四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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 さて、後編です。
 終始、オドロームとの決戦ですが、いろいろ設定を独自に盛っています。
 戦闘描写はやはり難しいですね


第十四話 アリシアの夢幻三剣士 後編

 

 

 

 

 

「うわっ!?」

 

 画面いっぱいに光が広がって、ハジメは目が眩んでいた。

 

「びっくりした…」

 

「大丈夫ですか、我が主」

 

「ああ、突然光っただけだしね。

 それよりアリシア達は?」

 

 ハジメと月夜が光が収まった夢見る機のモニターを確認すると、放たれた光によって起こった惨状が映し出された。

 砦と戦場になっていた土地の殆どが砂漠になっており、動く者は風によって巻き上がる砂煙くらいだった。

 

「この惨状は一体?」

 

「どうやら敵の親玉の仕業みたいだね」

 

 動く者の居なくなった大地に、空からゆっくりと降り立つ妖霊大帝オドロームの姿があった。

 

「土地全体を纏めて塵にするなんて、映画より相当パワーアップしてる」

 

 しかし大規模な攻撃を行なったことで、オドロームも疲弊した様子で肩で息をしている。

 

「アリシア達は…」

 

「完全に不意打ちだった。 どこを見ても逃げられた様子がないし、まとめてやられたみたいだ」

 

 モニターを動かして周囲を見渡すが、オドローム以外の人影はない。

 

「しかし、確かアリシア達は復活が出来るのでは」

 

「ああ、だからオドロームとの戦いは保険なしの戦いになる」

 

 直後、積もった砂の中から、立ち上がる四人の姿があった

 

 

 

 アリシアが気付いた時には砂の中に埋もれていた。

 閉じ込められたようにも感じたアリシアは慌てて動くと砂を巻き上げて立ち上がり、辺りが砂地になった現状に驚いていた。

 

「な、何が起こったの!?」

 

『アリシア、落ち着いて』

 

 混乱しているアリシアをハジメがなだめる。

 

「ハジメさん?」

 

『さっきのはオドロームの攻撃だ。 それで戦場一帯を攻撃されてアリシアを含めて全員やられた。

 竜の汗のお陰で復活できたけど、オドロームはまだ近くにいる。

 他の三人も復活したみたいだから、早く合流するんだ』

 

「う、うん…」

 

 突然の事で戸惑いながらも、アリシアはフェイト達と合流する為に移動した。

 他の三人も同様の判断をして、半分砂漠化してしまった事で遮蔽物もなくアリシア達は直ぐに合流できた。

 

「姉さん、よかった無事だった!」

 

「やられちゃったみたいだけどね」

 

「大丈夫アリシア! ケガはない!?」

 

「どうやら皆、一度はやられてしまったようだな」

 

 全員未だ状況の再確認も出来ていないが、既に四人の目の前まで来ているオドロームを無視する事は出来なかった。

 

「どうやら竜の汗の力で生き返ったようだな、夢幻三剣士よ」

 

「お前が妖霊大帝オドロームか」

 

 シグナムが真紅の剣を向けながらオドロームに問う。

 

「そうだ。 将軍たちがまとめて挑んでも勝てぬようだから、私が直々に出向いてやったのだ。

 だが塵となっても蘇ってくるとは、手古摺らせてくれる」

 

「味方ごと攻撃するなんて!」

 

 この地に生き残っているのは復活出来たアリシア達だけだ。

 砦のクロノ達も妖霊軍の生き残りも、先ほどのオドロームの攻撃で敵味方関係なく塵になっている。

 生け捕りにしたオウムスも塵と成っており、フェイトは憤りを隠せなかった。

 

「私の命を果たせぬ者は処罰せねばならぬ。

 たとえ生き残ろうと、失敗した者の末路は変わらぬ」

 

「すごく解り易い悪役だけど、やっぱり頭にくる!

 絶対倒すよ、皆!」

 

 アリシアの合図に全員が各々の武器を構える。

 

「よかろう。 私に歯向かう事の恐ろしさを教えてやろう」

 

 アリシア達夢幻三剣士と妖霊大帝オドロームの戦いが始まった。

 役割通り、アリシア達が前衛として剣を振るい、魔法使いのプレシアが隙を狙って魔法で攻撃する戦術でオドロームに挑んだ。

 だが、ハジメの言った様に、オドロームは映画とは比べ物にならないほど強くなっていた。

 それは将軍の時の比ではなく、アリシア達四人掛かりでも大規模な攻撃をして疲弊したオドロームは互角以上の戦いをした。

 

 剣士を相手に直接戦う事を避け、オドロームは自身の幻影を作り出して本体を隠すかく乱をした。

 しかも只の幻影ではなく、相手を塵にする魔法を撃ち出す事の出来る分身のようなものだった。

 アリシア達は魔法を避けてたり伝説の剣で防いでオドロームを切り裂くが、煙のように消えてしまう幻影ばかり。

 幻影を倒すよりも生み出される方が早く、アリシア達の方が囲まれ分断されそうになる。

 

「全員集まりなさい!!」

 

 それに気づいたプレシアが呼びかけ、アリシア達は一か所に集まるが、無数のオドロームに包囲される事となる。

 

「厄介な、攻撃の出来る幻影とは…」

 

「どれが本物なのか分からない」

 

「ハジメさん、オドロームが強くなりすぎだよ!」

 

『僕もここまでとは予想外だ』

 

 素直にハジメもオドロームの強化具合に驚いていた。

 それだけアリシア達の総合戦力が高いのだろうが、その全員が束になって掛かっても苦戦するのだから難易度が高い。

 

 

――さあ、食らうがいい――

 

 

 オドロームたちが一斉に髑髏の杖をアリシア達に向ける。

 魔法のバリアで耐えようとアリシア達は準備するが…

 

「…数が多いなら、まとめて吹き飛ばせばいいだけよ!!」

 

 魔力を貯めて準備していた魔法をプレシアは解放する。

 

 

――プラズマスマッシャー――

 

 

 雷の魔力が一方向に放たれその先にいたオドロームをかき消すが、プレシアはその放射を維持したまま360度に撃ち放ち、全ての幻影を消し去った。

 本来瞬間的な直射魔法を維持しそのまま周囲を薙ぎ払いのは、膨大な魔力とそれを操る制御能力があって出来る荒業だった。

 

