この二人を並べている時点で作者の悪意を感じる……?
「指揮官、ロドニーお姉ちゃんですよ!」
わーいお姉ちゃんだー。
「あ…ふふ、いい子いい子です」
開口一番に誇り高きビッグセブンがなんかとち狂っていたが、あなたはせっかくなのでノッてみた。
……発言はともかく、胸元の露出度高い改造白軍装を纏った銀髪巨乳の美人が両手を前に拡げてハグ要求のポーズをしてきているのに、飛び込まない以外の選択肢がある訳がない。
普段は穏やかで当たりも柔らかい戦艦ロドニーは、ふんわりした胸でその感触を愉しむあなたを受け止め、優しく後頭部を撫でてくる。
数分ほど至福の時間を味わった後、身を起こしつつなんとなくきりっとした真面目顔を作って彼女に訊ねた。
―――それで、急にどうしたいきなり。
「指揮官、昨日姉さんのことを“お姉ちゃん”って呼びましたよね?」
ツッコミ待ちだったのがスルーされたのをちょっと悔しく思いつつ、そういえばそんなこともあったなと記憶を反芻しながら。
話にあった姉と違って吊り上げているところを見たことがない垂れ目の、その瞳に潜む眼光に気付かないふりをして、真面目顔を保って続きを聞くことにした。
「ロドニーは一言もの申します。
―――なんてことをしちゃったんですか、と」
え、ダメだった?
「ダメという訳では。あの愛情表現が全部叱咤激励になってしまう超弩級の不器用ですから、それがちょっとでも通じて指揮官から好意的にしてもらえたとなると舞い上がって超ご機嫌になるくらいには喜ばしかったんでしょう。
我が姉ながら実にチョロ……こほん」
いろいろ聞こえなかったことにしとく。
「ロドニーは優しい指揮官が大好きです♪」
ありがとー俺もロドニー愛してるー。
「ふふ、両想いです。ロドニーも実はチョロいので本気にさせてもらいますね?」
……あれ、今自分下手打った?
「さあ?」
そんなぐだぐだを挟みながらもロドニーが語ったのは、昨日あなたと別れてからのネルソンの言動。
ネルソンとロドニーは姉妹艦である―――艦が姉妹って実際どういうことだと思わなくもないが、部屋に空きがあるのに寮舎で同室で暮らす程度には仲が良いと認識しておけばいいのだろう。
それで昨日秘書艦業務を終えて帰ってきた日はいつもそうしているように、お気に入りの入浴剤を引っ張り出しながらあなたに関する愚痴を延々と漏らし続ける訳だが―――、
ちょい待ち。
いつものように愚痴って何?
「え、それは……今日の指揮官のこんなところがダメだったとか、ここを直せばもっと立派な指揮官になれるのにとか、でもこういうところは認めてあげるとか。
さながら―――実は息子が可愛くて仕方ない頑固親父が酔っ払ってくだを巻いてる感じで絡んでくるんですよ?」
そんなちょくちょく失礼な表現で姉を語る上に当の指揮官にツンデレ具合を暴露してしまう口の軽い妹と知ってか知らずか、ネルソンはロドニーにその日指揮官との間にあったことを語るのが習慣化しているらしいのだが、その日は特にクドかったという。
前振りが長いし分かりづらい、こちらの反応などおかまいなしにヒートアップする、そしていつのまにか同じ話をループする。
語り手としては赤点レベルの話し方で、あなたに“お姉ちゃん”と呼ばれたくだりを………周回して都合19回。
およそ普段のきびきびした態度とはかけ離れた状態のネルソンから、もはや惚気ですらない何かをずっと聞かされたロドニーだった。
「もう相っ当ッ、嬉しかったんでしょうねえ………!」
なんか、ごめん。
「ふふ、許しません」
満面の笑顔で謝罪が切って捨てられた。
ていうか、さっきから思ってたんだけど、据わった目で笑うのやめて?怖いよ?
「え?ひどいです指揮官、そんなこと言うなんて。そんな指揮官は、こうしちゃいますっ」
不意を打ったロドニーは、いきなりあなたの頭を胸に抱き寄せて先ほどの体勢に戻る。
違いがあるとすれば、迎え入れる抱擁というよりは捕らえ逃がさない拘束といった力強さが回された腕に籠っていることか。
くすくすと控えめな笑い声で、幸せな柔らかさの中から彼女の顔を見上げると可憐な笑顔があるというのに、背筋が微妙に寒かった。
………怒ってる?
