四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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閑話 修行編 ドラゴンボール シャーマンキング

 

 

 

 

 

・ドラゴンボール世界編

 

 

 

 ハジメが最初にコピー達を送り出したのはドラゴンボールの世界だった。

 パワーインフレが激しい世界だがその分強くなりやすい世界だと、他の世界に行っても通用するように最初の世界として選ばれた。

 この世界でコピー達がみっちり修行して力を得てから、更に他の世界に能力を得る為に送り出される予定だ。

 

 この世界の原作に関わる予定はないので原作開始前の時代に降り立ち、まずはこの世界での修行に必要な物を用意することにした。

 

「というわけで、仙豆ゲット」

 

「ドラゴンボール世界の修行にはこれは必要だよな」

 

「それよりさっさと増やしてから交換した物を返すぞ。 カリン様に見つかったら不味い」

 

 最優先で入手したものはカリン塔で作られる回復アイテムの仙豆だ。

 原作でも負傷した仲間の回復に重宝されて、瀕死からでも食べれば回復し体力も復活するゲームのエリクサーのような全回復アイテムだ。

 ひみつ道具でもこんな便利な回復アイテムはないので、修行での疲労回復にハジメは真っ先に手に入れる事にした。

 

 ただ仙豆を作っているカリン塔に住むネコの仙人カリン様は心を読むことが出来、ひみつを抱えている者には鬼門のような存在で、ハジメも接触は避けたかった。

 そこでひみつ道具【とりかえっこふろしき】で壺に収められている仙豆数個と石ころを交換し、【フエルミラー】で数を増やしてから、バレない内にすぐに石ころと交換し直して本物の仙豆を返した。

 後はコピーした仙豆を再度フエルミラーで増やせば仙豆の使用に困らなくなった。

 

 続いて修行に関してだが、ハジメ達はひみつ道具を持っていても能力は普通の人間でいきなり過酷な修行は出来ない。

 孫悟飯のように恐竜がいるような荒野にいきなり放り出されて生き残れるような潜在能力も無くサイヤ人でもないのだ。

 この世界に来たことでこの世界の人間の特性をハジメ達は得ているが、それはあくまでこの世界の地球人と同程度の資質に過ぎない。

 素質を高めるためにドラゴンボールに願ってサイヤ人になるという考えもあったが、そうなるとハジメは欲が出てスーパーサイヤ人の2や3や4だのゴッドだのを目指したくなってしまうからしない事にした。

 サイヤ人になれば十分強くなれるかもしれないが、ハジメは自身の素質というものをあまり信用しておらず、主人公のような幾度も命を賭けた戦いの果てにたどり着く領域に、自身がそう簡単に辿り着けるとは到底思えなかった。

 仮に同じ経験をしたとしても同じくらい強くなれるとは素質的に思えず、そんな厳しい経験をしてまで強くなる意欲はないので、地球人のままでも強くなれる所まで強くなることにした。

 それに仮にも種族を変えるという事は人間をやめるようなものなので、ハジメは強さは得ても極力人間をやめたくないと思っていた。

 

 話を戻し修行なのだが、肉体的に一般人とさして変わらないハジメ達は最初から原作キャラのような過酷な修行は出来ない。

 そこでまずは、原作での初期の修行風景である亀仙流の修行を参考にすることにした。

 といっても主に参考にするのは亀の甲羅を背負い続けるような、重りを付けて動き回る事くらいだ。

 牛乳配達はともかく蜂の巣を突っついたり素手で畑を耕すのは、ハジメ達も流石にやりたくはなかった。

 

 更にこの世界の地球で修行に適している場所は神の神殿だと思ったので、【入りこみ鏡】で鏡面世界のだれもいない神の神殿を修行場所に選んだ。

 有名な精神と時の部屋も鏡面世界であっても使えたが、余りに過酷な環境なので今のハジメ達には中で生活する事も出来ずまだ手を出さなかった。

 

 こうして鏡面世界の神の神殿でまずは亀仙流の修行(重り修行)をハジメのコピー達は始めた訳だが…

 

「じ…死ぬぅ……」

 

「あ、頭が~……」

 

「低酸素環境、甘く見てた…」

 

「おい、こいつ顔が黄土色になって気を失ってるぞ!」

 

「【お医者ごっこかばん】~!」

 

 初日にして倒れる者が続出するというひどい結果だった。

 神の神殿は地表からはるか上空に浮遊している半球状の建物で、空気が薄いために酸素が取り込みにくい分過酷な環境で体を鍛える事に向いているが、一般人と変わらないハジメ達では重りを付けて走り回るだけで疲労を通り越して呼吸困難や頭痛に陥り倒れる者すらいた。

 いわゆる高山病というもので、低酸素環境に慣れない内はまともに運動もこなせなかった。

 

「とりあえずはここの環境に慣れてからまともな修行を始めよう。 下手したら本当に死人が出かねん」

 

「そうだな。 それまでは【おもかるとう】で重量を増やした服を着て生活するだけに留めよう。 息切れするほど動き回らなければ重りの修行は有効の筈だ」

 

 ハジメ達はまずは神殿の環境に慣れるために無理な運動をせずに重りを付けたままの生活をすることにした。

 息切れで倒れないようにすこしづつ運動限界を見極めて、早いか遅いかわからないが一か月ほどで地上と変わらず動いても息切れしないようになった。

 ちなみに重りになっている服の重さは20キロから始めている。

 

 

 

 環境に慣れて動き回れるようになったら、後はひたすら重りを抱えて動き回るだけだった。

 ドラゴンボール世界の特性か、重りの重量にもたいして時間はかからず慣れ始めて、慣れた分負荷を増やすために重量を増加していった。

 戦いの修行と言ってもハジメ達は武術など教わる相手がいないので、ひたすら走り回って体力をつけるかコピー同士で武術の真似事のような組手モドキをやっていた。

 そんな中で異色の修行をやっているコピーの集団がいた。

 

「「「「「かめはめ波ー! かめはめ波ー! かめはめ波ー!」」」」」

 

 腰溜めから両手を揃えて前に突き出す動作を、何人ものコピーが声を揃えながら行う光景は非常に異様だった。

 その様子を監督するように見守っていたハジメの一人が声を開ける。

 

「どうだー、出そうか?」

 

「いまいちわからん。 手ごたえがあるような気がするんだが、何も出ないんじゃな」

 

「手探りで【気】を使おうってんだから無理もないけどな」

 

 誰もが見ての通り、このハジメ達はかめはめ波を使う練習している。

 かめはめ波は当然【気】を使う技だが、教える存在のいないハジメ達は手探りで気の使い方を覚えるしかなかった。

 この世界の人間の強さを表す戦闘力を測るスカウターをハジメ達はハツメイカーで作って自分達を測ってみたところ、平均戦闘力30と一般人の約六倍の強さが表示されたのでここらで気の特訓を始めてみようとした結果が、かめはめ波の一斉合唱だ。

 もっといい修行法は無いのかと言いたいが、気の明確な修得方法は原作にも無かったのでこのような結果になった。

 同じハジメ以外誰もいない神の神殿なので恥をかなぐり捨ててこのような事をしているが、他の人がいればハジメ達も恥ずかしくてとても出来ない訓練だっただろう。

 

『バスンッ!』

 

 突然乾いた音が響いた。

 

「何だ今の音?」

 

「で、出た…」

 

 かめはめ波の練習をしていた一人が震えた声でそう呟くのが聞こえた。

 

「なんだって?」

 

「屁か?」

 

「屁じゃねえよ! かめはめ波(っぽいの)だよ!」

 

「「なにぃ!」」

 

 それを聞いたハジメのコピー達が一斉に叫ぶ。

 

「おい、もう一回やってみろ!」

 

「待て、今気合を入れ直すから! スゥ…ハァ…スゥ…ハァ…」

 

 ハジメの一人が精神統一に深呼吸をして気合を入れ直し、再びかめはめ波の構えに入る。

 

