四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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 お待たせしました。 決戦分の投稿です。


第十七話

 

 

 

 

 

「つまり世界中を幻術に掛ける無限月読が発動してしまったと言う訳か!」

 

「おそらくな」

 

 神威空間の中で僕はミナト達に無限月読が発動してしまった事を告げる。

 

「世界中に掛ける幻術と聞いていたから、もし発動した時の対処手段として異空間に逃げ込むという対策を用意していたが、カカシが幸いその類いの術を得ていてくれたのは幸運だった」

 

 運が良かったというのは本当だ。

 カカシが無限月読が発動した時に神威を使えるとも限らず、近くにいない可能性も十分あった。

 その為に時空間忍術を使った封印術で、自身を封印する事で無限月読を回避しようと準備していた。

 カカシのおかげで無駄にはなったが、神威の方が上等かつ異空間に逃げ込みやすい。

 

「それでどうしますか先生。 このまま引き籠ってるって訳にもいかないでしょう」

 

「もちろんだ。 だが外に出るには慎重にならないといけない。

 無限月読が発動したのは間違いないが、今外がどのようになってるか見当もつかない」

 

「どういう事です?」

 

 疑問に思うガイに、僕の懸念を伝える。

 

「術が発動した後、どのように世界中を幻術に掛けるのか。

 その発動時間がどれくらいなのか全く予測がつかない」

 

「確かに。 世界中を幻術に掛けるなら、長い時間幻術の力が世界中に広がっていってる可能性もある。

 迂闊に外に出れば幻術の餌食になりかねない」

 

 ミナトが真っ先に僕の言いたかったことを理解する。

 無限月読がどんなものか僕は知っているが、それを教える訳にはいかないのでこの事を警戒しない訳にはいかないのだ。

 

「では、どうします? 外の様子でしたら俺の眼で確認できます」

 

「待て、カカシ。 無限月読が写輪眼の発展系である輪廻眼の幻術なら、視覚から作用する幻術の可能性が高い。

 外を見た途端お前が幻術に落ちたら、この空間にいる僕達も無事では済まないかもしれない」

 

 実際、無限月読がどれくらいで終わるのか僕にもわからないのだ。

 終わるまで時間の余裕を見るつもりだが、もし幻術をかけている最中に外に出たら大変だ。

 

「しかしこのまま引き籠っている訳にも行きません。

 無限月読が発動してしまったのなら、何としてもマダラを倒して術を解かないと」

 

 迂闊に外の確認が出来ないが、カカシの言う通り引き籠っている訳にもいかない。

 外に出なければマダラを倒せない以上、安全が確認出来ずとも危険を承知で出てみるしかなくなる。

 

 外を直接確認出来るのは、この空間の主であるカカシだけだ。

 だが出入りにカカシの力が必要である以上、カカシを率先して危険を冒すという事は同時に全員を危険に晒す。

 なにか別の手段で確認出来ればいいのだが…

 

 幾分かマシな確認手段を思いつく。

 

「…ミナト、この空間から飛雷神で外に出る事は出来ないか?

 飛雷神で外に出られるなら、外を確認する手段を一つから二つに増やせる」

 

「! ちょっと待ってくれ………いけそうだ。 外のマーキングを感じ取れる」

 

「じゃあもう少し時間をおいて、外の確認をミナトに頼む。

 世界中に掛ける幻術と言うなら、一瞬でかける物ではなく多少時間のかかる物の筈だ。

 僕の勘だが出るのは多少の間をおいてからにして、念のため影分身の方を飛ばせ。

 問題ないならこっちに戻ってくるか、影分身の解除で情報を伝えてくれ」

 

「わかった」

 

「待ってください。 先生が危険を冒すなら俺が」

 

「いや、幻術に掛かった場合のリスクを考えると僕が外を確認すべきだ。

 カカシが幻術に掛かればこの空間がどうなるか分からない。

 それに僕は穢土転生だ。 幻術に掛かっても多少強引な手段で対処出来る」

 

「暴れたらぶん殴って止めろって事だな」

 

「そういう事」

 

 ミナトとおどける様に会話を交わす。

 これでもミナトが死ぬまでは付き合いは長かったのだ。

 軽い会話をして場を和ませるくらいの事はあった。

 

