四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

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 感想及び誤字報告ありがとうございます。
 確認してから投稿しましたが、だいぶ前に書いたものだったので、文章の感じがやっぱり違う感じですね。
 今よりもさらに未熟さを感じます


第六話 魔法少女パラレルアリシア誕生?

 

 

 

 

 

 数日前、プレシアは管理局に自首する為に、アリシアをリニスに託してバードピアを去った。

 リニスへの謝罪を含めた事情説明にアリシアへの自首の理由などを含め、また娘と離れ離れになってしまうという葛藤に時間を掛けてようやく行動に移したが、その辺りの出来事は割愛する。

 残されたアリシアも、自首の理由に理解を示して母を送り出す事を決意し、むしろ行動しようと決意したプレシアの方が別れる事を渋る様子を見せたあたりからさっさと行けと発破をかけて、当人を少し落ち込ませながら送り出したくらいだ。

 それでも娘は娘。 母親であるプレシアがいなくなったことで寂しさを感じない訳ではなかった。

 

「あれからアリシアの様子はどうですか? プレシアさんがいなくなって少し落ち込んでたけど」

 

「確かに当初は元気をなくしていましたが、既に十分持ち直しましたよ。

 やはりハジメさんが夢でプレシアに会える様に取り計らってくれたおかげです」

 

 プレシアがフェイトと会う為に使った夢見る機の夢アンテナは、アリシアと一緒に夢を見るのをやめた時に取り外されている。

 管理局に出向けば逮捕される理由から所持品などの確認に身体検査は当然されるので、幾ら肌に一体化して見分けがつかなくなるとはいえ、夢アンテナを発見される可能性は十分にある。

 そこで管理局で検査を終えた後、フェイトの時と同様に管理局に見つからない様にプレシアに夢アンテナを再設置した。

 こうしてアリシアは夢で何時でもフェイトとプレシアに会える事で、気を持ち直していた。

 

「プレシアとアリシアの為にいろいろお手間をかけてしまったようで申し訳ありません」

 

「いやいや、管理局に気づかれないようにプレシアさんにアンテナを渡してくるだけだから、大した手間じゃないですよ」

 

「普通は管理局の船に忍び込むのが手間で済む訳ないんですけど」

 

「魔法技術があっても管理局と僕等には大きな技術差がありますからね。 この程度の事なら訳ないんで、他にも何か困った事があったら言ってください、リニスさん」

 

「ありがとうございます」

 

 アリシアの事で改めてお礼を言いに来たリニスに、ハジメは何でもないかのように答える。

 それでもいろいろ自分を含めプレシアやアリシアが世話になっていると解っているので、改めてリニスはお辞儀をしながら感謝の言葉を述べた。

 自分も一時期は消滅するはずだったのに、手を下したプレシア自身に時間を超えて自分を救わせたのは間違いなくハジメだ。

 多くの恩がある事には違いない。

 

 更に現在ハジメは、使い魔であるリニスのマスターの役割をプレシアから受け渡されている。

 現在アリシアとリニスが暮らしているバードピアは、ミッド多次元世界との間に大きな隔たりとなる世界の壁がある。

 ミッド多次元世界の次元世界間であれば問題ないが、本来は時間の流れすらも別々の世界間では使い魔契約の繋がりも流石に断たれてしまう。

 そこで仕方なく助けたリニスをプレシアが一度再契約して存在を維持し、その後ハジメが詰め込みで使い魔の契約法を覚えて、契約対象を移し替える形で譲り受けた。

 

 収集した異世界の力には魔法関係の力も含まれている。

 それらによって得た異世界の魔力は、リリカルなのはの世界の適性を得る事でそのままこの世界の魔力と同じように扱われるので、資質の高いプレシアの使い魔契約を引き継げるだけの魔力的余裕がハジメにはあった。

 

 そういった訳でリニスが消えない様に契約を預かったのだが、使い魔でなくても人との契約というものはポンポン入れ替えるようなものではない。

 今は存在を維持する上で仕方がないが、リニスの契約はテスタロッサ家の誰かが受け持っているべきだとハジメは思っている。

 リリカルなのはの使い魔の作り方にはハジメも興味はあったので、集めた魔法技術の分析が済んだら使い魔契約を調べて、リニスを単体で独立させたりアリシアでも契約出来るように研究するかと考えていた。

 

 仮の主人であると言われているが、多大な恩もあってリニスはプレシアと同様にハジメを主人として認めていた。

 やる事もアリシアの世話と何も変わっていないが、この世界の支配者がハジメでありその保護下にある以上、どのような形であっても自分達がその傘下にある事に何も変わりないのだから。

 

「もう少し落ち着いたら、今後の事を考えてもいいかもしれないね」

 

「今後の事ですか?」

 

「ええ、この世界は広い割に僕等以外の人がいないのでどれだけ居てもらっても構いませんけど、いつまでも無為に時間を過ごすというのもどうかと思います。

 アリシアの将来の事を考えたら、今は良くてもいずれ学校に行く事も視野に入れないと」

 

 勉学に関してはフェイトの教育で経験のあるリニスだけでも問題ないが、学校というものは勉学だけで終わるものではない。

 他者とのコミュニケーション能力を育む場所でもあって、人がほとんどいないバードピアだけではアリシアの成長に歪みが生じるだろう。

 フェイトにも天然という形でその傾向があった。

 

「……そうですね。 いつまでもあなたにお世話になりっぱなしという訳にも行きませんし、検討してみます」

 

