第四次忍界大戦がついに始まった。
綱手様も火影として復帰し五影と改めて会談した後、戦場では本陣に腰を据えている。
ナルトは保護対象として匿われ、今頃は雲隠れの人柱力キラービーと尾獣の力を使う特訓をしてる筈だ。
サスケの動向は不明だが、オビトを追っているならこの戦場の近くにいるだろう。
そして僕だが、嘗ての大戦の時と同じように医療忍者として医療班に所属し、影分身を駆使して一人医療班の異名を再び知らしめていた。
僕一人で他の医療忍者達と同等の医療体制を構築するものだから、他里の医療忍者達にもいろいろと慄かれる事となった。
敵は無数の白ゼツと穢土転生された過去の忍ばかりだが、嘗て名をはせた忍を除けばそれほど苦戦する事無く善戦していた。
だが日が暮れて戦場が一時的に静まったころに、連合の忍に化けた白ゼツが陣地内で暗躍し始めた。
白ゼツの変化は相手のチャクラを奪いそれを纏って化けるので、白眼を持つ日向一族でも見分けることが困難だった。
だが僕は…
「セイッ!」
「がぁ!!」
幸い見破ることが出来たので、負傷者のフリして現れた白ゼツを一撃で叩きのめした。
「な、なぜわかった…」
「んー…勘? あー、あとよく見れば奪ったチャクラが薄っぺらいからかな」
よく見ればチャクラが薄いのが何となくわかるが、見抜けたのは僕にはシャーマンの力と透視の力で魂が見抜けたからだ。
白ゼツ達は群体のような差異の少ない全てが同一個体のような物なのか、単体での魂が普通の人間よりも明らかに薄っぺらく、個体差がないのでどれも同じ魂の形をしている。
なので魂の見える僕には白ゼツの変化は丸わかりなのだが、他の者には実行できないのでチャクラが薄っぺらいと曖昧な判断方法を上に報告した。
感知タイプの忍の何人かが実践して集中すれば何とかという結果だったため、僕の影分身を白ゼツ発見の為に陣地の巡回に回される事となった。
その時気付いたが、これナルト役目を取ったんじゃないかと少し慌てたが、暫く経たない内にナルトが戦場に向かっていると報告があったので特に問題は無かったようだ。
ナルトが戦場に現れて少し経った頃に、戦場にマダラが現れたと情報が入った。
ナルト達の前に人柱力達の穢土転生を引き連れた仮面のマダラが、穢土転生の先代五影がいる戦場に穢土転生のマダラがと、二つの戦場で現れたと報告があった。
そして将として腰を据えていた五影達も穢土転生のマダラの元へ向かったと聞き、僕も前線に行くことにした。
「と言う訳でシズネさん、サクラ。 後の事は任せた」
「任せた、じゃありませんよ! ハジメさんがいなくなったら医療部隊、事実上半減ですよ!」
「そうですよ! 今の状態でハジメさんに抜けられたら回らなくなります!」
当然シズネさんとサクラは反対するが、マダラとの戦いで綱手様たち五影は負傷する事となる。
それをどうにかしたいし、何よりマダラとは一度戦ってみたいと思っていた。
「大丈夫。 二人とも僕と同じ綱手様の弟子じゃないか。
僕がいなくても二人だったら十分乗り切れるって。
影分身は最低限残しておくから頑張って」
そう話を切りあげて、僕は本物のマダラのいる戦場へ向かった。
「何言ってるんですか! 治療効率は綱手様よりも圧倒的に上じゃないですか!」
「影分身数人だけって、これじゃあ私達の負担が!」
遠ざかる二人の泣き言を聞き流しながら僕は駆け出す。
後で怒られるかもしれないが、五影を守る為だったと言えばある程度情状酌量の余地はあるかな?
