【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。   作:味音ショユ

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今回はネタ少なめなので、次回予告を入れました。


試合、そして録画再生。偉大なり文明利器

 ソードレック子爵家の庭には剣の修練所があり、それに思わず僕は目を見張った。いや、だってこれ思いっきり日本の剣術道場だよ。日本を思い出すよこれ。

 

「ここは重兵衛殿が設計して、私の父上が道場でな。イーシェン風になっている」

「実家の道場とよく似ているでござる。いや、懐かしい」

 

 何で僕はこんなタイミングで郷愁の念を覚えなければならないのか。

 

「好きな木刀を選ぶがいい。上から握りが太い順だ」

 

 同義に着替えた子爵は、帯を治しながら木刀を握る。

 一方の八重は、何本か手に取り、握って見たり数回素振りをしたりしながら木刀を選び、やがて1本を手に取って子爵と対峙した。

 

「お前達の中で回復魔法を使える者はいるか?」

「僕と彼女、リンゼが使えます」

 

 子爵の問いに僕が答える。

 

「ならば遠慮することはないな。全力でかかってこい!」

 

 そう言い放つ子爵と八重の邪魔にならないように僕らは道場の隅に座る。

 その際、ふと思い立って懐からスマホを取り出し動画を撮影する。

 

「……何をしているんですか?」

「後で教えるよ」

 

 リンゼが不思議そうな顔をして尋ねてきたのを、僕は軽く流す。

 その間に審判を買って出たエルゼが2人の間に立ち、準備が完了したのを見て、声を上げた。

 

「では――、始め!」

 

 エルゼの声の直後、弾丸のようなスピードで八重が子爵の下へ飛び込み斬りかかる。子爵は八重の一撃を正面から受け止める。次に八重は連撃で攻めるが、子爵はそれらをすべて受け流した。

 八重は一旦後ろに跳び、ゆっくりと呼吸を整える。子爵は攻めることはなく、八重をただ観察するのみ。

 じりじりと円を書くように互いが動き、回り込もうとする。互いに少しずつ距離を詰めていき、一線を越えると木刀同士が交差する。そしてまた八重が激しく打ち込む。

 しかし一方的に打ちこんでいる八重とは対照的に、子爵は流して躱して受け止める、攻撃は仕掛けない。

 

「成程、分かった」

 

 子爵は木刀を下段に構える。八重は正眼に構え、子爵を見据える。八重は肩で息をしているが、子爵は息1つ切らしていない。

 

「お前の剣は正しい剣だな。模範的で、動きに無駄が無い。重兵衛殿が教える剣のままだ」

「……それが悪いと?」

「悪くはないさ。だが、それではお前はそのままだ」

「なっ……!?」

 

 子爵の剣が上段に構えられ、今まで見せなかった闘気があふれ出す。ビリビリとした気迫がこっちにまで伝わってくる。

 

「いくぞ」

 

 子爵が大きく一歩を踏み出したかと思ったら、あっという間に八重の間合いまで飛び込み剣を振りかぶる。八重は木刀を受け止めるために防御を上方に向けた。

 しかし次の瞬間、子爵は八重の胴に打ちこみ倒す。八重は脇腹を押さえ、呻いている。

 

「そ、そこまで!」

 

 決着がついたのを見てエルゼが慌てて試合終了の宣言。

 と言うか僕、ここまで何1つボケられてない。ギャグ時空の主人公としてこれでいいのか?

 

「うぐぅ」

「動かん方が良いぞ。手ごたえからしておそらく肋骨が何本か折れているから、下手すると肺に骨が刺さるぞ」

「じゃあ僕が治すよ」

 

 そう言って僕は八重の下に駆け寄り手をかざす。

 

「体は剣で出来てい――」

「早く治しなさい」

「うん」

 

 1回くらい、ふざけときたかったんだ。

 ということで今度はエルゼに脅されながら普通に回復魔法を使う。

 

「もう大丈夫でござる、冬夜殿」

 

 僕に礼を言うと八重は立ち上がり、子爵に向かって一礼する。

 

「御指南感謝いたしまする」

「うむ。お前の剣には影が無い。虚実織り交ぜ、退いては進み、緩やかにして激しくだ。正しいだけで剣術の域を出ぬ。それを悪いとは言わん。強さとはそれぞれ違うものなのだからな」

「成程、女の子を口説くのと一緒ですね」

「それは知らんが」

 

 僕の相槌を冷たくあしらう子爵。

 

「八重、お前は剣に何を求める?」

「酒と金、あとは女でしょうか」

「いやお前には聞いてない」

「というか凄まじいまでの俗物ね」

 

