四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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感想及び誤字報告ありがとうございます。


第四話 物語の中と夢の中

 

 

 

 

 

 ハジメはアリシアの望みである、フェイトとの対話について思い悩んでいた。

 二人の関係はいろいろ難しいものがあり、非常に特殊であるがゆえに無視出来るモノではなく、アリシアが会ってみたいと思うのは至極真っ当な考えだ。

 会わせてやりたいと思うのだが、その後どうなるかが非常に気掛かりだった。

 

 原作の流れを変える気の無いハジメは主要人物との接触は控えているが、必ずしも原作の流れを守ろうと思っているわけではない。

 出番が終了して影響の少ないプレシアとアリシアを救ったり、闇の書を分割する事で手に入れると同時に、もう片方をはやての元に残す事で影響を最小限にしてきたが、この世界は原作の世界ではなくハジメ自身が介入した世界だ。

 自身の目に見えない所で、何かしらの影響が起きている可能性は十分にあると自覚している。

 原作の流れを極力守ろうとしているのは、その方が余計な被害が出ないだろうと思っての事だ。

 

 ハジメは自身が干渉して流れを大きく変える場合は、事態が収拾するまでは手を尽くすと決めている。

 それが自分が行動した責任であるという考えからだが、面倒な後始末である事に変わりないので大きな干渉をしなかった。

 だがアリシアをフェイトに会わせるという事は、大きな干渉の切欠と言える。

 

 会わせた後に彼女達がお互いをどう思うかは分からないが、決して悪い性格ではない二人がお互いを嫌い合う事はないだろう。

 そしてアリシアはフェイトが管理局に捕らわれている現状をそのままにしておきたいとは思わないだろう。

 正当な理由で捕らわれているフェイトを連れだせば騒動になるし、原作の流れは一気に変わる。

 

 かといって罪を犯しているプレシアと生き返ったアリシアが正面から管理局に赴くのは、真っ当な方法であってもより大きな騒動になるだろう。

 蘇生に関わったハジメにも累が及ぶ可能性が十分にあるのだ。

 

 それゆえにアリシアのフェイトに会いたいという願いは慎重にならざるを得ないが、管理局に気づかれずに会わせるだけなら、それを可能にするひみつ道具を探り出している。

 問題はその後の事態が気がかりだったのだが、自身だけで考えていても仕方がないとアリシア達にその後の事をどうするのかと直接訪ねる事にした。

 考えるのをやめて丸投げにしたとも言う。

 

「そういう訳で、アリシア。 フェイトと会う算段は思いついたけど、その後どうしたい?

 フェイトはぶっちゃけて言うとプレシアさんのせいで捕まっているけど、彼女自身の行動の結果でもあるから捕らわれている理由は正当だ。

 無理矢理管理局から助け出すのは真っ当ではないし、アリシアがフェイトの為に管理局に赴くのもいろいろと問題がある。

 かと言って何もせずフェイトをそのままにしておきたいと、アリシアも思えないだろう」

 

「うん、フェイトが捕まってるのは私とママのせいなんだもん。 ほうっておけないよ」

 

「アリシア…」

 

 プレシアはアリシアを生き返らせようと行動していたことに後悔はないが、フェイトの扱いに関しては散々怒られて反省はしている。

 それでもアリシアを最優先とすることに変わりはなく、フェイトを放っておけと言いたいところだが、そんなことを言ってしまえば嫌われてしまうし、既に自身の行いで攻められている事で非常に自身の評価を危うく感じていた。

 アリシアを危ない目に会わせたくないが、下手なこと言って嫌われたくないというジレンマに襲われていた

 

「会ってみないとわからない事もあるだろうけど、その後の事を考えてほしいんだ。

 助けた以上最後までとはいかなくても、落ち着くまでは君達の面倒を見るつもりだ。

 面倒を見るからには、出来るだけアリシア達には相応の幸せを掴んでほしいと思ってる」

 

「ありがとうハジメさん。 私達を助けてくれて感謝してるし、十分幸せだよ。

 だけど、フェイトの事は放っておけないんだ。

 あんなに一杯頑張ったのにフェイトだけ幸せになれないなんておかしいよ。

 私はフェイトの事も絶対幸せにしてあげるんだ」

 

 アリシアは握り拳をして絶対に叶えるという意思を見せる。

 

「それにはまずフェイトに会って、ママに謝らせるんだ! それでママにフェイトを娘だって認知させるの!」

 

「認知……」

 

 アリシアの口から出た認知という言葉に、不意にプレシアに目を向けてしまう。

 

「な、なによ…」

 

「…………いえ別に」

 

 娘(アリシア)に娘(フェイト)を認知しろと言われる母親(プレシア)の心境が聞いてみたくなったが、散々怒られて凹んでいるであろうと察して、死人に鞭を打つ様な真似はやめる事にした。

 

「言いたい事があるなら言いなさい! 親として情けないとか、それでも母親かとか!」

 

「いや、それは今更では?」

 

「フェイトに謝らない内はママの事許さないんだから」

 

「ぐうぅぅ……」

 

 プレシアは崩れ落ちる。

 フェイトの扱いを知っている二人としては、プレシアの母親としての評価はマイナスだった。

 

「話を戻すけど、フェイトの為にアリシアが管理局に行くのも、フェイトを管理局から無理に連れ出すのも問題がある」

 

「うん、もうママが管理局の人に迷惑かけちゃったけど、フェイトの為に迷惑かけちゃダメ。

 だけどフェイトをこのまま一人ぼっちには出来ないよ。

 私とママのせいでフェイトだけが罰を受けるなんて間違ってる」

 

「フェイトには使い魔のアルフが一緒にいるから一人じゃないし、悪いのはだいたいプレシアさんだから、アリシアは責任を感じなくていいんだよ。

 それにフェイトの罰はそんなに重くならない筈だから、管理局にいる事が不幸とは言い切れない。

 素敵な友達も出来ているからね」

 

「フェイトの友達ですか?」

 

「ああ。 その子と一緒にいる事でフェイトはフェイトなりの幸せを手に入れる。

 その理由を教えるついでに、僕がアリシア達の事を知っていた理由も教えよう。

 闇の書の事とも関係があるから、夜天も聞いてくれ」

 