全速力で戦場を駆け抜け目的地までたどり着くと、五影達が木遁によって乱立した巨大な木々の中でチャクラによって作られた巨人達と乱戦状態になっていた。
巨人達はマダラが木遁分身に使わせた須佐能乎だ。
完全体ではないがその戦闘力は一体一体でもかなりの物の筈だ。
近づくにつれて交戦状況も読み取れて、一体の須佐能乎の攻撃が対処出来ない体勢の水影に迫っていた。
僕は少しばかり【気】を出して高速移動し、水影をかっさらう様にすくい上げながら須佐能乎の攻撃を潜り抜けた。
「え? え!?」
「すいません水影様。 危ないと思ったので抱えさせてもらいました」
「い、いいえ、かまわないわ! もう全然!」
水影を抱えたまま須佐能乎の攻撃範囲から逃れ、他の五影達に合流する。
「ハジメ、なぜお前がここに居る!?」
「綱手様を心配して駆けつけたという理由じゃダメですかね」
「冗談を言っておる場合か。 お前がここに居るという事は医療部隊の方はどうした?」
「シズネさんとサクラに任せてきました」
「全く…」
綱手様は呆れた様子で額に手を当てる。
そんな綱手様に水影が質問する。
「火影様、ハジメ様とはどのようなご関係で!?
ずいぶんと親しいご様子ですが!」
「こいつは火影補佐で私の弟子でもある。
付き合いもそこそこ長いからな」
「では、あくまで弟子と師という関係だけなのですね」
「だからどうしたというのだ。
それよりハジメ、そろそろ水影を降ろしたらどうなんだ」
「あ、そうですね」
「あぁん…」
抱えられた状態で話始めるものだから、タイミングを逃してなかなか下ろす機会がつかめなかったので。
綱手様の忠告は渡りに船で水影を下ろすが、残念そうな声が聞こえたのは気のせいだと思いたい。
「貴様ら、ふざけておる場合か! 喋ってる暇があったら戦え!」
「そうじゃぜよ。 マダラはまだワシ等を舐めておるが、かといってワシ等は油断できん」
「ここに来たからには戦力として期待出来るのだろうな。 木の葉の巨獣」
雷影、土影、風影が文句を言いながら集結し戦闘態勢を整える。
「俺は何人でも構わんぞ。 貴様ら如きが何人居ようと、力の及ばぬ存在がいる事を教えてやる」
「及ばぬ存在があんたかどうか、試させてもらいますよ」
マダラを前にそこそこ挑発的な啖呵を切る。
この世界において僕の力がかなりの物とはいえ、この世界においてラスボス的な存在のマダラに圧倒的に優位な立場にあるとは思っていない。
強い力を持っていても戦い方次第で劣っている者が勝つことは十分あり、戦闘経験やセンスといった点では歴戦の忍であるマダラに僕は確実に劣るだろう。
故に勝算はあっても絶対に勝てる確信は無く、油断する気は一切なかった。
――多重影分身の術――
「影分身程度で何が出来る」
「いや、ここからだ」
影分身を二人一組に配置して一斉に印を組む。
――仙法・現身の術・巨獣亀形態――
一方の分身が仙術チャクラを練りながら現身の術を維持し、もう一方の分身が現身の術の体を操作する。
マダラの木遁分身の須佐能乎の軍勢と、同数の現身の術で出来た両腕を剣状にした人型亀の巨人達が向かい合った。
見た目だけなら同等の兵力が向かい合っているように見える。
「…なんだそれは。 須佐能乎の真似事か?」
「ああ。 この術は尾獣や須佐能乎の様な、チャクラによる成形術を目標にして編み出した術だ。
本物の須佐能乎を相手に一度戦ってみたかった」
「お前、まさかその為に…」
僕の目的を聞いて呆れた様子の綱手様の声を聞き流し、仙術チャクラによって強度の上がっている現身の術が両手の刃の切っ先を須佐能乎の軍勢に向ける。
「紛い物に俺の須佐能乎が負けるとは思えんが、面白い。
ならば望み通り須佐能乎の相手になるか試してやる!」
須佐能乎の軍勢と亀の巨人たちが一斉に駆け出しぶつかりあった。
一方その頃、ナルトと八尾の人柱力が穢土転生の人柱力達と戦う戦場に、カカシとガイが応援として参戦していた。
しかし敵の人柱力が尾獣化し始めたことで、力の大きさに苦戦し始めるカカシとガイ。
「流石にこれはちょっと不味いね。 ナルト達も苦戦してるようだし、誰か応援に来てくれないかね」
「弱音を吐くなカカシ。 これほどの相手、やはり切り札を使うしかないな」
ガイの何か決意した表情で言った切り札という言葉に、カカシはまさかと思う。
「まさか八門を開くつもりか? あれを使ったら後で死んじゃうでしょ」
「安心しろカカシ、別の切り札だ!
