「助けて頂きありがとうございました!
改めまして、私アミティエ・フローリアンと申します」
リースの連れてきた負傷していた人物を治療し、話を聞くためにハジメは皆のいる艦橋に連れてきた。
「いやいや、薬が無事に効いてよかったよ」
「私も正直、錠剤が効くとは到底思えなかったのですが、驚きました」
シャマルが検査を行なった時に、彼女の体が機械で出来ている事に驚き、機械に詳しいハジメを呼んだ。
ハジメも簡易的に内部構造を確認したが、流石に見た事もない機械の体では不調の原因がわからないので、【メカ救急箱】で治療を行ない、駄目だった場合はタイムふろしきに頼るつもりだった。
原作鉄人兵団では異星のロボットのリルルも治療したメカ救急箱の薬は、アミティエの不調にも見事に効いた。
「しっかりとお礼を言いたいところなのですが、急がねばならない事情があります。
終わったら必ず改めてお礼に参りますので、失礼させて頂きたい」
「まあ待ってくれ。 せめていくつか質問に答えてほしい。
貴方の急ぎの事情は、現在この町で起こっている異変と関係あるのですか?」
「この町の異変ですか? すみません、私はここに来たばかりでよくわからないのです」
アミティエは本当に分からないといった様子に、事情を知っているのではと睨んでいたハジメは当てを外す。
「現在この町では、魔力によって形作られる疑似生命体が無数に発生し続けている。
それの原因を調査していた所で、部下が君を見つけたんだ」
「そうでしたか。 良く解りませんが、私の事情とこの町の騒動に関係がないとは言い切れません」
「他にもこの町の周辺に時空間振動が起こって、時間漂流者を幾人か保護する事になったのだが」
「ええぇ!?」
様子を窺っているヴィヴィオ達未来組を視界に入れながらハジメがその話を漏らすと、アミティエは心当たりがあるのか驚いて反応した。
未知の魔導を使うヒューマノイドと判って、もしやと思って時間移動に関する事をハジメは口にしてみたが、今度は当たりを引いたらしい。
「じ、時間漂流者というのは、ここでは珍しい事なのですか?」
「少なくとも時空管理局では、時間漂流者の存在が確認されたという記録は一切ないね」
管理局のデータベースもこの世界の情報収集のために所得済みのハジメは、そういった記録が無いのは確認済みだった。
「すみません! おそらく私達が原因かもしれません!」
「詳しく話を聞かせてもらえるかな」
アミティエは未来のエルトリアという惑星から来た、ギアーズという人型機械なのだという。
彼女の星は星の病による環境の悪化で滅亡の危機に瀕しているそうだが、それを改善する為に生み出された存在なのだそうだ。
そんなアミティエにはキリエという妹がいて、先にこの時代に来ておりアミティエはそれを追ってこの時代に来たのだという。
妹のキリエがこの時代に来たのは、この時代にエルトリアを復興させる手段があると判断したかららしい。
時間移動の方法はアミティエ達の生みの親のグランツ博士が見つけ、歴史改変の危険性を考慮して使ってはいけないとしていたが、キリエがその禁を破って過去に飛んだ事でアミティエも連れ戻すために追いかけてきた。
一度追いついて止めようとしたが、ウィルスプログラムを打ち込まれて不調を起こしていたところを、リースに拾われてここに来たらしい。
「君の親が時間移動を危険視していたのは正解だね。
移動の際に全く関係の無い他者を巻き込む様な手段なんて、歴史が変わってしまう可能性を助長してしまう。
他に巻き込まれた者がいないか探してはおくけど、彼らを元の時代に送り返す事は出来るの?」
「誠に申し訳ありません。 私達が過去に来るのにエネルギーを二回使ってまして、帰る為の一回くらいしか残ってないんです。
皆さんをそれぞれの時代に送り返すには、まずエネルギーを何とかしないと」
「じゃあ私たち、元の時代に帰れないんですか!?」
「では先ほどハジメさんがおっしゃったように、本当に時間が経つのを待つことになるかもしれませんか」