「私もですか?」

 

 従者としてハジメに寄り添いながらも、自身に関わりの少ない話であった為に黙っていた夜天が反応を示す。

 闇の書は無限転生の機能から、再生と同時に新たな主を自動で探すので、出現場所が非常にランダムだ。

 偶然でなければ発見出来ない物なのだが、見つけた事に何かしらの理由があった事を夜天は察する。

 

「ところでアリシアはアニメという物を知ってるかな?」

 

「えっと、知らないです」

 

「……確かミッドで管理外世界から輸入した、娯楽文化だって聞いた事があるわ。

 アリシアが一度死んだ後の事だから、知らないのも無理ないわ」

 

 アリシアは知らなかったが、崩れ落ちていたプレシアは聞き覚えがあったので答えた。

 97管理外世界の地球のアニメ文化も、ここ半世紀で流行りだした娯楽文化なので、遠い世界であるミッドに伝わったのも近年の話だ。

 アリシアが一度死んだのは実は20年以上前なので、その時にミッドとはかなりのジェネレーションギャップがあるのだ。

 

「プレシアさんが言った通りアニメは娯楽文化の一種でね、画面に移されるデフォルメされた動画に声を吹き込む事で物語を紡ぐ鑑賞作品なんだ。

 僕の出身はその文化が盛んで、僕も暇だったころは色んな作品を見ていたよ。

 最近は研究開発に拘り過ぎて観ようという気も起きなかったけど、今度時間を作って何か面白い作品を探してみるかな」

 

 何せハジメにとっては、今いる世界が物語の世界みたいなものなのだ。

 そんな世界の技術に触れられて充実した日々を送っているが、研究ばかりで大元のアニメなどの鑑賞をしなくなっていた。

 研究が楽しい事に変わりはないが、最近余裕が無いのではないかともハジメは思っていた。

 

「ッと、話がそれそうだ。 そのアニメなんだけどアリシア達に一つ見てほしい作品がある」

 

 ハジメはポケットからアニメ映像のディスクの入ったケースを取り出す。

 ケースにはアニメの画像がプリントされた表紙とタイトルが表示されている。

 

「これがアニメですか? 可愛い絵ですね。

 えっと【魔法少女リリカルなのは】ってタイトルですか?」

 

 アリシアが読み上げた作品は、この世界のモデルとなったリリなの第一期の映像が入った物だった。

 ただしハジメの生まれたドラえもん世界でもリリなののアニメは存在しておらず、前世で見た映像の記憶をひみつ道具で取り出して編集して作り上げた物だ。

 話の要点は全て収まっているので、見る分にはオリジナルと大差ない。

 

「……このイラストの少女の持っている杖、どこかで見た気がするわね。

 いえ、この少女にも見覚えが…」

 

「ジュエルシードをフェイトと取り合っていた女の子ですよ」

 

「……言われてみれば確かにあの子供と同じ特徴だわ」

 

 アニメと現実は違う。 同じ特徴を持っていてもアニメのイラストと現実の人間では明らかに印象が違うので、パッと見ても気づかない事は不思議ではない。

 当時正気には程遠かったプレシアになのはの事など眼中になかったので、印象がほとんどなかったというのも気づかなかった理由だが。

 

「それで、あの子供の絵に一体何の意味があるのというの」

 

「僕はこの物語を目印にこの世界に来たんです」

 

 ハジメは自らが作りだしたパラレルマシンの概要について、アリシア・プレシア・夜天に簡単に説明する。

 そして目標とする世界の条件に、高町なのはの物語が描かれた作品の世界を指定し、その世界の技術を収集する為にハジメはやってきたのだと。

 なのはの活躍が描かれた作品の中に書かれていた事柄に限定すれば、未来予知に近い形でこの世界の事を知っている事になる。

 時間系ひみつ道具でその手の事は元々容易だが…

 

「じゃあまさか、この世界が物語の中の世界だというの! 出来の悪い冗談は言わないで頂戴!」

 

 プレシアにとって自身の人生は波乱の連続だった。

 手に入れた幸せもアリシアを失うと同時に一気に色あせ、取り戻そうとうまくいかず病魔に見舞われながら苦しみながら生き抜いてきた。

 今でこそアリシアを取り戻せているが、それが一つの物語に過ぎなかったのなど馬鹿にされてるとしか思えなかった。

 

「それはちがう。 プレシアさん達の世界は確かに一つの世界として確立していて、物語という不変に定められた話の流れに固定されているわけじゃない。

 パラレルマシンは物語の流れとほぼ同じ歴史を辿る世界に行くだけであって、物語その物の世界に行く訳じゃないから歴史の流れは未確定だ。

 外の世界から来た僕という不確定要素が関われば、世界の未来は簡単に変化する」

 

「……それでも私の人生の一部が物語になってるなんて、いい気分じゃないわ。

 一体どうしてこの世界の出来事が、貴方の世界で物語になったというの?」

 

「それは僕にも答えようが無い。 もしかしたら物語が生まれたからそれがベースとなってアリシア達の平行世界が生まれたのかもしれないし、その世界の出来事が何らかの形で伝わって僕の世界の物語になったのかもしれない。

 パラレルマシンは理論上、人が想像し得るあらゆる可能性の世界に行く事は出来るが、世界がどのように生まれたのかなんて調べる事は流石に無理だからね」

 

 時間移動で宇宙の始まりであるビックバンを見に行くことは可能かもしれないが、あらゆる世界の誕生を調べるなど、時間を超えるだけでは不可能な領域だ。

 時間という概念も言ってしまえば世界の中にあるのだから。

 

「この中に描かれている物語は、この世界で起こる可能性の高い出来事が描かれていると思ってくれていい。

 ただしこの中に描かれている未来の事は現実では簡単に覆る事だから、今後の参考適度に考えてくれ。

 とりあえず、一度見てからにしよう」

 

 ハジメはケースからディスクを取り出し、再生装置にセットしてモニターに映像を再生させた。

 高町なのはの日常から始まり、魔法に出会ってデバイスを貰いジュエルシードの暴走体を封印していく。

 

「ジュエルシードという事はついこの間の事ね。 この様子だとあの子、デバイスを手にしてそんなに時間が経っていなかったの?」

 