「ママ凄い!」

 

「母さん、大丈夫!?」

 

「はぁはぁはぁ…これくらい、どうってことないわ」

 

「凄まじい魔力だ。 相性が良ければ夜天の主に選ばれていたかもしれん」

 

 周囲を力ずくで吹き飛ばし称賛されたプレシアだったが、その消耗もあまり無視出来るものではなかった。

 先の天候操作で疲労が溜まっており、そろそろ厳しいとプレシアは思っていた。

 

「…待て、本体のオドロームは何処だ?」

 

「そういえば…」

 

「ママが倒しちゃった? ってことは無いよね」

 

 アリシア達も簡単には倒せないと悟っており、幻影をすべて倒して姿が見えなくなってしまったオドロームに警戒をする。

 お互いに背中合わせになっても姿が見えない事に困惑するが、ふと気づいてバッと上を見上げたシグナムが声を上げる。

 

「上か!」

 

 オドロームは再び上空に位置し、魔力を貯めこんで生き物を塵に変える魔法を使おうとしていた。

 

「これで終わりだ。 塵と成るがいい!」

 

 放たれたオドロームの魔法にアリシア、フェイト、シグナムが即座にバリアを重ねて張るが、強力な塵化の魔法の威力に三人掛かりでようやく耐えていた。

 

「なんて魔力だ!」

 

「これじゃあ身動き出来ない!」

 

「どうすればいいの!?」

 

 オドロームの魔法に耐えるのに精一杯で、アリシア達はそこから一歩も動くことが出来なくなった。

 そんなことはお構いなしとばかりに、オドロームの魔法は照射が途切れない。

 

「…あなた達、もう少しだけ耐えなさい」

 

「ママ?」「母さん?」

 

「何か手があるのか?」

 

 消耗して蹲っていたプレシアが立ち上がり、三人に耐えるように命じる。

 

「手立てと言えるほどの事ではないわ。 今度はこっちから不意打ちを仕掛けるだけよ」

 

 プレシアは自身の足元にミッド式の魔法陣を展開する。

 

「横から攻撃を食らわせれば、少なくともこの攻撃は止められるわ」

 

「でも母さん、魔力が…」

 

 魔法の使い過ぎで大きく消耗しており、流石のプレシアの魔力も残り少なかった。

 

「このまま負ける訳にはいかないでしょう。

 …行ってくるわ」

 

 そういってプレシアは転移魔法を発動し、バリアの中から姿を消した。

 次に現れたのは上空のオドロームのすぐ後ろ。

 

「なに!?」

 

「食らいなさい!」

 

 

――サンダーレイジ――

 

 

 転移したプレシアは、即座にサンダーレイジを発動してオドロームに放った。

 

「おのれ! 転移までするか!」

 

 だがオドロームも妖怪達の親玉にして、強力な魔法を使う強大な魔法使い。

 プレシアの転移魔法を幾分早く察知してその存在に気付き、放たれるサンダーレイジに対してアリシア達に放っていた塵化の魔法を向ける事で迎え撃った。

 サンダーレイジと塵化の魔法が正面からぶつかり合い、お互いに負けるまいと魔力の押し合いになる。

 

「ハアァァァァァ!!」

 

「オオォォォォォ!!」

 

 ぶつかり合う魔法が圧力を生み、衝突点に否応無しに力が高まっていく。

 そして僅かな時間の拮抗が崩れ、高まった魔力の圧力が解放されプレシアとオドロームの至近距離で爆発した。

 

 

――ドオオォォォォンン!!――

 

 

「ママー!!」「母さんッ!!」

 

 強力な魔法使い同士の魔法の衝突はそれ相応の破壊力を生み、双方を魔力の爆発が一瞬で飲み込んだ。

 爆発の衝撃が過ぎ去ると空は煙が巻き起こって、どうなったのか結果見えない状態にあった。

 爆発に飲まれたプレシアに、アリシアとフェイトは呆然と煙を見上げている。

 その中から煙の尾を引いて落ちてくる何かがあった。

 

「あれは…母さん!?」

 

 それに気づいたフェイトが飛び上がり、アリシアとシグナムも続く。

 落ちてくるそれに黒いマントを見たフェイトがプレシアだと判断して、落ちてくる先に回り込んで受け止めた。

 

「え?」

 

 だが、受け止めたフェイトの腕に人の重みを感じさせるものがなく戸惑いを覚える。

 間近で確認して、それは確かにプレシアのマントを含めたバリアジャケットだった。

 しかし衣の中にプレシアはおらず、その隙間から零れ落ちる塵しか入っていなかった

 

「ママ…」

 

「姉さん、母さんは…」

 

「たぶん、オドロームの魔法で…」

 

 フェイトもアリシアもオドロームの魔法の効果で、プレシアは塵にされてしまったのだと察した。

 竜の汗の蘇生効果は一回だけでもう復活は出来ない。

 それを示すかのように、主を失ったバリアジャケットも編まれた魔力が解けて光になって消えていく。

 

「姉さん、これ、夢だよね…。 母さんホントに死んだりしてないよね」

 

「うん、その筈だけど…。 そうだよね、ハジメさん」

 

『たぶん家の方で目覚めてるとは思うけど…。

 気になるようだから、月夜ちょっと様子を見に行ってくれるか?』

 

『はい』

 

 月夜はプレシアの無事の確認にテスタロッサ家に向かう。

 

「………ママったらフェイトを心配させて! 起きたらちゃんと叱らなきゃ!」

 

「だ、大丈夫だよ姉さん! 母さんが無事ならそれで」

 

「ダメだよ! だってママだけでオドローム倒しちゃったんだよ!

 私達が主役なのに半分以上ママに活躍を取られちゃった。

 これで終わりなんて、なんか納得いかない!」

 

 アリシアの言い分ももっともなくらいに、確かにプレシアの活躍は大きかった。

 将軍をそれぞれ一人ずつ倒したのが、アリシア達唯一の活躍ではないだろうか?