「ここで暮らすこと自体はいくら居てくれてもいいんですよ。 僕と部下しかいない世界ですし、お隣さんの一人や二人問題ありません。

 リニスさんも来たばかりですし、アリシアが暮らし始めてもそれほど時間が経ってませんから、もう少し落ち着いてからでいいんですよ。

 ゆっくり勉強してアリシアが何かに興味をもって将来なりたい物を見つけたら、それを目指して独り立ちに向けて学んでいく。

 それはいずれの話であって、明日明後日の話じゃないんですから」

 

「はい、確かにそれはまだ幼いアリシアには早い話ですし、あの子がもう少し大きくなってから考えます。

 それまでもうしばらくお世話になります」

 

 リニスは改めて世話になると頭を下げて礼の気持ちを示し、ハジメは気にするなといった感じで苦笑いをしてその感謝を受け取った。

 連れてきた時に既に予想出来ていたが、ハジメも流石に長い付き合いになりそうだと思った。

 

 テスタロッサ家との当分続くであろう共同生活の未来を想像していると、ハジメの私室の扉がノックされる。

 

『マスター、ちょっとよろしいですか?』

 

「エルか? 構わないよ」

 

『失礼します』

 

 礼儀正しく入ってきたエルは部屋の中にハジメの他にリニスがいるのを確認する。

 

「リニスさん、いらっしゃってたんですか?」

 

「お邪魔してます、エルさん」

 

「今リニスさんと少し話してたけど、どうかしたか?」

 

「あ、はい。 それがゲートルームからマスターのお友達という方が現れて、ドラ丸さんも知っている方だったようで、マスターを呼んできてほしいと言われたんです」

 

「ああ、なるほど。 わかった直ぐいこう」

 

 エルの言う人物が誰なのか思い当たったハジメは、椅子から立ち上がって直ぐに行動を起こす。

 同時に異世界に繋がる扉のある場所から、誰かが来たことにリニスが気になり訊ねる。

 

「少々よろしいですかハジメさん。 私達の世界と行き来出来るあの部屋からという事は、私たち以外にミッド多次元世界に知り合いでも?」

 

「いや、あちらの世界の直接的な知り合いは今のところリニスさん達だけだよ。

 あの部屋には他の異世界にも接続してある扉があって、来た人はその中の一つの扉から来たはずだ。

 まあこの世界に訪れるのは繋がっている世界の中でも一つの世界だけで、来るのも一人だけなんだけどね」

 

 今でこそハジメ達以外にアリシアとリニスがこの世界に住んでいるが、その前に関係者以外にこの世界に訪れているのは彼女一人だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、アリシア・テスタロッサです!」

 

「満月美夜子よ。 久しぶりにこの世界に来たんだけど、随分賑やかになったのね」

 

 お客が来たことでバードピアに住んでいる者全員が一堂に集まり、顔合わせをする事になる

 満月美夜子はドラえもん映画事件の関係者で、パラレルマシンの開発の為に関わった時から何の因果か関係が途切れず、今でもまだ彼女の住む魔法世界とバードピアの扉が繋がっている。

 とはいえ彼女も自身が暮らす魔法世界での生活があり、最近は少々忙しかったためにこっちに来るのは久しぶりだった。

 

「美夜子さんからしたら数カ月くらいだけど、僕的にはいろいろ進展があり過ぎてだいぶ状況も環境も変わりましたよ。

 アリシア達は以前少しだけ説明した、新しく開発する異世界転移装置を使った先の世界で知り合った人たちで、少々事情があってこの世界で暮らしています。

 あちらにいる夜天も同じ世界の出身ですが、別事情でこの世界に来て僕の仮の従者となっています?」

 

「従者? それって主従関係って意味のかしら?」

 

「ええまあ」

 

「へぇ~…」

 

 美夜子はそう呟きながら何か意味深な笑みを浮かべて納得したような顔をする。

 

「……何か?」

 

「ううん、なんでもないわ。 異世界なんだし色々な文化がある筈だから私の世界の価値観で何か言ってもしょうがないんでしょうね。

 だけどこんな綺麗な人を従者にするなんて、ハジメ君も男の子なんだなと思って!」

 

 解ってますよと言いたげな美夜子の笑顔に、ハジメは少しばかりイラッとして弁明しようと思ったが、ドラ丸を除けば全員女性及び女性型という状況はどこのラノベという環境に相違ないので、下手に誤魔化すような真似は泥沼にハマりそうな気がしたので不用意な否定はしない事にする。

 仮の従者である夜天はともかく、エル達神姫は確かにハジメの好みで存在していることに違いはないのだから。

 

「……まあ、あえて否定しませんよ。 一応男ですから綺麗な女性がいてくれる方がうれしいですからね」

 

「あれ? 否定しないんだ。 同年代の男の子だったらこういう風に言うと否定するのに」

 

「僕の見た目は美夜子さんとそう変わりませんけど外見年齢くらい容易に変えられます。 

 実年齢はいろいろややこしい事になっているので自分でもよく分からなくなっていますが、外見じゃ全く当てになりませんよ」

 

「そうなの!?」

 

 ハジメの年齢が見た目通りではないという事実に、美夜子だけで無く知らなかった従者以外の三人も少々驚く。

 自身が言ったとおり、ハジメの実年齢は転生に加えて映画事件時に動きやすい体にタイム風呂敷で調整したり、更にパラレルマシンでコピーを修行に何年も異世界に送り出して統合したりと、いろいろ弄られ過ぎて実年齢というものが全く分からなくなっている。

 精神年齢はいくつか?と聞かれればまだまだ若いとハジメは答えるだろうが、経験という名の総合年齢はコピーとの数多の統合で四桁あるいは五桁の年齢に届いていても可笑しくない。

 

