四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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第十一話

 

 

 

 

 

 木の葉の里の近くまで来ると、サスケが三人に里の近くで待っているように命じた。

 

「わかった」

 

「また待ちぼうけか。 早くしてくれよ」

 

「サスケ、やっぱりアタシも行っていいか?

 お墓の前でご両親にご挨拶を!」

 

 香燐だけはついてくる気満々のようだ。

 

「悪いが遠慮してくれ。 ただ墓があるだけだ。

 前ほど時間は掛けない」

 

「いや、だけどさあ」

 

「はいはい、香燐は抑えておくから、さっさと行ってきなよ」

 

「水月! テメェ離しやがれ!」

 

 水月が気を利かせて香燐の襟首を掴んで捕らえている。

 

「行くか、サスケ」

 

「ああ」

 

「サスケぇ!」

 

 香燐を押さえながら水月は手を振り、重吾と共に見送っている。

 

「なかなかいい仲間じゃないか」

 

「………そうだな」

 

 半分からかい調子に言ったのだが、しぶしぶでも答えた事に改めてサスケを見返す。

 原作では大蛇丸の元で過ごしたサスケは、前以上に冷徹な雰囲気を纏うようになったはずだったが、ここに居るサスケはそこまで感情を閉ざしている様に思えない。

 少なくとも良い変化と言えるだろう。

 

「…なんだ」

 

「いや、なんでもない」

 

 僕という存在の行動の影響だろうが、第四次忍界大戦というこの世界の物語の決戦も近い。

 サスケのこの変化が、この世界にとって良い方向に向かっているのだと思いたい。

 

 

 

 里の者に見つかりたくないサスケを気遣って、少し遠回りをしながらうちは一族の墓地に向かう。

 

「…話を聞かせろ」

 

「イタチに関する事か?」

 

「ああ。 まだ俺の知らない事があるんだろう」

 

 確かにさっき話した事は、要点を絞ったごく一部に過ぎない。

 事件に関わる情報は、原作に描かれていなかったことすら今の僕は知っている。

 

「全部は長くなりすぎるから、簡潔になるがいいな」

 

「それでいい」

 

 そうだな。 それなら事の始まりから話すか。

 

「そもそもうちはがクーデターを起こそうとするようになったのは、木の葉の九尾襲撃事件が切っ掛けだ」

 

「なぜ九尾が関わる?」

 

「里で暴れた九尾は写輪眼に操られていたからだ」

 

「!?」

 

 九尾の封印を解いて暴れさせたのはマダラに扮したオビト。

 当時それを見た者は原作では全員死んでいるが、ここではクシナが生き残っている。

 その証言から襲撃犯がうちは一族であることは明白となった。

 里にいるうちはの忍が犯人ではないが、それを証明するすべは無く木の葉上層部に疑いの目が向けられた。

 その結果うちはの信用は下がり、それを不当に思った一族の者達がクーデター計画を企てたのが事件の発端だ。

 

「…九尾を暴れさせた犯人はどうなった?」

 

「未だ捕まっていない。 …が、イタチのクーデター阻止の時にもそいつは動いている」

 

「なんだと。 どういう事だ?」

 

「ところでサスケ。 イタチに勝ったお前はイタチに準ずる強さを持っていると言える」

 

「話を逸らすな。 …俺はイタチに勝っただなんて思っていない」

 

 戦いの決着を受け入れていないサスケは、自身の勝利を否定する。

 

「それはどちらでもいい。 では、今のお前が当時のうちは一族全てを皆殺しにしようとするなら、出来ると思うか?」

 

「それは…」

 

 黙り込んだサスケは、その問いの意味に気付いたようだ。

 

「そう、限りなく難しいとしか思えない。 うちは一族がエリートと言われているのは伊達じゃない。

 いくらイタチが天才で万華鏡写輪眼を開眼していたとしても、一族全てを相手取って殺しきるなど不可能だ」

 

「じゃあ…」

 

「他にも共犯者がいた。 そしてその全ての罪をイタチ一人が背負ったに過ぎない」

 

「そいつは誰だ」

 

