四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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 GOD編始まりです。

 ゲーム版のストーリーですが、一作目の方のBOAの事件は起こっておらず、ある程度独自の設定で進めたいと思います。
 ゲームの敵の闇の欠片も記憶からの再現とかいろいろ無理があるので設定変更します。

 ゲームストーリーリメイクの新劇場版とは全く繋がりは無いです



第十五話 新たな事件

 

 

 

 

 

 バードピアの研究所で、ハジメは四つの円柱型のカプセルを前にコンソールを操作している。

 カプセルの中には神姫達四人が寝かされており、ハジメは彼女たちの改良の最終チェックをしていた。

 それも終わりハジメは開閉ボタンを押すと、カプセルが開いて神姫達は直ぐに目を覚まし起き上がった。

 

「改良が終わったよ。 何か違和感はない?」

 

 各々がカプセルから出て自身達の体を動かして確認する。

 

「はい、なんともありません、マスター」

 

「私もです。 何も問題なく動作出来ます」

 

「ボクもなんともないと思うけど、前とあまり変わってない気がする」

 

「私も大丈夫なのです。 何か変わった感じがするのですが、それが何なのか分からないのです」

 

 神姫達に異常が起こっていない事にハジメは安堵して、どのような改良をしたのか説明する。

 

「あまり変化を感じていないというなら、問題の無い証拠だ。

 見た目の変化がないようにしたが、結構大きく改良を行なっている。

 例えばまず魔法を使えるようにした」

 

「魔法ですか!?」

 

「それってプレシアやアリシアみたいな?」

 

「魔力を生成する魔力炉を搭載し疑似的なリンカーコアにする事で、ミッド世界の魔法が使えるようにした。

 システムを起動すればどう使えばいいか分かるから、この後起動試験をしてみよう。

 たぶん他の魔法のある世界の理をパラレルエンチャンターで付与すれば、その世界の魔法も使えるようになる筈だ」

 

 疑似的なリンカーコアなどミッド世界の技術でもまだ開発されてないが、ハツメイカーでロボットが魔法を使えるようになる魔力炉をミッド世界の形式で要求したら、Cランクのリンカーコア位の低い性能だが作れるようになった。

 ただ少し性能が低いので、もう少し性能を上げるべくハジメは改良を重ねるつもりだった。

 

「で、その副次的なものとして、守護騎士プログラムを解析した技術を応用して皆に組み込んだ。

 体表スキンをプログラムで生み出す疑似魔法生体組織に置き換えてみたんだ。

 体の表面、つまり肌の質感が守護騎士達と同じ人間の体とまるで変わらない物になっている。

 これまでの人工皮膚も高性能だったけどこれで僅かな違和感もなくなって、外装は完全に人間と同じものだよ」

 

「あ、それなのです! 私の感じた違和感は。

 肌の感じが前と違っているのです!」

 

「気付きませんでした。 確かに以前の人工皮膚より人間と変わらない、普通の人の肌と同じです」

 

 肌触りに違和感を覚えていたレーナがすぐに気づき、エルも自分の体を確認して以前との違いに気づく。

 

「ではマスター、以前より体表の防御力が人間並みに落ちているという事ですか?

 人と同等の体表で一体どんな性能の向上効果が?」

 

「ハハハ、実直な性能を求めるリースらしいね…」

 

「リース、マスターは性能の事を考えてこういう改良をしたんじゃないと思うよ」

 

「そうなのか?」

 

 ハジメの意図からズレているリースにアイナが間違いを指摘する。

 

「より人間らしくあってほしいっていうのが、その改良の理由かな。

 防御面はFAのバリアがあるし、疑似魔導師化させたことでバリアジャケットも纏えるようになる。

 それにその体表は魔法プログラムで作り上げられているから、多少怪我をしても魔力があればリカバリー出来るから耐久性が下がったって訳でもない」

 

「なるほど、流石はマスター」

 

「実際に性能は向上してる訳か」

 

