四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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 遅くなりましたが、なのは編完結となります。

 決着があっさりしすぎなので、ちょっと物足りない気がしますがご了承ください。


第十九話 決着と後片付け

 

 

 

 

 

 準備を整えたハジメ達はシャマルのみをバックアップに船に残し、魔力を増大させ続けるユーリの元へ向かい作戦を開始した。

 ユーリはハジメ達を認識した瞬間に迎撃態勢を取り、赤い爪の翼を向けて襲い掛かってきた。

 

「サドンインパクト!」

 

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!」

 

 それをザフィーラのエアロオーの副腕から放たれた空気砲が撃ち抜く。

 ひみつ道具の空気砲の特性を与えられたサドンインパクトは、ビル数個或いは宇宙船も撃ち抜く威力ながら人に当たっても吹き飛ばすだけという非殺傷性を持っている。

 故にユーリの魔法障壁を圧倒的な威力で破壊しながら、ユーリ自身には大した怪我を負わせない魔法の非殺傷設定のような効果を示した。

 

炎神の閃光(アグニッシュ・アーカーシャ)!」

 

「ああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 続いてシグナムの紅蓮炎竜式の副腕から放たれた超高熱の熱線が、ユーリの爪の翼の片方を撃ち抜く。

 ひみつ道具による熱操作なので使う者の安全性は保証されており、シグナムと紅蓮炎竜式本体の熱耐性は相当なものだ。

 その熱耐性で扱える範囲で放たれた熱線もまた相当な威力であり、武装として生み出された爪の翼は一瞬で融解しながら貫通した。

 

「くらえ! ズゥーザメンボウシュラーク(崩壊の一撃)!!」

 

「きゃああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 更にヴィータがグラーフアイゼンの延長線上に追従して動くコメートアイゼン(鉄球)で、もう片方の爪の翼に当てる。

 打ちつけられた爪の翼は破壊力のあまり、砕けるのではなく爆発するように四散した。

 

 コメートアイゼンはひみつ道具の機能によって、自身の重量と重力を瞬時に操作出来る。

 すなわち攻撃時に掛かる物理的な威力を自在に操作出来る武器であり、攻撃力だけならザフィーラやシグナムの機体の武装とは数段の格差がある。

 しかもヴィータは必殺技のように叫んでいるが、通常攻撃である。

 

 魔法障壁の守りも攻撃時の武器となる爪の翼も破壊された訳が、ユーリは無限に生み出すエグザミアの有り余る魔力によって破壊された障壁と爪の翼を修復する。

 攻撃を行なった守護騎士達三人は、あえて追撃せずにユーリが自己修復するのを見届ける。

 

『ハジメ君の狙い通り、自己修復でため込んでいた魔力が消費されるのを確認できたわ』

 

 シャマルからの観測結果で、ユーリの増大し続けていた魔力が減少したのを確認する。

 ユーリ本体は狙わず、魔法障壁や武器となる作られた爪の翼を狙ったのはそれが目的だ。 

 

「よし、シグナム達は予定通り自己修復する爪の翼や魔法障壁の破壊を続けて、エグザミアの魔力生成を上回る消費をさせてため込んだ魔力を削るんだ。

 隙があれば非殺傷設定の魔法も当てて魔力をどんどん消耗させろ」

 

「承知!」「ハッ!」「わかったぜ!」

 

 ハジメの指示に従って守護騎士達が向かっていく。

 ユーリの能力は無限に魔力を生み出すエグザミアを内包しているだけあり、あらゆる面で高い能力を持っている。

 だが半ば暴走している状態にあり、人型であるが故に規格外の魔力を持っていようと魔導師の範疇にあるユーリに対し、FA(フリーアーマメント)を纏った守護騎士達ならば攻撃力・防御力・機動力を補って余りあり、優位に戦うことが出来た。

 

 攻撃から逃れようとユーリが高速で回避すれば、シグナム達はIS由来のFAの高い機動力で先回りし、AIC(アクティブイナーシャルキャンセラー)で短時間であっても動きを封じた所で、爪の翼と魔法障壁を破壊して魔力消費を加速させる。

