アズレンスルホン酸ナトリウム   作:サッドライプ

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 アズレン2周年、ローンちゃん伊吹ちゃん新衣装おめでとう!

 そして人気投票予選Bグループェ……。
 作者の投票券?全部リアンダーちゃんに突っ込みましたが何か(半ギレ)



ローン/伊吹

 潮風が程よく日差しの暑さを和らげてくれる。

 コンクリートで固められた埠頭の淵に膝を投げ出しながら、あなたは水平線を眺めていた。

 

 怪物が跋扈し、海洋により近い国家を中心に人間がすり減らされている世界。

 澄んだ水が視界いっぱいに拡がり、水飛沫が日光を反射し煌く美しい海の景色なのは、あなたが元居た世界のそれより海洋汚染が少ないからというのは流石に穿ち過ぎだろうか。

 尤も戦争というどちらかと言わずとも海を汚すお仕事をしているあなたにとっては、眼前の海水に混ざっている微細プラスティックごみの量がどうなっているかなど、ぼーっとしている間の思考のノイズ程度な些末事でしかないわけだが。

 

 一応言っておくと、昼日中から海を見つめたそがれる隠居老人みたいな習慣があなたにあるという訳では当然ない。それは額に少しだけ浮かぶ汗を優しくハンカチで拭いてくれる秘書艦の存在が隣にあることからも分かるだろう。

 

 重巡洋艦ローン。

 『鉄血』に属する一部の艦の戦闘経験を蓄積して励起する特殊なキューブから生まれた艦であり、その都合上ひたすら働かせたライプツィヒから向けられる視線が段々妖しくなっていったのは気付かないふりをした―――というのはさておき。

 露出が激しい艦船の彼女達にしては珍しく上半身を黒の長袖ジャケットで固め、その傍らに鉄血艦の中でも一際巨大な鐵(くろがね)の猛獣を控えさせているのが印象的。

 かと思えばむっちりとして触り心地が良さそうな太ももが超ミニのスカートから覗いており、胸元がぱっつんぱっつんに張ったダークグレーのブラウスと合わせアンバランスな妖しさによる色気を兼ね備えている。

 

 そんな彼女と一緒に、あなたはこの時出撃した艦隊を出迎える為に港に待機していた。

 必ずしも義務というわけではないが、帰港した時に出迎えてあげると多かれ少なかれ機嫌が良くなる女の子達が多いので、それなりの頻度でこうして港で帰ってくる瞬間を待つことがある。

 執務が立て込んでいたり、前線の艦に逐次指示を飛ばす必要がある全力出撃だとそんな余裕がないのはやや申し訳ないところだったが。

 

 少なくとも今回は、ちょっと早い時間に休憩がてら待ち構える程度の余裕があった。

 なので出撃した艦隊が帰投する予定の水平線を眺めつつ、あなたはローンと駄弁っている。

 

「そういえば指揮官は、帰投した艦隊の子をどんな風に迎えているのですか?」

 

 え?普通にお帰り、おつかれー、って。

 山城とかラフィーとかだとねだられて頭撫でたりしてるけど。

 

 

「…………」

 

 

 垂れ目がちの表情をいつもにこにこと穏やかなものに固定しているローンは、その蓬色の瞳でじっとあなたを見つめていた。

 それを続きを促された、と解釈したあなたは、しかしいつもの悪ノリをそこに乗っける。

 

 ああ、折角の出迎えならもうちょっと面白いことしようぜ的なネタ振り?

 

「………うふふ。どんなことをするんです?」

 

………何しよう?寧ろローンだったら、出迎えに何されたらびっくりする?

 

 悪戯、という意味なら色々思いつくし、ちょうどリアクションが良さそうな子が戻ってくる艦隊に揃っているため、少し楽しみになりながら選択権を秘書艦に譲り渡すあなた。

 ローンは視線を遠くして思案に耽ったかと思うと、次の瞬間ぱっと華やいだ笑顔でそれに応えた。

 

「そうですね。やはりハグでしょうか?」

 

 剥ぐ?

