撃鉄の落ちる音が、家屋のなかで響いた。
その直後、貴方に向かって襲いかかってきた怪物は事切れたかのごとく、いや実際に死んだのだろう、その大口で貴方に喰らいかかることなく、貴方の側に倒れ伏せた。
「無事ですか、マスター」
【大丈夫】
【ありがとう、ナイチンゲール】
貴方の安否を確認するナイチンゲールの手にはアンティーク調のピストルが握られており、さきほどの発砲音の正体はこれであろうと貴方はすぐに気づいた。見ると怪物の背後に、頭と心臓に向けて撃たれた弾痕があることが分かる。
発砲音は一発だけだったのになぜ2ヶ所に弾痕があるかということは、サーヴァントは基本なんでもできるということから貴方は突っ込まないでおいた。
『先輩! 大丈夫ですか!』
立体映像からマシュが顔をだし、声をあげる。貴方はマシュに対し頷いて返答しその怪物を見る。
『よかった...急にそちらで先輩たち以外の生命反応を感知したので心配しましたが、まさか家屋のなかに既に潜んでいたとは...』
『おそらくは気配遮断の真似事だろう。生命反応のみに感知する存在ならば、究極的に言えば生命反応をなくせば感知できなくなるからね』
【そんなこと、いったいどうやって】
同じく立体映像に映ったダ・ヴィンチの言葉に貴方は疑問を浮かべる。すると横でナイチンゲールがしゃがみこみ、怪物の屍体を覗きこんだ。
「発砲した際に感じましたが、着弾した時の血の飛沫量があまりにも少ないです。おそらく故意に血圧を低下させ、自身の発熱、呼吸量、心音を抑えて感知から逃れるようにしたのでしょう」
『まさか...! 自身の体を自らで適応させたということですか!』
『そういった芸当のできる自然生物は確かに存在するが。この怪物たちは確かな知能と巧妙な体構造を得ているようだね』
ナイチンゲールの考察にマシュは驚き、ダ・ヴィンチは補足を付け足す。この怪物は人間を越える適応能力を有しているようであった。
そこに、玄関を見張っていたエミヤが近づいてきた。
「まずいぞマスター、周囲のやつらがこちらに気づき始めた」
エミヤから貴方は報告を受ける。おそらくさきほどの発砲音に引き寄せられているのだろう。貴方は少し考えたあと、前を向き二人のサーヴァントに指示を出した。
【エミヤの魔術で】
【道路を爆発できる?】
貴方の問いにエミヤは合点がいったという風に顔を見せ、頷く。
「あぁ可能だ。爆煙に巻き込まれるなよ」
【よし!】
【このまま突っ切るぞ!】
貴方が号令をだし、先ほどと同じようにエミヤが先鋒で駆け抜ける。急な襲撃により貴方たちは驚いたが、伊達に世界を一度救ってはいない。すぐに体制を建て直し、貴方たちは家屋を出て怪物たちの群れに強襲した。
ーーーーー
町の真ん中にて、刃物の風切り音、銃の発砲音、そして怪物の金切り声が一斉に響く。
「くっ、
「泣き言を言っている暇はありません。これらの狙いは変わらずマスターです。全力でこの場を突破しなければすべてが終わりです」
家屋から飛び出したエミヤが集まってきた怪物の群れの中心に投影魔術による攻撃をしたことにより、貴方たちは怪物たちに混乱を与えることに成功した。
その後、群れを突っ切りながら採石場を目指す貴方たちだったが、進む先に新たな怪物たちが現れ、倒しても切りのない状況へと陥っていた。
『この動き...その怪物たち、統率がとれているみたいだね』
「そうですね。歪ですが包囲の仕方が整っています。おそらく指揮を執っている存在がいるのでしょう」
【じゃあそいつさえ倒せれば!】
【どこにいるんだ...!】
ダ・ヴィンチとナイチンゲールの言葉に貴方は統率の中心である怪物の指揮官を探す。しかし、見渡しても同じ姿の怪物たちしかおらず、指揮官らしき怪物は存在しなかった。