ヴィヴィオとアインハルトは時間移動の手段が確かでないのに帰れないことを危惧し、トーマとリリィも不安そうな顔をする。
「それに帰る為の時間移動にも誰かを巻き込まないとは保証がないんじゃないか。
元の時代に戻った時に、また関係の無い誰かを同じ時代に連れて来てしまうとか」
「………ないとは言い切れません。 時間移動の手段は確立していましたが、博士がすぐに封印したので検証を行なっていなかったんです。
ギアーズの私達なら、事故で壊れたり戻れなくなったとしても支障は無いと思ったのですが…」
「そんなの駄目ですよ!」
アミティアの言葉を聞いたなのはが口を開く。
「壊れても帰れなくてもいいなんて駄目です。
アミティアさんがギアーズだとか機械だとかよくわからないですけど、全然人にしか見えません。
大切な人がいるなら、ちゃんと無事におうちに帰るべきだと思うの!」
「確かになのはちゃんの言う通り、機械だとしても自分を大切にしないのはあまり気分が良くないね」
「それは………はい、すみません」
なのはの言葉にハジメも同意すると、アミティエも失言だったと謝罪する。
時間移動を行なう度にランダムに誰かを巻き込んでしまうなんて危険極まりないとハジメは思う。
ここまで問題のある時間移動の話などハジメの知る物語でもそうは無いと思い、元の時代に戻る為だとしても再び同じ手段を使うのが危険だ。
これは自分達で送り返した方がいいかもしれないと思案する。
「まあ、元の時代に戻る事については、貴方の妹を見つける事とここでの騒動を片付けてから考える事にしよう。
貴女の妹が今の時代のこの場所に来たことと、今回の騒動には何らかの因果関係があると僕は思ってる。
事件を追えば貴女の妹のキリエさんもそこにいるのではないですか?」
「はい、ですから一刻も早くキリエを見つけないと…」
「それは任せてほしい。 探索はうちの子たちがやってくれている。
レーナ、シャマル、何か新しい情報は?」
「それでしたら、アースラの方からクロノ執務官とはやてちゃんと守護騎士達がこちらに向かってるのです。
結界の侵入予測経路からシグナムさんが迎えに行っているのです」
『私の方もアミティエさんの妹さんらしき子を見つけたわ』
「本当ですか!?」
妹の情報にアミティエがすぐさま反応する。
『ええ。 また外に出て探索していたリースちゃんが近くにいたから、今は距離を取って様子を窺ってくれてる。
ただはやてちゃんと似た姿の子も一緒にいるわ。
魔力反応から、たぶんシュテルちゃんやレヴィちゃんと同じ存在なんじゃないかしら』
「ボク達と?」
「………朧気にですが、私達と同じ存在があと一人いたように思えます」
シュテルはまだ何か思い出そうと難しそうな顔で言う。
『それとその子達と管理局を待ってるシグナムの位置がかなり近いわ。
結界に入ったら彼女たちの存在に向こうは直ぐ気づくと思う』
「色々事態が動きそうだな」
クロノと守護騎士を連れリインフォースとユニゾンしたはやてが、海鳴の結界前まで来ていた。
アースラで観測された海鳴に張られた巨大結界はかなり強力で、中の様子は一切伺えず一度入れば術者を止めるかかなりの結界破りの魔法で破らなければ出られないと判断され、実力のある魔導師のみを派遣する事になった。
アースラの所属でその力があるのはクロノだけだったが、監視下にあり奉仕活動として管理局の仕事に協力している守護騎士達も参加し、はやてもまた一緒に行くと同行していた。
「まだリハビリ中の君まで無理してくることは無かったんじゃないか」
「リインが一緒なら私も大丈夫や。
それに結界の中におるなのはちゃんとフェイトちゃんが私も心配やし」
『ですが無理をなさらないでください。
主はやてのみは必ずお守りしますが絶対ではありません』
「ありがとな、リインフォース」
足のリハビリを始めたばかりのはやてを心配してクロノは言うが、ユニゾンしていればはやても飛んで動けると調査に参加した。
リインフォースも当然はやての力になると宣言するが、危険な場所に行くことに注意を呼び掛ける事を忘れない。
