好感度がケッコン可能レベルになると肉食化する二人(失礼
あなたが住んでいる場所はド田舎である。
あ、いや開幕読者に喧嘩を売ったとかそういう話ではなく。
先だって触れたように、壊滅した廃漁村にあなたがジャベリンと二人放り出されたのがこの基地の始まりである。
海がモンスター蔓延る魔境と化し、海運による流通がほぼ死んだも同然の世界で、陸路での交通が不便な場所とくれば経済もへったくれも無い。
諸々の物資は配給という形で少女達に護衛されながら届くし、嗜好品などもかなり此方の希望に対して融通を利かせてくれるものの、逆に言えばそれ以外に他所とのモノのやり取りが無い閉鎖された僻地ということになってしまう。
前線基地と考えれば余計なことは考えずにひたすら戦え、ということなのだろうが、店一軒存在しない――明石や不知火が色々やっているが、あれは主に戦略物資関係であって経費をやりくりする話だ――この基地で通帳に月々溜まっていく給料は果たして使う機会が巡ってくるんだろうか、と懸念を抱かないでもない。
が、本題はそこではなく、土地が駄々余りしている、ということだった。
何せせいぜいが数十人ほどの隔離所帯だ。平均年齢と男女比を無視すれば限界集落とどっこいである。
オリジナルの各艦の建造年月日から逆算した平均年齢であればそれこそ限界――――いや、なんでもない。
だからあなたは基地司令官として、特に何も考えずに土地利用の一環として裏山に社を建てたいという重桜の艦たちの要望に許可を出した。
せいぜいがお地蔵さんとその隣にあるちっちゃな木箱レベルのものだと想定して。
そして完成したらしきものを視察に行こうとして、まず整然と敷かれた石畳に嫌な予感を覚える。
そして石段として整えられた参道と、頂上に見える鮮やかな朱の鳥居に顔が引きつり。
なんということでしょう………野生の猿や猪が出るレベルで自然に還っていた野山は切り拓かれ、手水舎とおみくじ所まで備えた瓦屋根の神社が建てられていたではありませんか。
………いや、匠の業とかいうレベルじゃねーだろこれ。
「いかがでしょう指揮官様。重桜艦の子達みんなで頑張ったんです」
何をどう頑張った―――、いや、答えなくていい。とりあえずご苦労様とだけ言っとく。
あなたの案内をしていた扶桑の誇らしげな顔に、あなたは無難な言葉を返す。
というかそれしか出来なかった。
黒と赤を基調とし、波に流れる紅の桜が描かれた振袖を纏う淑やかな大和撫子は、今日ばかりは浮かれているのかあなたの唖然としている様子にも気づかず、そのまま祀ることにした神様の名前やら来歴やらを訊いてもないのに語っている。
ぶっちゃけ日本の神様のどんな漢字を当てるのかも分からんような長ったらしい名前など半日経てば全く思い出せなくなるだろうが、喜びに水を差すのもどうかと思い適当に相槌を打つのだった。
「そうだ指揮官様、よろしければお参りしていかれませんか?」
例によって射干玉(ぬばたま)の黒髪から分け出でるように生えているネコミミをピコピコ動かしながら、話が一区切りついたところで思いついたように言ってくる。
あまりに自然に言われたものだから普通に頷いてしまったが、一応あなたの旗下が多国籍艦隊であることを思い出し、忠告を送っておくことにした。
いや、別にいいんだが。それ唯一神をガチで信仰してる奴に迂闊に言えば戦争モノの発言だから気を付けろよ?