「指揮を執っているやつは隠れているだろうさ。群れの長とはそういうものだ」
エミヤは鼻を鳴らしながら皮肉を言いつつ、同時に投影した弓から追尾する矢を放ち、一矢で複数の怪物たちを串刺しにした。
それにより一瞬道が開けるが、すぐに新たな怪物が行く手を塞いでしまう。
「ちっ、キリがない...マスター、
エミヤの言葉を聞いた貴方は、すぐにエミヤの近くから離れナイチンゲールの側についた。ナイチンゲールも銃床で怪物の頭を殴りながら、エミヤの|偽螺旋剣Ⅱの余波から逃げるため、マスターを担ぎ、距離をとった。
「憐れな命よ、土へ還るがいい!」
手向けの言葉を残し、エミヤはその手に投影された矢を放った。螺旋状に変容したその矢は真一文字の軌道を描き、その軌道に存在するものだけでなく、周囲にいる怪物たちも風圧に巻き込みながらその威力を見せつけた。
「今のうちだ! 進むぞ!」
エミヤの声を待たず、貴方を担いだナイチンゲールは開いた道を一目散に駆け出した。エミヤもそれに続きながら後ろから追いかけてくる怪物たちを牽制していく。
しかし、ナイチンゲールは数分走った後、急に足を止めた。
「ダメですね。読まれていたようです」
貴方が前を向くと、そこには先程よりも明らかに多い、百を優に越すような怪物たちが犇めき合っていた。
『怪物の数、なおも増大中...っ!』
『どうやら、とんでもない蟻の巣に入ってしまったようだね』
見れば背後からの追手も先程より増えていると貴方は気づいた。
まさしく万事休すいう言葉が似合う展開であろう。
貴方は冷や汗を流しながら考え、同時に右手に彫られた令呪を見る。
貴方にはこの場を突破する方法は一つ存在した。しかしそれはこの場にいないこの群れの指揮者、あるいはこの特異点の原因に、貴方の手を曝してしまう行動でもあった。
貴方は迷いながら、しかしやるしかないと決意し、その右手をエミヤへと向けた。
エミヤは仕方ないという顔をしながらも、その体に魔力を纏わせる。
【令呪を以てーーー】
「■■■■■ーーー!!」
貴方が詠唱をしようとしたその瞬間、突然怪物の呻き声が後方の群れの中から聞こえてきた。
動揺した貴方は詠唱を途中でやめて、そちらの方向を見る。
後方の群れでは混乱が起こっているようであり、その奥では血飛沫が飛び交っているのが貴方からでも見えた。そしてその血飛沫がこちらに近づいていき、ついに貴方たちの前に、混乱の原因が姿を現した。
【あれは一体...】
貴方たちの目の前に現れたその存在は、一目で人外の存在ということがわかるものの、周りにいる怪物たちとは一線を画すような異物感を放っていた。
その体は鮮血を被ったかのように全身が赤く染め上げられ、また、触れてしまうだけで切れてしまうような刺々しいフォルムを目立たせている。
そしてそのなかでももっとも目立つのは腰に巻いてあるベルトであった。貴方はそのベルトからとんでもない力を感じたのだった。
「......」
言葉を発しない突然の乱入者に、エミヤとナイチンゲールも警戒を高める。
その瞬間、一体の怪物がその乱入者の背後に向かって襲いかかる。
しかし乱入者は背後からの襲撃に対し、まったくもって気にも留めず、ベルトのグリップに手をかけると、勢いよくそれを回した。
[VIOLENT SLASH]
乱調な機械音が流れたその瞬間、乱入者の腕に生えたヒレのようなアーマーが、長く切れ味を増して、成長した。
乱入者は襲いかかってきた怪物を最小限の動きで避けると、その首もとに成長したヒレを当て、そして
怪物の首を力強く切り裂いた。
胴体のなくなった首は収まる場所をなくし、貴方たちの足元へと転がってくる。
一連の流れを流れるようにやってみせたその乱入者は、貴方の方へにゆっくりと振り返り、そして言葉を放った。
「お前は誰だ?」
次回、特に考えてない。