 僅かな時間だが、再び戦闘に出るために準備を整えておく。

 そしてそろそろいいかと思い、ミナトに指示を出す。

 

「ミナト、そろそろ頼む」

 

「わかった」

 

 

――影分身の術――

 

 

――飛雷神の術――

 

 

 ミナトの影分身が現れ、直後飛雷神の術で外の空間へ飛び姿を消した。

 残った本体のミナトの様子を窺い、その反応次第で外でまだ幻術が猛威を奮っているのかが解る。

 

「……………ッ! 皆、外に出るよ! カカシ!」

 

「はい!」

 

 カカシの神威で空間が渦を巻き、外へ全員を送り出す。

 ミナトがすぐに外へ出るように言った以上、無限月読は既に治まっているようだ。

 

 外に出ると遠目に巨大な木々が見える。 幻術に掛けた人々を捕らえている神・樹界降誕の木々だろう。

 そして目の前に浮かんでいるのは真っ白な姿に長い髪、両目に白眼、額に輪廻眼を備えた大筒木カグヤ。

 既にマダラは黒ゼツの裏切りでカグヤに取り込まれたらしい。

 この後はカグヤの空間での戦いになるはずだから、結構ギリギリだったかもしれない。

 

「ナルト! サスケ! サクラ!」

 

「カカシ先生、無事だったのか!」

 

 ナルト達も無事に無限月読から逃れることが出来たらしい。

 

「ミナト! 無事だったってばね!」

 

「クシナ、良かった」

 

 三人だけでなく、ナルトを診ていたクシナもいた。

 更にサスケの治療をしていたサクラとカブトに大蛇丸、そしてサスケの仲間の三人まで残っていて、予想外の事に僕も少し戸惑った。

 

 後々の状況確認でわかる事だが、無限月読が起こった時にサスケは目を覚ましたばかりで、まだ治療していた面々が傍に居た。

 大筒木カグヤの封印と無限月読解除に必要なナルトと即座に合流しなければならなくなり、彼らを巻き込んで須佐能乎を出してナルトと合流した。

 ナルトの元にもクシナがいたので、一緒に輪廻眼の力を纏った須佐能乎で無限月読の光から全員を守った。

 その結果、原作より多くの人間が無限月読から逃れられたらしい。

 

 そのことを僕は詳しく聞きたかったが、その時間はなかった。

 カグヤが眼前にいる状況で、どういう過程で生き残ったのか確認している暇はない。

 

「お前ら、安心してる暇はないぞ!」

 

「その様子ならまだ戦いは終わってないと言う訳だな。

 サスケ、簡潔に状況を説明してくれ」

 

「それなら簡単だ。 アイツをどうにかしないと無限月読の幻術は解けん」

 

「了解した」

 

 状況整理も出来ていない中でカグヤが敵であると確認し、僕達も警戒を強める。

 

「…戦うのはやめよう……ここではな」

 

 そうカグヤがつぶやいた瞬間、周囲の風景が一転する。

 下が溶岩に満たされた洞窟の空中に、その場にいた全員が時空間忍術で飛ばされた。

 

 僕は即座に現身の術を発動して、空を飛べない面々にチャクラの腕を伸ばして掴み取り、岩の天井にも腕を伸ばしてぶら下がり全員を支えた。

 ミナトとカカシはガイが抱えて空中を蹴って岩壁に辿り着き、ナルトはサスケの口寄せした大鷹が捕まえ、残りは僕が支えた。

 

 と言うか、この空間で口寄せできるという事は飛雷神でも脱出出来るんじゃないか?

