武道大会当日。市内では祭りも並行して行われており、大白熱した中での開催となった。観客も一般の市民から王族関係者まであらゆる位の人が集結していた。
シャルルの周りの人ではアイナ、エステル、カーファイ、カシウス、レナが来ていた。
「まさか、シャルルたちがこんなに早く実践に入るとはな」
カシウスは感心したように言葉を漏らした。
「あら?そんなに珍しいことなの?」
不思議そうにレナは尋ねた。
「師匠は毎度免許に入る前にこの大会を使って実践をさせるんだ。俺は13歳の時にこれをさせられたから、大体一年ほど早いな。レベルの高いライバルがいてお互いに認めてるから鍛錬に精が入るんだろうな。いつ見ても楽しそうだ」
「剣聖のあなたを超えるのはまだまだといってたけど、案外早いかもしれないわね。」
「抜かれないようにがんばらないとな。まったく、子供の成長とは早いもんだな。エステルも気がつけば大きくなってるんかも知れんな。」
「そうね。でも親にしかできないこともあるから、がんばらないとね」
ひざに抱えたエステルを抱きながらレナはそういった。
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決勝トーナメントの会場となるのは王都グランセル東地区にある巨大な競技場。その大闘技場にあたる第一競技場でそれは開催される。建物は重厚な石製で、流れ弾を防止するために導力により特殊なバリアーが張られており、最新鋭の装備がなされている施設である。その中心には16名の予選通過者がいた。
『ご来場の皆様にお知らせです。本日はリベール王国最大のイベント、総合武道大会にご来場いただきまことにありがとうございます。』
会場の観客席にアナウンスがかかるといよいよか、と観衆が静まり返る。
『まずデュナン=フォン=アウスレーゼ公爵より開会の宣言がございます』
「紹介に預かりました、デュナンです。この伝統ある大会に参加する誉れある16名にエイドスの加護を。そして優勝を目指してがんばってください。」
大きなは握手がなされれる。静まるとアナウンスにより進行がなされる。
『大会に関しての注意をさせていただきます。本大会のルールはきわめて単純、相手が降参するか審判が止めにはいるかです。また、会場内でのお食事は認められていませんのでご了承ください。それではまもなく第一試合です。選手たちに拍手を!』
先ほどより大きな拍手に包まれる会場。口笛なども響きヒートアップしていく。
拍手がやむのを図ったように掲示板に対戦者の名前が掲げられる。
『第一試合。王軍国境警備隊:バゼック=フォールVS子供:シャルル=ブライト』
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「いきなりかよ。おまけになんだよ『子供』って。馬鹿にされそうだからやめてほしいんだけど」
「笑いたいけど、私もあれになるから笑えないな…」
アリオスと二人でちょっと落ち込んでいると監督者からシャルルに準備するように声がかかる。気持ちを切り替えてその監督者の後ろについていった。
『さあ、赤コーナーからも選手が出てきました。彼、バゼック=フォールは国境警備隊の大尉。一番油の乗ってる勢いのある時期です。それに対して青コーナーは12歳の少年、シャルル=ブライト。予選で対戦者を瞬殺するという見かけによらない高等な剣術を扱う少年です。』
アナウンサーが対戦者についての軽い説明をする。それをいていたシャルルはまるで動物園の見世物動物になった気分だった。緊張と憂鬱に縛られいるシャルルに監督者の声がかかる。
「両者位置について構えてください。……はじめ!」
開始の号令とともに突撃する大尉。相手の武器はレイピア。突きを主体としておりまた、さすがは軍人格闘センスも中々である。お互い刃をつぶしている武器を使っているが直撃すれば大怪我をするのは変わりない。シャルルの様子を見るように丁寧にまた軽快なステップをふむように小手、小手、胴、足と攻める。だがそれでも剣を抜かないシャルルを見かねたのか、声をかける。
「まだ剣を抜いていないがどういうつもりだ?降参するなら痛い思いをする前のほうがいいぞ。」
「忠告どうも。でもまだあたってませんよ?」
「言うな、坊主!」
そういって大きく踏み込みシャルルの腹を打とうとする。が、その剣が届くことはなかった。
・岩切・
シャルルがカーファイより本来学んでいた、八葉一刀流 壱の型《焔》の基本技で、高速抜刀と氣の組み合わせによる防御無効化攻撃である。武器や甲冑を狙えばそれを破壊することもできる派生技のベースになるものであった。