 冷え切った表情でサスケは聞いてくる。

 

「一方はうちはマダラを名乗る男。 そいつは九尾事件の襲撃犯でもある。

 イタチが事件を起こす前に接触し、協力を取り付けたらしい」

 

「どういう事だ。 そいつはうちはに恨みでもあるのか?」

 

 うちは滅亡の切っ掛けを作り、それに協力したことからサスケがそう考えるのは不思議ではない。

 だが僕が知る限り、オビトがうちは一族に恨みを持つ理由は無い。

 一族を襲撃した際に奪ったと思われる写輪眼が目的の可能性があるが、実際には僕もよくわからない。

 うろ覚えの漫画のコマに、大量に保管された写輪眼を管理するオビトの姿があったが、あれは何の意味があったんだろう?

 

「そこまでは僕も分からない。 それを調べるためにもイタチは暁に所属していた」

 

「なに? じゃあイタチが暁に所属していたのは…」

 

「そいつを追う為の任務だ」

 

「なぜイタチはそこまで木の葉の為に尽くす!?」

 

 激情に駆られたサスケは憤りを隠すことなく問いかけてくる。

 一族を切り捨てられ汚名を着せられながらも、木の葉の為に尽くそうとしたイタチの考えが解らないのだ。

 

「…それは今のお前にはわからないだろう。 僕もその理由をうまく答えることは出来ない」

 

「どういう意味だ」

 

「戦う理由というものは人それぞれだ。 その理由を他人が真に理解する事は出来ない。

 ただイタチにはどんなに傷付こうともやり通す信念があった。 それに僕は敬意を持っている」

 

「………」

 

 納得がいかないといった様子のサスケだが、イタチの心の内は僕にも本当に分からない。

 だがイタチとすれ違い続けてきたサスケは、イタチを知ろうとしなければならない。

 イタチが既に死んでしまっていても、その機会はある。

 

「話を少し戻すぞ。 うちは滅亡の協力者だが、もう一方が本命だ。

 うちはの者達が大勢殺されるような事態が起きていながら、他の里の人間に悟られずに事を成し得たのはどうしてだと思う」

 

「…情報規制をされていた。 そんなことは組織的な人員の動員が必要になる。

 それも木の葉で活動していても、何ら違和感の無い組織が…」

 

「随分冴えてきたな。 冷静に物事を考えることが出来るようになってきた証拠だ」

 

「くそったれ。 こんな事にもずっと気付かなかったとはな!」

 

 腹立たしそうに悪態をつくサスケの怒りの矛先は自分自身。

 少し考えれば思いつく事でも、イタチへの復讐心が思考を鈍らせていた。

 イタチの思惑通りと言えばサスケに責任は無いが、それで納得するはずがないだろう。

 

「それはおそらく志村ダンゾウの傘下の暗部【根】と呼ばれる集団だ。

 そして志村ダンゾウはイタチにうちは一族の全滅を提案した張本人でもある」

 

「そいつが黒幕って訳か」

 

「そうと言っても過言ではない。

 志村ダンゾウは暗部の深い部分、木の葉の闇と言える決して表沙汰に出来ない部分を指揮している立場にある。

 奴の言い分では、全ては木の葉の為の行いだそうだ」

 

「そいつにとってうちはは木の葉の邪魔だったって事か」

 

「どうだろうな。 だがダンゾウのやり方は木の葉の為と言っても悪辣すぎる物ばかりだ。

 全てが白日の下に晒されれば、それだけで木の葉が多くの敵を作ってしまうほどに敵意に満ち溢れている。

 恨みを買い過ぎて奴自身が木の葉の害悪になりかねない存在だ」

 

 原作の知識と木の葉で生きて知った情報を照らし合わせても、ダンゾウの行動は木の葉の敵を生み出す事に助力してばかりだ。

 主人公のナルト側の味方になるばかりが正しいとは言えないが、敵側の行動を助長する結果ばかりで本物のマダラや黒ゼツ以上の黒幕的活躍をしている。

 うちはのクーデターを止めるために皆殺しにするのも、木の葉の為と言えば大きく間違った結果とは言えないのかもしれないが、その全ての罪をイタチに押し付けたのはやはり気に食わない。

