サポートサーヴァント
ナイチンゲール
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平屋の近くの空き地にて、3人の人影がすさまじい早さで交差し火花を散らす。灰色の怪物、緑色の怪物、赤い軍服の女性は、それぞれが己が技を出し惜しむことなく、その全力で相対する相手を制圧しようとしていたのだ。
「オ"オ"オ"オ"オ"ッッッ!!!」
緑色のアマゾンが雄叫びをあげながらシグマに向けて拳の連撃を放つ。その戦闘スタイルは、同じベルトで変身するアマゾンであるアルファやシグマと違い、とても荒々しくしかし力強いものであると貴方は認識していた。しかしその戦い方は相対するシグマとは相性の悪いものであるとも感じられたのだ。
緑色のアマゾンの連撃に対して、シグマはその拳を最小限の動きで軽々と避けていく。さらには連撃の合間にあった僅かな隙をシグマは見抜くと、その隙に合わせてカウンターの前蹴りを緑色のアマゾンの腹部へと浴びせこんだ。
「ガァァッッ!? アアアアッッッ!!!」
腹部に強烈な一撃を食らった緑色のアマゾンは一瞬苦悶の悲鳴をあげるが、続けて奮起の雄叫びを挙げて腹部に刺さっているシグマの脚を両手で掴む。
「......」
シグマは緑色のアマゾンのその行動に動じず、掴まれた脚とは逆の軸となっている足を地面から跳び立たせ、人間ではありえない体幹による空中姿勢から、相対する緑色のアマゾンの頭部へと強烈なハイキックを繰り出した。
シグマが放ったハイキックは緑色のアマゾンの頭部へとまともに入り、言葉にしにくい鈍い音が周囲に響く。
しかし、それでも緑色のアマゾンは止まらなかった。
「...ガァァァァァ!!!」
緑色のアマゾンはまたも雄叫びを挙げると、次に頭部に当たるシグマの脚を地面に落とす前に片手で掴みとったのだ。
「...っ!!」
これにはシグマも想像し得なかったようで、彼の動きに一瞬の隙ができる。
緑色のアマゾンはその隙を見逃さない。掴んだシグマの両足をさらに強く捕まえ、そのまま自身の体を基点に振り回し、遠心力と腕力を合わせてシグマの体を平屋の壁へと投げ飛ばしたのだった。
勢いのまま投げ飛ばされたシグマはそのまま壁に激突するーーーことはなかった。
投げ出された瞬間、シグマはその身を翻すことで緑色のアマゾンから与えられた勢いをすべて殺し、壁に激突する直前で地面へと着地をしたのだ。
シグマのあまりにも華麗な身のこなしに貴方は息をのむ。
貴方は今までの旅のなかで敵味方問わず多くの戦士を見てきた。一対多数に対して、怯まず勇んで立ち向かう英雄。自分より大きな怪物に対して笑いながら得物の切っ先を向ける勇者。免れない死が近づこうとも、その勇姿を決して崩さない英霊。そのすべてが貴方にとって尊敬と畏怖を持つにふさわしい素晴らしい人物たちであった。
だが、今目の前で戦うこのシグマは違った。
彼は戦士ではなく、まるで機械のような存在なのだ。戦い方はまるで無駄がなく、相手をどうすれば効率良く殺せるか、どうすれば戦闘を続行できるかのみを考えているかのような、まったく感情のない存在感を放っていたのだ。
シグマは着地から姿勢をただすと、そのまま緑色のアマゾンに向かって走りだし追撃を行おうとする。緑色のアマゾンは先ほどのシグマのカウンターによりダメージを受け、シグマの行動に反応しきれていない。貴方がまずいと思った瞬間、貴方の視界の端に緑色のアマゾンとシグマの間に入り込む赤い影の姿が映った。貴方の頼りになるサーヴァント、ナイチンゲールだ。
「消毒!」
ナイチンゲールは緑色のアマゾンに迫るシグマの首に向けて手刀を放つ。シグマは危なげなくその手刀を避けるが、緑色のアマゾンに向かうその足を一旦止める。その一瞬を突き、ナイチンゲールはさらにシグマとの距離を詰めるとその胸部、さらに具体的に言うならば心臓がある部分、胸郭へと掌低を打ち込んだ。
