四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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第十八話 集結と決戦準備

 

 

 

 

 

 突然暴れ出しディアーチェとキリエを貫いた砕け得ぬ闇に、クロノも守護騎士達も臨戦態勢に入る。

 その中で実戦経験のないはやては、鋭い刃によって貫かれている二人を気に掛ける。

 

「クロノくん、あの子たち大丈夫なん!?」

 

「今は僕達自身の身の安全を優先するんだ!

 彼女はこっちを向いている!」

 

「………周囲の異分子を、排除します」

 

 爪の翼に貫かれ脱力している二人を振り落とし、砕け得ぬ闇はクロノ達を次の標的に向かってくる。

 

「来るぞ!」

 

「下がれ!」

 

「!?」

 

 

――キイィィィンン!――

 

 

 向かってくる砕け得ぬ闇を迎え撃とうと身構えるクロノ達の前に、FA・紅蓮炎竜式を纏ったハジメの守護騎士のシグナムが割り込む。

 爪の翼の矛先を向けて襲い掛かってくる砕け得ぬ闇に紅蓮炎竜式の副腕を向けて、FAの機能の一つAIC(アクティブイナーシャルキャンセラー)を発動させて動きを止めた。

 元々は原作のISの能力の一つだが、FAにはPICの応用機能として全ての機体に防御手段の一つとして搭載されている。

 

 砕け得ぬ闇はAICによって時が止まったかのように動きを止めたが、止めているシグナムの顔色は優れない。

 機体の紅蓮炎龍式がAICに多大な負荷がかかっていると、警告のアラームをシグナムに伝えていた。

 

「くっ、長くは持たんか!」

 

 慣性制御で相手の動こうとする力を封じるAICだがその力にも限界があり、自身より圧倒的に大きい物や強いエネルギーで動こうとする対象には、エネルギー出力の限界で長時間動きを抑えることが出来ない。

 

「シャマルが転送の準備をしている。 撤退するぞ!」

 

「わ、私ですか!?」

 

 何の準備もしていないシャマルは、突然の事に慌てる。

 

「違う、我等の仲間のシャマルだ」

 

「あ、そういうことですか」

 

「まて、動きを封じている今の内に倒せないのか?」

 

 クロノが攻撃のチャンスではないかとシグナムに問う。

 

「連続して動きを押さえ続ける事は出来ん。 それにこいつの魔力値はどんどん上がっている。

 何もわからない状況で戦うのは得策ではない。

 主もここで撤退するように言っている」

 

「クッ、仕方ないか…」

 

「待って、さっきの人たちはどうするん!?」

 

 先ほど砕け得ぬ闇にやられたディアーチェとキリエがはやてが気に掛かった。

 

「心配はいりません、あちらはリースが回収に動いてくれています」

 

 下を見下ろせば、振り落とされた二人をFAを纏ったリースがその副碗で抱えているのが見えた。

 ハジメのシグナムも、同じ夜天の主のはやて相手には丁重に受け答えをする。

 

「転送が始まります。 転移を拒絶して取り残されないようにしてください」

 

 直後、シグナムや離れた所にいるリースに転移の魔法陣が展開される。

 即座に全員が転送されて、その場にはAICが無くなったことで動けるようになった砕け得ぬ闇が、向けるべき穂先を失ってボンヤリと佇んでいた。

 

「敵性存在消失………周囲索敵、待機状態へ移行…」

 

 

 

 

 

 クロノ達と負傷したディアーチェ達を連れて転移で撤退したシグナム達は、ハジメの時空船ウィディンテュアムまで戻っていた。

 爪で貫かれたディアーチェとキリエも、ハジメの技術によって既に治療が行われている。

 

「いやあ、生身の人間だったら即死だったね!」

 

 大したことは無かったと言わんばかりに笑いながらハジメは言うが、無事だったのはディアーチェが魔法プログラムでキリエがギアーズという機械の体だったからこその結果だ。

 ハジメの言った通り、生身であれば即死と言えるほどの大穴を体に開けていた。

 

