アズレンスルホン酸ナトリウム   作:サッドライプ

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「ですとろいもーど?あったよ、お兄ちゃん!」

 でかした!すげェ!



ユニコーン/ネルソン

 

 抱えたぬいぐるみ、白き一角獣の角がV字に変形し、持ち主の白いドレスには赤いラインが走り輝きを放つ。

 殲滅形態に移行した軽空母は敵の艦載機すらも己の制御下に置き、光の剣を抜き放ち一条の閃光となって敵を切り裂きながら戦場の海原を蹂躙する―――

 

 そんな夢を見た、と執務室で書類の確認をしながら語ったあなたにユニコーンが返す眼差しは、とても暖かかった。

 

 

「お兄ちゃん、疲れてる?ほら、ユニコーンのひざまくらでお休みしよ?」

 

 

 ソファで所在なげに投げ出していたのをぽんぽん、と叩く彼女の膝はあまりに細っこく、案外重いと言われる人間の頭部を乗せるのは気が引ける。

 実際にはたとえ数百ミリの戦艦の主砲が直撃しようとある程度耐えられる存在なのは知っているが、如何せん視覚情報というのは人間の認識の八割以上を占めているわけで。

 落ち着いて休めるとは思えなかったためあなたはその申し出を断った。

 

「そう……」

 

 ぎゅう、と心なし強く抱かれたぬいぐるみが中綿のへこみによってそれを受け止める。

 拗らせた処女厨と名高き一角白馬の四本足が胴体の変形につられて持ち上がり、乱暴な扱いに抗議しているようにも見えた。

 

 もっとも持ち主はと言えば、眉をハの字にしてただ黙り込んでいる。

 俯いている様から目に見えてしょんぼりしているのが伝わってくるのを見かね、気持ちは嬉しいから礼は言っとく、とフォローを入れる。

 

「…………」

 

 返ってきたのは無言だった。

 気分を害したというのではなく、生来の口下手からうまく言葉を紡げないのだろう。

 代わりにとばかりに上目遣いでこちらをじっと見つめてくるユニコーンに、あなたも反応に戸惑う……というのは、今まで数え切れない程度には繰り返した一幕でもあった。

 

 絵に描いたように内気な少女。

 ただし、初対面からあなたのことをお兄ちゃんと呼んで慕ってきた子でもある。

 それだけに、この軍港の戦力の中である意味一番対応に困る子は彼女だった。

 

 一番の古株(ジャベリン)のせいで女の子相手でもテキトーな対応をする習慣が染みついてしまっているあなただが、不思議系(ラフィー)や天然(サフォーク)と違って下手に雑に扱ったり意地悪したりすると泣かせてしまいそうな繊細さがあり、彼女に対して積極的な行動が起こしづらい。

 好かれて悪い気はしないだけに、どうにもやりづらさがあった。

 

 

――――いい子はいい子なんだけどな。

 

「………っ」

 

 

 積極的に手伝いを志願してきたり、先ほどの膝枕の提案のようにこちらを気遣う言動を見せたり。

 ユニコーン頑張る、が戦場でも頻繁に出てくる口癖なあたり、健気と評してもまず誤りは無いだろう。

 

 そんなことを考えながらこぼれた独り言に、微かに彼女は反応していた。

 そして口元をぬいぐるみで隠し、あなたに聞こえない小声で同じく独り言を発する。

 

(……ユニコーン、そんなにいい子じゃないよ?)

