【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
コートを買った後、近くの飲食店に入って軽く食事をし、引き返して魔法屋のルカに寄った。アルマたちはもういないと思ってきたが、その通りで良かった。名乗らずに別れたのにこんなすぐ鉢合わせは恰好悪すぎる。
店の中を物色していると、ふと壁に張り紙があった。何があるんだと思ってみるとそこにはこうあった。
『3つの「U」。うそをつかない、うらまない、相手を敬う』
「いや涙目のルカじゃん!?」
なんで知ってるの!? なんで壁に貼ってるの!? 疑問は尽きないが一々聞くのも面倒だったので流して、無属性魔法関連の本を買った。今まで世に出た珍しい魔法を網羅した、おもしろ魔法辞典みたいな本だが安い上に沢山魔法が書いてあってとってもありがたい。
後はミカさんにお土産としてクッキーの詰め合わせを買って、皆との待ち合わせ場所に戻ることにした、もう陽が暮れる。
「やっと来た、おーそーいー!」
「あれ、皆早くない?」
馬車の前で荷台にかなりの荷物を積んで3人が待っていた。買いすぎィ!
「あらー? 何よ冬夜、似合わないコートなんか着ちゃって?」
からかうような口調でエルゼが僕を品定め……、してないなこれ、普通に罵られてる。
「これは魔力付与がかけられたコートなんだよ。全属性の攻撃魔法軽減、更に耐刃、耐熱、耐寒、耐撃、耐豆効果。あとこのコートは格好いいと思う」
「凄い効果ですね……。あ、コートは格好いいと思いますよ」
「いや耐豆って何でござるか」
「それ僕が格好良くないって言ってるよね」
「じゃああんた自分を格好いいって思ってるの?」
「別に思ってないけど……」
「じゃあいいじゃない」
「うん、……いやおかしくない?」
「だから耐豆って何でござるか」
なんだか丸め込まれた気分、後耐豆については僕が知りたい。
「それじゃ帰ろうか」
皆揃ったので僕達は馬車に乗り込み、出発する。手綱は八重が握り、僕は女性陣の荷物で荷台が狭いので御者台の八重の隣に座る。
そのままとりあえず王都に出てしばらく進み、ある程度離れたところで馬車を止める。
「こんな所に止めてどうするでござるか?」
精神bゲフンゲフン、こんな所に止めてどうするのかって? そう言えば八重にはゲートの事言ってなかったな。ちょっと驚かしてやるのも面白いかな?
「町中に出るより少し前の街道の方がいいかな」
「そうね、その方がいいでしょ」
エルゼの言葉を聞きつつ、僕は出現場所のイメージをしつつ魔法を発動させた。
「ゲート」
目の前に馬車が通れるだけの光の門を出現させる。
「な、なんでござるかこれは!?」
「ほら進んで進んで」
狼狽する八重を急かして馬車を進めさせる。ゲートを潜ると夕日がリフレットの西側の山に沈んでいくところだった。
「やっぱり便利ね、この魔法」
「馬車で5日の距離が一瞬ですからね」
「一度行った所じゃないと行けないのが難点よね」
「だから何が、どうなってるでござるか!?」
「後で説明するさ、リンゼが」
「私ですか!?」
説明役をリンゼに押し付けて、僕らは帰ってきたという安堵感に包まれた。
ザナックさんの報告は明日にしようということになり、僕らは銀月に向かった。
銀月の前で馬車を停め、ミカさんに帰ってきたと挨拶しようと僕らは中に入る。当たり前だけど銀月は何も変わっていなかった。ように見えたが実際は1つの変化があった。
「いらっしゃい、お泊りで」
カウンターにがっしりとした体つきの赤毛の髭男が出迎えたのである。
……な。
「何やってんのミカさぁぁぁん!!」
「いきなりどうしたでござるか!?」
突如叫ぶ僕に驚く八重。しかしそんなことより――
「ミカさんがおっさんになってる!?」
「いやどう考えても別人でしょ!?」
エルゼの言葉を聞いてカウンターにいる男を改めてよく見る。
髪の毛の色は一緒だが、それ以外に共通点は見つからない。
……あ、別人だこの人。
「すいません、僕らはここに泊まっている者なんですけど」
「テンションの切り替えが凄いなお前さん……」
「あれ、皆帰ってきたの? 随分早かったね」
厨房からエプロンをしたままのミカさんが現れた。
「ミカさん、エプロン姿も素敵ですね」
「口説いてないでこの方がどちら様か聞きましょうよ……」
僕の言葉にリンゼがツッコミを入れる。口説くのは最早ライフワークだから仕方ない。
「ああ、会ったこと無かったっけ? うちの父さんだよ。あなた達と入れ替わりで遠方の仕入れから帰ってきたの」
「ドランだ。しかしミカから聞いてたがお前さんが望月冬夜か」
「僕の事知ってるんですか?」
ミカさん僕の事どんなふうに言ってるんだろう?
「この町に来て数日で町の美人に片っ端から声かけて全敗した男として有名だぞ」
「嫌な方向に知名度あるなあ、僕!」
「でも事実じゃん」
「事実だから何言ってもいいわけじゃないと思うんですミカさん!」
訴えてやる! と息巻いているといきなりミカさんが僕を抱きしめる。するとか、顔がおっぱいに埋もれる。こ、これはド○クエでおなじみのぱふぱふか!?
「これで許してくれない?」
「全部許します!!」
因果は応報するもの。己の行いは己に返るのが道理。なら僕の評判も仕方ないね!
「現金でござるな……」
「毎度のことよ」
「それよりドランさん、この人の部屋をお願いしたいんですけど……」
「あいよ」
リンゼが八重の分の部屋を頼んでいる間に、僕は部屋に荷物を運び、エルゼは馬車を返しに行く。
「あ、ミカさん。これお土産のクッキー」
「あいよー。ありがと、王都はどうだった」
「オオキイ。アト、ヒトオオイ」
「何で片言?」
お土産のクッキーを渡しながらミカさんの質問に答える。でも正直1日も居なかったから大したことは言えない、今度はゆっくり観光しよう。
無事の帰還を祝ってミカさんが夕食をごちそうしてくれた。僕らも結構食べたが、その数倍八重が1人で食べていた。あの時大量に食べてたのは飢えていたからじゃないのか。
その後、八重だけは食事代を宿代に追加されたとさ。
「めでたしめでたし」
「めでたくないでござる!!」