 一対一ではFAを纏っていてもユーリを傷つけないように手加減しながら立ち回る事は難しいが、三人で連携して戦えばその限りではない。

 更に神姫達も既存の装備ではあるがFAを纏っているので、攻撃が効かなくても通常武器による牽制やAIC(アクティブイナーシャルキャンセラー)で動きを封じて援護する。

 攻撃は当たらず防御は貫かれ速度で上回れては、如何に魔力が有り余っていようとユーリを完封するのは難しくなかった。

 

 

 

 

 

「いやぁ、無事にユーリちゃんを止めることが出来てよかったね」

 

「無事ではないわ! 見よ、ユーリがこんなに怯えておるではないか!」

 

「ッ!(プルプルプルプル)」

 

 ユーリの暴走は無事に止めることが出来、一同はハジメの船に戻ってきていた。

 誰もケガすることなく戦いを終えたが、ディアーチェの言う様にユーリは大人しくなってはいたが、少々正気と言った感じではない。

 怯えた表情でディアーチェの後ろに隠れ、体を震えさせていた。

 

 シグナム達がユーリを完全に封じ込め、そのまま魔力を削りきりシュテルの発案である作戦に第二段階に入った。

 ユーリに限界以上の魔力ダメージを与えてエグザミアに動作不良を起こさせる攻撃だが、対抗プログラムは人数分予備も含めて用意されている。

 つまりそれぞれ最大威力の魔法攻撃が、全員で一斉にユーリに向かって放たれた訳である。

 

 各々が高い実力を持った魔導師が10人以上も集まって一斉に放たれる最大攻撃に、エグザミアの魔力生成も当然追い付かず、限界を超えた事で機能不全を起こす。

 そこへ第三段階のシュテル達マテリアルによる制御プログラムの打ち込みは無事成功し、ユーリは力を制御した正常な状態に戻った訳である。

 

 ただし暴走時の記憶がなかったわけではなく、FAを纏った守護騎士によるフルボッコに始まり、上級魔導師の非殺傷設定だけが唯一の手加減という最大魔法の一斉攻撃というフルボッコを受けたのだ。

 正常な人間であればSLB一発だけでもオーバーキルだというのに、それと同等の威力の魔法をいくつも受けたのだ。

 トラウマになるどころか、むしろ怯えるだけでよく済んだと言える。

 

「際限なく魔力を生み出すエグザミアの存在を考えたら、余計な隙を与える訳にはいかなかったんだから手加減できないのは仕方ないだろ。

 まあ、あの一斉攻撃は少々やり過ぎとは思わないでなかったが…」

 

「だが貴様の騎士共にボコボコにされた上にあれでは、ユーリがあまりに不憫過ぎるではないか!」

 

「私もあれはちょっとユーリちゃんがかわいそうだと思ったの」

 

「仕方ありません、なのは。 可哀そうだからと手加減をしてエグザミアを止められなかったのでは、ユーリの暴走も止める事は出来なかったのです」

 

 いかに魔力が強くとも多勢に無勢の一方的な戦いに、なのは達も少し後ろめたい気持ちになっていた。

 シュテル達もユーリを止めるためには仕方ないと思ってはいるが、それはそれとユーリを心配していた。

 

「そもそも君達マテリアルも攻撃に参加していたじゃないか。

 ユーリちゃんを怯えさせてしまったのは申し訳ないと思うが、それで僕を責められるのは困る」

 

「我等はいいのだ、我等は!

 そもそもこんな一方的な戦いになるとは思っておらんかったのだ。

 これだけの人数であっても激戦となると思っておれば、貴様の所のパワードスーツを纏った騎士が一方的に暴走するユーリを抑え込めるだなどと、誰が想像出来るか!」

 

 ユーリの力を一番知っていたディアーチェは、それを完封したことを納得いかないと言った様子で慷慨(こうがい)しつつ文句を言う。

 

「そしてあのカッコいいパワードスーツを我に献上せよ!」

 

「あ、王様ずるい! 僕もあれ欲しい!」

 

「申し訳ありません。 どうやらディアーチェとレヴィは貴方の守護騎士達の持つ武装に興味があるようです」

 

 と、ディアーチェとレヴィがハジメにFAを要求するのを見て、シュテルがその理由を補足した。

 

