【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
今まで後ろに付け加えているだけだったのに。
僕らが食堂に戻るとミカさんと、もう1人知らない人がいた。年はミカさんと同じくらい、少しウェーブがかった黒髪の美人だ。エプロン姿をしているが、その様は家庭的というより職人的な様を見せる。仕事で料理しているのだろうか。
2人はそれぞれ食事をしながら難しい顔をして話していたが、僕らに気付いて顔をこちらに向けて、声をかけてきた。
「ああ、ちょうどよかったよ」
「何ですかミカさん?」
僕らの前にミカさんが彼女を連れてやって来る。ミカさんとはタイプの違う美人の登場に、僕は興奮を隠せない。隠したことも無い!
「何考えてるのか分かりやすいけどあえて無視するよ。この子の名前はアエル、町で『パレント』って喫茶店をやってるんだけど……」
「昨日行きましたよ、いい店ですよね」
テーブルを水浸しにしたことは言わない。店長相手にそんなこと言いたくない。
「その店で新メニューを出そうと考えてるみたいなんだけど、あんたたち何かいいメニュー知らない? 別の国の人なら何かここじゃ食べられない物知ってるかなって」
「何かいい料理があれば教えてほしいんです」
アエルさんがそう言って頭を下げた。僕はすかさず彼女の手を取りこう言う。
「お任せください。この望月冬夜、美人の頼みを断ったことは無いと故郷では有名です。そして当然あなたの頼みも断りません! エルゼとリンゼもいいよね?」
僕は1も2も無く引き受けたが、エルゼ達がどうするかは彼女達の問題なので確認を取る。
「私はかまいませんけど……」
「あたしもいいけど、冬夜って本当に女の人口説いてばっかりよね」
「美人を口説くのが僕のライフワークさ」
僕の言葉にミカさんはケラケラと笑い、アエルさんは照れているのか俯いている。可愛いな畜生。美人が可愛い仕草するのはずるいよ。
「ところで、アエルさんはどんなメニューを出したいと思っているんですか?」
質問するのはリンゼ、うんそうだよ僕ら肝心なこと聞いてなかったよ。
「そうですね……。やっぱり軽く食べられるものですかね。デザート、女性受けするものがいいんですが……」
「デザート、つまり甘いものね……」
エルゼが神妙な顔で考えるのを見て僕も考える。甘いものか、アイスとかクレープとかそんなのしか思いつかないな……。作り方はまあスマホで調べれば出るからいいけど、材料あるのかな……。でも砂糖は僕の世界じゃ西暦以前からあるらしいし、生クリームも16世紀にはあったみたいだ。すごいなウィ○ペディア。でもこれなら案外アイスクリームなら何とかなるんじゃないか?
「そうだ、アイスクリームなんてどうですか?」
とりあえず提案してみた。するとみんながキョトンとしている。
「あの、それはどのような料理でしょうか?」
アエルさんが僕に聞く。どうやらアイスクリームはこの世界には無いのかもしれない。僕は簡単にアイスについて説明した。
「甘くて、冷たくて、美味しいですか……」
ごめん簡単すぎた、僕の語彙力少なくて本当にすみません。
「あの、出来れば作り方を教えてほしいのですが」
「分かりました」
アエルさんの頼みを聞いて、僕はスマホでアイスの作り方を検索する。するとわらわら出てきたので、とりあえず適当にページを開く。
「冬夜、それ何?」
するとエルゼがスマホに指を指して聞いてきた。
「えっと……、僕にしか使えない特別なマジカルアイテムかな……」
それを僕ははぐらかしながらページを読む。
とりあえず材料を書きだそうとしたところで僕は自分がまだ文字を書けないことに気付く。
「リンゼ、これから言うことを紙に書いてほしいんだけどいい?」
「はい」
「卵3個、生クリーム200ml、砂糖60~80g。それから――」
材料をざっとあげて、分からないことが無いかリンゼに聞いてみる。
「ミリリットルとか、グラムって何ですか?」
単位違うの!? 何か微妙なところで文化の差異を感じるな、もう!
「ミリリットルやグラムは僕の国の分量や重さの単位だよ。それは僕が目分量で測るよ。あ、あとリンゼって氷の魔法とかは使える?」
「使えますよ、氷の魔法は水の範疇ですから」
へえ、何となく氷って水とは違うイメージだった。
「よし、じゃあ次は作り方を言うから……」
こうして、僕は作り方を教えた。
リンゼに書いてもらった作り方を見ながら、アエルさんが調理していく。僕がやるよりよっぽどいいだろう。流石に生クリームを泡立てるのは手伝ったが、ハンドミキサーって本当に凄いものだったんだね。
最後にふたをした容器にリンゼが魔法をかけて凍らせて、しばらく放置。頃合いを見計らって氷を砕き、中の容器を取り出す。良かった、ちゃんと固まってる。
とりあえず僕が味見、ちゃんとアイスになっている。大丈夫だ。
このまま食べさせるのはアレなので皿に取り、アエルさんに差し出す。アエルさんは一口食べて
「美味しい……!」
目を見開き笑顔を咲かせる。お気に召したようで何よりだ。
「何だいこれ! 冷たくて美味い!」
「美味しいです……!」
「こんなの食べたことない……!」
どうやら他のみんなにも好評みたいだ。だが問題が1つある。
「ところでアエルさんは、氷の魔法って使えますかね? これが無いとちょっと拙いかも……」
「それなら、妹が使えますから心配いりませんよ」
良かった、それなら大丈夫だ。
「これなら女性受けすると思いますし、新メニューにはいいんじゃないですかね」
「はい、ありがとうございます! アイスクリーム、使わせて頂きます!」
アエルさんは早速自分で1から作ってみたいと言い、挨拶もそこそこに店に戻っていった。
「にしても、あんた一体何者よ。見たことの無いアイテムといい、このアイスといい……」
エルゼが僕について聞きたいのか、こっちを見ている。まあ知らない物ばかり見せてるからもっともだとは思うけど……。
「秘密、ってことにしといて。ってあっ!?」
「ど、どうしたんですか?」
僕の大声に驚くリンゼ。しまった、大事なことを忘れていた。
「しまった、アエルさんをデートに誘うの忘れた!」
「そんなことですか……」
「ていうか、あのアイス結構売れそうだししばらく忙しくなるんじゃない?」
なんてこったい!?
「ん、なら私がデートしてやろうか?」
僕が嘆いていると、ミカさんが僕の腕に抱き着きながらデートのお誘い。
「マジですか!?」
「友達の悩みを解決してくれたし、そのお礼」
ミカさんとデート、ていうかおっぱい当たってる! やっほい!!
とテンションが上がっている僕とは裏腹に、やたら冷めた目でエルゼが僕に一言。
「この女たらし」
生まれて初めて言われたよ、そんなこと。