「■■■■■ーーー!」
貴方の前では怪物...アマゾンとサーヴァントの二人、そしてアマゾンの姿になった鷹山仁が死ぬか殺すかの戦闘を行っていた。
数の上では貴方たちの不利であったが、伊達に彼らもサーヴァントと呼ばれてなく、敵の行動パターンを理解すると前回までの苦戦が嘘だったかのようにエミヤとナイチンゲールはアマゾンたちに対応していた。
エミヤの双剣がアマゾンの両腕を裂き、ナイチンゲールの銃弾がアマゾンの頭を吹っ飛ばす。二人の鮮やかな戦いは、まさしく一騎当千の英霊のごとき手際であった。
しかし、ことアマゾンとの戦闘に限っては鷹山仁、アマゾンアルファはその上をいった。
彼の戦いは、もはや戦闘ではなく一方的な殺戮であった。
鷹山の後ろから迫るアマゾンを彼は振り返りもせずに腹に肘打ちを決めその胴体をえぐり取ると、次に横からその首を狙い飛びかかってきたアマゾンの攻撃を片足を軸に回り込むことで避け、着地際のがら空きの背後から抜き手を差し込み心臓を貫いた。そしてそのアマゾンの屍体を蹴ってどかすと、今度は二体のアマゾンが挟撃するように同時に鷹山へと襲いかかってくるが、鷹山は気にせずベルトのグリップを回す。
[VIOLENT SLASH]
乱調な機械音が鳴ると鷹山、アマゾンアルファの腕のヒレが肥大化し、途端に瞬間で生き物を殺す凶器と化す。彼はそのヒレを突き出し、挟撃してくるアマゾンに合わせて弧を描くように体を回すと、それだけでアマゾンたちの首が吹き飛んだ。
貴方はアマゾンアルファの圧倒的な戦いを見ながら、しかし心は落ち着かずにいた。
彼の戦いは正義感からや戦いの快感を求めてなどの、今までのサーヴァントが持つ信念というものがなかった。彼が持っているものは信念が変質したもっとおぞましい、執念に至っていた。貴方は、彼はアマゾンを皆殺しにするというその目的のため、それ以外のすべてをかなぐり捨てた存在なのだと、改めて認識したのだった。
「これで、終わりだな...」
戦闘は結局、貴方たちの優勢のままことを終えた。最後のアマゾンの首を跳ね、鷹山仁は小さく呟く。エミヤとナイチンゲールの方も戦闘体制を解き、武器を収めていた。
『このような事態のなかでも、君はまだその責任を背負い、一人で戦っていくつもりなのかい?』
ダ・ヴィンチが戦闘が終えた鷹山へと声をかける。
「俺はアマゾンを殺し続けるだけだ。特異点の調査なんてどうでもいい。お互い好きなことしてた方が楽だろ?」
鷹山はアマゾンの姿を解除しながら、ダヴィンチの質問に答える。なおもその決意は揺るがないようだった。
『分かった。ならばもう引き止めはしない。君は、君の道を行くとするがいい』
ダ・ヴィンチはそれだけ言い放ち、話を終わらせた。鷹山の方ももはや言うことはないようで、アマゾンたちの屍体を乗り越え、血に染まった町の方へ歩いていく。
【鷹山さん!】
貴方は歩き続ける鷹山の後ろ姿へと声をかけるが、その先の言葉が続かない。人間には重すぎる責任を背負う彼に、自分のような人間が何も言えるはずがない。でも何かを伝えたいと貴方は思った。だから貴方は脈絡もなく、ただ一つ、彼にお願いをしたのだ。
【死なないで、ください】
返答の言葉はない。さらには貴方の言葉が彼に届いたかすら定かでない。
鷹山仁はただ、ひたすらに歩き続けた。その先が地獄であるとも気づかずに。
ーーーーー
「なるほど。鷹山仁という男は守護者であったか。どおりで人でなしの面構えをしていると思ったが、合点がいったよ」
場所は血に染まった住宅街の中。貴方たちは鷹山仁と別れたあと霊脈の地点を目指すため鷹山が歩いていった先と違う道を歩いていった。
道中に貴方は部屋のなかで話した内容をエミヤへと伝える。エミヤは貴方から話を聞くと顎に手を当て何度か頷くが、その表情はまったく変わっていなかった。
【気にならないの?】
【守護者同士って仲悪い?】
同じ守護者同士で何か通ずるものがあると考えていた貴方は、エミヤの塩対応に若干の疑問を感じた。だがエミヤは、貴方の問いに対して小さくため息をつく。
「どうもこうも、守護者なんてものは各々で抱えている業や考え方などまったく違うものだ。そもそもが自らの器に過ぎる力を求めて世界に顎で使われる愚者にしか過ぎないやつらに気にかけるなど、時間の無駄どころか時間をどぶに捨てているようなものだと思うがね」