 ここからの脱出手段に希望が持てた所で、この場で戦える者達を確認しないと。

 

「大蛇丸、この場で戦える手段はあるか?」

 

「残念だけどこういう状況を想定なんてしてないから準備不足よ。

 壁に立って術で援護するのが関の山ね」

 

 研究者として手数の多い大蛇丸に聞いてみたがやはり無理らしい。

 

「カカシ、須佐能乎で空を飛ぶ事は出来るか?」

 

「すみません。 あれはオビトのチャクラの御蔭で使えただけで、そのチャクラももうほとんど残ってません。

 神威は問題無く使えますが、須佐能乎はもう使えないと思ってください」

 

「そうか。 飛べない奴は下に落ちないようにここから援護。

 飛べる奴は攻撃だ!」

 

「空なんて早々飛べないって」

 

「先生! 俺も行きます!」

 

 ガイが空中を足踏みするように跳ねて待機しながら言う。

 

「…大蛇丸様。 この人どういった忍術で空を飛んでるんです」

 

「水月、彼が使ってるのは忍術ではなく体術よ。

 空気を蹴って力づくで空中を跳んでいるのよ」

 

「うへぇ。 頭おかしいんじゃないですか」

 

 空を蹴って浮いているガイを見て、水月が大蛇丸に質問して呆れていた。

 

「違う、根性だ! 根性で積み重ねた努力が今の俺の力となっているのだ。

 誰だって頑張ればこれくらいの事は出来る!」

 

「才能の欠片もなかった貴方が言うと、とてつもない説得力があるわね。

 ハジメ君が鍛えてたから頭の片隅に覚えてたけれど、これほどまでになるとは私も予想出来なかったわ」

 

「応援ありがとう!」

 

 才能や資質を重視する大蛇丸の言葉としては、確かに最高の称賛と言えよう。

 

「ハジメのおっちゃん、俺達も行くってばよ!」

 

「奴を封印する為の術を俺達は持ってる」

 

 ナルトとサスケに、六道仙人からもらった陰と陽のチャクラがあると聞く。

 

「それで十尾の力、引いてはマダラと入れ替わったカグヤの封印が出来ると言う訳だな」

 

「ああ。 俺とナルトが奴に同時に触れれば封印出来る」

 

「なら僕とガイで奴を牽制して、お前たち二人をアイツの元まで連れていく」

 

 ナルトとサスケをカグヤの元までたどり着かせる作戦方針が固まった。

 いくつか準備を整え、影分身に皆を支えている現身の術を受け継がせて、本体の僕はフリーになる。

 

「ハジメのおっちゃん。 そういえば、なんでおっちゃんから穆王のチャクラの気配がするんだ」

 

「昔穆王と戦った時にそのチャクラを一部保管してたんだよ。

 今は一時的に体に宿してチャクラを交換する事で、尾獣化は出来ないが沸遁の使える穆王のチャクラを使えるようになってる」

 

『里でも普通に会った事がありますよ。 ハジメの家に住んでいる馬が私です』

 

「あれ、穆王だったのか! 気づかなかったってばよ」

 

 近くにいるからか僕の中とナルトの中の穆王のチャクラが呼応して、どちらにも声が聞こえるようになっているみたいだ。

 

「無駄話もそこまでだ。 そろそろ奴が動くぞ」

 

 サスケの指摘にカグヤを見ると、感情をまるで感じさせない表情でその白眼の視線がこちらを射抜いている。

 いや、見ているのは六道のチャクラを持つナルトとサスケの様だ。

 まるでいないかのように、僕を含め他の面々を気にしてもいない。

 

「気にしているのはナルトとサスケだけみたいだ。

 それなら精々足元を掬ってやろう。 行くぞ、ガイ!」

 

「はい、先生!」

 

「俺達も行くぞサスケ!」

 

「命令するな」

 

 僕とガイは空を駆けてカグヤに向かっていき、鷹に乗るサスケとナルトも後に続く。

 忍界大戦最後の戦いとなるカグヤとの決戦が始まった。

 

 

 

 結論から言おう。 カグヤは強敵だった。

 その身に十尾を内包し、更に人々のチャクラも吸収したカグヤが弱い筈がなかった。

 その膨大なチャクラを惜しみなく使う術の全てが、この世界の上級忍術を上回る威力を持っている。

 確かに最強の敵だ。

 

 しかし強敵ではあったが、最大の脅威とは言い難かった。

 神樹の実を口にし十尾と一体化したと言われるカグヤは、六道仙人の言葉ではその力を対価に人間らしさを失っていったと言う。

 原作での戦いでも戦術は黒ゼツの意見を主に行動しており、自我や感情が無いわけではないが表情をほとんど変えることなく人間味が希薄に見える。

 戦い方もその強大なチャクラに任せた力任せの物ばかりで、駆け引きや先読みと言った戦闘経験から得られる研鑽が無い様に見えた。

 

