四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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第三話

 

 

 

 

 

 中野ハジメの朝は多重影分身から始まる。

 この世界に来る前に行った世界で得た力のお陰で膨大なチャクラを保有しており、朝一で寝ている間に回復したチャクラを修業の為の影分身に使って無駄にしないようにしている。

 均等にチャクラを分割する事の出来る影分身は効率のいい消費方法だからだ。

 

 ハジメがこの忍の世界に来たのはチャクラ運用と忍術を得るためで、オリジナルが異世界に渡った際の危険に対処する為の本人の戦闘力や技術力を収集することだ。

 ひみつ道具はあっても身体能力は一般人なハジメではいきなりこの世界のような危険な世界に来るのは危なっかしく、まず最初に行ったのは基礎的な能力が比較的安易に得られると思った【ドラゴンボール】の世界だった。

 

 力の収拾が主な目的だったのでその世界では原作に関わらないように活動し、原作の情報を基にした修行を行なって飛びぬけた身体能力を得た。

 向かった当初は当然只の地球人なのでサイヤ人のような成長速度はなかったが、それでもドラゴンボール世界の地球人という扱いになったことでクリリンやヤムチャと同等の条件で強くなる可能性を持っていた。

 満足のいくレベルの戦闘力を得るまでに年単位の時間を過ごし、最終的に登場初期のベジータなら素で勝てる戦闘力を得たが、インフレの激しいドラゴンボールの世界観では大したレベルとは言えない。

 それでもNARUTOの世界では、十分ずば抜けた身体能力を持つことには成功した。

 

 当然ドラゴンボール世界の気の力も習得しており、この世界では【気】=【チャクラ】として扱われることになる。

 気功波で星を吹き飛ばせるほどの力は、この世界では当然莫大なチャクラ量となり、通常の任務などでは使い切るどころか本気で練る事も出来ない。

 なので、チャクラが有り余っている早朝に影分身で消費量を増やして力をあまり余らせないようにしている。

 

 影分身は解いた時に経験をフィードバック出来る効果から修行に最適で、有り余るチャクラで作った影分身は外に出しても困るので、家の中に【壁紙秘密基地】を用意しての中で修業をさせている。

 もともと大量のチャクラで作った影分身は、一体でも普通の忍びを超える量を保有している。

 一日任務を終えて帰ってくるまで修行をしていても維持していられるほどで、チャクラ運用の効率が上がれば更に影分身の数を増やすことが出来、修行効率がさらに上がるという好循環が起きている。

 

 壁紙秘密基地という狭い空間なので場所を取らない基礎の修行がほとんどだが、出した影分身の数だけ良くなる修行効率でこれでもかというくらいの盤石な基礎能力を築いている。

 お陰で上忍など目ではない技の切れを発揮できるが、目立つのは望むところではないので、任務では基本的にサポートに回る様にしている。

 それでも常に落ち着いて安定した動きをする事が出来ることでかなりの力を持っていることは身近にいる者は察しており、力をひけらかさないタイプと皆に思われているらしい。

 故に班員の二人も実力が付いてきたところで、中忍試験の話が来ても可笑しくない事だった。

 

 

 

「中忍試験の願書ですか」

 

 担当上忍の山吹はハジメら三人に中忍試験の参加の願書を持ってきた。

 

「任務もだいぶこなしてきたし、そろそろ中忍試験に挑戦してもいいんじゃないかと思って持ってきた。

 今のお前たちなら中忍に昇格する実力はあるだろうからな」

 

 二人をダイに会わせて以降もたびたび訓練を一緒にしてきたので、ハジメは二人の実力も大よそ把握している。

 ツミキは日向だけあって柔拳による体術は目を瞠るものがあるし、クルミも医療忍術を学びながらも修行を続けて全体的な力も伸びてきている。

 一般の中忍の実力をハジメは詳しく知らないので合格ラインに届いているかわからないが、二人の実力はアカデミーを出た頃とは雲泥の差があった。

 

「中忍試験か。 俺達も受けられるほど力が着いたわけか」

 

「ハジメ君は中忍試験どうしようと思うかな?」

 

「なんで俺じゃなくてハジメから聞く、クルミ!」

 

「だって、ハジメ君の方が冷静に分析してくれそうだからかな」

 

 ハジメは別に冷静に分析するようなタイプではないが、彼らに比べれば人生経験豊富な為に落ち着きがあるように見えるのだろう。

 

「僕は受けたいと思うけど二人次第かな。

 中忍試験はスリーマンセルで申し込まないといけないみたいだし」

 

「確かにそうだが、このメンバーだけに拘る必要はないぞ。

 三人が受けて三人が受かる事の方が稀だから、一人が受かって中忍になり二人下忍のままのスリーマンセルもある。

 中忍試験の為にスリーマンセルを新たに組む者もいるから、メンバーを探すのは面倒だがこのメンバーに拘らず一人で受ける事も出来るぞ」

 

 チームで一緒に合格出来るわけではないので、数の偏りができるのは当然だ。

 任務でも別のチームと組むことがある以上、いつまでアカデミー卒業時のメンバーのままスリーマンセルというわけではない。

 

「でしたら僕は受けたいと思います」

 

「おや、ハジメは昇進とかあまり興味ないと思った」

 

「ないですが、忍術資料を読むのに上の階級は必要でしょう」

 

 忍術の知識は里の重要な情報であり、重要度が高いものほど上位の忍びでなければ見ることは出来ない。

 秘密道具で容易に調べることが出来ているが、なるべく正規の方法で情報を得たという体裁は持っていた方がいい。

 その為、全力は流石に振るう事は出来ないが、上忍には成っておきたいので本気で挑むつもりではある。

 

「それなら俺も受ける。

 同期に先を越されるのを見てるだけでいるつもりはないからな」

 

「私も受けます!