ピンチの時の為に先生が伝授してくれた秘術だ」
「ハジメさんが?」
ガイは上着をめくって腹を曝け出すと、そこの術式の文様が浮かび上がる。
「っ! それは四象封印!? なぜお前の腹に刻まれている!」
「先生は尾獣のチャクラを研究していたそうだ。
人柱力への尾獣の封印の応用で他者のチャクラを封印する形で溜め込み、戦闘時に開放する事で戦力向上に役立てないかと考えた。
この封印には先生のチャクラが籠められる限界まで籠められている」
「あの人のチャクラが…」
ハジメのチャクラの莫大さは、カカシもよく知っている。
ナルトよりも多いんじゃないかというチャクラが、ガイに籠められているならかなり期待が持てる。
「今こそ、この封印を解く。 四象封印・解!」
チャクラを籠めた手で腹を回すように封印を解く。
すると本人とは別のチャクラがガイからあふれ出す。
「確かにこれはガイ自身のチャクラじゃない」
「先生!」
突然ガイが虚空を向いて師であるハジメの事を呼び、カカシは訝しむ。
「どうしたガイ? ハジメさんは近くにいないぞ」
「聞こえなかったのかカカシ。 今先生の声がしたんだが」
「いや…」
自分にはハジメの声は聞こえなかったというカカシは、封印を解いたとたんに起こった事に何か術に問題があったのではと思う。
「………なるほど、そういう事ですか先生」
「何、どうしたの? まさかガイ、ついにお前…」
日頃の行動が常人と逸脱していたガイに、カカシはもしやと口にしてしまう。
「何を言っているカカシ。 先生の声は俺の中に封じられていたチャクラから聞こえてたんだが」
「あー、なーるほど…」
ガイに封じられたチャクラにはハジメの意志も一緒に封印されていた。
原作でミナトやクシナが九尾の封印と一緒にナルトに自身のチャクラを封じて、後に封印の中で話をしたり再封印を施せたり出来た事から、影分身のように意思を一緒に封印に籠められると、ガイの中にチャクラと共に込めたのだ。
目的は籠めたチャクラをガイが使い易い様に制御を補佐する為である。
「………助かります、先生。 ……はい!」
「ガイ、一人で会話してちゃ何言ってんのかわかんないよ」
「………それじゃあまさか! おおおおお!!」
「何、今度はどうしたの」
ガイの一人芝居に呆れてたカカシは、突然叫び出したことにあまり驚かずに様子を見る、
するとガイの顔に文様が浮かび上がり、それが何なのかカカシは察する。
「それはまさか仙術か!」
「ああ、俺も修行はしたんだが碌に使えなかった。
だが俺の中で先生が仙術チャクラを練ってくれる事で、今の俺にならその恩恵に
仙人モードはチャクラの増大、感知能力の強化だけでなく身体強度も上がる。
体術使いのガイとしては習得したかった術だが、素質がなく実戦で使いこなせるほどではなかった。
「これなら尾獣相手でも存分にやれる。
八門遁甲・第七・驚門、解!」
更にガイの得意技の八門遁甲を七門まで開き、爆発的に吹き荒れるチャクラを纏って尾獣に向かっていった。
驚門を開いたガイは圧倒的身体能力を誇るが、その強さから使い過ぎると筋断裂や極度の疲労を起こしてしまう。
ハジメから医療忍術も学んでいたガイは、使用後の治療をある程度自身で出来るが戦闘中では大きな隙になってしまう。
だが現在はハジメの影分身が内部から治癒も出来るので、より連続して使用し続けることが出来る。
身体能力も持久力も強化されたガイは、八門遁甲・七門にして八門目に近い戦闘能力を誇った。
素の状態でも空を駆けられるようになっていたガイはその足で空を駆け回り、八門まで開かなければ使えない筈の【夕象】で尾獣の巨体を殴り飛ばして八面六臂の戦いぶりを見せる。
完全に置いて行かれた形のカカシは…
「…もうあいつとは勝負したくないかな」
そう愚痴をこぼすが、ライバルと呼んでくれていた相手に置いて行かれた事は少し悔しかった。