 正しくカグヤは人の形をした十尾の様に思える。

 尾獣達の力は強大で戦えば甚大な被害をもたらすが、それでも最終的には人の手によって抑え込むことに成功している。

 それが出来るのは火影などの飛びぬけた忍だからでもあるだろうが、尾獣は強大な力を持っていても個の力であり人の数の力や研鑽されてきた戦う術を持っていない。

 ゆえに最終的には策により力を発揮出来ず敗れる事になる。

 

 言ってしまえばカグヤより力は弱くとも、戦の時代を戦い抜いてきた百戦錬磨の経験を持つマダラの方が何倍も手強かった。

 六道の封印術という攻略法もあったし、原作で尾獣達のチャクラの螺旋丸でカグヤの中の尾獣達が不安定になったように、チャクラの綱引きで尾獣達を引き抜き弱体化を狙えたかもしれない。

 力はあっても戦う者ではないカグヤに、原作以上に人数のいる僕等が勝てない道理はなかった。

 

 溶岩の世界で、先ずは僕とガイが前に出ると、カグヤは腕からチャクラによる砲撃の連打―――八十神空撃(やそかみくうげき)を放ってくる。

 迎撃に僕等は連撃の為に威力を押さえた夕象を放ち、二人掛かりで八十神空撃を迎え撃つ。

 

「なんて威力だ! 先生と二人掛かりでも押されてる!」

 

「まともに力比べなんかしてられん。 回り込むぞ!」

 

 正面からぶつかっては今の僕等でも分が悪いと、夕象を撃つのをやめて二手に分かれる。

 空中を駆けて左右に回り込み、動き回りながら牽制に威力を押さえ連射性を高めた夕象を何発撃つ。

 同時攻撃には八十神空撃での対処が間に合わなかったのか、数発がカグヤに当たり体勢を崩させる。

 

「よし、マダラと同じ戦術が効く。 ガイ、動きを封じるぞ!」

 

「わかりました!」

 

 

――夕象――

 

 

「「壱足! 弐足! 参足! 肆足」」

 

 ガイと二人掛かりの本気の夕象で、カグヤの動きを拳圧による空気の激流で封じる。

 さっきまでの弱い夕象の拳圧は八十神空撃で相殺されていたが、本気の夕象なら相殺しきれない。

 伍足目の打撃を直接打ち込むために、空中に縫い付けたカグヤに挟み撃ちで迫る。

 

 カグヤは夕象の攻撃に迎撃が追い付いてなかったが、その白眼では確かに僕等を捉えていた。

 接近する僕達を流石に見逃さず、両の手をそれぞれ僕達に向ける。

 

「クッ! ガイ!」

 

「はい! 「伍足!」」

 

 僕の呼ぶ声だけで即座に反応し、カグヤから放たれた高威力の八十神空撃を伍足目の夕象で迎え撃った。

 攻撃の衝突で爆発がしたかのような衝撃が広がり、カグヤを拘束する夕象の気流が吹き飛んだが、かまわず僕とガイは前に進みカグヤに接近する。

 

 全力の夕象と高威力の八十神空撃では、僅かに夕象の方が勝ってカグヤの方に衝撃が流れる。

 それで倒せるとはとても思わないが、ひるませることくらいは出来た。

 後は僕等がカグヤに接近すればいい。

 

「チャンスだ、ナルト! サスケ君!」

 

「おう!」

 

「ああ」

 

 遠くでミナトがナルトとサスケに手を当てて飛雷神の術を発動すると、二人が僕達の近くにそれぞれ現れた。

 僕達の持つ避雷針のマーキングを目印に飛んできたナルトとサスケは、僕達を足場にカグヤの元まで跳躍する。

 二人が六道のチャクラを宿した利き手を伸ばし、カグヤまであと僅かとなった所で世界が切り替わる。

 

 

 

 灼熱の溶岩が流れる世界から、極寒の雪景色に染まった世界に一瞬で変わった。

 知っていたとはいえ、一体どういう能力なんだ?

