アズレンスルホン酸ナトリウム   作:サッドライプ

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 そろそろ再登場の子もちらほらさせないとパターン的に苦しい。

 というわけでレベル上限解放が実装されてからというもの毎朝毎朝デイリーで夕張×3を元気に爆殺しているうちの第一艦隊の戦神です。
 夕張に一体何の恨みがあるんだ………。




ラフィー改/イラストリアス

 

 夜も更け満月が仄かに照らす時間帯、射し込む光を頼りにあなたは薄暗い基地の廊下を歩く。

 今日は出撃した艦隊が密漁船と出くわした為面倒な手続きが必要になり、うんざりしながらもやっと報告書を上げたところだった。

 

 海の上、というのは兎角物事の処理がめんどくさい。

 船籍―――どの国の船なのか、さらにどこから出港した船なのか、変な協定の対象になってないか、乗組員が大人しく情報を吐いてこちらに従うか、犯罪者として移送してしまって後で問題が発生しないか。

 

 対セイレーン基地司令官としてある程度の強権を与えられていてすら、マニュアルを秘書艦と一緒に慎重に確認しながら対応せざるを得なかった苦労を経験させられ、軽く眩暈がしている。

 あとほんの少しだけ密漁者たちの態度が悪ければ、『そんな船は存在しなかった』ことにして逆にお魚さん達に餌と住処を提供することも選択肢に入れていたかもしれなかった。

 

 彼らにも生活というものはあるのだろうが、だったら見つかるなというだけの話。

 こういうことに関しては普段は女の子女の子している艦たちですら、むしろあなたより余程シビアな感覚を持っている。

 彼女らも戦時中の軍籍船と考えれば至極当然なのだが、不審船遭遇の第一報時に可愛いアニメ声で撃沈するか否かを訊かれた時は、発砲許可一つで大騒ぎする前世の自衛隊との落差を痛感したものだった。

 

 そんな出来事のせいでくたくたの上、明日にもそれ関連の仕事が一部残っていると考えると変に乾いた笑いすら出ながら、非常灯と月明りで視界を確保して進む。

 基地戦力が充実する度に拡張と改装を繰り返したためそこそこ真新しい建物だが、茫洋とした光しかないと少し不気味だった。

 しかも軍事施設の都合上内部は入り組んだ造りになっていて、歩かされながら集中力が霧散していく為、余計に浮いたような錯覚を感じる。

 

 そこに。

 

 

「――――やっと帰ってきた。ずっと待ってた」

 

 

 抑揚のない声で言われたせいで、あなたはつい跳び上がりそうになった。

 慌てて視点を落とすと、緩く曲線を描く二つの銀の糸束がふわりと闇を泳ぐ様が目に入る。

 その間を縫うように、真紅の瞳が鋭くあなたを射抜き―――。

 

 じゃきっ。

 

「指揮官、今日はラフィーと一緒に、おねむする」

 

………別に構わんから艤装で指揮官を脅迫すんな駄ウサギ。

 

 まくらを抱き締めながら上目遣いのおねだりだったらいい感じに萌えられたのにと、キレ良く突き付けられた砲身に溜息をつくあなただった。

 

 

 

「………」

 

 あなたの部屋に一緒に入って以降もじっと此方を見ているラフィーに構わず軍服から寝間着に着替えると、そのままベッドにばたりと倒れ込む。

 横向きの体勢でタオルケットを持ち上げると、当然のごとく彼女は髪を解いてあなたの懐に潜り込んできた。

 

 ちょうどいいので抱き枕にすると、細く小さな躰から高めの体温が伝わってきた。

 トレードマークのピンクのハーフコートを脱ぎ捨てた彼女はラフなキャミソールにハーフパンツの出で立ちのため、擦れ合う素肌から柔く滑らかな感触と温もりをダイレクトに感じられる。

 

 それに対してなんとはなしに背中をぽんぽんと優しく叩くと、ぴくりと胸元で少女が震えた。

 彼女が今日の密漁船を発見した艦隊に所属し、拿捕(だほ)に当たっていたことを思い出したあなたは、静かに何かあったかと問いを投げる。

 

「………指揮官。ラフィー、こわい?」

 

 質問に質問が返ってきた。

 こちらをまだじっと見ている人形のような少女の表情に変化はないが、声音も僅かに震えているのは聞き取れた。

 どう答えたものか迷っていると、ぼそりと話を続けるラフィー。

 

 