「流石にそれは駄目。 FAは僕の傘下の子達に用意してる物だから流石にあげられないよ。

 僕の所に来てちゃんと言う事聞いてくれるなら、用意しない事もないけど」

 

「何、我等が貴様に降れだと。 戯言を抜かすな。

 貴様が王たる我に降り、我に相応しいパワードスーツを用意すればいいのだ」

 

「おー、名案だね王様。 仲間がたくさん増えるよ」

 

「フハハハハ! 今なら側近として扱ってやっても良いぞ」

 

 FA欲しさにハジメを部下にしようと王様全開で高笑いをするディアーチェに、シュテルは困った表情を見せユーリは目を白黒させているがマテリアル達から離れようとしない。

 

「…とりあえずユーリちゃんの事は解決したし、事件の後始末について話そうか」

 

「おい、貴様。 我が寛大にも臣下に加えてやろうというのに、何を話を変えようとしている!」

 

「正直僕としてはユーリちゃんの暴走よりも、未来から来た子達の方が問題が大きいと思っているんだ」

 

「貴様、我の話を聞かんか!」「ディアーチェ、その話はあとでゆっくりしましょう」「こら、シュテル!」

 

 あえて話をスルーするハジメに憤るディアーチェを、シュテルが気を利かせて諫める。

 その間にハジメは未来から来たアミティエとキリエ、そして時間移動に巻き込まれたヴィヴィオ達について話を進める事にする。

 

「時間移動による歴史への影響は、放置しておけば加速度的に歪みが大きくなる。

 未来から来た子達は、歴史に大きな変化が起きない内に何とかした方がいいと思う」

 

「それなのですが…」

 

 どうにかしないといけないと言ったハジメに続いてアミティエが発言する。

 

「先ほどユーリさんにキリエが相談を持ち掛けたんです」

 

「元々私の目的は、エルトリアを救うために永遠結晶エグザミアを持ち帰る事。

 エグザミアがユーリちゃんと一体の存在と判ったからどうすればいいかと思ったけど、ダメ元で提案してみたの。

 事情を説明して、私達と一緒にエルトリアに来てくれないかって」

 

 アミティエに続けてキリエが話を繋ぐ。

 

「そしたら私も拍子抜けしちゃったんだけど、一緒来てくれるって言ってくれたのよ」

 

「…本当なのかな?」

 

「は、はい…。 私なんかの力が、正しいことに役立てるのなら…」

 

 オドオドしながらもユーリは肯定する。

 

「そうか。 じゃあシュテルちゃん達は?」

 

「ユーリは我ら紫天の書のマテリアルの守る紫天の盟主。

 ユーリの行く所であれば、我等も行くのが当然であろう。

 エルトリアとやらに降臨し、我が領土としてくれようぞ」

 

「と、ディアーチェが言う様に、ユーリがいくのであれば私達も一緒です。

 ユーリが正常に戻った以上、他に目的があるわけではありませんので」

 

「未来って面白い所なのかな。 ヴォルケンズのパワードスーツみたいなロボットがたくさんあるのかも!」

 

「変な呼び方すんな」

 

 シュテル達も物言いは各々だがユーリと一緒に行くことを示し、レヴィの変なヴォルケンリッターの呼ばれ方にヴィータが口を挟んだ。

 

「君達を引き留める理由はないから僕は構わないんだけど、未来へ帰る方法はいろいろ問題があったんじゃ?」

 

「ユーリさんの協力で、私達だけでなく他の方たちも元の時代に送り返す為のエネルギーは何とかなりそうなんです。

 ただ…」

 

「時間移動の副作用は解決していない?」

 

「はい…」

 

 ヴィヴィオ達四人は、キリエとアミティエがそれぞれこの時代にやって来た時の影響で、巻き込まれる形でこの時代に来ている。

 同じ方法で時間移動を行なえば、同じように他の誰かを時間移動に巻き込むという可能性を捨てきれない。

 

「んー、時間移動の手段を教えてもらえる事は出来ないかな?