「いいえ。怒ってたら指揮官に八つ当たりなんてせずに直接姉さんに言います、流石に辟易(へきえき)はしましたけど」
至近距離で囁くように声音を変えた彼女の声は、甘く耳朶を揺らす。
「ただちょっと思ったんです。“ネルソン”の弟ということは、指揮官はロドニーにとっても弟くんになるのではないかと」
……………。いや、それはおかしい。
「だめです。少なくとも今日はロドニーは指揮官のお姉ちゃんなので、口答えは許しませんっ」
指揮官なのに?
「お姉ちゃん特権です♪」
それ別の人のセリフ!?
いつのまにか上官と立場を逆転させていたロドニーが、あなたの額にほほを擦りつけてすりすりする。
なすがままにされていると、しかしそれ以上先の何かをされることはなかった。
結局じゃれたかっただけなのか―――とも思ったが、ふと頭を過ったものがあり幸せそうにあなたを放さないままの彼女に尋ねる。
もしかして、ネルソンの心配してた?
「…………」
どうにもロドニーの話だと、彼女の姉はツンデレによくある面倒くさい属性まで備えているらしい。
陰であなたとの会話を思い出して一喜一憂しているのを想像すると確かに可愛らしい一面と言えるかも知れないが、冗談でお姉ちゃん呼びしただけでテンションが最高潮になっているというのは逆に不憫な感じがしてくる。
ましてその言動を一番近くで見ている妹のロドニーからすれば、こうして愚痴に見せかけて彼女のアピールをするくらいには、余計な世話を焼かせる状況に見えるのかもしれない。
そこまでネルソンにつれなくした覚えはないのだが。
………むぎゅ?
返答は、より強く抱きしめて胸に埋もれさせる行為だった。
「……心配なんてしてませんよ。指揮官ですから」
だからお前らのその過大評価と過剰の信頼はなんなんだ。
「分からないんですね。それは残念なような、ほっとしたような」
ビッグセブン級の感触を持つ柔らかなナニかのせいでロドニーの顔が覗えない状態だが、楽しそうな声音からは特に愁いなどは見当たらない。
懸念としてはおよそ見当外れだったようだ。
そんなあなたの視界の外で、悪戯げに口元だけ動かして銀髪の戦艦少女は笑った。
ホレタヨワミ――――、
「―――ってことです。それで十分なんです、全て懸けて、擲(なげう)ち、捧げるには」
…………。
そんなやり取りをしたのが午前中のこと。
食堂にて昼食を取り終えたあなたは、昼休憩と称してドックに赴いていた。
あなたが指揮官をやっている基地は、軍港と言っても元は化け物に壊滅された廃漁村を突貫工事で仕上げたもの。
しかもそこで整備すべき艦船達は人間サイズなので、ドックも小さな町工場程度の広さだった。
光量の大きい白色灯が日光を遮断された空間を照らし、少し蒸した空気に乗って油……というよりは化学薬品の臭いが鼻を刺激する。
そこでごそごそと輝く正六面体の結晶のような何かをいじくり回しているのが、今回のあなたの目的である艦だった。
「むむ?ご主人の匂いがする」
この薬品臭いのになんで匂いが分かるんだよ。
「語弊だ。気配のこともニオイ、と呼ぶことはあるだろう?」
なるほど……ってそれはそれでおかしいよ忍者かお前は?