「かといって老けてると言われたくないので、あまり年齢については聞かないでください。

 ちゃんと女の子に興味があるんだと言えるくらいには若いつもりなので」

 

「え、ええ、解ったわ」

 

 ハジメの道具の力なら何でもありとこの場にいる全員解っているので、これ以上聞いて仕方ないとこの話題は断ち切られる。

 

「改めて言いますが夜天はいろいろ訳アリなので、仮という形での主従関係なんです。

 本来主人となる人物が別にいるんですが、いろいろ状況が落ち着いて片が付くまではどういう結果になっても良い様に、仮という形に落ち着いているんです」

 

「よくは解らないけどいろいろ事情があるという事だけは分かったわ」

 

 夜天との正式な契約を結ぶかどうかは、アニメ第二期の闇の書事件が終わってから改めて夜天自身に決めさせるつもりだ。

 ハジメが夜天を……闇の書を分割して修復したのは、そこに収められている魔法技術の蒐集が主な目的だ。

 事件終結までには情報を引き出し終えることが出来るので、そうなれば資料としては言い方は悪いが用済みで本来の主である八神はやての元に戻そうとも考えていた。

 

 その考えも既にハジメは伝えているのだが、夜天自身はその配慮の意味はなく既に考えを固めていた。

 本来の主であったはやてではなく、闇の呪縛から解放してくれたハジメの騎士として仕えようと決めていた。

 

「我が主、配慮は嬉しいのですが私の考えは変わりません。

 中野ハジメを我が唯一の主として力(つい)えるまでお仕えすると心に決めております」

 

「相変わらず頑固だね。 まあ、一応形式としてあの件が片付くまではって決めちゃったし、その時になったら改めて決意を聞くよ。

 それまでに気持ちが変わったら気にせず遠慮なく言ってくれ」

 

「騎士の誓いに二言はありませんので」

 

 決意は変わらないと言った様子を満面に見せる夜天に、ハジメは期待が重いといった感じに溜息を吐く。

 夜天の忠誠は嬉しくない訳ではないのだが、夜天の書の知識という打算的な面で強引に連れてきたので後ろめたい気持ちがそこそこあるのだ。

 異常のない健全な状態で元鞘に納まってくれればその憂いはなくなると思っていたが、ミッド多次元世界の地球の年末には正式な従者がチームで確定しそうな気がひしひしと感じた。

 

「まあ、そんなわけで彼女は仮の従者で正式なのはドラ丸とエル達四人だけだよ」

 

「それって残りの女の子たちよね。 あの子達も別の異世界の人?」

 

「そういう訳じゃなくて………いや、でも違うとも言い切れないか。

 エル達はアリシア達とは別の世界の神姫という機体をベースに改良して、僕のサポート目的で作り出したいわゆるロボットです。

 どうして女性型ばかりなのかというのも神姫が元々そういうものだからですし、先ほども言ったようにかわいい女の子の方が好ましいと思ったからですよ」

 

「マスターったら恥ずかしいのです!」「まあボクが可愛いのは当然だよね!」「二人ともお客さんの前なんだからもうちょっと落ち着いて…」「フンッ///」

 

 ハジメの可愛い女の子という発言に、神姫組が多種多様にうれしそうな仕草をする。

 レーナは頬に手を当てイヤンイヤンと悶え、当然と言っているが非常に上機嫌になるアイナ。

 お客である美夜子を気にして落ち着かせようとしているエルとテンションを上げる二人に呆れた仕草を見せるリースも、目尻を下げており機嫌の良さを僅かに漏らしていた。

 

 神姫達にとってマスターは絶対であり、信頼関係が築かれていれば自然と好意を向けるようになる。

 体は人間サイズでも人工知能をそのまま流用している彼女達も、いろいろ普通とは違う存在ではあるが、マスターであるハジメに純粋に好意を向けていた。

 少なくとも褒められて嬉しさを隠せないくらいには感情的であり、その仕草は普通の女の子と遜色ない。

 

 そんな仕草をする彼女達がロボットだと言われて美夜子は少しばかり目を疑っていた。

 

「あの子達がロボット? とてもそうとは思えないわ」

 

「全身を人の皮膚と見紛うスキンで覆っているから、機械的な部分は完全に隠れてますからね」

 

 本来の神姫は関節部がむき出しで無機物であることが解かりやすいが、ハジメの技術にその程度の事を隠す能力が無い訳がない。

 ドラ丸のモデルとなったドラえもんのように、何処にそこまでの柔軟性があるのかといわんばかりの体表の表面処理を行なって、人間とまるで変わらないスベスベでモチモチとした肌を実現させている。

 お年頃のプレシアが知った時は、つい魔法の雷を漏電させたとかさせなかったとか。

 

「私の想像してるロボットってもっとこう、ジャキーン!とかガッシャーン!とかいった感じのメタルチック?なイメージなんだけど」

 

「そういうのも確かにありますよ」

 

 事実ハジメが映画事件の時に多用していたMSベースのロボットは正にそれだろう。

 

 しかしなぜ科学の無い魔法世界出身の美夜子が、そういった明確なロボットのイメージを持っているか?

