四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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第八話

 

 

 

 

 

 九尾襲撃事件。

 それは木の葉隠れに訪れた災いであり、物語の主人公ナルトの誕生の時でもある。

 

 この世界で生きることを決めたハジメは原作の話の流れへの干渉を決めていたが、事態の悪化を望んでいるわけではないのでこの事件に対しても自然と慎重になっていた。

 ナルトの誕生は重要ではあるが、それは同時に両親である波風ミナトとうずまきクシナの死でもあったからだ。

 

 事件そのものを未然に防げば、おそらくナルトは人柱力ではなく普通の忍びとして生きていくだろう。

 物語の主人公という過酷な運命を背負うことなく生きられるのは本人にとって幸福な事なのだろうが、そうなるともはや原作の流れから外れて先がまるで見えなくなる。

 この世界で生きるというのならそれもまたいいのかもしれないと思うが、原作のハッピーエンドを前提から覆すことには流石に二の足を踏んでいた。

 

 この事はハジメも相当悩んでいたが、最終的に無用な対策をせずその場で最善を尽くそうと決めた。

 ハジメも戦場で活躍した忍びとして相応の権限を持っていたが、原作の情報を話せない以上里の皆に対策をさせる訳にもいかない。

 裏で計画的な策謀があったとしても、事件が起こるのはいつも突発的だ。

 それなら事件が起こったその場で臨機応変に対処する。

 それが本来の対処の形なのだから、この世界の人たちと同じ生き方として過剰な対処をすることはなかった。

 そして…

 

 

 

「くそっ! ミナトは一体何をしているんだ!」

 

 ミナトの妻、クシナの出産が近いと聞き九尾事件を警戒していた。

 そしてついに九尾が突如出現し、里への被害を最小限に抑えるために迎撃に出た。

 里の間近に出現したことで里人も付近にたくさんおり、多重影分身を出して手当たり次第に避難させる。

 同時に本体の僕は暴れる九尾を相手に時間稼ぎをしている。

 

 

―仙法・現身の術・巨獣亀形態―

 

 

 かつて戦時に尾獣と取っ組み合いをした巨人形態を仙術で昇華し、その影響で亀の特徴を持った現身の術で九尾相手に格闘戦をしている。

 その二本の足で立って戦う姿は怪獣映画のガメラの様。

 火遁で火も吹けるし、チャクラ自体で自重を浮かせ舞空術の様に空も飛べるので完全再現も不可能ではない。

 

 その亀の巨体で時々撃ってくる尾獣玉を仙術か姿故かの影響で高まった防御力で被害が出ないように弾き飛ばし、どこかにいるはずのミナトが来るのを待っている。

 

 原作で九尾の相手をし、最終的にナルトに封印したのはミナトのはずだ。

 そのミナトはこの場におらず、おそらくこの事件の黒幕と戦っていてまだ来れないのだろうと、戻ってくるまで九尾が里に被害を与えないように相手をして時間を稼いでいる。

 

「ハジメ、大丈夫か!?」

 

「大丈夫です、まだ持ちます! 三代目は戦闘の余波が里へ及ばないようにお願いします!」

 

「わかっておる!」

 

 ドラゴンボール世界の力を持つ僕は尾獣相手でも長期戦が出来る気力を持つが、それを(おおやけ)には出来ないので何とか耐えているという体裁を見せる。

 尾獣とまともにやりあえる忍など一握りだ。

 その攻撃に耐えられる結界忍術を張れる僅かな者達で、攻撃の余波から里を守っている。

 

 僕はまだまだ持つが他の忍たちはそうはいかない。

 これ以上の長期戦になると、ミナトが来る前に他の者たちが力尽きる。

 余波だけでも着実に犠牲が出ているというのに。

 

「(どうする、もうそんなに長くミナトを待つ事は出来ないぞ)」

 

 流石にこれ以上時間稼ぎをすれば犠牲が増えすぎると焦り始めた時に、九尾が再び尾獣玉を射出する態勢に入った。

 口を開き黒い膨大なチャクラが収束していく。

 これまで何度も撃たれたので慣れてきたと現身の術の亀の巨体を身構えさせて、被害が出ない上空へ弾き飛ばそうとする。

 

 だが九尾はこれまでとは違い打ち出すことなく、口元に溜めていた尾獣玉を飲み込んだ。

 

