「都都逸軍から派遣された、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐である。年齢と階級が釣り合っていないのはクソが付くほど政治的かつ性的な理由だ気にするな。後私は織斑千冬の教え子だ。文句があるならかかって来ればいい。寧ろ来い。弾の出る電動ノコ(喩え)で迎えてやろう」
全力で滑っているのはラウラも承知の上である。クラスの生徒らはどうしていいか判らない表情で固まっている。隣に立つ男性の仏(ほとけ)人シャルル・デュノア(偽名)と副担任・山田真耶(巨)は微妙に引いている。更に隣に立つスーパー担任・織斑千冬は何ボケを取りに行くか殴るぞ貧乳って目で睨んでくる。
ここはニップ国ジャパンのIS学園。女性が股間とケツを晒して空飛ぶ世紀の珍兵器「IS」を学ぶ国立の高校である。ラウラはそこに1年生として編入された。軍から給料を貰っている社会人のラウラは何が悲しくて異国の学生をやれと命令されなきゃならんのかそもそも今更ISについて習うことなんかないやん後自国の機体の機密保持どうすんの、という愚痴を飲み込み従った。公僕はつらい。
学園の制服着た写真を送ってくるよう言われて腹立ったので嫌がらせにスカートの代わりに軍のボトムを履き自撮りして送ったラウラは悪くない。
ラウラはひとしきり教室を見廻して尋ねてみる。
「ところで教官の弟、織斑一夏はどこだ?」
クラスメイトが一斉にある一点を指差す。一番前の席だった。つまるところラウラと目と鼻の先である。
その男は顎に手を当て首を鳴らしていた。
「お前が……。いやまぁそうなんだろうな」
どう見てもクラスで座っている生徒の中で男は一人しかいなかったのだからそれはそうである。問題は見た目だ。
髪がアフロだった。それはもう立派な黒々しく。普通にしていれば普通にイケメンで通るフェイスを持っていながら、アフロである。
あまりに異質な存在についラウラの主観がなかったものとして視界から排除していたため発見が遅れてしまった。そのアフロマンは胡散臭い目つきを隠さずニヤけながらラウラを眺めている。
ラウラはドスドスと軍靴を踏みしめ一夏に歩み寄り、一発ビンタをかますために右腕を振り上げた。
「貴様なぞ認めんぞ! 教官の恥部が!」
余談だが恥部、て部分にはクラスメイトが概ね同意できるところである。
ラウラの手が一夏の頬にヒットする直前、彼女の額に向けて一夏の手が突きつけられた。予想外のリアクションにラウラがぎょっとして硬直してしまう。
手にしているのは拳銃だった。腰や懐に手を廻した様子が全くなく、突然現れたのだ。
「わははははは!」
一夏は空いた方の指を額に付け、実に胡散臭い目つきのままラウラに向かって語る。
「コイツが撃つワケない、思ってるよね、そう思ってるよね? オモチャの銃なのかもしれない、人撃ったこともないドヘタレかもしれない。こんなこと言いつつ内心ビックビクしてるかもしれないなぁ!」
ラウラがもういかんこいつ殴ろうと考えた瞬間、
「俺は撃つけどね」
彼は躊躇無くトリガーを引き、特有の乾いた発射音がクラスに響いた。
その言葉と同時にラウラが銃身の横っ面を叩き、頭を反対方向に傾けたために直撃を避けられた。明後日の方に飛んだ銃弾は黒板にめり込んだ。
「本当に撃つ奴があるか!」
ラウラが激高して叫んだ直後、背後から誰かから胴にしがみつかれた。振りほどこうと思う間もなく、
「何ッ!?」
「わおーん!」
バックドロップを仕掛けられた。しかも微妙に飛んでる。女生徒のスカートの中身が一夏には見えているが、まぁどうでもいいことだろう。
ラウラが両手を床に着いて頭がヒットするのを防ぐ。そのまま後転し、立ったと同時に自分も拳銃を構えた。両手で構えるちゃんとしたやり方である。
「貴様ら!?」
ラウラ vs アフロ一夏&投げ飛ばした女生徒という対決の構図が出来上がった。お互いに拳銃を構えて一触即発の状態にある。周囲は妙に静かに見守っていた。ビビってるとも言う。
「ハッハーァ!」
「ぐるるるる」
ラウラには目の前の女生徒について思い当たる節があった。ISを発明した篠ノ之束の妹、篠ノ之箒である。主に人質としての価値として各国に認識されている。しかし、ギザ歯を剥き出しにして犬のように唸る微妙に人間辞めてる変態だとは調査報告書には書かれていなかった。
