四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

32 / 41
第十話

 

 

 

 

 

 サスケの里抜け事件から数年が経った。

 ナルトを含めた小隊の奪還任務は本来の歴史通り失敗に終わり、サスケは大蛇丸の下へ行った。

 その後、ナルトは自来也と旅立ち、サクラが綱手様に弟子入りし、兄弟子として僕も彼女の修行に少しばかり付き合う事になった。

 そして綱手様の火影補佐として大きな事件もなく過ごし、数年を経てナルトが里に帰ってきた。

 

「里に戻ってきてさっそく任務、それも風影の誘拐事件とはな」

 

「件の暁が動き出したようですね」

 

「自来也と二年も修行の旅をしたとはいえ、相手は風影を里から攫った強者だ。

 今のナルトがどこまでやれるか」

 

「カカシとサクラも一緒ですし、たとえ無理でも引き際を間違える事はないでしょう」

 

「だがナルトだぞ」

 

「そうでしたね」

 

 おそらく危機的状況でもあの性格なら無茶をするだろうと、綱手様と僕は簡単に予測できた。

 それでもちゃんと帰ってくるだろうと確信し、後に風影奪還の報告を受け取った。 

 

 その際に敵から大蛇丸に繋がる情報を得たナルトは、ヤマトとサイと班を結成してサスケを連れ戻す任務に就いた。

 ダンゾウの傘下にあるサイは気になったが、本来の歴史通りなら大丈夫だろうと送り出し、連れ戻す事は叶わなかったがサスケと接触しその無事を確認した。

 僕としても大蛇丸の下で無事でいるかは、原作情報があったとしても何の保証もない事柄だったので、生存報告を聞けて安心した。

 

 その再会の時にサスケとの力の差を感じたナルトは、新たな力を求めて螺旋丸に性質変化を加えた、後の風遁・螺旋手裏剣の開発に乗り出す。

 カカシの提案で多重影分身を使った修行法を行ない、ナルトは比較的短期間で風遁・螺旋手裏剣を形にしたが、使用の際の体への反動が大きいという欠陥から未完成となる。

 本来の歴史なら角都に対しての実戦使用で発覚する欠陥だが、数年前に倒してしまったので僕の方から欠点の指摘をした。

 

 螺旋手裏剣は未完成に終わったが性質変化を習得したナルトは、空いた時間を他の風遁を憶える修行に充てていた時に一つの噂が流れてきた。

 サスケが大蛇丸を殺して出奔したと。

 

 それを知ったナルト達は再びサスケを探そうと動き出す。

 僕も時期が来たと独自に動くべく、火影補佐としての仕事を整理し始める。

 

「ハジメ、お前も動く気か」

 

「ええ。 直ぐにとは言いませんが、時期が迫ってきてるようなので」

 

「うちはイタチの事だな」

 

「はい」

 

 綱手様には五代目火影として知っていてもらう為に、うちは一族滅亡の事情を包み隠さず話してある。

 僕がイタチと、それに伴いサスケの事を気にかけている事情も伝えてある。

 

「以前から言っていたことだからな。 出来るだけ早く戻ってこい」

 

「わかりました」

 

「それと出るのはここの仕事を終わらせてからにしろ」

 

「かまいませんが、ここからそちらは五代目のお仕事ですよ」

 

「………」

 

 火影室には今日も書類の山が積もり積もって、仕事の終わりが見えることはない。

 

「頼む! 私だけでは期日までに処理しきれんのだ!」

 

「だから息抜きと言って、賭博場に行ってる暇なんかなかったんですよ!

