竜画狂斎伝物語   作:朱鷺羽 緒形

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やはり私はギャグを挟まないと死んでしまうらしい()


2. 熟れた恋の果実は腐るまでが新鮮

 

ドンドルマの中心街から少し離れた場所に存在する小さな一等マイハウスにハルは住んでいる。

大長老から特等に住むようにと言われたことがあったが、特等は住むのに広すぎるという理由でやんわり断った。

 

ガリ、ガリ、ガリ、とわざわざユクモ村から取り寄せたユクモヒノキを削る音が響く。

ユクモヒノキはユクモ地方では武器や防具にも使われるくらい頑丈な素材となっている。 そのため木炭にも適しているのだ。

強い力で描いても折れにくい、長い間使っても廃れないがユクモヒノキ産の特製木炭、ハルはそれを自分の手で製作している。

 

芯まで炭化させねば木炭は完成しない。 一瞬の超火力で朽ちない程度に、それでいて弱すぎないように調整をする必要がある。

そこで知り合いの鍛冶屋が譲ってくれた携帯マグマというものを使う。 本来は加工用に使われるもので火山地帯のマグマをそのまま持ってきたものだ。

マグマの温度を保温する特殊な容器の中に小さく切断したユクモヒノキを投入し、じっくりと熱した後に取り出す。 ジュワァ、という音と共に凄まじい熱蒸気がハルの顔をモクモクと覆い尽くす。

 

「.....ふぅ」

 

汗を拭い、炭化したユクモヒノキ、名を改め【ユクモクタン】を火山地帯の熱に耐え抜く爆狼の毛皮を素材としたタオルの上に置く。

鉄や鎧竜を素材にしたものでは、熱伝導で床が焼け焦げてしまう可能性がある。 それに対して爆狼の毛皮は熱を逃がす作りとなっているので木炭を干しておくには最適なのだ。

 

仕事のない日はこの作業を午前に済ませてしまい、午後からは買い出しと趣味の絵描きをする。

古龍観測所は基本的に古龍が現れるのを予知する竜人族の占い師が忙しいだけの機関になってる。 古龍が現れてからは観測隊が動くこととなっており、ハルは後者だ。

で、あるからして今日のハルはほぼオフの状態なのである。

 

「ニャ、先生! 昼食ができましたニャ!」

「あ、ありがとうっす! 地味に待ってたっすよ!」

 

綺麗なレモン色の毛並みをした板前姿のアイルーが部屋の奥から肉料理を両手に持ちながらトテトテとハルの近くまでやってくる。

 

「今日は何の肉使ったんすか、スプリー」

「今日はガーグァのモモ肉ですニャ! ちょうど市場で安く取り揃えられていましたので、買えるだけ買ってきましたニャ!」

「.....ありがたいっすけど、肉ばっかだと体重増えちゃう気がして仕方ないんすよね。 次は野菜料理とかどうっすか?」

「検討しときますニャ」

 

オトモアイルーからキッチンアイルーに転職し、修行は続けてるものの肉料理以外の腕が中々上達していない。

スプリーが肉好きだということも大きく影響してると思われるが、こうも肉料理が続くとハルの体重が増えてしまう。

ハルだって年頃の女の子である、気になるものは仕方ない。

 

「いただきます」

「ニャ!」

 

それでも生きていれば腹は減る。

マグマの熱に比べればこんなの熱くもなんともないとハルは一気にがっつく。

 

「あふい!?」

「そりゃ、焼きたてだからニャぁ」

 

ガーグァのモモ肉を使ったローストビーフのようなもの、これが今回のメニューだった。 というか、5日前にも食べた気がする。

 

「それで先生、また無茶をしたニャ?」

 

先日、神域にてアルバトリオンが出現して現地に赴いたことに関してスプリーはまだ怒ってるようにも見える。

仕事に行くとだけ告げて、内容を言わなかったのだから心配するのは当然のことであった。

 

「そ、そんなことないっすよ、竜画家の仕事として現場に赴いただけっす!」

「それが無茶だと言ってるニャ! 竜画家さんは現場で描かないニャ!」

 

そう、本来竜画家とは狩りの現場に向かうことはない。

モンスターの死体や捕獲してきたモンスターを細部まで描くことが外的資料を作る竜画家の仕事である。

 

ハルのように実際にフィールドに行き、モンスターの姿を描くという者の方が珍しい。

 

「それでもね、スプリー」

「ニャ?」

 