須佐能乎達と巨獣亀達のぶつかり合いは一進一退だった。
本家本元の須佐能乎だけあって現身の術の巨獣亀とは術の安定度が違い、物理攻撃力と耐久力で劣っており正面からの衝突では不利だった。
しかし現身の術はチャクラの形態変化の極みの一つであり、更に性質変化を加えて五遁を乗せた攻撃が可能だ。
雷遁の刃に火遁の圧縮弾、水遁と風遁の飛刃に土遁の岩を伴なった一撃なども出来る。
やられて消えてしまう巨獣亀を操る影分身もいるが、多様な手段で須佐能乎ごと木遁分身を倒す影分身達もおり、今の段階では戦況は互角と言えた。
「なるほど。 須佐能乎を正面から相手に出来るとは、それなりの術だとは認めてやろう」
「本物のうちはマダラに認めてもらえるとは光栄だな」
まだ全力では無いが、チャクラに限った力では影分身たちはけっこう本気で戦っている。
それでも何とか互角という事は、やはり現身の術では現段階の須佐能乎に迫るのが精一杯という事だ。
何せ須佐能乎は万華鏡写輪眼によって開眼するうちはの血継限界であり、術というより一種の固有能力と言える。
対し僕の現身の術は、形態変化に加えて実体を持たせやすいチャクラ性質に変化させただけの泥人形のような物。
自在に形を変えられる便利な術ではあるが、その分形状の安定性や強度が劣るのは仕方がない。
研鑽を繰り返してきたが、僕固有の資質だけではチャクラを割り増しする以外に現身の術を強化できず、これ以上完成度は上がらないだろう。
「お前の相手は木の葉の巨獣だけではないぞ!」
「儂らがいる事も忘れるでない!」
雷影と土影が筆頭に、五影達が観戦していた本体のマダラに攻撃を仕掛けた。
マダラ本体も須佐能乎を出して応戦するが、五影と呼ばれるだけあって即席の共闘だというのにうまい連携でマダラを攻め立てる。
そして追い込んだマダラに対し、土影が必殺の塵遁を発動させる。
「巨獣よ、巻き込まれるなよ!」
土影の呼びかけに、塵遁の狙いがマダラを含めて須佐能乎達を巻き込む照準をしている事に気付く。
その先でぶつかりあっている影分身たちの巨獣亀も当然含まれており、僕は影分身達の退避を諦めて巻き込まれないように離脱した。
――塵遁・原界剥離の術――
ぎりぎり僕が巻き込まれない所に塵遁の光が照射され、マダラ本体を含めて須佐能乎の軍勢も巨獣亀達もまとめてが消し飛ばされた。
どんなに強力な術があっても、このように強さに関係ない破壊力を持つ術もあるので、絶対無敵の術などこの世界に存在しない。
それ故に塵遁も絶対ではなく、光に飲み込まれたマダラ本体は輪廻眼の餓鬼道で無効化吸収しており消滅してはいなかった。
五影達はそれも想定の内で、塵遁からの連携の術に繋いで追撃し、無効化出来ない風影我愛羅の砂の封印術に嵌める事に成功した。
だがそれで終わるマダラではなく…
「遂に出てきたか」
五影達の術を纏めてぶち破って、これまでとは比べ物にならないサイズの須佐能乎が姿を現す。
四本の腕を持った天狗の姿をした完成体須佐能乎だ。
完全な形となった須佐能乎が不意に明後日の方向に刀を振るうと、その先の山が斬り飛ばされる。
知ってはいた。 わかってはいたつもりだが、その威力に流石の僕も度肝を抜かれた。
山を吹き飛ばした一撃の余波がこちらに向かってきて、僕は吹き飛ばされる瓦礫に巻き込まれないように跳びあがって、同じく余波を受けていた五影達の元に合流した。
「大丈夫ですか、皆さん」
「ハジメか。 一応はな」
「ハジメ様もご無事で!」
「気遣い無用だ! それよりも奴を見ていろ!」
「なんて威力だ」
「まさか須佐能乎がまだ本気ではなかったというのか」
全員無事ではあったが、完成体須佐能乎の異様さに飲まれいるようだった。
そんな僕等の前に完成体須佐能乎の巨体が足音を唸らせながら歩み寄り、額に収まったマダラが語ってくる。