 それは科学世界で偶像的な魔法のイメージがある様に、魔法の世界でも偶像的な科学のイメージがあるからだ。

 

 科学世界では確かにロボット技術は発達しているが、現代ではまだまだ自立歩行が出来る様な物は碌に開発されていない。

 同じように魔法世界での魔法は科学世界でイメージされているような小規模な物はともかく超常的な魔法には届いておらず、映画ののび太達が目にした魔法は殆ど生活的な物でどんな願いも叶えるような万能的な物ではなかった。

 解り易く言うと科学世界のロボットアニメのロボットは実際にはとても作れないし、同じく魔法アニメの魔法も魔法世界で再現出来る物は殆どない。

 科学世界から反転した魔法世界にもアニメ文化があり、そこでのアニメにもスーパーロボットが登場する超科学は演出され、同じように魔法世界の現代では再現出来ない物語向けの超魔法がアニメとして形になっている。

 文明的には科学世界も魔法世界もあまり変わらないからこそ、現実を超えたフィクション的な科学技術も魔法技術もお互いの世界の日本人はたいして変わらないイメージを持っているのだ。

 

 まあハジメは超魔法も超科学も手に入れる事の出来る立場にいる訳なのだが。

 

「けどドラ丸も一応ロボットだと前に言ったと思うんですが…」

 

「確かに聞いたような気がするけど、ドラ丸さんの姿って珍妙過ぎてまるでロボットってイメージじゃないわ。

 じゃあ何かって言われると、もうナニカとしか言いようが無くって…」

 

「失敬な!」

 

「まあ改めて言われると確かに」

 

「殿まで!?」

 

 珍妙と言われて遺憾の意を示すが、ハジメにまで同意されて少しばかりショックを受けるドラ丸。

 ドラえもんという作品を知っている身であれば違和感はまるでないかもしれないが、現実的に見れば珍妙としか言いようのない存在であることは間違いない。

 物語の中という場所以外でドラえもん型の存在が現代を歩き回るのは、いろいろ無理がある容姿だとはハジメも再認識している。

 今後人のいる場所での活動を考えて、ドラ丸に人型への変身機構を組み込もうかと検討していたりする。

 

「むぅ、拙者そんなに珍妙でござるか?」

 

「「「………(サッ)」」」

 

 他の人に訊ねるように視線を向けると誰もが何とも言えない表情で応える言葉が思いつかず、全員つい目を逸らしてしまいドラ丸は結構ショックを受けて落ち込むのだった。

 今更なのだが、ドラえもん型の存在をリアルで活動させるのはかなり違和感が大きかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”来よ、白銀の風、天より注ぐ矢羽となれ”………【フレースヴェルグ】」

 

「………なにこれ~」

 

 空に浮かぶ雲に向かって撃ち出されたベルカ式の砲撃魔法は、天に届くと炸裂し雲を衝撃で押し広げて円形の大穴を作り出しその威力の高さを示した。

 それを見た美夜子は自分達の使う魔法とは明らかに違う魔法に、呆然としながら間の抜けた声を漏らすのだった。

 

 ドラ丸がちょっと拗ねてしまったが自己紹介が終わった後、美夜子はやはり異世界の話をハジメに強請った。

 科学の世界も美夜子からすれば幻想の世界なのだが、ハジメの渡った世界は魔法も科学も入り混じった不可思議溢れる世界ばかりで興味を示すのは当然だった。

 とはいえ殆どの世界はハジメのコピーが力を付ける目的で行っただけで、物語の世界観は語れても実際に世界を見て回った世界はそれ程ない。

 コピーではあるが本人ではないので修業目的で行った世界を語るより、今現在関わっていてその世界出身の住人が目の前にいるミッド多次元世界の事を最初に語るのは自然だった。

 

 ミッド多次元世界は科学を持って魔法の力を行使する力の混同する世界と説明すると、魔法世界の出身でなくとも当然その世界の魔法というものを見てみたいと言い出すのも不自然ではない。

 そこでハジメは夜天に教わった魔法行使技術と魔法資料の収集の成果を見せんとばかりに、空に向かってフレースヴェルグの試し撃ちを行なったのだった。

 

「ふむ、術式制御も行使も問題無かったと思うけど、どうかな夜天」

 

「はい、私の補佐が無くとも十分な魔力制御とコントロールでした」

 

「納得のいくまでコピーと一緒に練習したからね。 流石に合格点がもらえなきゃ困るよ。

 シュベルトクロイツは返しておくよ」

 

 魔法を行使する為の補助として使わせてもらった剣十字の杖を夜天に返す。

 全くの余談だが、実はこの杖自体にはデバイスとしての機能が殆ど付いておらず、発射の為のまさしく砲台としての役割しか備えていない。

 これは主機能がユニゾンデバイスである夜天の方に存在している事が理由であり、本来はシュベルトクロイツという名前も無く、後に八神はやてが使う同じ形状の杖型デバイスの名前だ。

 とはいえ名前が無いのもあれなので、便宜上そう呼んでるだけに過ぎない。

 

 更に余談だが仮称シュベルトクロイツにデバイスとしての機能が殆ど無いと知ったハジメは、デバイス技術習熟も兼ねてしっかりとしたデバイス機能を取り付けようかと現在検討中だ。

 なぜ検討中ですぐにそうしないかと言うと、夜天がユニゾンデバイスとして『私とユニゾン(合体)するのでは駄目なのですか…?』、と悲しげに少し返答に困るセリフを呟いて臍を曲げてしまったからだ。

 

 ユニゾンデバイス本来の役目を付属品の杖に持っていかれるのは不愉快になるのは当然だが、本来の選ばれ方で主になっていないハジメは夜天のユニゾン適性がかなり低い。

 ユニゾン出来ない訳ではないのだが、性能をあまり発揮出来ず融合事故の危険性もあるので、夜天自身をハジメの主要デバイスとして活用するのは難しかった。

 夜天自身も単独でSランク魔導師としての力を持っているのでそちらの方面で活躍してもらおうとハジメは考えているが、夜天もデバイスとしての固持からハジメ専用デバイスの座を安易に明け渡す気が無いらしく、ハジメが自在に使えるデバイスは当分手に入らないだろう。

 

「(ぽか~ん)………ハッ! ちょ、ちょっと今の何!?