細いレイピアはその一撃に耐え切れずに折れてしまった。
「…。降参だ。子供だと思って侮っていたよ」
「こちらこそ。堅実で攻めにくかったです。参考になりました」
「どうせなら優勝目指せよ」
現役の軍人からの激励の言葉をもらって内心売れ子音を隠して、毅然とした態度をとったつもりでいた。顔は笑っていたが。
『勝者、シャルル=ブライト!』
観客席中から歓声が上がる。子供ながら強かったのが意外だったのだろう興奮はさめる様子はなかった。
控え室に戻ると笑顔のアリオスがいた。
「お疲れ様。結構落ち着いていたね。緊張しなっかたの?」
「最初はガチガチでかわすのが精一杯だっただけだよ。なんとか避けてたけど、人前で戦うの初めてだし慣れないとつらいかな?」
「そうか。つぎはモルガン将軍みたいだよ」
アリオスの言葉で競技場のほうを見ると赤コーナーより出てきた闘将の振るうハルバードがとんでもない威力で、対戦相手を一撃で戦闘不能にしていた。爆発音のした武器が叩きつけられた地面はへこみ、直撃してないのにもかかわらず相手は吹き飛ばされていた。
「恐ろしいな。実戦だったらあの人間違いなく三枚卸しにされてるぞ。」
シャルルの言葉に周りの対戦相手たちは同意せざるえないほどの惨状が目前に広がっていた。
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その後も順調に試合は進み第七試合でアリオスが呼ばれた。
対戦相手は猟兵のようだった。猟兵は軍人ではなく傭兵のようなものである。反社会的集団は禁止されているはずだが、彼はそういうのにはまだ所属していたことはないらしくおそらくここで優勝して箔をつけるつもりなのだろう。
武器は導力銃と短剣二本で距離を選らばない中々厄介そうな敵であった。アリオスは落ち着いていた。シャルルが一回戦を突破するのを見てから気持ちが穏やかになったのだ。プレッシャーはあったがいつも通りにしたら勝てるという彼からの月並みのアドバイスが今は心強かった。どれだけトリッキーな動きをしても先生に習ったとおりに避けて反撃する。そして日ごろの打ち合いで磨いた隙を突く嗅覚が役に立った。武器を変える一瞬をアリオスは逃さなかった。
・裏疾風・
アリオスが学んだ八葉一刀流 弐の型《疾風》の基本技。この前の予選でシャルルの使った疾風の発展型。純粋な高速居合い切りを前方に行う。ただそれだけで人間離れした威力とするのがこの男の力であった。
隙を疲れた猟兵は胸を打たれた衝撃で失神。アリオスの勝利となった。
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一回戦がすべて終了した時点で、昼休憩が1時間半ほど取られた。その頃カシウスはカーファンと話していた。
「あの二人も中々やりますね。十代前半だが基本的な動きはほぼ完璧にできています」
「うむ。やはりライバルというものは大きいな。成長を加速させるのには一番早い。カシウス、おまえの言うとおり今まで教えたことは完璧に使いこなせている。少々早いが免許に進んでも問題ないだろう。このあとは自分より実戦豊富な人間相手にどれだけくらい喰らいつけるかが見ものだな」
久しぶりに骨のある教え子の勢いある成長に嬉しそうなカーファン。これほどの素質を持つのはカシウス以来であった。
「師匠。シャルルのことで少し話しがあります。ウチの陸軍少将のモルガン殿がシャルルに興味を持っていまして、この大会が終わったらしばらくこちらに預けておいてもらえませんか?ただシャルルが嫌だといったらやめますが一応免許前の一区切り着くところなのでどうにかいけませんか?」
「おお。そうか。さすがのワシでも二人同時に免許皆伝するとなると骨折れるから渡りに船だ。アヤツが嫌がった場合でもしばらくおまえが見てやってくれ」
「わかりました」
そこで弟子についての話は終わりレナの作ったお弁当を食べるためにカーファイを連れて競技場外の広場に向かった。そこでの会話の種はやはりエステルであった。
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「やっほー。シャルルにアリオス。すごかったよ。周りの人みんな驚いてた!『あの子供たち将来とんでもない化け方をするな』って過ごそうな人が言ってたよ。いやぁ~知り合いがほめられるっていいものね」
昼飯を食べに出たところを満面の笑みのアイナに捕まった。何かたくらんでいるのか思ったら、なんでもホテルのランチを予約していてくれたらしい。