「これが須佐能乎の真の姿。 完成体須佐能乎だ。
この術を俺に使わせたのは誉めてやろう。
だがこれを出した以上、先ほどの紛い物の術も貴様ら五影でも相手にはならん。
この須佐能乎と戦うことが出来たのは柱間だけだ」
圧倒的な自信が窺えるマダラの言葉に、五影達は言葉も出ずに見上げるばかりだ。
僕も完成体の須佐能乎相手では厳しいと分かっているが、再び影分身を出して現身の術の準備にかかる。
「ハジメ、どうする気だ」
「通じないかどうか、一度試してみますよ。 ハアァァァ!」
影分身五体を補佐に僕を中心に新たな現身の術を発動する。
一体にチャクラを集中させて影分身の補助を増やしたことで先ほどよりもより大きなものを作り出し、サイズだけは完成体須佐能乎と同等でより重厚な甲羅と外被を纏った巨獣亀が出来上がる。
「この須佐能乎と同等の大きさにも出来るか。
だがデカくなっただけでこの完成体須佐能乎の攻撃に耐えられるか?」
マダラの須佐能乎の様子に大きな変化は見られない。
原作では完全体須佐能乎が出た直後に穢土転生が解除されるのだが、未だにマダラの様子に変化は現れず穢土転生が解除される様子はない。
確か穢土転生を解除をしたのは穢土転生の支配から脱したイタチだったので、これまでの行動がいろいろ予定を狂わせて、解除されるまで時間が掛かっているのかもしれない。
あるいは僕の参戦でマダラが完成体須佐能乎出したのが早まったか。
もしかしたら完全に予定が狂っていて、このまま穢土転生がずっと解除されないという事になったらどうしよう。
いかん、マダラより穢土転生がちゃんと解除されるか確認しておくべきだった。
マダラと交戦中のこの状態で、穢土転生を操っているカブトを影分身に探しに行かせるのは難しい。
最悪完全に予定が狂ったとしたら、五影を連れて撤退する事も視野に入れないと。
「来るぞ、ハジメ!」
「は、はい! 巨獣亀硬度最大、防御形態!」
綱手様の警告に、須佐能乎が再び力を溜めて巨獣亀に刀を振り下ろそうとしている事に気付く。
僕は巨獣亀を頭と手を引っ込ませた姿に変えて、亀の甲羅の厚みを更に高めた攻撃を受け止める防御形態に変えて守りに入る。
「五影の方々! 巻き込まれぬように気をつけてください!」
巨獣亀の後ろには五影達がおり、マダラは纏めて叩き潰すつもりで須佐能乎の刀を振るった。
攻撃が巨獣亀に当たり、凄まじい衝撃が再び周囲に響き渡る。
「ほう、これも凌いだか」
正直僕本人も須佐能乎の攻撃が直撃すれば危ないと思ったが、巨獣亀の守りを貫いて直接受ける事は無かった。
だが凄まじい衝撃で内部にいた影分身は消し飛び、巨獣亀の仙術チャクラの体は半分以上が消し飛んでいた。
後方にいた五影達も余波だけで済み無事だったが、現身の術は完全に討ち破られた。
形が自在なのでチャクラを再度籠めて形状を修復すれば元に戻るが、完成体須佐能乎に巨獣亀では勝てないと術を解いて地面に降り立つ。
「ハジメ、大丈夫か!」
「ハジメ様、お怪我は!?」
「大丈夫です。 ですが現身の術じゃ、何とか一撃に耐えるのが限界ですね」
「一撃耐えられただけでも凄まじい」
「じゃがそれだけでは勝てぬ。 儂等がこれほど力を合わせてもマダラに届かんか」
「何を言う土影! 儂はまだ諦めとらんぞ!」
雷影だけは己を鼓舞するようにいきり立つか、劣勢の状況にいつもの覇気がない。
「僕だって別に諦めたわけじゃありませんよ。
現身の術では勝てない。 なら別の手を使うだけです」
「何、まだ何か別の切り札を用意していたのか?」
「研鑽を重ねたとはいえ、現身の術を完成させてからだいぶ経っていますからね。
新たな切り札の一つや二つ考案してますよ」
「あれ以上の術があるのか」
「だったらさっさと使わんか!」
「勿体ぶっとる場合じゃなかろう!」
いろいろ文句を言われるが、使おうとしている手段が僕固有の物ではなく、今更ながら掟破りでもあるから少し躊躇があったのだ。