 ちゃんと性能も上がっていることに感心するリースとアイナ。

 

「と言っても体表だけが生体組織なだけで、内部構造は魔力炉と魔法システムを組み込んだ元の機械のままで大きな変化はない。

 内部構造まで損傷したらリカバリーが難しくなるから過信するほどの物でもない。

 魔法が使えるようになって外面(がいめん)がちょっとだけ良くなったというだけだ」

 

「では、グルメ世界で狩りをするにはまだ無理でしょうか?」

 

「そうだね、今回の改良はそれだけだけど、プランはあるから次の機会まで待っててくれ」

 

「はい…」

 

 期待が外れたようでリースは少し残念そうにする。

 以前行ったグルメ世界で、リース達神姫は火力不足でグルメモンスターをあまり狩ることが出来なかった。

 その時グルメ世界でも戦えるようにバージョンアップするとハジメが約束していたので、リースは今回の改良でそれを期待していた。

 

「リース、あんまり催促したらマスターが困っちゃうよ」

 

「ち、違う! 私はそんなつもりは!

 申し訳ありませんマスター! 決して私は催促した訳ではなく…!」

 

「そうだね。 皆とグルメ世界で狩りもしてみたいし、次の改造プランの準備をしておくよ」

 

 ハジメの中の神姫達の改造プランは、ドラゴンボール世界のロボット…人造人間たちの技術を持ってきて組み込むというものだ。

 グルメ世界のような超パワーバトル物の世界に通用するロボットとなると、人造人間たちくらいしか思いつかなかった。

 人造人間たちの技術を組み込めれば神姫達は大幅なパワーアップが出来るが、そうなるとドラゴンボール世界で鍛えたハジメの戦闘力を大幅に上回る事になる。

 元々護衛も兼ねた存在であり人格的に裏切るともハジメは思っていないが、神姫達に圧倒的に力が及ばなくなるのはマスターとして男として少し情けないと思い、その改造をちょっと躊躇していた。

 改造を行う前に人造人間と戦えるレベルまで強くならなきゃと、ハジメは再度ドラゴンボールの世界での修業を決めていた。

 

「すごいのですマスター! 良く触ってみたら人工皮膚とは別物の、モチモチしっとりの素敵な肌触りなのです!」

 

「そんなに良かったか。 それならしっかり調整した甲斐があった」

 

 女性の肌の設定なので、少し凝ってハジメは設定していた。

 

「はい! 胸も前よりハリと質感が良くなっているのです!」

 

「ブッ!」

 

「れ、レーナ! はしたないですよ!」

 

 大きな自分のおっぱいを持ち上げて見せつけるレーナに、ハジメは吹き出しエルが咎める。

 

「マスターの前でしたら何も問題は無いのです。

 それに男の人は大きな胸が好きだと情報にあったのです。

 それならマスターだって私の胸が好きなはずなのです」

 

「…そうなのですか、マスター?」

 

「答え辛い事を聞かないでくれるかな、二人とも」

 

 訝しむエルの眼を避けるようにハジメは目を逸らす。

 

「このボディを作ってくれたのはマスターなのです。

 それならこの胸にはマスターの愛情がたっぷり込められているのです」

 

「お願いだから黙って、レーナ。 そういう言い方はすごく恥ずかしい…」

 

 エル達みたいな美少女が好きではあるが、そこまで明け透けに女性の好みを言われては流石にハジメも羞恥心が溢れる。

 ハジメが戸惑っている横で、リースとアイナが自分の胸に手を当てながらレーナの胸と見比べる。

 

「マスターは胸が大きい方が好ましいのか?」

 

「………マスター! 僕のボディに異常がありました!

