四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

2 / 41
プロローグ2 四人のロボッ娘

 

 

 

 

 

――キンッ! キャンッ! ギィンッ!――

 

 

 二本の剣閃が混じり合い、甲高い金属の衝突音が幾度も鳴り響く。

 剣の担い手達は常に足を動かし己の剣を振るって、相手に一太刀を入れようと駆け回っている。

 再び二人が急接近し剣を振るうと剣同士が衝突してぶつかりあい、一瞬の鍔迫り合いの後に共に距離を取った。

 

「…流石マスターの護衛を謳うだけはある。

 そのような奇妙な体格で私と渡り合えるとは思わなかった」

 

「奇妙は余計でござる。 拙者もお主達と同じように殿に作られたのでござるよ。

 殿は安全対策を万全にするでござるからな。 護衛として役割を果たせる性能をこの身につぎ込んでいるでござるよ。

 他の安全策も万全過ぎて役に立つ機会すらこれまで殆どなかったでござるが、拙者にも護衛としての誇りがあるでござる。

 生まれたばかりの後輩にそう簡単に後れを取る筈がないのでござるよ」

 

「なるほど、容姿に騙され貴方を舐めていたようだ。

 では後輩として改めて先輩にご教示願います」

 

「拙者らは既に完成した身故、必要な事は既にデータにあるでござろう。

 力が必要であれば殿が与えてくださるでござろうし、拙者等に出来る事は経験を積んで動作技術を成熟させる事くらいである。

 つまり幾度も剣を振れという事でござる」

 

「なるほど、わかりやすい!」

 

 二人は再び疾走しお互いに相手に向けて剣を振るい続ける。

 

 そんな二人の戦う姿を巻き込まれ無いように遠くから眺めている者達がいた。

 

「あいつ等何時まで続けるつもりなんだろ。

 確かにマスターには動作確認に好きに動き回っていいって言われたけど、あれはあれで動き過ぎでしょ」

 

 戦っている二人、特にドラ丸の相手をしている自分と同種の存在の、動作確認と言うには過ぎた戦闘行為に呆れた様子を見せているのは、ハジメによって新たに作られた青紫のショートヘアを左右で結った女の子型のロボットの”アイナ”。

 ハジメが異世界に出る準備にサポート目的で作られた完全自立型の従者ロボットで、モデル兼ベースとして武装神姫の世界の神姫・戦乙女型アルトアイネスを使っており、姿形をそのままに人間サイズのボディになっている。

 

 ベースとなっていると言ったのは、実際にハジメのコピーが武装神姫の世界に行って本物の神姫を入手して来ており、持ち帰ってきた神姫のAIの人格データをそのまま流用しているからだ。

 だがら姿をそのままに人間サイズになっていても、初期設定されている基礎知識がそのまま残っている為、アイナは自身が元々普通の神姫であり、マスターであるハジメに改造されて今のボディを得たのだという認識がある。

 

 神姫はマスターの命令に従うという基本設定がされているが、目の前で暴れまわっている同種の存在ほど好戦的ではない為、動作確認という口実で楽しそうに戦うその姿に少々呆れを見せていた。

 その様子を一緒に眺めている二人も同様だが、彼女たちは呆れるだけでなく心配そうな様子を見せていた。

 

「ストラーフ型の性格はストイックですが好戦的な部分もありますから、マスターを守る護衛と言われてその腕を試したくなったのでしょうね。

 本来の神姫ではない私達は、護衛と言うサポートも出来る様に設計されていると聞きましたし。

 あのドラ丸さんも私たちの先輩と言うだけあって、見た目では想像も出来ないほど強いですけど、下手してボディを損傷させないか心配です」

 

 アイネと同じく神姫をモデルにした金髪の女の子型ロボットの”エル”。

 天使型アーンヴァルMk.2がベースとなっており、戦うのを止めようかと悩みながら戦っているどちらかが破損してマスターに迷惑をかけてしまう事を気にしていた。

 おとなしく優しい性格上二人自身の事も当然心配もしているが、機械である自覚もある為に多少の欠損くらいで致命的な事にならないのは解っているので、後は故障時のマスターへの迷惑が気がかりだった。