 

「よく帰ったね、待ってたよー、みたいな感じでぎゅぅっと。

 情熱的にしてもらえれば、『歓迎されているな』、って心から実感できると思うんです」

 

 あ、ああそっちね。

………そうだなー。こんな感じ?

 

 

「―――――ッッ」

 

 

 ボケではなく素で勘違いしてたのにちょっと動揺したのもあり、あなたはおもむろに隣のローンを強く抱き寄せる。

 頬に当たるさらさらの髪と、高級そうな黒ジャケットの布地が良い感じの触り心地だった。思わずぽんぽん、と背中を優しく叩く程に。

 

 そしてある意味自分が言い出した悪戯をその身で受けることになった彼女はと言えば、驚き過ぎたのか体をびくつかせはしたが、そのまま何も言いだす気配がない。

 代わりに、なのか―――傍らの鉄の猛獣の眼が一瞬ぎらりと強い光を放った。

 

………?

 

 ふと剣呑な気配を感じてあなたは辺りを見回すが、穏やかな海と背後にいつも通りの基地があるだけ。

 気のせいかと首を傾げていると、あなたの腕をそっと解きながら、ローンが懐から蕩けた視線で見上げてくる。

 

「ふ……ふふ。素敵でした。だから帰ってきた子達には、もっと情熱的なハグをしてあげてくださいね?」

 

 やー、だ。秘書官殿。

 

「もう、嫌なのかJa(了承)なのかどっちなんですか」

 

 甘くはある、だが不思議とそれだけでもない空気。

 そんな中で二人は、帰投する艦隊を待ちつつ駄弁り続けていた。

 

 

 

…………。

 

「それで、この茶番か?」

 

 帰投した艦隊の一隻のみの主力として旗艦を務めていたグラーフ・ツェッペリンが、ローンに抱きつかれながら感情の読めない冷たい問いを放つ。

 常人なら委縮してしまいそうなすべてをにくんでいる声だったが、あなたはスルーして前衛艦を務めていた彼女達に向けて腕を拡げていた。

 この胸の中に飛び込んでおいで、のポーズである。

 

 そして、それを向けられて先頭を切って戦果を報告しようとしていたセーラー服少女が、顔を真っ赤にして固まっていた。

 リアクションが良さそうな子その一、初心なお嬢様女学生風軽巡洋艦リアンダーである。

 

「あ、あの、指揮官様、これは………?」

 

 任務ご苦労。歓迎しよう、盛大にな!

 

「うぅ。またいつもの悪い癖なのですね……」

 

 あなたは爽やかな笑顔でリアンダーを労ったつもりなのだが、何故か拗ねたような上目遣いでこちらを見て来た。

 とは言っても気分を害した訳ではないのだろう、小刻みに動く爪先と重心は、そのまま飛び込んでこようかどうか迷う彼女の逡巡が素直に表れている。

 

 が、結局は他に人目のある状況で照れと恥じらいが勝ったのか、目の焦点をぐるぐるさせながら、あなたの脇を斜めにすり抜けるように猛ダッシュしていくリアンダー。

 

「ふ、二人きりの時にお願いしますわーーー!!」

 

「リアンダーさん!?そっちは寮舎じゃないですよー!!」

 

 そして、テンパって明後日の方向に駆けていくリアンダーを追いかけてあげる優しいピンク髪メイド。

 リアクションが良さそうな子その二、お花畑能天気重巡洋艦サフォークの背中に、フォローよろしくなー、とあなたは割と酷い依頼を投げた。

 それでも彼女は一瞬振り返っていつものほえほえした笑顔で返してくれる。

 

「任せてください!あ、あとサフォークは指揮官さんにぎゅってしてもらえるなら、いつでも大歓迎ですよー!!」

 

 そんなことを言っていたので、また中庭でぼうっとしているのを見かけたら構い倒そうと思った。

 

