マモルは光と共に消えていった。
あの光はいったい何だったのか。マモルは一体どこに消えたのか。彼の目的はいったい何なのか。謎が増え、理解が状況に追いつかないまま、貴方達はマモルが消えた後のその場所を眺めることしかできなかった。
陰鬱とした雰囲気の中、一番最初に声を出したのは貴方の端末から映像を投影させて姿を現したダ・ヴィンチであった。
『…さて。謎が増えてしまい心の整理が必要な心境は理解するが、とりあえずは目的だった霊脈の奪取には成功はしている。これからのことを安全に、落ち着いて話し合うためにも、まずはマスターくんのためにも霊脈の接続をお願い出来るかい?』
「...そうですね。ひとまず目の前の脅威は無くなった。目的の霊脈も手に入れたんだ。悲観する点は現状無い。接続の準備を始めようか、マスター」
ダ・ヴィンチの言葉に悠が答え、貴方に霊脈の準備を促した。そんな悠を見ていた鷹山は、アマゾン体を解き人間の姿に戻ると、失笑を込めて悠へと言葉を投げる。
「何だよ、まるで自分に言い聞かせてるみたいだな。今一番気が狂いそうになってるのはお前だろ? すぐにでもアイツの後追っかけて止めたいだろうにな」
「仁さん...少し黙ってもらえますか」
鷹山の言葉に、悠は静かな怒気を込めて返した。対する鷹山はそれに構わず、言葉を続ける。
「いつまでも叶いもしない理想を持ち続けるからこうなるんだ。あの時、手なんか抜かずしっかりとアイツを殺しておけば取り逃すことなんかなかっただろうによ」
【手を抜いた?】
鷹山の言葉に疑問を持った貴方は悠の方へと顔を向ける。当の悠は鷹山の指摘に眉を顰め、自分を見つめる貴方から顔を背けた。
そんな悠に構わず、鷹山は貴方の疑問に答える。
「さっきの殺し合いの話だ。殺そうと思えば、ソイツはいつでもアイツを殺せた。なのにそれをしなかったのは結局、お友達を助けたかったからだ。その挙句に逃げられてるんだから、救いようもねぇ。自分でもそう思ってるんだろ?」
鷹山に声をかけられるも、悠は言葉を返せず、ただ俯くだけであった。
「その甘さがある限り、お前は何も救えねぇ。お前はずっと迷い続けるだけなん...」
「黙れ」
唐突に、ズシン、と悠に対して厳しい言葉を放っていた鷹山の頭が地面へと埋まった。
ポカンとする周囲に対して、それを行った下手人、エルドラドのバーサーカーは真顔のまま鷹山を片手で地面に押さえつけながら、その状態のまま鷹山へと言葉を投げた。
「先ほどのダ・ヴィンチの話を忘れたのか馬鹿が。今優先すべきは陣地の確保だ。いつ周りのアイツらが戻ってくるかわからん状況で言い争いなどしている場合か。そして貴様。いきなり現れて何者か知らんがアイツらについて何か知っているな。全て話してもらうまで拘束させてもらおう。何安心しろ。アマゾネス式縛縄術は決して解けないが体に跡を残さん。もちろん、痛いのが好みならそちらで縛らせてもらうがな」
頭を押さえつけられて頭上から好き勝手言われる鷹山。必死の抵抗として唸り声をあげてエルドラドのバーサーカーを睨みつけるが、彼女は気にも止めず続いて貴方へと顔を向けた。
「マスター、貴様もだ。疑心暗鬼になどなっている場合か。頭で理解しきれない状況にこそ、悩むのは後にしろ。今出来ることを一つずつこなせ。私のマスターならば、そのぐらいやれるだろう?」
【...もちろん‼︎】
【ありがとう、エルバサちゃん】
エルドラドのバーサーカーの言葉に、貴方は現状の頭の靄を振り払うように返事をした。それを聞いたエルドラドのバーサーカーは一瞬破顔した後、すぐに顔を引き締め、端末に顔を出しながら一連の流れを見ていたダ・ヴィンチに声をかけた。
「ということだダ・ヴィンチ。霊脈の接続に指示を頼むぞ...何を呆然としている?」
「...いや、何でもないよ。すぐに取り掛かろう」
