英雄伝説〜王国の軌跡〜   作:空母 赤城

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第十話 決断

リベール王国陸軍主力部隊は南部を拠点として北部主要都市占領後も逼塞したまま動かないでいた。王国の南部には現在二つの主要な部隊が存在していた。ひとつは王都近辺からロレント付近を守備する第一、二軍。司令部ははレイストン要塞。もうひとつは工業先進都市・ツァイスを防衛する第三軍である。直面する帝国軍に対して王都側が正面、ツァイス側が背後となるがどちらも陥落を許されない超重要都市であった。王都側は戦術上陥落しても被害が少ないが、戦略上では国家元首を戴く都市ということで世論、士気に密接に関係するため強固な防衛線が張られていた。ツァイスはゼムリア大陸ではいわずと知れた工業都市で導力革命発祥の地である。導力革命によりオーブメントと呼ばれる機械にクォーツと呼ばれる七耀石の破片のセピスを加工した部品を組み合わせることで、近代文明に必要なあらゆる現象を起こせるようになった。その革命の第一人者たるエプスタイン博士の弟子であるA=ラッセル博士のいるこの街は大陸有数の研究開発機関でもあった。つまりリベール王国の大部分の最新兵装がこの街で開発・研究されている。故にこの街の陥落は即リベールの滅亡に繋がり、万が一帝国軍に接収されることがあれば帝国と国力の拮抗している同盟国のカルバード共和国にも深刻なダメージを戦略上与えうるため諸外国からも注目されていた。

二つの都市を防衛する軍団のうちツァイスのほうに最高司令部は移されていた。今のところ帝国軍はシャルル率いる遊撃隊の被害からの立て直しを図っている段階であり、攻撃は無かったが陸軍軍部の消極的な姿勢が垣間見られた。帝国派はこの膠着状態を利用して保身に走り、共和国派は諸外国からの支援に期待するという世間への威勢の良さとは間逆の状態であった。反対に即刻戦端を開くべし、というグループもあった。それは海軍将校たちである。リベールは水辺の多い地形の為自前の国力に反して比較的規模のある艦隊を保有していた。しかし、北部にあった海軍の本拠地であるルーアンが敵の支配下に入ったことで南部へ司令部ごと移したのだった。いくら街を占領されたとはいえ、つい先ほどまで自国の主要都市であったところに対して艦砲射撃をするわけにもいかず陸海からの挟撃を避ける為早々と戦闘を避けて南部に逃がれていた。そのことを不満に思う将校が多く、なんとなく日々が過ぎていく現状への反発はまた不甲斐無い陸軍にも向けられていた。

 

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~エルベ離宮大会議室にて陸海軍参謀本部連絡会議~

「いったいいつまで帝国軍から逃げ回っていたら気が済むおつもりですかな、陸軍将校の皆さん」

会議の招集後全員が揃うやいなや、海軍の代表である海軍大将であり、海軍大臣であるジェームス=サーマルは強い口調で問うた。

「現在準備中とそちらの連絡官に言い続けられているが、いい加減ましな言い訳でも考えたらどうかね?それともなんだ、あれほど普段から予算を分捕っておいていざとなったら何も出来ませんと女王陛下に泣きつくつもりか!私が今回ここまで腹が立っているのはな、今回の帝国軍の侵攻が始まってから一度でも戦闘部隊を派兵してまともな戦闘も起こさないで南部にまで下がってきたことだ!まともな戦果報告は『特別遊撃隊』という少尉指揮の小部隊だけで、あとは歩哨同士の小競り合いだけではないか。残念なことに海軍は陸軍の支援と、ドックのある都市からの補給が無ければ何もできん唯の金属塊に過ぎんのだ。故に煮え切らない思いを腹にしまって予算も陸軍優先で分配してきた。だが実際はどうだ?最近では占領下で婦女暴行事件も起きているそうではないか。国民も守らぬと言うつもりなのか?答えてもらおうか」