「–––これだけはあたしの譲れないところなんすよ。 モンスターの生きた姿をありのままに描く、そのためにはあたし自身がモンスター達と向き合う必要があるんす」

 

それこそが竜画家ハル・リットナーの信条。

たとえ天地がひっくり返ようと、ドンドルマにダマ・アマデュラの群れが攻めてきたとしても曲がることはない。

 

「.....それで先生が死んじゃったら意味ないニャ、ボクの目の届かないところでどうか無茶だけはしないでほしいニャ」

「大丈夫っすよ、心配しすぎっす」

「で、でも」

「スプリーがうちで待っててくれるだけであたしは死ぬわけにはいかないっす、大事な相棒を置いていくなんてごめんっすからね! あの時約束したっすよね、あたし約束は守る方っす」

 

にっこりと笑いながらハルはスプリーを抱き締める。

 

「先生.....」

「ごちそうさまでした、と! さて、明日のためにも今日は早めに作業を終わらせるっすよ! スプリーにも手伝ってもらいたいっす!」

「まずは食器と部屋の片付けからニャ」

 

この猫中々痛いところ突いてくる。

渋々と皿洗いを手伝うことにした、こうでもしないとスプリーの機嫌は中々治らない。

 

「そういえば先生、明日はなにかお仕事かニャ?」

 

スプリーはハルのスケジュールは把握してない、というかできてない。

お互いにお互いの仕事が忙しいということもあるし、古龍観測所に所属している故にいつどこで古龍が出現するかわからないためハルの仕事は不規則になることが多い。

つまり、収入が安定しないのだ。

 

「明日は仕事じゃないんすよ、ちょっと友達に会いに行くんす」

 

ふふふ、と嬉しそうに笑うハルは鼻歌を歌いながら皿洗いを進めた。

つられてスプリーも鼻歌を歌い始める。

 

「ソフィアちゃん、元気してるっすかねぇ」

「.....あの女まだ生きてたニャか」

 

スプリーの態度が辛辣である。

 

 

 

「ハルちゃーん! 久しぶりー!」

「ソフィアちゃーん! おひさっすー!」

 

ガシィ、と出会って早々熱い抱擁を交わす。 ソフィアの所属してる『我らの団』がしばらくドンドルマに滞在するとの文通のやり取りで知り、会おうと約束したのが一週間前。

いいよ!と返事がきたのがハルが神域から帰ってきたときであった。

 

ドンドルマの中心部にある『我らの団』の簡易拠点で待ち合わせていたのだ。

場所もわかりやすいし、地の利に詳しいハルが動くだけで済むため出会えないというアクシデントも起こらない。

お互いにとって都合がよかった。

 

「聞いたよー、アルバトリオンと会ってきたんだって? 羨ましいわ、このこの!」

「相変わらず情報早いっすね、裏ルートでも使ったんすか?」

「ふふふ、それはアルセルタスとゲネルセルタスの仲であるハルちゃんにも教えられないなぁ」

「.....その諺の使い方合ってんですかねぇ」

 

セルタス夫婦やレウス夫婦という諺は聞いたことある。

しかし、どちらかというと悪い意味に使われるような気がする。 少なくともセルタス夫婦はそういった意味合いで使われる。

 

「まぁ、お互い積もる話もあるし、料理長の料理でも食べながら飲みましょうぜ」

「昼間から飲む気っすか」

「もち! ぐいっといっちゃおー!」

 

飲む前から酔っ払いのテンションとなってしまったソフィアに対して面倒くさいと本気でハルは思ってしまった。

 

「注文はお決まりニャルか?」

「黄金芋酒二つ!」

「.....仕方ないっすねぇ」

 

ここまで来てしまえば諦めるしかない。 こうなってしまえばソフィアはヤマツカミの吸い込みでも動くことはないだろう。

 

「お待たせニャル!」

「早!?」

「ソフィアはともかく、お客様をお待たせするわけにはいかないニャル」

「ちょっと〜、それどういう意味〜?」

 

料理長が逃げるようにして厨房へと走り去って行ってしまう。

ソフィアは黄金芋酒の片方をハルに手渡すと、乾杯を促してくる。

ハルはソフィアの乾杯に応えるため、容器を天に掲げる。 お淑やかな女子会には程遠い豪快な乾杯となった。

 

「それで、あんたまだキースの野郎のこと好きなの?」

「ま、まだってなんなんすか!? あいつのこと、そんな風に想ったことなんて一度もねぇっすよ!!」

「ふーん」

「そ、そういうソフィアちゃんはどうなんすか!? 初恋の彼とは出会えそうなんすか!?」

「そう! それ、私がソフィアちゃんに会おうと決めた理由の一つ!」

「ふぇ!?」

 