 自業自得でしょう!」

 

「年から年中、火影室で書類整理ばかりしていてはストレスが溜まるんだ。

 これくらいは大目に見るといったではないか!」

 

「仕事が間に合わなくなるほど、息抜きを許したつもりはありません。

 一週間くらい火影室にこもり続ければ終わるでしょう」

 

「一週間寝ずにやれというのか!」

 

「綱手様なら眠気や疲れくらい医療忍術で誤魔化す事わけないでしょう」

 

「いや、私もこう見えてそこそこいい歳でな。

 お前や若い奴らのように、徹夜を続けられるほど無理は出来なくてだな」

 

「こういうときだけ年寄りにならないでください」

 

 自分の仕事をきっちりこなしつつ、少しでも仕事を減らそうとごねる綱手様をしっかり働かせ、僕はイタチの元へ向かう準備を済ませる。

 サスケが大蛇丸を倒して動いた以上、イタチのとの決着の時は近い。

 原作の知識も細かいところまでは覚えていないが、サスケが動いたのなら確実にイタチの元へ行く。

 それがわかっているからこそ、決着の時に間に合うようにイタチの元へ向かわないといけない。

 イタチに里抜けを許した時から、結末の時にあいつを看取ろうと決めていた。

 

 仕事をようやく切り上げイタチの元へ向かおうとした時に、自来也が暁のリーダーを調べるために雨隠れの里に向かうという話を聞く。

 本来の歴史通りなら情報を得る事の代償に、自来也は暁のリーダーペインに敗れて死ぬことになる。

 同行する訳にはいかないが、一つ保険をかけて自来也が出発すると同時に、僕もイタチの元へ行くために里を出た。

 

 

 

 イタチの所在はその気になれば気を探る事で居場所を探ることは出来た。

 むろん忍者なので気配を消されていたらその限りではないが、いくらイタチでも普段から気配を殺してるわけではないので、すぐに気を捕らえることが出来た。

 イタチの気は隠すどころかなぜか自己主張するように高ぶっており、何かをおびき寄せようという気配を感じる。

 まさかもうサスケを待ってるのだろうか?

 

 気を捕らえた僕は最短距離でイタチの元へ駆けた。

 もうすぐというところで、道を遮るように相方の干柿鬼鮫が立ちはだかった。

 

「おや、あなたは木の葉の…。 なぜあなたのような方がこんなところにいるのですか」

 

「イタチに用があってきた。 この先にいるんだろう」

 

「ええ。 ですがいずれここに来る弟さん以外通さないでくれと、イタチさんたっての願いでしてね。

 お通しする訳にはいかないんですよ」

 

「…意外だな。 イタチの願いは完全に私情のようだが、相方とはいえ暁のメンバーがそれに付き合うのか」

 

 イタチが任務として暁に潜入していると気づいているかどうか知らないが、どちらにしても干柿鬼鮫がこの件に手を貸すような人間ではないと思ったのだが…。

 

「ええ、今回は暁の仕事に関係ありません。

 イタチさんとはそこそこ長い付き合いなのですが、あの人が私に頼み事をするなんて初めての事でしてね。

 気まぐれに少しだけ付き合う事にしたんですよ。

 おそらく最初で最後になると思いましたからね」

 

 干柿鬼鮫は察しているのか察していないのか知らないが、この件がイタチにとって重要だと分かった上での行動らしい。

 少なくとも上からイタチの横槍を入れる様な指示がない限り、邪魔をすることはないだろう。

 

「あんたの噂は知っているが、そこそこ義理堅い人間らしいな」

 

「…そんなこと言われるとは思いませんでした。

 今回の私の行動は言った通りただの気まぐれ。 イタチさんがどのような事情で弟さんを待ってるのか知りませんが、組織の不利益となるなら場合によってはあの人を切らないといけないと思ってるんですがね」

 

「だがイタチの私情に、個人的にであれば付き合っているのも事実だろう。

 里を出たとはいえ、悪くない仲間を持ったんじゃないか」

 

「………あまり変な事を言わないで頂きたいですね。

 私にとって仲間とは、必要があれば真っ先に殺す相手の事なんですよ。

 当然イタチさんも私の経歴は知っているでしょうし、そんな私に仲間などと薄ら寒い。

 変な事を言って私を惑わし、ここを通り抜ける作戦でしょうか?」

 

「純粋に思ったことを口にしただけだが」

 