結界は中からの様子を一切確認できず出る事も出来ないが、外からは容易に入れる仕様になっていた。
突入前にクロノははやて達に確認を取る。
「これから結界に突入する。 一度入れば容易には出られないだろう。
何が起こっているかわからないから十分に警戒をしてくれ」
クロノの言葉にはやてと守護騎士達が頷いて応える。
「では突入するぞ」
クロノが先行しはやて達が後に続いた。
結界は外から来る者を一切拒まず容易にクロノ達を通り抜けさせた。
「待っていたぞ、クロノ執務官。
そしてもう一人の夜天の主と守護騎士達」
「ンな!?」
意を決して突入した先に、真っ赤なFAを纏ったシグナムが待ち構えていて、クロノ達は結界に飛び込んだ勢いを急停止させる事を余儀なくされる。
厳つい武装を身に纏っているが攻撃の意志を感じない事にクロノはひとまず安心し、目の前のもう一人のシグナムの存在から状況を判断する。
「お前はもう一人のシグナムか。
という事は、この巨大結界には中野ハジメが関わっているということか」
「この結界は主ハジメがこの町の異変の影響を外に出さない為に張ったものだ」
「異変だと? この町で何かが起こっているというのか?」
「主ハジメも核心に至ったわけではないが、何が起こっているのかぐらいは説明しよう」
シグナムは今海鳴で発生している魔力体の存在について大まかに説明する。
それに付随するように他にも特殊な事象が起こっていることも伝えた。
「つまり中野ハジメが何かを起こしたわけではなく、結界を張って被害を防ぎ調査をしているという事か?」
「その通りだ。 私達が主の手足となって魔力体を処理しながら原因を探ってくる」
「それならあっちの方から感じ強い魔力反応も、その魔力体という物かしら?」
補佐を得意とするシャマルが、視認は出来ないが近くの強い魔力を感じ取った。
「シャマルであれば、やはり気付いたか。
その反応の元はこの騒動に関係のありそうな者達の反応だ。
今は仲間が距離をとって監視をしている」
「ならば僕等もそれを確認させてもらおう。
この町で何らかの異変が起こっているというなら無視出来ない」
「主も執務官ならそういうだろうと言っていた。
ついてこい」
シグナムが先導しクロノ達もその後についていく。
移動中に気になったはやてがシグナムに声をかける。
「えっと、ハジメさん所のシグナム…さん?」
「呼び捨てで構いません。 分かたれた事で主が代わった身成れど、貴女もまた夜天の書の主であり、私は夜天の守護騎士なのですから」
「やっぱり同じシグナムなんやな。 うちのシグナムと同じでちょっとお固い感じやわ。
もうちょっと気楽に接してくれてええんやで」
「「性分ですので…む?」」
「ふふっ」
声の重なった二人のシグナムにはやても少し笑ってしまう。
「ほんで少し気になったんやけど、その厳つい格好は何なんやろなと思うて。
私と同じで騎士甲冑をハジメさんが決めたんかなと思うたけど、その鎧は騎士甲冑だけって訳やなさそうやし」
「確かに僕もそれは気になった」
はやてやクロノだけでなく守護騎士達もシグナムの異様な武装が気になっていた。
「これは主に与えられた騎士甲冑とは別の
主ハジメに仕える者は形はそれぞれ違いますが、全員これを身に纏っています」
シグナムの纏うFAは炎を使う彼女に合わせて赤い装甲をしており、名を【紅蓮炎竜式】という。
コードギアスの紅蓮をモデルイメージに副碗には【あべこべクリーム】などの火や熱に関する秘密道具の機能が備わっている。
ひみつ道具の機能により超高熱でも問題なく活動できるので、際限のない熱エネルギーを操って熱光線を放ったり熱エネルギーの剣を作り出して戦うことが出来る。
更に熱量に関する機能なので逆に熱を奪って凍らせたりすることも可能だ。
「騎士甲冑はFAの下に纏っている部分がそうだ。
デバイスではないので慣れるのに時間は掛かっているが、かなり強力な武装だ」
「デバイスではないのか? いや、あいつが作ったというのなら…」
「そもそも魔導技術によるものではないそうだ」
「やはりか。 質量兵器は僕等の世界では違法なんだが…」
