四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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練習の為に一人称で書き始めています
三人称に戻ったりして読みにくいかもしれませんがご容赦ください


第六話

 

 

 

 

 

「お断りします」

 

 木の葉の里の長、火影の執務室に僕は呼び出されていた。

 第三次忍界大戦は少し前にようやく終結し、戦後の傷跡を癒すために復興が各地で行われている。

 戦場で多くの者が死んだが僕は当然生き残り、ミナトと共にこの場に呼び出されていた。

 

 第三次忍界大戦は数年にも及んだが忍の特性上大規模な集団戦というものは少なく、各地で長々と小競り合いが続き各里がこれ以上の消耗を避けたいという段階に至って終戦となった。

 五尾との戦闘後、尾獣を相手取れると見られた僕は医療班の役目の時折、他里が尾獣を出してきた際のカウンターとして起用された。

 砂隠れが一尾を投入してきた際にも緊急で呼び出されて戦い、現身の術・巨人形態で怪獣戦争を行い、一尾を僕が抑えている間に他の忍が砂隠れ側を攻めるという戦術で勝利をもぎ取った。

 

 五尾を使った岩隠れが保有する別の尾獣四尾を投入された際にも僕が出張る羽目になったが、四尾を抑えているところに土影の塵遁が飛んできた時は流石に焦った。

 塵遁は三つの性質を統合して使う血継限界の上の血継淘汰で、その性質は触れればあらゆる物質を分子レベルに分解する当たれば必殺というもので、流石に僕も現身の術を纏っていても当たれば消滅は免れなかっただろう。

 危険を察知してすぐさま回避したから無事だったが、塵遁を警戒しながら四尾を抑えるのは難しく撤退を決め、制御されていない四尾は纏めて攻撃された事で土影に標的を変えたので僕が抑える必要をなくしその場での戦闘は終結した。

 後でわかった事だが、五尾を返り討ちにしたことで岩隠れが僕を警戒して土影が出張ってきたのだろうという事だ。

 

 僕の主な戦場は岩隠れ砂隠れ方面を担当していたが、ミナトの方は雲隠れ側を担当し八尾の人柱力を相手取ったと後に本人から直接聞くことになった。

 原作でもそういうシーンがあったなと思いだしながら、ミナトが対処しきった事で僕がそちらに呼ばれる事はなかった。

 流石は(のち)の火影であると思ったが、その時は僕も他人事ではないと気づいていなかった。

 

 各里が消耗しきった事で停戦協定が行われ、忍界大戦は終結となった。

 クルミやツミキと共に一緒の部隊にいた山吹先生もその時の戦いで亡くなっており、かつての班員は僕を残して全員亡くなっていた。

 他にも友人と呼べる者ではないが、アカデミーの同期や顔見知りの忍の多くが戦場から帰ってくることはなかった。

 ダイさんも原作通り息子のガイを庇って亡くなったのを里に戻ってから知る事になった。

 

 元の世界でドラえもんの映画の戦争に関わった事があるが、当時は戦力差から一方的なものになり被害も全て無人兵器だったので痛くもかゆくもなかった。

 だが人と人の命をかけた戦争には、確かに痛みを伴うものだと実感する事になった。

 今後も続くだろう長い人生を思えばいい経験をしたと思う反面、同時に戦争はもう嫌だと思いその痛みに抗おうとする原作キャラのメンタルに改めて脱帽した。

 やはり僕は原作キャラのように強くなりたいとは思えないし、成れるとも思えないと改めて実感する。

 どんなに強い力が持てても、僕の本質は凡人なのだろう。

 

 戦争の回想はこのくらいにして、現在僕とミナトが火影室に呼び出され、たった今三代目に対しお断りの言葉を返した理由を思い返す。

 戦争が終わりようやく里も落ち着いてきて、平和な姿を取り戻しつつある木の葉隠れ。

 第三次忍界大戦が終わった先にあるイベントは四代目火影の選出。 つまりミナトがついに火影になるわけだ。

 ミナトは火影室に呼び出されて四代目火影として三代目から推薦の話が来ている事が語られた。

 僕も一緒に呼び出されて同じように四代目に推薦されている事も語られた。

 

 

 ……………なぜだ!?