「あの二人の治療は問題ないのか?」

 

「ついこの間、ヴィータの調整に作った魔法プログラム専用のポッドが役にたったよ。

 キリエという子も機械は僕の専門分野の一つだから、修理出来ないなんて言えないからね。

 まあ、流石に構造を調べてからの修復じゃ機能停止してたかもしれないから、通常じゃない手段を使ったけど」

 

「…その手段については聞かない方がいいか?」

 

「執務官のお仕事が増えるだけだろうね」

 

「………」

 

 質問をしたクロノは、頭を振って余計な事を考えないようにしようと努めた。

 

 つまりハジメは秘密道具を使用してキリエの損傷を修復したと言う訳だ。

 キリエの状態はアミティエの時よりも緊急性が高く、メカ救急箱では間に合わないとタイムふろしきで損傷前に戻す事にした。

 キリエの看病でその様子を見ていたアミティエが目を丸くしていたが、あっという間に体に開いた傷が塞がったのを見て安堵の表情を見せていた。

 

 ディアーチェも体の構成がやはり守護騎士達と同じ魔法プログラムだったので、多少の違いはあれど調整をしたことのあるハジメには、素体を再構築する形での損傷部分の治療が可能だった。

 こちらにはディアーチェの存在を思い出したシュテルとレヴィが回復まで付き添っている。

 

 二人の治療の間に、学校帰りで事件に巻き込まれたなのは達とは別行動だったアルフとユーノも合流している。

 巨大な結界が張られ魔力体の発生に対応していたところにシャマルが補足して、その案内でこの船までたどり着いていた。

 ザフィーラとドラ丸は外で引き続き船の警護。 シャマルは魔導艦の方で砕け得ぬ闇の監視を続けている。

 

「………」

 

「おいおい、そんなに睨むなよ」

 

「睨んでねー。 初めっからこういう顔だ。

 テメーこそ、ニヤニヤしてんじゃねー」

 

「ワリいな。 オメーの姿を見たら改めてうれしくなっちまって」

 

「否定しろ! 喧嘩売ってんのか!?」

 

「ンな訳ねえだろ。 落ち着けよ」

 

「頭ポンポンすんな!」

 

「いやあ、丁度いい高さにあるからな」

 

「小せえって言いてえのか!?」

 

「おう」

 

「~~~~!! アイゼン!」

 

 ブチ切れたヴィータがデバイスを起動させて振り上げる。

 流石にそれを止めに入るシグナム。

 

「落ち着けヴィータ」

 

「放せシグナム! そいつをぶっ叩いて小さくしてやる」

 

「やれるもんならやってみな。 そん時はアタシらの主のハジメがまた大きくし直してくれるからな」

 

「お前も分かたれた半身とはいえ、同じ自分を挑発するな」

 

「へっへっへ、わりい、ついな」

 

 もう一人のシグナムに諫められる、はやてのヴィータより成長して大きくなっているハジメのヴィータ。

 はやてのヴィータが、姿が成長しているハジメのヴィータに気付いて突っかかったのが諍いの切っ掛けだ。

 ハジメのヴィータもまだ体が大きくなったことがうれしいらしく、元の姿のはやてのヴィータを揶揄いたくなってしまった。

 どちらも同僚のシグナムに止められている。

 

「そんなに羨ましければ、オメーんとこの主に頼めばいいじゃねえか。

 書のプログラムを弄れんのは主だけなんだしよ」

 

「はやてぇ!」

 

「流石に無理やよヴィータ。 私は主なんやろうけど、魔法のプログラムなんてまだ全然わからへんのに、皆の体の事なんてわかるわけあらへんて」

 

「うわあアァァァンン!!」

 