 

「安心しろアリシア」

 

「シグナムさん?」

 

「どうやらまだ物語は終わってないらしい」

 

「「!!」

 

 シグナムの言葉の意味をアリシアもフェイトも直ぐに察し、爆発の煙が晴れた中から一つの影が浮かんでいる事に気づいた。

 

「ぐぅぅ、雷の魔女め。 三剣士を警戒しすぎて油断したわ。

 まさか私にここまでの傷を負わせるとは…」

 

 オドロームは双方の魔法の爆発に耐え、負傷はしたようだが健在だった。

 その姿を確認したアリシアとフェイトは剣を抜いて即座に飛び掛かった。

 

「ヤアァァァァ!!」

 

「オドローム!!」

 

 夢であってもプレシアがやられたことは二人にとって衝撃的で、沸き上がった感情に敵を討たんと攻撃を仕掛けた。

 

「見くびるな、その程度!」

 

 攻撃を仕掛けてくる二人に、オドロームは再び幻影を使って攪乱する。

 しかし感情に任せて飛び掛かった二人は幻影が現れても余計な事は考えず、手近な幻影に即座に切りかかる力任せの行動に出た。

 余計な判断をしなくなった二人の行動は早く、移動魔法のソニックムーブを多用して高速で動き回り、負傷で生成速度が遅くなった幻影が増えるより早く減らす事でオドローム本体を絞っていった。

 オドロームもあっという間に幻影が消されていく事に驚き、フェイトが自身に切りかかろうとしている事に気づいたのは目前だった。

 慌てて杖をかざして黒金の剣の一撃を受ける事で身を守るが、杖の木の部分は切断されて長さが半分になってしまう。

 

「!? こいつが本体!」

 

 同時に本体を見破られてしまうが、直情的に剣を振るうフェイトの動きは解り易く、オドロームも落ち着きを取り戻して回避することが出来た。

 フェイトが本体を暴いたことにアリシアもすぐに気づいて向かっていくが、オドロームも夢幻三剣士相手に接近戦をする気はなかった。

 斬られた杖の先の髑髏を外すと掴んでいた木の部分が手の様になって、向かってきていたフェイトに巨大化しながら伸びて掴み捕らえた。

 

「あっ!」

 

「その程度でこのオドロームが倒せると思うな」

 

 更に木の腕でフェイトを振り回し、同じく向かってきていたアリシアにぶつけた。

 

「フェイト!」

 

「ごめん、姉さん!」

 

 フェイトを避ける訳にもいかずアリシアが木の腕ごと受け止めるが、それはオドロームの狙いだった。

 

「隙だらけだ」

 

「あ、まず!」

 

「姉さん、逃げて!」

 

 杖から取り外した髑髏を向けられて、アリシア達は狙われている事に気づくが対処しきれない。

 

「塵と成れ!」

 

 アリシアとフェイトは避けられないと察して咄嗟に目を瞑るが…

 

「私を忘れてもらっては困る!」

 

 魔法の射線にシグナムが割り込んで、真紅の剣で塵化の魔法を受けた。

 

「シグナムさん!」「シグナム!」

 

「二人とも、プレシアがやられたから仕方ないが戦場で冷静さを失うな。

 落ち着きを無くせば安易に隙を突かれることになる。

 アリシア、フェイトを掴んでいる木を斬れ」

 

「うん」

 

 シグナムはオドロームの攻撃を警戒して二人の前で剣を構え、アリシアがフェイトを捕らえる木の腕を白銀の剣でバラバラにした。

 

「少々不利か…。 ここは一旦引くとしよう」

 

 状況が不利とみてオドロームは撤退を即座に決断した。

 魔力を大きく消耗しており、何も障害物の無い空中で三剣士相手に立ちまわるのは分が悪く、決着を着けるには仕切り直しが必要と判断した。

 オドロームがローブを靡かせて後方に飛ぶと、後ろの空間に穴が開いてそこに飛び込んでいく。

 

「逃げる気か!」

 

「姉さん、オドロームが!」

 

「こら! 逃げるなー!」

 

 アリシアが文句を言うが、その程度でオドロームが従うわけはない。

 

「ここは引かせてもらう。 私を倒したくば妖霊城まで来るがいい」

 

 そう言い残してオドロームは空いた空間に消えていき、その空間の穴も自然と閉じた。

 

「逃げられたか」

 

「そう…だね」

 

「あーもう! 悔しい! ママの敵討ち出来なかった!」

 

「しかたない。 決着は次の機会だ」

 

「むー!」

 

 プレシアがやられた事に腹を据えかねているアリシアは、まだ落ち着かない様子だった。

 フェイトもプレシアがやられた事に気持ちが昂っているが、アリシアより大人しい性格からかシグナムの言葉に自制出来ていた。

 

『我が主、今戻りました』

 

『ハジメ、あの後どうなったか教えて頂戴』

 

「ママ!」「母さん!」

 

 モニターの向こうからプレシアの声が聞こえた事で、二人はようやく落ち着きを取り戻し始めた。

 

 

 

『そう、やられたの私だけって事。

 相打ち覚悟だったとはいえ、一方的にやられたら立つ瀬がないわね』

 

 あの後どうなったのか説明を受けたプレシアは、オドロームが生き残った事を悔しがっていた。

 

「何言ってるのママ! あのままママがオドローム倒しちゃったら、私達の立場がないよ!」

 

「でも、母さんがちゃんと無事でよかった」

 

 プレシアの無事を確認してフェイトと文句を言っていてもアリシアも安心していた。

 

『ハジメ、夢の世界への復帰は出来ないの?』

 

『流石にリタイヤしたら新たにゲームを始めない限り、同じ人の参加は無理だよ』

 

『まあ、そうでしょうね。

 そういう訳だから、私はこの先一緒に戦う事は出来ないわ』

 

「いいよ、ママは十分活躍しすぎだもん。

 後は私達でオドロームを倒して、ゲームクリアするから」

 

「大丈夫、母さんがいなくても私達で何とかするから」

 

『そ、そう…』

 

 二人に悪意は無いのだろうが、必要無いと言われて内心気を落とすプレシア。

 

「それでオドロームの待ち構える妖霊城に向かえばいいのだろうが、どうやって向かえばいい?」

 

「それは私が説明するわ」

 

 どこからともなく現れたリンディがシグナムの問いに答えた。

 