 普通のケンカであれば即止めに入ったのだろうが、楽しそうにお互いに剣を振り回す二人の様子にエルは躊躇してしまい、なかなか止めに入れずにいた。

 

「はわわ、ホントにどうすればいいのです。

 此処はやっぱりマスターに連絡するべきかも知れないのです」

 

 同じく神姫モデルの金髪の女の子型ロボットの”レーナ”。

 戦乙女型アルトレーネがベースとなっており、二人よりもワタワタした様子で混乱し、どうするべきか思い悩んでいた。

 様子見をしているエルとアイナを見て自身も手を出していないが、剣がお互いの体に当たる紙一重で幾度も振られる状況に落ち着いていられなかった。

 レーナも起動したばかりで現状の関係がよく分かっているわけではないが、戦っている何方もマスターの大切な従者だという事は理解しており、困惑しながらもどうにかしたいと思っていた。

 

「もうほっときゃいいんじゃん。 起きたばっかのボク達じゃ此処の勝手がわからないし、あれくらいなら問題ないのかもしれないよ。

 案内してくれてたあの変なロボットがリースの挑戦を受けて武器を渡しちゃったんだし、何かあっても僕達は悪くないよ」

 

「ドラ丸さんですよ。 私達よりずっと前からマスターの御傍にいた先輩なんですから、変なロボット呼ばわりは悪いです。

 それに放っておいて損傷でもしたら、流石にマスターのご迷惑になりますよ」

 

「でもどうやって止めればいいのです?

 止めに入ろうにも私達の武装はまだ調整中で持っていないのです」

 

 神姫モデルの彼女達には通常サイズの神姫と同じ形状の武装が展開できる機能が存在しているが、武装自体がまだ調整中で、ハジメがその最終チェックを行っている最中だった。

 もうすぐ終わる予定だったので、先に本体の彼女たちが起動されて、先ほどまではドラ丸に案内されて拠点であるバードピアを見て回っていた。

 その時の会話にドラ丸がハジメの護衛を担っている事が話題に上がり、その実力に興味を持った最後の神姫モデルロボットのリースが勝負を挑む事になったのが、この戦いの始まりだ。

 

 四人目の神姫モデルロボットの”リース”は水色髪のツインテールで、悪魔型ストラーフMk.2をベースにしている。

 ドラ丸に挑み貸し出された剣を自在に扱って振う姿からは非常に好戦的に見えるが、その前提としてサムライや軍人の様な忠誠心でマスターに従うという非常にストイックな部分から来ており、その手段が戦いという面に重きを置いているために、マスターの為に戦うとなれば非常に苛烈な戦いを見せる。

 戦いでは熱くなりやすいが、普段は辛辣な物言いでも落ち着きのあるクールな性格がストラーフ型の特徴だ。

 

 とはいえ現在ドラ丸と鎬を削っている状態のリースは間違いなく熱くなっており、実力を確認する模擬戦とは思えないほど迷いなく剣を振りに行っている。

 普段から落ち着きのある人ほど、熱くなると周りが見えなくなる傾向が多いのは確かかもしれない。

 

 リースが熱くなっている一方、同じ様に楽しそうに刀を振るっていたドラ丸は、少なからず高揚はしていても年季と言うほど長くはないが稼働時間が多い分落ち着きが残っていた。

 同じように剣を使う相手がいなかったから出来なかった剣戟が楽しくても、起動したばかりのリースにあまり無茶をさせる訳にはいかないと分かるくらいには冷静だった。

 

「なかなか楽しかったでござるが、そろそろ仕舞いにするでござるよ」

 

「なに?」

 

「『早送り』」

 

 終わらせるという宣言に警戒して剣を強く握りしめて構えるが、ドラ丸はこれまでとは比べ物にならない急加速で一瞬で接近し、リースの持っている剣をいとも簡単に跳ね上げて手放させた。