「一か月も経っていないんじゃないですか?」

 

「末恐ろしい話だわ」

 

 フェイトとの最後の決戦を見ていたプレシアも、なのはのスターライトブレイカーが凄まじい物だと解っていたからその才能に慄く。

 

「バリアジャケットを着る感じってあんな風なんだ」

 

「アリシア違うわ。 あれはただの演出で実際のバリアジャケットの着用は一瞬で終わるものよ」

 

 アニメのきらびやかな変身シーンを見て思ったアリシアの感想を、プレシアが訂正する。

 

「そうなのママ? てっきりママもあんな風にバリアジャケットを着るのかと思った」

 

「ブブゥッ!」

 

 アリシアの言った事を一瞬想像してしまい、ハジメが反射的に噴き出す。

 

「……あなた、何か言いたいの?」

 

「い、いえ、何も…。 すみません」

 

 プレシアは無言のプレッシャーを放ち、ハジメはただ口を押さえて謝った。

 10年後のSTSでもかなり際どいというのに、現在のプレシアではアウトどころかゲームセットだとハジメは思った。

 魔法少女には年齢制限があるのだ。 

 

 プレシアは複雑な気分ながらもプレッシャーを収めて、アニメの続きを鑑賞する。

 画面の中のなのはが使い始めたばかりの魔法で、ジュエルシードを少しずつ集めていく。

 失敗も経験しながらも物語は進み、ついにジュエルシードを前にフェイトと初めて対峙した。

 

「あ、これフェイトだよね。 ちゃんとバルディッシュも持ってる」

 

「これがなのはと出会った初めての時だね。 実際の時の様子も確認してたけど、大体このアニメと同じような出会い方だったよ」

 

「そっかー」

 

 一度目の対峙はあっという間に終わり、フェイトがジュエルシードを持ち去っていった。

 二度目の登場はアルフと一緒になのはとの戦いになり、フェイトはジュエルシードの数を増やす。

 

「詰めが甘いわね。 最初の時点であの子がジュエルシードをいくつも持ってるんだから、さっさと手に入れればいいのに」

 

「ママ!」

 

「はいっ!?」

 

 ついつい攻めるような言葉を漏らしてしまったプレシアが、アリシアにまた叱られる。

 話は更に進み、フェイトが時の庭園へ一時期帰還に伴い、プレシアが登場する。

 

「お話の中のママ、すっごく感じ悪い」

 

「そ、そうね、失礼しちゃうわ(この後って確か………まさか映ってないわよね)」

 

 明らかに悪役然としたアニメキャラのプレシアにアリシアが酷評をするが、実際のこの後の事を思い出したプレシアは嫌な予感を感じ始める。

 すなわちプレシアのフェイトへの虐待シーンである。

 

「ママサイテー!!」

 

「待ってアリシア、これはお話の中の事よ! 実際はもう少しマイルドだったと思うわ!」

 

「そんなことない! 死んでた時の記憶でフェイトがどこかへ行って帰ってきた時に酷い事したの、私覚えてる!」

 

「これも見られてたの!? もう止めて! これ以上私の事を映すのやめなさい!」

 

「止めないでハジメさん! 最後までママに見せて反省させるんだから!」

 

 プレシアがギブアップとばかりに、これ以上自分に都合の悪いシーンを見られたくないので止める様に願い、アリシアは逆に許さないとばかりに最後まで見るという。

 

「プレシアさん諦めてください。 実際に過去の事をアリシアに全部見られているなら意味ないですよ」

 

「そんな…このままじゃアリシアの評価がまた下がってしまう」

 

「フェイトに謝らない内はずっと最底辺だよママ」

 

「ああぁ……」

 

 アリシアは睨みつけながら母親の酷評を出し、再び崩れ落ちるプレシア。

 バードピアに来てからもプレシアと仲良く暮らしているが、フェイトの事はいまだに一切許していなかった。

 大好きである事に変わりはないが、それとは別に母親としての娘の評価は最底辺を維持していた。

 こうやって何度もプレシアを凹ませて怒りを発散し、それ以外の時はちゃんと仲良く一緒に暮らせるようにバランスを取られている。

 

 それからもフェイトに対するプレシアの酷い扱いが目立ち、アリシアの本来優しい目は見る見る吊り上がっていき、反比例して隣に座るプレシアの姿は肩身が狭くなるのがはっきり解る程に小さく見えていった。

 管理局が登場し全てのジュエルシードが両陣営の手に渡った後に、フェイトの扱いに我慢の限界を迎えたアルフがプレシアに牙を剥くが返り討ちにあう。

 

「鬼婆か…。 私もママの事そう呼ぼうかな」

 

「やめて! アリシアにそんな風に呼ばれたら死んじゃう!」

 

 自分のやってきたこととはいえアニメによって再確認させられ、アリシアの怒りが再燃する事によってプレシアの精神ダメージは深刻だった。

 なのはとフェイトのジュエルシードを掛けた最後の戦いが始まり、なのはの大技で決着が着く。

 

「フェイト、すっごい魔法に負けちゃったみたいだけど大丈夫だったのかな」

 

「魔法を使い始めて一か月も経ってない魔導師が使う魔法とは到底思えないわ。 だけどあの子たちが使う魔法は非殺傷設定だから心配ないわ」

 

「………」

 

「ア、アリシア…」

 

「大丈夫だよ。 物語はちゃんと続いているし、なのはがちゃんとフェイトを助けてるから」

 

「あ、ホントだ」

 

「お願い、無視しないでアリシア!」

 

 切実に嘆願するプレシアだが、画面の中のプレシアがこの後すぐにやらかしたので黙らざるを得なくなる。

 物語は核心に迫り、話の中のカプセルで眠るアリシアの登場にプレシアの真の目的の暴露。

 そしてプレシアが最もフェイトを傷つけたセリフが発せられる。

 

『――私はあなたが大嫌いだったのよ』

 

「……………」

 

「(ブルブルブル)」

 

 画面の中のセリフにアリシアはとても子供とは思えない眼でプレシアを睨みつけ、プレシアは直視も出来ず土下座の体勢で震えるしかなかった。

 あまりの形相にハジメと夜天も自身に向けられていないのだとしても、慄いて少しばかり距離を取った。

 アリシアは何も言わずプレシアを睨み続けるだけで時間は過ぎるが、その間もアニメは流れ続けて物語は進む。

 