一瞬呆然としていたダ・ヴィンチだが、エルドラドのバーサーカーに声をかけられてすぐに調子を取り戻すと、貴方、及び悠とエルドラドのバーサーカーへと指示を出し始めた。しかしその心中はいまだ平静には及ばず、驚きに満ちていた。
(まさかバーサーカークラス、しかも彼女に場を鎮められるとは思わなかった。なんて言ったらボコボコにされるから絶対に言わないでおこう)
(って思っているんだろうなぁ)
ダ・ヴィンチの心中はしかし、その思惑とは裏腹にカルデア管制室の職員全てにバレていたことはもはや言葉にする必要はないだろう。
ーーーーー
『さて、霊脈の接続も完了。カルデアから物資をそちらへ転送もできた。これからのマスターくんの食糧事情についてはひとまず解決したと言ってもいいだろう。食事を取りながらでもいいから、いったん現在の状況を整理しようと思う』
霊脈をつなぎ、夜が更けた頃。採掘場に簡単なキャンプを広げた貴方たちは、周囲を警戒しつつ、簡単な食料を取りながら焚き火を囲むようにしてブリーフィングを始めた。その際、まず話の槍玉に上がったのは戦闘の途中から参戦してきた鷹山のことからだった。
その鷹山は今、エルドラドのバーサーカーにより手足を縛られた状態で貴方たちの前に放られている状態であった。
「仁さん、いつからここに...ずっと一人でアマゾンを狩り続けていたんですか」
「何当たり前の聞いてんだ。こんだけアマゾンが蔓延ってるんなら俺がやることぐらい、おまえならすぐ分かるだろ? ...あっ、おい、なんか食い物俺にもくれよ。一口でいいからよ」
悠が鷹山に尋ねるが当の本人はそれを軽く流し、貴方の持つ食料を見ながら無心し始めた。
手足を縛られている状態であるため、口を大きく開けてそれをねだる鷹山の様子に貴方は困惑しつつも、望み通り手に持ったハンバーガーを彼の口まで運んであげた。
「...拘束されながらあさましく他人から物をねだるなど、どうしようもないやつだ。自分の立場を分かっているのか」
「仕方ねぇだろ。食わなきゃ現界の維持もままならないんだからよ。いつからここにって話にもなるが、ここに召喚されたのは3ヶ月前。それからはずっとこうやってなんだって食って生き続けてきたんだ。こうもなんだろ」
エルドラドのバーサーカーに睨まれながら、しかし鷹山は貴方からもらった食料を咀嚼しながら飄々と彼女へ言い返した。その態度に彼女はさらに額に青筋を立てる。
「アマゾンの名をもつ以上そのような誇りを汚すような行為は、アマゾネスの女王たるこの私が許さん。今後改めることがないなら、その根性を叩き直してやるから覚悟するのだな」
「...へぇ。そうか、あんたアマゾネスの女王か。そうだな、あんたの前ではちょっとぐらい言葉に気をつけるよ。だからこの拘束解いてくれない?」
「貴様から情報を取れるだけ絞り尽くした後にな」
エルドラドのバーサーカーの返答にちぇっと悪態をつく鷹山だが、すぐに表情を変えて、立体映像に映るダ・ヴィンチへと声をかけた。
「んで、あのマモルを連れ去った白い光だがよ。ありゃなんだ? 魔術的なもんだろアレ。俺はそっち方面には疎いもんでな。是非天才サーヴァント様の見解ってモンを聞きたいとこなんだが」
鷹山の問いに貴方もダ・ヴィンチへと顔を向ける。アマゾンたちの動向とともに現れてきたサーヴァントの存在や魔術師の陰。その一端を今回ようやく見せてきた相手に対して、貴方もダ・ヴィンチの見解を聞きたかったのだ。
『…鷹山仁の言うとおり、あの白い光の奔流は魔術だ。それも大規模な転移魔術。おそらく霊脈の流れを利用したものだろう。あれだけのものとなると、アマゾン側に付いている魔術師はかなりの手練れだと窺えるね』
【転移魔術…】
【転移した先とかは分からない?】
ダ・ヴィンチの言葉を貴方は復唱し、疑問を投げかけた。