 私一人だけ見ているなんてやっぱり嫌かな」

 

「じゃあ、全員参加でいいな」

 

 ハジメ達は全員参加で中忍試験を受ける事となった。

 

 

 

 

 

 原作では他里の下忍も集めて行われた中忍試験だが、未だに第二次忍界対戦の影響が残っているのか、試験は木の葉の里の下忍のみで開催された。

 中忍試験は何かが起こるようなジンクスがあるため、不確定要素を招く他里の忍びが招かれていないのはありがたいとハジメは思った。

 

 そのお陰か前哨戦である予選は何の問題もなく進み、本戦が開始されるまでに至った。

 三人は予選を通過し本戦に進むことが出来たが、ここからは個人戦なので予選までのチーム戦ではなく個人の実力が試されることになる。

 

 なお、以前ダイが中忍試験に挑戦すると言っていた件だが、確かに受けていたのを試験会場で三人は目撃していた。

 山吹が言っていた即席のスリーマンセルで挑戦したようだが、残念ながら予選を突破することは出来ずに落ちてしまったようだ。

 その証拠に…

 

「ハジメ君! ツミキ君! クルミ君、ファイトだー!

 君達は今青春の真っ只中にいるぞー!」

 

 観客席でこれでもかってくらいに目立ちながら『青春』と書かれた旗を振って応援をしているのだから。

 

「ダイさん、もうちょっとおとなしく応援出来ないかな…」

 

「恥ずかしい…」

 

「あの人の行動、予測しておくべきだった」

 

 二人はもちろん、付き合いが長く慣れているハジメも恥ずかしい思いをしていた。

 見世物にされながら本選の開会式を終えて、抽選の結果一対一の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 試合は順調に進んで、ハジメは勝ち残っていた。

 クルミは残念ながら直接戦闘は得意ではないため、一回戦で敗れて敗退している。

 ツミキは一回戦に勝ち、今ハジメの目の前に対峙している。

 

「まさか二回戦で当たるなんてな。

 かっこよく決勝戦で雌雄を決したかった」

 

「僕等は別に雌雄を決するような関係じゃないだろ」

 

「いや、俺はお前のことを仲間だと思っているがライバルだとも思っている!」

 

 指をさしてライバル宣言をするツミキの意気込みにハジメは少し驚く。

 

「クルミちゃんの件をまだ誤解してるのか?」

 

「そっちじゃない! いやまあ、それもないわけじゃないが…

 とにかく俺はお前のことを同期の中ですごい奴だと思ってる。

 いつもはサポートに徹して目立とうとしないが、大抵のことは何でもこなして俺達の出来ない穴を埋める。

 同じ任務をこなしてればお前が何時も本気じゃないことくらい気づく」

 

 本気を出していないことくらいは気づかれていると察していたが、ハジメが思っていたより高く評価されていたようだ。

 

「ハジメとは一度思いっきり戦ってみたかった。

 お前の本気、見させてもらう」

 

 ツミキが日向の体術で構えるのを見て、ハジメも半身になり拳を握らずに受けの構えをとる。

 そして試合開始の合図が鳴ると、ツミキが一気に攻め込んだ。

 

「ふっ! やっ! はっ!」

 

「………」

 

 柔拳による連打をハジメは落ち着いて捌き対処する。

 日向の柔拳は通常の打撃と違い、チャクラを打ち込んで体内にダメージを与えることが特徴の体術だ。

 それは内臓にダメージを与える事と同じで、胴体に有効打を貰えば一撃でやられかねない体術である。

 まあ身体能力の高い忍者社会では、無防備な胴体への打撃はどちらにしろ致命傷に繋がる可能性があるので、基本的に受けないことが重要だ。

 

「どうしたハジメ! 受けてばかりじゃ勝てないさ!」

 

「じゃあそろそろ反撃しようか」

 

 ハジメは次の掌打を捌くのではなく正面から同じ掌打をぶつけて相殺する。

 正面からぶつかり合った掌打はお互いに弾かれて腕を引き戻される。

 

「グッ! はあぁ!」

 

 掌打の衝突の反動でうめき声をあげるツミキは再び掌打を打ち出してくる。

 それに対しても同じ掌打を打ち込んで攻撃を打ち消す。

 ツミキは更に掌打を連打し続けるが、ハジメは正確に同じ掌打で迎撃し続ける。

 

「分家出身とはいえ日向の柔拳を真正面から迎え撃つとはな!」

 

「医療忍術は繊細なチャクラコントロールが必要なんだ。

 繊細なチャクラを込める柔拳の打撃にも通じることくらいは解るだろう」

 

「それでも捌ききれるのは相応の体術も習得しているからだ。

 それも後手に回って正面から打ち消されてたら立つ瀬がない」

 

 掌打の迎撃はツミキのフェイントで中断となった。

 打ち込んできた掌打をハジメは打ち消そうとしたが、ツミキが絶妙な力加減で打ったことで弾かれることなく掌打を手で掴む事で腕の動きを封じ、反対の手で捕まえたハジメの腕を指で突く。

 ハジメは即座に蹴りを放つが、掴んでいた腕を直ぐに放してツミキは距離を取った。

 

「腕の点穴を突かせてもらった!

