おっぱい!メイド!おっぱい!!メイド!!
あなたは指揮官である。
この世界において軍艦の力をその身に秘めているのだか軍艦そのものが変化しているのだかは分かりたくもないが、とにかくそんな戦う力を持った可愛い女の子たちの上官として、彼女達を操り化け物のひしめく海原を切り拓くことが使命とされている。
さて、それにあたっては沈めても沈めても湧いて出る化け物や非友好勢力の同族らに勝ち続け、なおかつ消耗を極力避け、最大戦力で以て待ち構えている敵艦隊の親玉を仕留めるというさながら魔王城に特攻する勇者パーティーのような戦略が求められている。
海域に何十何百といる敵勢力に対し、こちらは同時出撃可能なのが二艦隊最大十二隻という、少数精鋭を貫かざるを得ない制約が課せられているせいだ。
物量作戦は米帝の十八番ではないのか……と文句を言いたくもなるが、この世界ではユニオンという似て非なる国家なので言っても仕方ない。
元ネタはそういうゲームシステムだったんだろうと諦めたあなたが必要としたのは、第一に火力だった。
黒い全身タイツに囲まれたバイク乗りでも味方を置き去りにして合戦場に突入する戦国無双でも、それこそ龍を討伐する勇者でもなんでもいいが、数が多い相手に袋叩きにされるような状況を突破するためには、開幕速攻で敵を蹴散らすしかない。
ある程度被弾しても問題ない頑丈さや防御手段?
傷を負っても回復する能力やアイテム?
無いよりはあった方が当然いいだろうが、焼け石に水とかジリ貧とかそういう状況を避けるためには、初手で敵全てを薙ぎ払えるくらいの攻撃手段こそが肝要だろう。
今あなたの目の前にいるのは、まさにその理念を体現した存在だった。
重巡洋艦という前衛では最も重量級である艦にしても遅くて敵の攻撃を避けられない、そのくせ装甲の薄さは駆逐艦と同じ軽装甲、耐久力も下手すれば軽巡洋艦に負けるという打たれ弱さ。
しかし他の追随を許さない火力。
それを一定周期でさらに数割増しの威力を発揮し、頻繁に主砲のリロード時間をゼロにし、トドメの全弾発射弾幕。
殴り倒せば殴られない、撃たれる前に撃ち殺せ。
できなければ所詮そこまで。
散らば本望、華々しく咲かすは刹那の砲炎―――。
「………指揮官さんがなんかむつかしいこと言ってます。つまりどういうことなんです?」
個人的にサフォークの戦い方、割と好きだったりする。
「えへ。褒められちゃいましたーっ」
ほえほえと垂れ目気味な表情を緩ませて、どこかゆったりとした仕草で万歳すると、上四割ほどが露出したおっぱいがぷるんと揺れてあなたも万歳したくなる。
これで最初は肩まで露出したウエイトレス風のミニスカ衣装、しかも首のカウベル付きのチョーカーに牛の耳に見えなくもないヘアバンド、とどめにピンク色のロングヘアといういかがわしいにもほどがある格好だったため、ついつい誘惑にかられけふんけふん。
………柔らかくて幸せだった、とだけ。
罪滅ぼしというかお礼というか、あとはいつも中庭でぼーっと空を眺めている習性から捕まえやすかったため(後者が九割ほど)、褒賞として支給されたりボスキャラ的なのが蓄えていたのを分捕った強化パーツで余っていたのを全部彼女にぶち込んだ結果、なぜかおっぱいパブからメイド喫茶へと衣装変更したのは進化なのか退化なのか。
胸を触られても「びっくりしましたよぉ」で済ませてしまう今はエプロンドレス姿のこの天然が、あなたの艦隊の火力殲滅担当、ケント級重巡洋艦サフォークだった。
「いい天気ですー。指揮官さん、一緒にひなたぼっこしていきません?」
いつも通りの中庭に射し込む海辺の陽気の中、心地よさそうに微笑みながら首を傾げつつ、休憩に外の空気を吸いに出ていたあなたを手招いてくる。
髪色もあってお花畑にいるのが大層似合いそうなゆるゆるオーラを振りまいていた。
――――前置きとイメージが違う?
そうは言っても、「およ?綺麗なカモメさんが…」とか宣(のたま)いつつ火力最大で敵を銃殺☆するのが戦場の彼女であり、密かにサイコパス説を疑っていた時期もあるくらいだ。
まあ、違うんだろうけど。
「ほら指揮官さん、サフォークのとなり座ってください!