「なっ! これはまずい!」

 

 その動作に次に来る攻撃を思い出した僕は巨獣亀の体を走らせる。

 九尾の次の攻撃に出来るだけ接近し、後方への影響を減らすためだ。

 

『ガアァァァァァ!!』

 

 咆哮と共に九尾の口から放たれる光線状のチャクラ砲、虚狗砲が巨獣亀の体に直撃する。

 直撃の寸前僕は甲羅で受け止めるように体を反転させ、頭と両腕を収納し足で踏ん張らせる。

 砲弾状ではなく放射状に打ち出されたことで、全ての威力を巨獣亀単体で受けきることが出来ない。

 

 亀の姿だけあって背中の甲羅が一番硬度が高く、虚狗砲の直撃に耐えながら受け流し、エネルギーを出来るだけ拡散させて里への影響を抑える。

 エネルギーの放射が終わり里の方を確認するが、結界班が何とか余波を抑えて大きな被害が出ていないようだ。

 

「三代目!」

 

「儂は大丈夫じゃが、結界がもう持たん。

 もう一度今のが来たら破られるぞ」

 

「くそっ!」

 

 時間稼ぎももう限界だと悟る。

 飛雷神の術もミナトに教わっていたがアイツほど使いこなせず、準備していないので遠くへ飛ばすこともできない。

 もういっそテレポートを飛雷神の術を偽って使うか?

 

「あれ、別に悪くない考えかもしれない。

 これまでなんで使わなかったと聞かれても、尾獣ほどの巨体を飛ばせる確証がなかったと言えばいいし」

 

 名案かもしれないと超能力のテレポートを使うかと考えた時、三代目が巨獣亀の体を駆け上がってきて頭部に収まっている僕の傍まで駆け寄ってくる。

 

「ハジメよ、よいか?」

 

「なんです、三代目」

 

「儂が九尾を封印する。 その間、何とか奴の動きを抑えてくれんか」

 

「封印ってどうするつもりです。 まさか三代目自身の体に封じるつもりですか」

 

「いや、儂では体が持たんじゃろうが、やることは変わらん。

 おいぼれの最後の大仕事じゃ」

 

 まずい。 屍鬼封尽を使うのか、或いは他の何かかは知らないが、覚悟完了していらっしゃる。

 三代目の死ぬ場所はここじゃないとツッコミたいが、状況が切羽詰まって余裕がないのも確かだ。

 どうしようと焦りが極まったとき、巨大な蝦蟇が九尾の上に口寄せされて押し潰した。

 

「あの蝦蟇はミナトか」

 

「ようやく来たか!」

 

 遅すぎる登場に流石主人公格、出番を引っ張りすぎだと物申したくなる。

 流石にそれを直接言うつもりはないが、文句の一つも言ってやろうと九尾と押しつぶした蝦蟇の傍にいるだろうミナトの下へ近づくが…

 

「………おい」

 

「飛雷神の術で共に飛んだか!」

 

 直後に押しつぶされていた九尾が、蝦蟇を残して忽然と姿を消す。

 口寄せの術の煙を立てて消える現象が発生しておらず、忽然とその場からいなくなるのは飛雷神の術の特徴だ。

 三代目は冷静に飛雷神の術で里から距離を取ったと判断するが、突然現れて何も言うことなく九尾を連れて行方をくらませたので、これまで結構必死に時間を稼いでいた僕に何か言うことないのかという気分になる。

 

 かといってグダグダと腹を立てている時間もあまりない。

 九尾をミナトが相手にするという事は、ナルトへの封印が直ぐにでも始まるのかもしれない。

 九尾の相手はミナトに任せるつもりだったが、すべて一人でやらせるつもりはなかった。

 僕が出来る限り使える力で手を貸して、それで迎える結果を受け入れるつもりだった。

 

 それなのにずっと九尾を抑えていた僕を無視して、ささっと九尾だけを連れ去るとは思わなかった。

 

「遅れてきたと思ったら、さっさと消えやがって」

 

「だがとりあえず里は大丈夫じゃろう。

 後はミナトを追って九尾をどうにかせねば」

 

「わかってます、僕らもミナトのところへ行きましょう」

 

 バカでかい九尾のチャクラなら、感知しなくてもその存在感からどっちの方角にいるのかすぐわかった。

 巨獣亀の体を浮かせて、九尾のチャクラを目印に空を飛んで向かう。

 