「わざわざそんな高いのを選ばなくてもいいのに。子供だけなんだからそこらの定食屋でもいいぞ?」
「本当に。何なら昼抜きでもいいですよ?」
さすがに子供だけで5桁ランチはハードルが高いようで少年剣士たちは暗に行きたくないことを伝えようとする。
「大丈夫だよ。お父さんがとってくれたから問題なし。午後からも試合があるんだしおいしいものを食べて気合入れないと!」
「「ありがたくご馳走になります」」
ホテルのおいしい高級料理を二人はをたくさんいただきました。
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昼休みを終えた選手と観客が帰ってきたころに再びアナウンスが入った。
『まもなく午後の部が再開します。会場外に御用の方はお早めにお済ませください』
昼飯を食べた後は軍人達の位置どっている特別席でカシウス一家とカーファイは一緒に見に来ていた。
「いよいよ準々決勝か。カシウスよ、アヤツたちはどこまで行くと思う?」
エステルをひざに乗せてカシウスは少し考えながら、
「自分の後輩としては優勝してほしいですが、モルガン少将には勝てないでしょう」
「そんなところだろうな。だがおまえのように何かしらの大きな変化があるかも知れんな。まあ、おまえと違って二人ともまじめだがな」
「…返す言葉もありません」
苦笑いするカシウスと、懐かしい記憶に思いをはせるカーファイ。だが、カーファイもカシウスの分析におおむね同意していた。残っている8人はシャルル、アリオス、モルガンの他に遊撃士2名、武術家2人、親衛隊から1人が残っていた。遊撃士は二人ともB級でそこまでの脅威とはならず、警戒すべきは二人の内の片方の格闘家であった。泰斗流という強烈な拳法を使い、それは使い手次第であらゆるものを破壊するとんでもない流派であった。
「武道家の男は警戒するべきだな。ただあの将軍に当たればその時点で終わりだが」
そこに対戦者の名前が表示される。
『準々決勝一戦目 子供:アリオス=マクレインVS王軍少将:モルガン=バーナード』
控え室ではシャルルがあわてていた。
「うわ。いきなりかよ。どうするんだよ、アリオス」
掲示板に表示された名前を見てシャルルがまたうめく。別に自分が戦うわけでもないのに、である。だが優勝最有力候補でこれまでの試合を一撃で終わらせることが多い将軍と会ったからには当然の反応ともとれた。
「…。自分全力をぶつけるだけだ。経験の差があるが何とか活路を見出して勝ってみせるよ!」
そういってアリオスは会場に躍り出て行った。
「冷静なのに柄にもなく興奮してるな、あいつ。」
少し驚いたようにポツリ、とシャルルは漏らした。
事実アリオスは実に興奮していた。普段教えを請う先生以外で隔絶した差があると感じた人であり、また興味があるのはシャルルだけという将軍の態度が彼の闘志に火をつけていた。競技場に出ると老将はすでに待っていた。
「シャルルより先に君にあったか。相当の実力者というのは先の戦いで理解しておる。楽しましてくれよ?」
さもこれから趣味のなにかでもするかのごとく余裕のある雰囲気であった。
「安心してください。決して飽きさせませんから。全力で当たらせともらいます」
アリオスも負けじと気合の入った回答をする。それを見て少し笑うモルガン。
「両者構え、…はじめ!」
その掛け声でモルガンはすぐに斬りにかかったが、アリオスは無理をしないで距離をとった。
「どうした?威勢は口だけだけか?」
モルガンの挑発を無視してアリオスはうちに氣を集中させる。
・軽功・
剣を扱う者としては基本の精神統一。それによって集中力を高め、氣を練りこむことで爆発的な戦闘力上昇を行う。
子供らしからぬ覇気にモルガンは思わず関心の声をあげる。今までいろんな人間とやってきたが久々に血が沸くのを感じた。
「よかろう。おまえのその力認めよう。全力でかかって来い!」
それと同時に二つの影が動き出す。一撃、二撃、三撃と武器をぶつけ合う二人。お互いまったく引かずまさに有働大会の名にふさわしい試合であった。ただ力では勝てないアリオスは持ち前の速さを生かしてなるべく攻撃を避けながら技を入れていく。
「くっ!」
それでも将軍の攻撃のすべてを避けきることはかなわず、重い一撃で少しずつダメージがたっまていく。まるで骨が軋むような重さであった。再び距離をとったアリオスは焦っていた。
(軽功を使って底上げしてやっと同じ土俵か。だがそれもいつまでも持つものでないし早くカタを付けに行かないとまずいな…)
(餓鬼の癖にやりおるわ。これは帰ったら軍も鍛えの直さんといかんな。…ん?目をつぶっているだと?何か仕掛けてくるか?)