 解析出来れば問題を改善出来るかもしれない」

 

「すみません。 未来の技術を安易に過去の人たちに教える訳にはいかないんです。

 それに時間移動の方法は、特に危険と父が封印していたくらいですから…」

 

「まあ、それは仕方ないよね。 危険な技術だし、それくらいの警戒はしておいてくれないとこっちが逆に心配になる」

 

 ハジメも簡単には教えてもらえないと分かっており、アミティエの拒否を聞いて時間移動の危険性をよくわかっているだけに逆に安心したくらいだ。

 

「………じゃあ、仕方ないか。 未来から来た子達は僕が送り返そう。

 安定しない時間移動をさせる方が心配だし」

 

「「………え?」」

 

 僅かな沈黙の間の後に、アミティエとキリエが理解が追い付かずに疑問符を上げる。

 

「まさか、或いはとは思ったが中野ハジメ。 彼女達と同じように時間移動の手段まで持っているのか」

 

「あるいはと考えて驚かないあたり、クロノ執務官もだいぶ慣れてきましたね」

 

「いちいち驚くことに疲れただけさ」

 

「ま、待ってください! まさか時間移動の手段を持っているんですか!?」

 

 漸く言っている事を理解したアミティエが驚きに声をあげる。

 

「少なくとも碌に実験も行なっていないような安心できない手段じゃなくて、幾度も使用経験のある安定性のある時間移動の方法だ。

 問題なく元の時代に送り返すことが出来るよ」

 

「ええぇぇぇ!!」

 

「うわマジ?」

 

 ハジメも時間移動の手段を持っている事を、アミティエもキリエも信じられないと言った様子で声をこぼす。

 

「じゃあ、ちゃんと私達帰れるんですね!」

 

「時間移動の手段がいくつもあるというのも信じられない事ですが、ハジメさん。

 なぜ以前の説明の時に、送り返せるのにわざわざ遠回りな手段を教えたのです」

 

 帰れると聞いてヴィヴィオが喜ぶが、以前脅かす様な説明をされた事にアインハルトはハジメに問う。

 

「それはもちろん、僕も時間移動の手段がある事は秘匿しておきたかったからだ。

 原因を明らかにして、そこからちゃんと帰る手段があればそれでよかっただろうけど、不安定な時間移動ならまた同じことになりかねない。

 それが心配だから隠すのを諦めて、僕が帰る手段を用意しようって訳だ」

 

「そういう事でしたら、文句は言えませんね」

 

「レーナ、未来から来た子達が来た時の時空間波長の残留から逆算して、元いた時代を特定してくれ」

 

「了解なのです」

 

 レーナが船のコンソールを操作して、ヴィヴィオ達が時間移動してきた痕跡から元の時代を特定させる。

 日本誕生でドラえもんがククルが現代に来た経緯を探った方法と一緒だ。

 

「十数年程度未来の時間移動だったら、すぐに元の時代を割り出せるはずだ。

 アミティエさん達のいたエルトリアという場所になると、もっと未来で次元世界移動も挟むから割り出すとなると少し時間が掛かると思う。

 参考に時代と次元世界座標を教えてくれると助かるんだけど」

 

「わ、わかりました。 時代と世界座標は―――――」

 

「レーナ、今のを参考にアミティエさん達のいたエルトリアを割り出せる?」

 

「大丈夫なのです。 少しお待ちくださいなのです」

 

 アミティエに教えられた情報を基にレーナがコンピューターで調査する。

 元の時代のエルトリアを見つけ出すのは、それほど時間が掛からない様だ。

 

「これで未来から来た子達をどうするかは、目途は立ったわけだ」

 

「君は元からこうするつもりだったのか?」

 

「時間移動は歴史改変の危険を孕んでいる事は、時間移動の技術を持っているだけによく理解しているからね。

 戻る手段がないなら、僕が何とかしておかないといけないと思っていた。

 時間移動を無作為に行おうとしていたら相応の対処も必要だったけど、アミティエさん達も危険性は十分理解しているみたいだし大丈夫だろう」

 

 悪意ある時間移動手段を持つ相手だった場合、ハジメは徹底的に処理するつもりだった。

 それだけ時間移動の技術は、扱いを間違えれば非常に危険であるとハジメは認識しているのだ。

 

「エルトリアに戻ったら、時間移動の手段は悪用されないように封印を徹底してほしい。

 それが出来ないのなら完全に破棄する事をお勧めする」

 

「…わかりました。 エルトリアに戻ったら検討してみます」

 

 最後に改めてアミティエに忠告しておく。

 

「後は………管理局側がどうするかだ」

 

「どういう意味だ?」

 

 管理局側代表のクロノが問う。

 

「今回の事件をそのまま報告するんですか?

