「面倒なことになったな」
ビルの一室。暗い室内でやせ細った男が虚空を眺めながらつぶやく。
「
男はそう言うと虚空から目を離し、同じ室内の隅に立っていた異形の怪物、
「彼らの扱いは君に任せる。煮るなり焼くなり食うなり好きにしたまえ。もとより、君たちはそういうことを好む存在だろう」
男が皮肉をこめて微笑を浮かべながら言うと、そのアマゾンは彼を殺気をこめて睨んだ。しかし男は何でもないように、また虚空へと視線を向けたのだった―――。
―――――
「よう、狭いところだがゆっくりしていってくれ」
【おじゃましまーす】
【古き懐かしき木造アパート!】
貴方たちを案内した鷹山仁と名乗ったその男は、古ぼけたアパートの一室の中に入ると貴方たちを部屋の奥へと誘導した。アパートの内装は外見から予想できる通りの狭さと古さがあり、家具やゴミが散乱していたが、しかし先ほどまでいた場所と違い、血や肉片がまったく存在しなかったため、貴方は少し心を落ち着かせることが出来た。
しかし鷹山を含め、4人が入るには狭すぎる間取りであったため、仕方なくエミヤが外で霊体化し見張り番をすることになった。
「そんで、まずお前らの事情から聞かせろ。俺の話はその後だ。」
鷹山はちゃぶ台の前の座布団を一つ掴み取ると乱暴に投げその上に座り込んだ。貴方もそれに倣い、座布団を取って座る。ナイチンゲールは座布団の風習を知らないからか、近くの椅子を引くと貴方のすぐ後ろに陣取り、何が起きてもすぐに対応できる状態を整えていた。
『それについては私から説明しよう。私達は人の歴史を守る魔術機関カルデアのものだ。簡単に言えば未来から来た未来人とか、平行世界からやってきた異世界人ということになるのかな。ちなみに私の名はレオナルド・ダ・ヴィンチ。知らぬものはいない、稀代の天才芸術家本人さ。』
「へぇ。で、そのなんちゃらとかいうお前らが一体ここに何のようだ」
ダ・ヴィンチのかなり端折った説明に加え唐突な自己紹介に、しかし鷹山仁はツッコミを入れることなく、話の続きを促した。その際ダ・ヴィンチが自分の名に触れられなかったことに少し落ち込んだ表情を見せたことを貴方は見逃さなかった。
『何もどうも、この現状についての調査さ。私達は未来の人理を永続させるため、その歴史の中の異物、もしくは人為的な介入を阻止する活動をしている。今現在の日本の現状、これは明らかに正史の歴史とは離れた状況であると思われるが?』
ダ・ヴィンチが鷹山に問いかけると、彼は、ふっ、と鼻で笑い、ダ・ヴィンチの質問に答えた。
「そのとおりだ。この国は既にあの怪物たち、アマゾンたちが人を食いつくしたせいで、人っ子一人いない化け物たちのテーマーパークになっちまったのさ」
鷹山はちゃぶ台に拳を打ち付けると、ギリギリと音が聞こえるほどに拳を握りしめていた。
【アマゾン...】
【それがあの怪物たちの名前なのか】
貴方は鷹山の発した単語の一つを汲み取り質問した。それは貴方にも馴染みのある言葉であり、特にアマゾネスの女王に関してはカルデアの厄介サーヴァントの槍玉に上がるため、貴方はその関連性の確認もしておきたかったのだ。
「あぁ。その気性、食欲、身体能力から因んでアマゾンという名前がついた。今思えば皮肉なもんだ。誇り高いアマゾン民族の名の付いた生物が、こんな醜い化け物になっちまうなんてな」
鷹山は声に出して笑いながらアマゾンについて語る。もしここにかのアマゾネスの女王がいたらどうなっていたか、貴方は想像に易かった。
その時、ダ・ヴィンチが映っていた立体映像から、同じくマシュが顔を見せた。
『あの一つ聞きたいことがあるのですが、お話を聞く限り、鷹山さんとアマゾンにはかなり密接な関係があると思われるのですが。それにさきほどの戦闘で見せたあの姿...あれは人の姿というよりも...』