 これで腕にチャクラを回すのが難しくなる」

 

 点穴とは体内を走る経絡系に流れるチャクラを体外に放出する出口となる穴のことだ。

 日向の柔拳による点穴は、その穴に自身のチャクラを打ち込むことで流れを阻害する事であり、流れを阻害すればチャクラを放出できなくなり忍術の使用が出来なくなるなどの弊害が起こる。

 ハジメは腕に少し受けただけなのでまだ大きな弊害はないが、ツミキの言う通りに受けた腕は確かにチャクラを出しにくくなっている。

 

「ふむ、なるほど…」

 

 これまで任務で点穴を突くところをハジメは見てきたが、受けるようなことは当然なかった。

 突かれた所を観察しながらハジメはどのように突かれたを思い出し、もう片方の腕で同じ場所にチャクラを指で打ち込む。

 すると点穴を突かれた腕のチャクラが流れ出して正常に戻る。

 

「なに、点穴封じを再び点穴を突くことで解いただと!

 白眼も持っていないのに同じところを突いたって簡単に解けるようなものではないぞ!」

 

「医療忍術を学んでいれば点穴についてもある程度触ることがある。

 日向の点穴封じがどういうものか知っておきたいと思っていたんだ」

 

「ワザと受けたという事か?」

 

「半分はね」

 

 というが実はハジメは白眼と同じように経絡系と点穴が見えたりする。

 映画事件を対処していた頃にESP訓練ボックスで習得した超能力に透視能力がある。

 チャクラを意識して透視をしたら経絡系と点穴を目視出来るようになった。

 更に空間そのものを透視する事で距離を無視した望遠まで可能になっており、劣化白眼みたいなことになっている。

 白眼に出来てハジメに出来ないのはほぼ360度全方位の視界位だ。

 

 進化した透視能力によって点穴封じも出来るが、透視能力を披露する気はないので医療忍術の応用と誤魔化した。

 点穴封じは試行錯誤した我流なので日向の点穴封じがどういうものか体験しておきたかったからハジメは受けたのだが、特に違いはなく見える以上に特別な技術はいらない術と分析した。

 

「そういうわけで僕に点穴は効かないぞ」

 

「だが無数に打てば解除が追いつかないし、させる暇を与えないさ」

 

 再び接近戦を挑んでくるツミキにハジメは迎え撃つ。

 放ってきた掌打に今度は掌打で迎撃するのではなく腕でガードするように構える。

 ツミキは瞬間的に訝しむ顔を見せるが、すぐさま掌打から指の刺突に変えて腕の点穴を狙う。

 だがその攻撃はハジメの腕から溢れ出したチャクラの回転にいなされた。

 

「なに!」

 

「隙ありだ」

 

「グッ!」

 

 腕の周りを回転するチャクラの流れに掌打を流されて隙をついて、反対の腕にも纏った回転するチャクラと一緒に我流の柔拳の掌打をツミキの腹に叩き込んだ。

 柔拳の衝撃が体内に流れ込み、同時に回転しているチャクラがツミキの体を回転させながら吹き飛ばす。

 もちろん本気のチャクラをツミキの体内に叩きこんだら北斗神拳みたいに炸裂してしまうので、ハジメは最低限のダメージに抑える様に加減をした。

 伊達に基礎ばかり影分身で行っていないのでチャクラコントロールは完璧で、気絶はしないが有効打になる程度のダメージに抑えていた。

 

「けほっ! 何さ、その技は」

 

「僕の考えたチャクラコントロールによる攻防一体の技さ。

 腕に纏ったチャクラを回転させることで守れば攻撃を受け流し、打てば打撃と一緒に衝撃を与える。

 大した技じゃないから名前を付ける気はないけど、これで腕に点穴を打つことは出来ないし、この守りを超えなきゃ掌打も入らないぞ」

 

「なにが大した技じゃないだ。 俺を思いっきり吹き飛ばしておいて」

 

 この技は別の漫画をネタにしておりよくある技なので、自分で新たに名前付けるのは何か恥ずかしいとハジメは思っていた。

 ハジメのイメージに修羅旋風拳、電童、神砂嵐など、腕の周りを回転させる技が思い浮かんでいた。

 螺旋丸や回天など回転技は応用の利きやすい技だと、ハジメはその手の技も基礎の技と影分身に練習させていた。

 

 腕の回転のチャクラに力を込め過ぎていたのか、ハジメが思っていたより吹き飛んでしまったツミキ。

 今の一撃で終わらせたら目立つと思って加減してたつもりだったが、思ったよりダメージを与えてしまったかもしれないとハジメは横たわるツミキを見る。

 

「じゃあ、ギブアップするのか?」

 

「冗談、まだまだ戦えるさ!」

 

 挑発するようにギブアップを問われると、反発してすぐに立ち上がったツミキ。

 それでもふらついていてあまり長くは戦えるようには見えず、もう一撃当てれば決着が着きそうだ。

 

「なら今度はこちらから攻めさせてもらうぞ」

 

「来いさ!」

 

 足にチャクラを貯めて高速でツミキに迫り、ツミキは日向柔拳の構えで待ち構える。

 回転拳(仮)を纏った掌打を打ち込むとツミキは掌打でいなそうするが、チャクラの回転に流されてうまく捌くことが出来ない。

 仕方なく体勢を大きく崩してでも大振りに避けるが、ハジメは続けて回転拳を纏った掌打を打ちだす。

 やはり技に名前を付けていないと地の文で説明しにくい。

 

 ツミキは体勢を崩して大きな隙が出来るのを恐れ完璧に捌くのを諦め、受け止める時にチャクラの回転にあえて吹き飛ばされることで体をズラし直撃を避け、避けられるものは出来るだけ避けて対応する。

 だがチャクラの回転もなかなか威力があり、軽く接触するだけでもダメージを受けるしあえて吹き飛ばされても力を受け流しきれない。

 少しずつツミキは傷付いていき、このままハジメの勝ちは決まってしまうだろう。

 ジリ貧状態で何時折れるかと思った頃に、ツミキは新たな技を出してきた。

 

「俺を舐めるな!」

 

――八卦掌回天――

 