現身の術だけで勝てないのなら仕方ないが、【気】を開放して直接マダラに殴り掛かるよりはまだこの世界の常識の範疇にある。
「もったいぶってた訳じゃありませんよ。 ただこいつの力を借りる事になるので使い辛かっただけです」
僕は親指を少し切って血を出し印を組んで地面に手を着く。
――口寄せの術――
口寄せの煙の中から僕が呼び出したのは、一見何の変哲もない馬の姿の穆王だ。
「馬、ですか?」
「そいつは確かお前が飼っている忍獣ではなかったか」
水影は呼び足されたただの馬に疑問符を浮かべ、綱手様は長い付き合いなので一緒に暮らしていた穆王の存在は知っていたがその正体までは知ってはいなかった。
『貴方が私を呼び出すとは珍しいですね』
「少々苦戦する事になってな。 お前の力を借りたい」
『…なるほど、奴ですか。 人間ならとっくに死んでいると思っていたのですが』
「あいつは穢土転生という術で呼び出された死者だ。 だが知っているのか、マダラを?」
『昔、初代火影と呼ばれた者に封印された折に戦ったことがあるのですよ。
奴も初代火影も、人間でありながらあなたと同じような化け物染みた強さでした』
そういえば各国が持つ尾獣は、初代火影によって封印され分配されたという歴史があったな。
「何の話をしている。 そんな口寄せ動物が何の役に立つというのだ、巨獣!」
話をしている事に痺れを切らした雷影が穆王の意義を問うてくる。
「すいません雷影様。 色々切迫してる状況なので説明を省くが、奴と戦うのに前に実験したあの術を使うから力を貸してほしい」
『なるほど。 この身の私ではあのマダラに及ぶべくもありませんが、あの術を使うのであれば私の力が必要と言う訳ですか。
いいでしょう。 嘗て封印された時の借りを返すというのも面白い。
私が力を貸すのですから、絶対に負ける事は許しませんよ』
「もちろんだ。 では変化を解くぞ。 解!」
穆王はただの馬の姿から、角を生やしたイルカのような顔にその存在を証明する五本の尾が生えた五尾本来の姿に戻った。
ただし大きさはこれまでと同じサイズのままで、チャクラの断片故に本体ほどの巨体とはならない。
「その姿。 小さいが五尾だと?」
マダラも尾獣を集める計画を立てただけに、穆王の姿は当然知っていた。
「確かに小さいが五尾の尾獣じゃぜよ。
これはどういう事じゃ、木の葉の巨獣?」
「そういえば穆王は岩隠れの人柱力に封じられてたんでしたっけ。
前の大戦で戦った時に、切り落とした穆王本体の一部を回収して尾獣のチャクラ研究に使ったんですよ。
その過程で断片にも意識が残っていることがわかって、いろいろ弄った結果このサイズで自立行動できるようになったんです。
それからは普通の馬のフリをさせて一緒に暮らしてました」
『貴方はなかなか家に帰ってこないので、私が一人で家にいる事の方が多かったですがね』
「僕は忙しいんだからしょうがないだろう」
お陰で家の事は、半分以上穆王に任せっきりになってしまっている。
「おい、私はそんな話聞いたこともないぞ。
尾獣のチャクラを隠し持っていたなど」
「本体ではなく断片を使った個人の研究なので大目に見てくださいよ、綱手様。
それにこいつ単体ではチャクラが少ないので、普通の馬とそんなに変わりません」
「その様だな。 そのような本体ですらない削りカスで一体何をしようというのだ」
マダラが本来よりも小さな穆王の姿を侮蔑し、穆王はそれに顔を歪めて苛立つのを感じ取った。
「僕の現身の術の限界は、術としての型が存在しない事ゆえの不安定さが強度不足の原因となっている。
仙術チャクラにする事で亀仙の型を加えることが出来たが、それでもチャクラのみで実体化する尾獣や須佐能乎には及ばなかった。
ならば足りない型となる物を取り込めばいい」