「ラフィー、バケモノって言われた。

 抵抗したから、制圧して……ラフィー、間違ったことしてないのに」

 

 

 どうして――――。

 

 声にならない理不尽への嘆きがそこにあった。

 理屈では彼女の立場として彼女の行動になんら問題はなく、その責任も命令をした指揮官であるあなたに帰するものだ。それはラフィーも理解している。

 けれど理不尽であれば、小さな子供が屈強な船乗り達をまとめて叩き伏せることも、それに恐怖と絶望を覚えた犯罪者達が罵声を叩きつけることも、そして彼女の心がそれに痛みを覚えることも、厳然とあり得てしまう。

 

 魚の餌でもよかったかも、と声に出す寸前で辛うじて堪えた。

 もう処分を決め終えた何処の誰とも知らぬ他人に心を揺らすより、優先すべきことがあるのは流石に分かる。

 

 とはいえ具体的に何をすればいいのかまでは分からなかったが。

 気にする必要はない、なんて当たり障りのない慰め文句は意味がない、ラフィー自身が気にする必要がないのを理解していてそれでも気にしてしまっているのだから。

 

 傷ついた女の子を慰めることに効果的なやり方なんて知らない。

 いつものように茶化してぐだぐだにしてしまえる話でもない。

 結局できるのは、ラフィーの最初の問いに自分の立場を伝えることぐらいか。

 

――――俺は怖くない。怖がってたら指揮官なんてやってられない。

 

 薄っぺらい言葉だと思った。

 口でなら何とでも言える。

 それを信じるに足る人間の大きさも、生き様も、誠実さも、彼女達に示した覚えは何一つない。

 何より、曇りなき心で彼女達に一片の疑いも持っていないなどと言えるほど、自分を狂人だと思っていない。

 

 けれど―――。

 

 

「ん。ラフィーは、指揮官のことは信じてる」

 

 

 返ってきたのはそれこそ一片の曇りも見えない純真な信頼だった。

 何故そんなものを抱けるのか理解できない……だが疑うことすら躊躇われるほどの清らかでひたむきな信頼があった。

 

 本当に、その過大評価はなんなんだ……。

 

 何か敗けた気分になりながら、投げ遣りになってあなたは目を閉じる。

 このまま寝て起きて、朝になったら少しはラフィーが元気になっていたらいいと無責任に祈りながら。

 

 そんなあなたのことを潤んだ瞳で見つめながら、ラフィーは―――ほんの少しだけ、笑った。

 

 暗い廊下でじっと待っていた自分に、不意に武装を突き付けられたにもかかわらず、いつものように軽口を言いながら受け流して、挙句無防備に寝床すら明け渡す指揮官であるあなたのことを。

 

 たとえ冗談でも甘えでもやっていいことと悪いことの区別くらいはラフィーにもついていて、上官に武器を突き付ける行為がとびきりの後者であることも分かっている。

 あなたは疲れて頭が回っていなかったが、明確な反逆として退役処分―――無機質な情報体へと還元されてもおかしくはないことも。

 

 それでも堪え切れずに、ラフィーは甘えてしまった、指揮官を試してしまった。

 懐くのを怖がる野生動物同然に噛みついて―――いとも容易く赦されてしまった。

 

 

 何のことはない、あなたが部下を信じ貫くことのできる一廉の指揮官であることはとうに証明されている。

 

 

 確かにあなたは優れた人格者ではないかもしれない。

 言葉も殆どが薄っぺらいかもしれない。

 それでも、そこにある親愛に偽りが無いと信じられる人間だから、鋼の少女達はあなたを慕う、というだけのこと。

 

(うん。“ここ”がラフィーの帰るおうち)

 

 眠りに落ちたあなたを起こさないように、ラフィーは自分を抱き締めてくれている人の体温を感じながら心臓のあたりに顔を擦りつける。

 薄く聴こえる鼓動の音と、少女の甘い匂いと男性の汗の臭いが混ざり合ってゆくのを僅かな高揚と共に確かめ、沈んでいた心が軽くなっていった。

 

 ラフィーは大丈夫だ。

 どんな理不尽に相対しても、この居場所を守るためなら戦える。

 指揮官の為にどんな戦場にだって征ける。

 

 眠れる戦神は、そう自らの拠り所を再確認する。

 

 何故かこの時ばかりは、世界で最も安心できる筈の場所にいるのにカケラも寝る気になれなかった。

 だからじっと首を固定して―――ずっとずっと飽きもせずにあなたの寝顔を見つめ続ける。

 

 窓から射しこむ蒼い月光が、そんな銀色ウサギのことを優しく照らしていた。

 

 

 

 

 

…………。

 

 で、寝て起きたらふっつーにいつも通りのラフィーだったんだけど。

 

「心配して損した、ですか?」

 

 そうは言わないけど、結局俺の関係ないところで自己解決されるともやっとしない?