………えへへ。それで、何が違うんですか?」
長い丈のスカートの捌きに苦労しながら備え付けられた木製のベンチに腰を下ろしたサフォークが、嬉し気に自分の隣に空いたスペースをぽんぽん叩く。
それに素直に従ったあなたは、ご機嫌な彼女の笑顔を近距離に捉えつつ、要らない豆知識を披露した。
ゾウとかカバとか、大型の草食動物は怒らせるとライオンやワニより危険らしい。
「ほえぇ。ゾウさんもカバさんもすごいんですねえ。………あれ?…???」
さりげなく失礼にも自分がゾウとかカバとか扱いされたと気づかない彼女は、話の脈絡を見失ってそこら中にクエスチョンマークを飛ばし始める。
サイコパスだろうが草食動物だろうがアホの子だろうが、その爪牙が敵にしか向かないのが分かっているあなたには結論としてはどうでもいい。
しばしあなたはむにゃむにゃ言いながら首を捻って頑張ってものを考えているサフォークを何とはなしに観察していたが、そろそろ最初に自分が何を考えていたのか忘れているだろう頃合いを見計らってちょっかいをかけることにした。
「ぷぇ?指揮官さん?」
横を向いていた彼女の頬に人差し指を当てると、すべすべもちもちした肌の感触が返ってくる。
何日もぶっ続けで潮風と直射日光に曝されるのが頻繁な女性の肌―――ついでにふわふわの髪も―――としては不自然極まりないが、そこは美少女ゲームのヒロインということで。
可愛い女の子が好意的にしてくれるから得している、それ以上でも以下でもない、とあなたは深く考えていなかった。
「指揮官さん、いたずらですか?サフォークも指揮官さんにやっていいですか?」
だめ。
「むむ、残念です……。でも、えへへ……」
深く考えない、という意味では間違いなく相性がいいのだろうピンク髪の娘は、へらりと笑いながらあなたの指が触れた頬を掌で優しく撫でる。
そのままこちらを見つめてくる青い瞳は、溢れんばかりの信頼できらきらと輝いていた。
「………」
そして。その背後には。
切れんばかりの鋭い殺気混じりの視線がサフォークの後頭部目掛けて突き刺さっていた。
―――さて、そろそろ仕事戻らないとなー。
「え、指揮官さんもう行っちゃうんですか?もっとゆっくりしましょうよー」
いやいやそうもいかなくて。じゃあな、サフォーク、“ベルファスト”。
「はい、ご精励なさいますよう。ご主人様」
「ばいばいです指揮官さん。…………?あれ?」
「――――それで、お庭の掃除をお願いしておいた筈ですが。
ずいぶんご主人様と楽しそうでしたね、サフォークさん?」
…………。
ゴメンナサイ、とサフォークの情けない声を置き去りに彼女を見捨てて逃げたあなたの影を追うように。
軽い叱責を終えたベルファストは執務室の方角を向いて静かに溜息を吐いた。
「あのー、ベルファストさん?」
サボりを叱られた直後だからだろう、おずおずと上目遣いで様子を伺ってくる重巡洋艦に何でもないと頭(かぶり)を振る。
のんびり屋の彼女にもこのような態度を取られてしまうあたり、ベルファストにも自分が苦手意識を持たれている自覚はあった。
軽巡洋艦ベルファスト。
怜悧な美貌を常に余裕を湛えた笑みで保ち続け、黄金律と評しても言葉に負けない均整の取れた肢体をフリル付きの“メイド服”で飾った銀髪の淑女。
王宮メイドというよく分からないがとにかく凄そうな肩書を自認するだけあり常に冷静沈着でありながら誰よりも勤勉、そして歩く姿勢から食事時まで完璧な礼儀作法を維持し続けている完璧超人であり――――つまりは、脳天気を絵に描いたが如き天然娘のサフォークとは非常に相性が悪い。
そもそもそれならそれでベルファストが自発的にメイドとして行っている基地の清掃業務などに付き合わせなければいい話なのだが、戦闘服(エプロンドレス)を着ている女がだらだらと呆けている姿など見過ごしてはいられない。
彼女にとってコスプレメイドはこの世で最も許すべからざる邪悪なのだ。
だから極論サフォークの苦手意識などどうでもいいのだが、―――問題は、そのサフォークと相性が良いご主人様にもやはり苦手意識を持たれている気がすることだった。
実際先ほどもそそくさと逃げるように去られたのが少しショックだったりする。