「これ以上下らない事を言うようでしたら、その減らず口を削り取りますよ」

 

 機嫌を損ねた干柿鬼鮫が大刀・鮫肌を隠していた包帯をあっという間に外して構える。

 少しばかり腹を立てている様であり、余計な事を言い過ぎたかと反省する。

 

「すまない、言い過ぎたようだ。 ともかく僕はイタチに用があるだけで、お前と戦うつもりはない」

 

「謝罪は受け取りましょう。 ですがあなたを通す気は一切無くなりましたがね」

 

 全然謝罪を受け入れた様に見えない鬼鮫に、僕は仕方なく力で押し通る事にする。

 気を瞬間的に開放してドラゴンボールの戦闘力を発揮し、術でもなんでもない反応できない純粋な速さで鬼鮫の横に移動し肩に手を乗せる。

 瞬身の術に慣れている上位の忍者でも、この速度には反応できない。

 

「ッ!!」

 

「まあ待て。 僕はイタチの邪魔をするつもりはないし、話をしに来ただけだ。

 イタチとその弟の事情も把握している。 それでも止めるというなら僕も少し本気にならないといけないがどうする?」

 

「………」

 

 気を僅かに開放して鬼鮫を威圧するように気当りを仕掛ける。

 気は実力が拮抗していれば威圧を跳ね除けられるが、鬼鮫が上位の忍とは言えドラゴンボールの戦闘力に比べれば格差がある。

 おそらく鬼鮫には気による威圧で、全身がビリビリ痺れるような感覚に襲われているだろう。

 

「…なるほど、あなたを相手するのは私情だけで動くには安すぎますね。

 イタチさんの邪魔をするようではないみたいですし、あなたの力の片鱗を見れただけで良しとしておきましょう」

 

 結構強めに威圧していたのだが、鬼鮫は平然とした様子で表情を変えようともせず、鮫肌を下ろして臨戦態勢を解いた。

 多少は動揺を見せるかと思ったが、抜け忍の集まりとはいえ実力は一流ばかりの暁だ。

 どれほど堪えたかはわからないが、引かせられたのなら目標達成問題ない。

 

「では行かせてもらうぞ」

 

 そう告げてからこの先にいるイタチの元へ向かう。

 僕が過ぎ去った後に鬼鮫は…

 

「あれは化け物ですね。 戦う事になるなら尾獣を数体纏めて相手にした方がまだマシかもしれません」

 

 

 

 

 

 少し進むと建物があり、中に入るとイタチが椅子に座って待っていた。

 暁の装束でいつも通り感情を見せない落ち着いた表情で、僕が来たことに驚く様子はなかった。

 

「あなたが来てしまいましたか、ハジメさん」

 

「イタチ………」

 

 一切狼狽えない様子のイタチだが、その姿を見た時から僕は超能力の透視でその体を診断する。

 医療忍術を専門としてきたおかげで、健康な人かそうでないかくらい今では一目で大体解る。

 透視能力とこれまでの医療忍術の経験から体調を診断し、内臓がかなり良くない状態であることがすぐに分かった。

 

「そんな状態の体でよく平然としていられるな」

 

「わかりますか」

 

「これでも医療忍者だからな。 それで、サスケを待ってるんだってな」

 

「ええ。 そろそろ限界に近いので、最後くらいはこの命をサスケの為に使おうと思いまして」

 

「万華鏡写輪眼か」

 

「はい」

 

 写輪眼の発展形、万華鏡写輪眼の開眼条件は術者の非常に激しい感情の発露がトリガーとなる。

 それも当事者と親しい関係にある者の、死による悲しみや喪失感などの激情による衝撃がきっかけとなる。

 自身がサスケの手によって死に、その後のうちは壊滅の真相を知れば開眼するのではないかというのがイタチの思惑だろう。

 こればかりは感情という人の心が混ざる以上、うまくいくとは限らない。

 万華鏡写輪眼は確実に開眼するとは言い切れない、めぐり合わせ次第の能力と言える。

 