 画面の中のフェイトは傷心から立ち上がり、母のいるときの庭園に舞い戻る。

 たとえどんなに嫌われていたとしても自分の気持ちに嘘はないと、プレシアに伝えるために。

 

『――あなたが私の母さんだから』

 

「ううぅ、フェイトホントにいい子だよ~」

 

「(ほっ)」

 

 フェイトの頑張りを見て涙し、アリシアの機嫌は反転すると、怒気を向けられていたプレシアと様子を見守っていた二人も安堵する。

 それもつかの間…

 

『…くだらないわ』

 

「あ”!?」

 

「ぴぃ!」バッ

 

 画面の中のフェイトの頑張りを切り捨てるプレシアのセリフに、アリシアの機嫌は再び反転して恐ろしい声を出し、安堵して顔を上げかけていたプレシアは再び土下座の体勢で顔を隠すのだった。

 

 その直後、庭園の崩壊でプレシアはアリシアの入ったカプセルと共に虚数空間に落ちフェイトとの別れとなった。

 

「……この後、ハジメさん達が助けてくれたんだよね」

 

「え!? あ、ああ、そうだね」

 

 不機嫌なのに変わりないが、冷静にアニメと実際の状況を繋げて考えていたアリシアに、ハジメは苛立っていたアリシアの変化に戸惑いながらも答える。

 アリシアもやらかしたプレシア以外に八つ当たりするほど冷静さを失ってはいない。

 一応死んでいた時の記憶として事前に体験しているから、頭のどこかに冷静な所があるのだ。

 

 ここから先はアリシアもハジメに助けられた後の事なので、フェイトに何があったかは知らない。

 フェイトは管理局の船に捕らえられ、彼女の事を心配するなのはの視点で語られている。

 そして最後になのはとフェイトの別れのシーンが語られる。

 

「うわぁ~ん! フェイトなのはと仲良くなれてよかったよ~!!」

 

「………」

 

 大泣きでハンカチで目元を抑えながら感動しているアリシアに、プレシアは非常に居心地悪そうにしている。

 何せアニメに描かれていたのは自分のやらかした事ばかりであり、終始悪い所ばっかしなのだ。

 逆にフェイトが悲劇的に描かれていて自身が完全に悪者扱いされているが、全部心当たりがある事ばかりなので何も言えない。

 

「まあ、実際の状況を確認した訳じゃないけど、大よそフェイトの管理局での扱いは悪い事になっていない筈だ」

 

「全部ママが悪いって事になってるもんね」

 

「うぅ…」

 

 もはやディスる事に遠慮が無いアリシアにプレシアも唸る事しか出来ない。

 

「ふん!」

 

「アリシア~…」

 

 アニメをすべて見て怒りが再燃したアリシアは怒っていますという意思を示すように鼻息を鳴らしてプレシアから顔をそむける。

 プレシアはその様子に名を呼ぶ事しか出来ない。

 

「だけどフェイト、管理局に連れて行かれた後どうなるんだろ。

 なのはと仲良くなれたのはよかったと思うけど、結局離れ離れになったんでしょ」

 

「それは続編の【魔法少女リリカルなのはA′s】に、フェイトとの再会と新たな戦いの物語が描かれているよ」

 

 そう言ってハジメは新たなケースを取り出す。

 

「えっ、続編があるの!?」

 

「まだ夜天が出てきていないからね。 こっちの話が夜天に関わる闇の書の事件を焦点に置いた物語だよ」

 

「私に関わるお話ですか?」

 

 夜天は闇の書であった時の暴走にまつわる、多くの事件の事を覚えている。

 ハジメに修復されていないのであれば、再び何らかの事件を起こすのだとしても不思議ではなく、その出来事が描かれているのだろうと思った。

 

「夜天の事がメインだけど、フェイトも出てるから最初の物語の後の事も描かれてる。

 さっきのと同じくらいの話の長さになるけど見るかい?」

 

「見ます。 フェイトがこの後どうなるか知りたいから」

 

「私も興味あります。 本来私はどのような運命を辿っていたのか」

 

「もうどうでもいいわ…」

 

「ママ」

 

「!?」

 

 アリシアはフェイトの事が気になり、夜天は自身がどうなる筈だったのか興味を持った。

 プレシアは先ほど散々な目に遭ったが、物語の中では既に死んだ事になってるも同然なのでこれ以上の失態を晒す事はないだろうと投げ槍に答えたが、直後のアリシアに睨まれて硬直する。

 

 ハジメは彼女達の望みに応えてA′sの物語を再生させる。

 物語はなのはが突然襲撃を受けたところから始まった。

 

「紅の鉄騎か」

 

「この赤い子の事、夜天さん?」

 

「夜天の書の主を守る、守護騎士ヴォルケンリッターの一人だ」

 

 紅の鉄騎ヴィータの登場に、夜天は自分達について簡単にアリシアに説明する。

 彼女達も自分も、書の主に従う魔法プログラムという存在だと。

 

 襲撃の際に助けに現れたフェイトが登場し、負傷しながらも退けたなのは達は相手の正体を知っていく。

 同時に相手側である闇の書陣営と、その主である八神はやてとの暮らしも描かれる。

 闇の書という力を行使することを望まない八神はやてに、家族として受け入れられた守護騎士たちは、一時の平和な日々を過ごした。

 そこに確かな幸福を見出していた守護騎士達だったが、闇の書の因果から望まずとも主の為に蒐集を開始せざるを得ない理由が描かれる。

 

「守護騎士達は良き主に巡り合うのですね。 ですがやはり闇の書の呪いには逃れられなかった」

 

「正直夜天には悪い事をしたと思ってる。 本来の主がいたのにこっちの都合で半身を連れ去ってきたんだから。

 時期が来れば彼女の元に戻れるようにするつもりだが…」

 

「我が主。 確かにここに描かれているあの少女は良き主になってくれるのかもしれません。

 ですが私が目覚めた時にいたのは間違いなくあなたです。

 この身の呪縛を解き放ってくれた貴方を、今更見限ろうとは思いません」

 