ダ・ヴィンチはというと申し訳なさそうな笑みのまま貴方に答える。
『試みてはみたが…ダメだったね。中々相手の腕がいいものだった。転移箇所を複数にしてジャンプさせているようだ。途中で魔力の流れが途切れて追跡不可能だったよ」
「ハッキングの手口に似てるな。随分と近代的な魔術師だことだ」
ダ・ヴィンチの報告に鷹山は茶々をいれ、貴方は腕を組み唸った。
マモルへの足掛かりがなくなってしまったからだ。
アマゾンが跋扈するこの特異点の謎。その鍵を間違いなくマモルは握っているだろう。故にもう一度マモルと再会し、彼からその情報を得なければならない。
唸る貴方と同じく、悠も眉をひそめさせていた。おそらくマモルの動向を案じてのことだろう。
復讐を持って人間と対する。彼はその言葉を持って、今後どのように動くのか。その動きを解するためにも彼との再会は絶対であった。
この特異点に入り込みようやく明確な目的を得た貴方たちであったが、しかし、その手段をどうするかそれを思いつかない状態だった。
いまだに唸る貴方だがその様子にダ・ヴィンチが声をかける。
『悩んでいるところ悪いけど、まだ話は途中でね。最終的な転移地点までの追跡は出来なかったが、ジャンプ地点の足跡は捕捉できている。敵の本拠地とまではいかないが、重要地点の可能性は高いだろう』
「っ! それはつまり、そこを探れば!」
『あぁ。マモルくんの居場所、とまではいかないだろうが、その動向の情報程度は手に入るかもしれない。希望はまだ残っているよ』
ダ・ヴィンチがそう言うと悠は安堵したように破顔し貴方の方へ顔を向けた。貴方も悠と同じく相手の糸口を掴み損なっていたところへの、希望のある情報に顔を喜色に染めていた。
そんな貴方たちに対してダ・ヴィンチが言葉を続ける。
『場所は追って伝えよう。今伝えてしまうとそこの縛られている男が縄をちぎって一人で向かいそうだからね。明朝、支度が整い次第出発だ。そして、鷹山仁。以前の別れ際ではカルデアとは別行動ということで話をしていたが、こちらとしても状況が変わりつつある。相手との戦力差を少しでも少なくするため、君にも是非我々に協力してもらいたいのだが、どうかな?』
ダ・ヴィンチはそう言い、立体映像の奥で腕を組むと鷹山の返事を待った。
協力関係を申し込んだダ・ヴィンチであったが、彼女(彼?)としてはこの鷹山仁という男について、いまだ信用しきれていない部分があった。
それは同じく、カルデアの味方をしながらも情報を秘匿する悠に対しても同様であったが、しかしそれ以上に鷹山に対しては人間性に対する不信感をダ・ヴィンチは抱いていたのだ。
以前のアパートでの一件、精神を犯した彼がマスターに行った凶行について。
あれ自体はダ・ヴィンチは別に気にしていない。ナイチンゲールがすぐに場を取り持ったおかげで貴方には大事に至らなかったのだから。
気になるのは彼がそれほどまでに精神を侵された経緯の方だった。
アマゾンを生み、アマゾンとなり、アマゾンを殺し続けることになった鷹山仁の人生。その異常性を考えれば、彼を貴方の近くに置くのは、物理的な不安とは別に、貴方の精神面での不安をダ・ヴィンチは抱えていたのだ。
貴方は相手が誰であろうと深く関わろうとすることに躊躇いがない人間だ。それが反英雄であろうと、自分を殺しにかかった敵対者であろうと、壁を作ることはせず、歩み寄る努めを決して怠らない者なのだとダ・ヴィンチは理解していた。そんな貴方が、自分で自分の運命に枷をかけている鷹山のような男を放って置くわけがなかったのだ。
ゆえに危険だった。鷹山はそんな自分の異常性を認知している。その上でその異常性にその身を委ねているのだ。深く関われば、関わった人間をどん底に落としていく。そういうタイプの人間だとダ・ヴィンチは直感で感じ取っており、貴方と鷹山の接触を案じていたのだ。