 胸が改造前よりちっちゃい気がする!」

 

「? スタンダードなサイズ設定のままだと思うけど?」

 

「いいや、絶対小さいと思う! マスターもおっきな方が好きなら、ボクの胸をおっきくしてもいいんだよ!」

 

「いや、僕は容姿を余計に弄ったりせず、標準通りの方が好きだから」

 

「なんでさぁ!」

 

 これ幸いと、胸を大きくしてもらおうと目論んだアイナが嘆き崩れる。

 

「マスター。 私は多少は胸が大きくなっても、戦闘に支障がなければマスターの好ましい胸に改造するのはいつでも構いません」

 

「お願いだから僕の嗜好を冷静に分析しないで」

 

 リースまで胸の大きさを語りだした事に、今回の改造を少しだけ後悔するハジメ。

 

「失礼するでござる、殿。 少しよいでござるか?」

 

「どうした、ドラ丸。 何かあったか?」

 

 そこへ研究室の扉からドラ丸が入ってきた。

 

「海鳴に設置していた観測機から情報が送られてきたでござる。

 殿が予想していた通り、何かが起こったようでござるよ」

 

「そうか、神姫達の調整が丁度終わった所だ。

 早速海鳴に向かおう」

 

「承知でござる」

 

「ボクのボディの調整がまだ!」

 

「だからしないってば」

 

 アイナと激しい論争を繰り広げる事になるが、ハジメの中でレーナ>エル>リース>アイナの個性を覆す事は無かった。

 

 

 

 

 

「フェイトちゃん、あとどれくらい!?」

 

「あと少し!」

 

「こっちも!」

 

 なのはとフェイトは海鳴の空で、地球の生物とは思えない巨大な鳥と戦っていた。

 

 事の始まりは普段通り友人達との学校からの帰り道に、彼女たちのデバイスが近くに魔力反応を感知したことから始まる。

 念の為に友人のアリサとすずかと別れて二人で調べに向かうと、巨大な謎の鳥の群れに遭遇した。

 

 なのは達は異常事態と判断して結界を張って応戦するが、鳥達は大した強さではなく二人の魔法で簡単に倒すことが出来た。

 しかしその鳥達は魔法で倒すと魔力となって散らされ実体を残さず消えてしまう。

 それを二人は疑問に思いながらも、街への被害が出ないようにすべての巨大な鳥を倒す事を優先した。

 

「これで最後!」

 

「はあぁぁ!」

 

 なのはのアクセルシューターとフェイトのサイズスラッシュが最後の鳥を倒し、遭遇した謎の生き物をすべて消えた。

 

「何とか終わったね。 でも何だったんだろう、今の鳥さん」

 

「地球の生き物じゃない、別の世界の魔法生物みたいだった。

 それに倒したら消えてしまったのも普通じゃない」

 

「クロノくん達に連絡した方がいいよね」

 

「うん、多分魔法と何か関わりがあると思う」

 

 全ての鳥には魔力反応があった。 なのは達は魔法に関わる案件だと判断して、管理局のクロノ達に連絡を取ろうとした時に声を掛けられた。

 

「お見事です。 大した事の無い相手とはいえ、貴方達の強さの片鱗を見ることが出来ました」

 

 二人が振り向きその姿を確認すると驚愕する。

 

「え、なのは!?」

 

「えええええ! 私にそっくり!?」

 

 戦いを終えた二人の前に現れたのは、色合いや声色は違えどなのはに瓜二つの少女だった。

 その手に持つデバイスもまた、なのはのレイジングハートと同じ形状をしていた。

 

「お初に目に掛かります。 私は『理』のマテリアル、星光の殲滅者、シュテル・ザ・デストラクター。

 そういう名を持つ存在の様です」

 

「えっと、コトワリの…?」

 

「セイコウ?」

 

 いろいろな意味の名前に少し混乱する二人。

 

「…シュテル。 そう呼ばれるのが正しいのだと思います」

 

「ご、ごめんなさい、なんだかとても珍しい名前で…」

 

「お気になさらずに。 私もそれが自分の名前なのか、よくわかってませんので」

 

「どういうこと? それになんでなのはと同じ姿を?」

 