「主はミッドチルダに行く気はないようだからな」
話を聞いてクロノは諦めたように溜息をつく。
「クロノくん、あっちのシグナムの武装がどうかしたん?」
「聞いてたとは思うが、ミッドでは魔導技術以外の武器は使用を禁じられている。
つまりそっちのシグナムの武装は魔法に由来しない武器、或いは兵器という事だ」
「それって危ないん?」
「さあな。 だが管理局の人間としてはああいったものは好きになれない。
そう言ったものをミッドに持ち込もうとすれば、それだけで捕らえる理由になる」
はやてへの説明に不服感はあるが、それ以上は追及しないといった様子を見せるクロノ。
そう話をしている内に、進んだ先にシグナムと同じような武装を纏った人影が見えてくる。
シグナムの紅蓮炎竜式に比べれば重火器をのような武骨さをイメージするFAだ。
「リース、様子はどうだ」
「シグナムか」
よく剣による模擬戦をするリースはシグナムとは話がそれなりに合う。
対象の監視をしていたリースは連れてきたクロノ達の事も聞いており、気にせずに状況を説明する。
「様子を見るに何らかの作業をしているようだ。
私は魔法はよくわからんからシャマルに情報を転送して解析してもらっている」
「すまないがその対象は何処にいるんだ? 近くには見えないんだが?」
「ここから一キロほど先だ」
「私達の武装には望遠機能などの高度なセンサーがついている。
このくらいの距離でも間近だと感じられるほどの高性能なものだ。
観測映像でよければ見せよう」
シグナムがクロノ達にも見えるように空中モニターを出して見せると、そこには二人の女の姿が映っていた。
一人はコンソールを操作している髪も服装もピンクの女性。
もう一人は騎士甲冑を纏ったはやてと同じ外見で色合いだけを変えた少女だった。
「あれ、もしかして私と同じ姿してへん?」
「どういう事だ」
はやての守護騎士のシグナムが、もう一人のシグナムに問い質す。
「先ほども言ったが現れる魔力体には、私達の姿をした者達も現れている。
その中で確かな自意識をもっている者も見つけたと、主から連絡を受けている。
あのもう一人の夜天の主に似た姿をした者も、その自意識を持った魔力体の一人なのだろう」
「はやてと同じ姿をしてるってのは気に食わねーな」
「けどなんで私達の姿なんやろう?」
「それについては主から推測を聞いている。
発生している魔力体には、闇の書の魔力に似た反応が出ている」
「なんだと?」
クロノは聞き捨てならぬと聞き返してしまう。
「闇の書は夜天の書に戻る事で消滅したのではないのか?」
「正確にはあの時の戦いで、そちらの夜天の書から分離した防衛プログラムの事を主ハジメは闇の書の魔力と指している。
その時の魔力反応と魔力体の波長に似た所があり、主ハジメは魔力体が以前蒐集されたリンカーコアの情報を基に構成されているのではないかと推測された。
まだ断言は出来ないそうだが、私もその考えは間違っていないと思っている」
「なんてことだ。 漸くはやてと守護騎士達の事が落ち着いてきたのに、また闇の書が関わる事件が起こるだなんて」
疲れを感じさせる愚痴をこぼすクロノに、シグナムは少し不憫そうな目て見ている。
「ごめんな、クロノくん、私たちのせいで…」
「いいんだ、これも仕事だ」
「けどあの時の事と繋がりがあるっていうんなら、私も尚の事放っておけんよ」
「そうだな」
闇の書の事件は自分の責任とはやては思っている。
まだ終わっていないのだとしたら、自分達で何とかしないといけないと。
「彼らが事件の参考人だとしたら、僕等としても放っておくわけにはいかない。
今は目標の監視に留めているようだが、中野ハジメにはこの後どうしろと言われている?」
「主の船の方でも色々動きがあったらしく、多少立て込んでいるらしい。
私達はまだ様子見だ。 大きな動きがあったら報告するように言われている」
「ならば僕等が向こうにいる彼女達に接触するというなら、君達はどうする?」
「執務官たちの動きを止める必要は無いとの事だ」
「(僕等の動きで様子を見ようと言う訳か?