サーマルの激しい口調での質問が途切れ、議場に一瞬の静寂が生まれる。その質問に答えるべく立ち上がったのはカシウスであった。

「……質問に答えさせていただきます。まず今回の戦争、我々だけの戦力で帝国軍とまともに張り合うのは実質不可能です。現在は南部の貴族の兵と皇帝の直轄軍の一部を動かして侵攻していますがまだ西部と北部に十分な兵力を擁しています。対して我々は全土から国軍を結集させても今の侵攻部隊と張り合うのが精一杯です。そういう現状であるためこれまで純粋な戦闘を避けてゲリラ戦に持ち込んで敵の進軍遅延を謀っていました。もしこれが無ければすでにココも敵も手中でしたでしょう。そういう意味では『特別遊撃隊』は十分な時間を稼いでくれました。帝国軍は王都-ツァイス間にて迎撃いたします。」

会議場がどよめく。それもそのはず、王都-ツァイス間ということはつまりグランセル城は帝国軍の手に渡っているということになるからである。仮にそうなったとすれば王都陥落による士気の低下はさけられず、政治家どもからの批判が噴出することが予想される。しかも万が一会戦に負ければ即滅亡という博打打ちもいいところであった。

「待ちたまえ、カシウス大佐。我々受けた説明とは違うぞ。いったいどういうつもり……」

バンッ、と議長の槌が叩かれる。

「静粛に!現在カシウス=ブライト大佐による海軍への返答中である。発言は許可していないぞエドワード中将」

「っ!……失礼しました」

第一・二軍を担当、つまり王都防衛の任を持つレイストン要塞の司令官たるエドワ-ド中将の質問を第三軍の現在は議長であるコリンズ大将がさえぎる。

「話を続けさせていただきます。今回の戦争で圧倒的な不利なのはわが国であることは周知の通りです。また今回の侵攻方面が重要拠点の少ない北方だったということもあり、諸外国からの十分な支援も取り付けられず押し込まれた状況が続いています。帝国側としてもこの戦争が長期戦になることは望んでおりません。小国への戦端を自ら切っておきながら、収束のメドがたたないなどという失態は避けたいでしょうし。つまりこの戦況を覆すには会戦において帝国軍に対して何らかの打撃を与えることが必要です。そのためには数がモノ言う野戦ではなく、山岳地帯へ引き込んでの戦いが必要であると考えます」

静かになった議場に海軍側から再び質問が出される。

「その作戦の成功確率と今後の海軍に対する考えについて教えていただきたい」

サーマルの質問はもっともであった。王都の放棄。それはつまり海軍の整備基地の喪失を意味した。南部にも海運基地はあるがそれは大規模なドック設備を持たない補給基地であり、万が一損傷艦が出ても修理することが出来ないことを意味するのだ。陸軍が海軍を放棄するというのなら海軍大臣として作戦に反対する必要があった。

「王都の放棄は一時的です。会戦が終了次第奪還の第一目標として海軍施設の奪還を約束します」

「会戦に負けた場合は?」

「そのときにはわが国の陸軍は存在しません。東方の故事によるところの背水の陣です」

「状況が厳しいのはどちらも同じだ。我が海軍はその作戦に同意しよう。施設奪還までの間は通商破壊に専念させてもらう」

海軍側の一部から反対意見が出る前に計ったように大臣として作戦を飲むことを伝えられた陸軍側はコリンズが責任者として応答し会議は終了した。

 

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連絡会議の開催される前、カシウスはモルガンから来訪の旨を伝えられていた。一応名目上はツァイスの工房視察となっていたが、他に何らかの案件があるとふんでいた。

「久しいな、カシウス。南部の様子はどうだ?」

部下を二人連れて面会にやってきたモルガンに司令室の執務室にいたカシウスは久しぶりの尊敬する上司に頬を緩めたがすぐに真面目な顔をになって答えた。

「良くはありませんね。……今回はどういった用件ですか?」

「工房で詳しく話す。防音機能のある部屋をひとつ借りてくれ。そこで話す」

 

~工房内機械工作室~

 

二人で密談をするつもりと考えていたカシウスだったが何故か新しく連れてこられた見張り二人をドアの前に立たせて側近らしき人間を中に入れていることを疑問に思い口にした。