「か~め~は~め~波ーー!!」

 

『バシュッ!』

 

 突き出した両手の先にわずかな黄色い光が発光して、その後に少量の煙が舞い上がる。

 気持ちを落ち着かせて再度気合を入れ直したためか、最初の時の音よりしっかりした射出音が聞こえた。

 

「「「ウオオオオォォォ!」」」

 

「やったじゃないか!」

 

「ついにかめはめ波っぽいのが出るようになったぞ!」

 

「無駄に恥ずかしい真似をし過ぎて、もう慣れちまったかいはあった」

 

「おい、もっとやってコツを掴め!」

 

「おっしゃ! 今度は更に気合を入れて」

 

 かめはめ波(っぽいの)が成功したハジメは興奮した周りに乗せられて、何度もかめはめ波(の出来損ない)を出して気を使う感覚を覚えようとする。

 湿気た線香みたいなものしか出なくても、光を発しているだけあって気は確かに放出されている。

 情けない練習の果てに、ついに気の使い方を見つけ出したハジメの一人だが…

 

「ゼハァ…ゼハァ…もう限界…」

 

 何回もかめはめ波(のスカ)を撃ったところで急激に疲労してへたり込んだ。

 一般人の六倍の戦闘力でも慣れない気を無駄撃ちすれば、急激に消耗するのは解り切った事だった。

 

「戦闘力はどうなってる?」

 

「戦闘力2まで減ってる。 カスだな」

 

「頑張った僕に言う事か! 言いたかっただけだろ、ぐふぅ…」

 

 ツッコミを最後に体力を使い果たして倒れこむハジメのコピー。

 

「あ、戦闘力1まで下がった。 さすがに不味い」

 

「ほれ、仙豆だ」

 

「むぐ、ポリポリ………良し、復活。 やっぱり仙豆は下手な栄養ドリンクより効くな」

 

「ともかくこれで気を使う取っ掛かりは掴めた訳だ」

 

「修行が終わったら全員一度統合して経験値を纏めたら、明日からはもっとしっかりした気の訓練を始めよう」

 

「気を使えば消耗も激しくなるから、仙豆をフエルミラーで増やしておこう」

 

 ハジメのコピーはそれぞれ別の修行をすることで、一人に統合した時に別々の経験を一つにすることが出来る。

 そこから更にコピーで増えれば統合した経験値を持つハジメのコピーが生まれるので、コピーの人数分修行の経験が加速する。

 此処からハジメの気の修行は一気に加速しだした。

 

 

 

「ドラゴンボール世界の気=戦闘力には基本戦闘力と最大戦闘力というものがある。

 普段の戦闘を行っていない時の通常の気と、気を高める事で戦闘力を増大する戦闘時の気があるってピッコロさんが言ってた。

 界王拳やスーパーサイヤ人かなんかは、気を高める技術や能力そのものと言っていい」

 

「つまり強くなるには体を鍛える事で基本戦闘力を高めると同時に、最大戦闘力を上げる気の高め方を鍛えればいい訳だ」

 

「けど気を高めるってどうやればいいんだ?」

 

「やっぱり座禅とかか? ピッコロさんが浮かびながら座禅を組んで気を高めてる修行が印象に残ってるし」

 

「流石頭脳系戦士のピッコロさん」

 

「舞空術はまだ出来ないから普通の座禅から始めるか」

 

「かめはめ波みたいな気功波の練習もしないと」

 

「コピーで数に困らないんだし、手分けしてそれぞれの技の練習を重ねよう」

 

 ドラゴンボールの気の技は必殺技ばかりではなく、小手先技といった基本技能も重要な要素だ。

 気を高める技術もそうだが、気の感知や舞空術もサイヤ人編以降からは基本技能として大抵のキャラが使える様になっている。

 気の修行をする以上、その辺りも当然使える様になるつもりだった。

 

「ところで舞空術ってどうやって使えばいいんだろう? 気の感知は気が使える様になってきたら、ほかの奴らの気を何となく感じられるようになってきたし、後は慣れればいけそうな気がする」

 

「悟飯の特訓風景は原作にもあったけど、詳しい仕組みとか出てなかったしな」

 

「舞空術を使えない頃の悟空が足から出したかめはめ波で飛んだこともあったけど、あれじゃないだろ?」

 

「舞空術も気のコントロールを続けながら手探りで覚えるしかないな」

 

 こうして手探りで舞空術の使い方を探し始めたが、フリーザ編以降の宇宙人キャラに気のコントロールの概念が無くても空を飛ぶ技術があった事から、気が十分にあれば割と簡単に飛べる技であり、気のコントロールが進んだ飛び方にも容易に辿り着いた。

 気功波を浮かばせる要領で自分の体内の気で体を持ち上げれば飛ぶことが出来るのだとわかった。

 ただし分かったからと言ってまだまだ気のコントロールの甘かったハジメ達が直ぐに飛べるという訳でもなかった。

 

「ぎゃああぁぁぁ落ちるぅぅぅ!!」

 

「まずい、神殿から落ちたぞ!」

 

「【タケコプター】!!」

 

 操作を誤ってはるか上空にある神殿から落っこちる者が出てから、舞空術の練習には緊急時の為にタケコプターの着用をするようになった。

 

「気円斬!」

 

「気功砲!」

 

「魔貫光殺砲!」

 

「繰気弾!」

 

 訓練を重ねてだいぶ気に余裕が出来てくる頃には、それぞれ原作キャラの技の練習もだいぶ形になっていた。

 しかしまだまだハジメ達の気の量が少ないので、どれもまだまだ見掛け倒しとなっている。

 

「気の操作には慣れてきたけど、まだまだ再現が足りないな」

 

「だけどやっぱり繰気弾って、普通の気弾の遠隔操作技術で必殺技じゃないよな」

 

「威力も弱いし気円斬にも遠隔操作技術があるから威力負けしてる」

 

「気のコントロールの練習にちょうどいい技なんだけどな」

 

「それと気功砲も仕組みがわからないから、実際には再現出来てないんだよ」

 

「放つと四角い大穴が地面に空くってだけで、気功波が飛んでる描写が無いからさっぱりなんだ」

 

「気合砲を一方向に向けて打ち出してるだけなんだっけ?」

 

「それもそれで技術が必要だったんだけどな」

 

 原作の真似事ばかり練習しているが、気の熟練には非常に役立っていた。

 

 気のコントロール技能も上がり、ハジメ達はそろそろ重力修行に挑戦する事にした。

 原作では重力室などが必要だったが、ハジメ達はひみつ道具の【重力調節機】を用意していたので神殿全体の重力を0Gから100Gまでコントロールすることが出来た。

 目標はフリーザ編の悟空と同じ100G、つまり百倍の重力までハジメ達は克服するつもりだった。

 しかし当然いきなり100Gなど無理なので、5Gからの挑戦を始めた。

 悟空の最初の重力修行は界王星の10倍の重力だったが、ハジメ達が同じように出来ると思わなかったのでその半分から始めた。

 

「んぐ、思ったよりは耐えられるな」

 

「だけど普段の負荷の五倍だから、単純計算で疲労も五倍になる」

 

「疲労は仙豆頼りで回復出来るからいいが、歩くだけで少し床にひび割れが出来ているぞ。

 このまま重力を増やして修行で激しい運動を続けたら床が抜けるんじゃないか?」

 

「神殿の床下は部屋があって空洞になってるし、修理は【復元光線】で出来るとしても床が抜けて落ちるのは不味いな。

 どうする?」

 

「舞空術で体を持ち上げて増えた重量を相殺すればいいんじゃないか?」

 

「なるほど、そうすれば舞空術の修行も出来て一石二鳥だな。 悟空達もそうやってたんじゃないか?」

 

「素の体重が50キロだとしても100倍になれば5トンになる。 人間の足の地面に接する面積じゃ立ってるだけで普通はめり込むだろうし床が持たないから、多分そうなんじゃないか」