 ヴィータは悔しさのあまりはやてに泣きついた。

 はやても申し訳なさそうに、ヴィータの頭を撫でてあげるだけしか出来ない。

 

 その光景を見たハジメのヴィータは、勝ち誇ったように成長して女らしさがハッキリ解る様になった胸を反らせるのだった。

 

「ヴィータ。 あんまり向こうのヴィータを揶揄うようなら元の姿に戻すよ」

 

「ちょ、ちょっと待てハジメ! そりゃ卑怯だろ!」

 

「魔法プログラムを弄れるか興味があったからヴィータの要望に応えたけど、こんな下らない事で不和を起こされるのは困るからね」

 

「わ、悪かった! もう揶揄わねえから戻すのは勘弁!」

 

「謝るのは僕じゃないでしょ」

 

「ッ! 揶揄って悪かった!」

 

 ハジメのヴィータは、慌ててはやてに泣きついているヴィータに腰を全力で曲げて謝った。

 はやてのヴィータも不満そうな表情をしているが、泣いていた顔を上げてそちらを向いた。

 

「…テメーなんかアタシより小さくなればいいんだ」

 

「それも不可能ではないね。 魔法プログラムである以上実際の年齢なんて意味は無いし、もっと歳を取らせた姿にすることも若返らせることも可能だ」

 

「は、ハジメ、本当にやらねえよな?」

 

「悪い子の再教育に、赤ん坊からやり直してみるの面白いかもしれない」

 

「ヴィータの赤ちゃんなんて、凄くかわいいと思うのです」

 

『私もそれは気になるわ。 その時は是非お世話させてくれないかしら?』

 

「嫌だアァァァ!!」

 

 世話好きな性格のレーナと通信越しのシャマルが赤ちゃんになるヴィータという話題に反応し、ハジメのヴィータも危機感を覚えて叫びをあげる。

 

「…まあ、悪戯もほどほどにするように」

 

「わかった! もう悪戯なんてぜってーしねえから、赤ちゃんだけは勘弁!」

 

「そう言う訳で反省しているみたいだから、はやてさんもそっちのヴィータも許してやってくれ」

 

「すごく反省してるみたいやし、ヴィータももうええやろ」

 

「お、おう……」

 

 成長した姿になれたのに、逆に赤ちゃんにまで小さくされそうになっているもう一人の自分を見て、流石に文句も泣き言も言う気を薄れてしまったはやてのヴィータ。

 

「そやけど、私もヴィータの赤ちゃんにはちょっと興味あるなあ」

 

「はやて!?」

 

 今のところ出来ないとはいえ、プログラムを弄れる可能性のあるはやてに、ヴィータは危機感を感じてバッと距離を取った。

 

「冗談やヴィータ。 そんなに驚かんでも。

 でも、そっちのヴィータもこっちのヴィータも元は同じなんやし、ハジメさんがこっちのヴィータを大きくする事は出来へんの?」

 

「主としての権限が及ぶのはそれぞれの書と守護騎士に対してだけだが、許可という形で他者が干渉する事は可能だ。

 僕がそっちのヴィータを、調整で成長した姿に変えるのも出来ない事は無い」

 

「本当か!?」

 

 ハジメの言葉にはやてのヴィータが目を輝かせて訊ねる。

 

「ただ、はやてさんと君達は管理局の保護観察下にあるんだろう?

 その状況で魔法プログラムの干渉なんて管理局が許可するのかな?」

 

「クロノ頼む!」

 

「………話が脱線してしまっているようだが、駄目に決まっているだろう。

 夜天の書が闇の書として暴走していたのは、過去の主による書の改悪が原因というのが通説になっている。

 今回の件でその説も揺らいでいるが、再び暴走の切っ掛けになりかねない書のシステムへの干渉なんて許すわけがないだろう。

 それも守護騎士の一人が背を伸ばしたいだけなんて些末な事で…」

 

「アタシにとっちゃ重要な事なんだよ!