 

 

 いやいやいや、テンパったが落ち着いて考えれば理由は何となく予想がついた。

 つまり僕も第三次忍界大戦で活躍し過ぎてしまったのだ。

 戦時中も名前が売れた事で木の葉の忍からは憧れの目で見られ、敵からは慄かれるという事が少なからずあった。

 戦争が終わっても木の葉の尾の無い尾獣の名は知れ渡って、若い忍に声を掛けられることが何度かあった。(僕もまだまだ若い)

 そんなことがあってやはり尾獣相手に大立ち回りはやり過ぎたかと反省していた所に、四代目推薦の話。

 

 やり過ぎだった! もしかしなくも無いかもしれないが、ミナトより戦争で活躍し過ぎているかもしれん。

 ミナトに代わって四代目に就任なんて、どんな原作ブレイクだよ。

 火影に成り替わるような二次なんてそうそう見たことないぞ!

 

 内心かなり焦っているが表面上落ち着きを見せながら、断固として火影に成る事を拒否しなければならない。

 僕が火影に成るなどいろいろな意味であっちゃいけないので、全力で拒否だ。

 最悪此処で逃げ出して元の世界に帰還することも吝かではない。

 

「ふむ、もう少し考えてはどうだハジメよ。 お前の活躍は大戦で忍界中に広まっている。

 立候補すれば里の者達の多くがお前を推すだろう」

 

「そうだよハジメ。 君の事は戦時中にもしょっちゅう耳にしたし、オレも君なら火影に成っても可笑しくないと思っている。

 一緒に推薦されたんだし、いつかの中忍試験の決着をこれで着けないかい?」

 

「一体いつの話をしてるんだ。 今更そんな勝ち負けなんてどうでもいいだろう。

 そもそも僕は火影になんてなりたくないし、それに対してお前は昔から火影を目指してきたんだろう?

 こんな時まで競争相手を応援する奴があるか」

 

 ミナトが火影を目指していたのは周知の事実であり、同時に史実の事実だ。

 此処で僕が火影に成る可能性が出てくるなんて、僕自身予想していなかった。

 中忍試験と違って今回ばかりは間違っても勝っても引き分けてもいけないのだから、絶対に土俵に立つ訳にいかない。

 

 大蛇丸? 此処には居ないし、僕が居てもなる事はないだろう。

 

「たしかに火影に成る事はオレの夢だけど、良いライバルがいるなら競い合う事で良い火影を目指せるよ。

 オレが成れなくても君が火影に成ってくれるなら、きっと良い里にしてくれると安心出来る」

 

 安心しないでくれぇ!

 なんでコイツこんなにポジティブというか、あらゆることに前向きに考えられるんだ。

 僕ってスパイではないけど忍術を求めてやってきたよそ者で、木の葉に全面的に帰属してるってわけじゃないんだよ。

 裏切る気ももちろんないけど、積極的に木の葉を良くしていこうなんて考えてもいないよ。

 そんな奴が火影に成ろうなんてありえないだろう。

 

 火影に成った人達はそれぞれ里の事を大切にしており、そのために心血を削ってきた事はよくわかっている。

 そんな人達を僕は尊敬しているが、それを継ぐのが中途半端な僕なんて許せるはずがない。

 僕が成るくらいなら、原作で悪役全開でも木の葉の事を考えていたダンゾウの方がマシだろう。

 今のグレて里抜けしていない大蛇丸が里の事をちゃんと考えているというのなら、そっちの方がもう少しマシかもしれない。

 

 結論から言うと、里を愛しているとは言えず信念の無い僕がいくら強くても、火影の席になど着くわけにはいかないのだ。

 火影というものを尊敬できるからこそ、僕のような存在が成る事で汚されるのが許せない。

 原作ブレイクを今更ではあるが気にしてもいるが、どちらにせよ僕が火影に成る事はあってはいけないのだ。

 