「中将。どういうつもりですか?二人で話すのでは……?」

「何だよ、親父。俺たちがいたらなんか問題でもあるのか?」

「そうですよ。カシウス大佐。今回の会談の企画者は我々ですよ」

目深にかぶっていた帽子をとった顔は自身の良く知る顔だった。まさか息子と弟子だとは思っていなかったようで驚いている。

「シャルルにリシャールか!久しぶりだな。それにしてもシャルル!おっきくなったな!父さん嬉しいぞ」

「はいはい。早く本題入りましょー」

華麗にスルーされた父親は息子にも反抗期が来たようだと悟ったようであった。

「わしも詳しいことは知らんのでな。外の奴らに怪しまれんように早めに始めようか」

「息子よ……。……そうだな。長時間いたらさすがに感づかれるか」

「その点は心配しなくても大丈夫だ……ですよ。外の警備と見張りも含めて全員遊撃隊のメンバーに差し替えてあるので。リシャールのおかげで手間が省けた」

「そういうことですので、安心してください。それでお話しすることですが……」

そこからリシャールが地下道での話し合いについて話した。そのあとの大衆扇動から始まる徹底抗戦への地盤固めに関する作戦を話した。上官二人は黙ってそれを聞き、話し終えるのを待っていた。

「……ということです。我々二人だけで考えたものですし、この部屋に盗聴器は仕掛けられていないので外部流出の可能性は今のところありません」

目をつぶっている二人だったが先に口を開いたのはカシウスだった。

「これを考えたのはどっちだ?」

「俺が提案して、リシャールが穴を埋めた。それがどうかしたのか?」

「やっぱり、と思ってな。正直な観想を言うと、やり過ぎかつ過激だ。民衆扇動と王室、海軍を利用を利用した陸軍上層部の巻き込みで抗戦への地盤を作る。悪くはないが後処理のリスクが高すぎる」

「確かにな。だがカシウスよ。今の状況が最悪であることも確かだ。降伏したところでこの国が存続する確率は低い。中途半端な作戦で負け確定の戦いに挑むか、背水の陣による状況打破をするか。まぁ、この二択しかないほとんど選択できない時点で負け戦の匂いしかしないがな。賭けてみるしかないのじゃないか?」

「……。今ツァイス工房の地下である研究をしています。それがもし短期間で成功すれば一発逆転の手札になり、この作戦もやる価値が出てきます。ただいつになるかわからないものに待てといっていられませんし。やるしかないのか……」

「その研究は何なんだ?」

カシウスの意味深な言葉に反応するシャルル。

「それはな……」

 

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~陸軍省将官会議室~

「カシウス大佐にコリンズ大将。いったいどういうつもりですかな?我々に承諾を得ずに無謀な作戦を立てるとは!」

陸海連絡会議のあと陸軍の主要メンバーのみが集まった会議で帝国派筆頭のエドワ-ドが声を上げた。帝国と完全に決別する作戦を彼らが飲めるはずもなかった。

「別に黙っていたわけではありません。先日の事件が起きたことで私とコリンズ大将で急遽練り上げた案ですからね。同意いただけると思ったのですが……」

「ふざけるな!彼我の実力差を理解しているのか?帝国とまともにやり合えば負けるのはこちらなのですぞ!」

「では何か代案があるのですか?先日の事件で国民の反帝国のストレスが跳ね上がっていますが、陸軍に対する批判も後を絶ちません。実力で排除されたようですが先日のデモで国民に圧力をかけたのはミスですよ。我々が理性的な判断をしたとしてもそれが受け入れられないような案であったりしたら下級将校たちの離反は避けられませんよ?最悪の場合帝国と戦う前に内乱に突入します。そのことを理解したうえでの案に反対しているのですか?それに付け加えておくとこれは我々だけの案ではありません」

カシウスが一息ついて周りを見渡すと苦虫を噛んだような表情をしていた。遊撃隊によって仕組まれた帝国軍による婦女暴行。占領地での悪評。あることないことを織り交ぜ、情報部による偽装も加えることでノンフィクションの皮をかぶせた扇動は戦争によるフラストレーションの捌け口を求めていた国民の心を掴んだ。それは今も各地で起こるデモや集会といった形で現れておりエスカレートしつつあった。