 見たこともないような魔法だった上、とんでもない魔力だったわよ!」

 

「そりゃあ、美夜子さんの世界の魔法とミッドの魔法は全然違いますからね。 完全に別物と考えた方が良いですよ」

 

 ハジメは美夜子や皆に解り易いように二つの世界の魔法の違いを説明する。

 

 ミッド多次元世界の魔法は知っての通りプログラムで作られた術式に沿って使うことが出来、術式の入ったデバイスと魔力さえあれば特殊な物で無ければ大抵誰でも使えるといった特徴がある。

 そして美夜子の世界の魔法は術式といった物は無く、一般の生活魔法であれば【チンカラホイ】の一言で統一され、美夜子の使う強い魔法も起こしたい事象を呪文として唱えて魔法を使えば、威力は本人の魔力に左右されるが大抵の事象は引き起こせる。

 解り易く言えばミッド世界の魔法は術式を使った数学。 美夜子の世界の魔法は呪文という言霊を鍵とした古文と例えると解り易いかもしれない。

 どちらが優れているかと聞かれると、文明の発展具合でミッド世界の方が間違いなく優れていると思うが、魔法世界の魔法にしか出来ない事も確かにあるだろう。

 

 ハジメの説明に美夜子はミッドの魔法を科学で引き起こしている魔法と納得することにした様だ。

 あながち間違ってはいないのだが魔法世界の人間なので、科学その物に理解が及んでいない事から深く解釈するのを諦めたようだ。

 

 美夜子はとりあえずは納得したようだが、逆にミッド世界出身の三人が美夜子の世界の魔法がどんなものかいまいち理解出来なかったようだ。

 ミッド世界出身の中で純粋で好奇心旺盛なアリシアが真っ先に美夜子に訊ねた。

 

「美夜子さん、美夜子さんの世界の魔法ってどんなものなの? ハジメさんの説明だけじゃどんなものか分かんなくって」

 

「私の世界の魔法と言ってもいろいろあるわ。 それでもさっきハジメさんが使ったような魔法はとても私には使えないわ。

 悪魔でもあんな威力の魔法使えるかしら…」

 

「とりあえず美夜子さんが使える物で一番威力のあるものを使ってみては?」

 

「そうね、やってみるけどあまり期待しないで頂戴ね、アリシアちゃん」

 

 美夜子はそう告げてから魔法を使う為に皆から少し距離を置き、ペンダントから魔法を補佐する杖替わりとなる剣を取り出す。

 映画の時にも悪魔と戦う為に持っていた剣だ。

 

「やるからには全力でやらせてもらうわ。 ”雷よ! 我が剣より放たりて、天を貫く轟雷となれぇ!!”」

 

 美夜子の告げた言霊が呪文となって魔法を起こし、空に向けた剣先から強烈な雷が迸り、次の瞬間には轟音とともに天に向かって放たれた。

 ミッド式の魔法のような制御された直射型の物ではなくジグザグに折れ曲がりながら突き進む自然現象の雷を形作りながら、地から天に昇っていくその様は明らかに不自然な現象は確かに魔法その物だった。

 時間にして僅か数秒の放電は収まり、全力で魔法を放った美夜子は息を切らしながら剣を下ろした。

 

「ふぅ…ふぅ…、私の全力じゃこんなものよ。 此処から雲に大穴を開ける威力の魔法なんて出来ないわ」

 

「そんなことないよ。 美夜子さんの魔法も十分凄かった」

 

「ええ、あれでも十分凄い魔法だと思いますよ。 以前の悪魔の一件より魔法が強くなったんじゃないですか?」

 

「あの時は殆どハジメさんに頼りきりだったもの。 弱いままじゃいけないと思って魔法の練習を増やしてたんだけど、ずっと凄いハジメさんの魔法を見て自信を無くしたわ」

 

 二つの世界の魔法はまるで違うものだが、魔法であるだけあって魔力を使う事に変わりはない。

 だが運用効率がまるで違い、ミッド魔法は魔力をそのままに術式に乗せて組み替えて撃ち放つために変換ロスが少なく、たいして美夜子の魔法は魔力を呪文によってまるで違う形ある現象に作り替えるのでその変換時のロスが大きい。

 何よりデバイスという演算処理装置が有ると無いとでは、効率というものに差が出て当然なのだ。

 

 美夜子の魔法はハジメの放ったフレースヴェルグに比べて明らかに威力は下だったが、アリシアとは別にミッド世界の魔法に詳しいリニスと夜天は、威力とは別にその魔法の不可思議さに眉を顰めていた。

 彼女達が魔法を使う際に現れるテンプレートの魔法陣が発生しないのは事前に聞いていたので可笑しいと思わないが、それでもあれだけの呪文詠唱でそこそこ威力のある雷を発生するプロセスが全く理解出来なかったからだ。

 ミッド式やベルカ式の魔法のように系統が違うだけと二人は考えていたのだが、魔力の流動は確認できたから魔法には違いないはずなのに、魔法法則がまるで感じられなかったそれは、彼女達の世界で言うレアスキル或いはナニカだとしか思えなかった。

 

「どう思いますか夜天さん。 魔力変換資質で電気に変えて直接魔力を放出した、とは私には思えませんでしたが…」

 

「私も多少解析魔法を使ってみていたが、まるで目的を宣言しただけで過程を飛ばして結果となる魔法を発生させたようにしか見えなかった。

 主の語りからレアスキルといった様子ではなく、彼女の世界ではあれが普通の魔法なのだろう。

 多少術式系列が違うだけかと思ったが、正しく別物の世界の魔法なのだろう」

 