「ほんとに律儀だね」

 

 ハジメは夜天の半身を連れ去ってきたことに少なからず罪悪感を持っていた。

 原作なりの幸せな運命が待っていたというのに、それを自分の都合で奪ってしまった事を気にしていた。

 最後の消滅の事実を無かった事にしたと言っても、やはり気になるものは気になるのだ。

 

 守護騎士たちは魔力を収集する為に各世界を飛び回り、なのはとフェイトは管理局と共にそれを追った。

 守護騎士の一人シグナムを見つけたフェイトは交戦状態に陥り、突然の横やりにフェイトはやられて魔力を奪われる。

 

「フェイトがやられた!? この人も夜天さんの仲間なの?」

 

「いや、このような者は私の中にはいない」

 

「物語はまだ中盤だからね。 正体はいずれ解るよ」

 

 横やりを入れた仮面をつけた存在に何者かとアリシアが夜天に聞くが、この段階ではまだ明かされない。

 ハジメもネタばれはする気はないと、答えは言わなかった。

 

 物語は更に進み、話の中でクリスマスを間近に控えた時期に八神はやてが闇の書の主であるとなのはとフェイトに知られてしまう。

 はやての秘密を守るために守護騎士達はなのは達と戦闘に入るが、再び横やりに現れた仮面の男の存在に双方が戦闘不能状態に陥らされる。

 彼らの罠によって守護騎士達が闇の書に取り込まれることで完成し、はやての精神を追い込む事で意図的に暴走を引き起こされる事になる。

 直後に彼らの正体も明らかになるが、ここから先はあまり意味のない存在なので省く事にする。

 

「この人達酷い。 はやてさんに酷い事言う上に、フェイトの姿で言うんだもん」

 

「そうだな…。 だが元はと言えば私のせいでもある。

 私の過去の所業が彼らのような存在を生み出してしまったのだから」

 

「夜天さんは悪くないよ。 この中の夜天さんだって自分の意思で暴れてるわけじゃないんでしょ。

 お話でも言ってたけど、夜天さんを壊しちゃった昔の人達が悪いんだよ」

 

 闇の書にまつわる話は既に大体出きっているので、アリシアも夜天の事情については大体わかっている。

 少なくとも夜天自身が世間で言われるほど悪い存在でない事は解っていた。

 

 戦線復帰したなのは達は、物語の中の闇の書に矛先を向けられ戦闘を開始する。

 その戦いの中でフェイトは闇の書の魔法に捕まり、夢の世界に取り込まれる。

 そこはフェイトが望んでいた家族が全員無事に幸せに過ごせる世界だった。

 

「フェイト、ホントにホントにいい子だよ~。 ママやリニスだけじゃなくて話したことも無いのに私も一緒ににいてほしいと思ってくれるなんて。

 ………ママ、何か言うことない?」

 

「………」(プイッ)

 

 フェイトの見る夢にアリシアは、心の底から感動して嬉しそうにしている。

 その直後に母親に問い掛けた言葉には、直前の熱を一切感じさせない冷ややかな物だったが。

 プレシアもその夢とアリシアの冷たい言葉に、居心地が悪く目を逸らすしかなかった。

 

 だが夢の中でもフェイトは闇の書の中から抜け出すために戦い、同時に取り込まれていたはやても夢から目覚めて暴走に抗う事を決意する。

 外で戦い続けていたなのはの協力で、暴走の原因となっている防衛プログラムの分離に成功し、フェイトもはやても解放され守護騎士達も夜天の書も自由を取り戻す。

 残された問題は分離されてなお暴走し続けている防衛プログラムのみだが、自由になった彼女達の一斉攻撃によりボッコボコにされて終わる。

 

「あの防衛プログラムって強そうだったけど、フェイト達の攻撃がやり過ぎに見えるよ」

 

「主の願いで奇跡的に暴走を脱するのは喜ばしいが、あれでは防衛プログラムが少々哀れだ」

 

 何事も客観的に見れるという事は重要である。

 まあ所詮アニメ映像の中の話なので、実際に直面すればそんな余裕はないのだろうが。

 

 暴走の原因の破壊をもって事件は解決に導かれるが、残された者達にとっては終わりではなかった。

 物語の中の夜天の書リインフォースは自身の自己修復機能が生きており、遠くない未来に防衛プログラムが修復されて、再び暴走の危険がある事を告げる。

 防衛プログラムの機能していない内に自身を破壊することをなのは達に求めるのだった。

 なのは達はそれを望まないが他に手段はなく、事件に関わった者達に見守られながらリインフォースは消えていった。

 

「夜天さん、最後に消えちゃうの!?」

 

「私は主のお陰でその様な事はないが、この中の私はそうせざるを得なかったのだろう。

 物語の中で私が、良き主によって一時でも自由を得られたのが奇跡なのだからな。

 不自由なく生きられる私が言うのもなんだが、この消えゆく私は確かに世界一幸福な魔導書なのだと思う」

 

 アリシアは消えてしまうリインフォースに悲しむが、途中まで同じ道を歩んでいた夜天はこの時のリインフォースの気持ちを共感していた。

 元々同一人物なのだから当然なのだが、良き主に巡り合え終わり無き暴走から解放されて消えることが出来るのは、当時から考えれば望ましい幸運だった。

 ハジメという規格外によって降って湧いた奇跡は例外としても、物語の中の奇跡は確かに尊い物だった。

 

 

 

 

 

 アニメを見終わって元々の問題にハジメは話を戻した。

 アリシアがフェイトにどのようにして会うかであり、会った後どうするかだ。

 

「見てもらったのはあくまでフェイトが辿る可能性の未来だけど、僕は彼女がそれなりの幸福を手にしたと思う」

 

「うん、フェイトは私たち皆と過ごす事を夢見てくれたけど、このお話のフェイトも幸せだったと私も思う」

 

「フェイトの夢とこの未来のどちらが幸せかなんて解らないけど、夢とこの未来を両立するのは非常に難しい。

 アリシアもプレシアさんも公に出られる立場じゃないからね」

 