 わりぃか! 背を伸ばしたいと思う事が!

 クロノ。 オメーだって背が低いの気にしてるから、毎日牛乳飲んでんの知ってんだぞ!」

 

「き、気にしてない! なんでそんな事を知っている!?」

 

「エイミィが言ってたぞ」

 

「エイミィーー!!」

 

 クロノが今は通信の繋がらないアースラのオペレーターの名を叫ぶ。

 

「オメーは牛乳飲んでりゃ背が伸びるかもしれねえけどな、アタシは成長しない体なんだぞ。

 何とか手を加えねえと、ずっと子供の姿のまんまのアタシの気持ちがわかるのか、ああ!」

 

「………いや、すまなかった。 僕は別に身長の事は気にしていないが、君には重要な事なんだろう」

 

 あくまで自分は気にしていないと念を押すクロノ。

 

「だが、やはり今の夜天の書のシステムに干渉するのを許可する事は出来ない。

 現在は夜天の書に危険がないことを証明する為の、重要な監察期間だ。

 君が真剣に背を伸ばしたいのは理解したが、それでも局に疑念を抱かせるような真似をすればはやてにも迷惑が掛かる。

 いずれ許可することが出来るとは保証出来ないが、今は諦めてくれ」

 

「………わかった」

 

 はやての名を出されては引き下がらない訳にはいかず、ヴィータは渋々といった様子で諦めた。

 その後も暴走の危険性を危惧されて書のシステムへの干渉が許可されることは無く、はやてのヴィータはそのままの姿でいる事を余儀なくされる。

 そして数年後に急な成長を迎えて立派な大人になったクロノに、ヴィータがアイゼンを振り上げるのは仕方のない事だった。

 

 

 

 閑話休題。

 

「そろそろはっきりとしたことを聞かせてもらおう。

 今何が起こっているのか? あの闇の書と関係があるという砕け得ぬ闇という少女と、それを目覚めさせたあの二人。

 中野ハジメ、お前はこの事件の全容を知っているんじゃないのか?」

 

「大よそは推測が出来ているが、明確な確証はまだ持ってないよ。

 その確証を得るために、先ずはあの子たちの話を聞かせてもらうつもりだ」

 

 ハジメがクロノに視線で示すと、その先の扉が開いてアミティエとキリエ、シュテルとレヴィがディアーチェを連れて入ってくる。

 

「意識が戻ったようだね。

 どこか具合が悪い所は無い?」

 

「やられた時はもう駄目かと思ったけど、今は万全好調よ。

 アミタに聞いたけどあなたが直してくれたんですって?

 この時代で私達の体を治せるのは不思議だけど、一応お礼は言っておくわ」

 

「キリエ! もっとちゃんとお礼を言いなさい!

 本当にありがとうございました! 私だけでなくキリエの治療もしてくださって!」

 

「アミタの調子を悪くさせちゃってたのは、私なんだけどね」

 

「ちゃちゃ入れないの!」

 

 負傷していたキリエは特に問題はなさそうな様子で、気安く礼を述べている。

 アミティエは自分も妹も助けられて、ハジメにとても感謝してる様子だった。

 

「ディアーチェも不具合の無いようです。

 三人が揃ったおかげか、私達も思考のスッキリしなかった部分が今ははっきりしています」

 

「うん、今一調子が出なかったんだけど、今は絶好チョーって感じ」

 

「その子の治療ついでに、構成プログラムの不整合だった部分を調整したのがよかったのかな」

 

 ディアーチェを治療し調整したことで、シュテルとレヴィにも良い影響が現れたらしい。 

 

「貴様! 我が玉体に無断に触れたどころか、い、弄繰り回しただと!