 

 翌日、快晴となった昼下がりの中庭。

 やる気が底辺となった仕事を放り出したあなたは、日差しの適度に遮られた木陰で紅茶を愉しんでいた少女に絡んだかと思うと相談というか半分愚痴を吐き出した。

 

 白いシンプルなドレスに押し上げられた、たゆんとした胸が眩しい。

 突然憩いのひと時を邪魔したあなたに不快な顔一つ見せずに、にこやかに予備のカップに紅茶を注いで差し出す包容力の塊は、銘をイラストリアスと言った。

 

 肌は水が透き通るように白く、髪は陽光を優しく照らし返すように白く、コバルトブルーの瞳以外はひたすら純白の装甲空母。

 浮世離れして神秘性すら感じさせる令嬢は、あなたの話を受けて微笑みを僅かに苦笑に変えている。

 

「もう、相変わらずですね指揮官さまは。きっと指揮官さまという光が、傷ついたあの子の心を優しく照らしたのです。

 関係ないなんて、そんなわけありませんわ」

 

 お気遣いどーも。悪い気はしないね。

 

「もう、子供みたい」

 

 

 耳当たりのいい優しげな声を受け流して少しぬるめの紅茶を飲み干す。

 言い回しが詩的で、希望に満ちた解釈といい実に彼女らしい発言だと思ったが、それを額面通りに受け止める素直な人間にはなれそうになかった。

 

 そんなあなたを慈しみの目で見つめるイラストリアス。

 包容力が大きすぎて逆につかみどころがないふわふわとした印象も受けるが、何故か苦手意識も抱けない不思議な相手というのがあなたから見た彼女の印象である。

 突っ張っても甘えても「あらあら」で済ませて好意的に見てくれそうな視線は、嫌な気はしないが居心地がいいというわけでもないのだ。

 

 もともとラフィーの話に関してはそこまで深く心配していない―――正確にはそういう素振りで過ごしつつ少し多めに彼女を気にかけておくくらいがベターなのだろうと結論を出している―――あなたは、ちょうど持ち歩いていた小道具を取り出して対イラストリアスのダベりモードに入ることにした。

 

 

 指揮官、そんなにいい子じゃないよ?闇属性だよ?

 

「あら?ええっと、ユニコーンの真似ですか?可愛い♪」

 

 なん…だと……?

 

 

 ぬいぐるみを抱き締めて上目遣いでたどたどしく。

 ネルソン辺りなら「馬鹿」の一言で沈めてくれそうなツッコミ待ちのウザ芸だったが、妹の物真似をされたイラストリアスにはまさかの好評を浴びていた。

 ふみゅ、と腹を絞められた黄色いひよこがあなたと一緒になんとも言えぬ間抜け面を曝している。

 

「そのぬいぐるみはどうしたんですか?」

 

 何故か配給物資に混ざってた。『まんじゅう』って言うんだと。

 

 そういえばひよこまんじゅうってあったよなあ、とおよそ飛べるとは思えないまん丸の胴体にペンギンみたいな羽がついている謎のマスコットのぬいぐるみを眼前に抱えてあなたは首を捻った。

 それをひっくり返してイラストリアスに近づけると、一応訊いておくかくらいの気持ちで彼女に尋ねる。

 

 要る?

 

「くださるのですか?」

 

 寮舎の休憩室のソファーにでも座らせとこうかと思ったけど、欲しい人がいるんなら持ってってもらっても。

 

「それでは、頂戴します。イラストリアスもこういうの好きですよ~?」

 

 心なしか弾んだ声で、そっとぬいぐるみを受け取るお嬢様。

 その意外に子供っぽい一面に驚いたあなただが、喜んでいるのなら何よりである。

 

 じゃあ、せいぜい可愛がってやってくれ。

 

「はい、部屋ではこの子を指揮官さまだと思ってたくさん可愛がらせていただきますね?」

 

………!?

 

 いつの間にかあなたは鳥になっていた。

 

 

 

 





 イラストリアスねーちゃんはヴィクトリアスと組ませてボスに突っ込むと聞ける特殊セリフで爆笑するよね。
 たゆんとし過ぎって………。

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