 アリシアも現状を理解しており、ハジメの言葉に頷く。

 プレシアの罪にしろアリシアの蘇生の事情にしろ、管理局としては放っておく事の出来ない存在だ。

 フェイトがアニメのように管理局に身を置きながら、アリシア達と家族として過ごすのは非常に難しい。

 

「それを踏まえた上で、フェイトに会ってから皆が少しでも幸せになれるように話し合ってほしい。

 フェイトの幸せを望むなら、彼女抜きで決めちゃいけないからね」

 

「えっ? フェイトに会わない方が良いって事じゃないの?」

 

「直接会いに行くのは不味いけど、僕が用意した方法なら管理局に気づかれずに話が出来るよ」

 

 アリシアはアニメを見てフェイトに会うのは迷惑になると思っていたが、ハジメの提案に目を丸くする。

 

「勘違いさせてしまったかもしれないけど、アリシアが何もしなくてもフェイトは十分幸せになれると知っておいてほしかったんだ。

 アリシアがフェイトの為に無理に何かしようとしなくてもいいってね。

 だけどさっきのはあくまで可能性の未来で、今の時点では何も変わっていないし決まってもいない。

 フェイトの未来を決めるのはフェイト自身で、アリシアはフェイトが少しでも幸せになれる様に手伝えばいいだけ。

 その為に未来の一つを知っていれば参考になるだろう」

 

 原作キャラに原作を見せて原作知識を使わせる事になるが、ハジメはまあいいかと思った。

 彼女達の選択によってはA'sの展開も壊れるかもしれないが、最悪ひみつ道具で全力介入すればリカバリーは効く。

 その時には原作は崩壊しているだろうが、騒動の軟着陸は出来るだろう。 

 

「それにアリシアも会いたいって気持ちに変わりはないだろう」

 

「もちろん! 死んでた時に見たフェイトしか知らなかったけど、物語を見てもっと話してみたくなった

 あんないい子が妹なんて嬉しいもん」

 

「………」

 

 アリシアはもうフェイトを妹と思う事に戸惑いはないが、それを聞いていたプレシアはやはり居心地悪そうに顔を顰めていた。

 

「それにママをフェイトに謝らせなきゃいけないしね!」

 

「やっぱりそうなるのよね…」

 

 プレシアはもう諦めたと言わんばかりに肩を落として、顰める余裕も無くす。

 当時は憔悴しきっていて正気とは言えない状態だったが、それでも聡明だったプレシアは当時の事をちゃんと覚えている。

 先ほどのアニメも事実からすればオブラートに包まれており、実際に様々な意味でやらかした自身の醜態は取り返しのつかない物だと自覚している。

 そのやらかした一番の被害者のフェイトに、彼女としては今更どう謝ればいいのだという心境だった。

 

 アリシアもプレシアの思っている事は解っているが、知った事じゃないとばかりにこの件には非情に当たり散らしている。

 きっちりとケリを着けさせると言わんばかりに遠慮が無かった。

 

「会う気満々で何よりだよ」

 

 ハジメは惨めなプレシアを見ない事にしていた。

 面倒臭い事情な上に自業自得なので、他人事とばかりに相手にしなかった。

 

「それでその方法だけど、こっちの世界からだと流石に距離があるから、ミッド次元世界の拠点にしてる時の庭園に行って、そこでフェイトと会う為の準備をしよう」

 

 リリカルなのはの世界を正式にどのような名称で呼ぶか悩んでいたが、とりあえずミッド次元世界(ミッドチルダ多次元世界)と呼ぶことにした。

 時の庭園は虚数空間に浮いたままだが、既に修復を終えてハジメの時空船の技術で改良し虚数空間でも活動環境を維持出来るようになっている。

 魔法技術が主体のミッド次元世界では全く干渉出来ない虚数空間は、ハジメにとって都合の良い隠れ場所兼拠点になった。

 

 

 

 

 

 二つの世界を繋ぐことに特化したどこでもドア型の扉”異世界ドア”を、ハジメはアリシア達を連れて潜り抜けてドアの設置してある時の庭園にやってきた。

 異次元ドアは庭園の外縁部に設置してあり、そこからは庭園に張られバリアー越しに虚数空間の風景が見えていた。

 

「聞いてはいたけど信じられないわね。 崩壊した庭園が完全に元通りになってる。

 その上バリアー越しに虚数空間が見えるなんて、本当に魔法技術を一切使っていないのね」

 

「虚数空間内で魔法プログラムである私が問題無く存在を保てているという事は、このバリアー内は本当に通常空間と同じ環境になっているのですね」

 

「ああ、とりあえず庭園全体を修復して虚数空間の影響を遮断するバリアーを展開する装置を設置して環境調節を行なっている。

 魔法技術が習熟して時間が出来たら本格的に改造して、虚数空間も自在に出入り出来る魔導技術を併用した時空船のようにするつもり」

 

「……既に対価として譲り渡したものだから言うべきじゃないんでしょうけど、私の居城を一体どうするつもりよ」

 

 かつて暮らしていた場所には違い無く思い入れも少なからずある時の庭園が、ハジメによってどんなロストロギアモドキになるのかと慄いていた。

 

「拠点としてこの世界に置いておくつもりですけど、虚数空間から出られないままにしておくのはどうかと思って。

 管理局が干渉出来ないこの空間は便利だけど、次元世界を航行出来る機能がこのままじゃもったいないですからね」

 

 魔法についてまだまだ勉強中のハジメには、多くの魔法技術が使われている時の庭園の機能を今は十分に生かせないと解っていていたので、バリアーの設置だけに留めていた。

 現状はミッド次元世界の拠点としてしか意味を持っていないので積極的ではないが、必要があれば時の庭園を完全武装させた機動要塞に改造する事もハジメには難しくなかった。

 

「時の庭園の今後はともかく、こっちの世界に来た目的を果たそう。

 奥でレーナが準備をしてくれているはずだ」

 

 ハジメは時の庭園の中に進んでいき、アリシア達もその後についていった。

 立派な建物が設置されているだけあって、時の庭園の中は結構広い。

 無論その居住区もそこそこな広さがあって、いくつもある寝室のうちの一つの扉を開けてハジメは中に入っていった。

 