「そ、そうなのですか?」
扶桑のそれは日本(仮)特有の、なんか凄そうだったらとりあえず神様として拝んどけとかいうガバガバ宗教観からくる認識の発言である。
聖書の四文字も便所の精霊も等しく神様扱いする紙一重の価値観を世界のスタンダードと思ってはいけない。
………まあ、大人の都合かライターの都合か知らないがそっち系の宗教色強いヒロインはいなさそうなので、深刻な問題になることも無いとは思うが、結婚式でも挙げられそうな教会は何故かあるので。
何やらショックを受けている扶桑を置いて、あなたは社の方へと向かい賽銭箱の手前で立ち止まる。
上述したとおり使う機会のない小銭を持ち歩いたりはしていないため、適当に二礼二拍手一礼だけ済ませた。
約二十年ぶりで生前最後の初詣以来なのに、よくそんな作法覚えてたなと自分でも一瞬感心し―――あ、まずった、と思った。
「指揮官様?重桜の作法、よくご存じですね?」
…………、……。
ふ、何を隠そう、前世じゃ極東の出身だったもので。
嘘は言ってない、嘘は。
ただ咄嗟に適当かましただけので若干苦しい、前世とか思いっきり仏教圏の概念だし。
そんなあなたを扶桑は、やや眦が細めだが何故かキツそうには見えない顔つきを真剣そうに張りつめて見つめてくる。
色っぽい顔立ちだしもうちょっと違うシチュで見つめ合いたかった。
「…………」
どんなことを考えてるのかあまり読み取れない沈黙と無表情。
彼女が頭の横に何故か付けてる青い蝶の髪飾りが代わりとばかりにひらひら揺れる。
しかしその沈黙は長く続かずに。
「指揮官様、重桜に興味をお持ちになっていただけたのですね!?」
嬉しそうに綻んだ。
神社について現物を見る前に事前に勉強していた―――どうやらそういう解釈をしたらしい。
「私にお尋ねいただければ、巫女として作法から祝詞の読み上げまで何なりとお教えいたしますのにっ。
今宵は祝い酒ですね、山城や重桜の皆に声掛けしなくては!」
普段落ち着いている穏やかな声のトーンを数段上げながら、『指揮官様』に己の祖国に関心を持ってもらえたと盛り上がる扶桑。
そんな彼女に、まるで同好の士を見つけたオタクのようだ―――とド失礼な感想を抱いたあなたは、そのまま方向修正をいとも容易くぶん投げた。
別に自分が転生者だと知られて困ることはない。
わざわざ電波な人間だと思われるリスクを冒してまで言いふらす意義がゼロだから喋らないだけで、勘違いされていてもそれはそれで構わない。
けれど。
「そうだ指揮官様、指揮官様さえよければ、平和になったら一度重桜にお越しくださいませ。
この扶桑、誠心誠意ご案内させていただきます」
………ん、まあよろしく頼む。
「(~~~やりましたっ!)約束ですよ、指揮官様?」
ゆらゆらと尻尾を忙しなく揺らして振袖の裾を揺らす彼女がぱっと表情を輝かせたその約束。
あなたがかつて生まれ育った故郷とは似て非なる場所だろうけれど、実際興味が無いかと言われるとそんな訳がない。
はしゃいでいるのだろうか、山城の姉なのだと思わせる屈託のない笑顔と人懐っこさを心なしか振りまきながら、思いついた話題を投げ続ける扶桑に対応しながらもあなたはふと横目で社を覗った。
何の神様が祀られているのかは早速忘れたが―――そういえば一応は神前で交わした約束ということになる。
“重い”約束になりそうだと。
信心深い性質でもないのに、その予感は確信としてあなたに根付いていた。
――――これ、死亡フラグじゃね?
あなたは考えないことにした。
…………。
鉄血。
字面からして物々しいその国に属する艦は、その居住区を他と別にしている。
ハブられているとかそういうことではなく、単に彼女達にあてがわれる施設には特別な配慮が必要だからだ。
がるるる……っ!
ぴぎー!!
「あの、指揮官さん?さかなきゅんは噛まないですよ……?」
具体的にはペットOK、なおかつ猛獣注意。
どうも人類の敵であるセイレーン由来の強化を施しているらしく、艤装の一部が牙や尾爪を生やした異形となっているからだ。
その異形は、出会い頭に巻き舌で威嚇するあなたを見て面白そうにしている………のだと思う。
意思疎通など取れるはずもないが、なんだか懐かれている気はするので戯れるのは嫌いではなかった。
くすんだ金髪赤目の、ショートボブに軍帽を被ったその飼い主?のライプツィヒは、何か面白いことでもないかと鉄血寮を訪れノリのままに振舞っているあなたの奇行にどうしたものかとおどおどしているが、面白いので放置していた。
代わりとばかりにぬっ、と距離を縮めてくる“さかなきゅん”の鋼鉄のボディを撫でてみると、感覚があるのかは知らないががたがたと身震いする。
おーよしよし。
ぴぎ、ぴぎー♪
「え、いいな……さかなきゅん、指揮官さんになでなでされてる……」
どうでもいいがそのネーミングセンスはどうなんだ――――流石にそれを言わない情けはあった。
こうしてすり寄ってくる分には可愛いと思わなくもないが、見た目は小型のボートほどもある鋼鉄の異形だ。
戦場にてその牙で喰らった敵とて十や二十では利かない程の戦闘能力を有している。
それをさかなきゅんと呼ぶとは、細い腕を常に体の前面でわたわたしている―――心理学的には、防御や警戒、怯えの明確なサインを発している見るからに気弱そうな少女だが、センスが飛んでいるのかそれとも内に何かを秘めているのか。
拘束を暗示するベルトで血のように赤いケープを暗褐色のシャツの上に留めている服装も、よくよく見れば派手な露出度だが不思議と違和感は無かった。
気弱で繊細そう……同じ条件にロイヤルの軽空母が思い当たるが、彼女と違って弄るのに気が引けるということがないのは何故だろう。
で、最近どーよ?