 

「けど流石に寝てる間舞空術を使い続けるのは無理だから、夜は重力を戻すか重力操作の範囲を狭めよう」

 

 

 

 重力修行に入ってハジメ達の戦闘力の伸びが大幅に加速した。

 全体の平均戦闘力は大体100を超えるかどうかといったところだったが、重力修行に入ってからはどんどん伸びて、始める前までの修行期間と同じ修業期間で戦闘力1000を超えた。

 

「重力修行凄いな。 流石サイヤ人編に入って戦闘力という明確な強さの数値がインフレし出してから始めた修行だけある」

 

「だけど悟空が100倍の重力を克服したのってかなり短かったよな」

 

「ナメック星までの旅路で一週間くらいだったっけ?」

 

「強さのインフレが激し過ぎる」

 

「僕等は並の地球人の特性しかないんだし、格闘家の素質だってクリリンやヤムチャにも及ばないだろうから気長にいこう。

 時間を掛ければ凡人だって100倍の重力だって克服出来るさ」

 

「サイヤ人どころかサブキャラのクリリン達とも比べ物にならないよな」

 

「じゃあミスターサタンとかはどう思う?」

 

「………セルやブウに手加減されていたとはいえ、ぶっ飛ばされて生きているのは賞賛に値する」

 

「一般の世界チャンピオンに成れるんだし、素質は僕等よりもあるんだろうね」

 

「悔しいような悔しくないような」

 

「ギャグキャラ枠じゃ尚更比べようが無い」

 

 

 

 重力修行を始めても基本的な修行は、体を鍛えて気を高めて技を磨く事に変わりはなかった。

 だいぶ力を付けてきた実感が出てきたハジメ達は、新たな技の修行の為に情報収集も行なっていた。

 

「界王星を見つけたぞ!」

 

「ようやくか! だいぶかかったな」

 

「あの世とこの世の空間の壁が、僕等の時空間の知識とだいぶ違ったから、探すのに苦労したよ。

 原作で悟空があの世とこの世を行き来するのに案内役をした神様や占いおばばを、タイムテレビで追いかけてようやくあの世を見つけることが出来たよ。

 後は閻魔様の所から蛇の道を辿って界王星の場所が分かった」

 

「これで界王拳と元気玉の使い方が解るな」

 

「まあ元気玉は清らかな心の持ち主でなければ作ることが出来ないって設定があったような気がするから、僕等に使えるとは思えないんだけど」

 

「界王拳ならいけそうな気がするしな」

 

「だけどあれはブースト技だから重要なのは結局基礎能力だ。 界王拳の練習はするが、修行中は組手以外では使わない方がいいな」

 

 

 

 孫悟空みたいなサイヤ人のように爆発的な成長は出来ないが、重力修行の過度な負荷と無限の仙豆による全回復の繰り返しは、普通の地球人の資質でもドラゴンボール世界の住人の資質だけあって通常ではありえない戦闘力の増大を促進させた。

 そんな中で気功波の練習をしていたハジメの一人が、力を試すために空に向かってかめはめ波を撃ち出した。

 

「波あぁぁぁぁ!!」

 

『ドオオォォォォンンン!!』

 

「うわぁ…ほんとに月が消し飛んだ」

 

「初期の頃から亀仙人でも月を消し飛ばせたから今の僕等の戦闘力なら出来ると思ってたけど、実際に衛星を吹き飛ばすとかドン引きだよ」

 

 ドラゴンボールの戦闘能力のスケールを解り易く描いた星を吹き飛ばす威力の気功波に、自分達がやったとはいえ流石に驚いていた。

 この段階でもまだストーリー的には中盤にも及ばない戦闘力なのだから世界観が可笑しい。

 そんな世界観の戦闘能力を求めたのもハジメ達ではあるが。

 

「鏡面世界だったからいいが、表の世界だと大騒動だよな」

 

「どうだろう、ドラゴンボール世界では月が何度も壊れてたし、神様が直したとか簡単に言ってたし」

 

「普通の世界の常識に当て嵌めれば月が消滅したら、引力の影響とかで大変なことになる筈」

 

「地球もよく爆発する世界だし、月の引力の影響程度の災害なんて大した問題じゃ無いんだろう」

 

 月が消滅した影響について考察するが、ハジメが言ったように鏡面世界なので現実の世界に影響はない。

 

「ともかく僕等も常識的に考えれば可笑しなくらい強くなってきたんだから、気功波を全力で撃つ時は空か地面に対して水平に放つように気をつけよう。 地表に向かって撃って自分達で地球を爆発させるなんてシャレにならない」

 

「今の戦闘力はどれくらいだ?」

 

「平均一万五千ってところ。 初登場時のベジータと同じ位かな」

 

「53万のフリーザ様には程遠いな」

 

「修業が終わる頃に界王拳を併用すれば行けるかな?」

 

 恐ろしい強さを実感するが、上には上がいること知っているハジメ達は驕る事無く地道に修行を重ねた。

 

 

 

「ハアァァ!!」

 

「ゼヤァァ!!」

 

『ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!』

 

 重力調節機の影響下にある神の神殿の上空に来て、二人のハジメが高速で舞空術で飛びながら拳を交え、衝突の度に大きな音を鳴らしながら衝撃波を発していた。

 ドラゴンボールのアニメでよく見かける衝撃波だけが描かれる空中戦闘シーンを、ハジメ達は再現出来るほどになっていた。

 

「僕等も本当に強くなったな~。 あんな可笑しな戦闘光景を再現出来るようになるなんて」

 

「100倍の重力にもとうとう慣れてきたからな」

 

 二年以上の時間を掛けてハジメ達はついに100倍の重力の克服に成功していた。

 孫悟空には当然及ばないが、普通ではありえない成長と環境で活動出来る身体能力を得る事に成功していた。

 この修行法の完遂にハジメ達の力を得る為の修行も大詰めを迎えていた。

 

「どれくらいで100倍の重力を克服出来るか不安だったが、二年ちょっとと言うのは早いのか遅いのか」

 

「常識的に考えたら早い遅い以前にそれは可笑しいの一言なんだろうけど、クリリン達のような才能の無い並の地球人と考えたら早い方なんじゃないか?」

 

「まあこの世界で最新鋭の重力修行と仙豆と言うチートアイテムを惜しみなく使える環境だったしな」

 

「原作キャラからすれば贅沢な話だが、修行の仕上げにそろそろあの部屋に挑戦するか」

 

「そうだな。 誰が行くかはくじ引きででも決めるか」

 

「誰でも構わないけど二人しか入れないからな」

 

 修行の最後の仕上げとは、神の神殿の中にある精神と時の部屋の事だ。

 その部屋の中は空気が薄く重力は十倍で気温が50℃からマイナス40℃まで変化する過酷な環境で、住居以外真っ白な空と大地が続く地平線が見えるだけの世界が広がっている。

 さらに一日が一年という時間の流れが違う修行場所で、悟空達も修業したことから最後の仕上げに一日=一年修行しようとハジメ達は決めていた。

 

 ただし精神と時の部屋には同時に二人しか入れず、更に同じ人間は生涯で二日=二年しか居られないという制限があり、期限を超えると入り口が消えてしまうという設定があった。

 入り口が無くなるとその空間に閉じ込められて、原作ではスーパーサイヤ人3級の力で無理矢理空間に穴を開けて脱出するという事があったが、空間理論はハジメ達の専門分野であり閉じ込められてもタイムマシンなどで抜け出せる事が解っている。

 

 ともかくハジメ達の中から二人が最後の修行として精神と時の部屋の中に入るつもりだった。

 コピーとはいえ同一人物なので、同時に二人とか同じ人間が最大二年とかの制限が怪しくなるので、半分の一年のみ二人を中で修業させることにした。

 過酷な環境なのでハジメ達自身が2年ギリギリ頑張れると思わなかったのもあるが。

 