「リンディさん、無事だったんだ」

 

「オドロームの大魔法に巻き込まれましたが、私も竜の温泉に入っていたお陰で助かりました」

 

 リンディも一度死んで復活したらしい。

 

「私もすぐに復活しましたが、皆さんとオドロームの戦いが始まったので巻き込まれないように隠れていました。

 プレシアさんの事は残念でしたが、私では大した力にはなれず申し訳ありません」

 

「え、でもママは…」

 

「アリシア、リンディはこの世界の住人だから…」

 

「あ、そっか」

 

 夢の世界の人物は現実世界を認識しないので、モニターから顔を見せているプレシア達の存在はスルー。

 雷の魔女プレシアは妖霊大帝オドロームとの戦いで死んだのだ。

 それを察したアリシアはとっさにアドリブで対応する。

 

「ママが死んじゃったのは残念だけど、落ち込んでばかりいられないよ。

 早くオドロームを倒して世界を平和にしないとね。

 そうだよねフェイト!」

 

「え? う、うん、姉さん…」

 

 フェイトは気まずそうにモニターの向こうのプレシアを見ながら相槌を打つ。

 

『私、死んだことに…』

 

『夢の世界での話ですからね』

 

『でも、アリシアが…アリシアが…』

 

『他意は無いですよ…きっと』

 

 アリシアに死んだことにされたプレシアがショックを受け、ハジメにフォローされる。

 それを認識出来ないリンディはアリシアの言葉に感動する。

 

「立派です、白銀の剣士アリシア!

 私も最後まで皆さんのサポートを務めさせていただきます!

 オドロームの居城である妖霊城は夢世界の奥の奥。 悪夢の領域と呼ばれるところにあります。

 これまで妖霊軍の守りが激しく攻め込むことも出来ませんでしたが、今回の戦いで妖霊軍も大きく疲弊したはず。

 今なら敵の数が減って容易に乗り込む事が出来ます」

 

「では今がチャンスなのだな」

 

「そうです。 悪夢の領域へは夢の回廊を通っていく必要があります。

 そして夢の回廊を通るには夢幻獣の力を借りる必要があります」

 

「オドロームの所まで行くのにすごく手間がかかるんだね」

 

 遠回りに感じる説明を聞いて、アリシアは少しやる気が削がれてしまう。

 

「そうでもありません。 皆さんを運ぶ夢幻獣は私が呼び寄せる事が出来ます。

 妖精も夢幻獣の一種ですので」

 

「じゃあ、早速お願いします!」

 

「任せてください」

 

 そういってリンディは夢幻獣を連れてくるために一旦姿を消した。

 

 少しすると夢幻獣を連れて戻ってくる。

 

「お待たせしました。 この子たちが皆さんを運んでくれる夢幻獣たちです」

 

 紹介された夢幻獣の一体は角と羽を生やした馬のような動物。

 ハジメには見覚えがあり、映画でのび太が妖霊城に向かうときにどこからともなく現れた動物だった。

 これにはのび太と同じ白銀の剣士のアリシアが乗る。

 

「あ、アルフ!?」

 

「ようやく会えたよフェイト…。

 一緒の夢にいるはずなのに、アタシはずっとなんだかよくわからない場所を彷徨ってたんだよ」

 

 フェイトの乗る夢幻獣はアルフだった。

 実はアルフも夢アンテナを貰ってゲームの参加していたが、これまで役割(ロール)が回ってこず出番待ちだった。

 

「夢幻獣とはお前か、ザフィーラ…」

 

「お前とは初対面の筈だが?」

 

「…そうか」

 

 アルフと対を成すように最後の夢幻獣に選ばれたのはザフィーラ。

 シグナムが騎乗する事になるが、現実のザフィーラはアンテナをつけていないのでリンディやなのは、ヴィータと同じ夢世界の住人という事になる。

 故に面識があるわけではなく、ザフィーラがシグナムの事をわかるはずは無かった。

 

 守護騎士最後のシャマルも実はいたのだが、砦の衛生兵をしておりアリシア達と会うことなく攻撃に巻き込まれて退場となった。

 その事実はハジメすらも知らない。

 

「では行きましょう。 夢幻獣に送ってもらえば妖霊城に直ぐに行けます」

 

「よし。 じゃあ、出っ発ぁーつ!」

 

 アリシアの号令で騎乗すると夢幻獣は飛び立ち、空中に開いたピンク色の光が渦巻く夢の回廊に突入した。

 

 

 

 夢の回廊を駆け抜けて、その先の黒い空間に引き込まれるようにして突き抜けると、妖霊城のある悪夢の領域にたどり着いた。

 アリシア達は妖霊城に忍び込もうと考えたが、オドロームが三人を待ち構えるために城の守りが厳戒態勢になっていた。

 各所に監視の兵が配置され、正門以外は結界によって封鎖されており潜り抜ければすぐに見つかる。

 容易に忍び込めそうなところがなく、協議の末に大火力の魔法で正門を吹き飛ばして道を作る正面突破となった。

 

「アタシも戦うよ! ずっと待ってるだけで退屈だったんだ」

 

「夢幻獣は空と夢を駆ける力は優秀ですが、悪夢から生まれた妖怪達とは相性が悪いのです。

 私もそうですが夢幻獣は彼らと戦う事は出来ません」

 

「え、じゃあアタシは留守番かい?

