祝☆ネルソンおねーちゃんお着換え!
新規ボイスは付かなかったけどサブイベも主役の一人だったしロドニーも出番あったから満足。
………いやもうぶっちゃけ公式から忘れられた子扱いだったのかと思ってた。
日本語が変なのも相変わらずで何より()
おもしろいものが見られると思いますよ―――いかにも悪戯げな笑顔を浮かべたロドニーに教えられた場所に、彼女は立っていた。
仮にも軍事施設なこの港、だがそこに詰めているのは基本的に見た目相応の少女然とした情緒の娘が殆どなわけで、しかもそのトップたるあなたが悪ノリする性質である。
色々と理由を見つけては騒ぐ口実にすることも多く、催し事には事欠かない。
何せ外からの刺激なんて大抵がセイレーン関係の物騒な凶報のご時世、自分達で定期的に盛り上がっていかないと空気が淀む、というある種切実な事情もなくはなかった。
が、まあそんな背景は今回関係ないのでさておくとして、この日口実にしていたのはハロウィン。
なんぞそれ……と重桜の子達がぽかんとしているのを尻目に基地のあちらこちらに飾られていくお化けカボチャのオブジェ達、そして西洋のホラーものの仮装を楽しそうに用意していく娘たち、そして商機に目を血走らせて荒ぶる明石。
何を勘違いしたのか扶桑がなまはげの装束を持ち出してユニコーンがガチ泣きしたとか、それ以来頻繁にあなたに「ユニコーンはわるい子、じゃないよね……?」と切実な眼で確認してくるようになったとか、例によって諸々のドタバタは始まる前から頻発していた。
で、あるからして祭り当日は大騒ぎだ。
別に軽トラを横倒しにしたりはしないが、はしゃいで走り回る駆逐艦達の口に片っ端から菓子を放り込む作業があなたを待っていた。
「ちょっと言い方に語弊がある気もしますが。いつもの指揮官節ですねー?」
概ね間違ってはいない。で、なんで後ろから俺の目ふさいでんの?
「うふふ。だーれだ?」
……すまない。
「えっ?」
面白い返しが咄嗟に浮かばなかった……!
「……別にロドニーはそんなの期待してたわけじゃないですよ?」
答え言っちゃってるし。
「あ。もう、指揮官ってば」
祭用に飾り付けを許可した区画、その隅っこで休憩していたあなたに絡んできたのは、銀髪長身の戦艦少女。
ぐだぐだのやり取りの末に瞼にあてられた掌を解きながら振り返ると、少しだけ眉を不満そうに歪めた美貌が結構近い距離で出迎えてくる。
で、お前もお菓子ねだりに来たのか?
「そのつもりだったんですけど……つい指揮官に悪戯しちゃったんですよねえ」
どういうこと?
「……あれ?今日って指揮官にお菓子を『あーん』してもらえるか指揮官に好きにいたずらするか選べる日ですよね?」
概ね間違ってるよポンコツ戦艦。
「あらら……?」
わざとらしくてへぺろする温和そうな顔して割と腹黒い彼女のあざとい仕草を見遣りながら、あなたは服装がいつもの袖が分離した露出度の高い改造白軍服であることに気付く。
仮装はしないのか、と尋ねると、不敵な笑みを浮かべていいことを聞いてくれたとばかりにある場所へ行けと教えられた。
「着いてからのお楽しみですけど―――おもしろいものが見られると思いますよ?」
明らかに何か企んでいるロドニーの表情だったが、どのみち今日は祭なのだから余興には付き合わなければ始まらない。
深く考えることもなく了承したあなたは、しかし立ち去り際に彼女に“悪戯”を仕掛ける。
んー。ロドニー、ちょっと口開けてみ?『あーん』って。
「………??あー、んっ!?」
あくの強い性格をしているものの、あなたの軽いノリにわりと素直に付き従ってくれるロドニー。
そのご褒美というほどでもないが、半駁も無くちゃんと口を開けて歯並びのいい口内を覗かせてくれた唇に、今日何度も配ったそれを差し挟んだ。
ちょっと甘めに味付けされたひとくちサイズのバニラクッキー。
菓子の手作りの経験なんて前世の調理実習以来ぶりだったが、王宮メイドな嫁の監修なので出来は悪くないしそれなりに好評。
悪戯もほどほどにしとけよ?