 

 

 100倍の重力を克服したと判断したハジメ達は、くじ引きで選出した二人を精神と時の部屋に送り込み24時間、つまり部屋の中で約一年が経とうとしていた。

 部屋に入らなかったハジメ達はそろそろ出てくる二人を部屋の前で待っていた。

 そして予定していた時間通りに部屋の扉が中から開いて、中から所々服がボロボロになった二人のハジメが出てきた。

 

「「「ッ!!」」」

 

 その二人の雰囲気に残りのハジメ達は顔を強張らせる。

 過酷な環境で一年修行して外にいたハジメ達より少し成長した二人は、ボロボロな服装と修行の汚れで煤けながらも力を高め、それに見合った眼光を瞳に宿していた。

 一回り以上成長し力を高めた二人の張りつめた気に、外にいたハジメ達は同じ自分達との違いから二人の変わりように驚きを覚えた。

 精神と時の部屋の修行で、同じ自分がここまで変われるものなのかと。

 

 出てきた二人の厳しい面構えの口が動き言葉を発しようとするだけで、他のハジメ達は緊張感を感じた。

 そして二人の声が発せられる。

 

「漸く出られた~……。 もう二度と入りたくない!」

 

「水と粉だけなんてもう嫌~……。 早くなんか美味しいもの食べさせて!」

 

「「「へっ?」」」

 

 二人の険しかった顔が一気に崩れて、同時に体が崩れ落ちるように床にへたり込み弱弱しい気の抜けた愚痴が発せられる。

 厳しい環境過ごす中で二人は自然に気を抜かない様に緊張し続ける事で厳しい表情をするようになり、一年ぶりに部屋を出られた事で漸く気を抜いて楽になり一気にダレたのだ。

 

 厳しい表情と張り詰めた気だった二人に釣られて緊張感を抱いていた他のハジメ達は、一気に気の抜けたセリフに拍子抜けしてぽかんとした表情になる。

 だがすぐに大体の事情を察して二人を労うように【グルメテーブルかけ】を用意するのだった。

 

「お疲れさん、二人とも。 気を高めて張り詰めた表情で出てくるもんだから、こっちも緊張しちゃったよ」

 

「そうそう、最後はへたり込んじゃったけど格段に気が強くなってたから僕等も一瞬ビビったよ」

 

「流石は精神と時の部屋ではあるな。 同じ自分でも見違えたと思ったよ」

 

 明らかに強くなった二人に外にいたハジメ達が感想を言う。

 

「確かに強くなったと思うけど、言うだけあって精神と時の部屋の環境は最悪だったよ。 空気が薄いのと10倍の重力は慣れてたからよかったけど、気温の変化に呼吸と体調を乱されて修行をするのに苦労したよ。

 その上真っ白な地平線しかないから気が狂いそうで、紛らわすために修行に強制的に専念させられた。

 一人だったら途中で絶対に部屋から逃げ出してた」

 

「その上、修行の為に持ち込んだ仙豆以外には水と粉しか口に出来ない生活はかなり堪えた。

 後で統合すると思うからわかると思うけど、もう二度と精神と時の部屋で修業したくないと思ったね。

 今思えばくじ引きで決めたのはただの罰ゲームだったよ」

 

 グルメテーブルかけから出された御馳走を食べながら、部屋の中の生活の厳しさをグチグチとしゃべり続ける。

 

「それでどれくらい強くなったんだ? 僕の持つスカウターだと二人の基礎戦闘力は20万ちょっとと表示されてる」

 

「マジか! 部屋に入る前の倍以上じゃないか!?」

 

 外にいたハジメ達の平均基礎戦闘力は10万にぎりぎり届かないところまで成長している。

 ただしこれは基礎戦闘力で、気を高めて界王拳を使えばグンと最大戦闘力が上がる。

 原作のスカウターでは高すぎて爆発してしまう数値だが、ハツメイカー設計のハジメ製なので高い数値を検出しても壊れないように改良されている。

 

「部屋を出る前に数値を測ったが、気を高めて平均3倍ちょっと。 10倍界王拳を常時使える様になって、短期であれば15倍もなんとか使えるようなった」

 

「それじゃあ最大で一千万近くじゃないか」

 

「フリーザ戦、途中まで頑張れる」

 

「20倍にも挑戦してみたけど、体が持たなくてすぐさま仙豆案件だった。

 伸びしろはまだあるだろうけど、ここまで強くなればもう十分だろう」

 

「そうだな、これだけの力があれば大抵の世界の敵に出会っても負けないだろう」

 

「予定通り修行を切り上げて、統合してから次の世界に向かうか」

 

 こうしてドラゴンボール世界での修行を終えたハジメ達は、更なる別の力を求めて新たな世界に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・シャーマンキング世界編

 

 

 

 シャーマンキング。 それは霊を認識し、霊と対話し、霊の力を使役する事の出来る者、シャーマン。

 その中から過酷な戦いの儀式を経て、偉大なる世界の集合霊グレートスピリッツと契約し、その力を我が物としたシャーマンの王。

 この世界はそんなシャーマンキングを目指す者達の物語が描かれた世界であり、霊の力を使う者達が多く存在する世界でもある。

 この世界にハジメ達がやってきたのは、当然この世界における霊能力シャーマンの力を手にする為である。

 

「とはいえ最初の問題は、僕等にシャーマンの素養があるかだ」

 

「シャーマンが強くなる方法は漫画に描かれてるけど、基本となる素養を得る方法は流石に無いからね」

 

 シャーマンのいる世界と言っても、その世界全ての人間が幽霊が見える訳ではない。

 人類全体から見ればシャーマンの素養を持つ者はごく少数で、この世界の人間になったからと言って素養が得られるとは限らない。

 もしもボックスを使った時に『自分がシャーマンだったら』という記述を付け加えれば確実に能力は得られるが、そこはハジメの些細な矜持で世界が変わっても自分本来の資質で力を得たいと思っているので、あくまでその世界の人間になるだけに留めているのだ。

 もしもボックスで本来の自分を逸脱した自分に変えてしまえば、取り返しのつかない事になりそうな気がするので弁えているのだ。(原作でものび太が自分を天才にした反動で大変な目に遭っている)

 

「ともかく数人で年齢操作や変装して顔を変えてから、幽霊がいそうな墓地に行ってみよう。

 運よく素質があって見えればよし。 いろいろ試して駄目なら最後にもしもボックスだ」

 

「残りの奴は人海戦術でタイムテレビを使って原作キャラの修行風景を集めて情報収集だ。

 漫画そのままの知識だけじゃ頼りないから、この世界で直接時空間越しに覗き見て僕等の訓練に応用する」

 

「ドラゴンボール世界みたいに、解り易い単純な修行ばかりじゃないしね」

 

 数人のハジメが墓地に幽霊確認に向かい、残りのハジメが情報収集を行う。

 ドラゴンボール世界で界王拳を覚えるために、その風景をタイムテレビで盗み見た事で味を占めたのだ。

 情報収集は経験から手慣れた物で、原作キャラ達の修行風景から早速有力な修行法が集まりだした。

 

「情報はだいぶ集まったけど、原作キャラの殆どの幼少期が際どい物ばかりだな」

 

「原作が開始してから能力に目覚めた竜も厳しい修行をして強くなったみたいだけど、シャーマンの家系のキャラは児童虐待に近い修行を子供の頃から強要されてる」

 

「特にライバルキャラの道蓮の家は原作ですごい黒い家系なのはわかってたけど、ほぼ拷問だ」

 

「こんな厳しい幼少期を過ごしてるのに、登場初期の強さは後から強くなる竜より遙かに弱いし」

 

「ジャンプ系はパワーインフレが激しいからな~」

 

 などど軽口を叩きながらもとりあえず修行方法は多数集まっていた。

 一方幽霊が見えるかどうか試しに霊園に向かったハジメ数人のグループは…

 