『おやおや、自虐もそこまでいくと自己へと侮蔑だね。そんなに自分のことを悪く言えるなんて、私には到底理解できないよ』
エミヤの言葉に自己愛の激しすぎる天才芸術家のサーヴァントが茶々をいれる。
「芸術を極めて英霊にまで昇華した君たちには天地がひっくり返っても分からないことだろうさ。人生なんてものは自分の進む道を取捨選択しながら生きていくなかで、どこかしらの妥協点を見極めるものだ。しかし守護者になるような連中、は才を持たないうえで己が道を突き進むため、世界に力をねだった身の程知らずにすぎない。だからこそ、その罪深き業には地獄が相応しいのだろう...」
エミヤは一瞬、表情に小さい陰りを見せたが、しかしすぐにいつもの冷静な顔に戻ると話を戻した。
「しかしあの鷹山という男はその中でも異常だ。守護者という檻に閉じこめられながらも、なおもアマゾンという存在に執着するとは、それほどまでに深い宿命を奴は背負っているのだろう」
エミヤはそれだけ言うと口を閉じる。おそらくはそれ以上は深入りしないという意思表示なのだろうと貴方は思い、それ以上の会話の続行を諦めた。
しかしそれでも貴方は鷹山仁について考え続けた。すると次にナイチンゲールから貴方に声がかかる。
「部屋にいたときから疑問だったのですが、なぜマスターは鷹山仁という男をそこまで気にかけるのですか?」
ナイチンゲールのその質問にエミヤも気になるようで、話には入ってこないが、その視線は貴方に向けられていた。貴方は答えに少し考えこむが、すぐに顔をあげて返答する。
【なんだか放っておけない】
【鷹山さん、泣いていたから】
貴方の答えを聞くと、二人は呆れた表情を見せるが、しかしすぐに口元に笑みを浮かべた。
「まったく、マスターらしいな」
「えぇ。だからこそ私たちが見張っててなければならないのですが」
二人の会話を貴方は理解できずポカンとしていると、君はそのままでいい、と言われ話を強制的に終わらされたため、貴方はいじけ気味に道中を歩いていった。
しばらく歩いていると、風景が住宅街から郊外の僻地へと変わっていく。相変わらず血の風景はそのままだったが、臓物がそこら辺に転がっていることは少なくなった。すると突然、立体映像が浮かびマシュの姿が映る。
『先輩、そのまま進んだ先の建物に、微弱ですが生命反応があります』
【アマゾン?】
【待ち伏せてるのかな?】
その報告を聞き、貴方は真っ先にアマゾンの存在を思い浮かべるが、映像の奥のマシュは首を振った。
『いえ、アマゾンにしては生命反応が小さすぎます。偽装している可能性もありますが、この波長はおそらく人間のものです』
マシュの言葉を聞き、貴方は驚きの表情を見せる。
【人間...!?】
【生きていたの!?】
貴方の驚きは当然のものだった。
この阿鼻叫喚の地獄絵図という例えが適切すぎる街のなかで生きている人間が存在するというその事実はあまりにも衝撃なものなのだった。
しかし、そこでダ・ヴィンチがマシュに代わり貴方に提言した。
『だが罠の可能性もある。ここは慎重に...』
【すぐに向かおう!】
【助けに行かないと!】
『だろうね! 今建物の構図を調べてそちらに送るから無茶な突撃だけは避けてくれよ!』
ダ・ヴィンチの提案を知らぬ存ぜぬと言うかのごとく貴方は救出を優先すると、ダ・ヴィンチは分かってたかのごとく、というか貴方の取る行動が分かっていたので、すぐに建物の場所と入口の分かるマップを貴方に送ってくれた。
貴方たちはその建物を目指し、すぐに走り出した。
少し走ると、貴方たちの目にそれらしい平屋の建物が見えてきた。おそらく以前は市民会館などに使われていたのであろうその建物は、他の建物と同じようにその壁は赤く血塗られていた。
【早く中に向かおう!】
貴方は急くが、その肩をエミヤが抑える。
「待ちたまえマスター。焦っては助けられる命も失うぞ。さきほど送られてきたマップに裏口があっただろう。そこから入るぞ」
エミヤの提案に貴方は頷き建物の裏へと回り込む。
そこでダ・ヴィンチから音声が送られる。