かといってシャマルが読み取った魔力反応を見る限り、何か危険な事をしようとしている可能性もある。
放置しておくわけにもいかない)
ならば僕はあの二人に接触を計る。
はやて達はここで待っててくれてもいい」
「そういう訳にもいかんやろ。 なんで私と同じ姿しとるのか気になるし」
「わかった。 だが相手の目的もまだわからない。
皆、気をつけてくれ」
クロノははやて達と共に、何かの作業をしている二人の元へ向かった。
「それで私達はどうする」
「私達は手を出さずに様子を窺い、この騒動の原因と目的を探る。
何か起こりそうであれば、独自の判断で動いて損害を最小限に抑えるように言われいる。
主の命通りに管理局の出方で様子を見る」
「承知した」
リースとシグナムはもうしばらく様子見に徹するのだった。
「失礼する。 管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。
君達はここで何をしている?」
開口一番にクロノは名を名乗り、何をしているのか問い質した。
「あらあら、この時代の治安維持組織かしら?
私はもうすこーし手が離せないから、王様が応対してくれません?」
「なぜ我が塵芥共の相手をせねばならん。
我は今忙しいのだ。 疾くと失せよ下郎共!」
「なんや、偉そうな喋り方の子やな」
そう言葉を漏らしたはやてに、はやてそっくりの女の子はようやくその姿に気付いたといった様子で不敵に笑みを浮かべる。
「ほう、その姿。 貴様が我のこの姿のベースとなった者か。
あまりに覇気の感じられんその有様、良く我のベースと成れたものだ」
はやてを馬鹿にした物言いに守護騎士達は顔をしかめるが、何かを言う前にはやてが言い返す。
「私をモデルにしてなんて頼んどらんよ。
なんで貴女は私と同じ姿をしとるんよ」
「ふん、我とて望んでこの姿になったわけではない。
不本意だが我と相性が良かったのだろう」
「相性? ようわからんけど、それで貴女は一体誰なん?」
「我か? 貴様如きに名乗ってやる義理は無いが、我という存在が生まれる一助となった事は認め、我が尊名を聞かせてやろう」
はやてそっくりの女の子はバッと片腕を広げてその存在を自身を見せる仕草をする。
「我こそは闇の化身にして絶対なる闇を支配すべく降臨した偉大なる王!
『王』のマテリアル、闇統べる王、ロード・ディアーチェとは我の事だ!!
ワァハッハッハッハッハッハーッ!」
盛大な名乗りの後に高笑いを始めるディアーチェにクロノ達は唖然とする。
「………グハーッ!」
その中ではやてがダメージを受けたかのように仰け反った後に両手を地に着く様にして蹲った。
空中でではあるが…
「はやて! どうした!?」
「はやてちゃんしっかり!」
「主!? 貴様、一体何をした!?」
「なんの攻撃だ? まるで分らなかった」
『主はやて、お気を確かに!』
「いきなりはやてを攻撃とはやってくれる!」
守護騎士達ははやてを心配しつつディアーチェを警戒し、クロノも警戒してデバイスを構えた。
「えええぇ!! わ、我、名乗っただけだぞ! 何もしておらん!
その小娘が我の名乗りに感動のあまりにショックを受けたのであろう!
ホントに攻撃なぞしておらんからな!」
突然の事態に自分は本当に悪くないと慌てて弁明をするディアーチェ。
全員が慌てた様子の中で、ショックを受けたはやてが復帰する。
「だ、大丈夫や皆。 その子のあまりの痛々しさにちょっと耐えきれんかっただけや。
私と同じ姿をしとるからダメージも倍増や」
「い、痛々しいだと!? 何を言う! 闇を統べる王たる我に相応しき名乗りだったではないか!
それに先ほどからその子とは何だ、子供みたいに!
我は王だ! 王様又は陛下と呼べ!」
「ぐうぅぅ…、こんな胸の痛みは前に入院しとった時以来や」
「だ、大丈夫か、はやて!?」
「あ、ヴィータそんなに心配せんでも大丈夫よ。
これは精神的な痛みや。 実際に胸が痛い訳やないから安心して」
痛がっていたのははやての関西人としてのリアクションで、ヴィータの心配した様子にケロッとした様子で立ち直る。
「せやけど私と同じ姿でそんな痛々しい喋り方するのやめてくれへんかな?
別の姿になれへんの?」
「痛々しくないし、好きでこの姿になった訳ではないと言ったであろうが!