「ハジメ、その五尾を体に封印して人柱力となる気か?」
「いいえ、綱手様。 始めから尾獣が協力してくれるなら力を併せるのに封印はいりません。
そしてこの術は現身の術を土台とした力。
いくぞ、穆王!!」
『きなさい!!』
僕は穆王の体に手を当てると、チャクラに溶ける様に実体化が解けて掌に収束して穆王の顔をデフォルメしたような球に近い形となる。
それは穆王の本質が剥き出しになったチャクラの根源と呼べるものでもあり、シャーマンキングの世界において霊魂と呼ばれる姿でもある。
尾獣とは不死に近い存在だ。 その肉体はチャクラによって構築され、例え死んだとしても時間をかければ復活する。
チャクラは身体エネルギーと精神エネルギーを練る事によって生じると言われるが、尾獣はチャクラによって肉体を生み出しているので、その法則が成り立たない。
では尾獣達は何処からチャクラを生み出しているのかと言えば、本来肉体の内にある存在の根幹。
すなわち霊体、或いは魂と呼ばれるものから生じていると考えられる。
断片のこの穆王はいわば分霊と言ったところか。
尾獣の人柱力への封印が一種の憑依のようなものだとしたら、尾獣達は魂だけで生きている存在だ。
ならばチャクラによる実体化を解いた状態は、幽霊となっていると言っても間違いではない。
すなわちこの状況において、シャーマンキングの世界の力を持つ僕はこれを使うことが出来る。
「『
穆王の魂を現身の術に併せる。
穆王のチャクラと僕のチャクラが併せるだけで、ここまでは本来のO.S.とは言えない。
だがO.S.には二つの物に憑依させる二段媒介という物がある。
「IN水蒸気!」
更なる媒介として大気中の水分を憑依先に指定した。
穆王の能力は沸遁であり、気化している水分と相性がいい。
シャーマンキングのハオはS.O.Fの媒介に大気中の酸素を使っていたので、同じように大気中の水蒸気を媒介にする事は可能だった。
大気中の水蒸気と現身の術のチャクラ、そしてシャーマンの力である巫力を受けて穆王の魂がO.S.として実体化する。
現身の術を媒体としたことで形は自在のまま、尾獣としての穆王の型を持った新たな形態へと変化を遂げる。
完成したのは須佐能乎と同等の大きさの人型。
体は和装の衣を纏い、頭部の口から下は人だが鼻から上は穆王の頭が被り物の様になった形をしている。
そして頭の後ろから髪の毛の様に穆王の五本の尻尾が揺らめいていた。
O.S.は霊によるものなので霊能者以外には見えないのだが、チャクラと水蒸気を媒介にしているので、霊能者以外に見えている。
「特に名前も決めていないが、この術を【現身・穆王】とでも呼ぶか」
『名前など何でも構いません。 私の力、使いこなして見せなさい』
「穆王もチャクラの変換を頼む」
穆王にはチャクラの綱引きによって僕のチャクラを受け取り、沸遁を宿した尾獣チャクラに変換してもらっている。
それを僕に再び還元する事で、現身の術と尾獣化が複合された状態になっているのだ。
「確かに先ほどよりも実体化が定まっているようだな。
どれ…」
不意にマダラの須佐能乎が動き刀を振るわれる。
――ギャイィィンン!!――
僕はそれに対応して現身・穆王の片腕を瞬時に剣状に変化させて受け止めた。
「ほう、先ほどよりは丈夫の様だ」
「沸遁…」
もう片方の腕を円柱状に変形させて、マダラのいる須佐能乎の額に向かって突きを放つ。
だがそれをマダラも無防備に受けるはずもなく、額に当たる直前に須佐能乎の手で受け止めた。
「【蒸気崩拳】!!」
円柱状の腕の前面から噴き出す様に気化爆発が炸裂し、蒸気熱の奔流が須佐能乎の腕ごと頭部のマダラを飲み込んだ。
須佐能乎は力が抜けるように膝をつくが、崩れ落ちる事は無かった。
須佐能乎の頭部は半壊した状態だが、マダラがまだその場に健在だった。
「グウウウゥゥゥゥ! 何だこの熱さは!!