「お前も本当に酷い、そして不器用な奴だな」

 

「今更です」

 

「今からでも治療をすれば生きられるかもしれないぞ」

 

 かなり酷い状態だが、今の僕なら全力で治療をすれば完治は無理でも五分五分くらいで十分生きられる可能性はある。

 

「そうですか。 ですが必要ありません。 あの日から決めていたことですから。

 最後はサスケの手にかかって死ぬと」

 

「そうか………お前はホントに酷いな」

 

「すみません」

 

 少しでも多くの物を残そうとしているのだろうが、サスケにとっては不憫を通り越して悲惨な結末でしかない。

 これがイタチなりの愛情だというのだから、事情があるとはいえあまりに酷すぎる不器用さだ。

 

「ハジメさんなら既に知っているかもしれませんが、万華鏡写輪眼は開眼しただけでは完全とは言えません。

 不完全な万華鏡写輪眼のままでは瞳術を使うたび視力を落とし、最後には失明します。

 それを克服するには同じく万華鏡写輪眼に開眼した者の目を移植する事で、劣化する事の無い永遠の万華鏡写輪眼となるのです。

 サスケが開眼したら俺の目を移植してやってください」

 

「簡単に言ってくれる」

 

「こんなことを頼めるのは貴方くらいしかいませんから」

 

「だが、僕ではサスケをちゃんと導いてやることは出来なかった」

 

「ですが、どのような経緯であれ、サスケはうちはとして大罪人の俺を殺しに来ようとしている。

 それで俺の望みは叶います」

 

「お前は本当に不器用で馬鹿な奴だよ」

 

 イタチの意志はやはり固いと、長ったらしい問答はそこまでだった。

 サスケがすぐそこまで来た事を察した僕は距離を取って身を隠し、イタチとの行く末を見守った。

 

 

 

 二人の戦いが始まる。

 里を出たサスケは確かに強くなり、イタチと正面からぶつかり合えるほどの実力を見せた。

 しかし戦況はイタチにいささか傾いており、サスケはあらゆる手段で攻めるが決定打にならない。

 お互いに大きく消耗したところで、サスケが雨雲から雷を誘導して相手に落とす雷遁・麒麟をイタチに放った。

 チャクラの雷ではなく自然現象を利用した攻撃は通常の術と桁外れの威力だったが、イタチは万華鏡写輪眼第三の術・須佐能乎を纏う事で身を守り切った。

 

 その直後消耗しきったサスケに異変が起こり、内に封じていた大蛇丸が呪印を核として復活した。

 そしてかつて求めたイタチの体を得ようと襲い掛かるが、イタチは須佐能乎の力で大蛇丸を容易に返り討ちにした。

 しかしイタチはそれで消耗と病で限界を迎え、最後の力でサスケの前に立ってそのまま力尽き息絶えた。

 サスケも体力の消耗と大蛇丸の出現で限界を迎え倒れるが、命の危機はなくいずれ目を覚ます眠りだった。

 

 僕は彼らの戦いを終始見逃さず見届け、悲しみしか生まない戦いに涙を流すしかなかった。

 サスケの憎しみは誘導されたとはいえ荒々しく猛っているのだろうが、イタチにはどのような思いが渦巻いていたのだろうか。

 サスケへの愛情か、憎悪を向けられる痛みか、罪悪感からの解放か、役目を終える安堵か。

 イタチの心情はそんな簡単に察し切れるようなものではないのだろうが、僕はイタチの死を悲しみと共に安息を願った。

 

「イタチ、お前は十分戦った。 もうゆっくり休んでくれ」

 

 そして、この戦いの結末を利用しようとするものを僕は許すつもりはなかった。

 

 倒れ伏すイタチとサスケの傍の空間がゆがみ、仮面をつけた男が現れる。

 同時に僕も瞬身で二人の傍に降り立ちそいつと対峙する。

 

「二人に手は出させん」

 

「解せんな。 見ていただけのお前がなぜ今になって動く」

 