既に貴方はアマゾンという存在を通して鷹山へと踏み込もうとしていた。それを危ぶんだからこそ、ダ・ヴィンチはアパートで離別する際には彼を止めず、そのまま行かせたのだった。
だがしかし、状況は変わり、貴方たちは正体を掴みきれない敵に対して、大量のアマゾンたちへの対応が急務となった。それに連なり、鷹山のアマゾンを退かせる力はカルデアにとって今一番必要なものとなったのだ。
鷹山を信用できない心境と鷹山に頼らざるおえない状況が対立する中、悩んだ末にダ・ヴィンチは結局、協力関係を申し込むことにした。
しかし、ダ・ヴィンチの気持ちの半分はこいつはどうせ断るんだろうなという諦めの気持ちも入っていたのだ。何か好条件をつけたところでこの男が靡くとも思えないし、なにより鷹山仁という男はこうやって打算的に自分に値打ちをつけられるのを嫌がるタイプに見えたからだ。
しかしこうして彼に頼るというのはつまり、自分自身もこの鷹山仁という男に対して、何か思うところがあったのだろうなと、ダ・ヴィンチは心中にて失笑しながら、鷹山の返事を待った。
ダ・ヴィンチの申し出に鷹山は一瞬間を置くが、それからすぐに口を開き返答した。
「………いいぞ。おまえらに協力してやる。」
『あれ? いいの?』
【なんで聞いた方が疑問系なの?】
鷹山の答えに思わず聞き返してしまったダ・ヴィンチに対して貴方はすかさずツッコむ。
しかしダ・ヴィンチはというと、鷹山のあまりのあっさりとした答えに拍子抜けしてしまい、貴方のツッコミを無視して鷹山に言葉を投げ続けた。
『えっと、縛られてるから仕方なく、とかだったら大丈夫だよ? 協力しないってことでも解放するようにそこの女王様には後で伝えておくから。それに今後についても君の邪魔にはならないように動くつもりだし…無理して仲間になるってことだったら別に気にしなくても全然』
【なんでダヴィンチちゃんが断る方に誘導してるの?】
ダ・ヴィンチのあまりの支離滅裂な言動にさらに貴方はツッコミを入れる。
流石に自分がおかしな発言をしていることに気づいたのか、ダ・ヴィンチは軽く咳払いをすると、いつもの調子で話を戻した。
『すまない。断られると思っていたからつい変な調子になってしまった。まぁでも、鷹山仁。君の力を得られるのはとてもありがたい。ぜひ頼りにさせてもらうよ』
「そうか? まぁあまり期待せずに使ってくれや」
鷹山はそう言うとケラケラと笑う。そんな彼の様子に貴方はふと尋ねた。
【でも、どうして急に】
【前は嫌がっていたのに】
貴方の質問に鷹山は笑顔を隠すと、誰にともなく呟いた。
「…あの後アマゾンたち殺しながら、ちょっと考えたんだよ。この世界で蔓延ってるアマゾンたち殺し尽くす方法を。そんで、結局俺だけじゃどうしようもないなこれってことが分かった。だからまぁお前たちと協力すればなんとかなるかもしれないなと思っただけだ。………まぁいつの間にか知らないうちにどっかの甘ちゃんが合流してたみたいだがな」
「…本当に変わらないですね、仁さんは」
鷹山の言葉に悠が反応する。まるでお互い様だと言い合うように冷たい視線が両者の間を行き交った。
「ホント、死んでも変わらないのはお互い様だったな。まぁいつかはまた殺し合うだろうが…そうそう、もう一つ理由があったんだよ」
鷹山はそう言葉を区切ると、視線を悠の方からダ・ヴィンチ、エルドラドのバーサーカー、そして貴方へと向ける。そして貴方たちに向けて言い放った。
「アマゾンを全部殺し尽くした後、俺かコイツ、どっちか最後まで生き残ったら、お前たちが殺してくれ。それが力を貸す条件だ」
あまりにも残酷な要求とは裏腹に、鷹山は清々しいまでの笑顔を貴方たちに向けたのだった。
しれっと再開。さらっと更新。
次回、夜風の会話。
申し訳ございませんでした。