 

 もうすぐ退場の時期だが、今のサスケと対決するかは分からない。

 僕自身も奴に鬱憤が溜まっていたので、この手で決着を着けようかとすら考えている。

 

「そいつについて教えろ」

 

 憎しみの感情を表すかのように、サスケの眼が万華鏡写輪眼に変わっている。

 

「次の復讐の対象はダンゾウか?」

 

「………」

 

 憎しみを溢れさせてダンゾウを復讐の対象に定めたのかと尋ねたが、サスケはなぜか水を掛けられたかのようにあふれ出した憎悪が萎ませる。

 てっきり噛みついてくるくらい追及してくると思ったのだが…

 疑問に思った僕は立ち止まり、サスケの方に向き直る。

 

「どうした?」

 

「…そいつへの復讐は間違っていると思うか?」

 

「…いや。 お前からすれば、ダンゾウはうちは一族の仇であることに間違いない。

 イタチも理由があったとはいえ、一族を手に掛けた事も間違いではない。

 サスケの復讐に正当性があったことは認める」

 

「…俺はイタチに復讐を果たした。 それを今更正しいと認められることがこんなに腹立たしいとは思わなかった」

 

「お前は他者に振り回された側の人間だ。 その感情のぶつけ先を求める事は間違いではない」

 

「…ああ、そうだ。 俺はこの溢れ上がる憎悪のぶつけ先を求めていただけだ。

 それをイタチにぶつけるのが絶対に正しいと疑わなかった。 その結末がこれだ。

 イタチを憎んでいながらイタチの言葉を疑わなかった俺自身を心底憎んでいる。

 例えイタチを陥れた奴だと分かっても、それが正しいのかと疑わずにはいられないくらい、俺は今自分が信用出来ない。

 俺は…俺は、この憎悪の矛先を何処にぶつけたらいい!」

 

 サスケは悩んでいたのか。

 イタチを手に掛け、その真実を知り、間違いだったと認め、本当はどうすればよかったのかと悩んでいたのか。

 ダンゾウの存在を話せば次の復讐の対象になるのは明白だったが、サスケは一度立ち止まって考えた。

 それは僕がサスケに考えて決めてほしいと望んでいた事だった。

 

 その憤りは今にも爆発しそうだが、サスケは思い止まりそれが正しいのか考えている。

 いずれサスケは答えを出すのだろうが、それがサスケにとって他の者達にとっていい方向に向くかはわからない。

 ただ、憎悪の感情のままに突き進むはずだった運命よりはずっといい変化だと僕は思う。

 その結果が原作より事態が悪化する事に繋がるかもしれないが、思い悩むサスケを見れたのなら僕の行動は間違いではなかったと思える。

 

 後はサスケが考えて決める事。

 これから僕に出来るのは、サスケの疑問に答えられることに答えるだけだ。

 原作の流れの歪みは大きくなってしまったが、それを僕はもう恐ろしいとは感じなかった。

 

「サスケ。 お前は今、僕が言った様に考えているんだな。

 何が自分にとって正しいのか思い悩んで、イタチの様に決断しようとしてるんだな」

 

「もう子供ではいられない。 そう言ったのはお前だ。

 俺はこの目で真実を見つけ出す。 今度こそだ」

 

 最後までイタチに欺かれたからこそ、サスケは真実を見抜こうとしている訳か。

 現実は何も変わってはいないが、サスケは原作とは違った決断をするように思える。

 サスケが何を決断するのか少しだけ楽しみだ。

 

「わかった、聞きたい事には可能な限り答える。

 だがもうすぐ墓地に着く。 話の続きはまたにしよう」

 

 

 うちはの共同墓地は木の葉の里のはずれにある。

 うちは一族が壊滅し、最後の一人のサスケも里抜けしたことで墓参りに来る者は殆どいなくなったが、墓の管理はちゃんとされていた。

 僕がたまに来て掃除をやっていたわけだが。

 