「殺菌!!」
ナイチンゲールの胸部への急所攻撃をまともに受けたシグマは、衝撃から体を後方へと吹き飛ぶ。しかし、
人体でなくサーヴァントであろうと霊核への直接的なダメージから、喀血は免れないであろうその攻撃を、シグマはただ、強く小突かれただけのように胸元を軽くはたくのみで済ましていたのだった。
「やはり人体への急所に対するダメージは小さいか...」
隣で貴方のもう一人のサーヴァント、エミヤが小さくつぶやく。彼は自分たちが到着するまでの間、あのシグマとすでに一戦交じり合っていた。その内容を貴方はまだ詳しく聞いていなかったが、エミヤの腹部の傷と今の反応から、彼はシグマの急所に対し攻撃したところ、油断して反撃を受けたということを貴方は理解したのだった。
「弱いな」
突如、シグマが看過しがたい言葉を小さくつぶやく。
「カルデアのサーヴァントというのはこれほどまでに弱いものか。これではデータにもならない」
シグマはさらに続けて言う。貴方の、貴方にとって人理を救うために身を尽くしてくれた仲間たちに対し、シグマは侮辱の言葉を吐いたのだ。
貴方はシグマのその言葉に当然怒り、言い返そうとするが、言葉が出る直前、エミヤが貴方の手を引き、その行動をやめさせる。
「やめろマスター。君が怒るべきことではない。それに、よく見てみろ」
エミヤの宥めるような言葉に、貴方は冷静になって戦況を観察すると、あっ、と小さく言葉を漏らす。
シグマは戦闘態勢をとりつつも、ナイチンゲールの反応を待つ。言葉を投げられたナイチンゲールは、小さくため息を吐きつつ、シグマの言葉に返答する。
「あなたに何を言われようと構いません。実際、そこのMr.は貴方に手痛い攻撃を受け、私自身もあなたに対する決定的な攻撃手段を持ち合わせていません。しかし...だからなんだというのです?」
ナイチンゲールは語気を強くしてシグマに尋ねるが、返答を待たずに言葉をつづける。
「私たちはそれを踏まえたうえで、マスターを守り、人々を守り、世界を守るだけです。あなたの戯言に付き合っている暇はないのです。それにあなたは、
そのナイチンゲールの言葉にシグマが気づく。彼女は自分ともう一体のアマゾンの間に入り戦闘に乱入してきた。それにより彼女が壁となっているせいで、今自分は
[Violent Break]
シグマが戦況に気づくと同時に、乱調な機械音を流しながら緑色の影がナイチンゲールの上空から飛び出した。その手には小さくも、生物の命を壊すために出来ている雰囲気を持つ禍々しい鎌が握られていた。
「オ"オ"オ"ッ!!!」
雄叫びを挙げながらシグマに肉薄するのは、ナイチンゲールを陰にして必殺の機会を窺っていた緑色のアマゾン。その手に握る鎌の矛先は確実にシグマを捉えていた。
即座にシグマは反撃の態勢をとるが、時すでに遅し。緑色のアマゾンが手にした鎌は、突き出されたシグマの右腕の肘より先を刈り取ったのだった。
「―――ちっ」
刈り取られたシグマの腕は緑色のアマゾンの下へと転がり、実体を保たずにやがて溶けてなくなっていく。
完全なる不意打ち。しかしそれによりシグマへの初めて効果的なダメージに貴方たちは成功したのだった。
「急造チームでここまで連携してみせるとはな...」
シグマが吐き捨てるようにつぶやく。ナイチンゲールはそんなシグマに対して警戒を怠らず、言葉を出す。
「油断をした貴方の不手際でしょう。感情もなく死人のような気配をしているのに、気を抜くなんてこともあるのですね」
「あなたはここで仕留める。決して逃がさない!」
ナイチンゲールの皮肉と緑色のアマゾンの決意がシグマへと突き刺さる。
シグマは二人の言葉に初めてシグマはその感情の一端を見せた。
「油断...逃げる...? ふざけたことを言う。お前たちは俺がここで殺―――」