 中ではレーナがメイド服を着て待っていた。

 着ている理由は只の趣味だけではなく、家事などを目的にした時の作業をするために用意された仕事着だ。

 正しい用途ではあるが、フリルが所々についており趣味もだいぶ入っている。

 

「お待ちしておりましたのですマスター、それに皆さん。

 ベッドメイクは完璧に終わっているのです」

 

「ありがとうレーネ」

 

 レーネの後ろには白いシーツがしっかりと整えられているベッドが二つ置かれていた。

 

「? なぜベッドの準備が必要なのかしら?」

 

「夢を見るのに雑魚寝をさせる訳にもいかないからね。 必要だと思ったからレーネに用意しておいてもらったんだ」

 

 プレシアの疑問に答えながら、ハジメはポケットに手を突っ込み目的のひみつ道具を取り出す。

 小さいポケットから出てきたモニターの付いた大きな装置にプレシア達は少し驚くが、ハジメの道具に今更かとすぐに平静に戻る。

 

「【気ままに夢見る機】。 専用のソフト限定ではあるけど、好きな夢を睡眠中に見られる機械だ。

 本来の機能はそれなんだけど、オプション機能として誰かの夢を覗き見るなんて機能もある。

 それをちょっと調整して、受信した夢電波から拡張したコミュニティを作成。 夢アンテナの保持者の夢と同調させて同じ夢を見させるフリードリーム世界を作れるように少し改良したんだ」

 

「えっと、つまりどういうことなの?」

 

「この装置を使えばアリシアがフェイトと一緒の夢を見られて、そこで話も出来るってこと」

 

「なるほど!」

 

 とりあえず夢でフェイトに会えることが解かり喜ぶアリシアだが、後ろでは夜天は素直に感心している一方でプレシアは科学者故の性で理論立てて考えるからか、どうしたらそんなことが出来るのかと頭を悩ませていた。

 ハジメもひみつ道具の技術はまだまだ謎だらけなので、頭を悩ませているプレシアに共感を覚えていた。

 それはさておき…

 

「流石に異世界の壁を超えて夢電波を送受信するのは難しいからバードピアからは無理だったけど、虚数空間でも同じミッド次元世界ならだいぶ送受信が楽になる」

 

 映画ドラえもんの宇宙開拓史でのび太とロップル君の夢が繋がったりしたことはあったが、あれは奇跡的な例なので参考にならない。

 

「この次元世界も世界を隔てれば隔てるほど通信伝達が難しくなるはずなんだけど」

 

「簡単に調べた結果だけど、この次元世界群の隔たりはバードピアとの隔たりと比べて紙と鉄板くらい世界の壁の厚みに差がある。

 まったく別種の世界移動だから比べる物でもないけど、僕から見ればミッド次元世界の世界移動は非常に簡単な方だよ」

 

「そう…」

 

 呆れた技術力の差にプレシアもとりあえず相槌を打つだけだった。

 

「じゃあ、まずはこの夢アンテナを付けて。 これで夢電波を送受信して特定の夢を見ることが出来る様になる」

 

 ハジメは小さな赤いボタンみたいなアンテナをアリシアとプレシアに手渡す。

 

「これはどこに付ければいいのかしら」

 

「何処でも問題ないけど、大抵額かな」

 

「付けたよー」

 

 アリシアが付けたと言うと、プレシアも黙って額にアンテナを付ける。

 付けたアンテナは目立たないように透明になって、はた目には何も付いてない様に見えた。

 

「ママのアンテナ消えちゃったよ」

 

「あらそう? アリシアのも消えているわね。 これ大丈夫なの?」

 

「目立たなくなる機能が働くだけで害はないです。 あると解って取ろうと思わないと本人でも気づかないくらいですから。

 これと同じ物を既に管理局の船にいるフェイトにもこっそり付けておきました」

 

「一応聞くけど、管理局に気づかれずにどうやって」

 

「管理局に察知されない距離まで時空船で近づいたら、時間を止めて接近して船に潜り込みフェイトの所まで行ってアンテナを付けてそのまま戻ってきただけですよ」

 

「そう、だけね…」

 

 もうそのままフェイトを連れてきた方が早いんじゃないかとプレシアは思ったが、管理局やフェイト、自分達に気遣っての方法だと解っているので何も言わなかった。

 ただもう少し自分の常識が壊れないように気遣ってほしいと思うのは我儘だろうか、とは思った。

 

「こっちだと今頃は就寝時間だから、フェイトもそろそろ寝てるはずだ。 寝ていれば夢電波を受け取れる筈だから、フェイトの夢に繋いでみるよ」

 

 夢見る機を操作してフェイトの夢を探す。 夢アンテナを付けているのはこの世界では現在3人なのですぐに見つけ出すことが出来た。

 夢見る機のモニターにだんだんフェイトの夢が映像化されていく。

 

「これは…」

 

「えっ?」

 

「……」

 

「む」

 

 ハジメ、アリシア、プレシア、夜天はそれぞれモニターに映し出された映像に反応を示す。

 それはつい先ほど見たような既視感を感じる光景だった。

 フェイトの夢として映し出された映像には花畑にフェイトがアリシアと共に座っているプレシアの膝に頭を乗せて甘えている光景で、それをアルフとリニス、そしてなのはが温かく見守っているという優しげな夢だった

 ついさっき見たアニメの中でのフェイトの夢の光景によく似ている状況だった。

 

「フェイトったら、思ったより甘えん坊なんだから。 だけどさっきのアニメのフェイトと同じで私も一緒にいる。

 なんでこんなにいい子なの~」

 

「もしかして似た様な夢ばかり見てるのか?」

 

「本当に優しい少女なのだな(チラッ」

 

「……こっち見ないで頂戴」

 

 アニメではなく実際にフェイトの夢を見て、アリシアは改めてフェイトのいじらしさに感動し、ハジメは出来すぎな展開に少々呆れる。

 優しい夢に夜天も顔をほころばせながら横にいるプレシアが気になって視線を向けると、プレシアはやはり居心地悪そうに顔を背けるだけだった。

 部外者なので余計な事を言うつもりはないが、夜天もアニメ第一期を見てプレシアの行動に思う所が無かったわけではない。

 