「ミナトの奴、だいぶ遠くに飛んだみたいですね」

 

「無茶をしとらんと良いが…。

 しかしこのお主の術、空まで飛べるのか。

 まるで若い頃に見た、うちはマダラの須佐能乎の様じゃ」

 

「この術の参考にしたものの一つですね。

 チャクラを半実体化させて手足のように操ることを目的にしてますので、特殊なチャクラをいろいろ参考にしてるんです。

 そして本来重量の無いチャクラに実体を持たせられるなら、発生起点である術者を持ち上げる事で空を飛ぶことくらい出来るでしょう」

 

「言うは容易いが、普通は無理じゃぞ。

 その上この風貌にチャクラ量、まるで人柱力と尾獣ではないか」

 

「それも参考にしてますね。

 元は不定形の人型をベースにしてたんでしたが、仙術チャクラを組み込んだら亀の姿を模るようになって形がより安定したんですよ。

 お陰で形体の自在性をそのままに、しっかりした実体を持たせやすくなりました」

 

「正直儂はこのまま九尾に力押しで勝ってしまうかと思ったぞ」

 

 たぶん勝てたと思います、流石三代目火影。

 

 三代目に現身の術の概要を説明している間に、遠くへ飛ばされた九尾の姿を確認する。

 九尾は何らかの術の鎖に縛られて動きを封じられており、接近すると現身の術の体に結界が接触する。

 

「九尾を閉じ込めるように結界が張られていますね」

 

「ミナト、それにクシナも中におる。 む、あの術は!」

 

 三代目の驚嘆に目を向けると、ミナトが印を組んで何らかの術を発動しようとしていた。

 

「あの印、屍鬼封尽か!」

 

「………」

 

 ついにミナトが命を引き換えにする術を使おうとしている事を察し、屍鬼封尽についてボロを出さないように気を落ち着かせる。

 この世界ではまだ初めて聞く術の名前なのだから。

 

「三代目。 状況から何となく察しますが屍鬼封尽とは?」

 

「お主の想像通り、命を代償とする禁術じゃ。

 相手の魂を術者の魂と共に死神に食わせ封じる術と聞いている」

 

「………」

 

 僕は沈黙を持ってミナトが何をしようとしているのか察したことを示す。

 わかっていたことだが、この術を発動させてしまった以上ミナトの命は幾何もない。

 だがそれでもこれでほんとによかったのかと、僕はいまだに悩んでいる。

 

 主人公ナルトの誕生とミナトとクシナの死は同じだ。

 ナルトは物語通りなら様々な運命を背負い、忍界に平和をもたらす英雄となる。

 だがその運命を、生まれたばかりの赤ん坊に両親の死をもって背負わせようとしている事に、僕自身憤りを感じている。

 そして全力を出せば九尾を倒しミナトを助けられたのに、原作の流れを意識して迷っていることに腹を立てる。

 

「くそっ!」

 

「ハジメよ…」

 

 様々な思いが混同する苛立ちで悪態をつき、三代目はそれを結界によって遮られ手を出せないことによる苛立ちと勘違いしてくれる。

 そうしている内にミナトの屍鬼封尽が発動し、鎖によって動きを封じられた九尾から魂とチャクラの半分を奪い取る。

 

「九尾が小さく…」

 

「屍鬼封尽でも九尾を全て封じきる事は叶わぬか」

 

 三代目は九尾の半分をナルトに封じるとは気づいていないので、封印しきれなかったと勘違いしている。

 僕はミナトがやろうとしている事を大まかに知っているが、このまま見ているだけいいのか?と僕の中の何かが訴え続けるのを拳を強く握りしめて誤魔化していた。

 

 だがその時、小さくなったことで鎖が緩み九尾の自由が僅かに戻る。

 それに気づいた九尾が封印しようとしている赤子ナルトを殺そうと爪を振り上げた。

 

「もう見てられるか!?」

 

 禁術の発動と九尾を抜かれた事で満身創痍の二人がナルトを庇おうとしたところで、僕の我慢の限界が来た。

 後の事など知ったことかと超能力のテレポートで結界の中に単身で入り込み、振り下ろされる九尾の腕を横から怪力で殴って攻撃を逸らした。

 その隙にクシナが緩んだ鎖を締め上げる。

 

「ハジメ、どうやってこの結界の中に!?」

 

「僕にだって隠し玉の一つや二つあるんだよ!