 終わったはずの闇の書事件の闇の書の闇が復活して、未来から来た人たちと共闘して、原因となったエグザミアを持つユーリちゃん達は未来に連れ帰ってしまったと?」

 

「それは…」

 

 事件を簡潔に説明されると、クロノもそう報告していいモノか口籠ってしまう。

 

「あの…。 私達が過去に来る事を決めた時に、出来る限り過去に記録が残らないように記憶を封じる手段を用意しています。

 色々助けて頂いて大変申し訳ないのですが、歴史への影響を抑えるために私達に関する事は無理のない程度に記憶を封じさせてもらいたいんです」

 

「そう言った技術もあるのか。 僕の所にもない事は無いが、少々使い勝手が悪いからな」

 

 【ワスレンボー】とか【わすれろ草】などの記憶を消すひみつ道具があるが、どれも調整が難しいものばかりで、特定の記憶をピンポイントで操作するようなものはなかった。

 ハジメ達の在り方を考えると、秘密裏に行動する為に目撃者の記憶を消す技術が必要になるかもしれない。

 未来のエルトリアに行ったら、その技術を開示してもらえないか頼んでみよう。

 過去の人間に教えるのは無理でも、時間移動して来れるなら関係ないよね

 

「ですので記録に関してもあまり残さないで頂きたいんです」

 

「…管理局執務官として事件について正確に上に報告する義務がある。

 だが歴史そのものへの影響が出るとあっては、僕達管理局でも手に負える問題じゃない。

 致し方ないが僕個人としては出来る限り配慮しようと思う」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「かまわない。 だが海鳴を中心とした広大な封時結界が張られた事は、アースラでも記録に残っている。

 僕達個人はともかく、アースラでの観測を誤魔化すのは簡単じゃないぞ」

 

「未来から来た子達の事は記録に残さない方がいいだろうね。

 だけど闇の書事件の残照として起こった、ユーリちゃんとシュテルちゃん達の存在は不自然でないように報告した方がいいかもしれない。

 まあ封時結界を張ったのは僕だし、訳の分からない奴がよくわからない理由で巨大な結界を張って、何かをやっていたと報告するならそれでもいいんだけど」

 

「そうしたらまた君に余計な嫌疑が掛かるぞ。

 君の事はいけ好かないが、被害を抑えるためにやった正しい事に冤罪を押し付けるつもりはない」

 

 管理局に捕まる気はないので事件の詳細を誤魔化す為に多少疑惑を増やすくらいハジメは構わなかったが、生真面目なクロノはそれを認めるつもりはなかった。

 

「そういう事ならやっぱりいろいろ誤魔化して報告するしかないよ?

 アミティエさん達の事を抜きにしても、ユーリちゃん達の存在は起こっていた事を報告するなら完全に隠す事は出来ない。

 一緒に未来へ行っていなくなってしまう以上、消滅したか野放しになったと報告する事になるんじゃない?」

 

「………それで通すしかないか」

 

 クロノも多少無理があるかもしれないが、ハジメの言った様に報告するしかないと考える。

 そこではハジメはある事を思い出し、四次元ポケットからある物を取り出しながら提案する。

 

「そういえば処分しようと思ってた物だが、手に負えると言うのならこれを代わりに持っていく?」

 

「今どうやってそんな大きなものを服のポケットから取り出した?

 明らかにポケットの中に納まるどころか、出し入れ出来るサイズじゃないぞ」

 

「デバイスの収納機能と似たようなものです」

 

 四次元ポケットほど大量に入るわけではないが、デバイスの収納機能でもそこそこ大きめの物を収納することくらいは出来る。

 ハジメの取り出したビーチボールサイズの透明な球体でも十分収めることくらいは出来る。

 そして透明な球体の中に入っている物に、真っ先に反応した者がいた。

 

「ちょっと待てい! なぜその球の中に我の持つ紫天の書が入っておる!?」

 

 自身の持つ紫天の書と完全に同じものが出てきた事で、ディアーチェが声を上げた。

 他の者達も驚いているが、紫天の書に関わっているユーリとマテリアルズ達が一番驚いている。

 

「ほら、以前僕が夜天の書を闇の書だった時に二つに増やしただろう?