 そう言われてみればこっちじゃ人型になれない!」

 

「それなら仕方ないよ。 アルフは隠れて待ってて」

 

「アタシの役目、たったこれだけ!?」 

 

 不服そうにアルフはアリシア達の戦いが終わるのを待つことになった。

 

 

――プラズマスマッシャー――

 

 

 正門をフェイトの砲撃魔法が吹き飛ばし、城の中へ三人が突入する。

 砲撃魔法に巻き込まれ倒れている者もいたが、城の中には多くの兵士が待ち構えていた。

 

「いくよ、二人とも!」

 

「うん!」「ああ!」

 

 敵の居城での最後の戦いが始まった。

 城の兵士と言えども伝説の剣を振るう三人を止められる者はおらず、ばっさばっさと敵の兵士を倒して進んでいく。

 しかしラスボスの本拠地だけあって兵士の数は多く、一人ずつ切り倒していて時間が掛かっていた。

 そこで今度はアリシアが魔法を使って兵士を纏めて倒そうとしていた。

 

「そこまでだ。 我こそは妖霊将軍最後の一人…」

 

 

――サンダースマッシャー――

 

 

 完成したアリシアの魔法が放たれ、正面にいた敵を纏めて吹き飛ばした。

 何か言おうとしていた敵の一人ごと。

 

「どうフェイト! 私もママ達と同じ魔法も使えるようになったんだから!」

 

「うん、でもあまり無理しないで。 オドロームが待ってるんだから魔力を温存しなきゃ。

 どうしたの、シグナム」

 

「………いや、なんでもない。

 一応敵だ。 倒してしまったのなら仕方ない」

 

 騎士として名乗りくらい聞いてやりたいと思ったシグナムだが、あっという間に倒れてしまってはその程度と割り切った。

 アリシアの砲撃魔法の音でよく聞こえなかったが、一撃で倒れたのなら大した相手ではないだろうと思った。

 ちなみのその敵は髭面に角を生やした小鬼のような姿をしていた。

 

 敵兵をアリシア達は無双しながら城の奥へと進んでいき、ついに玉座のある大広間に出た。

 広い部屋の先に妖霊大帝オドロームがおどろおどろしい形の木でできた玉座に座っていた。

 手には髑髏が乗った木の杖が元通りになっている。

 

「よくきたな。 やはり雑兵では夢幻三剣士を止める事も出来んか」

 

「覚悟してオドローム! ママの敵討ちも含めて貴方を倒す!」

 

「不用意に突っ込むなよアリシア。 わかってはいるだろうが一筋縄ではいかない相手だ」

 

「無理しないで姉さん。 母さんは生きてるんだから冷静に」

 

「大丈夫。 ママの敵討ちって言った方がカッコいいから言っただけ。

 ちゃんと落ち着いているよ」

 

『カッコいいわよ、アリシア』

 

「もう、雰囲気壊れるから死んじゃったママは口を挟まないで!」

 

『ハジメ、アリシアが何だか最近すごく辛辣なの。 これが反抗期なのかしら…』

 

『ご家庭でよく話し合ってください』

 

 現実のプレシアが口を挟んだ事で少しグダグダになったが、オドロームが動き始めた事で三人は気を引き締める。

 

「ここは私の居城にして我が領域。 ここでは私はこの領域に満ちる魔力を自由に使うことが出来る。

 すなわちここでは私は常に全力で戦うことが出来るという事だ。

 先ほどのようにはいかんぞ」

 

「来るぞ!」

 

 シグナムの言葉にオドロームは立ち上がると、分身を一斉に生み出して襲い掛かってきた。

 前の戦いよりも生成速度が速く、前と同じように戦っては倒しきれないだろう。

 だがアリシア達は前の戦いよりも素早く動いて、三人掛かりで分身の攻撃を掻い潜りながら一閃してあっという間に倒していく。

 

「何? 前よりも早くなってる?」

 

「ちゃんと作戦は練ってきたんだよ!」

 

 アリシア達も無策で正面から攻めてきたわけではなく、準備はちゃんとしていた。

 今度は補助魔法をアリシアがフェイトとシグナムにもかけて、能力にブーストを掛けてきている。

 効果の持続時間も考慮して、玉座の間の前で掛け直しており、オドロームとの戦いが終わるまで効果が切れないようにちゃんと考えている。

 能力の上がった三人に、オドロームの脆い分身では生成速度が上がっても抑える事は出来なかった。

 

「もはやこの程度では魔力の無駄にしかならんか。 ならば…」

 

 オドロームは分身を生み出す事をやめて、玉座に再び座りなおした。

 

「あれ、座った。 まさか諦めたの?」

 

「そう思うか?」

 

 三人を前に椅子に座って、無防備な態勢に見えても余裕のある声で問いかける。

 

「貴様、なんの真似だ」

 

「ここまで辿り着いた貴様達に敬意を表して、私も本気で戦おうをいうのだ。

 妖樹の玉座よ! 我が魔力を糧とし、その真の姿を現すがいい!」

 

 オドロームがそう命じると玉座が蠢き出して、ぞわぞわと木の枝や根をを伸ばして巨大化していく。

 座っていたオドロームはその蠢く樹に包み込まれるように取り込まれる。

 玉座はもともとの巨木となり、葉を生やさないまま形を人の様にも見える形に変え、最後にその幹からオドロームの形の顔が現れた。

 

「これぞ私の真の姿。 この姿になった以上、お前たちに勝ち目はない。

 ただ死に物狂いで足掻くだけの道化となるのだ」

 

「こんなの全然知らないんだけど、ハジメさん!」

 

『これは驚愕の展開だ』

 

 ハジメも原作の映画とあまりにかけ離れた展開にかなり驚いている。

 オドロームからの威圧感も高まっており、アリシアも啖呵を切ったのに尻込みをしてしまう。

 シグナムとフェイトもオドロームの魔力を感じて最大限に警戒をする。

 

「では行くぞ。 私をこの姿にさせたのだ。 簡単には死んでくれるな」

 

 巨大な樹の怪物と成ったオドロームは、多数の枝を触手のように動かして一斉にアリシア達に向かって突き出した。

 アリシア達は散開するように回避すると、枝は床を貫いて無数の穴を開けた。

 枝は更に蠢き、バラバラに動いてアリシア達に襲い掛かる。

 

「きゃあ! なにこれ!」

 

「姉さん、気をつけて!」

 

 三人は空も飛んで枝を回避するが、枝は伸縮も自在でオドロームから多少離れていても容易に攻撃は届き、間合いを見切れないアリシアとフェイトは回避に精一杯だった。

 戦闘経験の豊富なシグナムは些か余裕があり、真紅の剣で枝を斬るが僅かに傷つける事しかできない。

 

「ならば、レヴァンティン!」

 

 真紅の剣を鞘に納めて、使い慣れたレヴァンティンを起動させる。

 

「紫電一閃!」

 

 炎の魔力の籠った斬撃ならばとレヴァンティンを枝に振るうが、それでも僅かに傷つけるだけだった。

 

「なに!?」

 