「軽巡洋艦、夕張だぞっ」
ドヤッ。
謎の自慢げな表情を見せながら振り返ったのは、艶やかな黒髪が美しい着物姿の少女だった。
低い身長のせいでおさげにした長い髪が地面に着くほどになっているが、やはり何故か枝毛一つ見当たらない。
そして身を包む着物は目に優しい浅葱色のそれだが、やや肉付きのいい太ももが完全に露出しているほど丈が短く、しかもそれを花魁よろしく肩が完全に露出するレベルで着崩している。
しかし何より特徴的なのは、その髪と同じ色で頭頂から生えた一対の獣の耳と、短い裾から伸びた獣の尻尾だった。
髪と同じようにしなやかな毛並みで、先端が白くなっているが、犬のものなのだろうか。
元がゲームのヒロインとしてデザインされた存在だと考えると、軍艦を女の子にしている上しかもケモミミしっぽまで生やすとか、日本人だなあとあなたは懐かしくなる。
「しかしご主人。会いに来てくれたのは嬉しいが、何故か悪意のようなものを感じるぞ?」
心外なことを言われた。
指揮官として信頼する部下に悪意を持つはずなどない。
ただちょっとロドニーにべったべたに甘やかされた反動で、彼女以上の露出度の高いなりをしているのに奥ゆかしい胸元を見て寛大な気分になりたかっただけなのに。
「………夕張、そういうのは鋭いぞ?」
まあまあバリィさん、話を聞いてくれ。
「ばりぃさん?」
知らない?なんか腹巻巻いたひよこ。……ひよこ?多分ひよこ。
「知らん。というかそんな珍妙な生物と一緒にしないで」
ちなみに今治(いまばり)のマスコットキャラだからバリィさんね。
「夕張ですらない……だと……」
愕然とした夕張の尻尾が警戒するように縦に揺れる。
あわよくばそう呼ぶことを既成事実化しようかなとかふと考えてみたが不評っぽいのでやめた。
じゃあ夕張、聞いてくれ。
実はどうしても夕張のむn――――こほん、顔が見たくて逢いに来たんだ。
「…………」
夕張じゃないとダメなんだっ(強調)
「……………ふ、ふん。騙されないよ」
ぷいっと素っ気なく顔を逸らされた。
やはりその場のノリで吐き出した言葉で話を逸らすというのは難しいらしい。
夕張の声が上ずっていたり、尻尾がものすごい勢いで横に振り子運動している気がするが、多分気のせいだ。
「……本当は、別にいいけどね。悪意でもなんでも、指揮官をこうして夕張の縄張りでお出迎えできたんだから」
縄張り。
その言葉に、あなたは軽く辺りを見回した後彼女がいじっていた正六面体に目をやった。
便宜上キューブと呼ばれているその結晶は、夕張達のような艦船の銘を冠した戦乙女を生み出す素になっているらしい。
未だ詳細は不明だが、なにやら“情報”の集積体とのことらしい。
“らしい”と伝聞でしか概要を知らないが、設定厨でもないあなたは深くものを考えていなかった。
――――で、次は誰がロリ化すんの?
「ご主人、だからあれは事故だって」
かつて明石と夕張の二人で自信満々に解析結果の報告とか言い出して、生み出したのはロリファストだったせいもあるが。
とはいえ、夕張がキューブを解析している理由が、この基地の戦力増強に資するかもしれないから――というのを知っているあなたは、それ以上茶化す気もなくがんばれ、とだけ言った。
「うむ、がんばる」
簡潔にそれだけ言い、夕張は作業に戻る。
会話の切り上げ時と見たあなたは、そっとその場を立ち去るのだった。
そして指揮官を見送ることもせずにぽつりとその場に残った夕張は、小さな声で自分に言い聞かせるように呟く。
「ご主人にがんばれ、って言われた。じゃあより一生懸命やるのが当然だろう夕張」
あなたにとってはそこまで大きな意味は込めずに言った言葉だ。
夕張もそれは―――というかあなたの言動が大抵その場のノリか悪ふざけなのは分かっているが。
それでも尚敬愛する主人に激励された、という事実は夕張を何よりも奮起させる原動力となる。
あの愛の言葉もどきにしたって、真剣味が籠っていなくとも憎からず想う人にそう言われれば満更でもないし、逆にへたに真剣を気どられて全然言ってくれないのとどっちが良いかでは比べるまでもない。
言葉はたかが言葉、されど言葉。
真に重要なのは語り手が込めた意思ではなく、受け手がその言葉に何を感じたか。
あなたが普段鋼の少女達に接している態度とそれに返されるにはあまりに篤(あつ)い信頼のギャップに困惑していることまでは当然知る由もないが………その答えらしきものは持っている夕張なのであった。
ケースバイケースでしょうが、軽薄なのが必ずしも悪い訳ではない、という例。