 

 軽空母ユニコーン。

 主力艦隊で旗艦を張ることもできる彼女は、人間基準では高くてもローティーン下手をするとまんま幼稚園児レベルの精神年齢が基本の駆逐艦達よりも成熟した心を持っている。

 口にする言葉のたどたどしさと姉と比べるべくもない発育の悪さで幼く見られても、自分の言動が相手にどう思われるかを慮る理性と、そして己の恋心を自覚した女の情念を持ち合わせている。

 

 だから実は、彼女は大好きなお兄ちゃんを困らせていることを自覚していながら、それを無理に解決しようとしていない悪い子だった。

 

 だってあなたが悩んでいる内容というのは、つまりは『ユニコーンに優しくしてあげたいけどどうしよう?』だ。

 下手に言葉や行動で表面的に優しくしてもらうより、悩んでくれているというそれ自体がよっぽど彼女に幸せな気持ちを運んでいる。

 

………とはいえ、あまりその状態を放置し過ぎて、諦められたり関心を失ったりされれば泣いて塞ぎ込む自信がユニコーンにはある。それを自信と呼んでいいのかは知らないが。

 

 だから、という訳ではないが。

 この日彼女は一歩を踏み出した。

 

 ソファから立ち上がってぬいぐるみを自分の頭上に乗せ、執務机に向かって座るあなたの背後に回り込んで強制的におんぶをせがんでいる形でその頭上に自分の頭を乗せる。

 

 突然の奇行と不意の重みに、あなたはつい何やってんの、と直球でツッコミ半分の疑問を呈することしかできなかった。

 それに対する回答は要領を得ないもので。

 

「えと、えっと。………今日のユニコーンは、悪い子!」

 

 おう、としか言い様がない。

 まあ執務の支障にはなっているので確かに悪い子のいたずらと言えばそうだが。

 

 しかし普段の引っ込み思案具合からしてこの行為がユニコーンにとってかなり重大な意味があり、かつかなりの勇気を必要としたことはなんとなく察したあなたは、最初から存在しなかった拒絶するという選択肢を次元の彼方に追いやる。

 

 じゃあ今日のお兄ちゃんも悪い子ー、とどうせ捗らない書類を脇によけ、ユニコーンを乗せたまま机にぐでーっと伏せる。

 指揮官、ユニコーン、ぬいぐるみの奇妙な三段饅頭が執務机に乗っかることになった。

 

 その体勢のまましばらくなすがままにしていたあなただが、なんとなくまたユニコーンにどう接するべきかを考えて。

 答えは出なかったが、なるようになるか、とはなんとなく思えてきた。

 

――――で、ユニコーンさん、あと何分くらいでいい子に戻ってくれる?

 

「ん………じゃあ30分?」

 

 りょーかい。

 

 そんな感じで、一人と一隻と一体は、なんとなく一時間程ぐでーっとし続けるのだった。

 

 

 

 

…………。

 

「で?仕事が全く進んでいないことに関して、何か申し開きはあるかしら指揮官?」

 

 昨日の指揮官は悪い子だったのです。

 

「――――は?」

 

……スミマセンデシタ。

 

 どこぞの天然ピンクよろしく片言で謝罪する指揮官。

 正座でうなだれて反省をやらせているのは、あなたの配下である筈のビッグセブンを冠する戦艦だった。

 

 ネルソン型ネームシップ、ネルソン。

 超ステレオタイプなイメージの欧米美女―――敢えて死語を用いればボンキュッボンのパツキンねーちゃんといった外見である。

 しかも上乳のはみ出た露出の高い軍服風の衣装は深紅、腰下まで伸びた煌びやかな金髪はツインテールに分けている上にカールを巻いてドリルもとい軽い螺旋を描いている。

 

 属性過多―――そんな言葉が浮かんだあなたの第一印象を裏切らず。

 鋭い眦でこちらを睨む彼女の口から出てくる言葉は、実にツンデレだった。

 

「ふん。書類の分類と整理は終わらせておいたから、せめてこっちの山は今日中に終わらせなさい。

 あんたでもちゃんと集中してやれば夕飯前には終わる筈よ。だらだらやってたら日が暮れても終わらないでしょうけど」

 

 そう言って指し示した机の上には、きっちり角を揃えた書類の山が二つに分かれて置かれていた。

 のみならず、何十枚もの付箋が注釈のメモ書き付きで貼られていて、ぱらぱらとめくる限り、一読しただけであとは印を押すだけの状態にされているものすら幾らかあるくらいだ。

 