 その行ない、極刑に値するぞ!」

 

「いや、弄繰り回したとか聞こえの悪いこと言わないでくれ」

 

「そや! 私と同じ姿なんやから、そんな事言うたら私まで恥ずかしいやんか!」

 

 ディアーチェの非難の言い方に、ハジメだけでなくはやても文句を言う。

 

「王、あのままでは貴女の体が危険だったのは事実です。

 治療を施して頂いたのですから、素直に感謝を述べるべきです。

 それに私達の調子が上がったのも、貴女を調整して頂いたことが切っ掛けに違いありません。

 私達の存在は偶然が起こした奇跡の産物なのですから、不整合な部分があってしかるべきなのです」

 

「チィッ! シュテルに免じて極刑だけは勘弁してやろう!

 我の寛大さに感謝するがいい!」

 

「お礼を言うのは助けてもらった王様の方だと、ボク思うんだけどな」

 

「我等の王は素直になれないツンデレという性格の様ですね」

 

「誰がツンデレか!」

 

 不遜な態度のディアーチェに、仲間意識からか気安い態度で二人は応対している。

 

「それで君達の事情を改めて話してほしい。

 記憶がはっきりしたことで、君達の目的やあの砕け得ぬ闇が何なのかとか明らかになったんじゃないかな」

 

「フン、なぜ我が貴様にそんな事を語らねばならぬ」

 

「…シュテルちゃん、お願い出来るかな」

 

「わかりました。 お話しましょう」

 

「シュテル! 貴様何を我の許可なく!」

 

 平然と説明しようとするシュテルに、ディアーチェが咎める。

 

「王。 既にシステムU-Dは暴走を始めてしまっています。

 今の我等にいくらかの力があると言っても、暴走を始めてしまった彼女を私達だけで止められる確証はありません。

 ここは全てを明かして、彼女を止める協力を彼らに仰ぐべきです」

 

「ぐぬぬ………好きにせよ!」

 

 みすみす暴走させてしまった事で些か後ろめたいディアーチェは、反論出来ずにソッポを向いてシュテルの行動を黙認すると示した。

 

「王の了解が得られましたのでお話いたします」

 

 シュテルが語ったのは、砕け得ぬ闇と自分達が何なのであるかとその関係。

 

 砕け得ぬ闇には様々な呼び名があるが、人としての名をユーリ・エーベルヴァインという。

 シュテル達の記憶でも定かではないが、守護騎士達のように元人間だったと思われる名残を感じさせるが、現在は永遠結晶エグザミアという無限の魔力を生み出す、いわば人の姿をした魔力炉のような存在だ。

 ユーリはエグザミアの使い手として一体化しているが、肝心の制御をユーリ自身だけで行なう事が出来なかった。

 無限に溢れ出す魔力に自己制御も出来なくなり、魔力をどんどん増大させながら暴走し周囲を破壊してしまう。

 それを止めるための存在が、シュテル達マテリアルの存在だった。

 

 『理』『力』『王』のマテリアルはユーリの力を制御する為に生み出され、ディアーチェの持つ紫天の書に宿っていた。

 しかし彼女達がなのは達の姿を借りて実体化している様に、本来は人の姿をしていない言わば未完成の存在だった。

 おそらくは夜天の書の防衛プログラムのような、システムとしては存在しているが自意識を持たない存在だったのではないかとハジメは推測する。

 それが嘗ての事件で夜天の書から強制分離したことで、再構築の際に守護騎士の人の形を持たせる魔法プログラムと、蒐集されていたなのは達のリンカーコアが奇跡的に絡み合って、シュテル達が生まれたのではないかとハジメは推測し、シュテル達も恐らくはと否定しなかった。

 

 ディアーチェは目覚めた当初闇の書の復活が目的と勘違いしていたが、本来のシュテル達の目的は生み出された理由であるユーリの力を制御し彼女を守る事。

 闇の書の暴走の根幹部分だった彼女を目的にしていたことは間違いではなかったが、シュテル達の存在が奇跡的な産物であっても正しく整合が取れていなかったが故に、マテリアルとしての行動理念に歪みが生じていた。

