英雄伝説〜王国の軌跡〜   作:空母 赤城

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第三話 出会い

七耀暦1188年 初夏

 

アリオスとの朝稽古を終えたシャルルは昼飯に加えるデザートの果物を近所の森に採りに行こうとしたところを師匠に呼び止められた。

 

「何かあったんですか、先生?」

 

アリオスも昼寝をしないで呼び出されているようであった。

 

「うむ。今日おまえたちを呼び出したのはほかでもない修行に関しての質問だ。二人とも剣の修行をしていてどれほど自分の力が上がったかわからんだろう?」

 

「ええ、まあ確かに。」

 

「二人しかいないし、師匠は強すぎて比較にならないからしょうがないけど、確かに言われて見れば強くなってるか実感はないですね。」

 

ド田舎で二人しかいない空間でひたすら打ち込んできて五年以上がたっているが、どの程度強くなったか比較対象がいないので当然ともいえる。たまにやってくる弟子に入ろうとする人たちも大した人がいないので正直なところ鍛錬そのものはマンネリ化していた。それでもアリオスもシャルルも素質が高く、意識も高いので問題は出ていなかった。

 

「まあたまには世間を見るというのも必要だ。そこで今年はリベールで開催される武道大会に出場してもらう。そこでは当然二人とも優勝を狙ってもらう。運の面もあるが、決勝戦で戦うというのが理想だな。」

 

リベールで開催される武道大会は全国的に有名で、反社会的でない集団に属していなければ誰でも参加可能かつ、腕に自身のあるに人間が集まってくるので経済効果もあり、王軍スカウトの品評会のような役割も果たしている。おまけに優勝すれば晩餐会にも出席できるという副賞もすばらしい大会である。

 

「リベールか…。行った事がないからわからないけど、どんなところなんだい?」

 

「基本田舎だけど、歴史を感じさせるし中々いいところだと思うよ?まあ、しばらく帰ってないからわかんないけど。」

 

「予選は来月にあるから、それまでにカシウスに許可をとって泊めてもらえるだろうか?」

 

「大丈夫だと思いますよ。手紙に一応書いておきます。師匠、早めに行って観光していいですか?」

 

「…。たまにはいいだろう。ゆっくり休養をとってきなさい。ただし、鍛錬はサボるでないぞ。」

 

「わかってますよ。」

 

「心得ています。」

 

「よし、話はこれだけだ。昼飯が終われば山に入るぞ。」

 

数週間後の休暇を前にして気合の入るシャルルとアリオスであった。

 

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「む…。レナ、シャルルとアリオスが泊りにくるそうだ。なんでも武道大会に参加するとか何とか。」

 

息子からの質素な手紙を受け取ったカシウスは久しぶりの帰宅をする息子の成長に期待を膨らませながら妻に用件を伝える。陸軍中佐となり順調な昇進を続けているものの相変わらず国の懐は寒く、予算削減にあえぐ国軍は健在であった。金食い虫の海軍にいたっては虫の息も同然であった。

 

「そう。なんだか久しぶりね。アリオスって言うのは前に行ってた兄弟子の子かしら?確か二歳上だったはずよね。」

 

「そうだよ。ほとんど同い年だから仲良くやっているようだ。」

 

「ママ、アリオスって誰?」

 

妹のエステルは三歳になり、生来の活発さで周りを困らせていた。元気いっぱいでやさしいところが特徴のワンパク少女になっていっていた。

 

「エステルのお兄ちゃんのお友達よ。ちゃんと挨拶できるかな?」

 

「エステル、ちゃんとできるよ!」

 

成長したエステルを見たらシャルルもびっくりするでしょうね、と思いつつ息子の帰りを待つ母であった。

 

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「ふう。やっと着いた。結構時間がかかるもんだね。」

 

「そらそうだよ。田舎だから。それにしても、あんまり変わってないな。」

 

ロレントに着いた一行はとりあえずシャルル宅に向かった。

 

「確かにきれいだけど、田舎レベルは先生のほうが上だね。」

 

「あれと比べたらだめだろ。あそこはもはや原生林だからな。いったん迷ったら出てこれそうにない。」

 

「田舎だけど田舎っぽくないのがいいよね。結構気に入ったよ、ここ。」

 