「やっぱり見えないな」

 

「可能性はゼロではないと思ったけど、限りなく低いとは思ってたし」

 

「僕に都合の良い原作キャラ級の資質なんてある訳ないよな」

 

 案の定、ハジメ本来の資質として幽霊がハジメから見えるという事は無かった。

 現在は昼間とはいえ、霊視が出来るならそこそこ広い霊園で幽霊が一人も見えないという事は無いだろう。

 

「さて、どうするか」

 

「まあいろいろ試してみよう。 幽霊に関するひみつ道具もいくつかある」

 

 科学の産物ではあるが流石はひみつ道具。 幽霊の一つや二つ、再現出来る様な物は少ないながらもいくつかあった。

 【ロボット背後霊】【カップゆうれい】【精霊よびだしうでわ】など幽霊の類を疑似的に作り出す物が多く、作った幽霊を通して本物の幽霊の存在を確認出来れば、それを見える様に凝視したり対話が可能なら憑りついてもらって、原作の竜のように霊の感覚を覚えられないかとかなり手探りに実践した。

 だが成果は思わしくなく本物の幽霊とコンタクトは取れず、使えそうなひみつ道具は減っていった。

 

「次はこれだ。 【ゆうれいストロー】、これを口にくわえて息を吹くと自分の幽霊が出てきて幽体離脱に似たことが出来る様に成る。 この世界で幽霊になればその視点で他の幽霊も見れるようになるかもしれない」

 

「結構本命のひみつ道具だけど、これが駄目なら後はもしもボックスくらいしか期待できるものが無い」

 

「出来るだけ使いたくないが最低限のシャーマンの資質が無いとこの世界に来た意味が無い。

 ともかくゆうれいストローを使ってるから、動かなくなる体をよろしく」

 

 幽体離脱に似た様な現象な為、自分の幽霊がストローから出ると肉体が動かなくなってしまうからだ。

 

「わかった」

 

「じゃあいくぞ」

 

―フー…―

 

 息の抜ける音共にストローの先からハジメの姿をした幽霊が飛び出し、体はそのまま動かなくなり倒れかけたところを他のハジメが支えた。

 

「うまくいったみたいだが、幽霊は見えるか?」

 

『ああ、ちょっと待ってくうおぁ!!』

 

「ど、どうした! 幽霊が見えたのか?」

 

 幽霊になったハジメが突然の大きなリアクションで仰け反りながら驚く。

 

『見えたというか、俺達思いっきりたくさんの幽霊に囲まれてる!』

 

「「なに!?」」

 

 疑似的に幽霊になった事で別の幽霊が見える様になったが、周囲を囲まれている事に慌てて仲間に告げる。

 人気のない霊園でよくわからない不可思議な道具を弄っている集団に、漂っていた霊達が集まってきて様子を見ていたのだ。

 そこで突然ハジメの一人から自分達とは何か違う幽霊が飛び出したので、様子を窺っていた幽霊たちも驚いている。

 

 幽霊になった者以外のハジメ達は、囲まれていると聞いて見えなくても咄嗟に周囲を警戒する。

 

「囲まれてると言われてもどうする? 見えないんじゃどうしようもないぞ」

 

「周りにいる幽霊はどんな奴らなんだ」

 

 いまだ幽霊を認識できないハジメ達は、幽霊になった事で見える様になっているハジメに訊ねる。

 

『見た限り普通?の幽霊だけど、どういう脅威があるかは、……あっ、え?

 ……ああ、そうでしたか。 なんかすいません』

 

 幽霊の見えないハジメ達からは、幽霊のハジメが虚空に向かって突然会話し謝ったので戸惑いを覚える。

 然りと対話出来てる姿からは警戒があまり感じられなくなっていた。

 

「どうしたんだ、突然」

 

『いや、どうやら僕等が霊園で変な事をやっていたから単に集まっていただけらしい。

 幾つか使ったひみつ道具や僕が幽霊になった事で、周りの幽霊たちも驚いてるんだって』

 

「ああ、なるほど」

 

 幽霊と言ってもいるのは生前が一般人の者達ばかりで、幽霊となっていたとしてもひみつ道具のような不思議な道具があれば注目を集めるのは当然だ。

 見えてなかったので気づいてなかったが、観衆のど真ん中でひみつ道具を試していたという事なのだから。

 

「どうする? 幽霊とはいえひみつ道具を見られちゃったぞ」

 

「まあ、気にしなくてもいいんじゃないか? 幽霊だったら大きな騒ぎになりようが無い。

 シャーマンの誰かに伝わったとしても幽霊関係は隠すべき案件だし、原作には関わる予定もないから仮に伝わっても『あっ、こら!』なんだ?」

 

 ひみつ道具を見られてしまったが特に問題にもならない事で決着が着きそうになった時、幽霊のハジメが少し焦った様子で叫ぶ。

 幽霊のハジメは自分が抜けだした体の方を見ており、他のハジメは何事かと幽霊のハジメを見てからその意識の向いている先の動かない体に視線が集中する。

 直後、動かない筈の抜け殻のハジメが動きだ出した。

 

「『やった! 生きた体だ!』」

 

『僕の抜け出た体に幽霊が取り憑きやがった!』

 

「「なに!?」」

 

 他の幽霊が見えないハジメ達は気づかなかったが、幽霊になっているハジメははっきり見ていた。

 周囲で様子を窺っていた幽霊の集団の中から、軽薄そうで若い男の霊が突然飛び出してきてハジメの抜け出た体に飛び込んだのだ。

 突然の事だったので幽霊のハジメも反応出来なかったが、勝手に体を動かし始めた事で体を奪われたのだとすぐわかった。

 

 後にシャーマンの勉強で発覚する事だが、幽霊と言っても全ての存在が容易に生きた人間に憑りつけるものではない。

 幽霊と言えば生きている人間に憑依するという事例がポピュラーだが、死んだ人間は浮遊霊として割とどこにでもいるもので、見えないだけで生者の間近にそこそこ存在している。

 それならば割とポンポン幽霊に取りつかれている人間がいても可笑しくない物だが、生きた人間に憑りつくには幽霊としての力がある程度必要なのだ。

 幽霊が憑りつこうとしても本来の魂に押し出されてしまうので、無理矢理体の中に割り込む幽霊としての力強さがなければならない。

 

 なので只の一般人の幽霊程度に誰かの体を乗っ取るような力は大抵持っていない。

 しかし

 

『体を返せ!』

 

「『誰が返すか。 じゃあな!』」

 

「うわぁ!」

 

 ハジメの体を奪った幽霊は抱えていたハジメを突き飛ばし、凄い速度で逃げ出していった。

 

「まずい、あいつを逃がすな!」

 

「かなりの速度で走ってる。 ドラゴンボール世界の修行が裏目に出たか!」

 

 修行を終えたハジメの体の身体能力は、シャーマンと言う超常の存在がいるこの世界であっても非常識な物だ。

 そんな体で何処の誰とも知らない幽霊が暴れ回られたら一大事だ。

 数瞬前のひみつ道具の幽霊暴露など問題にならないほどの大問題だ。

 

「体奪われるなんてギニュー隊長か」

 

「冗談言ってる場合か! あの体で加減がわからず本気を出されたらどんな惨事になるか!」

 

「さっさと行くぞ!」

 

『ちょ、置いてかないでくれー!』

 

 急いで荷物を抱えて生身のハジメ達も走り出し、浮遊する事しか出来ず速度が出せない幽霊のハジメがゆっくりと追いかけていった。

 

 その後、同一の身体能力でも使い慣れない体の差で体泥棒の幽霊に追いつき、取り押さえたその体に幽霊のハジメが突き出しをすることで中の幽霊だけが体から弾き出され、元の体に戻ることが出来た。