 ガマの食道のみを口寄せする術を自来也が使っていたが、それの類か?

 

 世界が切り替わり僕たちのいた場所は巨大な氷の中になっており閉じ込められていた。

 動きを封じられている間にカグヤは空間に穴を開ける時空間忍術で氷の中から脱出し、サスケは加具土命で天照の黒炎を刃状にして自身とナルトの周りの氷を切り裂いた。

 

「ぶはぁ、助かった! サスケ、ハジメのおっちゃんとゲキマユ先生も!」

 

「必要無いみたいだぞ」

 

 僕とガイは沸遁の怪力で氷を内側から砕いて脱出した。

 

「この程度の氷で俺の熱い青春を冷ます事など出来ん!」

 

「まあ、この程度の氷なら沸遁のチャクラが無くてもガイなら力づくで砕けただろうな」

 

「…二人ともパワフル過ぎだってばよ」

 

「(俺とナルトが負ければ終わりかと思ったが、気負い過ぎだったか?)」

 

 頼むからガイと一緒の扱いで呆れないでくれ。

 僕の強さは青春とか一切関係ないから。

 

 世界を変えられたことで躱されてしまったが、先ほどの作戦は有効だったのでもう一度僕達二人がカグヤを夕象で追い込む戦術で行く。

 再び躱される可能性だが、サスケが世界が変わる瞬間膨大なチャクラが額の輪廻眼に集まるのを見ており、おそらく連続で使用は出来ないだろうと見た。

 たとえ使われても消耗を強いられるならばと挑むが、流石に同じ手はそうそう通用しなかった。

 

 僕たち二人が近付くと、カグヤは時空間忍術で逃げる様になった。

 さっきのぶつかり合いでカグヤも正面から相手をするのは不利と警戒されたか、黒ゼツのアドバイスがあったのかは分からない。

 別の場所に現れるカグヤを追いかけ続け、何度か逃げられた後に現れたのはナルトとサスケを含む他のメンバーのいる場所の真上だった。

 僕等を後回しにナルトとサスケを先に狙ったのだ。

 

「上だ!」

 

 時空間忍術を宿す目を持つからか、上に出現したカグヤに真っ先に気付いたのはカカシだった。

 カカシの声に反応しナルトがすぐさま飛び上がる。

 

 仲間を攻撃に巻き込まないように八十神空撃をナルトは尾獣チャクラの腕で迎撃し、サスケも狙われては待ちの態勢ではいられないと須佐能乎を纏った。

 いくら六道仙術と輪廻眼があってもカグヤ相手では正面からでは不利で、ナルトは攻撃を押し込まれサスケの須佐能乎も攻撃に耐えられず砕かれた。

 ナルトが迎撃している間に他の仲間達は距離をとって巻き込まれなかったが、ナルトとサスケが吹き飛ばされその先にカグヤの時空間忍術が開いた。

 開いた空間からカグヤの手が伸びナルトとサスケが捕らえられそうになるが、僕とガイが二人を受け止める事で逃れる。

 

「大丈夫かサスケ?」

 

「っち! 須佐能乎がああも簡単に砕かれるとは…」

 

「力の差は歴然だからな。 それより気をつけろ。

 カグヤは異空間に移動出来る時空間忍術の使い手だ。

 捕まって別空間に放り出されたら普通の手段じゃ戻ってこれん」

 

「! なるほど、さっきのはそれが狙いか。

 作戦を変えるぞ。 ゆっくり待っていたら俺達が先に狙われる」

 

 知っていたから対処も出来たが、原作と同じように空間を隔てて分断されたらかなりやっかいだ。

 対策でミナトに飛雷神のマーキングを二人に施してもらってはいる。

 先ほどサスケが口寄せで鷹を呼び寄せていたし、ミナトもマーキングがあればここから別空間に飛べると言っている。

 カカシに神威で空間に穴を開けて探してもらう必要は無い筈だが、分断されない事に越したことは無い。

 