 彼女達なりに美夜子の魔法を考察しようとしていたが、美夜子の世界は正しく物理法則がまるで違う。

 後日、美夜子の世界に魔法を知るために訪れた際に、これまでの常識の通じない世界に二人は目を見開き大口を開けポカンと呆ける事になる。

 

「でもあんな雷出せるの私のママや妹のフェイトみたいだよ。 二人とも電気の魔法が凄く得意だから。

 私もママ達みたいに魔法が使えたらいいんだけど、魔力資質低いから私だけ全然魔法が使えなくって…」

 

 アリシアはちょっと悲しそうに魔力資質の低さを語る。

 普段は元気なアリシアだが魔力資質の低さを気にしており、プレシア・リニス・フェイト・アルフは魔法は使えるのに自分が使えない事が少しばかりコンプレックスになっているのだ。

 ミッド多次元世界の魔力資質リンカーコアの有無は先天的な資質なので、後天的にどうにかする方法は現在のミッドの技術では確立されていない。 

 プレシア達もそんなことは気にせず彼女を愛しているからアリシアも隔意を持つ事はないのだが、一人だけ違うというのはやはり寂しい気持ちにさせるのだ。

 

「魔法が全然使えない? アリシアさん達の世界の魔法って使い手にそんなに差が現れるの?」

 

「アリシア達ミッド多次元世界の人達が魔法を使うにはリンカーコアという魔法器官が無いといけないんだ。

 ある程度遺伝もするんだけど、残念ながらアリシアには余り引き継がれなかったみたいでね」

 

「そうなの。 私の世界でも個人差が魔法が下手な人はいるけど、絶対に使えないって人はいないんだけど」

 

 何せのび太でも簡単な練習でスカート捲りしか出来ないが魔法を使える様になるくらいなのだ。

 最底辺に限りなく近いのび太でそれなら、絶対に使えないという人は美夜子の世界にいないだろう。(酷

 

「え、美夜子さんの世界の人って、誰でも魔法が使えるの!?」

 

「下手な人も確かにいるけどね」

 

「その魔法って私にも使えませんか!?」

 

 系統は違えど魔法の使える可能性に、アリシアは美夜子の世界の魔法に興味を持つ。

 

「どうなんだろう? 私の世界の人なら使えるって断言出来るけど、他所の世界の人の場合って聞かれると私にもわからないわ。

 あ、でもハジメさんは科学の世界の人間だけど、練習して使える様になってたから出来るかもしれないわ」

 

「確かに僕も美夜子さんの世界の魔法は使える様になってますけど、本来別世界の人間がまるで違う世界の魔法なんかを使えるようなるには、よほど世界同士の相性が良くないと不可能ですよ」

 

 アリシアが美夜子の世界の魔法を使えるかという問題に、ハジメは世界の違いからなる魔法の在り方の違いについて説明する。

 魔法は魔力を使って発生させると言うのは多くの世界の共通認識だが、そのプロセスは世界によって様々で、ある世界では魔法という名の現象であっても魔力に寄与しない世界だってある。

 

 この二つの世界の魔法は魔力によって使われることに変わりないが、事前に説明した通りプロセスがまるで違う。

 魔力生成機関であるリンカーコアは美夜子にはないし、アリシアでなく魔力資質が高い人間であっても美夜子と同じ要領で魔法を使おうとしても成功しない。

 世界が違えば何かしらの世界法則に違いが存在し、同じ人間に見えても実際には違う人種どころかまるで別の生き物と言えなくもない。

 世界法則に差異の少ない世界同士であれば技術の互換性は得られる可能性はあるが、この二つの世界の魔法法則はまるで違うので、どんなにお互いに真似をしたところで相手の世界の魔法を使うのは通常(・・)は不可能だ。

 

「じゃあ美夜子さんの世界の魔法でも私使えないんだ」

 

「通常ならね。 本来世界の在り方に違いのある世界同士に繋がりが出来る訳ないんだが、それを可能にしているのが僕の世界転移技術だ。

 それに組み込まれている機能の一つが、僕に美夜子さんの世界の魔法もミッド世界の魔法も使えるように体質を変化させている。

 それを使えばアリシアが美夜子さんの世界の魔法を使える様になるし、逆に美夜子さんをミッドの魔法が使える様にも出来る」

 

「ほんとっ!」

 

「それ、私も興味あるわ。 私も異世界の魔法が使える様になるのなら試してみたい」

 

 ハジメの説明にアリシアも美夜子も体を前のめりにしてやってみたいと主張した。

 

「熱い要望ある事だし、さっそく試してみようか。 ………あったあった、【パラレルエンチャンター】!!」

 

 ポケットから探り出したのはもしもボックスと同じ電話ボックス型の自作ひみつ道具。

 これにより二人は相手の世界の魔法を使える体質に変えられるわけだが、電話ボックス型の道具と言われると、原作の時代の流れを感じるなと思うのは余談だ。

 作る際に携帯電話型かスマホ型にするべきだったかもしれない。

 

「これはパラレルマシンの原型の一つであるもしもボックスの機能の一部を抽出して、それのみを単独で使える様にしたいわばダウングレード版の道具なんだ。

 もしもボックスを使った時に使用者が受ける変化させる世界の法則に適応させる機能に特化させて、世界を変化させずに使用者に目的の世界の世界法則を付与することが目的なんだ。

 そもそも人には元々の生まれた世界の法則が当たり前に受けていて、本来はその世界以外の法則を受ける事はないんだけど、このパラレルエンチャンターによって……」

 

「説明はもういいから早くやろう!」

 

「私も機械の事はさっぱりわからないから、その説明は後回しでいいかな?」

 