 ハジメにディアーチェが調整された事で、繋がりのある紫天の書を通してシュテルとレヴィも整合が取れるようになった。

 彼女達の今の目的は、ユーリの暴走を止める事と正しく認識している。

 

「それで、ユーリちゃんを止めるのに力を貸してほしいと言う訳だね」

 

「はい。 ユーリに有効な対抗プログラムを私達は持っていますが、戦闘力という面で暴走しているあの子の相手は、私達だけでは焼け石に水。

 暴走を止めるにはまずはエグザミアの力を削がなければなりません。

 その為には力あるものが一人でも多い方がいい」

 

「戦力として協力するのは、僕らは構わないよ。

 元々この騒動を納めるつもりだったんだし。

 管理局側の皆はどうする?」

 

「君と共闘するというのは些か思うところはあるが、闇の書に連なる事件なら僕等が元々の担当だ。

 後始末がまだ残っていたとして、問題を解決する事に異論はない」

 

「私も協力する。 何とかしないとヴィータちゃん達の偽物が何度も出てきちゃうんでしょ。

 それにユーリちゃんって子も放っておけないよ」

 

「うん。 自分で止まれないのなら、誰かが止めてあげないと」

 

「私らは他人事やあらへんし、もちろん協力するで」

 

 ハジメの問いにクロノ、なのは、フェイト、はやてが協力に賛同し、守護騎士達も頷いて了解を示した。

 

「私達も協力するよ!」

 

「ええ、放ってはおけません」

 

「もちろん俺達もです」

 

「困ってるなら助けないと」

 

 未来から来たなのは達の縁者であるヴィヴィオ達も力になるという。

 彼らを見てハジメはこちらも事もあったと思い返す。

 

「ユーリちゃんの事もあるが、君達の事も放ってはおけないな」

 

「彼らは君の仲間か?」

 

「いや、実はね…」

 

 彼らの事情を説明すると、クロノはまた苦い顔をして頭を抱える。

 

「未来から来たって、また厄介な一級ロストロギア並みの問題じゃないか。

 実は君が引き込んだ問題ごとじゃないだろうな」

 

「僕だって意味もなく問題を起こしたりはしないよ」

 

 いろいろ突き抜けた技術を持つハジメを、彼らが未来から来たことの元凶ではないかとクロノが疑うのも不思議ではない。

 夜天の書の複製や時間停止の結界などを見ており、現行の技術で出来ない事をやらかしてもおかしくないとクロノは思ったのだ。

 実際に時間移動は出来るのだから、不可能だとはハジメもあえて言わない。

 流石に出来ると素直に言う気は無いが…

 

「そちらの四人はただ巻き込まれただけみたいで、僕もどうにかしようと思っている。

 エルトリアという所から来た彼女達は、ユーリの力が元から目的だったみたいだけど」

 

「………エルトリアを救うには、永遠結晶エグザミアの力がどうしても必要なのよ」

 

「キリエ!」

 

 エグザミアの正体がユーリと判っても、まだ諦めていないキリエをアミティエが諫める。

 

「とはいえ、エグザミアとユーリは同一と言っていい。

 切り離すなんてことは不可能に近いよ」

 

「ユーリに手を出そうというなら、ただでは済まさんぞ」

 

 ディアーチェの言葉に賛同するようにシュテルとレヴィが並び立って、キリエに向かい合う。

 キリエも諦める訳にはいかないと言った様子で視線を逸らさないが、それ以上何も言えず沈黙を保つ。

 

「………まあ、先ずは最優先にユーリを止めよう。

 未来から来た子達の帰し方や、マテリアル達についても余裕が出来てからだ。

 シュテルちゃん、ユーリを止めるには具体的に何か策はあるの?」

 

