アズレンスルホン酸ナトリウム   作:サッドライプ

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「た、たぶん……」が超可愛いドジッ子おねえさん。
 混ぜるな危険。

 あ、今回暴力的な表現があったりなかったりするかもしれないのでご注意。
 前半のグロリアスの扱いにもやっとした場合は後半読まずにブラウザバックした方がいいかも。



グロリアス/山城改

 

 港を照らす太陽が西に大きく傾いてきた時間帯、あなたは一枚の報告書に目を通していた。

 報告書というよりは日誌に近い様式と記入内容だが、一応全ての指揮官に毎日の記入が求められているらしいので、船長の航海日誌さながらこの紙ぺらの一枚一枚がいざという時は重要な資料になるのだろう。

 とはいえ、文字通りの日常業務にそこまで気合を入れることもなく、普段なら秘書艦に記入を任せて盲番の決裁だけで済ませたことだ。

 だが、その日あなたはたかが一枚紙の日誌を確認しながら、猛烈な違和感に襲われていた。

 

 日付や曜日―――問題ない、今日のものだ。

 各業務の割振担当者―――問題ない、全員自身で声をかけた記憶がある。

 行った作戦内容や戦果、消費した資源―――問題ない、ついさっき処理した書類と同じ内容だし、そもそも今日の作戦行動はせいぜい哨戒と漸減工作程度のものだったので話の膨らませようが無い。

 

 問題ない、問題ない、問題ない………だからこそ、そこには大きな違和感が発生し、あなたは何度も何度も紙の上に目を滑らせることとなる。

 そう。

 

 

――――グロリアスが書類をミス無く仕上げてる、だと……!?

 

「指揮官、その言い方はあんまりなのでは……?」

 

 

 トリコロールカラーのレオタードという派手な衣装で包まれた肢体のその豊かな胸元で悩ましく拳をきゅっとさせながら、まつ毛の長い眼を憂鬱そうに細める美女が上目遣いであなたを責める。

 巡洋艦、と言いかけて正規空母と言い直した事故紹介を初対面時に行った彼女の銘はグロリアス。

 腰まで長く伸ばしたさらさらの金髪が麗しい乙女にそんな表情をされれば、並大抵の男ならくらっと来てご機嫌伺いに走らざるを得ないだろうが―――あいにく周囲に美少女しか居らずしかも彼女達に適当極まりない対応ばかりしているあなたが相手であった。

 

 

 いや最近グロリアスが秘書艦の日は「今日は何ミスったのかなー」って探すのが楽しくて。

 ほら、自分よりアレな子がいると安心するじゃん?

 

「アレ、の内容は敢えて伺いませんが―――爽やかに笑って言うことじゃないと思います……」

 

 爽やかに笑って流してもらえてる子がなんか言ってるー。

 

「うう」

 

 

 今あなたは割とダメな上司である。

 

 まあ、グロリアスに仕事を任せると、目立つ表題で誤字っていたり同じ書式の使い回し時に日付を更新するのを忘れていたり、連絡事項を参考の送り先を飛ばして送信していたりなど、フォローは利くがしょーもない類のミスがどこかしら出てくるあたり言われても仕方ないと言えば仕方ないが。

 根が生真面目な彼女は毎回慌てたりしおらしくしながら真剣に反省するので、叱ることもなく放置しているのだが、たいてい注意力散漫に起因するミスなので反省が生かされているかといえば否であった。

 

 これが日常的にあなたの傍で繰り返されていれば腹も立つだろうが、当番制の秘書艦が特定の子に回ってくる頻度などさして多くない。

 彼女を弄るネタにして勘弁してやるかと思う程度の、いわゆるご愛敬の範疇だった。

 

「私だって、学習します。何度も同じ過ちは繰り返しませんっ!」

 

……まあ、努力は認める。

 

