【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。   作:味音ショユ

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召喚魔法、そして回復魔法。なぜか押し寄せるポ○モンの波。

 出発してから3日経ち、いくつかの町を越えた。

 その間に何か特筆すべきイベントが起こることも無く、僕は魔法が書かれた本とにらめっこを続けていた。その中で僕が修得した魔法は、極めて短い時間摩擦係数を0に出来るスリップと、広範囲に置ける感覚拡張魔法ロングセンスだ。

 ロングセンスは行く場所が危険な時に事前調査が出来るから便利なことと、女湯などを覗くときに使えると思って習得した。が女性陣にはあっさり思惑を見破られ、覗きに使うなと釘を刺してきた。ばれないように使おう。

 とりあえずロングセンスを使ってみて、1キロ先の状況を確認しているのだが……。

 

「これは血の臭いか?」

 

 鉄臭い臭いが僕の鼻を刺激する。臭いがした方に視覚を向けると、視界に飛び込んできたのは高級そうな馬車と鎧をまとった兵士らしき男達。そしてそれを取り囲む革鎧を着こんで大量のリザードマン。そのすぐ脇に黒いローブを着た誰かが居る。

 併進の大半は倒れ、残ったものは武器を持ったリザードマンと戦い、馬車を守っている。

 

「八重、前方で人が魔物に襲われている! 全速力で急いでくれ!」

「承知!」

 

 御者台の八重が馬に鞭を入れ、速度を上げる。その間も視界をつなぎ、状況を把握する。リザードマンは次々と兵士を倒し、馬車の中には怪我をした老人と子供がいるようだ。

 よし、ロングセンスを使わなくても見えてきた!

 

「炎よ来たれ、渦巻く螺旋、ファイアストーム!」

 

 荷台のリンゼが炎の魔法で先制攻撃。数十メートル先に居るリザードマン集団の中心から炎の竜巻が巻き上がる。

 それをきっかけに、まずエルゼが馬車から飛び降り、続く形で八重と僕がリザードマンたちの前に飛び降りた。馬車はリンゼに任せよう。

 

「グギュグバァッ!!!」

 

 何でディ○ルガなのリザードマンの鳴き声が!?

 とか言ってる場合じゃない。僕の方へ向かってきたリザードマンに反撃するため、覚えたての魔法を使う。

 

「スリップ」

 

 リザードマンの足元の摩擦係数が0になり、リザードマンは盛大に転ぶ。

 

「ぱるぱるぅ!!!」

 

 パル○アになった!? と思いながら僕は刀でリザードマンを兜割りで叩き斬る。

 僕の横ではエルゼが別のリザードマンの曲刀をガントレットで受け止め、その隙に八重の刀が相手の横腹を切り裂く。

 とよそ見をしていたら、目の前に氷の槍が飛んでいき、また別のリザードマンの胸を貫く。どうやらリンゼが馬を止めて参戦してくれたようだ。

 そのままの勢いで、僕らは無双ゲーばりのノリでリザードマンを倒すも数は一向に減らない。

 

「闇よ来たれ、我が求は蜥蜴の戦士、リザードマン」

 

 リザードマンの奥に居た黒いローブの男が呟くと、男の影から数匹のリザードマンが這い出してきた。そういえば闇属性は――

 

「あれが召喚魔法!?」

「そうです冬夜さん! あのローブの男がリザードマンを呼び出しています!」

 

 僕の想像が当たったってわけか。ならやることは簡単だ!

 

「スリップ」

「チョゲプリィィィ!!!」

 

 なんでお前だけアニメ版なんだよ!? と叫ぶ間もなく男が転んだ瞬間、まさしく神速と言えるような速さで飛び込んだ八重が、男の首を斬りおとす。落ちた首は、そのまま地面を転がった。うえ……。

 とりあえず召喚主が死んだからか、残りのリザードマンは消えていった。

 

「オエエエエエ……」

「大丈夫でござるか冬夜殿!?」

「い、いや人の死体って見るの初めてで……」

 

 男の死体を見て思わず吐いてしまった僕を、八重は心配し、背中をさすってくれる。

 一方、エルゼとリンゼは馬車の方へ行っていた。

 

「大丈夫ですか!?」

「ああ、おかげで助かった……」

「被害は?」

「護衛の兵士10人の内、7人がやられた……」

 

 悔しそうな兵士の震えながら握る拳を見て、僕はもう少し早く来ていれば全員助けられたかも、と思ってしまう。いや、意味の無い仮定だ。せめて良き来世を祈ろう。

 

「誰か! 誰かおらぬか!? 爺が! 爺が!!」

 

 不意に響いた女の子の叫びを聞き、僕は慌てて声の元にある馬車に向かう。馬車の扉が開けると、10歳ぐらいの長い金髪の女の子が、黒い礼服を着た白髪の老人の横で泣き叫んでいた。

 

「誰か爺を助けてやってくれ! 胸に、胸に矢が……!」

 

 涙を流しながら懇願する女の子。オッケー分かった、絶対助ける。

 

「リンゼ! 回復魔法!!」

「だ、駄目です……。刺さった矢が倒れた時に折れて、身体に入り込んでしまっています。この状態では回復魔法をかけても矢が体内に残ってしまいますし、それ以前に私の魔力ではこの人の怪我は……」

 

 クソ、どうしたらいいんだ。何とか矢さえ取り除ければ……。矢を取り除く? そうか!

 

「どいてくれ!」

 

 老人の周りにいた兵士たちをどけ、老人のそばに膝を突き、僕は魔法発動の為の呪文を唱える。

 

「アポーツ!」

 

 次の瞬間、僕の手の中には血にまみれた矢があった。

 よし、あとは回復魔法だけだ。リンゼが無理という以上僕がやるしかない。大回復魔法の呪文は本で読んだから分かる、ならぶっつけだけどやるしかない!

 

「光よ来たれ、安らかなる癒し、キュアヒール!」

 

 僕が呪文を唱えると、老人の胸の傷がゆっくりと消えていく。いや、これだとまるで巻き戻しだ。

 

「……? 私は、矢に撃たれたはずでは……?」

「爺っ!!」

 

 不思議そうな顔をしながら起き上った老人に、抱き着く女の子。生還の喜びに泣きじゃくる少女を老人は困ったように見つめる老人。それを見て僕は思わず呟いた。

 

「良かった……」

 

 上手くいって、本当に良かった。

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