エミヤ
ナイチンゲール
???
「お前は誰だ?」
小さく、低く、しかし枯れるような声に出されたその一言は、まるで反響するかのごとくその場を制圧した。
声に出した当人は視線を貴方に向けて、少しでも変な動きを見せれば殺す、とでも言うかのごとき殺意と警戒を表していた。
周りの怪物たちは、さきほどの狂気を潜めるかのように突如現れた乱入者に恐れ、怯え腰になっている。
そんな膠着状態の中、貴方は横にいるエミヤが弓を構え、赤い乱入者に向けて矢尻を向けているのが視界に入った。
【エミヤ!待って!】
【だめだ!】
貴方はエミヤに制止の声を出すが、それよりも早くエミヤの構えた矢は放たれた。
赤い乱入者の背後の怪物を射抜いて。
【あれ?】
貴方が予想した事態とは違う結果が起こり、貴方は戸惑っていると、当事者であるエミヤは何でもないように赤い乱入者へと声をかけ始めた。
「さて、そちらの問いに答えるのは簡単だが、この場では少し収まらぬぐらいにはこちらも複雑な事情を持っていてな。お前が誰かは知らんが、少なくともこいつらの味方でないのならば、同じく異形の者に襲われているもの同士、手を組み窮地を脱することも可能であると思われるが。お前はどう見る?」
エミヤは顔に笑みを浮かべさせながら、有り体に言うと協力関係の申し出を謎の乱入者に言い渡した。
エミヤの突飛な行動に貴方は驚くが、しかし悪くない提案だとも考える。あの赤い乱入者は自らと同じ、異形の怪物を手に掛け、殺した。それは少なくとも、この場においてあの乱入者は自分たちの敵であるこの怪物たちの敵であるという証左であった。ならばこの場で共闘関係を結べる可能性があると貴方は考えた。
そして、問いかけられたその赤い乱入者は、エミヤの方に向けていた顔をもう一度貴方に向けると、小さくため息をつき、返答した。
「...いいだろう。少なくとも
→【ホントに!】
【(アマゾン...?)】
乱入者の答えに貴方は喜色満面の表情を浮かべる。近くではエミヤは変わらず笑みを顔に貼り付けたままの状態にあり、ナイチンゲールはそんなエミヤを見ながら呆れたようにため息をついた。
『いいぞ、事情の分かりそうな意思のある生物とコンタクトが取れた。マスターくん、できるだけ彼のサポートに徹してくれ。好印象が残るようにね!』
音声だけで流れてくるダ・ヴィンチの言葉に、貴方はそんな無茶なと思いながら、乱入者へのサポートもできるように気を配らせる心構えを持つ。
「そら、怯え上がってた
乱入者の言う通り、さきほどから彼の登場により二の足を踏んでいた貴方の周りの怪物たちが、また貴方を視界に捉え、喉から響く呻き声を上げていた。
乱入者の言葉のところどころに貴方は疑問を持ち始めたが、今はそれどころではないと気を改めて、貴方は2人のサーヴァントに指示を与えた。
【あの赤い人に合わせて!】
→【赤々同盟の結成だ!】
「こんな時ぐらい真面目にできんのか、マスター!」
―――――
「あらかた片付いたか...大半はヤツの殺気に当てられ逃げ出したが...」
残った最後の怪物を切り伏せ、エミヤがやっとまともに一息をつく姿を貴方は視認した。
先ほどの戦闘で貴方は強い衝撃を受けた。つい前の戦闘までは、たとえ何度斬られても、銃弾を叩き込まれても、あの怪物たちは死に至るまでは決して逃げ出していなかった。それに加え数も多かったため、だからこそ貴方たちはあの怪物に苦戦を強いられていたというのに、先の戦闘ではあの赤い乱入者の凄まじい殺気と目も当てられない殺戮により、明らかに怪物たちの能力や動きが鈍っていたと貴方は感じた。さらには群れの半数が乱入者に怯え、逃げ出しているというのだ。
貴方は驚きとともに、あの乱入者が味方に加わってくれなければ、この窮地は脱せられなかっただろうと、強い感謝の念を抱いた。
「確かに。彼の助太刀のおかげで最小限の力でこの窮地を抜け出せられました。しかしMr.エミヤ。ずいぶんと危ない橋を渡りましたね」
貴方が乱入者の方に目を向けていると、ふとナイチンゲールからエミヤに向かって掛かる声が聞こえた。
【危ない橋って?】
ナイチンゲールの言葉に疑問を感じた貴方はその言葉の意味を聞き返した。するとナイチンゲールは呆れたように腕を組みながら貴方に返答する。当のエミヤは、バツが悪そうに貴方から顔を背けていた。
「先ほどの問答です。いくらマスターから
【えっ? エミヤもしかして】
【庇ってくれてたの?】
ナイチンゲールからの意外な真相に、貴方はエミヤの顔を覗き込もうとする。しかしエミヤはそっぽを向き、なおも貴方から顔を背き続けた。