 カグヤの時空間忍術での分断を警戒しながら、僕達は戦術を変えて闘いを続ける。

 ナルトは影分身の物量で挑みながら本体の場所を隠し、僕はナルトの影分身を巻き込まないように拳圧の夕象を使わず直接殴りに行く。

 ガイは体の限界が近く温存のために奇襲に備えて仲間の元に下げ、サスケは輪廻眼に開眼したことで得た天手力(アメノテジカラ)の互いの場所を入れ替える飛雷神にも似た瞬間移動でカグヤの隙を狙って攻撃を仕掛ける。

 カカシも空間の歪みで相手をねじ切る攻性神威を当てられそうと判断したら容赦なく狙い、ミナトは攻撃力は無いが飛雷神による高速移動でいつでも援護が出来るようにチャクラを練りながら苦無を構えている。

 

 希少な筈の時空間忍術の使い手が集まり過ぎている。

 残りのメンバーも大蛇丸を筆頭に、水月・重吾・香燐・カブト・サクラ・クシナと高い資質を持った忍ばかりだが戦いについてこれていない。

 やはり時空間忍術は最強の忍術なのではないかと思ってしまう。

 

 戦いはこちらが優勢だ。

 カグヤは八十神空撃に加え共殺の灰骨と言う刺されば人体を灰にする杭を撃ち出してくるが、ナルトは影分身が盾となり僕は現身の術の纏うチャクラで受けるか避ける事で対処出来ている。

 世界を切り替えるという時空間忍術は強力だが攻撃性は低く、単体の移動手段の方はサスケ・ミナト・カカシの方が即時性に優れており、後ろの取り合いや奇襲なら決して負けない。

 ガイを除いて他のメンバーは、空中戦や時空間忍術の飛び交う中では手の出しようが無いが、逆に余力を残していると言っていい。

 カグヤは封印術を持つナルトとサスケだけでなく、僕達全員を相手に不利な状況に追い込まれていた。

 

「拙イ、母サンガ押サレテイル。

 陰ト陽ノチャクラヲ持ツナルトトサスケダケデナク、他ノ奴ラモココマデ厄介ダトハ」

 

「………」

 

「母サン。 コイツ等ノチャクラヲ回収シヨウナンテ考エテル場合ジャナイヨ」

 

「…わかった」

 

 こちらの攻撃を潜り抜け僕達から距離をとって空間の穴から出てきたカグヤは、こちらの様子を伺いながら何かを話している。

 

「あれは! 気をつけろ、また空間が変わるぞ!」

 

 カグヤのチャクラの流れを見ていたサスケが忠告した直後、周囲の風景が一瞬で切り替わる。

 これまでの過酷な自然環境とは違い、そこは僅かに隆起した四角錐の石畳が無数に敷き詰められた地面が広がっているだけの世界だ。

 それだけなら何でもないが、この空間に変わった瞬間に体重が何倍にもなったような重さが加わり全員が地面に倒れ伏した。

 空を飛んでいた僕とナルトも重さで宙に浮いていられず下に引きずり落とされ、地面に落ちる衝撃でナルトの分身は全て消えた。

 

「クソッ! 体が重てぇってばよ」

 

「超重力の世界か。 …ろくに動けないが、それは奴自身も同じらしい」

 

 皆が自身の体の重さで動けなくなっているが、この世界の主であるカグヤ自身も地面から動けなくなっているのをサスケが確認する。

 だが動けずとも術は使えるとカグヤはナルトとサスケに両手を向け、共殺の灰骨を射出しようと二人を狙う。

 

「拙いってばよ。 避けろサスケ!」

 

「わかっている! だが体が!」

 

 カグヤの攻撃に気付いて回避する為に動こうとするが、その動きは鈍くろくに歩く事も出来ない。

 その間に狙いを定めたカグヤが灰骨を射出し、二人は何とか転がって回避する。

 ………が、二人に届く前に放たれた二本の苦無によって撃ち落された。

 

 ぶっちゃけ僕が普通に投げた苦無だ。

 

「何! 貴様、ナゼコノ超重力ノ中デ立ッテイラレル!?」

 

「鍛えていたからな」

 

「フザケルナ!」

 

 本当にそれだけなんだ。

 超重力はドラゴンボールの世界で修業の時に経験済みだ。

 ここの重力はおそらく10倍前後といったところ。

 100倍を克服したことがある僕なら、これくらいの重力下でなら日常生活を送ることだって出来る。

 