 変身魔法の可能性をフェイトは頭に思い浮かぶが、本物の目の前に現れる事に何の意味がないのでそれは違うと判断する。

 

「それも私にはよくわかっていません。 気がついたら私はこの近くにいました。

 私が何者なのか、なぜここに居るのか? その答えを求めていた私は、貴方達が近くで戦っているのを感じて様子を窺っていました。

 必要があれば手を貸すべきかと思いましたが、杞憂だったようです」

 

「つまりシュテルちゃんは迷子って事なの?」

 

「迷子…。 ええ、その認識を間違いとは言い切れません。

 自分が何者なのか、名前以外何もわからないのです」

 

「それって、記憶喪失!?」

 

「…確かに、何かを思い出せなくなっている気がします。

 それも間違いないのでしょう」

 

「大変!!」

 

 シュテルが何もわからなくていて困っている事になのはは慌てるが、フェイトは別の意味で困惑していた。

 なのはそっくりであるシュテルの存在に、フェイトは自身とアリシアの関係を思い浮かべた。

 もし自分達と同じならシュテルはその存在が犯罪に関わってるのではないかと危惧する。

 

「あなたがなのはとそっくりな理由もやっぱり分からない?」

 

「ええ。 ですが彼女と同じ姿をしている事に何らかの因果関係を感じて、私はお二人に接触したのです。

 何か私について心当たりはありませんか?」

 

「ごめんね、シュテルちゃん。 私には全然…」

 

「…母さんならもしかしたら何かわかるかも」

 

「プレシアさん?」

 

 自身を生み出したプレシアならば、シュテルがなぜなのはと似てるのかわかるのではと名前をあげる。

 

「そうですか。 であればその方に会う事は出来ませんか?」

 

「母さんは向こうから連絡してくれないと会えないから…」

 

 夢幻三剣士の件で着けてもらった夢アンテナをフェイトはまだ持っており、夜には再びアリシアと夢の中で密会を時々行なっている。

 あるのはアンテナの受信側だけなので、フェイトの方から連絡する手段はなかった。

 

「では、連絡取れるまで同行させていただいてよろしいですか。

 他に何の当てもありませんので、僅かでも手掛かりがあるのでしたらお願いしたい」

 

「うん、私もなのはそっくりな貴女の事が気になるから構わない」

 

「よろしくね、シュテルちゃん」

 

「ええ、よろしくお願いします。 なのは? とフェイトでしたか?」

 

「あ、自己紹介がまだだった。 私、高町なのはです」

 

「管理局嘱託魔導士のフェイト・テスタロッサです」

 

「はい、改めてよろしくお願いします。 …ん?」

 

 自己紹介を終えた所で、シュテルが何かに気付いて彼方を眺める。

 それに釣られてなのはとフェイトもシュテルの視線の先の彼方に目を向ける。

 

「何かがこっちに来るようです」

 

「またさっきの鳥?」

 

「あ、あれってヴィータちゃんじゃ…」

 

 向かってくる見覚えのあるバリアジャケットの色に、なのははヴィータだと察する。

 

「ヴィータちゃーん、こっちー!」

 

 手を振って呼びかけるなのはにヴィータは一直線に向かってくる。

 デバイスであるグラーフアイゼンを構えて。

 

「!? なのは、避けて!」

 

「え、フェイトちゃん?」

 

「ラケーテンハンマー!!」

 

「きゃあ!」

 

 ロケット噴射で加速するハンマーの一撃を、なのはは間一髪で回避する。

 だが攻撃を外したことは気にせず、ヴィータはなのはに向かって続けて攻撃を仕掛ける。

 

「どうしたのヴィータちゃん!? やめて!」

 

「ダアァアァァァ!」

 

 呼び止めるなのはの声に、ヴィータは聞く耳を持たず攻撃を続ける。

 なのはは飛び回る事で攻撃を回避しているが、遠慮のないヴィータの攻撃に追い込まれていく。

 

「なのは! ッ!?」

 