『裏口にはアマゾンはいないようだから大丈夫だよ。あっ、さっきみたいに潜伏してるとかの心配はしないでいいよ。センサーを改良して感度よくしたから、どんなに心拍数下げてもこちらで観測できるから』
貴方はダ・ヴィンチに小さく礼を述べると、裏口のドアをそっと開けた。中の様子を見ようとするが、薄暗く奥までの様子は見えなかった。
中へはエミヤが先行して入り、そのあとで貴方とナイチンゲールが共に入る。貴方たちは周りを特に警戒しながら奥へと忍んで進んでいった。
すると、他と比べて血で汚れていない部屋を貴方は見つけ、ひとまずそこでカルデアと連絡を取ろうと貴方とナイチンゲールが中に入り、エミヤが外で見張りを行った。
中にはいるとそこは社長や議員が使うような豪華な部屋だった。部屋の奥には大きな机や椅子があり、その前には応接用のソファーと机がある。
貴方は少し気分を落ち着かせると、カルデアに連絡を取るべく端末を出す。するとその横でナイチンゲールが部屋の隅のショーケースを睨むように見つめているのに貴方は気づいた。
【ナイチンゲール?】
【どうしたの?】
貴方が話しかけるも、ナイチンゲールは視線をその位置から外さず貴方に忠告する。
「マスターは見ない方がよろしいかと。どうしてもというなら止めませんが、おそらくトラウマとして記憶に残るものですので」
ナイチンゲールは視線の先のものを貴方に見せないように貴方の顔をアイアンクローで押さえ込んだ。ギリギリと聞こえるほど強く押さえ込まれ貴方は顔にすごく痛みを感じるが、それよりもナイチンゲールが見たものについての好奇心が勝り、目の部分のナイチンゲールの指をなんとかどかし、その先のものを覗きこんだ。
しかしその後、その行為はあまりにも愚かなことだったと貴方は思い返すこととなる。
貴方の視線の先に写ったショーケースの中には、小さな人間の頭がいくつも並んでいたのだ。
【えっ?】
貴方は思わず言葉を漏らす。
ナイチンゲールの方は見てしまいましたかと、貴方の顔から手をどかすとショーケースの方へ近づく。貴方は放心しながらも、その足はナイチンゲールに付いていきショーケースへと歩いていった。
貴方はショーケースに近づいていくと、それが本当に人の頭であることを認知していった。
【なに、これ?】
貴方は誰にでもなく問うた。
貴方が胴体のない頭を見るのはこれが初めてではない。今までの特異点のなかでも、人体の胴体と頭が離れる瞬間を見ることはいくつかあり、ラフムのようなものによる人間の虐殺される現場も、遺憾ながら貴方は見たことを貴方は覚えていた。。だからこそ、この特異点の風景もなんとか耐えることはできていたのだ。
しかし、それでも貴方は目の間にある光景を受け入れられなかった。今貴方の目の前にある顔は、貴方が今まで見たものと比べて明らかに小さかった。だから貴方は目の前にある光景を事実として受け入れたくなかったのだ。
「...はい。まちがいなく人間の頭です。この未成熟な顔つきからして、赤ん坊でしょう」
ナイチンゲールは貴方の問いに淡々と答えた。貴方の前にある人間の頭が、赤ん坊のものであると。
「ダメじゃあないカ。そのヘヤにはいっちゃア」
部屋の外で声が聞こえた瞬間、ドアと共に赤い外套の人影、エミヤが部屋の中へと吹っ飛んできた。
空中のエミヤはあわや地面に激突するかと思われたが、その直前に体を翻してなんとか膝をつく形で着地し、部屋の外へと視線を向けた。
突然の出来事に貴方は驚き、その発生源のドアのあったところを見ると、そこには恰幅のよい、それでいて鼻と耳が大きく発達し、牙の生えた怪物、ゾウのアマゾンの姿があった。さらにその後ろには同じように大きな鼻のついたアマゾンがゾウのアマゾンの後ろに付いている。
ゾウのアマゾンは部屋のなかの様子を見渡すと、貴方の姿を見つけ、その口を笑みを浮かべるように歪めた。
「ヒサビサにイキのいいヒトがきたネ。とりあえずキミ、シンサツしようカ」
眼の前のアマゾンが人語を喋ったことに貴方はもはや幾度目か分からない衝撃を受けた。
【喋ってる!?】
【これは、もしかしてあいつが...!】
貴方が考える間もなく、ゾウアマゾンは貴方のもとへと襲いかかってきたのだった―――。
次回、人間牧場