 更に【気】は使ってはいないが、身体強化をする術を僕等は使っているので余裕がある。

 

「ガイ。 お前もこれくらいの体の重さで動けない事は無いだろう」

 

「すみません先生。 流石に重りがきつかったので外すのに手間取ってました」

 

 僕に続いてガイも立ち上がって普通に歩いて来る。

 同じく身体強化をしているガイなら動けると思っていたが、普段から修行で使ってる重りを手足に着けたままですぐに動けなかったらしい。

 

「ガイ、お前なんでこんな時まで重りを着けっぱなしなの」

 

「カカシよ。 俺は別に本気で戦ってなかったと言う訳ではないぞ。

 重りは己を鍛える枷ではあるが、己の重さを増やして打撃の威力を高める武器でもあるのだ。

 より速く動きたい時なら重りを外すが、必要が無ければ打撃力を下げない為に外す事は無い。

 何よりこの重りは長きに渡る鍛錬と言う青春を共にしてきた、ある意味お前以上の友、いや俺の一部と言っていい。

 よきライバルであるお前と同じように、俺を常に鍛えてくれる重りを邪険になど出来ん」

 

「え、俺ってその重りと同類?」

 

 ガイの中でカカシと重りがどのような関係なのか非常に気になるところだが、今はそれどころではないので後にする。

 

「流石にこの状態じゃ空中を駆ける事は出来ないが、奴が地面に張り付いているなら飛ぶ必要はないな」

 

「動けぬ相手を攻撃するのはあれだが、容赦はせん」

 

 カグヤが身動き取れずにいる絶好の機会を逃さず、僕とガイは普段と変わらないかのように走り向かっていく。

 

「母サン、コノ空間ハ不利ダ! 別ノ空間ニ切リ替エルンダ!」

 

「…すぐには無理だ」

 

「クッ!」

 

 カグヤはその場から動かずこちらに灰骨を撃ち出してくるが、直線的な攻撃であれば僕は苦無で、ガイはヌンチャクで容易に弾き飛ばせる。

 

「空間を切り替えず動けないままという事は、やはりあの術にもインターバルがあるみたいだな」

 

「あれほどの強力な術ですからな。 奴も使い放題と言う訳にはいかないのでしょう」

 

「だがそれも長くは無い筈だ。 一気に追い込むぞ!」

 

「はい!」

 

 飛んでくる灰骨を触れないように、避けたり武器で叩き落しながらカグヤに急接近する。

 止められぬと解ったら空間に穴を開ける術で逃げようとするが、判断が遅い。

 

「させん!」

 

 ガイが夕象を放ち、カグヤが空間の穴に逃げ込むのを妨害する

 超重力下で動きが鈍り威力が落ちていたので僅かに吹き飛ばすだけだったが、その間に僕が間合いを詰め切った。

 

「まずはお前を切り離す!」

 

「グッ!」

 

「マズイッ!」

 

 苦無を起点に纏わせた現身の術の刃で、黒ゼツの潜むカグヤの左腕を切り飛ばした。

 黒ゼツに力は無いが、長い年月を闇に潜み暗躍してきた経験がある。

 力は強いが戦闘経験の少ないカグヤに的確なアドバイスをしているので、切り離しておいた方がいい。

 

「ナルト、こいつを求道玉で封じておけ!」

 

「わかったってばよ」

 

 切り飛ばした左腕をナルトの方に蹴り飛ばす。

 ナルトは求道玉を棒状にして、飛んできた黒ゼツの潜む左腕ごと地面に縫い付けた。

 

「ウオオォォォォ!」

 

「カハッ!」

 

 その間にガイが左腕を失ったカグヤに攻撃を仕掛ける。

 倒れ伏していたカグヤを蹴り上げる事で浮かし、その体に拳を連続でたたき込む。

 夕象を打ち込んだ時ほどの威力は無いが、過剰な身体強化をされているガイの連打に、強靭な体のカグヤでも内臓をいくつも破裂させて大量の血を吐いている。

 

「おのれ!」

 