 突然の攻撃で戸惑っていたフェイトがようやく助けに入ろうとした時に、横から砲撃魔法が通り抜けて攻撃を続けていたヴィータを吹き飛ばした。

 

「何も語らずに攻撃とは無粋ですね。 お二人の知人の様ですが、様子がおかしいようなので攻撃させてもらいました。

 構いませんでしたか?」

 

「良くはないけど、なのはを助けなきゃいけなかったし…

 なのは、大丈夫!?」

 

「私は平気。 シュテルちゃんもありがと。

 けど、ヴィータちゃん大丈夫かな?」

 

 シュテルの放った砲撃魔法に吹き飛ばされたヴィータが飛んでいった方向を、なのはは見つめる。

 

「加減はしました。 吹き飛ばすだけに留める威力に調整しましたので、大してケガも負っていないでしょう」

 

「それならよかった。 だけど、ヴィータどうしたんだろう?」

 

「まるでなのはの話が聞こえてないみたい」

 

「でしたら暴れられないよう、まずは叩きのめしましょう。

 話はそれからです」

 

「ふふ、なんだかなのはらしいやり方だね」

 

「待ってフェイトちゃん! シュテルちゃんが言ってるやり方が私らしいってどういう事!?

 シュテルちゃんも乱暴なやり方は駄目だよ」

 

 シュテルとフェイトの発言に憤慨しながら物申すなのは。

 

「ではどうするのですか? ほら、来ますよ」

 

「シュワルベフリーゲン」

 

「「!!」」

 

 ヴィータの鉄球型の誘導弾が飛んできて、なのは達は散開して攻撃を回避する。

 

「まどろっこしいです。 やはり一度動けなくなるまで叩きのめしましょう」

 

「シュテルちゃんって、丁重な喋り方の割になんだか物騒だよ」

 

「けど、なのは。 やっぱりまずはヴィータを止めないと」

 

「そ、そうだね。 やり過ぎないようにヴィータちゃんを止めよう」

 

 なのはとフェイトもデバイスを構えてヴィータと戦おうと決意した時。

 

「っ! また何かが来ます。 速い!」

 

「ええっ!」

 

「今度は何!?」

 

 彼方から甲高い風を切る音が聞こえ、シュテルが真っ先にその存在に気付く。

 そして音よりも早くなのは達の近くまで飛来したそれは、再び攻撃ハンマーで攻撃をしようとしていたヴィータと交錯。

 すれ違い様に黒くて大きな何かがとてつもない速度のままにヴィータにぶつかり、その体は凄まじい衝撃音と共に粉々に粉砕された。

 

「え、ええ…? ふぇ、フェイトちゃん…今、ヴィータちゃんが…」

 

「な、なのは…」

 

「今の何かの見間違いだよね…」

 

 一瞬の出来事に目を疑ったなのはは、震えながらフェイトに確認を取る。

 

「うん、私も何かが通り過ぎるのが速すぎてよく見えなかった」

 

「凄まじい速度の何かがあの方に当たって、見事に粉々に爆散しましたね」

 

「いやぁぁぁ! ヴィータちゃん! ヴィータちゃんが!?」

 

 シュテルのストレートな回答に、現実を直視したなのはが錯乱する。

 

「なのは落ち着いて!」

 

「うっせーぞ! 何度もアタシの名前を呼ぶんじゃねえ!」

 

「ヴィータちゃん!?」

 

 唐突に聞こえてきたヴィータの声に、なのはは無事だったのかと安堵して聞こえてきた方向を振り向く。

 そこにはロボットのような具足と機械の腕、背に繋がりもなく浮かんでるブースターに巨大な鉄球を宙に浮かせながら携えている、赤く長い髪を日本の三つ編みにした15歳(・・・)くらいの少女が飛んでいた。

 

「………どちら様ですか?」

 

「たった今、アタシの名前を呼んでただろうが!」

 

「えええええ! ヴィータちゃんなの!?