 だがこの時に限ってはきちんと仕事をしたわけで。

 拗ねたようなドヤ顔なような、微妙に判別に困るきりっとした顔で背を軽く逸らす彼女が距離を詰めてくるのを、頭を撫でて迎えた。

 

「ふふんっ」

 

 元から機嫌自体はそこまで下降していなかったのか、鼻息を荒くしつつグロリアスはあなたの掌の感触を頭で受け止める。

 ちょうどそんなタイミングでそれは起こった。

 

「――――!?」

 

 轟音。

 金属製の何かが大きく拉げる音が、幾重もの壁を貫いて執務室にまで響いてくる。

 すわ敵襲か……という焦りは、しかし指揮官なんて商売をやっている内に感じ取れるようになってしまった戦場の臭いというものが全く無いため否定される。

 

………今の、脱衣所の方から?

 

「そうですね。さっき見回った際にいつもより洗濯物の量が多かったので、通りがかった山城に片づけるのをお願いしていだだだだだっ!!?」

 

 グロリアスの悲鳴で、あなたはふと手を拳の形にして彼女の頭頂をぐりぐりしていたことに気が付いた。

 気が付いたので、更に力を込めてそのつむじを凹ませんと頑張ることにする。

 

「いだ、痛いです指揮官!?やめてくだ、にゃ~~~!」

 

 

 やっぱりグロリアスはグロリアスだったよ………。

 

 

 悶絶する彼女の奇声をBGVに、溜息を吐きながらもあなたは様子を見に行くこととその足で後始末に駆り出される覚悟を決めるのだった。

 

 

 

…………。

 

 で。

 

「殿様ぁ………。違うんです」

 

 何が違うって?

 

「すいっちを押したのに、ぴー、ぴー、って言って洗濯機が動かなかったんです。

 壊れたのかな、って思って、ちょうど水場だったので艤装を喚び出したんです」

 

………いや、なんで?

 

「こういう時には斜め45度からちょっぷすればいいって聞きました!

……でも素手で叩いたら痛そうなので、どうしようかなって考えたら―――」

 

 戦闘モードに入れば痛くないと。

 

「はいっ!!」

 

 はいじゃないが。

 

 代わりに痛い思いというか、中の洗濯物をプレスするような形で凹まされた業務用洗濯機を見やりあなたは頭を抱える。

 見よ、これが戦艦山城だ。

 

 黒地に金糸の刺繍が煌びやかな振袖を纏った、結構胸の大きいショートボブの快活そうな猫耳少女―――が軽い気持ちで生み出したのがこのスクラップである。

 控えめに言って眩暈がしそうだった。

 金額的にも、この人里離れた基地に代替機なり交換機なりが届くまでの期間的にも、その間女所帯の大量に溢れる洗濯物をどう処理するのか的にも。

 

「殿様ぁ~~」

 

 とりあえず言い訳より先に言うことあるんじゃねーの?

 

「ぁぅ。ごめんなさい」

 

 この分だと中に入ってた服は全部ダメになったくさいから、持ち主全員に謝っとけよ。

 

「は、はいっ」

 

 諭すように言うと、猫耳をしゅんと縮こませながらも素直な返事が返ってきた。

 ちょっとおつむが弱いのと暴走すると洒落にならない火力を持ち合わせているだけで、悪い子ではないのだ。

 

………それで済ますにはちょっと被害がバカになっていない。いない、が。

 

―――あまりぶち切れる気分にもならないんだよなー。

 

「とのさま、とのさまぁ……」

 

 溜息をつくあなたに気弱な子犬のように縋り付く猫耳戦艦に対し、実のところ激しい怒りは覚えていなかった。

 それは確かに今にも泣きそうな表情で上目遣いに見られたら庇護欲が湧かないでもないが、それでこの惨状を水に流せるほどハッピーな頭はしていない。

 ではどういうことかと言えば―――室内用の躾をしていないペットを連れ込まれて部屋を破壊されたら、怒るべきはペットじゃなくて連れ込んだ奴の方というのがまあ常識的な判断なわけで。