なぜ穢土転生のこの体に焼ける痛みを感じる!?」
僕の攻撃を受けてマダラが苦しんでいるのが、この現身・穆王がO.S.だからだ。
霊体にも痛みを与えることが出来るため、穢土転生の体であってもダメージを感じるはずだ。
「この術は肉体だけでなく魂へも干渉する力がある。
穢土転生と言えど魂にダメージが蓄積すればどうなるかな」
「グッ! やってくれる!」
破損した部分を即座に再生させて、須佐能乎が立ち上がる。
今度は小手調べではないと両手にそれぞれ刀をもって連続攻撃を放ってくる。
僕もそれに対応して、現身・穆王の両腕を剣状にして応戦する。
巨体同士による一撃一撃で衝撃が起こる剣のぶつかり合いが始まった。
「なんて戦いだ。 お祖父様はこんな奴と戦って勝ったのか」
「もう私達が手を出せる戦いではありません」
「伝説の忍、うちはマダラ。
それと互角に戦う中野ハジメ。 あれほどの忍だったとは」
「ただ突っ立って見ておる場合か!
土影、お前の塵遁でマダラを狙えるか」
「あの巨体であれほど早くぶつかり合っていては、マダラのみを狙うのは一苦労じゃぜ。
それにマダラには輪廻眼もある。 無効化されかねん。
チャクラも残り少ない。 迂闊に使えんぜよ」
「ぐぬぅ」
五影達は僕とマダラとの戦いに巻き込まれないように、距離を置いて様子を見ている。
このぶつかり合いに介入できるのは、尾獣化できる人柱力か須佐能乎を持つうちは位だ。
「須佐能乎で剣戟が出来るとは思わなかったぞ!
だが気付いているか? 完成体須佐能乎には腕は四本あるという事を」
現身・穆王の剣腕を鍔迫り合いで押さえ、翼と一体化している残り二本の腕が差し向けられる。
ぼくもこの攻撃は予想していなかったが、対処は十分間に合う。
差し向けられた腕に対して現身・穆王から新たに二本の腕を生やして、差し向けられた腕を掴み押さえる。
「そっちも忘れてないか。 こっちは形が自由自在だってことを。
まだいけるぞ」
更に腹部から腕ではなく剣の刃を直接生やして、須佐能乎の胴体に突き刺す。
作りながら突き刺したことであまり威力が出ず貫くことは無かったが、突き刺さった切っ先の部分を須佐能乎の内部で沸遁で気化爆発を起こさせる。
――バアァン!!――
沸遁による内部爆発が起こった事で、須佐能乎の胴体に大きな穴を開ける。
それにより須佐能乎が体勢を崩し、僕は一気に押し込もうとするが現身・穆王の顔面に衝撃が走り数歩後退する。
見ればマダラが手をこちらに向けており、何が起こったか悟る。
「やってくれる」
『なんです、今の衝撃は?』
「おそらく輪廻眼・天道の斥力だ」
あれがあった事をすっかり忘れていた。
ナルトがペインを倒すのに最も苦労した術であり、実体のない術を無効化する餓鬼道よりも攻撃性ではやっかいだ。
「何度須佐能乎を破壊しようと無駄だ。 チャクラがある限りいくらでも修復出来る」
マダラが言った通り須佐能乎に出来た穴は直ぐに塞がった。
「そして穢土転生はチャクラ切れを起こさん。
いくらお前が尾獣並みのチャクラを持とうと、この戦いで先に力尽きるのは貴様…っ!」
再び立ち上がり向かってこよう歩き出した時に、須佐能乎の形が崩れマダラが外の放り出される。
マダラの体が光り始め、破損していないのに穢土転生の体から塵がこぼれだす。
「どうやら穢土転生の術が解除されたようだ」
『つまりこれで終わりですか。 ようやく温まってきたところだというのに…』
穆王が残念そうに言い、五影達もマダラの様子に穢土転生が解除された事に気付き浮足立つ。
しかし、これで終わりでないのは僕は知っていた。
ここから先、マダラはより厄介になる。