 僕の即答には総スカンを喰らう。一方で、八重は何も答えなかった。木刀を見つめるその様は、考えたことも無かったと言いたげだ。

 

「まずはそこからだな。されば道も見えてこよう。見えたなら、またここへ来るがいい」

 

 子爵はそう言い残し、道場から去った。

 

 

 リンゼの操る馬車に乗りながら、貴族たちの生活エリアから出るために僕らは検問所へ向かっていた。

 

「まああれよ。あんまり気にしない方が良いわ。冬夜なんてしょっちゅう振られてるけどヘラヘラしてるし」

「それは参考にならぬでござるよ……」

 

 落ち込んでいる八重を慰めるエルゼ。それはいいけど僕をだしにするのはやめてほしい。

 

「それで八重はこれからどうする? 僕らはリフレットの町に帰るけど。一緒に来る?」

「それもいいでござるな……。せっかく皆と仲良くなれたのに別れるのはさびしいでござるからな……」

 

 どこか気の抜けた表情で僕の問いに答える八重。とはいえそれでいいのかもしれない。今1人にしたら正直危ない気がする。

 

「一緒に来るなら大歓迎よ、冬夜へのツッコミ役はあたしとリンゼじゃ正直足りないもの」

「ツッコミでござるか……?」

「僕そんなにツッコミいらないでしょ」

 

 僕がそう言うと皆してこう言った。

 

「必要でしょ」

「必要ですよ」

「必要でござるな」

 

 まさか御者台のリンゼにまで言われるとは思わなかった、ちょっとショックー。

 

「それにしても世の中広いでござるな……。あのように強い御仁がいるとは、拙者はまだまだ未熟でござる……。特に最後の一撃は何が起こったのかさっぱり分からぬ……」

「凄かったわね。あたし横に居たのに全然見えなかったわ」

 

 八重は分析しながら、エルゼは興奮しつつその時のことを語っている。

 

「良かったらその時の映像を見せようか?」

「えいぞう?」

「何それ?」

 

 2人の問いに答えることなく、僕はスマホを取り出し撮っていた八重と子爵の立ち合いを見せる。

 

「こ、これは何でござるか!?」

「何これ!? 勝手に動いてる!?」

「これは僕の無属性魔法、のようなものさ。これで僕はさっきの出来事を記録してもう1度見れるようにしたのさ」

 

 僕のドヤ顔に感心する2人。実際は僕の力でも何でもないから、罪悪感が凄い。やらなきゃ良かった。

 いつの間にか映像の場面は進み、気付けば八重が打ち倒されたシーンに差し掛かっていた。

 

「ここでござる!」

 

 八重の正面から振り下ろされたはずの剣は、いつの間にか胴を打たれていた。

 

「どゆこと?」

「さあ……?」

 

 僕はエルゼに聞いてみるも、エルゼも分からないらしい。

 

「冬夜殿、もう1度見せてほしいでござる! 出来るでござるか!?」

「出来るよ。どこから見たい?」

「倒される前!」

 

 八重の要望通りにもう1度打ち倒される前に戻し、再生して八重にスマホを渡す。

 そして映像では、子爵が八重に迫り胴を振り抜いていた。

 

「振りかぶってないね」

「これは、影の剣でござる」

「ハゲの剣?」

「影!」

 

 僕の聞き違いに律儀にエルゼがツッコミを入れる。

 

「影の剣とは、高めた闘気を剣とする技でござる。幻故に実体は無いものの、気配はあるので思わず認識してしまうのでござる」

「つまりあの時は幻を振りかぶったふりをして、実体の剣は胴狙いだったってこと?」

「そういうことにござるな」

「なるほどなー」

 

 八重とエルゼの解説に感心する僕。そして八重は笑っていた。あれは諦めの笑顔じゃない、何かを見つけた笑顔だ。何かブツブツ言ってるのが怖い。

 

「拙者の剣には影が無い……。成程道理でござる。相手の隙は待つだけでなく、作りだすのも選択肢……」

「八重、独り言はほどほどにしないと気味悪いよ」

「冬夜殿は優しいのか容赦ないのかよく分からないでござるな」

 

 そう言いながら八重は僕にスマホを返す。

 

「ともかく修行! もっともっと強くなってやるでござるよ!」

「あたしも手伝うわよ!」

 

 八重とエルゼが握手し、絆を深めあう。

 

「私は無視ですか、そうですか……」

 

 御者台からリンゼの恨めしそうな声。ごめん、忘れてた。




その時、1つの星が何か消えた。
その時、変態紳士は普通にナンパしてた。
次回「紳士的な異世界はスマートフォンとともに。」第18話『魔術師、帰れず』
人身事故が、また1ページ。

「これ事故起きて電車止まって帰れなくなっただけだよね!?」
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