「無駄な事を。 この樹の体には私の魔力が大量に流れている。

 生半可な魔力の一撃など私の強大な魔力が弾き返す。

 その程度の炎の魔力では、この樹を焼く事など出来ん」

 

「しまった!」

 

 自慢の一撃が通用しなかったことで不意を突かれ、シグナムはオドロームの枝に捕まってしまう。

 

「シグナムさん!」

 

「姉さん、危ない!」

 

 気を取られたアリシアの後ろに枝が迫る。 それを見たフェイトが咄嗟にアリシアを助ける為に突き飛ばし、代わりに迫って来ていた枝に捕らわれてしまった。

 

「フェイト!」

 

「さあ、あとはお前だけだ、白銀の剣士。

 この樹は捕らえた者の魔力と精気を奪う。

 一度捕らわれれば抜け出す事は出来ん」

 

「力が入らない…」「不覚…」

 

 捕らわれたシグナムとフェイトは抜け出そうとするが力が入らず、弱弱しくもがく事しかできない。

 

「待っててフェイト、シグナムさん! 今助けるから!」

 

 二人を助けるために捕らえた枝を斬ろうと飛び上がるが、それを阻もうと他の枝が立ち塞がる。

 

「邪魔ー!」

 

 アリシアは渾身の力を込めて白銀の剣で斬りつけるが、大きな傷をつけるだけで切断するまでには至らない。

 それでも先ほどのシグナムの攻撃よりも、アリシアの攻撃の方が大きな傷を枝に作っていた。

 

「流石、伝説の剣の中でも清らかな力を持つ白銀の剣。

 我が邪気の籠った魔力を弱めるか」

 

「効いてるの!?」

 

 オドロームの様子から白銀の剣が有効だと分かったアリシアは、再び剣を振りかぶって枝を今度こそ斬ろうとする。

 

「だが、力不足だ!」

 

「きゃあ!」

 

「姉さん!」「アリシア!」

 

 一本の枝に再び大きな切り傷を作ることが出来たが、オドロームの操る枝は他にもある。

 一斉に振るわれた枝の攻撃にアリシアは受けきれず、吹き飛ばされて床に転がった。

 痛みに耐えながらアリシアは白銀の剣を杖にして何とか立ち上がる。

 

「ううぅ、な、なんで白銀の剣なのにオドロームを倒せないの…」

 

 映画では無敵の剣を誇った白銀の剣が、オドロームにあまり効かない事にアリシアは愚痴をこぼす。

 

「無理しないで! 姉さんだけでも逃げて!」「くそ、何とか抜け出せれば…」

 

 フェイトは弱々しく立ち上がるアリシアに逃げるように促し、シグナムは捕らわれている自分を不甲斐なく思い、何とか抜け出せないかともがき続ける。

 

(『離しなさいハジメ! ゲームを強制終了させてアリシアとフェイトを助けるのよ!』『ダメですってば。 後でアリシアに怒られますよ!』)

 

 現実ではゲームを終わらせればピンチのアリシア達を助けられると、プレシアは夢見る機を強制終了させようとしており、それを止めようとハジメ達は奮闘していた。

 最終決戦の邪魔にならないように、現実世界からのモニターは映らないようにしてある。

 

「ではトドメだ、白銀の剣士よ。 お前は串刺しにしてから妖樹の養分にしてやろう」

 

「姉さん、逃げて!」「アリシア、逃げるんだ!」

 

 いくつもの枝の鋭い切っ先がアリシアに向けられる。

 

「伝説の剣なんだから、オドローム倒せるくらいの力をちゃんと出してよー!!」

 

 アリシアが大声で愚痴を吐き出すと同時に枝が一斉に襲い掛かる。

 

 

――キイィィィンンン!!!――

 

 

 その瞬間、白銀の剣が輝きを放ち、襲い掛かる枝をその光が跳ね除けた。

 

「なんだ、何をした白銀の剣士?」

 

「なにこれ?」

 

 突然輝きだした白銀の剣に皆が様子を窺う。

 白銀の剣はアリシアの手を離れて浮かび上がり、同じようにアリシアが魔法に使用するネックレス状の簡易デバイスが白銀の剣の光を浴びて浮かび上がる。

 デバイスは引かれる様に白銀の剣に向かい、二つが接触するとさらに眩しい光を放った。

 

「眩しい!」

 

「なんという忌まわしい輝き!」

 

 間近で見た輝きにアリシアは目が眩み、オドロームは己を蝕む清浄なる光にアリシアを取り囲んでいた枝を反射的に引かせてしまう。

 その強い光が収まると、アリシアの前には鍔の部分にデバイスであることを示す水晶体が収まった白く煌めく白銀の剣が浮かんでいた。

 

「白銀の剣とデバイスが合体した!?」

 

「一体どうして…」

 

「私にもわからんが、さっきまでの白銀の剣と違いアリシアの魔力が強く籠められているのを感じる。

 アリシア、その剣を手に取れ!」

 

「う、うん…」

 

 誰もが状況を飲み込めていないが、シグナムは剣の変化が悪いものではないと判断。

 シグナムの指示に従いアリシアが柄を握ると、白銀の剣はアリシアの魔力を取り込んで刀身に纏う様に魔力の刃を作り出した。

 

「死ねぇ!」

 

 白銀の剣とアリシアの魔力が一つになった力に嫌な感じを憶えたオドロームは、不意を突くように再び枝で串刺しにしようと襲い掛かる。

 

「え!?」

 

 

――キキキキキキン!!――

 

 

 それにアリシアは反応出来ずとも白銀の剣は反応し、持ち手が困惑したまま剣は振るわれて全ての枝を迎撃する。

 しかも今度は全て一太刀でオドロームの枝を切り落とす事が出来ていた。

 

「なんだと!」

 

「あれ、斬れちゃった…」

 

「姉さん、すごい!」

 

「白銀の剣の威力が上がっている。 デバイスと一つになった事でアリシアの魔力がそのまま剣の力になっているのか」

 

 剣の力が上がった理由をシグナムが考察する。

 

「もう、パワーアップ出来るなら最初からやってよ。

 これなら戦える!」

 

 

――ブリッツアクション――

 

 

