掃除も料理も出来ないけどメイド。それはまだいい。
水着実装で泳げないことが発覚したのはお前それでいいのか軽巡洋艦………!!
「誇らしきご主人様、御身はこのシリアスがお守りいたします。どうか御傍に控えることをお許しくださいませ」
一文に二回は「お」とか「ご」とか「御」を付けないと喋れないのだろうか。
ベルファストも大概「ご」がゲシュりそうで仕方ないのだが、同じくロイヤルのメイドを名乗る彼女もまた同類のようだった。
メイド服、というよりも動きやすさを重視したワンピースと言った方が正しくなるだろうか。最低限のフリルを飾ったエプロンドレスは露出が激しく、特に首元から懐にかけては小柄な体格ながら豊満な乳房が大胆に露出している。
スカート丈もミニというよりは最低限(ミニマム)のサイズになっていて、ちらちらと覗く白い太ももが眩しい。
強調されたボディラインは男の獣欲を掻き立てる魔性のもの。
ふわふわと内跳ねがかったショートヘアは神秘的なプラチナブロンドで、ルビーをはめ込んだような神秘的な紅の瞳が思慕を乗せて常にこちらを見つめている。
一級の人形師が魂を吹き込んだような繊細な造形の容貌もまた、啼かせ悦ばせればどれほどの支配欲が満たされるだろう―――そんな危うい魅力の少女が軽巡洋艦シリアスだった。
そして五分も会話すれば“虐めたら愉しそう”から“いぢめたら楽しそう”に変化するのも軽巡洋艦シリアスだった。
―――そういう訳で、ちょっとゲームしようぜシリアス。
「ゲーム、ですか……?あのぴこぴこは少し自信がないのですが、誇らしきご主人様が相手をご所望でしたら、微力を尽くさせていただきます」
ある日の執務室の会話である。ちょうど作業が一区切りしたが次に取り掛かると長くなりそうなので今日はここまでにしておこう、といった感じで生まれた微妙な空き時間。
ちょうどいいから従順さならば基地でも随一の秘書艦“で”遊ぼうと考えたあなたの振った話に、相変わらずのずれた答えが返ってきた。
ぴこぴことか今日日おばあちゃんでも言うまいに。あとゲームの提案のどこに誇らしい要素があるのだろうか。
天然そのものの仕草で首を傾げるシリアスにどこからツッコむべきか悩んでみたが、話が進まないのでとりあえずスルーする。
NGワード会話って知ってる?
「エヌ、ジー……?新開発の砲身か何かでしょうか?」
おーけー分かってた。
何それおいしいのみたいなノリで物騒なたとえが出たものである。
相良軍曹懐かしいなオイ、と世代がばれそうな感慨はさておくとして、戦地上がりの少年兵みたいな感性をしているメイド?にあなたは言葉の意味を説明した。
要は年末年始にボーリングやりながら芸能人が遊んでいたアレである。
「特定の言葉を言わずに会話を行う……ですか。
意義は掴めませんが、概要は把握しました。誇らしきご主人様のご命令とあれば、このシリアス必ずやご期待に応えてみせましょう」
うん、じゃあ名詞・動詞の前に「お」とか「ご」とか付けるのNGな。はいスタート。
「…………え゛」
自信満々に胸を張ってみせたシリアスがその体勢のままぴしりと固まる。
あなたがにやにやしながら彼女を見つめていると、ぎぎぎ、と油が切れたロボットのような動きでこちらを見つめ返してきた。
「あの、それはシリアスに遠回しに『お前とは口も利きたくない』とのお達しなのですか?………あっ」【NG1回目】
いや、なんでそーなる。
「それはその……誇らしきごしゅじ……あぅ、尊敬する主に砕けた言葉遣いをするなどこの卑しいメイドに到底許されることではありません。ならば、口を開くなという意味では?」【NG2回目】
ねーよ。どんだけ性格悪いのさ俺。
少なくとも意地が悪いのは確かだろう。
とはいえそこでシリアスが「はい悪いです」と言えるようならそもそもこんなゲーム自体始まっていないわけで、困った顔でもじもじして黙り込むより他になかった。
………当たり前だけど、沈黙もNGだぞ?