「もぐ……っん、了解です、指揮官!」
返事だけは元気だよなー。
肩をすくめてひらひらと手を振りながら、ロドニーと別れて教えられた場所に向かうあなた。
その背中を嬉しそうに見送って、ロドニーは小さく呟いた。
「大丈夫ですよ、あの超ド級の不器用も今日くらいは素直になるでしょうし。
―――でも、まさか両方なんて。サポートに徹するつもりが結構役得でした、ふふ♪」
………。
ロドニーに教えられたのは、祭の会場から少し外れた位置にある裏庭。
裏庭といっても基地中枢から見て建物の外側にあるだけで、涼しい風の吹き抜ける秋の夜空がよく見える穴場のような場所になっていた。
……実際のところ、誰が話を持ってきたかを考えればこの場で待っている人物に予想はついていた。
予想外だったのは、彼女の纏う祭装束と、下弦の月を見上げて黄昏れる物憂げな雰囲気がその場の静寂を際立たせ、妖しく夜に輪郭を浮かばせていたその情景だった。
見惚れる、というよりは侵しがたい―――そんな感覚があなたの足を止めた。
止まらなかったのは足音かそれとも気配か、金色の房をなびかせて闖入者に気づいた彼女は振り返る。
「もう、こんな衣装を着せてこんなところで人を待たせて、一体どういうつもり?ロド、に……!?」
うーっす。とりとりー。
「あんた……っ!はあ、あの子はまた、まったく。
で、それはなんの呪文?」
なんかもう今日何回もとりっくとかとりーととか言われたんで縮めてみた。
「ああそう。で、ヒナ達にはちゃんとエサあげ終わったかしら?」
ひと通りは。
振り返って待ち人が自らの指揮官だったことに目を見開いたネルソンだったが、すぐに妹の仕込みなのを理解して疲れたように首を振る。
そこにいつも通りのノリで絡んでいくと、更にめんどくさそうに溜息を吐かれた。
解せぬ。
「解しなさいよ。そこで惚けられる神経だけは大したものね」
と、いつもならここから諫言というか説教が始まる会話の流れなのだが、この日は苦笑するだけで彼女の口からきつい言葉が出ることはなかった。
祭の日にまで無粋を挟む気がないというのもあるだろうが―――今のネルソンの格好で真剣なことを言っても締まらないという事情も多分にあっただろう。
ハロウィンの定番の一つ、魔女の仮装。
紫がかった黒装束はひらひらしたマントやタイツでいつもの赤い改造軍服より露出度がやや低いが、その悩ましいボディラインは健在。
むしろベースが暗色系な分より引き締まって見えるというけしからなさである。
アクセントとしてあしらわれているお化けカボチャも、コミカルというよりは妖しげな魅力を引き出すのに一役買っていた。
鍔の広いとんがり帽子が意外に輪郭の幼いネルソンの面貌を浮き立たせていて、危うげな印象まで醸し出している。
「な、何よ。折角ロドニーが用意した服だし、祝宴なのだから着ないとしらけるだけじゃない。べ、別に参加したいわけじゃないんだからね!?」
まだ何も言ってない。強いてなんか言うなら、うん、可愛いと思います。
「!……そう。…………ぁ、ありがと」
まじまじとそんな魔女姿を上から下まで鑑賞していると何故か弁明を始めたネルソンに無難なコメントを返す。
実は今日テンション高い初期艦に仮装を見せびらかされて何十回も言わされたセリフなのだが、そこには触れないのが華。
だが、何というべきか―――かろうじて表情には出さないものの落ち着かなさげに髪をくるくると弄り出した彼女の仕草が、逆にあなたの謎の琴線に触れた。
――――可愛い。
「え?」
可愛い。やっぱり可愛い。ネルソン可愛いよネルソン。
「な、な、~~ッ!!?」
可愛い!可愛い!おねーちゃん可愛い!魔女っ娘!可愛い!!