「イタチの望み。 それを見届ける以外に理由はない」

 

「その二人は、理由はどうあれ木の葉の里を捨てた身だぞ」

 

「関係ない」

 

 お前がそれを言うか。

 九尾を暴れさせ木の葉とうちは一族の不和を生みクーデターの切っ掛けを作り、更にうちは一族を滅ぼすイタチに手を貸していたお前、うちはオビトが…。

 こいつにも道を踏み外した理由があるとはいえ、正しく誰かの為にと願って道を自ら外れたイタチとは天と地ほどの差がある。

 憎む気にはなれないが、敬意を払う気も一切ない。

 二人を連れて行かせはしない。

 

 先ほどイタチが使った須佐能乎をモデルとして生み出した現身の術を発動し、チャクラの大剣を作り出してオビトに振るう。

 チャクラの大剣ゆえにリーチも自在で、遠い間合いからの斬撃も刀身を伸ばす事でオビトに届くが、当たっても一切ダメージを与えることなくすり抜けた。

 構わず続けて斬撃を当てるが、すべてすり抜けて何の効果も見せない。

 

「無駄だ。 お前の攻撃は俺には効かない」

 

「だろうな。 九尾の事件の時と同じだ」

 

「…見ていたか。 あるいは死に際の四代目から聞いたか」

 

「まあな」

 

 実際には九尾の時にミナトが戦ったところを見ても聞いてもいないが、こいつの能力を知っている理由の説明にはちょうど良い。

 こいつの万華鏡写輪眼の能力・神威は、物体と接触した時自身の体を部分的に異空間に送る事で攻撃を回避する絶対防御。

 この能力に対して唯一有効だと解っている手段は、対となるカカシの持つ万華鏡写輪眼の神威だけだ。

 当然ここにはそれはないが、今こいつを倒す必要があるわけでもない。

 

 いずれ闘うのがわかっていたのでこの術に有効そうな(すべ)もいくつか考えているが、それをここで実践して倒す必要はない。

 ならばこの能力の欠点を突いて、二人を守りお茶を濁すだけだ。

 

「その能力についてはいろいろ対抗策を考えていた。

 通常の攻撃は効かないようだが、これならどうだ」

 

 現身の術の大剣の形を変えて、太く巨大な剛腕を作り出してオビトの上半身を撃ち抜いた。

 攻撃は当然すり抜けるが、オビトの上半身は剛腕によってほとんど覆い隠される。

 

「(無駄だ、神威の守りに弱点などない)」

 

 オビトが攻撃が突き抜けた状態で横に動き、剛腕の中から平然と出ようとするのを足の動き(・・・・)で確認すると、僕はそれに合わせて現身の術を動かしてオビトの体を覆い隠し続ける。

 オビトの体は攻撃された部分だけ異空間に行くという事は、頭部を攻撃し続けていれば視覚嗅覚聴覚を封じるのも同然だ。

 更に、

 

 

――土遁・黄泉沼――

 

 

 オビトの足元に術を発動すると、唯一見えている両足が黄泉沼に沈んだ。

 神威の守りは自動で攻撃を透過し、何かに触れようとした瞬間だけ自動透過が解除される。

 だが唯一自動防御しながらも物体に触れていられる面がある。

 それが地面に接している足元だ。

 

 もし足元まで物体を透過する状態であれば、地面を突き抜けて地中の底まで落ちて行ってしまう。

 ならば唯一地面に接している部分だけは、自動防御をしていても歩いて行動するために地面との相互干渉を無効化出来ないはずだ。

 つまり足元への攻撃は神威でも無視出来ない。

 

 黄泉沼は沼で足の動きを封じる事を目的とした忍術であり、当然水面歩行が可能な忍にも有効で沼に立つことが出来ないようになっている。

 神威による転移を行なえば容易に脱出出来るだろうが、絶対防御を発動している間は能力運用を切り替える必要があり、事実上封じられるような物なのでそれも使用できない。

 他にも何らかの術で沼から抜け出す方法があるかもしれないが、絶対防御によってオビト自身は今は何も触れられない状態にある。

 つまりこれでオビトは詰みだ。

 