 

「なっ!?」

 

「これで終了でござる」

 

 リースが自身の持っていた剣を手放してしまったと気づく時には、懐に入り込まれ首に刀を添えられる事で決着を付けられていた。

 先ほどまでの互角の剣戟が無かったの様な、一瞬での決着だった。

 

「…先ほどまでは本気ではなかったのですね」

 

「本気でござったが、全力ではなかっただけでござる。

 拙者と主等は開発コンセプトだけでなく製造技術自体が大きく違うでござるからな。 保有する機能自体に大きな差があるのでござるよ」

 

 決着は着いたとリースの首に添えていた猫又丸をドラ丸は下ろすと、突き付けられたことで硬直していたリースも動けるようになり落ち着きを取り戻す。

 

「それは一目見ればわかりますが、最後の先輩の動きはそれだけとは思えないような異様な加速でした」

 

「リースってば、さっきまではドラ丸に突っかかるような態度だったのに、負けたらすっごく素直になったね」

 

 決着が着いたことで離れてみていた三人もドラ丸たちの元に集まってくる。

 

「先輩を呼び捨てで呼ぶな。 先輩は私より強くマスターに長く仕えている。

 私より弱いのであれば話は別だが、マスターを守る護衛であればより強い者が御傍にいるのが正しい。

 共にマスターに仕えるのであれば、自分より強い先人には従うのは当然だ。

 先ほどご自身を先輩と言ってましたのでそう呼んだのですが、よろしかったですか?」

 

「確かに拙者は主等より長く仕えているでござるが、殿は拙者と主等との間に上下関係を求めてはござらん。

 殿に仕える仲間として拙者の事は自由に呼んで構わんでござるよ」

 

「ではこのまま先輩と呼ばせていただきます」

 

「じゃあボクはこのままドラ丸って呼ばしてもらうね」

 

「私はドラ丸さんとお呼びしますね」

 

「私もドラ丸さんと呼ばしてもらうのです」

 

 新しく生まれた後輩たち仲良くなれそうな様子に、ドラ丸も嬉しそうに目を細めた。

 

「では先ほどの動きの正体でござったな。

 それは拙者に内蔵されているひみつ道具の機能の一つでござる。

 殿の持つひみつ道具については知っているでござるか?」

 

「あまり詳しくは知りませんが起動時に聞かされております」

 

「マスターが持っている不思議な力がある道具なんだってね。

 異世界に行き来できるのも、それがあったからだって聞いたよ」

 

「なんだか凄そうな道具みたいなのですけど、詳しい説明は後日するって教えてくれなかったのです」

 

「仕方ないですよ。 私達の武装の最終調整でまだマスターが手を離せないみたいでしたから」

 

 神姫達は本当にまだ起動したばかりで間がなく、マスターであるハジメ自身の事も説明しきれないでいた。

 とりあえずここが本来神姫の存在する世界ではなく別の世界で、ハジメが人の原寸大のボディを与えて従者にするために元々の世界で購入されてきた事と、それを可能にしたひみつ道具を持っている事だけが伝えられた。

 大きさが変わっても基本的に神姫であることに変わりはなく、起動してマスターと定められたら素直に従う事に異論のない彼女達だが、まだハジメの事をあまり知らないでいた。

 その説明も含めてこの世界バードピアの案内から始めたドラ丸だったが、リースの性格から腕試ししてしまう事になったのは予想外であった。

 

「ひみつ道具とは不思議な現象を引き起こせるいわゆる超科学の産物でござる。

 殿はひみつ道具を使う事でこれまでいろいろあったのでござるが、その過程で科学者としての知識を求める様になり、今は異世界の探検や技術の収拾に精を出しているのでござるよ。

 主等はこれまで培った経験と異世界から学んだ科学技術により、ひみつ道具に出来るだけ頼らず殿の技術だけで生み出されたのでござる。

 しかし拙者は殿の護衛の為にひみつ道具を惜しみなく使って作られた、殿自身も理解しきれていない技術の集約した産物なのでござるよ」

 