 それよりなんでだミナト!」

 

 なんで死のうとする。 なんでナルトに九尾を封印しようとする。 なんで一人で解決しようとする。

 なんで僕はミナトを全力で助けようとしない。 なんでナルトに過酷な運命を押しつけようとするのを良しとする。

 

 なんで、なんて、なんで…

 ミナトへの、そして僕自身への憤りの全てを吐き出すようにただなんでと叫んだ。

 それをミナトは死ぬ寸前だというのに、いつもの穏やかな表情でわかったように答える。

 

「これが最善だと思ったからだ」

 

「そんなわけない! 出来る事はいくらでもあった!

 この場で九尾を封印しなくたって、戦うことだって遠くへ追いやることだって出来たはずだ!

 お前らが犠牲になる必要なんかこれっぽっちもないはずだ!」

 

「ああ、そうかもしれない。 けどこうするべきだってこの子を見たとき思ったんだ。

 この子が、ナルトがオレ達がここで死ぬ意味を持たせてくれるって感じたんだ。

 九尾の力もいつかきっと使いこなしてくれる」

 

「…その子には過酷な運命を背負わせることになるんだぞ。

 父親としてそれでいいのか」

 

「よくはない。 この子が困ってる時に傍にいてあげられない事が辛い。

 だからハジメ、オレの代わりにこの子の力になってあげてくれ」

 

「はぁ!?」

 

 真剣な目でナルトを託そうとするミナトに僕は驚く。

 

「君ならナルトのことを安心して任せられる」

 

「私もミナトももうすぐ死ぬ。 ナルトのことお願いするってばね」

 

「な………う……」

 

 あまりの事に言葉を失う。

 どんなに強くたって後の英雄となるナルトを預かるなんて自分の器ではない。

 考えただけで気が重くなり、そんな大役を押し付けられるくらいならと観念して禁じ手を解禁することを覚悟する。

 そんな逃げの選択に、やはり自分は主人公どころか脇役も重荷だと確信して。

 

「………もういい観念した。 どうにでもなれだ。

 その子の事は出来る限りするが、親代わりなんて僕には荷が重すぎる。

 だから使うつもりのなかった禁じ手を使ってやる」

 

「ハジメ、何をする気だ」

 

「僕だけが使える蘇生術だ。

 それを使えば九尾を抜かれて死にかけているクシナさんを生かすことが出来る。

 ミナトも時間をかけて相当無茶をすれば生き返れるだろう」

 

「ホントだってばね!?」

 

 その蘇生術は僕がこの世界に来る前に得た能力、シャーマンキングの世界の蘇生術呪禁存思(じゅごんぞんし)

 必要な力にチャクラではなく巫力を使うので、この世界で使えるのは僕だけになる。

 

「ええ、この術は十全な肉体と魂が揃っていれば、肉体寿命で死んでもいない限り蘇生できる。

 死んでなくても肉体欠損の補完も可能な治癒術です」

 

「魂…」

 

 クシナは屍鬼封尽の詳細を思い出したようでミナトを見る。

 魂が封印されてしまう以上、ミナトの蘇生は出来なくなる。

 

「屍鬼封尽の概要は三代目に聞いている。 お前を蘇生させるには屍鬼封尽で封印される魂を開放する必要があるな」

 

 そういって僕はミナトの背に浮かぶ鬼の形相の死神を見た(・・)

 シャーマンの力を持っているおかげか、本来術者と死が近い人間にしか見えない死神が僕には見えている。

 僕の視線が自身の後ろに行っていることにミナトは気づく。

 

「………ハジメ、もしかしてこの死神が見えているのかい」

 

「ああ、本来は見えないような存在だが、僕にはその手のモノが見えてね」

 

「ははは、君はホントに不思議だね。

 それじゃあナルトとクシナの事を頼むよ。

 オレの蘇生はしなくていい」

 

「ミナト、何言ってるってばね!!」

 

 せっかく生き返ることが出来るのを断るミナトにクシナが声を上げる。

 

「ハジメ、その術のリスクは何だい」

 

「あっ、そうだってばね。 蘇生術ほどの禁忌、何のリスクもないはずないってばね」

 

「条件さえ整えばリスクも代償もない。 せいぜい僕が疲れるだけだ」

 

「なっ!?」

 