「動けないか? ………どうやらこれでお前の動きは完全に封じられるようだな。

 目と耳がこっちにないから何もわからないだろうが、二人は連れて行かせてもらう」

 

―影分身の術―

 

 影分身を三体作って、一体は本体の僕に変わって現身の術を引き継いでオビトの足止めをし、もう一体はこちらの様子を窺っているだろう黒ゼツの足止めに向かわせ、最後の一体は本体と共にイタチとサスケを背負う。

 さっさとサスケを治療するためにその場を離れ、オビトの足止めをする影分身には絶対防御の制限時間ぎりぎりまで現身の術で抑えるようにした。

 この場でオビトを倒す事も出来そうだが、そうはしない。 倒せば今後どうなるかわからないからだ。

 神威の絶対防御を一度攻略したことで、次からは何らかの対策をされる可能性はあるが気にしてもしょうがない。

 

 

 

 

 

 オビトと黒ゼツから距離を取ったところで飛雷神の術で移動し、治療の出来るセーフハウスに飛んだ。

 イタチの遺体は保存しサスケの治療をするが、消耗が激しいこと以外は酷すぎるケガはなく放っておいても死ぬことはなさそうだった。

 

 サスケが起きた後の事を考えると気が重い。

 イタチとうちは壊滅の真実を伝えなければいけないからだ。

 だがオビトからその役目を奪った以上、教えないという選択肢はない。

 沈痛な面持ちで目覚めるのを待っていると、サスケが身じろぎし意識を取り戻した。

 

「………ここは?」

 

「僕の用意したセーフハウスだ」

 

「なに、お前は! なぜここに!?」

 

「お前たちの戦いを見ていたからだ。 イタチの最期を看取るためにな」

 

「…どういうことだ? 何を言っている」

 

「イタチは病に侵されていた。 お前も気を失う前に目の前で力尽きる様を見たはずだ」

 

「………そうだ、イタチは俺の目の前で。 だがなんで…」

 

 イタチの最後に多くの腑に落ちない点がある事に混乱した様子のサスケ。

 

「僕はお前に真実を教えるためにもここにいる。

 よく聞け、イタチが歩んできた愚かで救いようのない、間違いだらけでも尊い生き様を…」

 

 

 

 僕は簡潔に事件の真相と、イタチが何を残そうとしてきたのかサスケに伝えた。

 

「嘘だ………出鱈目だ、ありえない…」

 

「いきなり全て飲み込めとは言わない。

 だがすべて本当の事だ。 お前も思い返せばいくつか思い当たる節があるじゃないか」

 

「だが!」

 

 サスケは伝えた真実を必死に否定しようと思いつく限りの反論を述べるが、僕はすべて論破していく。

 そのたびにサスケの勢いは下火になっていき、最後には沈黙する。

 

「………」

 

「お前にはとても酷な話だが伝えなければならなかった。

 イタチの遺言のようなものだからな」

 

「…あんたはなんで」

 

「イタチの事は事件当時から関わっていた」

 

「なに、じゃああんたがうちはを!」

 

「止められなかった…という意味では反論の余地はない。

 最悪僕がクーデターを起こそうとしたうちはを処理するべきかと考えたほどだ」

 

「なんだと!」

 

 怒りを顕わにしたサスケが、拳を握りしめ殴り掛かってくる。

 本来のサスケなら千鳥を発動させて襲い掛かって来るのだろうが、まだ回復していないからか怒りに我を忘れてるからか、愚直に殴り掛かるだけだった。

 当然、消耗していたサスケの動きは鈍重で簡単に受け止められた。

 

「こんな力のないパンチしか打てないのに動き回るな。 横になってろ。

 今の話はイタチにも提案したが、自分の手でやるとあいつは決断した」

 

「なんでだ…」

 