「さっきから田舎、田舎うるさいわよ。そんなに変わってないでしょうが。」

 

「おお!アリオス、こちらがロレント名物~動く噴水~だ。意味は…。」

 

「言わなくてもいい!」

 

顔を真っ赤にして口をふさごうとするアイナ。酔わないからって、調子に乗って飲みすぎてあれになったことを馬鹿にされたあだ名は恥ずべき彼女の汚点である。主にシャルルのせいだが。

 

「こんにちはアリオス=マクレインというものです。シャルルがいつもお世話になっています。」

 

「こちらこそ。シャルルが迷惑かけてませんか?」

 

「おまえら俺の保護者かなんかか?」

 

気の会った二人はすぐに仲良くなり、近くの喫茶店で昼食をとることになった。

 

「へ~。いろいろ大変なんですね。でもどうしてアリオスさんは急にリベールに来たの?修行は山篭りとかじゃないの?」

 

「それもあるけど、客観的実力を知るためにここの武術大会に参加しに来たんです。」

 

「なるほどね。シャルルも出るの?」

 

「当たり前だ。目標は俺たち二人で優勝争いだとよ。相変わらず無茶苦茶だぜ、師匠は。」

 

「否定できないね、それは。」

 

「大変そうなのね…。そういえば、エステルちゃんにもうあった?まだだったら早くあったほうがいいよ」

 

「これから家に帰るから会うだろうけど、どうしてだ?なんかるのか?」

 

「兄とは大違いで、めちゃくちゃかわいいよ。シャルルにはもったいないぐらい。」

 

「今は確か三歳だったな。そっちも気になるしそろそろ行くか。」

 

会計を済ませて(シャルル:880ミラ、アリオス:1,000ミラ、アイナ:3,500ミラ)三人はブライト邸に向かった。

 

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「ただいま。」

 

「「お邪魔します。」」

「いらっしゃい。それと、お帰りシャルル。」

三人が玄関に入るとレナが出迎えてくれた。その後ろには成長したエステルの姿があった。

 

「ただいま、エステル。」

 

「…。誰?」

 

「お兄ちゃんのシャルルですよ。この人は友達のアリオス。」

 

「シャルルお兄ちゃんとアリオスお兄ちゃん!」

 

太陽のような満面の笑みを浮かべたエステルに癒された一行は家でくつろぎながら、今後の予定を話していた。

 

「とりあえずゆっくりしたら、武道大会の予選に行ってくるよ。」

 

「いつあるの?私も見に行きたい。」

 

「予選は非公開だから見れないけど、本戦は八月の中旬にあるぞ。」

 

「そのときはうちのもうひとつの家をつかったら?グランセルでやるんでしょう?」

 

「そうだけどいいのか?」

 

「別に使ってないし大丈夫だと思うよ。それにお金が浮くからいろいろ遊べるでしょう?」

 

「じゃあ、許可が下りたらありが高く使わせてもらうか。アイナ、頼んでいいか?」

 

まかせなさい、といって家に戻るアイナ。今行かなくても大丈夫なのにと思いつつ見送る。

 

「こっちにいるのは一ヶ月ぐらいなのね。それまでゆっくりしていきなさいよ。」

 

7月20日 武道大会予選まであと一週間。

 

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「ここが王都グランセルか。きれいなところだね。」

 

グランセルは千年王国:リベールの首都であり、近代化されていながらも、昔ながらの街並みを残す歴史を感じさせる町であった。赤レンガでできた建物、ステンドグラスをふんだんに用いた教会。そしてひときわ目立つのが、白の宮殿とでも呼べそうな真っ白な王城。この景色に二人は心を打たれていた。

 

「とりあえず、予選の対戦相手の確認をしにいこうぜ。そのあと荷物を置いてみて回ろう。」

 

「そうだな。どんな人とあたるんだろう?カシウスさんは出てるの?」

 

「父さんは出てない。でもモルガンって言う強い爺さんが出てるらしい。将軍だってさ。」

 

「その人が関門か。ほかに遊撃士もたくさん出てるみたいだからがんばらないとな。」

 