「勘弁してくれ、僕が安心出来ないんだよ。 火影が僕に務まる訳がないし、何より相応しいと思えない」

 

「自分を貶すようなことは言うもんじゃないよ。

 火影にふさわしいかどうかは自身が決めるんじゃない、里の皆が決めるんだ。

 オレ達は推薦されてこの場所に立っているのだから、ちゃんと火影にふさわしい資格がある筈さ」

 

「たとえそうでも僕は火影に成る気はない。

 ですので推薦による立候補については辞退させていただきます、火影様」

 

「んむ、そこまで頑なでは仕方ないの。

 だがハジメとミナト、お前たちは先の大戦で名を上げ力を他里に見せつけた。

 その戦いぶりは一介の忍ではない事を示し、間違いなくこの木の葉でトップクラスの実力を持っている事を証明している。

 尤も強い忍が火影の名を背負うが、例え火影でなくてもお前達が既に一介の忍に収まらぬ影響力を持っている事を自覚してほしい」

 

「わかりました」

 

「了解です。 正直一介の忍でいたかったんですけど、なぜ火影にまで推薦されることに。

 忍者病院の院長だって手に余っているっていうのに」

 

 戦争から戻ってきたら、いつの間にか忍者病院の院長の座を押し付けられていた。

 前院長の綱手様は手続きが終わってすぐに里を離れて旅に出たと、後になって報告を受けた。

 戦争前は綱手様の補佐として副院長を押し付けられていたが、まさか院長まで押し付けられるとは思わなかった。

 正直拒否したかったが僕は既に綱手様を除けば名実ともに医療忍者のトップになっていて、代わりになる人物が一人もいなかった。

 副院長をやっていた手前、顔見知りの医療関係者を見捨てる訳にもいかず、しぶしぶ院長を務める事になってしまった。

 

 綱手様もそれが解っていて僕に押し付けたのだろう。

 原作では綱手様は里を出て放浪していたのだし、結局この時期に出ていくはずだったんだろう。

 しわ寄せが僕に来てしまったのは不満だが、今後は後任の務まる医療忍者の育成に努めるしかなくなった。

 後任が見つかるのは当分先になるだろう。

 

「そういえば忍者病院の院長に就任したんだってね。 おめでとう」

 

「それは嫌味か?」

 

「え、何かまずいこと言ったかい?」

 

 本気で祝ってくれたのは分かったが、僕が嫌がっているのに気づかないあたりがミナトの天然な所だ。

 

「…いや何でもない。 ともかく火影の候補については辞退しますので、これで失礼します」

 

「ああ、わかった。 辞退についてはしっかり聞き届けた」

 

 そうして僕は火影室を退室する。

 ミナトは火影を目指している以上推薦を受け入れるだろうし、それならば話がまだあるのだろうと部屋に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火影室を出た後仕事場の病院に戻らず、とある場所に向かっていた。

 その場所は戦争が終わった時から、人が多く集まっていて混雑していたのでなかなか行くに行けない場所だった。

 だが戦後の落ち着きを取り戻してきたことで人の集まりも減り、せっかくなので帰りに寄っていこうと向かっていた。

 

 その場所に近づき後は一本道と差し掛かったところで、前方から歩いてくる人物がいた。

 そのままお互いに歩き続けて、すれ違い、振り向きもせず歩いていく。

 この先は一本道なので、今の人物も僕が向かっている先から帰っていくところなのだろう。

 

(はたけカカシか…)

 

 すれ違ったのは口元を布で覆い隠し左目を額当てで覆い隠していた。

 知っているよりずっと若い姿だが、そんな特徴的な服装をしている人物はミナトの教え子のはたけカカシしかいないだろう。

 

 僕が向かっている場所は戦死者を祭る慰霊碑が建っている場所。

 おそらく彼も忍界大戦で死んだ班の仲間の事を考え、忘れないように彼らの事を思い返す為にその場所に行っていたのだろう。

 