 

 そして、ある意味で逃げ遅れたリアクションが良さそうな子その三が、純朴田舎巫女風重巡洋艦伊吹だった。

 

 

「あ、あるじどの……。伊吹は、伊吹は……っ」

 

 化粧気のない幼さを残した少女の面貌は素直な困惑と羞恥を表に出し、透明感のある白い肌を薄紅に彩らせている。

 純白の戦装束を黒い帯で締め、深紅の刀身を腰に携える重桜の装い。そこに属する彼女ら特有の頭頂に生えた獣の標(しるし)は、伊吹の深い水底を思わせる藍色の長髪から覗く黒い硬質な突起について言えば龍の角だろうか。

 

 そう、ドラゴン娘である。

 出会った時からあなたは内心火を噴いたりしてくれないかなーとちょっとわくわくしてたりする。

 もっともどちらかと言えばウォータードラゴンっぽい感じの子なので無理かなーと諦めてもいる……そういう問題ではないか。

 

 彼女もローンと同じく、『重桜』に属する一部の艦の戦闘経験を蓄積して励起する特殊なキューブから生まれた艦である。その都合上ひたすら働かせた電と雷から発せられるメタ発言がどんどん酷くなっていったのは聞こえないふりをした―――というのはさておき。

 

 そんな伊吹はリアンダー以上に初心な性根と生真面目な性分が災いし、逃げることは考えも及ばない様子であった。というより。

 

「すぅ、はっ………主殿の御意思とあらば是非もなし。

―――――伊吹、参ります!!」

 

 えー……?

 

 深く息を吸って呼吸を整えたかと思うと、鉢巻巻いて討ち入りでもするのかみたいな覇気で決然と言い放つ伊吹。

 ほんの悪戯のつもりだったのに、これそんな真剣な決意が必要な流れだったっけ、と困惑するあなたに彼女は摺り足でおずおずと近づき。

 

 赤みが引かない顔を緊張で強張らせたまま、武道家特有の重心の据わった動きであなたの懐に飛び込んだ。

 力強くも紫電の如く―――というか大外刈りとか一本背負いとか掛ける時の動きだこれ。

 

 ちょっと付いてきて、と言ったら影を踏まないように三歩後ろを歩く絶滅危惧種大和撫子である伊吹が主殿と慕うあなたにそんなことをする可能性は万に一つもないだろうが、もしその気があったなら今頃あなたは派手に地面に叩きつけられていたことだろう。

 もっとも当人はと言えば、あなたの胴に腕を回したままぷるぷると震えていたが。

 

「主殿の匂いと温もりが……あわわ、あわわわっ」

 

 抱きついた後のことは全く考えていなかったのは確実だろう。

 あなたから見えるのはつむじと角くらいだが、今の伊吹の状態は柔らかな乳房の奥からばくばくと鼓動を鳴らす心臓の音がよく伝えてきてくれる。

 

 どうしたもんか―――。

 

 あなたはここからの対応を内心思案したが、考えてみれば自分から抱きつきに行けた時点で、伊吹の性格を考えれば殊勲賞ものだ。

 後はこのまま落ち着くまで頭を撫でたり背中を摩ったりしていれば、お互い綺麗に締められると分かっていた。

 あなたはそれは分かっていたものの――――。

 

 

「邪念撲滅、六根清浄…っ」

 

―――邪念、ねえ。どんなふしだらなこと考えたんだ?このすけべドラゴン。

 

「あぅ!?あ、主殿……っ、きゅう~~」

 

 あ、やっちゃった……。

 

 

 自分に言い聞かすような精神統一についツッコミというか茶々を入れてしまういつも通りのあなたである。

 最後のからかい文句が、顔を上げた伊吹の耳元で囁く形になってしまったのも効果絶大だったのか、腕の中でぐったりと意識を飛ばす伊吹であった。

 

 流石に悪いと思いつつ、伊吹の体重を支えながらこの場で介抱するか寮舎までおぶるか考えるあなた。

 