 ツミキの全身からチャクラが放出されると同時に体を回転させて、周りにチャクラの回転防壁を作る。

 間近にいたハジメは回天の発生に巻き込まれて吹き飛ばされるが、回転拳でガードすることで大したダメージもなく空中で姿勢を整えて着地する。

 少しすれば回天の防壁が消えて、中から息を少し切らしたツミキが現れる。

 

「はぁはぁはぁ、見たか、これが日向の体術さ」

 

「知ってる。 日向一族が使う防御技だろ。

 ツミキが使ってるところは見たことなかったけど」

 

「中忍試験の為に訓練していて、最近ようやく形になったばかりだからな。

 本来は宗家にしか教えられていない技だけど、俺は自力で習得した。

 これならお前の攻撃も逆に弾き返せるぞ」

 

「だけど、息が切れてるぞ。

 そんなに何度も使えないんじゃないのか?」

 

「し、仕方ないだろ! まだ完成したばかりで使い慣れてないだけだ!

 それでも次はこれでお前を吹き飛ばしてやる」

 

 回天は防御技だが相手の攻撃にカウンターをすればダメージを与える事も出来る攻撃力も持っている。

 

 再び攻勢に出て向かってくるツミキに、目的は解っているがあえて迎え撃たずにハジメは接近を受け入れる。

 お互いに打撃が届く範囲に入った所で、ツミキは再びチャクラを放出して回天の体勢に入る。

 それに対してハジメもチャクラを全身から発して回天を放つ。

 

「なぁっ!?」

 

 ツミキの驚く声が聞こえるが、チャクラの回天同士の衝突音でかき消される。

 同じ技がぶつかり合えばチャクラの量、精度、密度によって算出される威力の高い方が勝つ。

 柔拳を学んでいるだけあってチャクラコントロールが優れているツミキだが、医療忍術の他に基礎訓練を影分身で行なっているハジメよりは制御力は格段に劣っている。

 更に桁外れのチャクラ量を持っているハジメは、全力ではなくてもツミキのチャクラ放出量を容易に上回る。

 

 回天同士が拮抗していた時間は短く、あっという間にツミキは回天が破れて吹き飛ばされ地面に叩きつけられることになった。

 

「ガハッ! なんで、ハジメが日向の技を使えるんだ…」

 

「日向の八卦六十四掌は白眼で点穴を見なければ出来ない技だけど、回天は白眼と関係が無いだろ。

 だから僕も我流で練習して覚えてみた。

 無論、言うほど簡単な技じゃなかったけどね」

 

 やってみないとわからない物だが、螺旋丸とはまた別のベクトルのチャクラコントロールを必要とした。

 それでも血継限界に関係ない技に変わりはないので、誰にでも修得出来る可能性がある。

 試行錯誤の必要性があったので影分身に練習させていたが、自分の分身たちが皆くるくる回り続けるシュールな光景を見る事になった。

 

「自己流だから日向の技より勝っているとは思わないけど、完成したばかりで練度の低い技に負けるほど弱くはなかったみたいだな」

 

「お前、結構嫌味な奴だったんだな。

 今度、お前の回天のコツ教えろ」

 

「そんなつもりはないけど、ツミキ君も結構強さに貪欲だな」

 

 僕はツミキとの試合に勝ち残り次の試合にコマを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツミキとの戦いを終えてハジメは順当に決勝まで勝ち残った。

 途中で何者かに襲撃されるなどの中忍試験のジンクスも起こらず、極めて平和に試合は進んでいた。

 最後まで残った決勝の相手は、ハジメにも見覚えのある同期でアカデミーを卒業した忍びだった。

 

「久しぶりだねハジメ君。

 これまでの君の試合を見てきたけど、決勝の相手に不足はないよ」

 

「それはどうも、波風君」

 

「ミナトでいいよ。 あまり話した事はないけど、アカデミーの同期じゃないか」

 

 波風ミナト。 ハジメのアカデミーで同期だった下忍であり、後の四代目火影だ。

 原作に大きく関わる人物なのでハジメはあまり接触しなかったが、同期であり後の火影なら中忍試験の決勝に進出してきてもおかしくない。

 ハジメも彼の試合を見ていたが、既に複数の性質変化を巧みに操って相手を追い込む技巧派の忍びであり、後の火影の実力の片鱗を見せている。

 原作で彼の得意技である飛雷神の術をこれまでの試合では使ってはいなかったが、あれは使える者が少ない高等忍術の筈だからまだ修得していないのだろう。

 のちの火影でも今はまだ下忍には違いないのだから。

 

 この試合でハジメはどこまで戦えばいいのか少し悩んでいた。

 上忍を目指す気はあるがそれはあくまで忍術資料の閲覧権を得るためで、四代目のような原作に大きく関わるような人物と力比べをするのは気が向かなかった。

 今の波風ミナトなら大した強さではないので目立たず勝つことは出来るが、後の火影に勝ったというのは後々になって余計な注目を浴びる事になる気がする。

 かといって実力を示さずにワザと負けては相手に失礼だし、下手な戦い方をしては中忍昇格はお預けになりかねない。

 ハジメは演技は得意とは言えないので下手に負けようとするのは難しいと考え、どこまで力を見せるべきか思い悩んでいた。

 

「じゃあ始めようか」

 

「まあ、よろしく」

 

 試合開始の合図と同時にハジメはその場で構えを取り、ミナトは前に飛び出しながら手裏剣を複数取り出して連続で投げる。

 手裏剣は狙いを外さずにハジメに向かって飛んでいき、ハジメはチャクラを込めた掌打で全て叩き落していく。

 

「やはりこの程度じゃ怯みもしないか」

 