若干の怒気が込められて捻り出されたシグマの言葉はしかし、途中でシグマ自身が耳に手を当てる行動によって止められた。
貴方たちはシグマの突然の行動に不審に感じ取り、警戒をさらに強めると、やがてシグマが口を開いた。
「予定変更だ。お前たちとの戦闘は中断、撤退する。殺し合いはまたの機会だ。それまでに他のアマゾンたちに食われないように気を付けているんだな」
シグマは何気ない口調でそう言い、踵を返し戦線を離脱しようとする。それに対して誰よりも先に待ったをかけたのは緑色のアマゾンであった。
「待て! まだ聞かないといけないことが!」
「■■■■■■ーーー!!」
シグマの後姿を追う緑色のアマゾンであったが、向かう途中に平屋の天井から他のアマゾンが降り立ってくる。
間違いなく平屋へと群れでやってきたアマゾンの集団だと貴方は認識する。
【もうこんなところまで!】
緑色のアマゾンの話から、他の同行者と呼ばれる存在が群れを食い止めていると貴方は聞いている。しかしここまで進行してきたとなれば、こちらのほうでも加勢しなければならないだろうと貴方は考え、いまだなおシグマの後姿を追う緑色のアマゾンの姿を見る。
「くそ! 邪魔だ!」
緑色のアマゾンは立ち塞がってくるアマゾンを蹴散らしていくが、それらを駆逐した先にシグマを捉えることはついぞできなかった。
「はぁ、はぁ、逃げられたか...」
最後の一匹であるアマゾンを退けた先にシグマの姿を見つけられなかった彼は、腰のベルトを外し、アマゾン体の姿から最初に見かけた青年の姿へと戻っていった。
その姿は、先ほどまでの荒々しいアマゾンとしての面影もなく、頭や腹部に血を流しながらも、ただの人であるような印象だけがあった。
そんな感想を持ちつつ、貴方は先ほどまでアマゾンであったその青年のもとへと近づいた。無論、エミヤやナイチンゲールも共についていく。
【貴方は一体なにもの?】
【助けてくれてありがとう】
貴方は突然現れた彼に対し、多くの疑問や、助太刀してくれたことへの感謝など、様々な思いを持ちながら話しかける。しかし彼から返ってきたのは貴方の言葉に対する返事ではなかった。
「ごめん。色々と話さなきゃならないことがたくさんあるのは分かっているけど、今は一人で大群のアマゾンたちを抑え込んでいる彼女を応援しに行かないといけない。事情はそのあと話すということでいいかな?」
謝罪から始まり、青年は貴方が先ほど思ったことと同じことを言葉に出す。
貴方は青年のその言葉を聞き、少なくとも彼は人間の敵ではないことを感じ始めた。
【もちろん!】
【自分たちも手伝うよ!】
青年の提案に貴方が力強く答えると、彼は安心したように表情をほころばせる。
「よかった、じゃあ急ごう。彼女だったら負けることはないけど下手をすると周りまで破壊しかねない。ここらへんに君たち以外に誰かいるかい?」
青年が尋ねた質問に、貴方より先にナイチンゲールが答える。
「建物の中に生存者が残っています。だいぶ弱っているうえに現在衛生環境が整えられていない場所にやむなく避難してもらっています。貴方が人の味方であるのでしたら速やかに状況に対処しましょう」
ナイチンゲールは現在の状況を適確に伝え、最後には言外に、人に害するのならばお前も殺菌する、と含めて青年に話す。
しかし青年はそんなナイチンゲールの真意が伝わらなかったのか、彼女の話を聞き、さらに顔を苦くさせた。
「だったらなおさら急がないと! 彼女だけだと建物も破壊してしまうかもしれない!」
青年はそう言うと、すぐに踵を返し、バイクへと向かっていく。どうやらバイクでそのままアマゾンたちの群れへと突っ込みに行くらしい。
しかし貴方は急ぐ彼に対して最後に一つ質問をした。
【待って】
【あなたの名前は?】
貴方の言葉が耳に届いた青年はヘルメットを被りながら、振り返ってその質問に答えた。