 僕が持っていった闇の書を夜天の書に修復したら、その拍子にぽろっと夜天の書から飛び出してきたんだ」

 

「なるほど。 夜天の書を二つにしたときに、中にあった紫天の書まで増やしてしまったと言う訳か」

 

「クロノ執務官の言う通り。 突然出てきてどうしようかと思ったけど、闇の書が夜天の書に戻った時に出てきたという事は、最悪暴走原因じゃないかと思って、中にある物の時間を止めるこの玉に入れて封印したんだ」

 

 ハジメの持つ紫天の書の入った球は、時間停止系の秘密道具を参考に生み出した封印道具だ。

 時間を止めてしまえばどのような物であっても動く事は出来ないので、事実上完全な封印と言う訳だ。

 

「そっちの夜天の書とこちらの夜天の書が同一の物であるように、この紫天の書も同一の物。

 今回の事件の原因として、代わりにこれを管理局に持っていくのはどうだ?」

 

「確かに同一の物なら物証としては十分だが、それをこちらに渡しても本当にいいのか?

 というか、これの存在を知っていたって事は、今回の事件の原因が解っていたんじゃないか?」

 

「いや。 紫天の書の事は調べていたけど、あまり情報が無かったから、今回の事件と大きく関わっていたとはシュテルちゃん達に会うまで確信はなかった。

 ただ制御出来る物じゃないって事は解っていたから、夜天の書から出てきたときからこうしてずっと封印したままだ」

 

 調べた時に解った魔力の永久機関というのはハジメも興味深かったが、暴走の危険性が高い物を魔導知識の少ないうちから手を出す気にはなれなかった。

 魔力が必要というなら過去の事件で複製しておいたジュエルシードがあるので、魔力タンクとしてそのまま量産できるので不安定な永久機関の必要性が無かった。

 

「手を出す予定はないから持ってても仕方ないし、いい機会だから管理局の手に負えるっていうんなら僕は譲っても構わない。

 ただし時間停止の球は特殊な技術だから、封印しておくならそちらでやってもらう事になる。

 それと…」

 

 ハジメはもう片方の紫天の書を持つディアーチェ達の方を見る。

 

「彼女達がどう判断するかにもよるけど」

 

「させる訳が無かろう! 紫天の書が二つに増えているなど訳が分からんが、夜天の書と守護騎士共が二組いるのと同じという事であろう。

 なれば、その紫天の書の中には我等とユーリもおるという事ではないのか?」

 

「今の君達みたいに人型になってはいないだろうけど、それぞれのマテリアルとユーリは中にいるはずだ」

 

 なのは達の姿を模したのは闇の書事件の蒐集があったからこそだ。

 ハジメが封印していた方の紫天の書は事件が起こる前の状態の物だから、なのは達の姿を模る為の要素が欠けていて、人型になる事は出来ない。

 

「我等の複製かなにかは知らんが、我等と同じ紫天の書をどこぞの盆暗に委ねられる訳なかろう!

 それを渡せ! 断るというならタダでは済まさんぞ!」

 

 ディアーチェだけでなく他の三人も、同じ紫天の書を誰かに委ねる訳にはいかないと、少なからず臨戦態勢を取ろうとする。

 

「だそうだけど、クロノ執務官はどうします?

 管理局としては事件の収拾をつけるためには、あった方がいいでしょう?」

 

「君は彼女達がどう反応するか分かってて、それを出しただろう。

 確かにあった方がありがたいが、現状で彼女達と敵対してまで回収したいとは思わない。

 管理局としては間違いなくA級ロストロギアに匹敵する紫天の書は見過ごせないが、闇の書と同等なら封印し切れるか分からないものに現状では迂闊に手は出せない。

 彼女達と奪い合う事になったら、君がこちら側についてくれると言う訳じゃないんだろう?」

 

「まあ、その場合は中立という事になるでしょうね」

 

 奪い合いになった場合、ハジメは傍観の姿勢を取る事になるだろう。

 

「それだったら報告は大変になるだろうが、現状で手に負えるか分からないものを迂闊に持ち込むわけにはいかないな」

 