「ふー」
深呼吸して刀を鞘に納めたアリオスはじっとモルガンを見つめる。動く気配のなさそうなその姿を見て、何かの技を出す気なのがありありと感じられたが、そこは猛将モルガンはあえて進んだ。その瞬間アリオスは急加速しながら抜刀した。
・風神烈破・
弐の型の奥義のひとつ。風の闘気をまといながら相手の懐に飛び込み斬撃を繰り出し、飛び上がって最後に両断する強力な技。
不完全ではあるものの、それに近いものをやってのけたのだ。これにはモルガンも不意をつかれた。そしてそのまま最後まで決めようとしたが、そう簡単にはいかなかった。不完全ゆえの隙を突いたモルガンの攻撃はアリオスに完全に入り、ここに勝負は決着した。
「ここまで手を焼かせる子供は初めてだ。すばらしい腕前だ」
『勝者、モルガン=バーナード』
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観客席が興奮に包まれる中、カーファイは驚いていた。
「不完全とはいえまさか奥義を使いよったか…。これは皆伝まで意外と早いかも知れんな」
「モルガン少将にあれだけ喰らい付いたのも始めてみましたよ。観客が盛り上がるのにも同意できます。」
「武道家のほうも意外と敵にならんかも知れんな。あとはシャルルか…。誰が残るかの」
カーファイはなんとなくそんなことを考えていたが現実そう甘くいかなかった。
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「すげーなアリオス。あの爺さん相手にあそこまで大健闘するなんて」
シャルルは純粋に驚いていた。すぐに負けるだろうと思ってた、諦め気味だった自分を恥じた。
(アリオスもあそこまでがんばったんだ。俺もがんばらねば。)
そう気合を入れて準々決勝最終試合にのぞんだ。対戦相手は親衛隊の人だったのだがアリオスほど強くなく難なく倒せた。
そうして準決勝。一試合目にモルガンが決勝進出を決めて盛り上がる中、シャルルと泰斗流の拳士との戦いになった。
「…」
「…」
「両者構え、…はじめ!」
リーチの短い拳士がいきなり突っ込んでくることもなく、内功を使って体幹強化を行った。シャルルも相手を警戒してそれに合わせるように強化を行い試合が始まった。相手のリーチは腕そのもので剣より短いので、こちらの攻撃を誘いながらジャブを打ち様子を伺っていた。シャルルも隙を見せないように慎重にせめていったのでお互いに攻撃回数が減ってしまった。シャルルは再び距離をろうと射程外で脇を緩めた瞬間、いきなり瞬間移動のごとく接近してきて発頸を打ち込んできた。その異常な速度に焦ったものの致命傷だけは何とか避けた。
だがシャルルは内心で恐慌を起こしていた。
(危なかった。だが今のはなんだ?まるで距離がつかめないような動き…。あんなに人間は早く動けるわけ…またっ!)
思考する隙も与えないように近づいてくる拳士。いくつかの拳が直撃し動きが回避行動が鈍る。
(まずいな。近づかれたら相手の独壇場だ。かといって攻めてみても守りに入られる。やりにくいことこの上ないな。っく!またか)
付かず離れずで追い詰めるように攻撃していき、しばらくするとシャルルの動きは明らかに鈍っていった。そこで拳士ははじめて口を開いた。
「もはやおまえの体内にはダメージがたまりすぎていてこれ以上動けまい。降参したまえ。まだ子供だから誰も文句は言わんよ」
ひざを突いているシャルルにそう言葉をかける。
「ご忠告ありがたいが断る。まだ俺は負けちゃいないし諦めてはいないぞ」
その目には確かに闘志がこもっていた。
「ふん。やせ我慢を。次で終わらせてやる」
そういって再び攻撃に入ろうとした拳士はシャルルを見失った。
(どこにいった?…!)