 僕も死んでしまったクルミや山吹先生、そして死ぬのを止められたツミキの事をもう一度思い返す為に名前の刻まれた慰霊碑の場所へ向かう。

 死者の冥福を祈る、なんてことをする為ではない。

 彼らは仲間だったが、そんな彼らが死んでも泣く事すら出来ず、一度は生き残ったツミキが死ぬと解っていても止めることが出来なかった自分を、見つめ直すためにその場所に行く。

 気持ちの整理が着いた時、初めて僕は彼らに対して祈ることが出来るだろう。

 その為に僕は慰霊碑の前に立つ。

 

 慰霊碑が見えるとその前に一人座り込んでいるのが見えた。

 最近まで多くの人が訪れていたが、さっきすれ違ったカカシを除いても一人しか残ってないのは里が落ち着いてきた証拠だろう。

 戦死者が忘れられつつあるように見えるのは寂しいものだが、生き残った皆が前を向いて歩きだしている証でもある。

 それでも全ての者が亡くなった者の事を、過去として受け入れることが出来ず歩き出せない者がいる。

 今慰霊碑の前に座り込み涙を流している者の様に。

 

「やっぱりガイか」

 

「ッ! …ハジメさんですか」

 

 特徴的なタイツを着ているので、後ろ姿だけで誰か分かった。

 アカデミー入学前にダイさんに紹介されて、幾度か修行に付き合った事のあるマイト・ガイだった。

 ダイさんが亡くなった話は耳にしており、原作でも死ぬと知っていただけに泣いているガイには後ろめたい思いが沸く。

 だからといってどうにかできる問題ではなかったのは、当の昔から解り切っている事だ。

 

「ずいぶん久しぶりだね。 最後に会ったのは君がまだアカデミーにいた頃だったか。

 戦争で忙しくなってからは訓練も皆と都合が付かなかったから、ダイさんと最後に会ったのもだいぶ前だ。

 …ダイさんが亡くなった事も聞いている」

 

「は゛い゛、パパば僕を゛庇っで死ん゛だんでず。 ズズッ! 僕がもっと強かったら!」

 

 涙を堪えながらガイは力の無さを悔しそうにその時の状況を思い出す。

 

 ダイさんは万年下忍で本来は亡くなっても話題にも上がらない筈なのだが、その死に様から噂として大きく広がった。

 ガイを庇ったという話は噂話には聞かなかったが、原作通りダイさんは霧の忍刀七人衆に追い詰められたガイを逃がすために戦い、敵の半数を返り討ちにして亡くなったという。

 

 下忍にあるまじき戦果に話題となったのだが、死因は八門遁甲を全て開いたことによる死だ。

 八門遁甲は凄まじい力を発揮できるが、全開にすればその代償に命を使い果たす禁術だ。

 ガイを守るために使った時点で、ダイさんの死は戦いの結果に関わらず確定している事だった。

 

「強かったらか…。 いくら強くても守れないものはある。

 何かを守るのに必要なのは本当に強さなのかな?」

 

「ハジメさん?」

 

 彼のもっと強かったらという言葉に思う事があり、ガイに強さの意義を問い掛ける。

 話をする為に僕は慰霊碑の前に立ち、ガイの横に座り込んだ。

 

「なあガイ。 僕は強いと思うか?」

 

「え? …はい、ハジメさんは戦争で多くの人を守って最も活躍した人だって皆話してます。

 次期火影候補だって話も出てますよ」

 

 僕の戦績はだいぶ噂になっていると思い、ガイに訊ねれば案の定知っている様だった。

 修行に付き合った事はあったが僕の強さを見せた事はなかったので、強いかと聞けば噂を参考にしたものしかガイは知らない。

 

「ははは、やっぱりそんな噂が立っているのか。

 ついさっき火影様に呼ばれて、四代目の推薦の話を聞いてきたところだよ」

 

「そうなんですか!? おめでとうございます!」

 

「断ったけどね」

 

「ええ!?」

 

 断った事に驚くガイだが、火影は木の葉の全ての忍の憧れであり、若い忍であれば断る事はあり得ない事なんだろう。

 

「どうして断ったんですか!?」

 