「はい。 まずは第一段階として彼女を守る幾つもの防御障壁を破壊し、こちらの魔法攻撃が届くようにする必要があります。

 続いて第二段階としての魔法攻撃ですが、彼女への対抗プログラムを封入したカートリッジの魔力を上乗せした攻撃でため込んだ魔力を削ぎ、エグザミアの機能を低下させます。

 第三段階でエグザミアの機能が低下し、無防備になったユーリに制御プログラムを打ち込みます。

 これでユーリの暴走を止めることが出来るでしょう」

 

「つまり魔力ダメージを与えて弱らせる事で、ようやくユーリを止める準備が整う訳か」

 

「その解釈で間違いないかと」

 

 まるでポケモンのゲット方法みたいだと、ハジメは思ってしまう。

 

「第三段階の制御プログラムの打ち込みは私達にしか出来ませんので、必ずやり遂げます。

 ですが第一・第二段階はユーリも当然自衛を行ないますので激戦が予想されます。

 第一段階の防御障壁は、破壊しても膨大な魔力で短時間で修復されてしまいますので、第二段階に繋げる連携が重要となります。

 そして問題は、第二段階に必要な対抗プログラムを封入するカートリッジの生成に多少の時間が掛かるのです。

 ミッド式とベルカ式の物があり、更にそれを個々の魔力に合わせて調整する必要がありますので相応の時間が掛かり、あまり時間をかけてはユーリの魔力は更に増大し手が付けられなくなります」

 

「君達の想定でユーリが手に負えなくなるまでにいくつ用意出来る?」

 

「……私の想定では4つが限度でしょう」

 

「第二段階は、四人しか戦えないという事か」

 

 戦える人員に制限が掛かると聞き、クロノが唸る。

 

「対抗プログラムが無ければ戦えないと言う訳ではありません。

 ただ、あるのとないのでは効果が倍以上の差が出ると思われます」

 

「となると、対抗プログラムを使うのは攻撃役と割り切って、残りはその補佐と考えた方がいいか。

 カートリッジシステムに対応したデバイスを持っている者でなければいけないし」

 

「シュテルちゃん、ちょっといいかな」

 

 シュテルからの情報を参考にクロノがどう戦うべきか考えていると、ハジメが質問する。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「そのカートリッジの生成は対抗プログラムと魔力データさえあれば、技術さえあれば誰でも作れるのか?

 あと必要なのは時間だけ?」

 

「ええ、生成するのは私達でなくても可能でしょう」

 

「少し試してみたいから、対抗プログラムのデータを送ってもらえるかな」

 

「わかりました」

 

「あ、データはうちの月夜に送ってもらえる?

 魔力データも戦える人は月夜に渡してくれ」

 

 ハジメが魔法を使用するときは、月夜がデバイスとして補佐する事を主張している。

 自身がいるのに簡易であっても他のデバイスを使われるのを好ましく思わず、魔法を扱うときにちゃんと頼らないと後で少し拗ねるのだ。

 

 シュテルからは対抗プログラム、戦える者達からはデバイスからそれぞれの魔力データが送信されて月夜が受け取った。

 

「直ぐ戻ってくるから、ちょっと席を外すよ。

 月夜は一緒に来てくれ」

 

「はい」

 

 ハジメは月夜を連れて一旦艦橋を出ていく。

 

「あの人はどうするつもりなのでしょうか?」

 

「僕に聞かれても困る。 アイツの手の内は僕等にも底が知れない。

 仲間の君達なら、アイツが何をやろうとしてるか知ってるんじゃないか?」

 

 神姫組とハジメの守護騎士組に向かってクロノは問う。

 

「私達も何も聞いておりませんが、マスターなら何とかするのだと思いますよ」

 

「主ハジメはいろいろな手段をお持ちだ。 夜天の王としての力も、その一つに過ぎない。

 今回の事も原因が分かったのであれば、解決手段の一つや二つ用意があるのだろう」

 