もう既に酔っているのか、それともただ単にテンションが上がっているのかわからない。

ソフィアはハルを押し倒す。

 

「ちょ、ちょソフィアちゃん!?」

「ふふふ、そうよ! 実はあなたに頼みたいことがあったのよ!」

「え、えっちぃことはダメっすよ! あたしら親友っすよ!?」

「わかってるわよ、実はね–––」

 

ハルの耳元でソフィアは"頼みごと"を周りに聞こえないくらい小さく囁いた。

 

 

 

「まったく、ソフィアちゃんの頼みとはいえ火山に来ることになるんならマグマの容器空けとけばよかったっす」

「いやぁ、さすが火山! 暑いっすね、サクッと終わらせてソフィアさんに惚れ直してもらうッス!」

「紛らわしい語尾っすね、あまり喋らないでいてもらえますか?」

「それはあんまりッス!!?」

 

絶え間なく流れ続ける溶岩のせいで地形までもが変わってしまった火山地帯。

人間が歩けるような場所は少なく、自然に負けて住処を奪われた場所と言っても良い。

 

そんな場所にハルは仕事として足を運ぶことになった。 もちろん竜画家としての仕事である。 依頼主は友人であるソフィアだが、金が発生したため依頼となった。

そして、護衛役として筆頭ルーキーを名乗る青年が名乗り出た。

 

『そういうわけで、私としてもスチルを永久保存したいわけよ〜』

『.....まったく、緊張して損した気分っすよ』

『怒らないでよ〜、ごめんってば! 護衛も付けるからさ、お願い! ね?』

『し、仕方ないっすね。 そ、それで護衛というのは?』

『–––実はね、最近私の書いたものにファンができたのよ。 ハンターさんなんだけどね』

 

そして現れたのがこの男であった。

名前は直接聞いてないのでわからないが、周りが「筆頭ルーキー」と呼んでいたのでハルもそこに乗っかる感じで呼ばせてもらってる。

着慣れたハンターSシリーズに加え、片手剣を装備している。

 

「それ[封龍剣]っすか?」

「お、ハルさんわかるんスか? ご名答ッス! あのゴア・マガラと戦ったときの–––」

「ルーキーさん、静かに!」

「ど、どうしたんスか!?」

「–––ターゲット発見っす、予定通り様子を見て暴れるようなら牽制をお願いするっす」

 

ブラキディオス。

ソフィアの初恋の相手にして、今回のターゲットである。

ハルの仕事はブラキディオスのスケッチ、筆頭ルーキーの仕事はブラキディオスの狩猟。

それぞれの仕事が重なったということもあって今回二人で行動することになった。

 

ハルと筆頭ルーキーは岩陰に身を潜めながらブラキディオスの様子を窺う。

 

「.....まだ気づいてる様子はないッスね」

「なら好都合っす、あたしの仕事は少し時間が掛かっちゃうからルーキーさんは退屈しちゃうかもしれないっすね」

「気にしないでいいッスよ! 俺もこんな間近で竜画家の仕事を見れること滅多にないッスから! 勉強にさせてもらうッス!」

「とりあえず、声のボリュームは下げてもらえると嬉しいっす」

 

獣竜種は音に敏感な個体が多い。

まだブラキディオスに気づかれてないからいいが、気づかれてしまえば逃げ切れる自信はない。 意外にもブラキディオスは俊敏なのだ。

もう少し高い位置に行きたかったのだが、あいにくこの辺りにそういった場所は見当たらない。

 

ハルは既にセットされま羊皮紙と画板を鞄の中から取り出す。

膝の上に画板を固定し、双眼鏡でブラキディオスの身体の構成を大まかに確認する。

 

「.....この距離で大丈夫なんスか?」

「本当ならもう少し近づきたいんすが、万一気がつかれたときにブラキディオスの素早さじゃすぐにやられちゃうっすからね」

「なるほど、てかハルさんなんでそんなにモンスターに詳しいんスか?」

「教養の範囲内っす」

 

一般的な獣竜種と比べて、首から背骨にかけて真っ直ぐと筋が伸びているのが大きな特徴と言えるだろう。 ボルボロスは頭が中心線より少し上であり、ドボルベルクはその反対である。

対してブラキディオスはその二匹の中間にあたるといってもよい。

 