「待ってよ。 マスター自身が作ったのにドラ丸に使われている技術が解らないの?」

 

「ひみつ道具の中にはどんな道具でもリクエストすれば設計図と材料を用意してくれて、子供でも宇宙船を作れるといったひみつ道具があるのでござる。

 拙者の制作にはそのひみつ道具ハツメイカーを頼りに作られていて、御自身がまだ大して技術を持っていなかった頃でもリクエスト通りの機能を持った拙者のようなロボットを作りだせたのでござるよ。

 更に拙者の機能を高めるためにひみつ道具の機能そのものを内蔵させる改良が施されて、拙者の意思一つでひみつ道具機能を使える様になっているのでござる。

 先ほどの加速は内蔵されたひみつ道具機能の一つ、【タイムリモコン】の効果で行動速度を一時的に加速したのでござるよ」

 

「加速装置ってこと?」

 

「それだけではないでござるが、早く動けるようになる事には違いないでござるな」

 

 タイムリモコンとは本来は腕時計のような形をしており、音声登録で使用者を登録する事で付いている矢印を向けた対象を映像の再生早送り巻き戻しといった再生速度をコンロトールするように動く速度を操ることが出来る。

 ドラ丸に搭載された際にデフォルトの対象を自身に設定する事で動きを早送り(・・・)加速したり、損傷した際に巻き戻し(・・・・)で無かった事にするなどの自己時間制御が行えるが、意識すればオリジナルのように他の物にも効果が及ぼせる。

 また、似たような道具に【人間リモコン】や【ビデオ式なんでもリモコン】がある。

 

「ひみつ道具は玩具みたいな物からとんでもない機能を持った物まであるでござるが、拙者に内蔵されているのは殿の安全の為に使える物なら自重せず、無難な物から常識外れの物まで随時組み込まれているでござる。

 これまで護衛として役立つ機会があまり無かったので殆どは使った事が無いのでござるが、タイムリモコンの加速などまだまだ良識的な機能でござるよ」

 

「じゃあ、他にどんな機能があるのさ」

 

「そうでござるな。 基本的に内蔵されているのは【ウルトラリング】や【空中シューズ】などの身体能力が上がったり普通は出来ない動作が出来るようになる、自身の機能拡張を目的にしたものが多く取り入れられているでござる。

 拙者の意思でON/OFF自在でござるが、普段は切っているでござる。

 最近組み込まれたもので、非常に有用と思えるものは【四次元若葉マーク】でござるかな」

 

「どんな機能なのです?」

 

「ではちょっと使ってみるでござるか。 …使ったでござるよ」

 

「えっと、見たところ変わりないようですが…」

 

 エルが言ったように他の三人もしっかり観察したが、一見ドラ丸の様子に変化はない。

 だが実際には既にその変化はしっかり現れている。

 それを理解させるためにドラ丸がエルに向けて丸く白い手の付いた腕を差し出す。

 

「エル殿、試しに拙者の手を掴んでみてくれぬでござるか?」

 

「って、そんな手でどうやってさっきまで刀を振ってたのさ」

 

 改めて見たドラ丸の丸い手にアイナが当たり前のことに気づいて声を出す。

 言われてみれば確かにと他の三人も不思議そうにドラ丸の手を見るが、今更気にしても仕方ない吸着機能があるだけなのでドラ丸も説明が面倒になる。

 

「気になるなら後で説明するでござるが、今は四次元若葉マークの効果でござろう?