 なんでおっきくなってるの! それにその恰好は!?」

 

「ホントにヴィータ?」

 

 声は間違いないが、自分たちの知ってるヴィータとはまるで違う姿に驚くなのはとフェイト。

 シュテルはヴィータについてよく知らないため、警戒を怠らずにデバイスを構えながら様子を見ていた。

 

「本物の鉄槌の騎士ヴィータ様だっつーの。 今ぶっ飛ばした偽物と違ってな」

 

「え、ぶっ飛ばした偽物? じゃあさっきのヴィータちゃんは本物じゃなくて、すごく速かったのはヴィータちゃんだった?」

 

「まあな。 アタシの紛い物まで出てるってんで、近くにいたからかっ飛ばしてきてこいつでぶっ飛ばしたんだよ」

 

 ヴィータは宙に浮かぶ巨大な鉄球をパンパンと叩きながら答えた。

 

「でも偽物ってどういうこと? それにヴィータちゃん、なんでそんな格好してるの?」

 

「今、この町でさっきのアタシの偽物みたいな魔力体が次々湧き出て来てんだよ」

 

 なのは達が戦っていた鳥たちもその魔力体だ。

 

「んで、アタシらの主がそれに気づいて、対処する為にこっちの世界に来てんだよ」

 

「あれ、主? はやてちゃんじゃなくて?」

 

「気付いてなかったのかよ。 アタシはハジメの騎士のヴィータだ」

 

「にゃ! そうだったの!?」

 

「あ、やっぱり」

 

 なのははハジメの所のヴィータだとようやく気付き、フェイトは違和感を感じていたため察していた。

 

「フェイトちゃん、気づいてたの?」

 

「うん、なんとなく」

 

「八神はやてのところのアタシと今は姿が違うだろうが。

 そっちのアタシと仲がいいんじゃないのか、高町にゃの………なのは」

 

「あ、やっぱりヴィータちゃんだ」

 

「うっせぇ!」

 

 なのはの知るヴィータも、最初の頃はうまく名前を言えなかった。

 噛んでしまったヴィータは恥ずかしそうにそっぽを向く。

 

「にゃはは、もう一人のヴィータちゃんともちゃんとお話したかったんだ。

 私は高町なのはだよ。 な・の・は!」

 

「知ってるつーの。 言いにくいし高町でいいな」

 

「えー、なのはって名前で呼んでほしいな」

 

「めんどい。 そっちのアタシが名前で呼んでるからそれでいいだろ。

 話を戻すぞ。 あー、なんだったけ?」

 

「ヴィータの偽物とその姿の事。 あと町で何が起こってるのか教えてほしい」

 

「そうだったな」

 

 本題を忘れかけていたヴィータに、フェイトが答えて思い出させる。

 

「アタシの偽物は偽物だ。 アタシとももう一人のアタシとも違う別の何かだ。

 そいつがこの町周辺にいろんな姿で現れて意味もなく暴れ回ってる。

 正体はまだわかってねえが、ハジメが言うには闇の書と何らかの関係があるんじゃないかって話だ」

 

「ええ!?」

 

「どういう事?」

 

 闇の書の事件は数か月前に終わったと二人は思っていた事だ。

 当事者だったはやて達も、現在は管理局のクロノ達の眼に見える範囲ではあるが普通に生活出来ている。

 それがなぜ今更になってと、なのは達は思った。

 

「まだ調べ始めたばかりだから詳しい事はアタシにもわからねえよ。

 アタシらはとりあえず暴れ回ってる奴らを倒しながら原因を探してる訳だ」

 

「そうなんだ」

 

「じゃあ、ヴィータちゃんのその姿は?

 なんではやてちゃんのヴィータちゃんよりおっきくなってるの?

 デバイス?もなんだかすごくカッコ良くなってるし」

 

「おう! よく聞いてくれた!」

 

 姿について聞かれて、ヴィータは嬉しそうに説明を始める。

 

「この姿は変身魔法なんかじゃねえ。 アタシの主のハジメがこの体の魔法プログラムを改造して、成長した姿でいられるようにしてくれたんだ!