 手裏剣を投げながらも接近をやめて立ち止まり、忍具入れのポーチから玉を取り出すとハジメの足元に投げつける。

 手裏剣を迎撃していたハジメの手前に着弾した玉から煙が出て周囲の視界を遮る。

 煙玉だ。

 

 すぐさまハジメは煙を吹き散らすために回天で気流を起こし吹き散らす。

 同時に飛んできていた手裏剣も回天によって弾かれて届かない。

 

「やっぱり回天は便利だな」

 

「オレからしたらとても厄介だけどね」

 

 煙を吹き散らかすとハジメは回天を止めるが、そのタイミングを狙って手裏剣と声が上から飛んでくる。

 煙が広がりハジメの視界を遮ったタイミングで高く上がり上に位置を取っていた。

 再び手裏剣乱舞にハジメは掌打ですべて叩き落していく。

 

「これだけじゃ僕は倒せないぞ」

 

「もちろんそれだけじゃないさ」

 

 吹き散らかされても残っていた煙の中から、クナイを構えたもう一人のミナトが瞬身の速さで迫る。

 それをハジメは落ち着いて対処し、苦無の一閃を余裕をもって避ける。

 

「影分身か?」

 

 影分身は禁術に指定されているが、習得は容易な分身の術である。

 禁術に指定されているのは性能にもあるが、未熟なチャクラでは力不足で発動せず気絶してしまうほど消耗が大きい事が要因だ。

 原作ではポンポン使われていたが皆チャクラを十分持っていたからで、この時点のミナトが使えるのも十分なチャクラ量を保有している証拠だ。

 

 表では見せていないがハジメも影分身を多用するだけあって、使われたとしても驚く事はない。

 冷静に一閃を放ったミナトに掌打を一撃与えると、こちらが影分身だったらしく煙となって消える。

 それを見終えると本体である上空のミナトに視線を戻す。

 

 上空にいるミナトとハジメの視線が交差する。

 ミナトの顔には喜色の見える笑みが浮かんでいた。

 それに僅かな引っ掛かりを覚えたハジメは直後に足元で金属音が鳴った。

 

 

――カランッ!――

 

――ボフンッ――

 

 

 さらに続いて空気が小さく炸裂したような音と同時にハジメは振り向くが、それは既にミナトに足を苦無で斬りつけられる直前だった。

 

「クゥッ!」

 

「影分身は消えたと油断したね」

 

 両手にそれぞれ持った苦無によってそれぞれハジメの両足を一閃して機動力を奪った。

 ハジメの足を斬りつけたミナトは追撃は控えて即座にその場を離れる。

 突然のことにハジメも反応出来ず、攻撃してきたミナトに反撃も出来ずに追撃を警戒するだけに止まった。

 足を切り付けられたハジメはその場に手を着き、離脱したミナトと上から落ちてきて合流したミナトを見据える。

 

「…影分身に苦無に変化させた自分を持たせていたのか」

 

「気が付いたかい。 陽動は二重三重にしなきゃ機能しない。

 体術では君に勝てそうにないし、並の忍術では君の回天に防がれてしまうだろう。

 だからまずは動きを封じるために足を切らせてもらった。

 それでも医療忍術も使える君にあまり時間を上げることは出来ないな」

 

 しゃがみ込み掌仙術で切り傷を癒し始めているのを見抜き、ミナトはハジメが動けない内に印を組み術を発動する。

 

 

――雷遁・地走り――

 

 

 印を組み終えたミナトが手を地面に着くと、雷遁の電撃が走りハジメに向かっていく。

 ハジメは治療を中断せざるを得ずに、足のケガを無視して跳躍する。

 

「地面に雷遁が流れればそうするしかないよね」

 

 飛んだハジメに向かって影分身の方のミナトが印を組み術を発動する。

 

 

――雷遁・雷撃――

 

 

 空中で身動きの取れないことを予期して発動した雷撃の玉がハジメに飛んでいく。

 傷を無視して跳んだ事で体勢が悪いが、チャクラを纏った回転拳で雷撃をハジメはなんとかはじく。

 

「くっ…(完全に相手のペースだな)」

 

「これでもまだ耐えてくるか!」

 

 ハジメは相手に流れを完全に持っていかれてる事を悔しそうにするが、逆にミナトは自身の連続攻撃に耐えていることに嬉しそうにする。

 高い才能ゆえに同年代で競う相手のいなかったミナトは、術中に嵌っているのに耐え続ける事の出来るハジメにもっと力を見せる事が出来るのを喜んだ。

 

「なら、今度はもう少し強めにいくよ」

 

「なに!?」

 

 ペースを奪われている現状でさらに力を見せると言われ、ハジメも試合開始時の力の出し惜しみを忘れ始める。

 本気を見せられない事から全力でなくても勝てるという余裕がハジメにはあったが、それは個人の戦闘力に限っての事で、戦いの流れを操るセンスに関してはミナトはハジメの数段上を行っていた。

 その結果が受け身に始まり隙を突かれ先手で傷をつけられて、負けると思うほどではなくともペースを完全に奪われている現状に、ハジメは慢心していたことを実感する。

 ここに来てハジメは目立つ目立たないなどという事を忘れて、油断なくミナトを倒すつもりで戦う事を決心する。

 

 雷撃を弾いたハジメは空中にいる事から自然落下で地面に着地しようとするが、着地の寸前にミナトの新たな術が発動する。

 

 

――土遁・黄泉沼――

 

 

 着地点がミナトの術によって底なし沼になり、そこに飛び込んだ形になったハジメの太ももまで足を沈め身動きが取れなくなる。

 

「土遁まで使うか!」

 

「体術で勝てない以上、動きを封じて遠距離から倒すしかオレには出来そうにないからね」

 