 オドロームの枝を斬れると分かったアリシアは、未だ捕らわれている二人を助けるために移動魔法で急接近して拘束している枝を斬ろうと思った。

 それをデバイスと一体化した白銀の剣が応え、剣技の延長として自動で移動魔法を発動させ、高速で移動中に剣を振るって二人を拘束していた枝を切り裂いた。

 

「何ッ!!」

 

「枝が斬れてる!?」

 

「今の一瞬で切ったのか!」

 

「あれ? …ウソ、今私がやったの?」

 

 その動きに誰も反応が出来ず、アリシア自身も枝を斬ろうと思った直後にすべてが終わっていた。

 拘束していた枝がバラバラになり、フェイトとシグナムは自由を取り戻してアリシアの元に集まる。

 あまりの絶技に本人も含め、誰もが驚いている。

 

「すごい! それでこそ白銀の剣だよ!」

 

「ありがとう、姉さん」

 

「すまない、助かった」

 

「ううん、全部白銀の剣のお陰だし。

 そうだ! フェイトとシグナムさんも剣をデバイスと合体出来るんじゃない?」

 

「あ、そうかも」

 

「やってみる価値はあるな」

 

 二人もアリシアに倣い、剣とデバイスを合体させる様に重ね合わせる。

 するとアリシアの時よりは輝きは劣るが光を放って、剣とデバイスは一つになる。

 

 フェイトの黒金の剣は白銀の剣と同じようにデバイスコアは鍔に収まり、柄の部分はバルディッシュがベースの意匠に変わっている。

 逆に刀身の部分は元のままに近いが、魔力の刃が纏われて合計三メートルを超える子供のフェイトには巨大すぎる大剣になっている。

 それでもフェイトには一切の負担は無いようで軽々と振り回している。

 

「すごく大きくなったね」

 

「なんだかザンバーフォームみたい」

 

 シグナムの真紅の剣は合わさったことで形状のベースがレヴァンティンとなり、色だけが真紅になっているのが真紅の剣の名残だった。

 アリシア達の様に刀身に魔力の刃が重ねられているが、その面積は小さく剣としての形状の変化はほぼ無いと言えた。

 だが魔力の刃が小さい割に込められている魔力は白銀の剣と大差はなく、剣が振るわれた時にその威力が発揮されるとシグナムにはわかった。

 

「剣から魔力だけではない湧き上がるような力を感じる。

 これが夢なのが残念としか思えない高揚感だ」

 

「剣を見て笑ってるシグナムさん、何だかちょっと怖いような…」

 

「シグナム、オドロームが来る!」

 

 少し恍惚とした表情を見せていたシグナムをフェイトが正気に戻して、三人はオドロームの動きに注意して剣を構える。

 

「それが伝説の剣の真の力という訳か。

 伝説と呼ばれるに違わぬ凄まじい力だ。

 ならば一切手心を加える必要はあるまい」

 

 オドロームは自身の魔力を全開で引き出し妖樹に力を与える。

 妖樹はオドロームの魔力を溢れさせておどろおどろしいオーラを纏い、斬られた枝を一瞬で生やし先ほどよりも数を増やしてアリシア達に向ける。

 

「さあ、死ぬがいい!!」

 

 全ての枝の先から塵化の魔法が放たれ、放たれた魔法を追う様に鋭い枝がアリシア達に向かう。

 アリシア達は剣を翳して防御魔法で塵化の魔法の雨に耐え、追撃の枝の刺突も剣で切り裂き回避して逃れた。

 

「アリシア、フェイト、少し時間を作ってくれ」

 

「了解!」「わかった」

 

 アリシアとフェイトがシグナムの前に立ち、オドロームの魔法と枝攻撃を受けて壁となる。

 

「さあ、行くぞ、レヴァンティン」

 

 真紅の剣と呼ばず愛剣のレヴァンティンと呼び、同化した事で付属されたカードリッジシステムをロードする。

 

「二人とも下がれ!」

 

 準備の出来たシグナムはアリシア達に前から退く様に指示する。

 すぐに反応した二人は退避すると、壁となっていた二人がいなくなったことでシグナムに攻撃が殺到する。

 

「紫電一閃!!」

 

 波のように襲い掛かった無数の枝を、シグナムの一閃がまとめて両断し、炎の斬撃となって真っ直ぐオドローム本体までの道を文字通り切り開いた。

 妖樹の纏ったオーラが本体への炎の斬撃を防いだが、一斉に攻撃を仕掛けていた枝は殆どが焼き切られて、すぐに再生するが一時的に動かせる枝のほどんどを失った。

 

「なんだと!?」

 

「今度は私が!」

 

 フェイトが空中に留まり魔法陣を展開する。

 魔力が巨大な刀身に集まっていき、フェイトもまたカートリッジをロードして魔力を黒金の剣に注ぎ込んでオドロームに向ける。

 

「プラズマザンバーブレイカー!!」

 

 雷光の砲撃が黒金の剣から放たれ、オドロームを飲み込まんばかりの威力で向かっていく。

 オドロームは魔法を砲撃に放つことで迎え撃った。

 

「カアアァァァ!」

 

 全力で放った塵化の魔法はフェイトの砲撃魔法を受け止めて中間でぶつかり押し合いになる。

 

「この私に魔法で敵うと思うな!」

 

 魔法に更に魔力を注ぎ込むことで威力がさらに増し、フェイトの砲撃魔法がゆっくりと押され始める。

 

「グウゥゥぅ!!」

 

「フェイト、頑張って!」

 

「ゥゥウ、カートリッジ、ロード!」

 

 アリシアの応援を聞いて、フェイトは力を振り絞り更にカードリッジから魔力を追加する。

 押されていた砲撃魔法は勢いを取り戻い、オドロームの魔法を押し返し始める。

 

「私が押されている!?」

 

「ぁぁぁあああ!! これが私の全力全開! ハアアァァァァ!」

 

「グアアアァァァァァァ!!」

 

 嘗て戦った時のなのはを思い出し、それに倣って全てをぶつけるつもりで砲撃魔法に力を籠める。

 砲撃魔法は塵化の魔法を押し切り、オドロームの妖樹を飲み込んだ。

 魔法を撃ち終えるとフェイトは息を切らしており、直撃を食らったオドロームは原形を留めているが妖樹全体を雷の魔力に焼かれ、放たれていた魔力のオーラも攻撃に耐えるために減衰していた。