「その通りだ。今回の一連の混乱の原因は帝国だけでなく陸軍にもあるのではないかな?エドワード中将殿」

「デュナン公爵!?なぜこのようなところに?」

会議室に入ってきた男の姿を見て思わず素っ頓狂な声を出す帝国派の面々。それもそのはずだった。カシウスの言うほかの支持者がデュナンである場合作戦反対の為には正当な理由が必要だったが、彼らには国民をなだめつつ、作戦を中止させる提案が出来なかった。相手が王族である以上いつものような無茶をすることも出来ず、おとなしく引き下がるしかすべはなかった。

「君たちもこの国の為に作戦に協力してもらいたい。優秀な君たちなら必ずや帝国の不法から我々を守ってくれるだろう!」

満足げな顔をしてそう語るデュナンに頷いた。もはやこの場においてエドワードになす術はなく、トップが黙った以上帝国派の面々もおとなしく会議が進むのを眺めているのが関の山だった。

 

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1192年6月

アリシア女王陛下による公式発表により戦況悪化を受けて王都をグランセルから一時的にツァイスへと移すことが公表された。これにより王都内で少々混乱が起きたが女王陛下は遷都を発表したものの実際はグランセル城から動かなかったので混乱はすぐに収束した。形式上の遷都と受けた国民であったが実際は女王個人の意志であった。

「なりません。国民の皆が砲火を恐れているというのに私一人だけ逃げるなどということが出来るでしょうか」

「しかし陸軍からはツァイスで無ければ作戦の都合上、命の保障ができないといっております。陛下!今回はお逃げくだされ。陛下が生きていらっしゃれば何とかなります」

「陸軍が心配しているのは私ではなく王都でしょう?首都が占領されれば陸軍の面子がつぶれるなどという魂胆なのでしょう?かまいませんよ、王都を移すのは同意しましょう。しかし私はここの残ります。王都ツァイスからグランセルへ出向いているということにすればいいではありませんか?」

「良くありません!どうかお考え直しください!」

……

 

というやり取りがあったが結局侍従長の説得は成功せず、結果グランセルに女王が居座ることになっていた。

「申し訳ありません。私の力では及ばず……」

「いえいえ。こちらこそ申し訳ない。このような醜態をさらしているのは我が陸軍の責任でもあります。いざとなったら力ずくで動かしますので何卒ご容赦を」

「はい。陛下の身の安全をよろしくお願いします」

コリンズも久しぶりの女王のわがままを笑いたかったが戦況がそれを許さなかった。本格的な攻勢の準備が帝国軍で始まっているとの情報が入っており、その対応に追われていたのだった。

 

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一方そのころレイストン要塞地下研究所とツァイスの工房ではカシウスの言っていた新兵装である飛行艇の試作機が製作されていた。レイストン要塞では高性能機の試作が、ツァイスでは量産機の試作がされていた。開発はもちろんアルバート=ラッセルが担当しており、開発は急ピッチで進められていた。

「ラッセル博士。機体のほうはどうですか?」

カシウスにつれられてシャルルは地下研究室にやってきた。二十四時間態勢の強固な守りで固められており、許可された人間以外は地下にすらいけない徹底ぶりであった。現在将校組で許可されているのはモルガンとカシウス、そしてシャルルだけであった。

「うむ。順調に進んでいるぞ、カシウス。そっちの子供がお前の息子か?」

「シャルル=ブライト中尉です。お会いできて光栄です。ラッセル博士」

「私は仕事で一度南部に戻らないといけませんがその間の開発報告や仕様変更などは息子に伝えてください。私が一通りレクチャーしていますので南部に戻っている間は私の代わりだと思ってください」

「そうか、そうか。南部に戻ったら娘によろしく言っといてくれ」

わかりました、といって地下室から出て行くカシウス。それを見送ったあと休憩室に移動して席に着く二人。

「さて、シャルル君といったかな?今回のこちら側の飛行艇のことは何処まで知っているんだい?」

何か飲むかい?と聞きながら自分のコーヒーを注ぐ博士。

「お気遣い無く。……そうですね、こちらのほうが少数精鋭型で高級であることや空戦タイプということは知っていますよ?スペックは知りませんが」

「なるほど。カシウスの奴は本当にざっくりとしたことしか教えていないんだな。こんな世紀の大発明を教えないなんて……。良し!では今からワシが徹底的に軍用飛行艇のすばらしさを教えてやろう!聞きたいか?」