 ミナトは語りながらも影分身とそれぞれ別の印を組み術を発動する。

 

 

――雷遁・雷流し――

 

 

 印を組んだミナトの手に雷遁の電気が集まる。

 続けてもう一人のミナトの術が完成する。

 

 

――風遁・旋風波――

 

 

 両手から発生した風が竜巻のように巻いて、その矛先をハジメに向けられる。

 その竜巻にもう一人のミナトが発動した雷遁を流すと、風は雷を帯びる事で劇的に威力を上げて放たれる。

 

 

――雷嵐(いかづちあらし)の術――

 

 

「合体忍術!?」

 

「オレが使える一番威力のある術だ!」

 

 火遁など性質のある忍術は複数の性質を複合することで威力を上げることが出来る。

 基本は複数の忍が共同で発動するものだが、複数の性質変化が行える忍が影分身などを併用することで一人で行う事も不可能ではない。

 一人で行う分かなりのチャクラを持っていなければならず、ミナトのチャクラは既に上忍の領域に到達しているだろう。

 

 先ほどの単発の雷遁とは比べ物にならない規模の忍術に、流石のハジメも回転拳だけで弾くことは到底できない規模と威力だ。

 回天でも耐えられるかどうかわからない威力だが、現在は黄泉沼で足を取られて身動きできず回天などとても使えない。

 ハジメは動くことも出来ず自由な上半身だけでこの合体忍術を防がねばない。

 忍術ではない禁じ手を使えばどうとでもなるが、それをするくらいならハジメは流石に負けを選ぶ。

 

「まさかこの技を披露することになるとは思わなかったよ!」

 

 ハジメは回転拳のチャクラの回転を全力で加速させ、さらに性質変化で風のチャクラに変換する。

 すると両腕からは膨大な風があふれ出してハジメの服をなびかせ黄泉沼に波を発生させる。

 

―風遁・神砂嵐―

 

 ハジメが回転拳のモデルにした技の一つを両腕から放つ。

 本来近接技で必殺の威力がある神砂嵐だが、発生した両腕の竜巻を前方に放射することで、そこらの風遁と変わらない威力を持つ。

 さらに二つの竜巻が相互作用によって捻じれ狂う空気の裁断機となり、威力をさらにミナトの合体忍術にも劣らない威力となる。

 

 

―ゴオォォォォォ!!!―

 

 

 ミナトの合体忍術と神砂嵐の衝突でその場に巨大な竜巻が発生し、両者を巻き込む試合場全体に突風が吹き乱れる。

 本来雷遁は風遁に弱い相克関係にあるが、ミナトが風遁を強化することに使われたために風遁の神砂嵐に打ち消される要素とならなかった。

 ミナトは術にさらにチャクラを込めて衝突を維持するが、チャクラにおいて圧倒的に余力のあるハジメは神砂嵐を維持しながらも衝突が拮抗するように威力を調整していた。

 手加減をしていることに違いないが慢心しているわけではなく、押し負ければ自身に確実に被害が及び、押し勝てばミナトに自身の忍術も巻き込んだ巨大竜巻をぶつけてしまう事になるので相殺に持ち込むしかなかった。

 

 お互いの術が放たれ終えると衝突点の巨大な竜巻も自然消滅して、試合場は竜巻によって荒れたこと以外は術を放たれる前までに戻った。

 ハジメを縛っていた黄泉沼も合体忍術に全力を注ぎこんだからか、術が解けて只の地面に戻っており土に足が埋まっている状態だった。

 只の土となれば脱出も簡単で、ハジメは足を力ずくで簡単に引っこ抜いて地面から抜け出す。

 

「はぁはぁ…まさか今の術を完全に防がれるとは思わなかったよ」

 

「僕も咄嗟だったとはいえ隠し技を披露することになるとは思わなかった」

 

「さっきの技凄いね。 印も組まずにあれほどの威力を出すなんて」

 

「自慢するものじゃないさ。 この技は本来の使い手がいて僕はそれを真似ただけ。

 練習していただけで実戦で使う予定の無かった技なのに、使わせるまで追い詰めてきたミナトの方がすごいよ」

 

「あれだけ威力があるのに使うつもりのなかった技ってことは、他にもなにかあるってことかな。

 褒めてくれるのは嬉しいけど、まだまだ余力を残しているように見える君に言われてもね」

 

 先ほどまで戦いの流れを保持しておりハジメを追い込んでいたミナトだが、現状では互角の筈なのに形勢は逆転しているように見える。

 術の連続発動に大技を使って息を切らしているミナトと、足を負傷して追い込まれ大技を受けても耐えぬいて落ち着いているハジメでは、体力の差が見え始めていた。

 かといっていまだ戦意を無くしていないミナトに戦術の扱いに劣るハジメは油断する気はなく、ここまで来たら勝つつもりで用意していた中忍試験披露用の術を準備する。

 

「確かに僕はチャクラが多いから余力があるけど、戦い方においてはミナトの方が圧倒的だ。

 多少疲労していてももう流石に油断出来ないよ。

 まあ油断して慢心していたことを教えてくれたお礼に、もう一つ隠し札を使う事にするよ」

 

 ハジメは上着の袖を引っ張ると手首にあるリストバンドを外す。

 そこには刺青のような黒色の文字が輪っかのように連なって手首に書かれていた。

 

「それは呪印かい?」

 

「これ自体は術の補助に使うもので、本来の術の要は僕自身さ。

 呪印術も学び始めたばかりだから大した効果はないけど機能はしている」

 

 説明しながらもう片方の手首の呪印をさらけ出し、ズボンの裾も上げるとそこにある布を外して足首にある呪印を晒す。

 これでハジメの両手首と両足首に呪印がさらけ出されたことになる。

 何かしようとするハジメに対処するために息を整えながら身構えるミナト。

 ハジメは両手を合唱してチャクラを練り上げて呪印を起動する。

 