 幽霊になっていたハジメは体に戻っても幽霊を見る事、霊視出来たことでピントを合わせるように自在に霊を見ることが出来る様に成っていた。

 更に体を盗まれた事で頭に血が上っていたハジメは、体を取り戻した後に怒りのままに奪おうとした幽霊に殴りかかり、そのまま幽霊を殴り飛ばす事に成功し物理的に昇天していった。

 ついでに幽霊への干渉力も獲得し、結果的にシャーマンの資質に開花することに成功した。

 

 

 

 

 

 基本となる資質の開花に成功したら、後は集めた情報で効率的な修行の日々だ。

 いつも通り統合とコピーを繰り返して経験を共有し、ドラゴンボール世界の時のように分担修行。

 シャーマンには持霊と言う霊の相棒が必要不可欠だが、そこは幽霊化したコピーを代役にした。

 幽霊などはそこら中にいるが、シャーマンファイトが出来るような強くて自分達に付いてきてくれるような霊がそうそういる訳が無い。

 更に適当な幽霊を別の世界に連れていくわけにもいかないので、持霊を持つつもりはなかった。

 

 原作キャラの修行を真似た訓練を行い、原作にも出てきた強くなるための指南書、超・占事略決の内容をタイムテレビで盗み見て写し取った資料を元に技術を習得していく。

 千年前の物なので読み難いが【翻訳こんにゃく】で解決し、訓練に必要な物はすべて取り揃えた。

 

 それらとは別に、研究目的で原作のシャーマンファイトで使われる重要なアイテムオラクルベルを、製作元のパッチ族からこっそりコピーして手に入れてきた。

 時代はまだ原作前だが、準備期間には入っていたからか幾つも既に作られていた。

 

 オラクルベルはシャーマンファイトの参加証でもあり、参加者へのお知らせを伝える連絡機器でもある。

 更に隠された機能としてシャーマンの巫力や持霊の強さを測るスカウターのような機能が備わっている。

 霊的なエネルギーを計測できる機械は他の世界でもあまり見かけないので、修業と並行して調査を進めた。

 隠された計測機能は直ぐに発見し、修行を始めたばかりではあるがハジメ達の巫力を計測した。

 

「巫力2300?」

 

「初期値にしてはだいぶ多い」

 

 ちなみに原作主人公の初期計測値は270である。

 

「巫力は精神力と密接な関係にあるって話だけど、僕等そんなに強い精神は持ってないと思うが…」

 

「密接な関係にあるだけで精神力=巫力量という訳じゃないんだろう。 原作で最も巫力の多いハオが最終戦で安易に精神を揺さぶられるんだから、関連性はあっても量が多い=精神的に強いってのは当てにならない。

 臨死体験や死んで生き返ると強くなるサイヤ人みたいな特性を考えると、やっぱり死んで幽霊になった事で魂を鍛えられたからという理由が霊を扱う力なんだから自然だ」

 

「じゃあ僕等が魂を鍛えていた要素って?」

 

 そういう発言があってハジメ達は改めて考え込む。

 幽霊に関する事は元の世界に存在しなかったし、その手の世界はここが初めてだ。

 

「魂は解らないけど精神ならコピーの分裂と統合で経験を無理矢理集約させてたから、最初の頃は精神疲労がきつかったな」

 

「ああ、そういえば疲れが一気に来てかなりきつかったっけ。 今はある程度慣れたけど、それが精神的な鍛錬になってた?」

 

「シャーマンの名家の主人公の初期値が数百なのに、中身一般人に毛が生えただけの僕等がこれだけの力があるという事とは、僕等の特殊性の何かが巫力を鍛えてたはずだし」

 

「後は前のドラゴンボールの世界の修行が効いたかかな?」

 

「それも十分あり得るね。 結構死にかけるような修行もしたし」

 

「精神と時の部屋じゃないか? 精神的にもかなりキテたし」

 

「ああ、伊達に『精神』の名前が入ってない訳じゃないね」

 

 とまあ予想外ではあったが、シャーマンとしての出発点は思ったよりも高い所から始まった。

 

 

 

 シャーマンたちが保有する技術は素質の問題を除いて、修得出来る物は可能な限り修得しようと修行した。

 過程は省くが基本技術の憑依合体やオーバーソウルはもちろん、霊を呼び出す口寄せなどの原作ではちょっとしか活躍機会の無かった技も習得出来た。

 超・占事略決には他にも更に高度な巫術が記され、ハジメ達も高度な技術が求められるものは流石に習得に時間を要したが、大よそはとりあえずではあるが使えるようにはなった。

 

 そしてその中の技術の一つには、この世界の技術で最も注目していた死者蘇生術、呪禁存思も習得することが出来た。

 術の検証の為に態と大怪我したり、貧乏くじを引いた一人が覚悟完了で自害し蘇生するという検証にもとりあえず成功した。

 うまくいかなかったらコピーとはいえ自分が死んでしまうので、ハジメ達もかなりハラハラしながらだった。

 

「これがホントの生きた心地がしないって奴か」

 

「まあ、マジで死んで幽霊になってたしな」

 

「ゆうれいストローで幽霊になるのとはまるで違ったよ。 心臓を気功波で貫かれた痛みも凄かったけど、その後身体との繋がりがプッチり切れて離れてく感覚を鮮明に感じた」

 

「それはまた気味の悪い感覚だな」

 

「シャーマン始めたんだから今更だろ。 それにこの感覚は覚えておいた方が良い気がする。

 地獄に最後の修行に行くのにもう一度死ぬ事になるんだ。

 こんな感じに体から霊体がスゥ~っと抜けていく感じを覚えておけば、死ぬ時もう少し苦しまずに逝けそうな気がする』

 

「そうかって、おい! 死んでないのにまた幽霊になってるぞ!」

 

『え、マジで?』

 

 死んだ感覚を覚えてしまったせいか、幽体離脱まで自力で出来る様になっていた。

 

 

 

 最後の修行は死ぬ事で行けるグレートスピリッツの中にある地獄での修行だ。

 原作での最後の修行風景で、主要キャラ達の殆どが地獄で修業してから最後の戦いに赴いた。

 シャーマンキングの世界では死んで生き返るだけでもその経験で巫力が増加するが、地獄のあるグレートスピリッツの中では心が折れなければ死ぬ事は無いという特性から、そこで己の敵と向き合い殺されながらも立ち向かい続ける事で精神=巫力を直接鍛えることが出来る。

 死ぬ痛みに耐えながら戦い続けるというかなり荒っぽい修行が、この世界での最後の仕上げだ。

 

『じゃあ逝ってくる。 予定通り1時間したら生き返らせてくれ』

 

「わかってる。 僕等の精神じゃ地獄でどれだけ持つかわからないからな」

 

 元々一般人のハジメに強靭な精神があるとは自分たちでも思っていない。

 地獄の修行にそんなに長い時間耐えられるとは思っていないので、まずは様子見と地獄に逝って一時間経過したら此方で蘇生させることで幽霊のハジメを帰還させることにしたのだ。

 

 また、ドラゴンボール世界でもあの世を観測した経験からグレートスピリッツ内をタイムテレビで観測することが出来た。

 グレートスピリッツ内は非常に広いので地獄に逝ったハジメを見つけられるかわからないが、可能な限り観測しようと現世のハジメ達も可能な限りサポートするつもりだ。

 

『心が折れなければ死なないと解ってるんだし、一時間くらいは根性出して耐えて見せるさ』

 

 そう言って幽霊のハジメは力を抜いて有るが儘を受け入れる心持ちになると、霊体がスーッと消えていき成仏することで地獄に向かった。

 地獄行でも成仏と言えるかどうかはさておき。

 

「とにかくグレートスピリッツ内の僕を探してみよう。 逝き着くコミューンが分かれば今後地獄に逝っても同じところに着くだろうし」

 

「そうだな」

 