長さ10cm程、太さ1.2cmの【ユクモクタン】で羊皮紙に外観の線を描いていく。 ハル特製の【ユクモクタン】は筆圧や硬さ、持ちやすさといったあらゆる面でハルが一番使いやすいと判断した作りとなっており、作り方自身も本人が一番心得ている。

芯が少し固めになっており、中心から外側に向かうにつれて柔らかくなっているのが特徴的である。

 

(.....あの腕についた粘液みたいなやつ、見た感じあまりネバネバしてなさそうなんすよね)

 

どういう原理で分泌されてるかは謎だが、粘菌の触り心地はしつこい感じではなくプルプルとしたゼリーのようにも思える。

ハンターとして活動してた頃の経験だ、もちろん個体差はあった。

 

緑色の粘菌が分泌される両腕の細部まで描くのは難しい。 狩猟に成功した際に細かく観察することにしよう。

 

「ルーキーさん、あの粘液糊に使えないっすかね?」

「.....ちょっと無理があると思うッス」

「そだねー」

 

ブラキディオスは周囲を警戒するようにして歩いている。 鼻先を地面に近づけていることから、食糧を探しているようにも見える。

 

「やっぱり足腰も柔軟っすね、あんなに曲がるなんて」

「素早い要因の一つかもしれないッスね、俺一回ブラキディオスに飛びかかられたときあったんスけど、結構痛かったッス」

「そう考えると、あの前傾姿勢は走るためのものみたいなもんなんすかね」

 

ほどよく発達したブラキディオスの脚筋を描きながら考察も進める。

尾はそこまで長くないが、形が独特なものとなっている。

 

–––ザッ、ザッ、ザッとブラキディオスを観察する二人の前に足音が近づいてくる。

 

「グルルルル」

「イーオス!」

「俺が追い払うッス! ハルさんはそのまま続けといてください!」

 

そう言うと筆頭ルーキーは[封龍剣]を抜き、イーオスに斬りかかる。

複数で攻めてきたイーオスは筆頭ルーキーを翻弄するように動き回り、リーチの短い片手剣では中々攻撃が当たらない。

 

「この、クソ!」

「わ、ちょ! 毒液飛んできてるっすよ、もう少し離れて戦ってもらえませんか!?」

「んな器用なこと、俺にはできねぇッス! ハルさんはブラキディオスの様子を頼むッス!」

「ルーキーさんあたしの護衛っすよね!? なんで自衛する羽目になってんすか、あたし!?」

 

やはり人選を間違えたのか、このままでは仕事にならない。

 

「–––ギュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

「ちょ、ブラキディオスこっちに気づいちゃいましたよ!? ルーキーさん、ここは一旦徹底するっす!」

「何言ってんスか、ここで俺が華麗にブラキディオスを倒してやるッスよ! ソフィアさんからはなるべく捕獲にしろと言われてるッスけど!」

「その前にイーオスを追い払ってくれないっすかねぇ!?」

 

ハルの制止の声も聞かずに走り出す筆頭ルーキー、余程の自信があるのか目に輝きがある。 否、輝きが溢れすぎて全身燃え滾っているように見える。

 

 

「–––俺の魂の一撃! 恋敵への一身一刀! くらうッス!」

 

 

力尽きました。

ベースキャンプへ戻ります。

 

 

「.....なーにやってんすか」

「む、無念ッス」

 

その場に留まっては危ないと判断したハルは一足先にモドリ玉でベースキャンプへ戻っていた。

案の定、一分も経たぬうちに筆頭ルーキーはアイルー達の猫車によって粗雑に扱われる羽目になった。

 

「ブ、ブラキディオスがあんなにも強かったなんて!」

「ブラキディオスはギルドでもかなり危険な部類に指定されてるモンスターっすよ、あんな正面突破じゃぜってー勝てないっす」

「ぐぬぬぬ!」

 

やはり人選を間違えたかもしれない。

 

「それでハルさん、スケッチの方は!?」

「まだ途中っす、ブラキディオスも刺激してしまったから、このまま生きたまま描くのは少し難しいかもしれないっすね」

「.....そ、そッスか」

 

ハルの絵の拘りは実際の自然に生きて動いている姿をそのまま描くことにある。

イーオス達の邪魔が入らなければ、とは思うがあれもまた一種の自然だ。 ハルにとっては脅威さえも描く対象として捉えれる。

 

「しかし、やはり侮れないっすね、あんな予想不能の事態、ふふふ、心揺さぶられるっす」

「ハ、ハルさーん?」

 