 

 

「――――ちっ」

 

 

 

 そんなあなたを、正確にはあなたの腕の中の伊吹を、穏やかな微笑みを張り付かせたままローンはじっと見つめていた。

 

「………滑稽な、とは言わない。だが、卿のその業、昇華できねば破滅するだけだと忠告しておく」

 

「ご心配には及びませんよ」

 

 ただ只管にこやかに。その場を立ち去るグラーフ・ツェッペリンに見向きもせず。

 深緑の瞳が一対、レンズを照準に合わせる機能だけを果たし続けていた。

 

 

 




 本作は基本的にほのぼのいちゃらぶものですよ。

 あ、おまけではないけど以下特に本編に関係のない謎のにくすべカッコガチ勢許不和系お姉さんのモノローグ入りまーす↓





 殺したい。

 厳密に言うのであれば―――殺したいと“思いたかった”のだ。

 ニンゲンの都合でかつて己は己を定義されながらも生まれることさえ許されなかった。
 生まれる前に死んだ、殺された水子の怨念。

 だから当前の権利とばかりに生を謳歌する愚者達が許せない。
 だから死という絶対の終焉から目を逸らす愚者達が許せない。

 せめて、それらが無残に屍を曝す光景を心の慰めとするだけ健気な女の子だと我ながら思う。
 趣味は放生(ほうじょう)―――死人の葬送。

 かつて存在すら許さなかったくせに今度は自分の力が必要だという都合のいい呼び声に応えたのも、当然人々や世界や、まして国のためではない。
 特等席で心の隙間を埋める光景を見物するため。そして、自分を従えたと勘違いした愚物が裏切られ殺される滑稽な表情をその手で作り出すため。
 だというのに。

 その人は当前の権利なんかではないと知りながら生を謳歌していた。
 その人は死がどこにでも転がっていると認識しながら、狂気に浸りもせずに平然と笑っていた。

 どういう経験をしてどういう精神構造ならああなるのかは知らないが、―――“許せない人ではなかった”。
 そのカテゴリ分けに未熟な心が戸惑う内に―――己の中で彼が“心を許せる”人に変わってしまった。

 心を許せる人から愛しい人へ。愛しい人から、血と骨と皮と肉と臟(ハラワタ)と脳髄と精液と心と魂の一欠片に至るまで己のモノでなければ“許せない”人へ、階段を転がり落ちるように呆気なく変わってしまった。

 まずい、とは自覚していた。自己の精神の安寧にも、そして愛し過ぎて唯一慮る対象とする相手にとっても。
 だからせめて“殺してあげたい”、と思える程度にフラットな状態に落ち着かせたかった。

 愛憎のあまり恋人を殺してしまう、というのは古今東西よくある話だ。
 愛想笑いを顔に貼り付け、愛しい人が他の女にべた付くのをひたすら見続けた―――そうすれば彼のことも殺してあげたいと思えるようになるかも知れないと。

 だめだった。

 注いだ愛情が一方通行に終わった時、男は相手の女に憎悪するが、女は相手の男を誑かした女を憎悪するという。そして自分は女だった。
 気づけば心の隙間なんてとうに埋まっていて、その土壌の上には嫉妬という徒花だけが華やかに咲いていた。

 あとはもう、単純な話しか残っていない。
 ましてあの雌蜥蜴は、認めたくもないが“自分と同じ”くせに、『喚ばれて良かった、幸せだ』などと言わんばかりに能天気に振舞う愚者。
 それが彼の腕に抱かれながら、のうのうと間抜け面で寝こけていると来れば。

 貼り付けた仮面の奥で、視界が赤く染まっている。脳がちりちりと焼ける。

 嗚呼――――。


「――――許せないよね?」



※以上。

※サイコパスの論理飛躍を素面(しらふ)で書いている作者の精神状態は察して。なんでそうなっているかは前書きをもう一回見てみよう!


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