「まあ、フェイトの夢の内容はともかくさっさと夢を繋ぐ準備をするよ。 フェイトの夢波長を夢見る機の作るフリードリーム空間にチューニングして夢空間を固定。

 後はアリシアとプレシアさんが眠ったら、自動的にフェイトの夢に繋がるように設定して準備完了」

 

 夢という物は本来不安定な物で、何かの拍子にあっという間に消えてしまう幻そのものだ。

 それを夢見る機で夢空間と言う土台を作って安定させることで、何かの拍子に消えたりしない記憶にもしっかり残る鮮明な夢にする。

 そうすることで夢で繋がったアリシア達も落ち着いた状況でフェイトと話が出来る様にしたのだ。

 

「後は二人が眠るだけで夢の中のフェイトと会う事が出来る筈です。

 ベットも使ってもらっていいので、いつでも寝てください」

 

「ありがとうハジメさん。 私早速フェイトに会いに行く。 ママはそっちのベットで寝てね」

 

「え、ええ……」

 

 アリシアは嬉々としてベットに飛び込むように入って布団を被りプレシアにも催促を送る。

 プレシアも急かされながらベットに乗って眠る準備に入る。

 

「僕等もこれ以上家族の問題に踏み込む気はないんで、ここで席を外させてもらいます。

 夢見る機も後は自動で大丈夫ですし、朝になってフェイトが目を覚ませば夢も自然に終わります。

 朝になったら迎えに来ますので…」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「ママ、早く寝なよ」

 

 フェイトに会う心の準備がまだ出来ていないプレシアは待ってほしいと言いたくなるが、アリシアの催促されている間にハジメ達は黙殺して部屋を出ていった。

 プレシアは渋々ベットの上で毛布を被るしかなかった。

 

 

 

 

 

 フェイトは夢の中でいなくなってしまった家族と一緒に過ごせる日々を見ていた。

 使い魔のアルフもいるし管理局の人々は優しくしてくれ、今は会えなくても大切な友達が出来た。

 そんな現実が決して嫌なわけではないが、やはりフェイトは心のどこかで大事な家族と過ごせる時間を望んでいた。

 たとえ現実では叶わないとしても夢の中くらいはと、フェイトは消えてしまったプレシアとリニス、そしてあった事も無いもう一人の自分と呼べるアリシアも一緒に、大事な人たちと過ごす時をうつらうつらとしながら感じていた。

 たとえ夢でもアリシアと共に母の膝に横になれる時間は、フェイトにとって幸せな時間だった。

 

「………母さん」

 

「さっさと起きなさい、フェイト」

 

「は、はい!」

 

 夢の中で優しく声をかけてくれる母とは別に、現実のいなくなってしまったちょっと冷たい感じの母の声が聞こえて、フェイトは慌てて起き上がった。

 ひどく叱られていた時の経験から、この声で言われると反射的に身を竦めながら返事をしてしまったのだ。

 

「あ、あれ…」

 

 ボンヤリとした意識でこれは夢なのだと自覚していたが、今の冷たい感じの母の声がどこから聞こえてきたのか不思議になる。

 自分の夢の中なら怖い母は出てこない筈なのに。

 更に自分の意識が起きている時と同じ様にはっきりしていながら夢が冷めていない事を不思議に思い、同時に目の前にいた夢の家族たちがアルフを残して幻のように消えていったのは、まさしく夢だったというかのようだ。

 消える幻の中で唯一消えなかったアルフがフェイトに近寄る。

 

「フェイト!」

 

「あれ、アルフだけ消えてない? これ、私の夢だよね」

 

「アタシも寝たと思って気づいたらここにいたんだ。 プレシアやリニスもいるから夢だと思ってフェイトが幸せそうだからまあいいやと思ったんだけど、プレシアの声が聞こえたと思ったら急に意識がはっきりして他の奴ら皆消えちまった」

 

「うん、私もそんな感じ」

 

 フェイトの夢のアルフが消えなかったのは、ハジメがアルフにも夢アンテナを付けてフェイトの夢に入るように仕向けたからであり、このアルフは本人という事だ。

 二人がいた場所以外は夢であるからか霧掛かっていたが、二人の意識がはっきりしたのに合わせて周囲がはっきりしていく。

 霧が晴れるとすぐそばに先ほどまでの夢で出来た幻とは違う、存在感のはっきりしたアリシアとプレシアがいた。

 

「目は覚めたかしら? まあ夢の中で目が覚めたというのもおかしな話だけど」

 

「か、母さん?」

 

「なんだいアンタ。 夢にまで出てきて!」

 

 プレシアの喋り方にフェイトは先ほどの夢のプレシアでなく、現実にいたかつてのプレシアだと直に分かる。

 アルフもその事は直ぐに分かり、夢にまで出てくるなとフェイトを守る様に前に出て威嚇する。

 

「はぁ、相変わらずうるさいわニッ!」

 

「ママ! もうちょっと言い方ってものがあるでしょ」

 

 アルフの様子に呆れた様子を見せようとしたプレシアは突然言葉を途切らせて蹲る。

 プレシアの態度に腹を立てたアリシアが足を思いっきり踏んで黙らせたのだ。

 もはや一切の遠慮も無い。

 

「フェイト、会いたかったよ!」

 

「え、え、ええぇ!?」

 

 プレシアに行なったアリシアの行動に一瞬目を丸くしてぽかんとした隙をついて、アリシアはアルフの守りを抜けてフェイトに抱き着いた。

 フェイトは突然アリシアに抱き着かれて更に混乱状態に陥る。

 

「もっと早くお話したかったんだけど、いろいろ事情があってなかなか会いに来れなかったんだ。

 だけど私を助けてくれた人にお願いして、夢の中だけどこうやって会いに来れたよ」

 

「え、夢? あ、そっか、これ夢だよね。 アリシアも母さんもいるんだから、これ夢なんだよね」

 

 夢には違いないが夢であっても夢でない事が何となくわかるフェイトは更に混乱が深くなる。

 アルフも友好的な様子でフェイトに抱き着くアリシアにどうすればいいかわからずオロオロしている。

 プレシアも夢なのに痛い踏みつけられた足の痛みからようやく立ち直ろうとしている。

 フェイトとアリシアの初邂逅は、こうしていろいろと混沌した状況から迎える事となった。

 

 

 

 

 


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