 別に手でなくてもいいでござるか、拙者に触れてみるでござる」

 

「あ、はい」

 

 頼まれていたエルが急かされたことで少し慌てながらドラ丸の白い手を掴もうとすると、何の抵抗もなくすり抜けてしまった。

 

「あ、あれ?」

 

「今、すり抜けたよね」

 

「どうなっているのです?」

 

「これが四次元若葉マークの効果なのですか?」

 

 四人ともエルの掴もうとしたドラ丸の手がスカスカとすり抜ける様子をまた不思議そうにする。

 

「左様。 本来はその名の通り若葉マーク型のワッペンを体に着ける事で、その身を四次元に置く事で三次元からの干渉を不可能にする機能があるのでござる。

 非常に優れた防衛手段でござるがこちらからも触れられないので、接触の為にワッペンをいちいち剥がさないといけない難点があったのでござるが、拙者に組み込む際に意思一つでON/OFFが出来る様に実験も兼ねて組み込まれたのでござる。

 上手くいったので当然殿も危険時にはこの機能をONにして即座に使える様になっているでござる」

 

「ほんとなのです。 手だけじゃなくて身体も全部すり抜けるのです」

 

「不思議な道具って本当だったんですね」

 

 レーナが面白そうに手だけでなくドラ丸の体に触れようとしてもすり抜け、エルが物珍しそうにその光景を眺める。

 

「確かにすごいけど、こんなのがあるんだったらマスターの安全って完璧じゃない?

 護衛の僕達っているのかな?」

 

「むっ…」

 

 アイナも凄いと思いながらにすり抜けるドラ丸を見ているが、その発言に護衛の役割を意気込んでいたリースが息を飲んだ。

 

「殿は大変慎重な方でござるからな。 危険な場所に向かうのに多くの安全策を用意しているでござるから、確かに護衛として拙者らが活躍する機会はそうそう無いでござるよ。

 戦力も拙者等以外に自立思考は出来ないでござるが戦えるロボットを無数に保有しているでござる」

 

「マスターっていったい何者? 戦争でもする気なの?」

 

「戦争はちょっと前に終わったでござるな」

 

「「「え?」」」

 

 起動する前の事を当然知らない彼女達はドラ丸の発言に瞑目し、声に出して驚きはしなかったがそれはリースも例外ではなかった。

 

「まあ、いろいろあったのでござるよ。

 今はようやく落ち着いて、ゆっくり異世界を楽しむ事を目的にしているでござる。

 殿は戦争を好むような方ではござらぬから、無暗にやたらに力を振るうようなことも無いでござるよ。

 それでも旅先での危険を想定しておるから、傍に着く事に成る主等に相応の戦闘力を与えられる予定ではござるがな」

 

「マスターの命令であれば、いかな戦場でも勝利を捧げて見せましょう」

 

「殿はあまり名誉と言う物に興味が無いでござるから、それよりも殿が作った主等の活躍であれば喜んでくれると思うでござるよ。

 ただしさっきも言った通り、殿は危険には慎重になるタイプなのでござるから、武勲を上げる機会はそうそうないでござるよ」

 

「そうですか…」

 

 戦う機会が少ないと言ったドラ丸に、リースは少し残念そうにする。

 リース程戦いを好まない三人は、少しほっとした様子を見せていた。

 神姫は戦う事を想定しているが、それはあくまで神姫バトルに限った事なので、実際の戦場で人を相手に武器を向ける機会が来ることを少なからず恐れていたからだ。

 人間サイズになった事で確実に殺傷能力を持った武装が搭載される予定なので、対人のリミッターのようなものはハジメ次第になっているのだが、人の為に存在しているという意識から人に危害を加える事に人格面で拒否感があった。

 リースの場合はマスターへの優先意識が強い為か、相対的に他の人間に対しての意識が低かった。

 

 今更ながら普通の神姫のマスターとは違う事を理解し始めていた四人だが、次の瞬間同時に違和感を感じて様子が変わった。

 

「え」

 

「あれ?」

 

「なんなのです?」

 

「これは…」

 

 四人ではあるが三者三様に突然何かに反応して不思議そうに声を漏らした。

 

「どうしたのでござる、四人共」

 

「それが、突然武装が届いたと受信メッセージが鳴り、武装展開が可能になっているのです」

 

「もしかして皆さんもですか? 私も同じ受信反応がありました」

 