「うちはのクーデターが成功するにしろ失敗するにしろ、新たな戦乱の引き金になる可能性が大いにあった。

 それがわかっていたイタチは、うちはとして他の誰かではなく自分の手で幕を引く事にした。

 結局里を抜けるなら、お前や両親だけでも連れて逃げればいいとも言ったんだがな」

 

「イタチはなぜそうしようとしなかった」

 

「お前ならわかるだろう」

 

「………」

 

 サスケは少し考え込むがわからないといった様子を見せる。

 

「お前も間違っていると分かっていながら里抜けをした身だろう。

 己の譲れない物の為に逃げ道を提示しても、その道を選ばなかっただけだ」

 

「っ!!」

 

「お前が里を抜ける時、うちはとして決着を着けると言ったように、イタチも木の葉の忍としてうちはとして己の一族に自身で決着を着けることにしたんだ」

 

「…馬鹿が」

 

「ああ、馬鹿だ。 おまけにお前の為と言ってこんな手の込んだ置き土産を残していくくらいだ」

 

「ふざけ…やがって…」

 

「お前にとって振り回されっぱなしで迷惑でしかなかっただろうが、これがイタチの選んだ道だ。

 木の葉の為に生き、お前の為に死んだ。 それがあいつの生き様だ」

 

「っ……う、くっ……」

 

 サスケはこみ上げる感情を抑えるように顔を覆うが嗚咽が漏れだし、落ち着くのを黙って待った。

 顔を上げた時にサスケの両目は万華鏡写輪眼になっていたが、今は指摘しなかった。

 

「………お前は俺にどうしろというんだ。

 俺は今木の葉の里が憎くて仕方がない。

 うちはを滅ぼしその罪をイタチに背負わせた木の葉が!」

 

「そうか」

 

「俺が木の葉に復讐すると言ったら、木の葉の忍のあんたはどうする気だ!」

 

「無論止める」

 

 サスケの緊張感が高まり臨戦態勢の雰囲気に包まれるが、気にせずにそれを受け流す。

 

「だが今はまだそうじゃない。 お前はまだ決めかねているようだ」

 

「………」

 

「それでいい、よく考えて自分で決めろ」

 

「…あの時言ってたやつか」

 

 サスケが里抜けしたときに送った言葉だが、憶えていたらしい。

 

「そうだ、自分で決めて起こした行動は誰のせいにも出来ない。

 たとえ誘導されてたとは言え、イタチに復讐する事を選んだのはどこまで行ってもお前自身の決めたことだ」

 

「………」

 

「言ってしまえば、お前はこれまで誰かに示された道を選んで進んできただけだ。

 両親、イタチ、僕、クシナそして大蛇丸に守られて生きてきた」

 

「待て。 大蛇丸は違うだろう」

 

「当人の思惑なんかどうでもいい。

 重要なのはお前自らの糧となり、生きる場所となっていたことだ」

 

「…そうだな」

 

 サスケは二年以上大蛇丸の下で生き強くなってきた。

 たとえ大蛇丸が悪意を持って育てていたのだとしても、サスケがそれを利用して己の糧にしていたことには違いない。

 

「だがこれからはそうもいかない。 お前に隠してきた真実はすべて明らかになった。

 自分の目で全てを見極めて、本当の意味で自分の進む道を見定めていかなきゃいけない。

 お前はもう子供ではいられない」

 

「子供ではいられない…か。

 イタチは最後まで俺を子ども扱いしてたってわけか、くそっ」

 

 悔しそうにしながら、それでもどこか嬉しそうな感情を見せる。

 

「これからどうするかはゆっくり考えればいい。

 そろそろ動けるだろう。 行くぞ」

 

「どこへだ」

 

「まずお前の仲間の元へだ」

 

 

 

 飛雷神の術で先の二人が戦った場所からそう遠くない場所に、サスケの仲間鬼灯水月、香燐、重吾がいた。

 彼らの事は、影分身に所在を把握させていたのですぐに飛んでこれた。

 

「サスケ、無事だったか!」

 

「やれやれ。 ようやく戻ってきたみたいだね」

 