 クシナが驚くのも無理はない。

 この世界の忍術による蘇生術は、すべて何かしらの代償が必要なのだから。

 

「そうか、それはすごい術だね。 だから君も使いたくなかったんだろう?」

 

「まあな」

 

 この世界の力でないという理由もあるが、リスクのない蘇生術というのも問題だ。

 噂が広まれば術の詳細を知ろうと禄でもないやつらが集まってくるのが目に見えている。

 

「クシナが生き残ってくれるだけでも十分だ。 屍鬼封尽は封印の解除にもリスクが大きい。

 九尾のチャクラも共に封印する以上、下手に開放するわけにもいかないからね」

 

「ミナト…」

 

「それでいいんだな」

 

「すまないけど後の事は頼んだよ」

 

 死神に魂を掴まれた事で死相を浮かべているが、それでもミナトはいつもの穏やかな顔で僕に微笑んだ。

 これから死ぬと分かっているとは思えない、覚悟を決めた本物の英雄の器をミナトに感じた。

 こんな人の生き様を間近で見れただけで、この世界に残ったかいがあった。

 正しく物語の中にいる僕が憧れたヒーローの姿を見れたのだから。

 

「ああ、後は僕やお前が信じたナルトに任せておけ」

 

「うん」

 

 ミナトの命が尽きるのを見守るように別れの言葉を交わしていると、死神が咥えていたドスを手に取る。

 ついにミナトと九尾の魂を刈り取ろうというのだ。

 

「って、あ」

 

「ん? ………って拙い! 九尾のナルトへの封印がまだ!」

 

 死神が動いたことに僕が気付いたことでミナトも気づき、話し込み過ぎて屍鬼封尽の術が完了してしまいそうだった。

 

「くそっ! ミナト、今のうちにナルトの封印を!」

 

「死神を抑えるってどうなってるんだい!?」

 

 とっさに死神に掴み掛り羽交い絞めにすることで、ミナトの魂を刈り取るのを止める。

 シャーマンなので霊に近い存在に干渉することも可能だ。

 

「そういえば…こっちももう限界だったってばね…」

 

「ああもう、そっちもか!」

 

「がんばれクシナ、もう少しだから!」

 

 術の鎖で九尾を封じていたクシナも限界に達し、慌てて僕が影分身を出して彼女にチャクラを供給する。

 最後にグダグダになってしまったが、九尾はナルトに封印する事に成功しミナトは死にクシナはシャーマンの蘇生術によって生き延びた。

 

 

 

 

 

 12年後。

 

 四代目波風ミナトの死により三代目火影が現役復帰。

 それに伴い僕が三代目の側近として抜擢されることになった。

 

 どうしてこうなったと思ったが、九尾事件の時僕は里の人々の目につくところで活躍しすぎてしまったからだ。

 時間稼ぎだったとはいえ九尾相手に実質一人で戦う大立ち回りを多くの人が目撃し、封印したミナトより僕が里の英雄として扱われることになってしまった。

 そして死んだ四代目に変わり僕が五代目火影にと多くの声が寄せられるようになった。

 

 当然僕はこれを拒否したが、声を無視するには事が大きすぎると妥協案として火影の側近として収まった。

 しかし三代目も高齢なので衰えを感じ火影の仕事に僅かに支障が出ていることから、仕事の半分以上を僕が請け負う事になっている。

 事実上半分火影にされてしまったようなものだ。

 

 どうしてこうなった。

 

 今は立て込んでいた書類仕事を片付けて、徹夜明けで久しぶりに帰宅中だ。

 火影の仕事、本当に忙しい。 三代目もミナトもよく一人でこなしていたものだと思う。

 

 自宅へ向かう道中、一軒家から元気よく子供が飛び出してくる。

 

「じゃあ、アカデミー行ってくるってばよ」

 

「待つってばねナルト! お弁当!」

 

「あ、いっけねー!」

 

 飛び出してきた子供、ナルトは慌てて家に戻り弁当を取りに戻った。

 

 見た通りナルトは父親のミナトは死んでしまったが、生き残ったクシナがいる事で原作よりは幸福な家族環境で暮らしている。

 それでも九尾が封印されているのを里の大人たちに少なからず知られており、ナルトは子供の感性で自身が煙たがられている事を察しているようだ。

 最もミナトが信じクシナの支えがあるナルトなら、それを跳ね除けるだろう。

 原作のようによく周りにいたずらをし、火影になると既に公言してるみたいだし。

 