「お前が掃除をしていたのか? なんで…」

 

「イタチの事もあったが、お前の後見人になったのは僕だぞ。

 子供のお前に出来そうもない、事件で亡くなったうちは一族の葬儀やら墓への埋葬やらをやったのは誰だと思っている。

 墓の管理もうちは一族の残した資産管理の一つだ」

 

「…すまん」

 

「だったら早く資産管理を引き継いでくれ。

 全てお前が引き継ぐべき物だ」

 

 墓の前に立ったことでいったん落ち着きを取り戻したサスケは、一族の遺産がどうなっているのかすら覚えてなかったらしい。

 イタチへの義理でもあったが、受け継ぐべき人間がこうでは僕の苦労が浮かばれない。

 うちはの遺産を狙ったダンゾウから守るのにだいぶ苦労したんだぞ。

 

「…俺に木の葉に戻れって事か」

 

「受け継ぐにはそういう事になるだろうな。

 別に今じゃなくていい。 お前自身に何かしらの決着を着けてからどうするか決めてくれればいい。

 必要なものだけ回収して、あとは処分するのもお前の自由だ」

 

「…助かる」

 

 多少は成長したとはいえ、今の状況で遺産管理なんか言ってられないからな。

 

「頭の片隅にでも入れておいてくれればいい。

 本命はこの墓にイタチの遺骨を納める事だからな」

 

 目の前の墓にはイタチとサスケの両親である、うちはフガクとミコトの名が刻まれている。

 ここにイタチの名を連ねる事は出来ないが、同じ墓に入れてやることが望ましいだろう。

 

 僕は口寄せの巻物を取り出して、保管していたイタチの遺体を口寄せする。

 

「…おい、イタチの眼をどうした」

 

 イタチの遺体に目がない事に気づいたサスケが、底冷えするような声で僕に問う。

 

「僕が保管している。 死んだ後に自分の万華鏡写輪眼をサスケに移植してほしいというイタチの遺言だ」

 

「そんなものはいらない」

 

「まあ、お前には気に食わない置き土産だろうからな。

 だが遺言は遺言だ。 お前の意思は尊重するが、イタチの遺言も無為には出来ない。

 お前が受け入れるまでは保管しておく」

 

「チッ…」

 

 不服そうにサスケはそっぽを向く。

 これも今後どうなるか分からないが、サスケはいずれイタチの眼を受け継ぐと思う。

 落ち着けばサスケもイタチの残したものを無為に出来ないだろうからだ。

 

「ここで火葬してイタチの遺骨を納めようと思うが、少し提案がある。

 サスケ、穢土転生の術を知っているか」

 

「ああ。 大蛇丸が研究していた術だからな」

 

「あの術は死者を疑似的に蘇らせて戦力として運用する術だが、その真価は死者を呼び出せることにあると思っている。

 生前強かった忍を戦力に出来るのは凄まじいが、そもそも死者と対話出来るだけでもその術の価値は十分にある」

 

「まさかイタチを穢土転生で呼び出す気か。

 あの術は人一人の生贄が必要だぞ」

 

「確かにそれが禁術たる所以だが、その代償は生者の器と運用の為の命という燃料を必要としているからだ。

 死者の魂を口寄せする。 その部分だけなら対価は術者のチャクラだけで賄える」

 

 穢土転生の術は後の忍界大戦で多用されることから、対策も兼ねて研究をしていた。

 研究結果は精々解術が容易になったくらいで、再び口寄せされたら意味がない事から、対策はやはり封印するくらいしか見つからなかった。

 しかし穢土転生の術を解体して、死者を呼び寄せるだけの下位互換の術を作ることが出来た。

 まんまシャーマンキングの口寄せの術そのものだが…

 ちなみに口寄せという言葉も、本来は死者を呼び寄せる事を言う。

 

 僕は新たに別の巻物を開いてチャクラを流し込むと、そこに描かれていた文様が動き出して地面に広がり専用の結界を作り出す。

 

「これは口寄せする死者を現世に留めておくための結界だ。

 代償を削った事で結界の中でなければ存在できないが、話をするだけなら何も問題は無い」

 

「まさか本当に…」

 

口寄せ・夢幻転生の術!