「さらにMr.エミヤは彼から協力関係の同意をもらった時、とても安堵していたようでした。まったく、怖がるようでしたら最初からしなければよろしいものを...」
「そこまでにしておけよナイチンゲール! あと私は怖がってなどいない! 同盟を結べて安心しただけだ!」
ナイチンゲールの追求によりついに顔をナイチンゲールの方に向けたエミヤは、その褐色の強い肌でも分かるぐらい赤い顔をして、彼女の言葉を否定した。
「えぇ分かっていますとも。だから貴方は、素直にマスターから感謝を受け取るべきなのです」
【エミヤ】
【ありがとうね】
ナイチンゲールの言葉に合わせ、貴方は顔を向けたエミヤへ心からの感謝の言葉を送った。
エミヤはぐっ、と言葉を詰まらせると、何も言わずまた貴方から顔を背ける。
その姿を見て、貴方とナイチンゲールは小さく笑みを浮かべるのだった。
『さてさて、窮地を抜けだしての談笑も分かるが、そろそろ本題に入ろう。マスターくん、赤い彼にコンタクトを取ってくれるかな?』
【そうだった!】
【忘れてた!】
ダ・ヴィンチに急かされて貴方は赤い乱入者に足を向かわせる。もちろん2人のサーヴァントは貴方に付き、もしもの際に備えるようにしていた。
【あのー】
【助けていただきありがとうございました】
貴方は恐る恐る、赤い存在へと話しかける。当の彼は怪物を殺し尽くした後から項垂れ、こちらの方に意識を向けていなかったが、貴方に声をかけられたことにより、ようやくその顔をあげた。
「あん? あぁ...そういやお前たちもいたな...」
どうやら赤い彼は戦闘に夢中になり、こちらの存在自体を忘れていたようだ。カルデアでもそのようなサーヴァントがいることを貴方は知っていたため、苦笑しながら貴方は手を差し出した。
「っ! マスター、それは...」
暗に危険であると言いたいのだろうエミヤを押さえ、貴方はなお赤い彼へと握手を求めた。
「.........」
貴方のその手をじっと眺めていた赤い彼だったが、少しすると金属のように輝き、凶器のごとく禍禍しいその手を、貴方の手に重ねることなく自らのベルトのグリップに添えてゆっくりと回した。
さきほどの状況を見ていたエミヤとナイチンゲールは、自身のヒレを成長させたその行動に咄嗟にマスターの前へと出る。しかし、貴方たちの目の前で起きたのは、先ほどの現象とは違い、赤い彼のアーマーがボロボロとこぼれ落ちる様子であった。
「礼はいらねぇ。利害が一致したから結果的に協力しただけだからな。それよりも、お前らは何者だ?」
アーマーの中から出てきたのは、人間の姿であった。
ボロボロに引き裂かれた服装、整えられていない髪の毛や無精髭など、その様相は普通の人間とは比べようにないほど悲惨なものであったが、しかし、先ほどまでの怪物に対して、彼の姿は確かに人そのものであった。
【変身した!?】
突然の変化に貴方は目を見開いていると、貴方のそばで立体映像が開き、かのダ・ヴィンチが映し出された。
『やぁ、初めまして、赤い異形の人。いや他に名前があることは理解しているつもりだが今はこの呼び方で勘弁してくれ。我々はカルデアという組織のものだ。この世界には来てまもなく、あまりにも持っている情報が少ない。出来ればもろもろ教えてくれると助かるのだが』
ダ・ヴィンチ貴方に代わり彼にこちらの事情を説明してくれた。貴方は気を落ち着かせると、ダ・ヴィンチの言うことに相づちをつき、彼の方に視線を向けた。
「立体映像...また不思議なもんを。現代の科学のそれじゃねぇな。なるほどこれが魔術ってやつか」
『えっと、魔術の存在を認知しているのですか?』
彼の口から出た魔術ということ単語に反応し、マシュが疑問を投げる。
「知らねぇよ。ただ頭のなかに、色んなもんを詰め込まれたっていう感覚はある。...まぁいいや、付いてきな。ここじゃ落ち着かねぇし拠点に案内してやる」
そう言うと彼は腰に巻いていたベルトを外し肩に掛けて歩き始めた。
貴方たちは色々と尋ねたい衝動に駆られたが、今は彼に付いていこうと決めて、その後を追った。
【あの】
それでも貴方は、後ろ姿の彼に一つだけ聞いておきたいことがあった。
【名前、何て言うんですか?】
「...そういや名乗ってなかったな。俺の名は鷹山仁。いやアマゾンアルファの方が正しいか。好きな方で呼べ。そんで、あんたらのお察しの通り、俺はあの怪物たちの、同類だ」
鷹山仁はそう名乗ったあと、貴方たちの方へ振り向き、綺麗な笑顔を見せたのだったーーー。
誤字報告ありがとうございます。
次回、ぐだたちへの説明回