 G.S(グレートスピリッツ)は地球の記憶とも呼ばれており、その中は地球の誕生から現在にかけて存在した全ての環境が潜在している。

 すなわちG.S内は現在の地球よりも遥かに広く、その中で何の手がかりも無くハジメ一人を見つけるのはかなり困難だ。

 そこで毎度おなじみ○×占いで大よその所在を割り出して、タイムテレビで確認しながら場所を特定していく。

 そうして広大なG.Sの中から10分ほどでハジメの辿り着いたコミューンを見つけ出した。

 映し出されたコミューンには、地平線まで続く真っ白な大地と空が広がっていた。

 

「精神と時の部屋に似てる? ……いや、もしかしなくても精神と時の部屋の風景なのか?」

 

「G.Sの中に形成されるコミューンは死んだ者達の記憶によって形成される。

 精神と時の部屋の風景なんてこの世界じゃ僕等以外知る筈がないし、修行を目的にした僕がG.Sの中に入った事で、修行の為の空間という認識で精神と時の部屋のコミューンが出来たんだろうな、多分」

 

「それで()は何処にいるんだ?」

 

 精神と時の部屋と同じ風景であればだだっ広いだけで他には何もないので誰かいればすぐに分かる。

 モニターの視点を回転させて周囲を見渡してみると、すぐにG.Sの中に入ったハジメらしき人影を発見する。

 だがそれと同時に人よりも遥かに大きな人影が、その小さな人影を追い掛け回していた。

 

「……なにこれ」

 

「……近づいて観察してみよう」

 

 ハジメ達は何か嫌な予感を感じながら、遠くで良く見えなかった光景を近づける事で確認する。

 その正体は近づく事ですぐに明らかになり、近づく事で気づいた巨大な人影に乗っていた人の細やかなボヤキ声も聞き取ることが出来た。

 

『ちっちぇえな』

 

「「『ぎゃああぁぁぁぁ!!』」」

 

 G.Sの中に居る筈のない人物、原作のラスボスである麻倉ハオがスピリット・オブ・ファイアを伴って現れた事でハジメ達はモニターの向こうで逃げているハジメと一緒に悲鳴を上げた。

 この世界で一番会いたくない人物だったので、突然の出現に狂乱状態に陥っていた。

 

「何でハオがあそこにいるんだ!」

 

「今は現世で生きて仲間を集めてる時期じゃなかったか!」

 

「ハオの所在を再確認しろ!」

 

「SOF(スピリット・オブ・ファイア)に食われたら、魂だけの状態だからと言っても無事で済まないぞ!」

 

「すぐに蘇生の準備だ! 蘇生させてこっちに連れ戻せ!」

 

 SOFは魂の捕食能力を持っている。 いくら心が折れなければと言っても、その能力の前には流石に生き残るのは難しい。

 大慌てで地獄にいるハジメを助け出すために蘇生を行なおうするが、そこで別の報告が入った。

 

「皆ちょっと落ち着け。 今別のタイムテレビで確認したんだが、ハオはちゃんと現世にいたぞ」

 

「なに、どういう事だ?」

 

「たぶん、あそこにいるハオは()が恐ろしいと感じてる恐怖が敵となって表れた姿なんじゃないか?」

 

「ああ、なるほど」

 

 ハオが実物ではないと解って落ち着きを取り戻していくハジメ達。

 ただし画面の向こうのハジメはいまだ悲鳴を上げながら、SOFの攻撃から逃げ回っている。

 

「本物じゃないなら何とかなる。 落ち着いて考えればSOFでも僕等の今の戦闘力なら何とかなるんじゃないか?」

 

「言われてみれば確かに。 比較対象が世界観を越えるからあまり当てにならないが、強力な気功波一発当てればいけそうな気がする」

 

「とりあえず向こうの僕にこの事伝えよう。 タイムテレビ改造して向こうに受信機が無くても映像を投影して通信できる機能つけといてよかった」

 

 タイムテレビを操作し地獄にいるハジメの傍にこちら側と繋がった通信映像を空中に投影する。

 

「おい、聞こえるか」

 

『ッ! 助かった、今すぐ生き返らせてここから出してくれ!』

 

「大丈夫だ、落ち着け。 そこにいるハオは…」

 

 地獄のハジメに通信で今までわかったことを全て伝える。

 その間もSOFの攻撃が繰り出されているが、落ち着きを取り戻しドラゴンボール世界の高い身体能力を発揮でき始めた事で回避にだいぶ余裕を持ち始めた。

 話を聞き終えると先ほどまでの動揺は何だったのかというくらい落ち着きを取り戻して、何事もないかのようにSOFの攻撃に対処していた。

 

『なるほど、恐怖が具現化しただけの敵か。 それに確かにドラゴンボール級の戦闘力なら十分対応出来るよな』

 

「ああ、肉体が無いから気が使えるのかという考えもドラゴンボール世界のあの世でも普通に使ってたし、G.Sの中ならイメージ出来ると思ったことは出来る筈だ」

 

『確かに。 なら一発かましてみるか』

 

 攻撃を大きく回避して跳び上がり、舞空術で飛びながらある程度距離を取る。

 そして腰溜めに両手を重ね力を込めると、気が無いはずの世界に力が集まりだし現世と同じように技を放つ事の出来る準備が整う。

 

『かめはめ、波あぁぁ!!』

 

 撃ち出されたかめはめ波は、全力ではなくともドラゴンボール世界の月を消し飛ばせる威力でSOFに直撃し、四肢と頭を残して胴体を丸ごと消し飛ばした。

 

『よしっ!』

 

「冷静になったら思った以上に簡単に倒せたな」

 

『それは言うなよ。 自分でも情けないと思ってるんだから。 ん?』

 

 少々恥ずかしいと思っていたハジメが、打ち破ったSOFの残りの残骸の変化に気づく。

 残った頭と四肢が煙に様に解けて、いつの間にか地に降り立っていた偽物のハオの元に集っていく。

 SOFはそのままハオに纏うように変化し、赤から黒への印象を強めたロボチックな飛行アーマーのような姿に変化する。

 

『甲縛式O.S【黒雛】。 ハオのO.Sの最終形態か』

 

「今度は威力だけでなく機動力もありそうだ。 さっきみたいに簡単にはいかないかもな」

 

『その為に地獄に修行に来たんだ。 心が折れなければと解ってたのにいきなりの事に取り乱して自滅しかけた。

 今度こそ何があっても心を折らずに耐えて見せる』

 

 そう宣言してハジメは黒雛を纏ったハオに戦いを挑んでいく。

 ハオはこれまでのSOFの巨体を生かした戦い方ではなく、自身が武装したOS黒雛で空を飛び回りSOFの腕を振るい背中の砲身からその特性である火属性の攻撃を撃ち放ってくる。

 対するハジメも舞空術で飛ぶ事で対抗し、攻撃を時には避け時にはその腕力で受け止めたり気功波で相殺していく。

 

「偽物とはいえハオと戦う事になるとは思わなかったな」

 

「たしかに。 けど、よく考えたらおかしいよな」

 

「なにが?」

 

「僕等この世界にシャーマンの修行に来てるのに、最後の修行がO.Sを使わずドラゴンボールの戦闘力を使った戦いになってる」

 

「……まあ結局ちゃんとした持霊が手に入らなかったからな」

 

 O.Sはイメージ次第でどんな形にもなるが、シャーマンや持霊の相性や特性によって性能が左右される。

 自分のコピーを持霊の代用として使うしかなかったハジメ達は、未だ明確なO.Sの型というものがなかったので、地獄での修行にも反映されず使われていない。

 地獄での修行にはO.Sの有る無しは関係ないのだが、これではドラゴンボール世界の修行とあまり変わりないのではないかとハジメ達は思った。

 

 ハオとの戦いは一見拮抗しているが、ハジメがだいぶ余力を残しながら様子見を続けている状態だ。

 戦っているハジメから見てハオは確かに強いが、これなら全力を出せば勝てると確信しており、観戦しているハジメ達もそれは思っている事だ。

 だが戦っているハジメとは別に、別視点から見ているハジメ達は偽物のハオの強さについてあることに気づいていた。

 