 

「はぁはぁはぁ…姉さん、あとはお願い…」

 

「まかせて!」

 

 攻撃が終えるのを待っていたアリシアがフェイトの後ろから飛び出す。

 

「よ、寄るなぁ!」

 

 魔法で迎撃する力も残ってないのか、焼かれているが形を留めている太い枝を動かして自身が収まっている幹を守るように身構える。

 それを気にせずアリシアは白銀の剣を振りかぶり、上から一気にオドロームに向かっていく。

 

「いっけええぇぇぇ!!」

 

 力一杯振り下ろした白銀の剣はその瞬間に再び強い輝きを放ち、オドロームを防御ごと縦一閃に光の斬撃が貫いた。

 斬撃の軌跡がオドロームの体の中心を走り、斬った後も光の残照を残している。

 

「馬鹿な…この私が消えていく」

 

 白銀の剣の一閃を受けたオドロームは身動きすることなく、斬撃の後から光の粒子が舞い上がっていく。

 それが全身に広がるようにして、オドロームの体はゆっくりと消えていった。

 アリシア達はそれを最後まで見届けてようやく勝った事を実感する。

 

「んんん、勝ったー!!」

 

「やったね、姉さん!」

 

「見事な一撃だった」

 

 オドロームを倒したことを和気藹々と喜ぶアリシアとフェイト。

 シグナムも激戦を制したことに満更でもない表情で笑みを浮かべている。

 

『お疲れさま。 ようやく終わったね』

 

「あ、ハジメさん。 もう大変だったよ。

 映画を見た時と全然違うんだもん」

 

『まあ、僕もいろいろ驚きっぱなしだったよ』

 

『お疲れさま、アリシア。 カッコよかったわよ』

 

「ママ」

 

『それからフェイト』

 

「え、はい」

 

『………あなたも頑張ったわね』

 

 口ごもった言い方ではあったがプレシアはフェイトを褒めた。

 どうしてもフェイトには素直になり切れないが、ちゃんと向き合うという気持ちがプレシアをそうさせた。

 

「っ! はい!」

 

 ちゃんと褒められたことにフェイトはとてもうれしそうに笑顔を見せる。

 それが気恥ずかしくなりプレシアは目を背けてしまうが、それでもフェイトは満面の笑みを見せていた。

 

「ママったら相変わらずなんだから。 途中でやられてリタイアしちゃった癖に」

 

『それは言わないで頂戴、アリシア』

 

 その後妖霊城の崩壊が始まり、迎えに来たリンディとアルフ達に乗ってアリシア達は城を脱出した。

 映画ではその後国を挙げてのパレードがあったが、アリシア達はそこまで興味はなくそのまま夢から覚める事を選んだ。

 ちなみにお姫様の配役にはやてが選ばれていた。

 

「お国の姫なんやから王国の為に結婚するのは仕方かもしれへんけど、顔も分からない相手やとなぁ。 え、伝説の夢幻三剣士が現れた? けど全員、女なんか。 そんならお嫁になんでもよさそうやな。 なんやて! 三剣士の一人がむっちゃ巨乳やと! そりゃあ見に行かへんと!」

 

 はやては王城から駆け出した。 しかし辿り着いた砦は壊滅して誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「結構大変だったけど、夢幻三剣士面白かったね」

 

「夢とは思えないくらい、良い戦いが出来ました」

 

 戻ってきたアリシアとシグナムはハジメの前で感想を語る。

 フェイトはミッド世界から夢で繋がっていたので、この場にはいない。

 

「それは良かった。 いろいろ予想外の事ばかりだったが、楽しめたようで何よりだよ」

 

 アリシア達は満足していたが、ハジメは少しばかり自分がやらなくてよかったと思っている。

 プレイヤーの強さによって敵の強さが変わるなら、いろいろな世界でその特性と強さを得ているハジメがプレイしたら、敵がどれほどの強さになるか想像もつかない。

 やらなくてもよかった映画のストーリーとはいえ、興味本位で手を出していればどうなっていたか。

 なにせ、ゲームを終わらせないと、妖精が催促に来るくらいなのだから。

 

「そうだリニス、お願いがあるんだけど」

 

「なんですか?」

 

「私のデバイス、白銀の剣みたいなのがいい!」

 

「え!?」

 

 今は簡易デバイスを使っているアリシアだが、専用のデバイスをリニスが現在作っている。

 

「そ、そうですか。 そうなると完成にもう少し時間が掛かりますがよろしいですか?」

 

「うん、楽しみに待ってるね!」

 

「あはは…」

 

 苦笑いを漏らすリニスだが、その理由を知るハジメとプレシアは気の毒に思う。

 既にアリシアに用意されたデバイスは完成しており、お披露目間近だったことを。

 フェイトのバルディッシュに似通った形状に作られたデバイスは、流用出来る部品を除いてお蔵入りになるのだった。

 

 

 

 

 




 何とか書き上げましたが、最後は難産でした。

 手に汗握るような攻防というのはやっぱり難しいですね。
 お約束のラスボス第二段階とか、突然のパワーアップとかやってみましたが、パワーバランスに違和感を感じてしまいます。
 作者の書き方次第でキャラクターの強さをコントロールできますが、それでも話の流れに違和感を持たせないようにするのは大変です。
 パワーのインフレは嫌いじゃないですが、自分の主義として限度があると思っています。

 オドロームの設定についてはかなり盛りました。
 映画で木を身代わりにしたり杖を木の腕にしたりしていたので、オドロームは木の妖怪ではないかというイメージがあったので、そういう事にしました。
 それでも戦闘情報が元から少なかったので、魔法攻撃は全部塵化の魔法になってしまいました。
 星を落とす魔法もありましたが、無理に戦闘描写に差し込むことになりそうでしたので諦めました。
 もっとうまくやれないものかと未熟さを感じています。

 次回の更新はまだ未定です。
 あと数話ほどでリリカル編に区切りをつけたいと思っています。
 多重クロスなのにまだあまり世界観が広まっていませんからね。
 他の異世界修行編も考えないといけません。

 遅々として更新が進まないかもしれませんが、今後もよろしくお願いします

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