 

 イタチの遺体に触れて、そのDNAを呼び水にイタチの魂を口寄せする。 その点は穢土転生と変わらない。

 僕の体からチャクラが抜け出し、イタチの遺体の上に人の輪郭を作っていく。

 燃えるように波打つチャクラが形を定めると、そこには下にある遺体と同じイタチの姿となっていた。

 閉じていた眼が開かれると、僕とサスケの姿を見て驚き目を大きく見開いた。

 

『これはどういうことだ。 ハジメさん、貴方は俺を生かしたのか』

 

「いや、今のお前は確かに死んでるよ。 真下にあるのがお前の遺体だ」

 

『………どうやらその様だ。 まさか自分の死体を見る事になるとは思わなかった』

 

「穢土転生を簡略化した術で、お前の魂を呼び出させてもらった。

 この結界より外に出る事は出来ないが、チャクラが尽きるまではじっくり話が出来るだろう」

 

『………』

 

 イタチはサスケを見て、今更ながらに申し訳なさそうな顔をする。

 何せ少し前に殺し合ったばかりなのだから。

 

「サスケにはお前の事情はおおよそ話してある」

 

『そうですか…』

 

「答えろ、イタチ。 こいつの言ったことは本当なのか」

 

『…ああ、そうだ』

 

「ッ!!」

 

 イタチ本人からも真相を肯定されて、サスケは改めて衝撃を受けたように顔をしかめる。

 

「僕からもお前にはいろいろ言ってやりたいが、この意趣返しだけで十分だ。

 後はお前たちでちゃんと話し合って決着を着けろ。 今度は殺し合うんじゃ無くてな」

 

 そういって僕は立ち上がり、結界の中から出ていく。

 夢幻転生の術で呼び出した死者の存在を安定させるための結界なので、その出入りは自由だ。

 

「お、おい…」

 

「サスケ、僕は席を外す。 夢幻転生は何もしなければ半日くらいは持つ。

 ただしイタチの今の体は影分身のような物だから、脆いから暴れるんじゃないぞ」

 

『ハジメさん…』

 

「礼も文句も受け付けんぞ、イタチ。

 貧乏くじを引き続けたとはいえ、好きなようにやってきたのもお前だ。

 最後…いや、終わった後くらい思い通りにならない事に苦心しろ」

 

『…ありがとうございます』

 

「礼はいらんと言っただろう。

 僕は墓地の外で待ってる。

 聞きたい事を聞いておけ。 これで最後だ」

 

「…ああ」

 

 第四次忍界大戦で呼び出されるかもしれないが、そう何度も呼び出されるはずがないからそう言っておく。

 ここでイタチと再会させるのは完全な物語の乖離だが、既にいろいろ変わってしまっている。

 あとはどうとでもなるだろう。

 

 僕は二人に背を向けて、話が終わるまで墓地の外で待つことにした。

 

 

 

 術の効果時間の半日と経たず、サスケは墓地の外に出てきた。

 思っていたより早く外に出てきたが満足に話が出来たらしく、サスケは何処か憑き物の落ちたすっきりした表情をしていた。

 

「ちゃんと話が出来たようだな」

 

「まあな」

 

 声からも憂いの無さを感じられた。

 

「イタチは消えて、遺体は俺が焼いておいた」

 

「そういえば遺体を墓に入れてやるのが目的だったな。

 そっちの事をすっかり忘れていた」

 

「…ったく」

 

 悪態はつくがそれすらも気にならないといった様に、どこか上機嫌なところをサスケは見せる。

 

「それで、お前はこれからどうする?