「とにかく! もう一度アタックを仕掛けたいところっすけど、ブラキディオスはあたし達の匂いを覚えてしまってるはずっす。 時間が経てばいいっすけど、クエストの時間的にも火山の滞在時間的にも厳しいところっす」

「それは、そうッスね...」

「ルーキーさんはどうするべきだと思うっすか?」

「.....危険を承知でも行くッス」

「その心は?」

 

「–––リベンジするなら早いに越したことはないッス!!」

 

ドーン!と筆頭ルーキーの背中が爆発のエフェクトが出現しそうな勢いだった。

 

「は、はぁ」

「あいつも俺の顔を覚えてるってことッスよね、つまり! 覚えてるうちにあいつと戦わなきゃ、リベンジの意味がないッス!」

「そういうもんなん、すか?」

「そうッス! 行くッスよ!」

「ちょ、待っ!?」

 

–––その後、クエストはなんとかブラキディオスを捕獲することができたため、成功となった。

しかし、筆頭ルーキーはさらにもう一度力尽きた上に捕獲用麻酔玉を持っておらず、素材集めに奔走したことを記載しておく。

 

 

 

「.....たしかに、これは糊としては使えそうにないっす」

 

こっそりと回収したブラキディオスの粘菌を使えないものかと試してみるも、糊としての実用性は皆無だった。

ビン二本分も詰め込んで持って帰ってきてしまったため、何か使えるものはないかと思索する予定である。

 

粘菌を入れたビンを置き、依頼の品をソフィアの元へと届ける。

捕獲した後でギルドの職員さんに頼んで鱗や腕の細部を描くのに剝ぎ取りを遅らせてもらったのだ。

実際に動いていたブラキディオス、しかも筆頭ルーキーのお陰で互いに殴り合うような絵もできたのだ。

今回描けたのは合計三枚、上々といったところである。

 

「ソフィアちゃーん! お待たせっす!」

「あ、ハルちゃん! お疲れ〜、それとありがとうね〜!」

「ハルさん! お疲れ様です!」

 

何故か筆頭ルーキーさんもその場にいた。

 

「.....ルーキーさん、怪我はもういいんすか?」

「回復薬と酒飲んだら治ったッス!」

「そ、そうっすか」

 

なんという圧倒的回復力。

回復速度スキル涙目である。

 

「そんなことより、早く早く! 私のフィアンセの勇姿を見せて!」

「落ち着くっすよ、焦らなくても絵は逃げないっすから」

 

ハルは笑いながらソフィアに今回の依頼であるブラキディオスの絵を手渡す。

金は事前に受け取っているため、ハルが渡すだけとなった。 ちなみにこの後飲みに行く約束をしている。

 

「うーん」

「どうしたんっすか?」

「いや、もう少しここをさ、ちょっとペン借りるわね。 ここを、こう」

 

ソフィアはブラキディオスの絵にペンで何かを描き始める。

そう、ハルの描いたブラキディオスの絵にペンで何かを描き始める。

もう一度言おう、ハルが描いたブラキディオスの絵にソフィアがペンで何かを描き足すように羽ペンを走らせる。

 

「.....は?」

「こう、ね。 もう少しこういう感でもいいかなぁ、なんて! 素敵!」

 

そこにはキラキラに美化されたブラキディオス、もといハルの描いた野生的なブラキディオスの原型はほとんど留めてなかった。

 

「–––おんどりゃ、なにしとんじゃボケー!!」

「ちょ、えぇ!?」

「いくらソフィアちゃんといえどやっていいこととアカンことくらい区別つくでしょうが! ちょ、ないわー、ソフィアちゃんまじないっす!」

「いやいやいや、私としてはこうだから、私のブラキディオス像はこうだから何の問題もないのー!」

「てめぇの解釈押し付けてんじゃねぇよ!」

「なによー!」

「このー!」

 

ポカポカポカと殴り合いに発展してしまった。

ハルのあまりの気迫に筆頭ルーキーは動けずにいた。 そこを通りかかった筆頭ガンナーが筆頭ルーキーの肩にポンと手を置く。

 

「–––恋はね盲目なのよ、周りに迷惑をかけても気づかないものなの」

「は、はぁ」

 

恋する乙女、ことソフィアの暴走は止まることを知らなかった。

その中心である今回捕獲した砕竜ブラキディオスのギルドの指定した金冠サイズの大物であったというのはまた別の話。




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