「火影室でも同じように推薦を受けたミナトに聞かれたけど、相応しくないと思ったからかな」

 

「そうなんですか? 僕はハジメさんがどれくらい強いのかパパから聞いたことしか知りませんけど、皆すごいって噂してますよ」

 

「強さは火影に必要な物かもしれないが、もっと大切なものが僕には全然に足りないんだ」

 

 それは僕には決して手に入らない物だろう。

 

「もっと大切なもの?」

 

「何だと思う? ちなみにダイさんは間違いなく持っていたものだ」

 

「パパが!? 考えてみます!」

 

 ダイさんの名前を出すと、ガイは真剣に頭をひねって考えだす。

 難しい事ではないし考える必要があるほどの物でも無いが、真剣に考えるその姿を眺めゆっくり答えを待つ。

 ダイさんとガイは普段から暑苦しいほどポジティブに青春を語っているが、何事にも常に一生懸命に取り組み、失敗も笑われる事も恐れないその姿勢は僕には非常に眩しく見える。

 

 考え込むガイがふと僕の顔を見た後に、何かを思いついて目を見開く。

 

「やっぱり青春でしょうか!?」

 

「君等らしい答えありがとう。 そんなに僕が青春を無駄にしているように見えるかな?」

 

「あ! いえ、そのすいません!」

 

 意地悪な返事をするとガイは頭を下げて謝られるが、聞きようによっては非常に失礼な答えに違いない。

 彼等らしい答えだが、熱血とは無縁の僕には彼らからすれば青春を無駄にしているように見えていたのだろうか?

 まあ否定出来ない所ではあるので、意地悪以上の反論は出来ないのだが。

 

「冗談だよ。 君達親子からすれば僕は青春とは程遠い生き方をしていると思うからね。

 まあ君達が人より青春に生き過ぎていると言えなくもないが…。

 それで答えだけど、それは決して間違いじゃないと思う」

 

「そうなんですか!? やっぱり青春ってすごいよパパ!」

 

 嬉しそうに青春の素晴らしさを感じてダイさんの名前を上げるガイ。

 彼の青春へのこだわりはまさしくダイさん譲りだ。

 

「すごいのは青春に生きようとする君であり、生き抜いたダイさんだよ。

 その生き方は僕には真似出来ない物だ。

 そして火影に…いや何かを成そうとする者に必要な物で僕が持ってない物だ」

 

「何かを成そうとする者ですか?」

 

 ガイがいまいち理解出来ないといった様子で首を傾げる。

 

「つまりは信念、或いは強い意思だよ。

 人は”何かをしたい””何かに成りたい”と思う時、強い望みから確固たる意志が生まれる。

 その意思の元に行動して何かを成そうとする過程こそ君等の言う青春であり、生き様とも人は呼ぶ。

 僕にも成したい事が無いわけではないが、それを成そうとする意志は君等よりもずっと弱い物だ。

 必死さというものが足りないんだよ」

 

 僕は自身の意志が強いなどととても言えない。

 今世の人生は四次元ポケットのお陰でヌルゲーに近く、望めばほぼ何でも叶えることが出来るという恵まれた状況にある。

 それが悪いわけではないが、普通の人間であれば困難に立ち向かってようやく達成出来る目的を、僕はひみつ道具で容易に達成出来てしまうのだ。

 それはとても幸運なことなのだろうが、どんな事でも容易に出来てしまうなら困難というものはあり得る筈がなく、それに立ち向かうような強い意思は育まれない。

 本当に何でも出来てしまうという事は、困難を乗り越えた先にある達成感を無くしてしまうのだ。

 

 だからこそこの世界での忍としての活動にはひみつ道具を極力使っていないが、もし強い望みが出来たのならば、僕はなりふりなど構わず最終的にひみつ道具に頼ってしまうだろ。

 本当に強い望みなら安易な道と困難な道があれば安易な道を選ぶのは当然なのだから。

 だが僕と違って、強い力を持たずとも困難な道しかなくても物語の中の彼等は諦めずに立ち向かい、最後にはその壁を乗り越える心の強さというものを持っている。

 それは僕が憧れるものであり、決して手に入らない物だと確信している。

 