年甲斐も無く子供のようにすごくたのしそうな顔をしてシャルルに尋ねるラッセル博士であったがエンジンの細部の話をされてもわからないので愛想笑いしながらカタログスペックを眺めていた。

(戦車以上の防弾能力と拡張性の高い武装。余裕ある設計による居住性のよさに加えて大きな倉庫も装備しているから長期作戦も適しているな。だが、なんと言ってもスピードだな。先説明された何たらエンジンを搭載しているから200から300km/hぐらいの速度が出る。通常の飛行艇の3倍近い速度だな。確かに空戦にもってこいの期待ではあると思うが……)

「……ということだ。聞いているか?」

「はい、もちろん。ところで教授、この飛行艇に関しての提案があります」

「何だね?これ以上の速度上昇は少々骨が折れるからすぐには出来んよ?」

「違います。速度は十分です。ただ空戦モデルに作っているこの機体の用途変更をしてほしいんです。空戦は帝国軍が飛行艇を投入するまで行われません。だが昨今の戦況を見るにこの新兵器を取っておくという選択肢はありえません。ようは倉庫やその他の居住区画の一部を潰して爆装を出来るようにしてもらいたい。その程度のマイナーチェンジはすぐに出来るでしょう?」

「待ちたまえ。対地攻撃用に南部で量産型を作っているのだからそちらのほうがいいのではないかね?」

「あっちの飛行艇はこの国の工業力と資源を抑えるために割合と小型化されている。しかも親父の考えている攻撃対象はおそらく帝国軍の戦車だ。つまりあの国の戦車正面の重装甲をぶち抜くためにかなり大型の兵器を搭載することのなっている。つまり爆装させれば間違いなく過載積になる。空中で動きが鈍くなれば撃墜の危険性が高くなる。それを考えるともともと余裕にあるこちらを改造して戦闘爆撃機にしたほうが価値があると思う」

「なるほどな。話はわかった。確かに空戦をするにしても倉庫は要らないな。船を作るつもりで勢いでつけてしまったわ。しかし何を爆撃するんだ?帝国側にまで爆撃しに行くのか?」

「搭載する爆弾はクラスター。速度を生かして決戦前の敵歩兵師団のど真ん中にばら撒いて先制攻撃に使う。圧倒的劣勢のこちら側としては布陣している間は一気に叩くことが出来るチャンスだ。空からの奇襲など考えもしていないだろうから一方的に押し切れる」

「クラスター?聞かない名だな。……いや、スビアボリ要塞の武器調達担当が火薬兵器を提案してみんなで出し合った案にあったかな?あぁ、スビアボリが陥落したからあの企画も無くなったのか。短い間だけだったがいい気分転換だったのに惜しかったな……。って、すまんな。いきなり回想に入ってしまったわ。というか何でお主がクラスターのことを知っておるんだ?」

ころころと表情を変える博士を見て、研究者って変わり者が多いのか?という疑問を胸にしまいつつ質問に答える。

「知ってるも何も、俺が元スビアボリの兵器担当ですよ?提案された兵器はピンからキリまで覚えています。拡散する地雷なんて国内で使い道が無いと思っていましたが、まさかこんなところで役に立つとは思いませんでしたよ。信管変えれば爆弾として応用できますよね?」

「そうか……お主がそうであったか。うむ、爆弾そのものはできるぞ。久々になんだかテンションが上がってきたわ。しかし仕様変更はカシウスに伝えなければならんな。説明するのは面倒だな……あっ!」

何か思いついたと思うとシャルルのほうを向いてにやりと笑った。

「仕様変更するぞ。カシウスの代理人?」

「許可します。おねがいしますよ、博士」

コーヒーを飲み終えた博士はそのまま作業へ戻りシャルルはその戦闘爆撃機を基にした作戦を立案する為情報部にいるリシャールの元に向かった。

 