「~~~~~~~!!!??」
急な褒め殺しにたじろぐネルソンに追い討ちをかけるようにまくし立てる。
見る間に港の夜間照明でくっきり分かるほど真っ赤になって、その顔を帽子で隠しながらそっぽを向いた背中に、あなたはとても満足した。
ふっ、勝った。
「い、いきなり何なのよ……、っ!?」
もごもごと帽子でくぐもった呟き声を発する彼女の肩になだめるように手をぽんと置く。
反射的に振り返ったすべすべして心地いい触り心地の頬が、あなたの人差し指とぶつかった。
普段なら雷が落ちる所業だが、祭とかいう以前に今のネルソンにそんな余裕はないことも折り込み済だ。
「本当に、もう、何なのよぉ……っ!」
いやまあ、ちゃんと事前に予告したわけだし。
「何を!?」
――――とりとり(お菓子をくれないだろうから悪戯するけどいいよね)、って。
目の前で何を言うべきか分からず悶えるネルソンの妹曰く、今日はお菓子を『あーん』で食べさせてもらえるか好きに悪戯していい日らしいし……と、空気にあてられたのかいつも以上の軽さで横暴な理屈を通すあなた。
それに振り回されるビッグセブンだが、どこか嬉しそうなのは気のせいだろうか。
意地っ張りな戦艦少女が胸の内を語る筈もないが―――。
「……いいわ。今日だけ、特別に許してあげる」
お祭りの日に特別な衣装で指揮官と触れ合って、あまつさえ散々に可愛いと褒めてくれたことでその機嫌がどれだけ上向いたか。
不器用な彼女がとんがり帽子の鍔の広さ程度で隠しおおせる筈もなく、その言葉は意図しないまま甘い囁き声になっていたのだった。
※唐突な何の関係もないにくすべ
「憎んでいる―――全てを」
燃え滓のような灰の髪と病的なまでの白い肌。
男の欲望をそそる肉感的な肢体をしていながら、本能的に触れるのを忌避させる程の威圧感。
鉄血空母グラーフ・ツェッペリンの溢した怨嗟を、あなたはそういうものなのだろうとただ受け止めた。
戦史には詳しくないあなたでも鉄血―――つまり20世紀前半辺りのドイツ出身となればそんなセリフが出る経緯があったとしても何も驚くようなことは無いのはなんとなく分かる。
かと言ってこんな無常観溢れる発言を聞いたとて触発されて感情を強く揺さぶられるような繊細な感性も生憎持ち合わせてはいない。
同調も同情も反発もなく、ただそうかと受け止めるのみであった。
そんなある日のことだ。
消灯時刻間際の寮舎の灯りが点いたままになっていることに、散歩がてら見回りをしていたあなたは気付いた。
作戦行動時は当然ながら――船なので――昼夜ぶっ通しで海上を進む少女達だから、夜更かししたいのであれば別段それを咎める理由もない。
だが微かに漏れるビート音に少し好奇心が駆り立てられた。
あれは『メガステ』―――イベント会場のステージみたいなセットで、登壇するとあっぱーな音楽が流れてどこからかあーぱーそうな赤毛のバックダンサーが付いてくれるというあっぱらぱーな代物のものだったはずで。
何故か強制的に支給されたので設置したはいいものの、撤去するのも手間なので置きっぱなしになっていたし、一通り遊んだら皆に飽きられてしまった哀れな物品だったのだが、珍しく使われているようだ。
誰が遊んでいるのか、なんとなく気になってあなたは入口の扉を少し開けて覗いてみた。
「わたしが―――ナンバーワンだ」
あーぱー赤毛を後ろで踊らせながら、鉄血空母グラーフ・ツェッペリンが舞っていた。
その舞いを形容するなら、“キレのある”や“流麗な”という表現は相応しくないだろう。
なんかこう腕をふりふりきゃぴきゃぴした感じの――表現が拙くて申し訳ないがそうとしか言い様がない――可愛らしい振り付けで観客のいないステージで舞っていた。
そしてよく目を凝らすと、とても純真な笑顔で彼女は踊っている。
いかにも楽しんでいますというのが伝わってくる眩しい笑顔で、テンポに合わせて手足を動かしている。
ナンバーワン―――なるほど、あれをちょっと別のゲームに出張させてみたらマスターなアイドルでシンデレラなガールにしても遜色はないかもしれないと思うくらいシャイニーなステージだった。
………でもドイツ語じゃないんだな。
そんなツッコミを入れながらも、彼女の邪魔をするほど無粋ではないあなたはそっと扉を閉じる。
廊下の夜の闇がすぐに視界を埋めたが、ステージの上の鉄血空母グラーフ・ツェッペリンは残影として視界に焼き付いたままだった。
この世に何の憂いもない、生を満喫していますと言わんばかりの弾ける笑顔で明るく踊っていた彼女。
ああ、それでも――――。
それでも彼女はやはり、全てを憎んでいるのだろう。
たぶん。
ハロウィン着せ替え実装から一週間も経っちゃってる点についてはお察しください。