 何か答えは出たか?」

 

「…いや。 まだ何も俺は答えを出しちゃいない

 だがお前の言うように、自分で考えなきゃいけないと思っただけだ」

 

「そうか。 僕のお節介もこれくらいが限度だろうからな。

 後は本当にお前の好きにするといい。

 ただクシナには顔を出しに行けよ。 行ってくれんと僕が八つ当たりされる」

 

「…その内な」

 

 期待の出来ない返事だが、否定的な返事じゃないだけマシだ。

 僕だけサスケに会ったと知られれば、何を言われるかと恐ろしくなる。

 この世界の女性は…この世界とは限らないんだろうが逞しいからな。

 

 

――ドオォオオオンンンン!!――

 

 

「「!?」」

 

 イタチとサスケに関する事は一区切りついたと思った時に、里の方から大きな爆音が聞こえた。

 

「なんだ、今の衝撃は?」

 

「里の方からだが…!」

 

 今の巨大な音の正体に僕は心当たりがあった。 もしかしてペインの襲撃ではないかと。

 

「里で何かあったらしい。 僕は直ぐ向かうがお前はどうする」

 

「………」

 

 サスケは直ぐに答えが出ないらしく、肯定も否定もしない。

 行かないと直ぐに答えないのは気になってる証拠だが、今里帰りする気にはなれないのだろう。

 

「わかった、里の事は気にしなくていい。 お前はまずは待ってるだろう仲間のところに行け。

 向こうも気になってるだろうからな」

 

「…ああ」

 

「いずれ決心がついたらちゃんと里に来ればいい。

 じゃあな」

 

 急がねばならないと思い、僕はサスケの返事も聞かずに里に向かって駆けだした。

 

 あの巨大な音はペインの術、神羅天征の可能性が高い。

 そうだとすれば里は…

 

「!! やっぱりか…」

 

 里を見渡せるところまでたどり着いた僕は、予想通りの光景に目を見張る。

 里は巨大な隕石でも衝突したかのように、中心部に巨大なクレーターが出来ており、里の半分以上が吹き飛んでいた。

 知っていた光景とはいえ、長年暮らした里が吹き飛ばされている光景に憤りを感じている。

 だがまずやらねばならない事は解っている。

 

「まずは里全体の被害者の救助と綱手様に合流しないと!」

 

 大よその流れが変わっていないなら綱手様が動いているはず。

 影分身を大量に出してけが人の救助に向かわせ、僕自身は綱手様に合流する為に火影の屋敷に向かった。

 

 

 

 

 

 そこから大して原作の流れと変わる事は無かった。

 僕が救援に向かった時にはナルトとペインの戦いが始まっており、僕は様子を見ながら綱手様の治療に専念する事となった。

 綱手様は里の皆を守る為に、口寄せ動物・大蛞蝓のカツユを通じて治療と保護を行なっていた。

 里全体の民を守った結果、綱手様はチャクラの大量消費によって昏睡状態に陥った。

 僕が即座に処置を施したので命に別状はないが、しばらく起きられないことが予想された。

 

 チャクラが枯渇したことで若さを維持している術がきれて綱手様の年相応の姿を見る事になったのだが、ここではノーコメントとしておく。

 目覚めた時に、その姿を見られたことを綱手様に知られる事になるだろうから、余計な事は言えない。

 ただ後日、素敵なおばあちゃんでしたよと答えたら、即座に殴られたとだけ言っておく。

 

 僕本体は綱手様の治療に専念して、影分身は救助とナルトの援護をしていた。

 その影響で乱入したヒナタや蝦蟇のフカサクが死ななかったので、ナルトが九尾を暴走させなかったり、苦戦するもそのままペイン六道を全員倒した事で、ペイン本体の元に向かう際にフカサクとシマが同行する事となった。

 ナルトは一人で行きたいと難色を示したが、二人の意図も分かるので僕も同行するように進言した。

 

 二人が同行する理由は、自来也を逆口寄せしてペインに会わせる為だろう。

 僕がペインと戦う前の自来也に、逃走手段として逆口寄せをアドバイスしておいたことで生き残ったのだ。

 最も逆口寄せで逃げ出せたときには致命傷の上に心肺停止状態だったので、事前に僕も契約しておいたフカサク達に呼び出された時には蘇生出来るかどうかは医療忍術だけでは五分五分だったと言っておく。

 ちなみに呼び出されたのは、サスケの治療が終わってちょうど手が空いた時だった。

 