「どうなってるんだろ? 僕達まだ武装をマスターに受け取ってないのに」

 

「だけどちゃんと展開出来るみたいなのです」

 

 全員が同時に電脳内に信号を受け取り、ハジメが調整していた筈の武装が届けられ展開が可能になったと自動的に理解できた。

 四人とも突然の事に戸惑っているが、ドラ丸は落ち着いた様子で諭す。

 

「何かが起こったのでござろうが、主等の持つ機能なら殿が何かをやったのでござろう。

 とりあえず受け取ったという武装を展開してみて如何でござるか?」

 

「わかりました先輩」

 

 ドラ丸の言葉に従いリースが率先して武装を展開すると、続けて三人も武装を展開する。

 武装も彼女達と同様に通常の神姫の時と同様の形で再現されていた。

 

 リースの武装”ウラガーン”は、全身が黒に近い青色の装甲をしており、武骨な形状でガトリング砲の付いた打突武器と大剣を背中から伸びた力強い副腕が備えている。

 現在は装着されていないパイルバンカーなど物理攻撃が多い装備となっている。

 

 エルの武装”ラファール”は、リースとは対照的に全体的に白く左右にある両翼が目立つシャープな形状をしておりスペースシャトルをイメージさせる。

 配備されている武装は光学兵器が多く近接遠距離両方備わっているが、四人の武装の中で唯一副腕が無いため小さく見え小回りが利きそうだ。

 

 レーナとアイナの武装は元々姉妹機の設定の為、色は違えど同じ形状の武装になっている。

 レーナの武装”ニーベルング”は白と青の装甲が特徴で、それに対してアイナの武装”ノインテーター”は黒と青の装甲をしており真逆イメージだ。

 背中から伸びる副腕が大剣と盾を装備しており、腰にはスカート型の装甲が広がり、高速飛行時には羽のように背中から広がる仕組みになっている。

 

 四人とも本来の装備を展開する事に成功したが、いつの間に持っていたのかわからない為に戸惑っている。

 

「ちゃんと出すことが出来ましたけど、どうなっているんでしょう?」

 

「私達は普通の神姫ではない。 この体は大きくなっただけでなく私達の知らない機能があるんだろう」

 

「てことは、この武装もマスターが何らかの方法で僕達に送ったってこと?」

 

「おそらくそうでござろうな」

 

「あ、マスターが来たのです」

 

 突然届いた武装について考えていた所にハジメがやってきた。

 武装を展開している四人を見て、ハジメは嬉しそうに笑みを浮かべている。

 

「ちゃんと武装は届いたようだね」

 

「ありがとうございますマスター。 武装は確かに受け取りました。

 しかし、我々はどのようにしてあちらにあった武装を受け取ることが出来たのです?」

 

「おしえてほしいのです」

 

 四人とも興味津々でどのようにして受け渡されたのかを気にしている。

 

「知っての通り、そのボディは大きいだけの普通の神姫の物ではなく、いくつかの機能が搭載されている。

 その一つとして武装展開機能に合わせて四次元空間収納機能を付けて、本来の収納領域とは別に四次元空間からも武装を展開するように物を取り出せるようにしたんだ」

 

「「「「四次元空間?」」」」

 

 武装神姫の世界でも流石に四次元空間の運用技術はないので、その世界の基礎知識しかまだない彼女達はぴんと来なかったようだが、ドラ丸は何となく察しが付いた。

 

「ふむ、つまり四次元ポケットから道具を取り出す新しい方法という事でござるか?」

 

「そう、四次元収納は便利だけど取り出すのにいちいち手を突っ込んだりしないといけないのは、一分一秒を争う状況では少々不便だ。

 だから新しい出し入れ方法を前々から考えていたんだけど、武装展開の仕方からうまく噛み合うんじゃないかと試してみた。

 四人が持ってる四次元空間収納は共有で相互に物を出し入れできるし、武装が受け取れたのも僕用の四次元空間の出入り口を通して届くように送り出したからだ」

 