「………」

 

 香燐が大層心配した様子でサスケに駆け寄り、水月が待ちくたびれたといった仕草を見せ、重吾は寡黙を貫いた。

 

「心配したんぞぉ、それにボロボロじゃないか。

 ほら、回復するか?」

 

「いや、今はいい。 あまりベタベタくっつくな」

 

「いいじゃないか、私らを散々待たせといたんだから」

 

「…すまん」

 

 香燐がサスケに好意を寄せているのは知っていたので不思議ではないが、サスケがそれほど嫌がるわけでもなくそっけない態度をとるわけでもないことに驚いた。

 びっくりしてサスケを見返したほどだ。

 

「………」

 

「…なんだ」

 

「いや…」

 

 再確認するように二人を見返していると、香燐の姿からある事に改めて気づく。

 そして見返していたことに気づいた香燐が、僕に初めて目を向けてメンチを切ってくる。

 

「あぁん! なんだ手前は!?」

 

「あー、なるほど。 その赤い髪はうずまき一族か」

 

「だったらなんだってんだ!」

 

 威嚇してくる香燐を僕は気にせず、赤い髪はナルトの母のクシナを思い出した。

 そこからサスケの柔らかい態度に納得がいった。

 僕は少し面白くなり自然とニマニマとした笑い顔になる。

 

「なんだその顔は」

 

「いや、そういう事かと思ってね」

 

「はっきり言え」

 

「クシナに頭が上がらないのはそういう事だったか」

 

「!?」

 

 サスケも香燐が傍にいる事から邪推されたと分かり慌てだす。

 

「勘違いするな! 香燐はイタチを探すために必要だっただけだ!」

 

「女性にそういう言い方するとクシナに怒られるよ」

 

「くっ」

 

 否定的な意見に対しクシナの名前を出すと、直ぐにしおらしくなって言葉を詰まらせた。

 こんなに簡単に反論を止めてしまう事に、僕も些か驚く。

 

「本当に頭が上がらないんだな」

 

「うるせえ。 あの人には感謝してるだけだ」

 

 クシナ、サスケへの影響が強すぎ―。

 

「さ、サスケ、クシナって誰なんだ! まさかおまえの彼女か!?」

 

「ちがう、あの人はそんなんじゃない」

 

「クシナはサスケが世話になってたずっと年上の女性だよ。

 そのサスケの様子から、いわゆる初恋って奴だったんじゃないか」

 

「なにーーーー!?」

 

「なっなに寝ぼけた事言ってやがる!」

 

「なんか面白いことになってきたねえ。

 サスケの初恋の話は気になるけど、ところであんた誰」

 

「木の葉の中野ハジメだ」

 

「んげ! 木の葉の巨獣じゃん。 サスケ、なんでこんなのがここにいるわけ?」

 

「いろいろあっただけだ」

 

 木の葉の巨獣とは僕の現在の異名である。

 現身の術で操る巨体で、尾獣とも真正面からやりあえる戦いぶりからその名が定着した。

 一時期は木の葉の尾の無い尾獣とも呼ばれたが、呼ぶには長ったらしかったので廃れていき、また巨人であれば秋山一族がいたのでそのように呼ばれることもなかった。

 

「それでこれからどうするんだい」

 

「木の葉の里に行く」

 

「なんだい、里帰りって奴かい」

 

「そんなんじゃない、こいつの提案に乗っただけだ。

 用を済ませたら出てくる。 お前たちは里の外で待ってればいい」

 

「はいはい」

 

 提案とはイタチの遺体を、木の葉の里にある両親と同じ墓に埋葬しないかというものだ。

 名を墓に刻むことはうちはの真実を隠すうえで出来ないが、せめて遺骨くらいはイタチを両親の元へ帰らせてやりたいと思った。

 サスケはまだイタチの真実を受け止めきれていないが、両親と同じ墓に入れるのを否と言えるほど拒絶しなかった。

 サスケ一行を連れて、木の葉の里へ向かう。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。