「ならば我等がそれを手にして問題あるまいな。 さっさとそれを渡すがいい」

 

 クロノが手を引いたことで、ディアーチェがもう片方の紫天の書を要求する。

 

「クロノ執務官がそれでいいなら、この紫天の書はシュテルちゃん達に渡そう。

 だけど同じ自分達を所持するというのはいろいろ問題があるだろう。

 よければ分かたれた二つの紫天の書を一つに戻そうと思うけどどうかな?」

 

「何、そんな事も出来るのか?」

 

「以前、夜天の書も一つに戻そうと思ってたけど、はやてさんと月夜の意志でこのままでいる事になったからね。

 二つになった物を一つに戻す方法は用意してあるんだよ」

 

 そこまでハジメが言ったことで、クロノはハジメが元からこうするつもりだったのだろうと悟る。

 管理局に渡すのも選択肢の一つではあるが、二つに分かれた紫天の書を一つに戻すのも手だとハジメは考えていた。

 

「なるほど、紫天の書が二つもあるなど我も違和感がある。

 それが再び一つとなるのであれば文句は………いや待てよ?」

 

 ハジメの提案に同意しようとしたところで、ディアーチェがふと思案する。

 

「紫天の書が二つになれば、同時に運用できればそのリソースは実質二倍。

 問題はもう一方の紫天の書の我等の意志だが、話を聞く限り人型になれなかった時の我等であり、現状の我らであれば支配下に置くことも不可能ではない。

 よし、一つにする必要はない! 二つの紫天の書を手にする事で我は更に強大な王として君臨してくれる!」

 

「ユーリのエグザミアも二つになるから、もしまた制御を失えば暴走の危険も二倍だよ」

 

「と思ったが、人型に成れずとも我等が二人いるのは居心地が悪い。

 王はやはり我一人でなくてはな!」

 

「王様は気まぐれだな」

 

「申し訳ありません。 考え事は理を司る私の役目で、ディアーチェもあまり考えるのは得意ではありませんので」

 

「やかましいわ! 我()、とはどういう意味だ! 我()とは!」

 

 紆余曲折はあったが紫天の書は無事に一つに統合する事となった。

 ハジメが封じていた紫天の書は、二つに分かれ夜天の書から分離した直後のままで止まっているので、ディアーチェ達の紫天の書の過去の姿と恐らく殆ど相違ない。

 ゆえに一つになっても殆ど差異の無い過去が二重になるだけで、パワーが二倍に成ったり上乗せされると言う訳ではなく、それを期待していたディアーチェとレヴィが残念そうだった。

 ちなみにこの二つの紫天の書の同一化は、ハジメがコピーと再同化する方法と殆ど同じものだ。

 

「僕の持ってた紫天の書も片づけられたし、そろそろ未来から来た子達を元の時代に送っていこうと思う」

 

「それはいいが、僕らはどうする?」

 

 未来に送る必要のない管理局組のクロノが問う

 

「アミティエさんに記憶を封じてもらったら、封時結界の外に転送するよ。

 彼女達はこの船で未来に送っていくから」

 

「この船で時間移動が出来るのか?」

 

「このヴィディンテュアムは時空船だって言わなかったっけ?

 次元世界間を行き来出来るけど、時空間移動が主流の機能だよ」

 

「僕の組織は時空(・・)管理局と名乗っているからな。

 言い方の違いで、ただの次元航行船舶だと思ってもおかしくないだろう」

 

次元(じげん)管理局に改名したら?」

 

「進言を検討してもいいが、無駄だろうな」

 

 管理局の正式名にややこしさをハジメ達が感じている間に、アミティエが記憶封印の準備を終え、先ずはなのは達を外へ送り出す準備を終える。

 元の時代へ戻るために船に残るヴィヴィオ達がなのは達を見送る。

 

「ちっちゃいなのはママとフェイトママに会えて少し嬉しかったです。

 未来の私に会ったら私の事よろしくお願いします!」

 

「えっと、記憶を封印しちゃうから覚えてないと思うけど分かった。

 ヴィヴィオちゃんも未来の私によろしくね」

 

「未来でもなのはと一緒って聞けて嬉しかった。

 覚えてなくてもあなたが困っていたら必ず助ける」

 