「必死さを持てない理由はいろいろあるが、それではとても火影を務めることは出来ない。

 そして僕自身が火影を務めてきた人達を尊敬しているから、信念を持てない僕が火影に成る事でその名を貶めたくはないんだ。

 どんなに力があっても中身の強さが無いのでは相応しくない。

 それならどんなに力及ばなくても、確固たる信念を持っていたダイさんの方が僕なんかよりずっと火影に相応しい。

 命を捨ててでも君を守ると決めてやり通したダイさんを、僕は火影と同じくらい尊敬しているよ」

 

 あり得ない話だが、もし僕が火影に成って困難にぶつかった時、ひみつ道具に頼る事など当然する訳にはいかない。

 歴代の火影であれば困難をその意思で乗り切って見せるだろうが、ひみつ道具という保険を持っている僕には使わずに乗り切ることは出来ないだろう。

 原作の事情というものもあるが、どうあれ火影など僕には務まらない事に変わりないのだ。

 

「僕は嬉しいです。 ハジメさんがパパを尊敬していると言ってくれて。

 だけど自分の事を嘲らないでください! パパがここに居たらきっと怒りますし僕も怒ります!」

 

「そうだね、ダイさんならこんな後ろ向きな考えを言ったらもっとやる気を出せ!と言いそうだね」

 

 自分を貶めるような言い方は、まっすぐな彼らにとっては誰であっても許せない事なんだろう。

 ガイの怒気を感じるが、僕にとっては正しい自己評価だと思っているので大して揺るがない。

 変な言い方だが、内面が弱い事は確信しているのだから。

 

「そうです、パパならきっとそう言います!

 だからハジメさんも自分に自信を持ってください。

 パパは昔ハジメさんにいろいろ教わって強くなることが出来たって言ってました。

 パパもハジメさんの事を自分の師匠だと尊敬してたんです」

 

「大したことを教えた訳じゃないけど、ダイさんがそう言ってくれてたのなら光栄だ」

 

 初めて会った頃のダイさんは、体力はあってもアカデミー生ですら知っている技術を知らないほど忍の技術に疎かった。

 正直なんで下忍に成れたのか不思議なくらいだが、おそらく彼が幼い頃はまだアカデミーの形式がしっかりしていない頃だったんだろう。

 忍者になるのもチャクラが使えればいいくらいで、その他の適性を判別するほど余裕のない時代だったのではないだろうか。

 教育も行き届いていなかったから実践教育主義で、能力の低かったダイさんは学べなかったのではないかと僕は思っていた。

 

「だけどダイさんが僕より強いって思うのは本気だ。

 本当の強さは、どんな困難にぶつかっても諦めずに前を進み続けられる人だと僕は思う。

 僕は確かに人より強いのかもしれないが、他の人が困難だと思う事を困難と思わずこなしてきただけで、そこに諦めない意志の強さなどなかった。

 それに比べて体術にのみに頼らざるを得なかったダイさんやガイは、大きなハンデを背負っていても諦めず壁にぶつかっても乗り越えてきたんだろう。

 そんな君達が弱いはずがない」

 

「…けどどんなに心が強くて諦めなくても、僕には力が足りなくて何も出来なかったんです。

 僕がもっと強かったらパパを死なせずに済んだのに」

 

「そうかもしれないけど、戦いの場で無い物強請りをしたってしょうがない。

 今は弱くても諦めなければ、いずれ君は望む強さを手に入れることが出来る。

 少なくともダイさんは君を守るという強さを手に入れていた。 そして守り通した。

 死んでしまった事は悲しいが、ダイさんの生き様は…青春は成し遂げられた」

 

「パパぁ…」

 

 ガイを守り通す事がダイさんの青春だと言った時、再びガイは滂沱の涙を流してダイさんの事を思い出す。

 それは悲しんでいるだけでなく、どこか嬉しそうな表情を涙ながらに見せていた。

 ツミキ達が死んだとき、素直に泣く事の出来なかった僕には少し羨ましく感じた。

 