「四次元ポケットとスペアポケットの繋がりと同じ原理で、殿が入れた入り口から彼女らの持つ四次元ポケットの出口に武装が出たという訳でござるか」

 

「その通り。 最初から武装を入れておくのもいいし、必要があればこちらで用意して繋がる出入り口から物を送る事も出来るって訳だ」

 

「つまりどういうことなのですマスター?」

 

 いまいちわからないレーナが問い掛ける。

 

「んー、解り易く言うといくらでも物が入る道具箱があって、レーナたちは武装展開の要領と同じ様にそこからいつでも出し入れ出来る機能が体に備わっているってことさ。

 しかもその箱の中が繋がっていて、レーナが入れた物をエルが取り出したりも出来るし、離れた場所にいた時に必要な物があれば僕が用意してその箱の中に入れる事でレーナたちが受け取ることが出来るってことだ。

 武装が届いたのもその機能を使ったからだ。」

 

「なるほど、とても便利なのです!」

 

「いや、便利で済むような技術じゃないでしょ」

 

「慣れるでござるよアイナ。 殿の持つひみつ道具はこれくらい当たり前に出来るでござる」

 

「とんでもない人がボク達のマスターになっちゃったんだなー」

 

 基礎知識に記録されていた常識が通用しない事にアイナは困惑するが、それでも神姫である以上マスターに従うこと自体には迷いはなかった。

 ただし自身の世界の常識から離れた世界になれるのは少し苦労しそうだとアイナは思った。

 とても便利で済ませるレーナが羨ましいとも。

 

「他にも別の世界から持ってきた武装神姫の武装に類似したIS(インフィニット・ストラトス)の技術を取り入れた事で運動性能や感知能力なんかも全体的に上がっている。

 機能をまとめ上げて一応は完成にもっていったが、まだまだ本体を含めて完成度を上げる余地がある。

 今でも十分な性能は発揮出来ると思うけど、遠くない内に改良する事になると思うから仮の体と思っておいてくれ」

 

「そうなんですかマスター?」

 

「先ほど少し動き回りましたが、十分実用に足る性能でした。

 これで満足していないとは流石です」

 

「少し?」

 

「運動性能の限界を試すくらい、すっごく元気に動き回っていたのです」

 

「う、うるさい!」

 

 呆れた目で見るアイナトレーナに、熱くなり過ぎていた自覚のあったリースはあまり反論できなかった。

 

「ドラ丸とじゃれてたのは、こっちでも確認してたから知っているよ

 あれくらいなら性能テストだと思えば問題ないし、多少の損傷があってもすぐ治せるから問題ないよ」

 

「すいませんマスター」

 

 恥ずかしそうにマスターに迷惑をかけてしまったと思ったリースが謝る。

 

「気にするな。 それでドラ丸から見て何か問題がありそうなところはあった?」

 

「それぞれ個性的な所はあるでござるが、運動性に関しては何も問題ないと思うでござるよ」

 

「それならいい。 数日ほど動き回って問題ないかまたチェックするから、それまでここの事を知っておいてくれ。

 それが終わったらいよいよ僕も異世界に出ようと思うから、ドラ丸たちも覚えておいてくれ」

 

「わかりました」「了解」「はーい」「はいなのです」

 

「承知でござる殿。 それでどのような異世界に行くのでござるか?」

 

「これだ」

 

 ハジメはポケットからアニメのイラストが描かれたディスクケースを取り出しドラ丸に渡す。

 

「最初はそのアニメの世界の技術収集をする予定だから、後で皆で見ておいてくれ。

 僕は異世界移動用の時空船のチェックをするから、ドラ丸は四人の案内を続けてくれ」

 

「承知でござる」

 

「じゃあよろしく」

 

 そう言ってハジメはまた研究所の方に戻っていった。

 

「ドラ丸、マスターの言ってたアニメの世界ってどういうこと?」

 

「言葉通りでござるよ。 殿の異世界移動装置はアニメの様な物語の世界に行くことが出来るのでござる。

 その世界で技術などを集めるのが殿の目的でござる」

 