「ぅぅ……そうだ、喉が渇いていらっしゃらないでしょうか?冷蔵庫にアイスティーと、お茶菓子にクッキー、~~~~っっ!!」【NG3回目】
とりあえずあなたの口を飲食物で塞いでしまえば会話でボロも出づらくなる。
発想は悪くなかったが悲しいかな染みついた口調はそう簡単に誤魔化せなかった。
真っ赤な顔でぱたぱたと戸棚にあるクッキー缶を取りに行くシリアス。
見るからに焦った様子で、あなたが普段の感覚でしまったせいでちょっと彼女には高めの棚にある缶を取り出そうとする。
となれば、あなたが嫌な予感を覚えた時にはそれは既に現実のものとなっていた。
「ああ…っ!?申し訳ございません、誇らしきご主人様!」【NG4回目】
缶は蓋が開いた状態で盛大にひっくり返り、底に溜まっていた粉まで執務室の絨毯にばらまかれる。
おろおろと缶を持ったまましゃがみ、片手で散らばったクッキーを拾うシリアスだったが、なんだか手つきが不器用というか、むしろ落ちたクッキーを更に粉々にして被害を拡大させている感があった。
ベルファストが見てたら雷が落ちるなこれ。
一人ごちつつしゃがんだままわたわたしている彼女を尻目に、冷蔵庫から取り出したボトルからアイスティー―――当然淹れたのはシリアスではなくベルファストである―――を二人分のコップに注ぎながらも。
掃除も料理もちょっとアレなメイド?に苦笑いが抑えられないあなただった。
その後も―――。
「家事は苦手ですが、白兵戦の腕前と警護の知識は十分なものと自負しています。
どうか傍に置いていただくことだけはお許しください。―――はっ!?」【NG12回目】
「寝起きドッキリ、ですか?誇らし……旦那様は色々なことをご存じです、ね……。
んん。あの、どうかシリアスにはなさらないでください。恥ずかしながら部屋が散らかっておりますし、人間である旦那様が不用意にお手に触れれば危険なものもありますので」【NG31回目、真面目な話だとは分かっているがそれはそれとして32回目】
「NGが一定の回数以下だとご褒美があったけどそれを超えると罰ゲーム……。
その回数というのは、百回くらい―――ああ、また……」【NG57回目】
――――ハードル低すぎんだろ……。
もうなんか喋るごとにカウントが溜まる仕様なのか。
可愛ければ許される仕様も含めればバラエティ的にはおいしいかもしれないが、もはやからかうのも可哀相になってきたレベルである。
窓から夕陽が見えてきたのも踏まえ、あなたはシリアスが100回ほどNGを出したところで解放を宣言する。
その頃には気疲れとテンションどん底で喋る気力も失くした秘書艦が一名出来上がっていた。
「………」
流石にこれを放置してさあ晩飯食うぞー、となる程の外道ではないあなたは。
これからの行動が完全にマッチポンプな上に自分の欲望も混ざっているのを理解しつつ、シリアスに仮眠用のベッドの上で膝立ちになるよう指示する。
悄然としながらも諾々と従う彼女は………次の瞬間懐に入り込んだあなたの背中の重みと温かさに目を見開いた。
はい俺の首から前に手を回して。罰ゲームとしてしばらく背もたれな。
「…………!?」
おずおずと戸惑いながらも、シリアスの腕は半ば勝手にあなたを後ろから抱き締め、胸元に引き寄せる。
不意打ちのように与えられた温もりと匂いに戸惑うしかない。
「罰……?誇らしきご主人様への抱擁が、褒美ではなく罰と仰るのですか?」
罰にならない?
あなたの問いに対して、シリアスにとっての正解は一つしかなかった。
しかし、口から出せる言葉はその正反対のものしか存在しない。
何より、仮にやめろと言われてももう絡めた腕を解ける気がしないのだ。
「―――いいえ、罰です。この卑しいメイドにどうか存分に罰をお与えください、誇らしきご主人様」
そう請い願ったシリアスの表情があなたに見える筈はなかったが。
喜悦混じりの艶めいた囁きは、あるいは背中に当たる乳房の感触よりも心地よく感じられるほどに官能的だった。
※サブタイで予告していたけどやはり何の脈絡もないにくすべ
「始めよう―――我らの破壊を」
時に水平線の先の敵を覆い隠すほどの荒波が間断なくうねりを上げている。
生前の戦場(地獄)を思い起こさせるような冷たい波飛沫を被りながらも、あの時代と大差のない硝煙と油の匂いの中にその猛獣は牙を研いでいた。
青白い炎で心に燃え続ける殺意と憎悪をその鉄面皮に表すことは一切なく、灰の女―――鉄血空母グラーフ・ツェッペリンは手懐けた鋼鉄の獣に命を下す。
咆えろ。喰らえ。貪り尽くせと。
従順に、凶暴に、獣は主に従い背から己が分身を射出する。
黒煙の空に舞い上がり遥か高みから敵を(◎▽◎)こんな顔で睨む飛翔体は、さながら天使を象った死神か。
変な形のピンク色のリボンを付けた女の子のぬいぐるみの姿をしたその死神達は、対空機銃も碌に動かない有様の敵艦達を消し炭にすべく一斉に爆撃投下を開始した。
【わっきゅー】【有罪】【はいどうもー!】【わっきゅー】はいどうもー!】【有罪】【わっきゅー【はいどうもー!】【わっきゅ【はいどうもー!】ー】【有罪】【はいどうも【有罪】ー!】【【可愛い♡】有罪】【わっきゅー】【有罪【わっきゅー】はいどうもー!】【有罪】【わっきゅー【はいどうもー!】【わっきゅー】【わっきゅ【はいどうもー!】ー】【わっきゅー】はいどうもー!】【有罪】【わっきゅー【はいどうもー!】【有罪】
――――汝ら罪アリ。ただ死すべし。
おびただしい数の声、声、声……。嘆きか怨嗟か絶望か、それは従えるグラーフ・ツェッペリンにも分かりはしない。
ただ一つ確かなのは、空を支配する暴力によってこの戦局は統制された、それだけのこと。
なんか青狸型ロボットもあんなん持ってたよなぁ。気に入ったのか、その外装?
「………卿に答える義務はない」
さいですか。
どこか窘めるようなあなたの声も、彼女は聞き入れることは無い。
それこそ本物の死神の顎に呑まれる最期の時まで、グラーフ・ツェッペリンはその紛い物の死神達を従え続けるつもりだった。
それほどまでに。
それほどまでに、ああ、彼女はやはり全てを憎んでいるのだろう。
たぶん。
キズナアイの元ネタは知らないけど、あのコラボ外装は見た瞬間にくすべさんに装備せねばと思いました。今はガスコーニュちゃんが完成したのでフリードリヒちゃんのデータ取りをやってくれています。