 致命傷の状態から生還したのでまだ安静にしていなければいけないのだが、己の弟子であるペインこと長門と最後に話がしたかったのだろう。

 仙術の修行をしていたナルトにも生きている事は秘密にしていたようだし、対話の場で生きていたと驚かすつもりだろう。

 

 ナルト達が長門の元に向かって少し経つと、戦いで死んだ里の者達が生き返り始めた。

 長門が輪廻眼の輪廻転生の術を原作通り使ったらしい。

 僕もこの世界の術ではないとはいえ蘇生術を使えるが、自身の命を代償にするとはいえこれだけの数の人間を一度に生き返らせるのは、やはり規格外の瞳術だ。

 忍界大戦が始まれば再び相対する事になるので今の内に処理できればと思ってしまうが、それをやったら今後本当にどうなるかまるで予想が出来なくなるので流石に手は出せない。

 

 まずは決着を着け戻ってくるナルトの出迎えと、里の復興を倒れた綱手様に代わって考えておかなければいけない。

 伊達の火影補佐ではないからな。

 

 

 

 

 

 里にはナルトだけが戻ってきて、自来也はカエル達の住む妙木山で静養すると戻っていった。

 自身が死んでる事になっているのが有利になるかもしれないので、綱手様にも隠しておいてくれとナルトを通じて伝えてきた。

 綱手様も今は倒れているが、あとで再会した時に殴られて今度こそ死ぬかもしれない。

 が、そこは僕が気にしても仕方ないだろう。

 倒れた綱手様に代わって僕が一時的に火影の代理を務めて、里の復興やら今後についていろいろ指示出しをする事になった。

 

 木の葉の里の壊滅と火影不在は大きな問題となり、火の国の大名も心配して里までやってきた。

 そこで行われた会議で志村ダンゾウが六代目火影に名乗りを挙げた。

 

「火影候補でしたら、もっと若いハジメさんがいるじゃありませんか。

 御歳を召されているダンゾウ様より相応しいのでは?」

 

 ダンゾウが火影になる事を望まない、会議に参加していたカカシが僕を推薦する。

 

「中野は常に火影になる事を拒んでいたであろう。

 よもや、今頃になって火影に名乗りを挙げるか?」

 

「いえ。 僕の信条は変わりませんよ。

 これまで通り火影になるつもりはありません」

 

「ハジメさん…」

 

 カカシは困った様子で僕を見るが、心配する事は無いと意味を込めて強く見返す。

 僕もダンゾウが火影になる事は望んでいないのだから。

 

「ですが五代目綱手様は意識不明とはいえまだ健在です。

 それなのに次の火影を選出するなど早計では?」

 

「なにを悠長な事を言っておる!

 木の葉の一大事に火影不在などあってはならん。

 早急に対処すべき案件だ!」

 

 火影に成る事を強行する姿勢のダンゾウに、否定要素の無い会議の参加者たちは口を噤む。

 

「まあ、落ち着きなされダンゾウ殿。 だがダンゾウ殿の考えも一理ある。

 それに五影会議の開催が決まったと他里からの連絡があったのであろう。

 であれば、火影の存在は必要不可欠。 ここは暫定でダンゾウ殿に六代目を任せてみてはどうか?」

 

『………』

 

 木の葉の大名の提案に誰も代案を挙げる事が出来ず、暫定でダンゾウが六代目として五影会議に参加する事となった。

 余計な口出しはせず原作通りの結果となったが、この後予定ではダンゾウは木の葉に帰り着くことなくサスケに殺される事になる。

 サスケの在り方はだいぶ原作から乖離しているから手に掛けるかどうかわからない。

 

 だが、ダンゾウの存在は今後は百害あって一利無しと僕も考えている。

 どちらにせよ、これを機にダンゾウには予定通り退場してもらうつもりだった。

 

 

 

 

 

 




 サスケが暁に行かなかったことでキラービーとの戦いが無くなる。
 代わりに鬼鮫さんが一人で八尾捕獲に向かう事になったんじゃないかな?

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