「すごいのです。 物語の世界に入れるなんて素敵なのです」

 

 レーナは物語の素敵なキャラクターや世界に入れることを純粋の凄いと思ったようだ。

 純粋な子供であれば本来ならそんな反応を示すのだろう。

 

「確かにそのような見方もあるでござるが、殿は趣味と実益を兼ねた旅と考えてるでござる」

 

「だけどボクもちょっと異世界が面白そうになってきたよ」

 

「出来るなら剣を振るえる世界が良いのだが…」

 

「それでドラ丸さん、どのような世界の物語なんですか」

 

 四人とも物語の異世界に興味が出てきたところで、エルがマスターに渡された映像ディスクの内容をドラ丸に尋ねる。

 

「ええとでござるな……」

 

 ケースに描かれたアニメ絵のタイトルには【魔法少女リリカルなのは】と書かれていた。

 

 

 

 

 




 これを書いていたのは数年前で、武装神姫のアニメの熱が残っていた頃です。
 アニメのOPは神曲だと思います


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


※アニメのタイトルを読み上げた後のドラ丸を含めた五人の反応

「「「「「………」」」」」

 何らかの予想していた訳ではなかったが、全員が思っていたより想定していなかったアニメのタイトルに少々沈黙が続いた。

「…マスターは魔法少女になりたいのです?」

「いやいやいやまさか!」

 レーナの言葉に魔法少女になるハジメを一瞬想像してしまったアイナは、想像を打ち消すように全力で否定した。
 アイナが想像してしまったのはフリフリのかわいらしいドレスを着て同じくかわいらしい杖を振るうハジメの姿だった。

「ですが、科学者のマスターに役立ちそうな技術がありそうな世界にはとても思えませんが…」

「とても剣を振るえそうな世界ではないな…」

 神姫四人が想像した魔法少女は魔法で変身して困った人を正体を隠しながら助けたりする、いわゆる一昔前の魔法少女だった。
 砲撃をぶっ放したり怪人を倒したりする、今時のバトル系スーパーヒロインにはケースに書かれたタイトルとイラストからは想像が着かなかった。

「いや、殿は他の異世界からも技術を集めて魔法も使える様になっているのでござる。
 この世界でも魔法の技術を集める為かもしれないでござるよ」

 ドラ丸もハジメが色んな異世界にコピーを送り出して物語の世界の知識をいくつか得ているが、リリカルなのはの世界の知識は持っていなかったので神姫達と似た様なイメージの世界だと思っていた。

「そ、そっか…マスター魔法も使えるだ。 けど魔法少女の魔法を使える様になるのが目的ってこと?」

 ハジメが可愛らしい杖で変身を始めるイメージが脳裏に浮かんでしまうアイナ。
 衝撃的なイメージは嫌な物でもそう簡単に頭から離れてくれないのだ。

「マスターが望むのであればきっと素敵な魔法なのです!」

「…そうですね。 マスターが望むのであれば私達も全力でサポートするだけです」

「軟弱なのは如何なものかと思うが、マスターのご命令では仕方がない」

 アイナ以外の三人も似た様なイメージを脳裏に浮かべていたが、感情的に肯定か否定か分かれても神姫としてマスターのサポートをするのだという気持ちは揺るがなかった、揺るがなかった。

「拙者もこのイラストには思う所が無いわけではないでござるが、今主等がイメージしてる殿の姿は絶対に違うでござるよ。
 とりあえず殿に言われた通り、このアニメをまずは見てみようでござる」

 ハジメとの付き合いの長いドラ丸は、流石にエル達のようなひどい勘違いのイメージを抱く事はなかった。
 そして、アニメを見てようやくハジメの不名誉なイメージは払拭され、大よその目的の技術が神姫達に受け入れがたいものではない事を知った。
 レーナだけは勘違いが治った後も素敵な魔法であるという言い分を変えず、自分も使ってみたいと言っていた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。