会場に着くと大きな紙に対戦表が張り出されていた。決勝トーナメントに進めるのはわずかに16名だけ。倍率5倍以上の関門を突破する必要がある。

 

「俺は…Cグループみたいだな。アリオスは?」

 

「私はEグループだよ。お互い優勝目指してがんばろう。」

 

「そしたら観光に行きますか。俺たちの試合は明日の午後から見たいだな。」

 

貸してもらった家に荷物を置いてグランセル市内の観光に回る二人。いろいろなところを回りながら明日の大会予選のことを考えていた。

 

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ついにやってきた予選当日。二人のグループには特に強力なライバルとなりえる、著名人はいなかった。それでも大会での初の対人戦という事で緊張していた。

 

「先生とやるときとはまた違った怖さがあるね。」

 

「待ってる時間が一番つらいんだよな。終わったらどこかに行こうぜ。」

 

「今日はグランセルから出てみる?」

 

気を紛らわせようと試合が終わったあとのことに花を開かせる二人。

 

『Cグループの方は第二試合場に集まってください。繰り返します…』

 

「呼ばれてるから行ってくる。」

 

「がんばれよ。」

 

言葉は少ないがお互いに気合は十分入っていた。召集場所に行くと、士官らしき人と、ムキムキな人など自分を入れて6人がいた。監督者らしき人が言うには、予選もトーナメント式で、くじを引いて同じ色の人と戦ってもらうらしい。勝ったらまた同じようにくじを引き、余った人はDグループのあまりと戦うそうだ。シャルルは赤色を引き、ムキムキの人と対戦となった。

 

「あら?坊やは何歳かな?もしかしてまだ二桁にもなってないかもしれないね~。そんな子供を相手にするのはつらいから降参してくれない?」

 

「…。よくしゃべるね、おっさん。うるさいよ。」

 

「言うじゃない。泣いてママと呼んでも助けは来ないわよ。」

 

「君たちけんかをしない。さあ、所定の位置について。…これよりCグループの第二戦を始める。両者、構え。……はじめ!」

 

「いくわよ!覚悟しなさ…!」

 

「ふっ!」

 

おっさんの動く前にシャルルが先手を取った。

 

疾風

 

八葉一刀流の中でも最速を誇る剣術、弐の型。その基本技をアリオスがしていたのを見よう見まねでここまで完成させたが、威力は一流であった。肉だるまのおっさんはその速さについていくことがかなわず、一撃の峰打ちで意識を飛ばされた。

 

「勝者、シャルル=ブライト。それにしてもすごいね、君。中々の早業だよ。」

 

「それほどでも。相手が油断してたからですよ。もっと早いのもいますしね。」

 

その次のくじではD級遊撃士と対戦したが、こちらも問題なく突破した。一方アリオスも初戦に親衛隊相手に苦労したもの、何とか決勝トーナメントに上がっていた。

 

「さて、決勝トーナメントに上がったあなた方は再来週の決勝戦に出場する資格が出ました。おめでとうございます。対戦相手は当日発表なので楽しみにしていてください。」

 

司会の言葉で解散する予選突破者たち。その中の初老のおじいさんがシャルルたちの下に来た。

 

「君がカシウス=ブライトの息子、シャルル君かね?」

 

「ええ、そうですが…どちらさまでしょうか?」

 

「ワシの名はモルガン。モルガン=バーナードだ」

 

「え!リベールの将軍が僕に何か用ですか?」

 

「カシウスの息子で剣術を習っていると聞いたからな。顔の確認だよ。今回の大会試合、楽しみにさせてもらうぞ。」

 

「はい。決勝トーナメントで戦えたらいいですね。」

 

「子供に負けるほどワシは老いとらんが、まあ楽しみにしておくわ。口だけでないことを祈っておくぞ。それとそっちの君は何者だね?」

 

「同じところで学んでいるアリオス=マクレインです。」

 

「そうか。では君の戦いぶりも見させえてもらおう。二人ともがんばれよ。」

 

そういって去っていく闘将。その貫禄はさすがであり、二人の前に立ちはだかるさも城壁のようであった。

 

「世界は大きいな、アリオス。」

 

「違いない。」

 

隣町への観光のことなど忘れて帰ったらすぐに鍛錬を始めた。

 


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