「本邦初公開、これが僕が開発中の忍術、現身(げんしん)の術だ!」

 

 ハジメが全身からチャクラを放出すると、体外に広がるのに合わせて手足の呪印が体表から離れてチャクラの表面に浮かび上がる。

 陽炎のように浮かび上がっていたチャクラの波が穏やかになり、表面に浮かぶ呪印が広がって、チャクラと言う空気の入った風船のゴムのように力の拡散を抑えた。

 そして出来上がったのはハジメの体に纏われた半分質量を持ったチャクラで出来た体だった。

 

「それが君の開発した術かい…」

 

「実体化したチャクラを纏う事で新たな身体を現す術。

 本来チャクラは実体を持たないが、高密度化と特殊な性質変化によって半実体化させたのがこの術だ。

 これによって体に纏っているチャクラは僕の鎧であり、自在に操作する事の出来る手足の延長になる。

 まだ単独で維持出来ないから呪印によって安定させる補助を受けているが、これなしで維持出来るようになるのが僕の目標だ」

 

 予測出来ると思うが、この術はいずれナルトの使う人柱力の力をモデルにして開発した術であり、チャクラの衣を纏いそのチャクラを自在に操作して攻防に使う事を目的にした術だ。

 このチャクラの衣はチャクラ量によって大きさが変わり、最終的には尾獣や須佐能乎のような巨体にもなれるようハジメは術を開発している。

 今はまだ呪印の補助がいるのは事実で、実戦でも一応使えるレベルだがまだまだ改良の余地がある。

 

 高密度化によってチャクラの透明度が下がり、包まれているハジメの姿は少しボンヤリとしている。

 纏われたチャクラは現在は体表にほぼ均一に纏われており、足の裏にも実体化したチャクラがあることでハジメの足は地面から離れており実質浮いている状態だ。

 均一に覆われた事で纏っているチャクラの形は、角張った所のない丸みを帯びた人型の中にハジメが入っている状態だ。

 

「試合中じゃミナトは足の治療をする隙を許してくれると思えないが、自在に動くチャクラの体は傷付いた足の代わりを果たしてくれる」

 

「っ!」

 

 ハジメは実際の足ではなくチャクラによって出来た足を動かしてミナトに肉薄する。

 チャクラの足によって生み出された脚力は瞬身の術の様に一気に接近し、チャクラの腕で放たれた打撃によってミナトの片方が吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされたミナトは影分身だったために地面に叩きつけられる前に音を立てて煙となって消えた。

 もう片方の本物のミナトは慌てて距離を取り、チャクラを纏ったハジメから離れる。

 

「そしてこのチャクラの体の身体能力は高いぞ」

 

「その様だね!」

 

 ミナトは素早く印を組み、三体の影分身を生み出す。

 更に影分身を合わせて四人のミナトが印を組み影分身とは違うただの分身を無数に生み出す。

 分身影分身乱れる無数に一斉に試合場に散り、本体のミナトがどれなのかはわからなかくなった。

 

「分身と影分身を使った撹乱か」

 

「その外装を纏ってますます接近戦が挑めそうにないからね」

 

 白眼などの特殊な目や感知系の術を持たない者には、普通の分身であっても本体と見分けることは出来ない。

 透視能力を駆使すれば見分けることが出来るだろうが、その手段は問われれば誤魔化しが難しいので今は使えない。

 ハジメは一本の呪印の刻まれたクナイを取り出して構えると、その呪印もチャクラの衣に浮かび上がってその形状を苦無の刃状に形態変化させる。

 

「チャクラの衣に決まった形はない。

 衣の状態を維持できれば形は自在に変化出来る。

 こんな風に!」

 

「なに!」

 

 苦無によって生まれたチャクラの刃を水平に振るうと同時に、刃を伸ばして試合場全体に届く一閃となる。

 かろうじて反応して回避出来たミナト達もいたが、半数近くが霞のように消えて一体ほど影分身が巻き込まれて煙となって消える。

 

「ほんとにとんでもないチャクラだな。

 これはいよいよ腹を括らないといけないか」

 

 ミナトは残った分身達で再度撹乱に走り回る。

 最初の大ぶりの一閃も警戒していて簡単には当たらず、ハジメは小刻みに近くにいるミナトの分身に刃を突き立てて消していく。

 

「いくら分身を作ってもチャクラの無駄になるだけだよ」

 

「それでも君の隙を突くにはこれくらいしないと通用しそうにないからね」

 

 

――風遁・砂煙――

 

 

 すかさずミナトは風遁で砂煙を巻き起こして目くらましをする。

 だがハジメも目隠しには散々慣れてきており、チャクラの刃を風に変化させて一閃させれば掻き消える。

 

「そろそろ目隠しも飽きてきたんだけど」

 

「わかってる、流石にこれで打ち止めさ」

 

 一瞬の煙に紛れて突貫してきたミナトにチャクラの刃を振るうが、両手で包むように生み出されたチャクラの球体によって受け止められる。

 それは衣と同じ高密度なチャクラで乱回転をして威力を上げている、ハジメに見覚えのある術だった。

 

「それは!」

 

「オレもまだ開発中の技だけどそこそこ威力があるよ」

 

 後に螺旋丸と呼ばれるミナトの開発中の技は両手で球体を維持しており、ハジメのチャクラの刃と拮抗したがそれも一瞬。

 螺旋丸を切り裂きそのままミナトを一閃するが、影分身だったために再び煙となって消える。

 螺旋丸を見せられたことで少しばかり驚いたハジメは、それを切り裂いたことで心の隙が生まれ次の行動に支障をきたす。

 