 カグヤが痛みに耐えて右腕の掌から出ている灰骨を刺そうとするが、徒に振るう攻撃ではそれを警戒しているガイにあたる事は無い。

 灰骨の刺突を躱し、カグヤの右腕を肘と膝で挟むことで腕の骨を折った。

 奴の治癒力なら直ぐに治るだろうが、僅かな間でも腕を使えないのは近接での体術使い相手には致命的だ。

 

「チェチャアァァァッァアア!」

 

 ガイは見事な体術でカグヤを吹き飛ばさず、その場に立たせたまま打撃の衝撃を余すことなくその全身に伝えダメージを与えて続けている。

 それでもなお原形を留め治癒しようとしているのだから始末に負えない。

 

「ガイ!」

 

「はい!」

 

 ガイはその場に留め続けたカグヤを、僕の方に殴り飛ばす。

 殴り飛ばされてきたカグヤを回し蹴りで上空に打ち上げ、その先にガイが先回りし踵落としを叩き込む。

 落ちてくるカグヤの背に向かって足を掲げて受け止めるように蹴りを叩き込むと、超重力により加算された自重も加わってカグヤの体は背中側に折り畳まれた。

 マダラも体を真っ二つにしても死ななかったのでここまでやっても死んでいない様だが、人体を均等に破壊した事で今のカグヤはまともに動ける体ではない。

 このまま封印出来るか。

 

「ナルト! サスケ! このまま封印するぞ! いけるか?」

 

「お、おう! いつでもOKだってばよ!」

 

「こっちは何時でもいける!」

 

 パワーのあるナルトと違って、輪廻眼を得ても身体能力が向上した訳ではないサスケは立ってるだけでも辛そうだ。

 近付いて来るのは無理そうだが、こちらからカグヤを近づければいい。

 

「いくぞ!」

 

 カグヤの体を支えている足を振り回し、二人の方にそのまま蹴り出した。

 二人は六道の陰と陽のチャクラを授かった利き腕を、飛んでくるカグヤの方に向ける。

 そのままカグヤに触れることが出来れば決着だが―――身動きが取れずズタボロになってもカグヤは意識を失ってはいなかった。

 

 そのままカグヤの体が二人の所に飛んでいく途中で、再び世界が切り替わってしまう。

 近付いていた二人の手がカグヤの体に触れるより先に、長い髪が蠢いて二人を捕らえるのが先だった。

 捕らえられたことで手が届く距離まで近づけず、体に触れることが出来ていない。

 

「髪も動かせるのか、奴は!」

 

「さっきまでの世界では重くて動かせなかったと言う訳か。

 二人を助けるぞ!」

 

 二人が捕らわれチャンスが一転してピンチに変わったかと思ったが、ナルトが力づくで髪の拘束を引きちぎりサスケの拘束も解いて自力で脱出したことで安心する。

 すぐに二人の元に駆け寄る。

 

「大丈夫か二人とも!?」

 

「ちょっとチャクラを吸われただけだってばよ」

 

「おい、奴を見ろ!」

 

 サスケの指摘にカグヤの方を見ると、地面からチャクラが噴出しカグヤに取り込まれていく。

 

「一体何が起こっているのだ」

 

「教エテヤル。 母サンガ本気ニナッタノサ」

 

 ガイの疑問に求道玉で縫い付けられている黒ゼツが答えた。

 

「ココハ母サンノ持ツ全テノ空間ト繋ガッテイル始球空間。

 ココデハ夢幻月読ニカカッタ忍共カラ、チャクラヲ吸収スルコトガ出来ル」

 

「じゃああれは!?」

 

「チャクラヲ吸収シチカラヲ取り戻シテイルノサ。

 コノ空間デ母サンノチカラガ尽キル事ハ絶対ニナイ」

 

 チャクラを取り込むカグヤの体に異変が起きる。

 まるで餅を焼いたかのように白いナニカがあふれ出し、ボロボロだった体を飲み込んで膨れ上がっていく。

 それはあっという間に見上げるほど大きくなっていき、危ないと感じた僕達は距離をとって様子を窺う。

 やがてそれは形を成し始め、額に輪廻写輪眼を持った白くて巨大な獣の姿となった。

 

 

 

 

 

 


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