偉大なる王に相応しき名乗りが判らぬとは、所詮見た目相応の小娘よ!
いや、その黒い翼に相応しきは子鴉と言ったところか!
この姿は我の基本的な姿となっておる! 変身魔法を使えば姿くらいは変えられるが基本となる姿は変えられん!
貴様がもっと我に相応しき姿をしておれば、このような矮小な姿に定まらなかったものを!」
「無茶苦茶言いおるね。 好きで私の姿になった訳やないのは解ったわ。
やけど、その言動はやっぱり痛々しいと思うんよ。
皆もそう思うやろ」
「え、はやて? アタシはカッコいいと思うぞ」
「はえ?」
聞き違いかとはやてはヴィータの顔を見るが、ヴィータもまたはやてを不思議そうな顔をしている。
「はやてと同じ姿になってんのは気に食わねえけど、そんなに変な喋り方じゃねえと思うぞ。
無駄に偉そうだとは思うけど、はやての言う痛々しいっていう感じはしないぜ」
「あの者がどれほどの物かはわかりませんが、尊大な上に立つ者であれば特におかしい言動ではありませんが…」
「自称王様って言うんだし、それならあんな喋り方もベルカでは普通だったわ。
はやてちゃんも私達の主なんだから、あれくらい私達に強気の態度を取ってもおかしくないのよ。
似合わないとは思うけど」
「古の時代であればあのようなものもいなかった訳ではありません」
『主もあのように応対するべきとは言いませんが、そうであっても何ら私達の忠義に変わりはありません』
「なん………やと………」
ディアーチェの言動を可笑しいというばかりか理解を示す守護騎士達に、はやては感性の違いによる戦慄を憶える。
「そやった。 この子たち、ホンマモンの騎士やったわ。
クロノくんはどう思うん?」
「人受けのよい喋り方ではないとは思うが、はやてが言うほどおかしなものではないと思うが?」
「そっか、クロノくんも魔法の世界の人やった。
バリアジャケットの肩のイカしたトゲは伊達やなかったんや」
全体的には地球でもおかしいとは思えないのに、肩のトゲだけ攻めた姿勢のクロノの服装が少し気になってたはやては、異文化交流の難しさを痛感していた。
もしや守護騎士達は自身にディアーチェのような言動を求めているのではないかとはやては思ってしまい、同時刻に様子を窺っていた同じ守護騎士を持つハジメもまた、同じような期待を向けられていないかと不安を覚えた。
地球人の感性でディアーチェの言動はネタとしては理解はあれど、実際に行うのは魔法文化に深く関わっていても一般的な感性を持つ日本人にはハードルが高かった。
「ようやく理解したか。 我の語りが王たるものに相応しい言葉であると」
「そやなあ。 私にはとても無理やけど、王様らしいちゅうんは認めなきゃいけないみたいや。
けど地球の普通の人たちの前では絶対やめてえな。 見とるだけでこっちも痛うなってしまうから」
「まだ言うか!」
往来の真ん中でディアーチェ風の喋り方をしていれば、周囲は痛々しい思いをするか生暖かい目で見る事になるだろう。
それが自分と同じ姿をしていると思うと、とても他人事として割り切る事をはやては出来ない。
とりあえずそんな事をされたらたまらないと注意だけはしていた。
「それでだいぶ話は逸れてまったけど、王様たちはここで何をしようとしてるんやったっけ」
「そうだった!
この町で異変が起こっていると聞いている。 この異変はお前たちが起こしているのか?」
はやてが改めてディアーチェに訊ねた事で、クロノも本題を思い出した。
「異変? …そうか、あの紛い物共の事か。
あのような物など我の意図したところではない。
だがあれらは全て、我が野望を成就する為の強大なる力から零れ落ちた片鱗よ」
「強大なる力だと?」
「そうだ。 あれらを生み出す力の根源こそ、闇の書の力の源たる砕け得ぬ闇、システムU-Dの復活の予兆よ」
闇の書の名を聞いて、クロノもはやて達も眼を見開いて驚く。
「闇の書の力の源だと!」
「かつては夜天の書なぞに収まっていたことで、正しく力を使われることは無かったが今は違う!