「口寄せの術!」

 

「!」

 

 声に反応して上を見上げれば迫ってくる巨大な影。

 一瞬の隙はハジメから完全に退避の機会を奪った。

 

 

――屋台崩しの術――

 

 

 巨大な影の正体はミナトによって呼び出された巨大な蝦蟇(ガマ)

 その巨体で押しつぶす質量攻撃は普通の人間が受ければ一撃でぺちゃんこになる致死性の攻撃だ。

 無論ハジメも何もせずに受ける気はなく腕を上に伸ばして、チャクラの衣の力でガマの体を押し上げて受け止める。

 ガマの柔らかい体は自身が潰れないように支えても変形してハジメの姿を覆い隠し身動きを取れなくした。

 

「さっきの術も思ったけど僕を殺す気か!!」

 

「君なら確実に生き残ると思ったから全力でやった結果だよ」

 

 致死性の高い攻撃ばかりに叫ぶハジメに、ミナトは意を関せず次の攻撃を仕掛けた。

 口寄せの術を空中で発動したのも影分身で、最後に攻撃を仕掛けてきたのは本体だった。

 蝦蟇にのし掛かられて閉じ込められていたハジメは、口寄せ解除と共に攻撃されると思って警戒していたが、解除されずに密閉空間にミナトが突然螺旋丸を携えて現れた。

 

「なっ!(この密閉空間にどうやって…飛雷神!?)」

 

「これで全部だー!」

 

 ハジメはミナトの攻撃の直前に、足元に起爆札とは違う文様が掛かれた呪符が落ちているのが目に入った。

 それがミナトの後の異名『黄色い閃光』の元となる飛雷神の術のマーキングの文様だと直感的に分かった。

 これまで使ってこなかったのは何か使用に問題があるのかもしれないが、使えはしたという事だろう。

 そんな一瞬の思考の後にハジメは避ける事も出来ず、チャクラの衣で螺旋丸を受け止める事になった。

 

「だああぁぁっぁぁぁ!!」

 

「ぐううぅぅぅ!!」

 

 ハジメはチャクラの衣を操作して体を支える力を最低限に、螺旋丸によって削られる部分に集中させて防御する。

 ミナトも既に体力が限界にきており、この螺旋丸を最後の攻撃として全てのチャクラをつぎ込んでいた。

 その威力は先ほど両断された螺旋丸の比ではなく、すべてを出し切る気でチャクラを両手から注ぎ込み続けた。

 

 ミナトがチャクラをすべて出し切った所で、チャクラの衣を突き抜けてハジメの胴体に接触する。

 チャクラが尽きた事で口寄せの蝦蟇も消えて、動きを封じていたと同時に体を押さえていた力が消えた事でハジメは螺旋丸の威力に吹き飛ばされた。

 チャクラの衣を突き破った螺旋丸は、確かにダメージを与えながら試合場の壁にハジメを叩きつけた。

 

 ダメージは受けたがハジメにはまだまだ余力が残っていた。

 保有するチャクラ量が膨大故に形態の制御を維持出来る限界までチャクラ送り込めば、より強大なチャクラの衣を生成できた。

 だがそれは他の世界で得た力の特性を使った力押しに過ぎず、最初に纏った以上のチャクラの衣を生成する気はなかった。

 攻撃を受けた時に更にチャクラを練って衣に回していれば螺旋丸を完全に防ぎきれただろうが、それをせずに展開していたチャクラの衣のみで突き破られたのなら負けを認めようと決めていた。

 

 ハジメは螺旋丸を受けた所を抑えながら、叩きつけられた壁を出てくる。

 螺旋丸もチャクラの衣で威力が減衰した事で大したダメージになってはいないが、ここでギブアップ宣言の為に大きなダメージを受けたと演出したかった。

 そしてハジメは自分でも納得のいく勝負に満足しながら宣言する。

 

「「ギブアップだ………え?」」

 

 ギプアップ宣言の声が重なる。

 ハジメが宣言すると同時にミナトもまたギブアップの宣言をして声を重ねていた。

 ミナトもまたチャクラをすべて使い切った事で実質戦闘不能で、立ち上がってきたハジメを見て負けを認めようとギブアップしたのだ。

 

「なんで君がギブアップするんだい?

 君はまだ戦えるだろう」

 

「確かに戦えない事もないがミナトの攻撃を受けてダメージを受けてる。

 それに未完成とはいえ隠し札の術を破られたんだ。

 負けを認めても可笑しくないだろ」

 

「オレはチャクラを全部使いきってもう戦えない。

 最後の攻撃を受けても立ち上がってきた君の方が勝者だろう」

 

「確かに残ってる体力で勝ってはいるけど、試合展開は殆どのミナトのペースだったじゃないか。

 体力で勝っている自覚はあっても押されっぱなしだったんだから、とても勝ってたとは思えないんだよ。

 この戦いは体力勝負じゃなくて忍としての力を比べる試合だろう。

 総合的に見て試合は完全にミナトのものだった」

 

「まだ戦えるんなら君の勝ちじゃないか。

 力不足で倒しきれなかったオレの負けでいい」

 

「それなら負けを認めた僕はどうすればいいんだ!

 もうギブアップ宣言しちゃったんだぞ」

 

「それはオレだって同じだよ!」

 

 決勝の試合で両者が立ちながらも同時にお互いにギブアップ宣言をしたことに会場が困惑に包まれる

 二人の言い争いは白熱して戦いが続いている様だが、最終的に両者のギブアップが同時だったことから引き分けと判断され奇妙な試合結果となった。

 そしてミナトは見事な試合運びから、ハジメは既に下忍の枠に収まらない身体能力から中忍試験に合格するのだった。

 

 

 

 

 


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