「そういえばまだ言ってなかったね。僕は水澤悠、いやアマゾンオメガと名乗ったほうがいいのか。...聞いての通り、そしてさっきまで見ていたように、正真正銘のアマゾンだよ」
水澤悠、そしてアマゾンオメガと名乗ったその青年は、自らをそう称した後、ヘルメットの奥で寂しそうな表情を見せたのを、貴方は見逃さなかった―――。
―――――
【見つけた!】
【あそこでアマゾンたちが吹き飛んでる!】
互いに紹介しあった貴方たちと水澤悠は、アマゾンたちが群れを成している現場へと急行した。
バイクにより先行した水澤悠を追いかけるように貴方たちは走って平屋の表に向かうと、そこでは多くのアマゾンたちが宙を飛び交い、地面に叩き付けられたりしている戦況が見られた。
「なんという...このような野蛮な戦い方をするものにかなり覚えはあるのだが...」
貴方の隣で腹部を抑えながら走るエミヤは、それと同時に空いている片方の手で頭を押さえる。なんとも珍妙な走り方をするものだと貴方は思いながら、アマゾンたちが吹っ飛んでいるその中心地点へと急ぐ。
貴方が向かった先にいたのは貴方もよく知るサーヴァントの一人であった。
「ーーーようやく来たか」
彼女は襲いくるアマゾンたちを片手間に手にもつ鉄球で潰しながら、向かってきた貴方に対して呆れながらにそう言った。
そう彼女はーーー。
【エルバサちゃん!!】
「軽々しくその名で呼ぶな。まったく」
エルドラドのバーサーカー。
アマゾネスの女王にして、あるギリシャの英雄を深く憎む英霊。カルデアのサーヴァントの中でも屈指の暴れん坊に含まれ、最近はなんだか権利的な問題で危うい商売を始めた、貴方の信頼する仲間の一人の姿がそこにあった。
「ん? なんで真名を隠しているのか、だと? いや、タグの方で終局特異点クリア推奨とは書いていたが、作者がプロットを練り直している途中で1.5部をクリアしてしまってアマゾンならアマゾネスも出さなあかんだろと無謀な思い付きをしてしまったからか、今更タグ変更など詐欺に近いからこうして1.5部未クリアのマスターでもネタバレにならないように真名は隠すようにしているのだ。察しろ」
【メタすぎだよエルバサちゃん!!】
【察しろって言って全部言っちゃってるよエルバサちゃん!】
そんな下らないやり取りをよそに、先行していた水澤悠がアマゾンの群れのなかから飛び出してくる。
「遅れてごめん、バーサーカーさん。何も壊してないよね?」
「手近の怪物どもならもう数えきれないほど潰してやったがな」
ヘルメット越しから心配そうな顔を見せる水澤悠に対して、エルドラドのバーサーカーは突っ慳貪な態度で返す。が、その様子を見て貴方はこの二人が既にそれなりのコミュニケーションを取れていることに気づいた。
なぜならば貴方は、エルドラドのバーサーカーは信頼を置いていない相手に対しては、返答どころかその手にもつ鉄球をぶつけてくることを知っていたからだ。
「何をマジマジと覗いている。援軍に来たのでないのならばそこらに隠れていろ。残りのやつらも私一人で充分だ」
貴方の視線に気づいたエルドラドのバーサーカーはつれない態度を貴方に見せる。その後ろ姿は本当にこの大群を一人で制圧しそうなほど、雄々しいものであった。
しかしだからといって本当にこの群れすべてを彼女に任してしまう貴方ではない。
【援護するよ】
【一緒に戦おう!】
貴方がエルドラドのバーサーカーの隣に立ち宣言すると、彼女は嬉しそうに少しだけ口元をほころばせながら、しかしすぐに元の勇ましい表情に戻した。
「そうか。ならば好きにしろ。せいぜい足を引っ張るなよ!」
「僕も君の指示に従う! 一緒にこの場を乗り切ろう!」
水澤悠の提案に貴方は頷きつつ、エルドラドのバーサーカーの掛け声とともに、本日、貴方にとっての第2ラウンドが切って落とされた。
次回、事情説明