「油断しすぎだ、バーカ」
そう。シャルルはいつの間にか拳士の目の前にいた。一瞬で近づいたのは敵の使っていた泰斗流の歩法。気を抜いてなめてかかっている敵には付け焼刃程度でも十分だった。おまけに子供の身長であるためうまく拳士の死角に収まっていた。
「っく!」
「ようやく焦った顔になったな!だが遅い!」
・雲耀・
壱の型の剣技。本来剣圧を飛ばす技で最も強力な技であるが、至近距離での威力は言わずもがなであった。
「ガハァ!」
モロに喰らった拳士は吹き飛ばされたが気功のおかげで何とか態勢を取り戻したが相当効いているようだった。
「貴様、泰斗流の歩法をどこで知った!」
「今ここだよ。攻撃しても避けられるからアンタの動きだけを見て特徴を探しただけだよ。馬鹿の一つ覚えみたいに使うから何とかわかったよ。まあ、攻撃を喰くらいすぎた感があるけど良しとしよう」
「ふざけやがって!そんな短時間で見破れるか!くらえ!」
自分の長くかかった習得時間に比べて、たった10分弱でできるはずがないという思いからもう一度その得意の歩法を使う拳士。しかし相手が悪かった。シャルルはハッタリでもなく、本当に理解していた。
「その技はもう飽きた」
先ほどまでモロにくらっていたはずの攻撃をヒラリとかわすと、もう一度雲耀を叩き込んで試合は意外にも始め押されていたシャルルの勝利に終わった。
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「あれだけ押されていながら勝つとわな。剣聖の遺伝子は伊達ではないな。同門としてどう思う?」
モルガンの質問に意識を取り戻し、治療を終えたアリオスは笑いながら答えた。
「嬉しいですよ。彼と一緒にいたからこそここまで気合を入れてがんばれましたから。」
「ふっふっふ。そうか。では大事にすることだな。そんなやつ大きくなるほど探すのが難しくなる」
そういってハルバードを持ってモルガンは会場に出て行った。
『次はいよいよ決勝戦です。皆様ここまで勝ち進んできた両選手の健闘を祈りましょう』
アナウンスが終わると、主賓席から公爵が出てきた。
「最終試合、決勝戦はこのデュナン=フォン=アウスレーゼが監督させてもらう。お互いに悔いの残らない試合にしてくれ」
「「はっ!」」
「それでは両者位置について、…はじめ!」
「オラァ!」
開始早々にいきなり雲耀を使い積極的にせめていくシャルル。さっきと打って変わり積極攻撃に出る。
「どうした?余裕がなさそうだぞ?」
「当たり前ですよ。リベール陸軍きっての猛将相手に出し惜しみなんてできるほど強くないですよ。おまけにさっきの人と違って長柄武器は近くにいないとやりにくい。ハッ!」
麒麟功で体幹強化もしている用意周到のまさにシャルル=ブライトの全力であった。そのアクセル全開ぶりを見てモルガンも楽しそうに笑う。
「おまえもカシウスと同じで生粋の武人だな。そして同じ力技型と来た。さっきのアリオスというの試合もおまえの同門との試合も燃えたが、おまえはもっと盛り上がりそうだ!」
モルガンのまわりに氣が噴出すような感覚にとらわれる。まるで闘将の体が一回り大きくなったようなそんな感じであった。ゆらりと動くモルガン。その圧倒的な迫力に気おされるがシャルルも負けじと動く。
「ウォォォォー!」
「ドリャァァァ!」
意地と意地、力と力。小手先の技も回避行動もなくただひたすら得物と得物をぶつけ合う二人の姿はさながら雄牛同士の角のぶつけ合いのようだった。十、二十と打ち合ってようやく距離をとった。
観衆はこの大会一番の大盛り上がりであった。対照的にいつもは落ち着きのない監督者の公爵が息を呑んで試合の行方を見守っている。今までのお互いの技の効いた芸術のような戦いも会場を魅了し楽しませていたが、やはり人間の一番盛り上がり、心が躍るのは小細工なしの純粋な力のぶつかり合いの試合であった。
「すごい盛り上がり方だな。ここまでの盛り上がり方は大会以来初じゃないか?」
少し息を切らしながらモルガンはシャルルに声をかけた。シャルルもだいぶ無理をしているようで息が長い。
「…その時、その場所に戦士としてその場に立てていることを誇りに思いますよ」
大きく息をついて、
「でもそれも次で終わりです。この試合俺がもらいます!」
「それはこちらのセリフだ!」
二人の雄たけびが響き渡り、自身の持つ最高の技が激突する。
・焔・
八葉一刀流壱の型《焔》の基本剣技でありながら、使い手の実力に比例する技。その爆炎をまとった刀で叩き斬る。
・激獣乱舞・
ハルバードに氣をこめて叩きつけ、そのあとに氣を開放する大技。機甲化される以前に幾多もの兵を屠ったモルガンの取って置き。
二人の攻撃が交錯した。衝撃は競技場を駆け抜け、王都グランセルに響き渡ったという。静まった競技場で観客が身を乗り出してその様子を見ようとする。背を向けていた二人。刹那、片方はひざを突きながらも耐えきり、もう1人は気を失って仰向けに倒れ、ここにこの激戦の勝者が決まった。
静かな競技場に監督者、デュナン=フォン=アウスレーゼ公爵の声が高らかに響き、観客たちの歓声が轟いた。