「さっきも言っただろうが。俺はアマゾンアルファ。あいつらと同じ、化け物で、そんであいつらの、産みの親だ」
マシュが歯切れを悪く言葉を切ると、鷹山はそれに続くように言葉を繋いだ。衝撃の事実とともに。
『アマゾンたちの産みの親...それはどういう意味だい?』
看過できない鷹山の発言に、ダ・ヴィンチが詰め掛かる。鷹山は睨むようなダ・ヴィンチの視線を真っ向から受け止めると、自嘲したような笑いをまた上げ、それに答えた。
「そのままの意味さ。俺はある製薬会社の研究者だった。その研究の中で俺は人間を超える新たな生物の細胞を発見した。それがアマゾン細胞。やつらはその細胞から生み出された実験動物、アマゾンだ。」
【実験動物...】
→【鷹山さん、研究者だったのか...】
貴方の呟きを気にせず、鷹山はさらに話を続けた。
「アマゾンには人間を超えた能力があった。高い成長能力、自己回復、運動神経。その構造はとんでもないもんだった。ただ一点、人間を食う衝動があることを除けば」
気づけば誰もが鷹山の話に聞き入っていた。貴方も後ろにいるナイチンゲールさえも鷹山仁が醸し出す迫力に押されていた。
「食人衝動のある生物なんてものはこの社会の中で生まれ落ちてはいけないもんだった。だからその研究は慎重に行われたが、しかし考えられない事態が起きた。研究していた実験用のアマゾン、4000体が脱走したって事態がな」
「食人動物が社会に出れば混乱は間違いない。実験用のアマゾンには食人抑制用の腕輪が付けられていたが、その効果は長くは保たない」
「だから俺はあいつらを生み出した責任を取るために、自分にもアマゾン細胞を入れ込んで、あいつらを殺すと決めた。そのための力がこれってことさ」
鷹山はそう言うとちゃぶ台の上にさきほど使っていたベルトを置いた。貴方はさきほどと同じようにそのベルトからとんでもない力を感じた。
『うん、やはりそうか。鷹山仁。君は、人間じゃないな』
「あ? だからさっきからそう言ってんじゃねぇか」
『違う。そういう意味ではない』
ダ・ヴィンチの問いかけに、鷹山は何度も言わせるなと言いたげに煩わしそうに答えるが、ダ・ヴィンチは食い気味に言葉の意味を訂正した。
『君はアマゾン細胞が注入された人間ならざるものである、それは理解した。だがそれとは違う疑問があったんだ。マスターくん、さっきも言ったが、今まで襲いかかってきたアマゾンには魔力反応は存在していなかった。だから同じアマゾンである鷹山仁も魔力反応がないはずだが、しかしそこの彼にはまぎれもなく魔力の残滓がある。そしてなによりも、今彼が出したそのベルト、それは高出力の魔力で出来た...宝具だ』
その言葉を聞き貴方はもう一度そのベルトを覗く。すると貴方は先ほどまで感じていたそのベルトの力が、これまで貴方が会ってきたサーヴァントたちの宝具の力と似ていることに気づいた。
かくいう鷹山の方は、やれやれと頭を掻きむしると観念したように口を開いた。
「まったく、魔術師っていうのは本当のようだな。まさかそんなことまで分かるとは。そのとおり、俺はこの世界の
そこで言葉を区切り鷹山は立ち上がると、キッチンの冷蔵庫から生卵を取り出した。鷹山は卵の殻を割り、なかの黄身と白身をそのまま口に放り込むと、存分に咀嚼し、飲み込み、ようやくこちらへと振り返り言葉を放った。
「俺はサーヴァントってやつだ。...いや違うな。言い換えよう。俺はこの地獄を掃除するために呼ばれた、世界の奴隷ってやつだよ」
鷹山の言葉に貴方は掛ける言葉を失ってしまった。
次回、共闘。
※前回投稿した内容の中で敵アマゾンが逃げ出したという描写に関しまして補足説明させていただきますと、鷹山仁の持つスキルの中にアマゾン特攻の精神干渉スキルがあったため、対抗できなかったアマゾンたちが逃げ出したという設定になっております。