 グループの代表としてエルとシグナムがハジメの考えについて答える。

 この船の主であるハジメが席を立ったことで言われた通り残された者は大人しく待ち、数分と経たずにハジメは月夜と共に戻ってきた。

 二人の手にはいくつかの道具を手にしている。

 

「おまたせ。 とりあえず全員分の対抗プログラム入りカートリッジを予備を含めて三つずつ。

 カートリッジに対応していないデバイスの子には、ロードカートリッジの為だけの簡易デバイスを用意したから試してみてくれ」

 

「そんな、こんな短時間で用意出来る訳がありません!」

 

 僅か数分で用意したというハジメに、シュテルは驚きを隠せずに声を荒げる。

 そんなシュテルにハジメは一つのカートリッジを手渡す。

 

「一応問題がないか、確認してくれるかな?」

 

「………問題、ありません。 確かに対抗プログラムが機能するカートリッジです…」

 

「ほ、本当なのか、シュテルよ?」

 

「おー、シュテルンがビックリしてる」

 

 シュテルが確認したことでディアーチェも少なからず驚き、レヴィはいまいち理解していない様子だ。

 

「一体どうやってこんな短時間に…

 実は用意していたとかではありませんか?」

 

「いや、急いで一から作ったよ。

 時間が無いっていうんなら、時間も作ってしまえばいいだけだからね」

 

「もしや、この前僕達に使った時間停止の結界を使ったのか?」

 

 以前見た外部と時間の流れも切り離す結界の事をクロノはハジメの言葉から思い出し、短時間でカートリッジを生成した絡繰りを解く。

 

「正解。 ちょっと船の空き部屋に結界を張って、その中で専用カートリッジを準備したんだ。

 結界の中じゃ三日も掛かったよ」

 

「改めて聞かされてもトンデモない結界だな…」

 

 時間停止の結界と聞いて、その存在を知らなかった未来組とマテリアル組は目を見開いて驚いている。

 

「驚きました。 今の魔法技術がそこまで進歩しているのですか」

 

「いや、こいつだけだ。 少なくとも管理局じゃとても見通しの立っていない技術だ」

 

「仕事の忙しい人にとっては、喉から手が出るほど欲しい技術だろうね」

 

「それは僕に今ここで君を捕らえてその技術を奪って見せろと喧嘩を売っているのか」

 

 腹立たし気にデバイスを突き付けながら言うクロノは、闇の書事件にハジメの存在も加わって今なお処理が済んでいない重積案件となっている。

 休息時間も削られ疲れも取れず、全く関連性もないが成長期への影響まで気にしだして非常に気が短くなっている。

 

「疲れてるの? 事件が終わったらこの結界で二・三日休んでいく?」

 

「………事件が終わってから考えさせてもらう」

 

 クロノは考える事を放棄する事を考えるほど疲れが溜まっていた。

 

「ともかくこれで準備に問題は無いね」

 

「はい。 ユーリは刻一刻と魔力を増大させているでしょう。

 直ぐにでも彼女の元に向かいたいと思いますが、よろしいですか?」

 

 シュテルが見渡すと、全員異論は無く頷いている。

 

「じゃあ早速向かおう。 第一段階の先陣はうちの子たちに任せてほしい」

 

「わかりました」

 

 闇の書の防衛プログラムとの戦い以上の総力戦が起ころうとしていた。

 

 

 

 

 




 数日間隔とはいえ、久々の連続更新はプレッシャーを感じています
 なのは編はもう少しだけなのですが、最後まで行くと決めたからには次も近いうちに更新します
 毎日更新をしている人にはホント脱帽です。

 見直しをしていて思いましたが、自分は日常のつまらない掛け合いの方が面白く書けてるなど自評しました。
 昔の更新停止した作品を読み直した時に、自分結構面白いと思える作品を書いていたのだと、書いた当時とは違った感覚で自分の作品を見直せたりします。

 この作品もまだ執筆途中ですが、後から見て面白いと思える作品にしたいです。

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