込んで大爆発を起こした。

 

「やれやれ、手柄を取られてしまったか」

 

 ジャンボスの結末を空から見届けたシグナムは、眼下でハイタッチをして勝利を喜ぶヴィータとなのはの姿をみていた。

 

 

 

 先日の戦いを再現するように、アリシアとスパイドルは一対一で剣を交えていた。

 前は互角の戦いを繰り広げていたが、今はアリシアが前以上の力で剣を振るってスパイドルを押していた。

 

「どういう事だ!? わずか数日でこれほど強くなるなど!」

 

 完全に押されて防戦一方のスパイドルは、アリシアの急激なパワーアップに困惑していた。

 

「フェイトやシグナムさんとの訓練の成果って言いたいけど、補助魔法の効果だよ!」

 

 アリシアはスパイドルに勝つ為にフェイト達に戦いの手解きを受けたが、戦闘経験の不足を補えるほどではなく勝算に繋がるほどではなかった。

 そこでほかに何か方法は無いかとアリシアは考え、フェイトにもシグナムにもない自分だけの魔法があったことを思い出す。

 

 アリシアは低かった魔力量を増やすためにドラクエ世界の【ふしぎなきのみ】を食べて魔法の訓練をしていた。

 その効果が異世界の人間に作用するとは限らなかったので、ドラクエ世界の適性も同時に付与されていた。

 その際にアリシアがドラクエ世界の魔法にも興味を持ち、習得の難しくない下位の魔法をドラクエ世界で習得していたのだ。

 

 アリシアの言う補助魔法とはスカラ、ピオラ、バイキルトのことだ。

 これによって総合的に身体能力を高めていた。

 

「くっ! これならどうだ!」

 

「てやぁ!」

 

 蜘蛛の糸を吹きかけるが、警戒していたアリシアは白銀の剣を一閃して糸を斬り払った。

 

「なに!」

 

「隙ありだよ!」

 

 

――ブリッツアクション――

 

 

 フェイトに教えてもらった高速移動魔法で、アリシアは一瞬でスパイドルの後ろに回り込み白銀の剣を振るった。

 スパイドルもなんとか反応して剣を向けるが、威力の高い白銀の剣を受け流しきれず、左手三本のレイピアを纏めて叩き折られた。

 

「しまった!」

 

「あと三本!」

 

 残った右手側の三本の剣で応戦するも、戦闘能力の半減に白銀の剣を受け流しきれず、二本一本と数えるように剣が折られていく。

 

「これで…終わり!」

 

「グアアアァァァァアア!!」

 

 一瞬躊躇するもフェイトと違いアリシアは夢と割り切り、白銀の剣を振るって最後の一本の剣ごとスパイドルを叩き斬った。

 

「た、大帝様………申し訳…ありませ…」

 

 仰向けに倒れると、その言葉を残してスパイドルは力尽きた。

 

「はぁはぁはぁ…、勝った…」

 

『大丈夫か、アリシア?』

 

「うん、夢だから思いっきり剣で倒しちゃったけど、少し気分悪くなるかなと思ったけどそうでもなかった。

 グルメ世界の狩りした時に比べたら全然へっちゃら」

 

『…どうやら生き物を殺しても、気持ち悪くならない措置が施されてるみたい。

 あの時に比べれば夢見る機の緩和措置がある分、ずっと楽だろうね』

 

 あの世界の現代人だろうが未来人だろうが、リアルに血を見るようなゲームは受け入れ難いだろう。

 夢幻三剣士は少々特殊なゲームだが、それくらいの安全措置は取られていた。

 

 アリシアの戦いも決着が着き、ほぼ同時期に他の将軍も倒された。

 妖霊軍の精霊の兵士もプレシアの天候魔法で半壊しており、戦いが終わるのも時間の問題だった。

 

 

――この世に在るもの、皆我が前に等しく――

 

 

「あれ? なんだろ、この声?」

 

『この声は…』

 

 突然どこからともなく、重く響き渡るような声が周囲に広がる。

 聞こえたのはアリシアだけでなく、戦場にいた者の誰の耳にも届いた様子で、幾人もが辺りを見渡している。

 

 

――我が魔をもって、汝らに命ず――

 

 

「ハジメさん、この声ってもしかして…」

 

『気をつけてアリシア、上だ!』

 

 ハジメが示した上空をアリシアが見ると、雨雲の隙間から何かがいた。

 

 

――力よ、地に降り注ぎて、生きとし生けるもの、全て塵と成れ!――

 

 

 そこから赤黒い光が放たれて、雨雲を引き裂いて戦場一体に雨の様に降り注いだ。

 

 

 

 

 




 なのはは無理無理砦の砲撃手兼魔法使いになりました。
 砲弾のアクセルシューターがシュートされます。
 すごい殺傷設定です・

 妖霊軍の配役は変更なしになりました。
 鳥っぽい妖怪は名前が無かったので適当です。

 妖霊軍を強くしたつもりですが、アリシア達が結構優勢なままでしたね。
 次でオドロームとの決戦です。

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