 ひみつ道具の詳しい説明を省かされるのは原作映画でもよくあったエピソードである。

 

 

 

 

 

「”チンカラホイ!” また成功した!」

 

 パラレンエンチャンターの効果により、美夜子の魔法世界の適性を得たアリシア。

 専門家の美夜子の教えの元魔法を試すと、あっという間に魔法を使える様になり、今はハジメの集めていた初級編の魔法資料を読みながら色んな魔法を試している。

 念力による物体浮遊から錬金術による物体形状変化で石をいろんな形に変えてみたり、遠くにある自分の小さな私物を召喚したりなど、魔法世界において一般人に使われる魔法を次々と成功させていた。

 

「流石プレシアさんの娘ってことかな。 ここまで簡単に使える様になるとはね」

 

「殿もそこそこ練習を必要としましたからな」

 

「魔力は無くても資質は十分にあったってことだろうね」

 

 映画ののび太も科学世界出身で、素質が低い事から練習しても碌に魔法が使える様にならなかった。

 まるで別物とはいえ魔法世界の出身であり大魔導師と呼ばれたプレシアの魔法資質は、全てではなかったとはいえセンスは確かに受け継がれていたのだろう。

 魔法を一通り試すと、今度は用意していた箒に跨って飛べと唱え空を飛び始めた。

 

 箒による飛行は魔法世界の移動手段の一つであり、子供でも自転車のように乗り回せる代物だ。

 アリシアは箒で嬉しそうに空を飛び回り、慣れてくると飛びながら片手間に魔法を試して遊んでいた。

 別物の魔法とは言え使える様になったことがよっぽどうれしいらしい。

 

「我が主、ちょっとお聞きしたい事が…」

 

「ん、どうした夜天」

 

「飛行魔法の資質が無くても箒を使えばだれでも空を飛べるのは素晴らしいと思います。

 ですが、なぜ空を飛ぶのに箒なんでしょうか?」

 

 ミッド世界に箒で空を飛ぶという魔女のイメージは存在しない。

 そういったイメージ地球文化に根付いているからこそ、箒で空を飛ぶというありかたが夜天は不思議だった。

 

「ん~…、とりあえずそういうものと納得しておいてくれ。

 あの世界は物理法則そのものがこっちの世界とかけ離れてるから、どういった原理で魔法が起こるのか答えを出すのは僕等の感性じゃたぶん無理だ。

 ああすれば使えると解っていれば、後は考えてもしょうがないよ」

 

「はあ、主がそうおっしゃるのであればそのように解釈しておきます。

 どのような術理か解析を試みましたが、まるでプロセスが読み取れませんでした」

 

「僕も一応科学的に解析を試みたけどさっぱりだったからね。 まさしく科学と相容れない魔法といった感じだよ」

 

 魔法世界の魔法を科学で解釈することは出来ないと、ハジメはとりあえず諦めていた。

 もしもボックスと言う科学の産物によって導かれた世界だから、ひみつ道具の技術を完全に運用出来るようになれば魔法も解析出来るかもしれないが、今のハジメではとても無理だと解っている。

 今も様々な研究は続けているので、いずれは理解出来る様になりたいとハジメは思っている。

 

「ハジメさん、私からも少し気になった事があるのですが…」

 

 アリシアの魔法を楽しむ様子を夜天たちの眺めていると、少し離れて美夜子にミッド魔法を教えて居たリニスがこちらにやってきた。

 美夜子もミッド世界の適性を与えた事でミッド魔法の資質が得られ、自分の使う魔法の使い方をアリシアに教えた対価にリニスが自分達の魔法を教える事になった。

 魔法を使用する為のデバイスは、ハジメが練習目的で作った試作ストレージデバイスであり、試し撃ちに使うだけなら問題ない性能は既に持っていた。

 美夜子もアリシアのように新しい魔法を早速試したがっていたが、リニスがアリシアの様子を気にしだしてハジメの元まで一緒に戻ってきていた。

 

「どうしました? 何か美夜子さんの方で問題ありました」

 

「いえ、デバイスも試作と言っても十分に使える作りでしたから問題ありませんし、美夜子さんも彼女の世界では優秀な魔導師だからか魔力資質も高いようで、軽く見積もってランクAAAの魔力はありそうです」

 

「系統は違えど同じ魔法を使う存在だからね。 世界適性を得る事でその資質はそのままミッド世界での魔導師の資質になってるんだよ」

 

「おそらくはそうだと思いました。 ですが気になったのは彼女ではなくアリシアの方です。

 いくらその世界適性を得たとはいえ、それだけでいきなりあんなに魔法を使える様になるのかと思いまして…」

 

 アリシアは今も簡単な魔法ばかりだが箒に乗って浮きながらも色んな魔法を試している。

 パラレルエンチャンターはあくまで世界適性を付与するだけで、高い才能を約束して与えられるわけではない。

 また知識も当然与えられるわけではないので、勉強しながら容易に魔法を成功させているのは間違いなくアリシアの才能だ。

 

「それで簡易の魔力感知魔法でアリシアの魔力を計測してみたんですが、Eランクの域を出なかったアリシアの魔力ランクがCランクまで上がっているんです。

 これはどういう事なんです?」

 

 リニスは真剣な表情でハジメに問い質す。

 ミッド世界の魔導師にとってリンカーコアの魔力ランクは先天的な物でほぼ決まっており、成長である程度伸びはするが大幅なランクアップは望めない。

 それが彼女達の常識なのだが、別世界の適性を得るだけで成長の上限一杯まで延びる事はどういうことなのかとアリシアに起こった事態なだけにリニスは明確にしなければならなかった。

