第一話 シャルル=ブライト
七耀暦1176年11月7日リベール王国のロレントで一人の少年が生を受けた。彼の名はシャルル=ブライト。リベール王国陸軍大尉・カシウス=ブライトとレナ=ブライトとの間に出来た待望の一子であり、長男であった。
「レナに似てかわいらしい顔をしているぞ。」
「ふふ。でもあなたのようにしっかりとした眼光をしているわ。将来は大物になるわね。」
母と父の愛情を一身に受けて育つシャルルはやがてしゃべるようになり、いろいろ質問するようになった。しゃべるようになったら今度は自分の興味が言ったものは何でも聞いていき、それにレナは答えた。そんな日常のある日の寝床でシャルルは質問をした。
「ママ、遊撃士って何?」
「遊撃士って言うのはそうね…。試験に合格した人が出来る、人助けのお仕事よ。でもどうしたの急に。シャルルはまだ4歳なんだからなれないわよ?」
「うん。でもね、すごくでっかい剣を持ったおじさんが落し物探してて、おかしかったからおじさんに聞いたら、遊撃士の仕事だよって言われたんだ。」
目をきらきらさせてそのときの様子を語るシャルルの話に耳を向けながら、レナは息子の成長を純粋に喜んでいた。
「そういえば、パパは何のお仕事をしているの?いつもおんなじ服ばっかり着てるけど?」
「パパはね、軍人さんなの。みんなを悪いやつから守るために毎日夜遅くまでがんばってるのよ。」
「じゃあ、パパは剣も強いし正義の味方だね!僕も大きくなったら正義の味方になるんだ!」
子供のほほえましい夢を聞きながら、二人はいつの間にか眠っていた。
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「また会ったな、坊主。」
「あっ!遊撃士のおじさんだ!久しぶりです。今日もお仕事してるの?」
5歳になったシャルルは例の遊撃士と再会していた。シャルルは一回り大きくなり、おじさんは少し老けた様だった。
「今日もなんかすごい話があるの?」
「ああ。とびっきりのがあるぞ。」
遊撃士として長く各国を歩いて、そこで経験したことを話をするおじさん。わくわくしながらそれを聞いているシャルル。
「そんでな、でっかい火の玉が飛んできたんだがな、仲間と一緒に倒したんだよ。あれは大変だったぞ。」
「おじさん、そんなのも倒せるんだ!仲間って大切なんだね。」
「おうよ。だから友達は大事にしろよ。…まあ、もっとすごいのを一人で倒せるお前のお父さんもすごいぞ。」
これを聞いて驚いたのはシャルルだった。
「パパって強いの?ママが賢いとは言ってたけど、いっつもママに怒られてるよ?」
「あはっはっはっ!剣聖も奥さんには尻にしかれてるんだな。よく覚えて置けよ坊主。お前の父さんはこの国で一番強い剣士だ。だから、なりたいんだったら父さんに頼むのが一番手っ取り早いぞ。」
そういって荷物をまとめるおじさん。
「パパってすごいんだ…。おじさんもすごいの?」
「さあな。一応A級遊撃士だぞ。」
そう言って立ち去っていくおじさん。その後姿をシャルルは見つめていたが、思いついたようにおじさんに何か話しかけた。
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軍人とは大変な仕事である。いつ攻められるかわからず、いざ戦闘が始まると死と隣り合わせ。平時においては国民から白い目で見られ、戦争のときは政治家に無理難題を押し付けられる。ここリベールでもそれは変わらなかった。
「こんな小さい国で、おまけに国防費まで減らされたらどうしようもないぞ!」
陸軍准佐に昇進して出世ルート万歳とは行かなかった。上層部から渡されたレポートを見てカシウスは悲鳴を上げていた。ほかの仲間も沈んだ表情をしており、また呆れていた。
「買収されていないのはモルガン中将ぐらいか…。この国の上層部は腐ってるな。」
かといってどうすることも出来ずに、途方にくれて帰途につくのであった。
「あなた、お帰りなさい。」
「お父さん、お帰り。」
妻と息子が出迎えにやってくるのを見て、唯一の心の安息場に帰ってきたことを肌で感じる。
「ねえねえ、明日お仕事ある?」
「いや。明日は休みだが…。どうかしたのか?」
「明日ね、その…けんをおしえてほしいの!ダメ?」
「父さんはかまわないが、母さんはどうなんだ?」
「一昨日ぐらいに外から帰ってきてからずっとこの調子なのよ。どうしてもやりたいみたいだし、明日だけでも付き合って上げれないかしら?」
レナは困ったようにカシウスに言った。
「この子がこんなにいうのも珍しいしいっちょやって見るか…。よし、シャルル。明日朝ごはんが終わったら教えてやろう。ちゃんとできるか?」
「出来ます!軍曹殿!」
「父さんは少佐だよ。」
苦笑いしながら、明日の計画を立てるカシウスであった。
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翌朝、準備を終えた二人がレナが見守る中訓練を始めた。
「まずはじめに、父さんの使う剣術は八葉一刀流といって刀を使うが危ないから今日は木刀でしよう。」
「はーい。」
そんなこんなで素振りを始めたシャルル。それの細かいところを注意しながら型を見るカシウス。シャルルの素振りは始めはひどかったがだんだんと修正されていき、休憩を挟みらながらであるが昼ごはん前には子供にしてはきれいな振りをするようになった。
「中々筋がいいぞ、シャルル。その調子だ。だが、やはりというか体力はまだまだ足りんな。まあ、成長途中だから無理はしてはいけないぞ。」
「………はい。」
ヘロヘロになったシャルルはご飯を食べた後すぐに寝てしまった。3時のお茶をしながらレナは今日の訓練についてカシウスに聞いていた。
「親馬鹿みたいだけど、素人目に見てもシャルルは結構筋はいいんじゃないかしら?」
「ああ。あの年にしてはかなりが根性あるし、俺も驚いてるよ。でも急に剣なんて昨日聞けなかったけどなんかあったのか?」
「ちょうど剣々言い出したのはシャルルの好きなおじさん遊撃士が来たころよ。たぶん魔獣討伐の話を聞いて触発されて、それで身近なあなたに教えてくれって頼んだんじゃないかしら?」
「なるほどな。そういうことか。まあ、筋はいいが続くとは限らない。出来れば才能が開花するまで続けたいが、いやならそれでもいい。今日の晩御飯のときに聞いてみるか。」
何か新しいものを見つけた子供のようにカシウスは笑った。
「久しぶりにあなたの笑顔を見た気がするわ。仕事もいいけどストレスとかも溜めすぎない様にね?」
「ありがとう。気をつけるよ。」
そういって、カシウスは苦笑した。