「お二方なら大丈夫だと思いますが、私からもヴィヴィオさんの事をお願いします。

 今の私がいるのは、ヴィヴィオさんのお陰ですから」

 

「アインハルトさん!」

 

 ヴィヴィオ、なのは、フェイト、アインハルトが未来の出会いを祈りながら別れを惜しむ。

 

「俺も未来の俺達の事をよろしくお願いします、八神司令。

 未来ではとても助けてもらったので」

 

「司令言われても困るんやけど。 未来の私って何しとるんかわからんし。

 記憶は封じられる言うても、あまり未来のこと話したらあかんのやなかったん?」

 

「そうだね。 トーマ、これ以上はあまりしゃべらない方がいいと思う」

 

「そ、そうだなリリィ」

 

「………ところでお願いされたからには代わりに教えてほしいんやけど、お二人はどないな関係なん?」

 

「お、俺とリリィは別に!」

 

「詳しくは聞かんけど、今の御関係だけでも聞きたいなぁ」

 

「(この舌なめずりする様な顔。 やっぱり八神司令だ!)」

 

 何やら苦手意識のあるように見えるはやてに追いつめられるトーマ。

 それを相方のリリィが少し困った様子ではあるが笑顔で見ている。

 

 

 

 別れの挨拶も終わり、アミティエによって記憶の封印が施された直後、なのは達現代組は封時結界の外へ転移された。

 記憶を封じられたクロノ達の認識では、結界に突入後暴走するロストロギアをその場にいたハジメ達と、マテリアル達、出自不明の次元渡航者のアミティエとキリエと共に鎮圧。

 その後、ロストロギアを求めるマテリアルとアミティエ達と対立し、ハジメの手引きでクロノ達は結界の外に追いやられた事になった。

 各々のデバイスの記録も消去済みで、クロノはなぜか釈然としないがまたハジメに振り回されたという事で締めくくった。

 

 ヴィヴィオとアインハルト、トーマとリリィも記憶を封印してからそれぞれ元いた時代に送り返し、最後に遥か未来のエルトリアに時空船ウィディンチュアムは向かった。

 無事にエルトリアにたどり着き、アミティエ達は本当に戻ってきた事に少し呆然としていた。

 

 アミティエ達が言っていたようにエルトリアは荒廃が進んでいる様子で、豊かな自然が減っていた。

 ユーリの力を借りる事で少しずつではあるが改善が出来るようだが、ハジメはエルトリアの技術を対価に秘密道具による荒廃した土地の緑化を提案した。

 半信半疑のアミティエ達だったが、試験的に一部の土地を短期間で自然を再生させたことで取引に応じた。

 緑化の手段は映画【竜の騎士】で恐竜たちの聖地を作った方法と同じだ。

 

 荒廃の原因である死蝕という現象は解決していないので、ハジメの行なった緑化も時間が経てば再び失われていく事になる。

 リリカルなのはの魔法世界の現象なので、ハジメも原因を直ぐには突き止める事が出来なかった。

 しかし、解決はアミティエ達がシュテル達と協力して自分達でするそうだ。

 ハジメはアミティエ達が問題を解決するまでにエルトリアが滅びないように、定期的に緑化を行なって環境の急激な悪化を防ぐことにした。

 遠くない未来で、エルトリアはアミティエ達の手によって救済される事となる。

 

 

 

 

 

 




 以上でなのは編は完結となります。
 STS以降の話は今のところ書く予定はありません。
 そろそろ別の世界の話に行ってみたいので。

 ユーリとの決戦は闇の書の闇との戦いの焼き増しとなりました。
 ゲームはやったこと無かったので動画で情報を集めたのですが、その中で全キャラのフルドライブシーンを集めてフルボッコのするものがあったので、そのイメージで簡潔に書かせて頂きました。
 ISの機動力と秘密道具を組み合わせたら、大した脅威にならない感じがしたのであっけなく終わりました。



 本当なら昨年のゲームリメイクの映画までに書き終えたかったんですが、無茶苦茶期限オーバーでした。
 なかなか筆が進まなくて申し訳ない。

 続編の構想もあり書き溜めもしていますので、今後もよろしくお願いします

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