「なあ、本物のハオってこんなに強い物なのかな?」

 

「うん、僕も思った。 このハオは僕達の認識するハオへの恐怖から作られた存在だから、本物のハオの強さとはまるで繋がりが無い。

 いくらハオでもあんな空中での高機動戦闘の経験なんてそんなにないはずだから、火力は別にしても機動力であそこまで戦えるはずないしね」

 

「まあ、そうだろうな」

 

 偽物のハオは偽物に過ぎない。 ハジメ達のハオへの恐怖が具現化した物が偽物のハオなので、その認識はそのまま偽物のハオの強さになる。

 言った通り本物のハオは空中戦が出来てもそれに慣れている訳でなく、更にドラゴンボール世界の戦闘力がある訳ではないので高機動空中戦のガチンコ勝負など成立するはずがないのだ。

 それでも拮抗してるのはハオがラスボス故にそう簡単に倒せるわけがない、という認識がハジメにあるからこそハオの空中戦での強さに繋がっているのだ。

 

 だがそれでもこのハオには勝てるという確信があり、ハジメは様子見をやめて決着をつけようと勝負に出る。

 気円斬を作り撃ち出さずに掌に添えたまま接近戦を挑む。

 気円斬を使った近接の斬撃で、受け止めようとしたSOFの両腕を切り裂き、そのまま投げつける事で胴体を真っ二つにしようとする。

 

 ハオはその切れ味を警戒して全力で回避するが、それを読んでいたハジメが先回りして両手を組んだ振り下ろしで地面に向かって叩き落す。

 体制を整えさせないために追い打ちで気合砲を撃ち放つと、ハオはそのまま墜落し地面にひび割れを作りながらめり込んだ。

 ダメージを含め地面にめり込んだことで動きを封じたところに、ハジメは止めを刺しに行く。

 

『かーめーはーめー、波あぁぁぁ!』

 

 先ほどよりも気を練りこんだかめはめ波を撃ち出し、身動きの取れなかったハオは地面に大穴を作りながらかめはめ波に飲み込まれて消え去った。

 

『はぁ、はぁ……』

 

「終わったな、お疲れさま」

 

『ああ、余裕はあったけどなんかすっごい疲れた』

 

「修行はあくまで修行だからな。 コピー同士でしか模擬戦でも戦ったことなかったし、今回がある意味初めての実戦だしな」

 

『確かに死ぬかもしれない命のやり取りってのはすごいストレスを感じる筈だしな。

 修行の続きは少し休んでから……あれ?』

 

 そこではたとハジメはある事に気づく。

 様子を見ているハジメ達も少し休むという言葉におや?と疑問符を浮かべる。

 

「確か地獄の修行って絶え間なく敵が襲ってくるんじゃなかったか?」

 

『確かそうだったような…』

 

 地獄とは本来修行場ではなく責め苦を受ける場所。

 そのルールを利用してシャーマンたちは、己の巫力を高めるために絶え間なく襲ってくる敵との戦いで、精神を追い込み鍛える事に活用したのだ。

 解り易く言うと拷問を受けて精神を鍛えろと言う荒行そのもので、休む暇など当然ない。

 原作キャラの一人が、なぜか普段から拷問器具に入っていた理由が分かった気がする。

 

「じゃあ次の敵がそろそろ現れるんじゃ」

 

『えっと……あっ』

 

 向こうのハジメが辺りを見渡すと何かに気が付いて上空を見上げる。

 タイムテレビ越しに見ているハジメ達もハジメが見た物を映すように視点を変えると、上空にだんだん光が集まり始めていた。

 

「次の敵かな」

 

『主人公たち良く死にながら戦い続けられたな。 僕が戦い慣れてないのもあるだろうけど、一戦だけでけっこう疲れてるのに』

 

「だからこそ精神=巫力を高める修行なんだろう。

 こっちは蘇生出来る準備は整ってるけど、どうする」

 

『まだ一回も死んでないんだ。 何度か死ぬ覚悟で来たってのに一戦しただけで帰る訳にはいかないだろう』

 

 継戦の意思を示しハジメは光から現れる新たな敵を見据える。

 そして現れるのはシャーマンキング特有の霊的存在なのに巨大ロボっぽい印象のある存在。

 

「「『………』」」

 

O.S G.S(オーバーソウル グレートスピリッツ)

 

 原作最終決戦においてハオがシャーマンキングとしてG.SをO.Sした最後で最強の敵。

 その能力は全て宇宙級のスケールで描かれ、隕石・超新星爆発・ブラックホールなどを発生させる事の出来る普通の人間のスケールでは到底勝てる相手ではない存在。

 此処にもジャンプ特有にパワーインフレを感じる。

 

『………帰っていい?』

 

「さっきの宣言どうした」

 

『いや無理でしょ! 順序的にあれが出てくるのは不思議じゃないけど、流石にあれはドラゴンボールの戦闘力でも無理! 魂が一発で消し飛んじゃうって』

 

「大丈夫だ、いくら地獄でも本物のG.Sの力を再現するのは無理がある筈。 本物のシャーマンキングもいないんだから只強いだけで魂を一発で消し飛ばすような特殊能力までは持ってない筈だ。

 さっきも言ったように心が折れなければ死なない筈。

 何なら○×占いで確認しようか?」

 

『あれと戦うこっちの身にもなれ! ってぬあー!!』

 

 そうこうしている間にG.Sの無数の隕石攻撃が始まる。

 

 その後ハジメはG.Sに何度も宇宙スケールの攻撃で消し飛ばされ殺される事になるが、とりあえず心を折られずに耐え抜く事で生き残り、蘇生を受けて現世に生還した。

 偽物とはいえG.Sの攻撃に耐え抜くのは巫力の向上に大きく寄与し、一回の地獄からの黄泉返りで最大巫力10万オーバーを達成した。

 成果が出るのであればハジメ達もO.S G.Sと言うムリゲーに前向きに挑む気になる。

 

 多数のハジメを地獄に送り込みG.Sに神風特攻を繰り返し、精神が限界に来たら蘇生させることで帰還し交代で他のハジメが地獄に向かう。

 神風特攻も無意味にやるのではなく攻撃を避けられるなら避け、気を使ったバリヤーで可能な限り耐え、全力のかめはめ波をなりふり構わず打ち込む事を繰り返した。

 惑星を吹き飛ばせるドラゴンボールの気功波であれば星そのものと言っても過言ではないG.Sを倒すだけの火力はある筈だと考えていた。

 即死攻撃ばかりを使ってくる偽物のG.Sにドラゴンボールの戦闘力で一矢報いようと決心していた。

 それが修行の最終課題として。

 

 そしていつの日にかG.Sにかめはめ波を叩きこむ事で倒す事に成功するが、同時に悪夢を見る事になる。

 この地獄は恐怖する存在が敵となって現れる、半分が空想で出来ているような世界だ。

 G.Sを倒す事でその恐怖を克服すれば更なる恐怖が敵として現れるのだが、この世界にG.S以上の恐ろしい物は存在しない。

 しかしハジメ達の認識において恐怖の対象というものはこの世界に止まらない。

 現代のフィクションが描く力のスケールは惑星クラスに止まらず、次元を超越するだの宇宙を抹消するだの存在を書き換えるだのと、よくもまあこんな常識から離れた発想が出来るなと思う能力が存在して、そんな力を使う事の出来るキャラがいる作品が多数ある。

 パラレルマシンで行けるけれど絶対に行かないと決めている世界ではあるが、ハジメ達は作品としては知ってはいるのだ。

 こんなのがいたら恐ろしくて仕方がない(・・・・・・・・・・)という認識をもって。

 

 

 

 後は、解るな…

 

 

 

 

 

 




ドラゴンボールの気の修行をするのを書くのがすごく楽しかった。

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