「は、はい!?どう、って……?」
なんか面白いことでもなかった?
「そんな、急に言われてもっ」
コミュ障にとってされると困る話題の振り方の鉄板を唐突にぶつけられて早速泣きそうになるライプツィヒ。
当然あなたはわざとやっている。
そしてさかなきゅんは薄情なのか機微を解さないだけなのか、あなたに撫でられて満足そうに左右に揺れていて、飼い主を助ける気配は微塵もなかった。
「えっと、ええっと………!………っ。??いや、でも………、ぅぅ」
頑張って話題を絞り出そうとうんうん唸るが、そもそも頑張らないと出てこないような話題は話題とは呼ばない。
そんなライプツィヒの姿を眺めているだけでも割と面白いが、あまり長引かせるとイジリではなくイジメでしかないのであなたは助け舟を出した。
普段出撃ない日とか、どうしてんの?
「あっ……!おさんぽ、してます……」
…………。
以上。
そこで話を発展させられないのがコミュ障のコミュ障たる所以である。
あなたのマッチポンプで一瞬嬉しそうにしたのがすぐに焦りへと変わり、落ち込みを通り越して表情がくしゃりと歪んだ。
「……っ、ふぇぇぇぇ~~~~ん!ひっく、えぐえぐ……」
ちょっ!?
ぴぎ!
流石にいきなり泣くとは思わず焦るあなたに、さかなきゅんがキメの角度を取りながら鳴き声を上げる。
泣ーかせたー、泣ーかせたー♪という副音声が何故かはっきり聞こえた気がした。
案外イイ性格をしているらしい。
それはどうでもいいが、この場所は鉄血寮の公共スペース。
自分が泣かせた女の子を放置するのはちょっと無理なので、取り急ぎ彼女の部屋に連れていくことにした。
幸いあまり距離は無かったので他の誰かに見咎められることもなく、二人きりでライプツィヒの部屋に入ることができた。
二人きり、で。
「さかなきゅん、ドアを見てて…私、指揮官さんと大事な話があるから、誰も部屋の中に入れないでね。ぜったいにね?」
ぴぎ!
ひどく落ち着いて、先ほどまでの嗚咽との落差で別人と思うような静かな声と共に、ドアに鍵が掛かる音がした。
そして元気な了承の鳴き声は、そのドアの向こうから聞こえてくる。
…………もしかして、嘘泣き?
「いいえ、悲しかったのはホントです。ただ、指揮官さんにいじめられるのは嫌いじゃないから。
―――――でも。たまには仕返ししても、いいですよね?」
こちらの了承を取る気のない確認を、涙で潤んではいるが全く充血していない瞳でこちらを見つめながら投げかける少女。
カーテンが掛かったままの、灯りの点いていない薄暗がりの部屋で、くすんだ金髪赤目は別段退廃的とも妖艶とも取れない、いつも通りの気弱な少女のものだ。
けれど何故か“喰われる”という確信が湧き上がった。
ふと思う―――“さかなきゅん”は艤装である以上、当然ライプツィヒの一部であるのだ。
ならばあの鋼鉄の猛獣は、彼女が内に秘めた一面の顕れでしかないのかもしれない、と。
あまり物の無い、寂然とした灰色の部屋。
背後には簡素なベッドが壁に沿う形で置かれ、そこで普段寝起きしている少女は正面から少しずつこちらに近寄ってくる。
その距離がゼロになる前に、あなたは動きの鈍い腕をなんとか上げて………その手が彼女の首筋を撫ぜる形になった。
「きゃん…っ、ふふっ」
露出した柔肌を擽った刺激は、獲物を前にしたケダモノを昂らせる効果しかなかったらしい。
仕返しとばかりにライプツィヒはあなたの首に唇を這わせ―――、
「指揮官さん……!」
―――強く吸い立てながら、ベッドの上にあなたを押し倒すのだった。
続きは省略されました。わっふるわっふると言われても多分書くことは無いでしょう。
ちなみに次回、何事もなかったかのようにまた別の子といちゃいちゃしてます(ネタばれ)
…………好感度MAXにした時の、扶桑の「子づくりしたいです(意訳)」も大概だけど、ライプツィヒの指揮官さんを部屋に連れ込んで見張りまで立たせるのは肉食系以外の何物でもないと思うんだ。