誰が好き好んで変態の巣窟に通わなければならんのだとラウラは嫌気が差しもう本気で撃っちゃっていいんじゃないかという気分にまでスライドした。
「いい加減やめろお前ら!」
流石に千冬が止めに入った。行動が遅れたと言えば遅れたのであるが、ほんの10数秒の出来事だったのだ。兵士の癖というか、ラウラは何も考えずに指示に従い銃を下ろした。一方のアフロ野郎も肩を竦めて従った。クラスに流れた雰囲気は、いわば厭戦気分という奴だった。
後にラウラが聞いた話では、彼は同じクラスの英吉利人セシリア・オルコットを始め幾人かの女生徒に突っかかられる度に撃っていたらしい。笑いながら。弾が当たった人もいるという。
「あの……一夏さん? 訊いてもいい?」
その夜の学生寮、その一室にシャルルはいた。二人部屋が原則のため、同じ男子同士という理由で今日から一夏と同室になっている。その一夏に質問をぶつけたのだ。
「あー、悪ぃ悪ぃこの格好は刺激的かい?」
下着姿の一夏がソファにくつろぎつつ応える。小癪なことに黒いブーメランパンツを穿いている。そんなボディに頭はアフロで。世の中の寮生がパンツ一丁で部屋中ぶらつくなぞ男女問わず珍しくもない。全裸よりマシだろう。
「いやそれだけじゃなくてね……。ここ二人部屋だよね? 何でこの人が?」
シャルルが指した先のベッドには、箒がうつ伏せになってくつろいでいた。同様に下着姿である。彼女はシャルルをガン無視している。
「いやー君が来る前は箒と二人部屋だったんだよね。でもヤだっつったのに結局駄目だったから泊まり込んでんだわ箒」
「あーうん、それは大変だね……」
いいワケないじゃないかと言いたくなったが、上からは一夏のISのデータを盗めと命令されているので、この場は長い物に巻かれるというかとりあえず仲良くしておこうと算段した。自身のアイデンティティが音を立ててゴリゴリ削られている気分だ。
「ところでさ」
「うん?」
一夏が凄くアッケラ・カーンとシャルルに提案をする。
「脱ごうか」
「は……ハァッ!?」
サラシで無理矢理隠した胸を守りつつシャルが全力で後ずさりした。
ところでシャルルは男装した女性である。上からやれと言われてやってるだけだが、そんな彼女に代表候補生という公的な地位を与えるというお仏蘭西の自殺行為に付き合わされるシャルロット(本名)としては溜まったものではない。バレたらサヨウナラ。
「いやいやイヤイヤ! 僕そういうのは!」
へたり込んで後ずさるシャルロット。一夏と箒が笑顔を湛えながらゆっくりとにじり寄って来る。下着姿で。
「さぁ女は度胸! 快楽の世界へようこそ!」
「がう!」
「ななな、いや僕男……」
さらっと正体がバラされて狼狽するシャルロット。何かの間違いだと思いたい。一夏は笑顔でフォローを取った。
「ドーテーじゃあるまいし女の体くらい見りゃ判るわな」
誰で捨てたかはこの際知ったことではない。一見してバレているのであればもうどうしょうもない。遂にシャルロットはその場で泣き出した。
「あーそうかミカンツーか、悪かったな」
罰が悪くなった一夏ではあるが、世の中言い方という物がある。
「う、うん……」
改めてソファーに座り直し正対する3人。気まずい雰囲気が流れている。
「雰囲気作りは大切だよな。で、まずコレをな」
冷蔵庫から戻ってきた一夏がテーブルにズドドンと置いたのは、缶ビールと、ジャパンのモルトウィスキーの瓶である。ウィスキーを冷蔵庫に仕舞っていたのは単に寮長の目から隠すためだ。
「あーそう来るんだ……」
シャルロットはもうどうにでもなーれーと色々放り投げた。胡散臭いアフロの笑顔とケモケモしいジャパンガールの飲みたそうな眼を目の当たりにして、もう何でもいいじゃないかとなった。
この夜、シャルルならぬシャルロット・デュノアはロスト・バー以下略した。後の祭りである。
・ラウラ
15歳で少佐。大隊持っても司令部に付いてもいないのに少佐。さぁどんな政治的かつ性的な理由で昇進したか考察してみよう。
・一夏
突っかかられたときは、おもむろに銃を取り出し、マガジンを抜いて弾を数える。再装填した後顔を上げて再度相手の話を聞く姿勢を取る。相手は引っ込む。
・箒
ギザ歯わんこ属性というニッチな。今回日本語喋ってない。判ってもらえるとは思っていない。
・シャル
生きるって苦労の連続だね。後、代表候補性って簡単に与えられて安い地位だなぁと思う。