 ナルトに弁当を渡しているクシナの後ろの玄関から、もう一人子供が出てくる。

 

「朝から騒いでクシナさんに迷惑をかけるな、ナルト」

 

「うっせー、サスケ。 大きなお世話だってばよ」

 

 うちはサスケは今、うずまき家で世話になっている。

 うちは一族の壊滅は残念ながら原作通り起こってしまい、イタチは里抜けしサスケ一人だけが生き残った。

 当時も何とかできないかと僕は動き回ったが実を結ばず、事件が起こる直前に接触したイタチにまでサスケを頼まれてしまい、僕が身元引受人になった。

 だが僕に親代わりなど出来る筈もなく傷心のサスケとの関係をうまく作れず、一人にしてしまっていたところを、見かねたクシナが強引に自分の家に連れて帰った。

 クシナはサスケの母と友人関係だったことから放っておけなかったらしい。

 

 強引なクシナに最初は反発していたサスケだが、時間が経つにつれて心を解きほぐしていった。

 今ではナルトも一緒に良い家族関係が出来ている。

 原作を知る身としては、いろいろ人間関係ぶっ飛ばし過ぎ何やってんのクシナさんとツッコミを入れたい。

 流石ナルト母と、生かした影響力強すぎとびっくりした。

 

「あら、おはようハジメ。 これから仕事?」

 

「ああ、おはようクシナ。 仕事はさっき終わって久しぶりに家に帰るところだ」

 

「やっぱり火影の仕事は大変だってばね」

 

「火影補佐(・・)だ。 勝手に火影にしないでくれ」

 

「さっさとなればいいのに、強情だってばね」

 

「僕には務まらないよ」

 

 最近でも多くの人たちが火影にならないかと言ってくる。

 三代目が高齢なのも理由だが、勘弁してほしい。

 クシナも会うたびに、僕が嫌がるのを知ってて火影にならないかと推すのだ。

 

「おはよーだってばよ、ハジメのおっちゃん。

 やっぱり火影の仕事って大変なんだな」

 

「側近だがな。 ナルトも火影を目指すんだったら書類仕事が出来るように勉強もしっかりするんだぞ」

 

「ウエー、勉強は苦手だってばよ」

 

 嫌そうに顔をしかめるが、火影の書類仕事は本当に大変だ。

 将来ナルトが火影になったときに本当にできるとかと思ったくらいだ。

 

「サスケもおはよう。 うまくやってるようで何よりだ」

 

「………ああ」

 

 そっけない返事をするサスケ。

 身元引受人になる時いろいろ話したのだが、僕が保護者になるという事で死んだ両親を思い起こし当時は反発されたものだ。

 返事をするだけだいぶマシになったと言える。

 

 そんなサスケにクシナの拳骨が落ちる。

 

「っ!」

 

「朝の挨拶ぐらいちゃんとするってばねサスケ!」

 

「むっ………、おはよう…」

 

 僕に挨拶するのはナニか癪だといった様子全開で、クシナに怒られたサスケが渋々挨拶する。

 

「ぷっ」

 

「っ! なにがおかしい!?」

 

 しおらしいサスケの様子に思わず吹き出してしまう。

 

「悪い悪い、だが本当にうまくやってるようで何よりだ。

 ちょっと前のお前は相当不貞腐れてたからな」

 

「………ふん」

 

「それよりアカデミーはいいのか? そろそろ始業時間だったと思うが」

 

「あ、やばいってばよ! 母ちゃん行ってくるってばよ!」

 

「待てナルト! 置いて行くな!」

 

 慌てて駆け出していく二人を僕とクシナは見送る。

 

「慌ただしいな」

 

「毎日こんな感じだってばね」

 

「そうか」

 

 いずれ二人には過酷な運命が待ち受けているのだろうが、こんな平和な時があるのなら僕も選択した甲斐があった。

 

「(お前もこんな光景を夢見て後を託したのか、ミナト)」

 

 僕は彼方に見えるミナトの火影岩を見ながらそう思った。

 

 

 

 

 




どうしてこうなった。 と言えばここのサイトの名作タイトルですが、新たな続編が楽しみです。

あちらよりだいぶ劣る執筆力ですが、自分もいい作品をしたいです

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