 何でもない風な素振りをしているが、どれだけてきぱきやっても数時間分の作業であることがうかがえた。

 流石に感謝と申し訳なさを覚えたあなたは素直にすまん、と重ねて謝意を伝える。

 

 それに対してネルソンは眉一つ動かさずに切り返す。

 

「以前、多くは期待しない、と言ったわ。

 まだあんたは指揮官として未熟もいいところなんだから、せめてその謙虚さと素直さは忘れないことね」

 

 自身の労苦を一切かさに切ることなく、憎まれ口と見せかけて激励の言葉を贈ってくるクールさも持っているとか、どれだけ盛る気なのかと思う。

 

 しかし、謙虚で素直、か――――どのへんが?

 

「な、なによ」

 

 普段からよくあなたに厳しい言葉を投げては未熟の評価を下すネルソン。

 そんな彼女があなたに求めている理想の指揮官像というのは無茶なくらいレベルが高いというか、誰だお前状態になるイメージしかないのだが。

 正直彼女の口から賞賛の単語が出ること自体が想定の外だった。

 

「………」

 

 そんな感じのことを伝えると、少しだけ目を閉じて思考に耽った彼女は、少し閊(つか)え気味に話し始めた。

 

 

「そうね、私だって別に認めるべきところはちゃんと認めるわよ。

―――ぐずったユニコーンの面倒見てて仕事にならなかっただけなのに、それを言い訳にしないところとか」

 

 

 待ってなんでそれ知ってるの。

 

「そんなのあの子の朝と夜の機嫌見たら分かるわよ、それこそあんたがいつも皆にやってることじゃない」

 

………、なんか過大評価されてる気がするんだが。可愛い女の子に囲まれてはしゃいでるだけだぞ俺?

 

「そういうとこ、ね。

 少なくともこの港にいる艦全てがそんなあんたの為に命を張る覚悟をしているし、それに値する相手だと認めている自覚は持ちなさい」

 

 いや、重いから。やめてそーゆーの。

 

 

「重いと感じるということは、背負う意志と覚悟があるということ。

――――だからこそ私は、どれだけ未熟でもあんたのことを指揮官と呼んでいる。その最低条件かつ一番大切なものは持っているのだから」

 

 

 張りのある声で、真っ直ぐこちらを見据えて言われると、あなたの浮ついた言動が全て吹き飛ばされるようだった。

 その反作用のように心臓が鼓動を刻む音が煩いと感じるようになる。

 

 きゅんと来た―――なるほどこれがその感覚か、とおちゃらけた表現が出るあたり、まだ余裕がある感じだが。

 

 かっこいいねえ、ネルソンおねーさんは。

 

「おね……ッ!?い、いきなり何よ!?」

 

 いつものように適当に漏らした言葉に、ばっと双房を翻して一転顔を背けるネルソン。

 こういう反応をされると、一瞬入りかけたシリアスの分だけ戯言を吐いてしまうのがあなたである。

 

 あ、お姉ちゃんって呼んだ方が良かった?

 

「お姉ちゃん!?勝手に変な血縁関係作らないでくれる!?」

 

 不束(ふつつか)な弟ですが………。

 

「いい加減にしなさい!ああ、もうっ」

 

 頭が痛い、と言わんばかりに豊かな胸の前で軽く腕組みしながら右手を眉間にあてて首を振り、表情を落ち着かせながらこちらに再度向き直る。

 ただ、微妙に顔が赤くなっているあたり、可愛い、という感想すら湧いて出る。

 

 しかもその直後、穏やかに微笑んだ顔がとても優しいものだったから。

 

 

「まったく、でもそうね―――本当手のかかる指揮官(おとうと)よ、あんたは」

 

 

 どれだけ属性盛る気なんだこのビッグセブン。

 

 

 





 見返すとラフィー以外ロイヤル艦ばっか。(あ、次回はロドニーと誰かでやります)
 でもクイーンエリザベスは意地で使ってなかったりした―――が、モナーク開発過程で育ててしまう。

 使ってみた感想?

 あれ遊戯王で言う征龍だよね(公式はなんであれにOK出した)

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