 

 戦力としてならともかく、部下としてあなたの仕事の手伝いを山城には正直期待していない。

 手伝いをさせて却って余計な手間を増やすくらいなら放し飼いにして気が向いた時に構う、そんな愛玩動物の扱いみたいなスタンスは彼女のドジッ子ぶりを見て早々に確立させていた。

 

 山城としても今捨てないでね?と必死に眼で訴えているように、それこそペットのごとく殿様殿様とあなたに懐いてくれているし、気をつけるべきところをちゃんと弁えていれば割とそれで上手く回るのだ。

 弁えてさえいれば。

 

 というわけで、弁えてないグロリアス。

 

「は、はいッ!?」

 

 あなたは発言を禁じて後ろに控えさせていたグロリアスに言い渡す。

 

―――君は今非常に疲れているようだ。

 

「はい、いえ、あの指揮官?」

 

「殿様……?」

 

 突然の回りくどい前置きに前後から訝しげな声が上がるが、無視して続ける。

 

―――俺の手伝いとか日々の戦闘とか、主に生きることにとか、それはもうとっっっっても疲れてるんだろうなー、と今回のことで思ったわけだ。

 

「疲れてなど………あれ?もしかしてなんですけど指揮官、私に怒ってたり、します?」

 

 あははは。

 だから山城、あいつに全力でマッサージしてやれ。それで罰ゲームってことにしといてやる。いいか、全力で、だぞ?

 

「殿様……っ!はい、山城、全力で頑張ります!!」

 

「待っ、そんな、いったい何故……!?」

 

 罰ゲームさえこなせばあなたに許してもらえると理解して安心し顔を綻ばせる山城。

 困惑する間にあの元洗濯機と同じ有様にされると理解して硬直し顔を青ざめさせるグロリアス。

 

 そこそこ極端な対比を眺めながらあなたは脱衣所備え付けのベンチに寝そべるようグロリアスに命令した。

 指揮官の命令は、絶対である。

 

 あー山城、マッサージは痛いくらいが効くらしいから、グロリアスが悲鳴挙げても遠慮なく続けてやれ。

 

「はい殿様!大丈夫です、マッサージは山城はこれからもっともっと上達するって姉様に褒められたことがあります!」

 

「山城、それは遠回しに今の腕前の保証を全くしていないですからね!?」

 

 背もたれも無い簡易ベンチにレオタード姿のスタイルの美人がうつ伏せに寝そべるが、あいにくあなたは処刑台に掛けられて慄く囚人に興奮する嗜虐性癖は持ち合わせていなかった。

 よってただ粛々と刑が執行されるのみである。

 

 そうだな、これだけだと可哀相だし、明日から指揮官権限で“栄光の手【ハンズ・オブ・グローリー】”とでも二つ名を付けてやるか。

 

「わあ、グロリアスさん、カッコいいですね~!」

 

「え、それ確か呪術に使う死体の腕のこと―――」

 

 

「山城、殺れ」

 

「えいやっ」

 

 

「―――っっっにゃああああああああああああ~~~~~~!!!!?」

 

 

 ぼき。ぐき。ぐにゃり。

 

 およそ真殺死【マッサージ】に相応し過ぎる効果音を躰で奏でながら、その伴奏に合わせて悲鳴を歌うグロリアス。

 咄嗟にだろうか、縋り付くように伸ばした腕が、あなたのフォローという名の追い討ちに呟かれた言葉と奇妙に符合するようだった。

 

 ちなみに。

 

 山城が洗濯機を破壊した轟音で暇していた艦達が野次馬に集まっていた為、邪気の欠片も無い笑顔でグロリアスの身が圧搾されるこの光景が公開処刑であったことを記しておく。

 

 彼女の魂に安らぎあらんことを、アーメン。

 

 

 

 

※死んでません。

 

 

 

 





 なんていうかごめんなさい。
 書いてる内に変な境遇が固着するキャラっているよね。
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