 その話が聞こえたのか、アリシアも慌てたように箒から飛び降りて戻ってくる。

 

「リニス、私の魔力が増えたってホント!?」

 

「ええ、ですが急激な魔力の増加にどのような副作用があるか心配です。 それがはっきりするまで魔法の使用は一旦控えてほしいです」

 

 アリシアの世話係をする立場としてはアリシアの健康が第一だ。 魔法が使える様になって喜んでいるアリシアには悪いがそこはどうしても譲れない所だ。

 

「ええぇ~」

 

「我慢してください」

 

「むぅ……、わかった。 だけど問題が無いならいいんだよね!」

 

「まあそうですが、それは理由次第でしょう。

 どうなんでしょうか、ハジメさん」

 

 改めて向き直るリニスに、ハジメはこの事象の原因を考えていて、とりあえずではあるが当たりをつける。

 

「う~ん、検証してみないと断言は出来ないけど、多分美夜子さんの世界の人の魔法資質の下限に引っかかって押し上げられたんじゃないかと思う」

 

「魔力資質の下限ですか?」

 

「彼女の世界の人は大なり小なり魔法を使えるのが当たり前だ。 それは生活環境にも密着していて、生活する上で必要な魔力を誰もが当たり前に持っている事になる。

 その当たり前のレベルの魔力がミッド世界のCランクの魔力に匹敵するなら、世界適性を得たアリシアが当たり前のレベルの魔力を持ってないのはおかしいという事になる。

 その矛盾がアリシアを美夜子さんの世界の一般レベルの魔力、つまりミッド世界のCランクの魔力量にまで引き上げたんじゃないかと思う」

 

「………私達の世界では魔力ランクというものはそう簡単に上がるものではないんですが、貴方に私達の常識は意味をなさないんでしたね。

 アリシアの体に害はないんですよね」

 

「世界適性を得る事に副作用が無い事ははっきりしている。 ミッド世界的に魔力の急な上昇はおかしなことかもしれないが、魔法世界的に言えば持ってて当たり前の魔力があるのは不自然じゃない。

 現在の彼女はミッド世界の人であると同時に魔法世界の人でもあるから、たとえそこに矛盾があっても体質的に問題が起きないのがパラレルエンチャンターだ。

 どちらかの世界の人間として自然であるなら何も問題はないよ」

 

「なるほど、それを聞いて安心しました」

 

 アリシアの体調に問題がないと聞いて安堵するリニス。

 それを見たアリシアも魔法を使っても問題ないと安心する。

 

「じゃあ、魔法を使っても問題ないんだね!

 …ねえ、ハジメさん。 私があの機械のお陰で魔力が増えたってことは、リニスやママが使っても魔力が増えるの?」

 

「いや、他の人の場合はそういう訳にはいかない筈だ」

 

 アリシアの気づいた素朴な疑問に、ハジメはすぐさま否定する。

 

「アリシアの場合は、魔法世界において本来ある筈の最低限の魔力が無かったから自動的に底上げされただけだ。

 十分な魔力を持っている人達であれば魔力の変動は起こらないと思う。」

 

「そっかー、魔力は多い方が良いからリニスも使えば増やせると思ったんだけどな~」

 

 魔力の少なさを気にしていたアリシアはちょっと残念そうにパラレルエンチャンターを見つめる。

 

「あの機械は本来魔力を増やす装置ではないからね。 魔力の増加は副次的な作用に過ぎない。

 魔力を高めたいのであれば増やし易い世界の適性を得て、その世界の法則に沿って増やすしかない」

 

「ヘっ? そんなに簡単に増やせるの?」

 

 あっさり魔力を増やす方法を提示したハジメに、アリシアは目を丸くする。

 魔法が使いたくて魔力を増やす方法を探していた事があるアリシアは、ミッド世界の魔力の向上方法が乏しい事を知っており、簡単に魔力を増やせる方法を教えられて困惑した。

 

「実際はどの世界の魔力の向上方法も簡単にとはいかないよ。

 訓練という形で長い時間修行を重ねなければいけなかったり、実戦経験を経て魔力を高める事の出来る世界もある。

 安易な方法も無い訳ではないけど、大抵はどの世界でも禁忌の方法となるね」

 

「禁忌、と言われるのでしたら、やはり実践には危険が伴うのですか?」

 

 危険性の高い手段を危惧し、リニスは顔を顰める。

 

「一概に使用者が危険とは限らないけど、一般良識で考えて褒められた方法で無い物ばかりだね。

 流石にアリシアに実践させたいとは思わないから、教えるとしたら真っ当な手段に限らせてもらうよ」

 

「……どうしますかアリシア。 危ない方法は認められませんが、ハジメさんが大丈夫と言う方法であれば大丈夫なのでしょう」

 

「やる! ハジメさん、魔力を増やす方法を教えてください!」

 

 試すかどうかの是非に、アリシアは間髪入れず頷いて答えた。

 

「まあいいけど、僕も魔法が使える様に成る為に試した事のある方法だから心配いらないよ」

 

 ハジメも元々は魔法の使えないのが当たり前の世界の出身で、魔力を高める方法を幾つもの世界で実践している。

 その結果はドラゴンボール世界の気程ではないが莫大な魔力を保有するようになっている。

 その前歴から、魔力向上を実践して結果を出した第一人者とも言えた。

 

「実践方法は体を鍛えるような厳しい訓練とそう変わらない。

 アリシアはまだ小さいから本格的な実践はもう少し大きくなってからにして、魔法の勉強をしながら焦らずゆっくり試していこう」

 

「はい!」

 

 こうしてアリシアの魔法少女プロジェクトが始まった。

 

 

 

 

 


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