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1192年6月下旬

着々と準備を進めていた帝国軍はついに作戦を本格化させた。南下を始めた帝国軍は開戦以来ずっと進軍の妨害をしていた特別遊撃隊の根拠地であった地方都市ロレントを占領した。本来の遊撃隊が解散した後名称を引き継がせたそれはエドワード子飼の部隊となっていた。下士官までの兵士は普通の王国兵であるが将校は帝国派のみで構成されておりエドワードと帝国軍のつなぎの役割を担っていた。つまり王国側からの手引きで占領下も同然であった。軽い戦闘が起きたもののすぐに降伏したので損害も無く王都へと進軍し激突は時間問題と思われた。

「久しいね、シャルル君」

ある晩にレイストン要塞を訪れた男がいた。第一、二軍司令のエドワードだった。

「お久しぶりです、エドワード中将。野戦軍総司令官殿自ら1将校に挨拶しにいらっしゃるとは思いませんでした。何か御用ですか?」

「謙遜しなくてもいい。君の優秀さは陸軍は愚か国民も知っているさ。……今回の会戦には優秀な参謀が必要だと思って抜擢しに来たのだよ。どうだい?私の参謀として戦ってはくれまいか?」

「ありがたい話ではありますが陸軍省からの正式な通達か直属の上官からの指示が無ければ要塞守備の任をやめるわけにはいきません。中将なら他に優秀な部下がいらっしゃるでしょうからそちらをあたってはどうですか?」

決戦を前にしての身内の敵からの誘い。今までいろいろと探りを入れたりしていたのを知っている身としてはほいほいついていくわけには行かなかった。理由も正当である以上さっさと帰れと思うシャルル。だが、相手は中々諦めてくれない。

「君ほど優秀な人を他に私は知らないよ。緊急事態である以上陸軍省の指示なしでも構わんだだろう。モルガンに関しても私のほうが先任官である以上断れないだろう。今後の出世にもつながるだろう。どうだね?」

「お言葉ですが中将、私を要塞守備の任につかしているのはコリンズ大将とデュナン公爵です。要塞司令官のモルガン中将の下に南部から出向する形で本来少尉である私がに守備隊長になっていますので。なんでも階級規定に厳しい方が将官にいらっしゃるそうで、批判をかわす為に大将ひいては王室からの勅命という形になっていて将官の命令とはいえ自由に動けませんので。力添えできなくて申し訳ありません」

一瞬厳しい顔になったエドワードであったがすぐに表情を戻して去っていった。デュナンからの口ぞえは遊撃隊の司令官たるシャルルと表彰式であったとき面識があったこともあって公爵自身がシャルルの事を気に入ったのでコリンズからの頼みを聞いてアリシア女王名義の勅命を引き出したのだった。ちなみに階級にうるさいのはエドワードのことである。シャルルがスビアボリや遊撃隊長時代に割りと好き勝手やって帝国軍をボコボコにしていたので、階級以上の権力に関してことあるごとに問題にしていたのだった。去っていったのを見届けてあと地下工房に向かった。ラッセル博士が爆撃のための機能を除いてほぼ完成したから見に来いといわれていたのだ。

最悪の事態になるおよそ70時間前の出来事であった。

 

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「コリンズ大将とカシウス大佐に伝えることがあります!緊急事態です!通してください!」

通信担当しているであろう男が焦った顔でツァイス工房の入り口につめかける。

「おい!ここは立ち入り禁止だぞ。入りたかったらパスか許可証を出せ」

レイストン要塞と同じく飛行艇の研究をしているここは立ち入り制限があった。

「そんなこと言ってる場合ではないんですよ!早くしないと!」

「どうしたんだ騒がしい」

あまりにもうるさかったんだろう、たまたまホールにいたコリンズが出てきた。

 

 

「緊急事態発生しました!野戦軍の無抵抗降伏で女王陛下が脱出できず、敵の捕虜になられた模様です!」

 

 




ちょっと更新遅くなるかも.
皆さんの良心に基づいたアドバイスをくれたらうれしいです。

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