 だからこの姿のアタシが、今は本当のアタシって訳だ!」

 

 魔法プログラムであるが故にずっと子供の姿のヴィータは、成長した姿に成れたことを嬉しそうに語る。

 

「んでもってこの武装はデバイスじゃねえ。

 ハジメが開発したフリーアーマメントっつう武装で、シグナム達もそれぞれ専用機を貰ってる。

 アタシのはアイゼンに合わせて【アイゼンフリューゲル(鉄の翼)】って名付けられたけどな。

 デバイスと違って魔力を使った武器じゃねえから、兵器って言った方がいいかもしれねえな」

 

 兵器と言ったヴィータになのはとフェイトがビシッと固まる。

 

「そ、それって大丈夫なの?」

 

「クロノが言ってたけど質量兵器は禁止されてるって…」

 

「ん? 何言ってんだ? デバイスも兵器も武器は武器だろ。

 質量兵器禁止ってのもそっちの世界の話で、アタシたちのいる世界は関係ねえしな」

 

 ヴィータは驚いている二人に気にした様子もなくあっけらかんと答える。

 

「でも、危なくないの?」

 

「確かに魔法みたいに非殺傷設定がないから加減には気をつけろってハジメに言われたが、要は使う奴の腕次第って事だろ。

 こいつじゃ魔法は使えねえが、魔法に出来ない事がこいつには出来る。

 それにアイゼンも同時に使えるから、魔法が使えなくなるわけじゃねえ。

 アタシは騎士だからな。 主に下賜された武器なら使いこなせなきゃな」

 

 ヴィータが手に持つグラーフアイゼンを振るうと、それが指揮棒のように浮遊する巨大な鉄球【コメートアイゼン】が動きに従って素早く動いた。

 このコメートアイゼンは当然ただの鉄球では無く、その見た目の重量に関係なくヴィータの意志で素早く自在に動かすことが出来る。

 更に慣性制御や重力制御、ビッグライト等の大きさを変える秘密道具の機能も備わっており、巨大化し質量を増大させ重力で荷重を加えつつ動かす時は一切重みを感じさせない軽快さで振り回される。

 シンプルな機能だがその機能を僅かに使うだけでも先ほどの偽ヴィータの様に、当たれば粉微塵になる絶対的な物理破壊能力を持ったヴィータのFAの主力武装だ。

 

 更にIS由来の機能は当然備えており、神姫のアーマーの特徴である副碗にハジメはFAそれぞれの固有機能として秘密道具の力をつける事にした。

 アイゼンフリューゲルには重力と重量コントロール系秘密道具の機能が副碗の武装として埋め込まれ、重力波を放ったり対象の重さを自在に操って、動きを封じたり攻撃を弱めたり出来る。

 

 ここまでやってハジメは、これはスーパーロボットではなく魔法や特殊能力系の武装だなと、機動兵器から離れてしまった事に気付いた。

 秘密道具はやり過ぎたかと思ったが、デチューンするのももったいなかったのでハジメはそのままヴィータ達に渡した。

 相対的に従者の中で神姫組が弱くなってしまったが、人造人間のテクノロジーをその内追加するので、そうなればどちらが強くなるかハジメも想像がつかない。

 秘密道具の機能が十全に使われる戦いとなれば、おそらくとてつもない戦いになる事が予想出来るので、ハジメは自身の作ったFAが活躍するのを望むと同時に、全力運用されるような戦いに関わりたくないとも思った。

 

「アタシらとお前らはいろいろ違うんだ。

 あまり気にしたってしょうがねえだろ」

 

「そう、かな?」

 

「クロノがまた文句を言いそうだね」

 

 ハジメにいろいろ言い包められたクロノは、あれ以降愚痴を時々こぼしていたのをフェイトは聞いていた。

 

「で、こっちも質問いいか? そこの高町に似た奴は何だ?