「ガイはこれからもダイさんの様に青春を追いかける生き方をするんだろう?」

 

「ぐすっ…はい。 僕はパパの教えてくれた青春の素晴らしさを証明する為に立派な忍になるんです!」

 

「ダイさんの青春は十分証明されただろう。

 忍刀七人衆を返り討ちにし、君を守り抜いた。

 ガイの青春はガイ自身の物だ。 これから先は君自身の青春を証明していけばいい」 

 

「っ! はい!」

 

 嬉しそうに返事をするガイに、僕らしくもなく青春を語り過ぎて少しかゆくなりソッポを向く。

 青春青春と言葉にすると青臭くしか聞こえないが、ダイさんたちの語る青春は素直に尊敬できるせいか、自分らしくもなく青春について語ってしまった。

 彼らの様に青春に生きられるわけでもないのに、青春のエキスパート?に青春を語るとは。

 さっきから青春という単語を使い過ぎてゲシュタルト崩壊起こしそうだ。

 

「…ハジメさん。 ハジメさんは僕が強くなると言ってくれましたよね」

 

「ああ、君なら最後まであきらめず立派な忍者になれるだろう」

 

 言っては何だが原作でそれは証明されているし。

 

「だけど僕はまだ弱い。 だからおねがいがあります。

 少しでも早く強くなるために僕を鍛えてくれませんか?」

 

「ん? それは僕に君の先生をやれってことかい?」

 

「パパはハジメさんに教わって強くなったように、僕も何かハジメさんから教わりたいんです」

 

 突然の申し出に僕は戸惑い、少し考え込む。

 僕は大戦前に上忍になったが、直に病院に配属されたので担当上忍を勤めた事はない。

 病院の医療忍者志望の後輩には今も医療忍術を教えているが、通常の忍者としての教育はしたことが無い。

 ダイさんに教えたと言っても、基本知識と訓練法だけで肉体的な下地自体はちゃんとあったのだ。

 正しい技術を学んで実力を発揮できるようになったに過ぎない。

 

「…ダイさんに教えたのは当時知らなかった基本的な忍びの知識で、あの人の力を発揮出来るようにしただけだよ。

 誰かの教育なんて医療忍術以外したことないから、ガイの期待に応えられるとは限らないよ」

 

「かまいません! 僕、今は少しでも早く強くなりたいんです。

 僕よりずっと強いハジメさんが教えてくれるなら、きっと強くなれます」

 

 ダイさんに教えたという事実が、ガイに異常な期待を持たせているらしい。

 だけど僕も彼の成長を見守りたいと思っていた所だし、原作に劣る様にならないなら少し手を貸してみたいとも思う。

 ガイとその生徒になるリーは、主人公のナルトに負けないど根性キャラだ。

 自分が教えるなど烏滸がましいと自虐しないでもないが、僕の模索した修行法や技術を教えたらどうなるだろう。

 だいぶ興味がわいてきた。

 

「…あまり期待されても修行の成果を約束することは出来ないが、ガイが望むのであれば君の修行に協力しよう。

 ただし僕も病院の勤務があるから、付きっ切りという訳にもいかないけどいいかな」

 

「はい! よろしくお願いします、ハジメ先生!」

 

「ああ、よろしく」

 

 僕がこの世界で忍術の習得以外に、少しだけやりたいことが出来た瞬間だった。

 

 

 

 

 

 




無茶苦茶難産でした。
それでも会話形式がいまいちだし、納得いかなくても無理矢理仕上げた作品です

戦争の物悲しさを自分なりに表現してみたのですが、感じ取れたでしょうか?
どのような感情であれ、作品で人の心を揺さぶることが出来るのがいい作品だと思っています。
喜びも悲しみも怒りも、作品を見て共感し文字通り感情を動かせたのなら感動する作品なのでしょう。

そういう作品を自分はもっと書いてみたいですね。

でも鬱になる展開を書くのは自分も苦手なので、やはりほのぼのとした愉快な表現が出来る展開が、自分はやっぱり好きです

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