何より看過し得ない点が、サフォークに関してはもう一つあった。
「サフォークさん、先ほどご主人様に頬を触られていましたね?」
「へ?あ、はいっ!指揮官さんにいたずらされちゃってました!」
「………」
泣いてすらないカラスがもう笑ってやがる―――なんてはしたないことは言わないが、ぺかーっと眩しい笑顔に湧いて出た感情を抑えて話を続ける。
「噂ではもっと過激な“いたずら”をされたこともあるとか」
「過激……?あぅ、おっぱい触られた時の話ですか?」
「はい」
流石にちょっとは恥ずかしいのか、仄かに顔を赤らめたサフォークに至極真剣に首肯する。
そう、ご主人様におっぱいを触られたことがある――――主に全てを捧げるのがメイドの本懐だというのに、その一点において王宮メイドたるベルファストがこのなんちゃってメイドに遅れを取っているのだ。
あってはならないことである。
当然ながら、あなたがメイドに劣情を覚えてふしだらなことをしたから幻滅するなどというヌルい忠誠心など彼女は持ち合わせてはいない。
それどころか、自分がお手付きになってベッドでは娘のように慕い妹のように寄り添い姉のように甘やかし母のように包み込み、産めるのなら二男三女くらいまで産んで幸せな家庭を作り、やがて老衰した伴侶を世話しながら静かに看取るまでの妄想………もとい覚悟まで完了しているというのに。
実際は頬どころか手すらロクに繋いだことが無いのが現実である。
何故……と言えば美人揃いの女所帯の中で隙の無い完璧メイドにわざわざ的を絞ってセクハラを仕掛けにいくほど頭のネジが飛んでいるご主人様ではなかったから以外に深い理由はないのだが、彼女の有能さはその辺りの分析力には発揮されないらしかった。
だから、彼女は威儀を正して深々と頭を下げる。
「―――一つ、お願いがあります」
「え、何ですかいきなり!?」
ズレた思考回路が導き出したのは……先達に教えを請うことだった。
少なくともご主人様におっぱいを触ってもらうということに関して、サフォークはベルファストより優れているのだ。
ならばそこは潔く認め、教導を受けることが肝要である、そんな風に考えた。
はしたない言い方はしないが、そうした思いを率直かつ正直に伝える。
すると困ったように笑うサフォーク。
「――――お願いする相手、違うと思いますよ?」
いつも通り春風を思わせる穏やかな声だったが、どこか透き通ったものを感じさせた。
「つまり指揮官さんともっと仲良くなりたいんですよね?
だったら指揮官さんにもっと仲良くしてくださいってお願いしないとだめなんじゃないかな、って思います」
「………!」
「大丈夫です!指揮官さんは、こんな私でも見捨てないで、たくさん強くしてくれた素敵なひとです!」
言われてみれば、なるほど真理だった。
誘惑の手練手管、そんなものは簡単に磨けるものではないし、仮に身に着けたとて自分の本質が変わるわけでもない。
まして主人の考えを言われずとも察して動くべき侍従が、逆に主人に侍従の欲望を察して動いてもらおうなど本末転倒にも程がある。
そう、おっぱいを触って欲しいなら、待っていないでご主人様にそう伝えるしかないのだ。
「助言感謝します、サフォークさん」
「いーえー。あ、あと笑顔です!サフォークが笑ってると、指揮官さんも嬉しそうに笑ってくれますっ」
天啓を得たかのように思考に電流の走ったベルファストが頭を下げると、これがお手本ですとばかりのほえほえした笑顔が返ってきた。
なるほど、笑顔―――そう反芻し、この後三時間は鏡の前で表情の練習をすることを決める。
――――そして、後日。
「ご主人様。以前婦女子の胸に不埒な行為を働いたという件についてお話が――――ご主人様?」
常の三割増しの気迫の籠った完璧笑顔でそう話を切り出したベルファストと、それを見てやばい説教される、と速攻その場を逃げ出したあなたと。
その数時間後に最悪に不機嫌な銀髪メイド監督の下、寮舎の大掃除をさせられて半泣きになっているサフォークの姿が見られたとか。
サフォーク改はどっちかっていうとウエイトレス服だ、って?
………聞こえなーい