 アタシの偽物みたいな奴かと思えば、話も聞かず襲ってくるって様子でもねえし」

 

「シュテルちゃんっていうの。

 さっき会ったばかりなんだけど、シュテルちゃんも自分が何者なのかよくわかんないんだって」

 

「シュテル・ザ・デストラクターと申します。

 貴方の考察ですがあながち間違いではないかもしれません。

 あなたとあなたの先ほどの偽物のように、私はなのはの偽物なのかもしれません」

 

「ちゃんと話せるみたいだが、そんだけ似てるんだしなんか関係があると見た方がいいだろうな」

 

『それは間違いないと思うわ、ヴィータちゃん』

 

「シャマルか」

 

 空中モニターが突然現れて、シャマルの姿が映し出され語りかけてきた。

 

「えっと、ハジメさんって人の所のシャマルさん?」

 

『ええ、そうよ。 そっちの様子をモニタしていたけど、そこのシュテルちゃんからなのはちゃんと似た魔力と同時に魔力体と同じ魔力反応を読み取れたわ。

 自意識は持っているようだけど、今海鳴で発生している魔力体と同じ存在と見ていいわ』

 

「じゃあ、シュテルちゃんは…」

 

「先ほど消えた鳥や彼女の偽物と同じ、私は仮初の存在という事ですか」

 

「………」

 

 フェイトはシュテルが予想していたクローンとは違った存在解ったが、先ほど消えた魔力体を思うと何時消えてもおかしくないのではと心配する。

 そのフェイトの様子にシュテルが気付く。

 

「? どうしました?」

 

「さっきの鳥やヴィータと同じって事は、貴方も何かあれば消えてしまうんじゃ」

 

「そうでしょうね」

 

「ええ!? 大丈夫なの、シュテルちゃん!」

 

「大丈夫でしょう。 要はやられなければいいのです。

 敗者が朽ちるのは自然の当然の摂理でしょう」

 

「そうじゃなくて。 …消えてしまう事は不安じゃないの?」

 

「不安が無いわけではありませんが、私は自身の正体が何なのか知りたいのです。

 消えるのを恐れて立ち止まるつもりはありません。

 その為にも私はこの町で何が起こっているのか知らねばなりません」

 

 なのはやヴィータ達の会話から、シュテルは自分の存在理由を知るために魔力体の発生原因を調べる事を決意する。

 

『そういう事なら、私達の所へ来てくれないかしら。

 私達は暴れる魔力体を排除しながら、発生原因を調べてそれを止めるつもりよ。

 魔力体の中でもあなたが特殊なのには何か理由があるはず。

 ハジメ君も手掛かりになりそうなものはすべて集めてくれって言われてるから、どうかしら?』

 

「いいでしょう。 当てもなく闇雲に行動しても仕方ありません。

 行動を共にさせてもらいます」

 

 シャマルの誘いにシュテルは即座に同意した。

 

「私も行きます。 シュテルちゃんが心配だし、街をこのままにしておけないもん」

 

「私もいいですか?」

 

『構わないわ。 ハジメ君も貴方達にあったら情報交換をして、あとは好きにしてもらっていいって言ってたもの。

 私達の所までなのはちゃん達を案内お願いできるかしら、ヴィータちゃん』

 

「しゃあねえな。 アタシも見回らなきゃいけねえから、さっさと行くぞ」

 

 ヴィータはなのは達三人を連れて、ハジメ達が拠点とした場所に向かった。

 

 

 

 

 

 




 敵の存在は以前闇の書で蒐集したリンカーコアの情報を基に再現された存在という事にしようと思います。
 なのは達ならまだしも、未来から来た者達まで偽物が現れるのはかなり無理がある設定だと自分思ってましたので。
 ゲームは実際にやってないのでうまくマテリアル達のキャラを出せていないかもしれませんがご了承ください。

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