まもなく砕け得ぬ闇として復活を遂げ、闇の書の絶対的な力は我が手に収まり、全次元に我が名を轟かせるのだ!」
「闇の書が夜天の書とは完全な別物だったという事か!?」
「驚きの新事実やけど、そんでもまたよそ様に迷惑をかけるのはあかんよ」
「知った事か! 闇の書が復活し我が手に収まるのは宿命よ!」
「闇の書を復活させるわけにはいかない!」
デバイスを構え、クロノ達は直ぐにでも取り押さえるために動こうとする。
「もう遅い! 復活の儀式はもう終わる!」
「王様。 お話してる間に準備は完了よ。
後は王様の宣言だけ」
儀式に準備を進めていたキリエは、すでに準備万端だった。
「よくやった。 さあ、姿を現すがいい!
砕け得ぬ闇よ!」
「やめろ!」
クロノの制止も空しく、ディアーチェの宣言に膨大な魔力が解放される。
吹き荒れる魔力が起こす風にクロノ達が自身達のみを守り、風が過ぎ去った後には強力な魔力を発する存在を目前に感じていた。
「………あれが砕け得ぬ闇?」
「どうみても女の子にしか見えんなあ」
クロノ達が目にしたのは長い金髪の幼い少女だった。
「ええっと、王様? システムU-Dが人型なんて聞いてないんですけど?」
「わ、我も知らん。 強力な闇の力を得られるはずだから、てっきり強力な武装の類なのだと…」
「ちょっと王様!? 王様もシステムU-Dの詳細を知らないんですの!?」
「我も目覚めたばかりで詳しい事はまだ思い出せておらんのだ!
ただ漠然と砕け得ぬ闇を復活させねばならんという使命は確かなのだ。
他の細事は復活させた後で考えればよい!」
「それで実際に復活してから困惑していたらどうしようもなくありません!?」
後先考えていなかったディアーチェの様子に、クロノ達は呆れて少しばかり脱力する。
しかし現れた砕け得ぬ闇の強い魔力は本物で、その強い威圧感に決して気は抜けていなかった。
「………ディアーチェ?」
「喋った!」
「そりゃあ人型なんですから、喋っても不思議ではありませんよね」
「そ、それもそうだな!
予想とは違っていたが砕け得ぬ闇よ。 貴様の復活は成った。
我が力と成りて全世界にその力を知らしめようぞ!
まずはそ奴らにお前の力を見せつけてやれ!」
矛先を向けられた事にクロノ達は身構える。
「………ダメ」
「な、なぬ? どうしたというのだ! 我の言う事が聞けぬのか!?」
「王様? システムU-Dは王様の言う事に従うんじゃありませんの?」
「いや、復活させた者の言う事を聞いてくれると思っておったのだが…」
「行き当たりばったりすぎー!?」
思った以上に当てにならないディアーチェに、キリエはいろいろと不安を覚え始める。
「…どうやら彼女たちの思い通りに行く訳ではないようだな」
「痛い上に残念過ぎる子や…」
双方予想通りに行かない展開に、緊張感だけが削がれていくクロノ達。
「痛くも残念でもないわ!」
「いえ、ちょっと残念過ぎですよ、王様」
「貴様まで言うか!」
「………私を起こしちゃダメなのに」
「なに?」
語り始める砕け得ぬ闇に、ディアーチェだけでなく他の者達も注目する。
「誰も私を制御出来ない。 誰も私を止められなくなる。
だから私を封じていたのに………ぅぁぁあああああ!!」
「ぐあぁぁぁ!」
「きゃああぁぁぁ!」
「ッ! 皆離れろぉ!」
砕け得ぬ闇が叫び声をあげて暴れ出し、その背に出現した鋭い爪を備えた手のような翼で間近にいたディアーチェとキリエの体を貫いた。
それを見たクロノは即座に距離を取ることを呼び掛け、最大限に警戒する。
シグナムの武装は紅蓮モデルですが、副碗は両方同じ形をしています。
左右非対称もありと言えばありですが、シグナムのキャラ的にバランスが悪いのはどうかと思って両方同じ形をしています。
そんなの紅蓮じゃないというツッコミがご容赦を。
実は紅蓮以外にニードレスの能力ネタも組み込んでます。