【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
数日後、僕は地下遺跡の壁画を書類に写し終わった。
役に立ったのは新たなる無属性魔法ドローイング、見た物をそのまま紙に写し取る魔法だ、本当に無属性魔法でどうにかなっちゃったよ。
この魔法により僕は外部プリンターを手に入れたと言っても過言ではない。ということで試しにお菓子のレシピを何種類かプリントアウトして、アエラさんにプレゼントすると凄く喜ばれた。材料に関しては僕がサーチで探し、分量に関しては僕が地球から持ってきた1円玉の重さから割り出した。もっと早く気付けば良かった……。
さて王都に届けるか。一応皆にも一緒に行くか聞いたが、公爵様に合うのはやっぱり恐れ多いらしく、僕1人で行くことになった。というか、僕も正直行きたい訳じゃないんだけどさ。厄介事僕に押し付けようとしてない? いいけどさ。
写し終わった書類を持ってゲートを開き、公爵家の正門前へ出た。
「うわあああああああああああ!!」
「あ、すいません」
突然現れた僕に驚く門番さん。あの人いつも平成ラ○ダーネタキャラ四天王の1人ばりに驚くんだよな……。
あれ? 正門が開き中から馬車が出てくる。お出かけか、タイミングがちょっと悪かったみたいだ。しょうがない、王都でナンパでもするか。
「冬夜殿!? ありがたい! 乗ってくれ!」
「え? ちょ、何ですか!?」
と思ったら馬車の扉を開けてアルフレッド様が出てきた。そして瞬く間に腕を掴まれ、馬車の中に引っ張り込まれた。
「い、いきなり何ですか!?」
怒りではなく困惑で思わず叫ぶ僕。
「いや、このタイミングで冬夜君が訪ねてくれるとは……! 恐らく神が君を遣わせてくれたのだろう、感謝せねばな」
しかしアルフレッド様は僕の疑問に答えることなく神に感謝を捧げている。人を誤射で殺すけどね神って。許したけど忘れてはいないからね、僕。
「一体何があったんですか?」
僕が尋ねると、アルフレッド様は額に汗を浮かべ切羽詰ったような声で言った。
「兄上が毒を盛られた」
兄上って、アルフレッド様は公爵だからえっと……、国王様!? え、僕国王に会いに行くの!? しかも毒!? 暗殺!?
「幸い対処が早かったのでまだ持ちこたえているが……」
両手を握り、俯きながら絞り出したその声は震えていた。国家の一大事で家族の一大事だ、心配だろう。
「他国からの刺客ですか?」
「いや、そんなに簡単な話ではない」
「と言いますと?」
そこでアルフレッド様は顔を落としてため息をつくが、すぐに顔を上げる。そこには苦々しい顔を浮かべていた。
「我がベルファスト王国は3つの国に囲まれている。西にリーフリース皇国、東にメリシア山脈を挟んでレグレス帝国、南にガウの大河を挟んでミスミド王国だ。このうち、西のリーフリース王国とは長い付き合いがあり、友好を結んでいる」
「はい」
いや合いの手入れたけど、これで合ってる? 失礼になってない?
「帝国とは20年前の戦争以来、一応不可侵条約を結んでいるが、正直友好的とは言い難い。いつこの国へ攻め込んでも違和感がない。そして南のミスミド王国、ここが問題なんだ」
「問題ですか?」
「ミスミドは20年前の帝国との戦争の最中、新たに建国された新興国だ。兄上はこの国と同盟を結び、帝国への牽制と、新たな交易を生み出そうと考えている。だがそれに反対する貴族たちが居るのだよ」
「なぜですか?」
話を聞く限り反対する理由は無さそうだけど……。ひょっとして伝統ある我が国がなぜあんな新参者と、みたいな思考だろうか? やられ役の考えだよこれじゃ。
「ミスミド王国が亜人達の国だからさ。亜人が多く住み、獣人の王が治める国。それが気に食わないのさ、古い貴族たちは」
「……どういう意味ですか?」
ひょっとして貴族と亜人には因縁があるのだろうか? 遥か昔に何か壮絶な戦いがあったとか、でもそれなら交易をしようとは思わないか。
「かつて亜人達は下等な生き物とされ、侮蔑の対象だった。だが私達の父の代になると、その認識を検める法を制定し、段々そういう風習は廃れさせた。でもそれを認めたがらない古い貴族が結構いるのさ」
「差別って奴ですか」
「そうだ、卑しい獣人共の国など攻め滅ぼして自分たちの属国にすべき。そう主張する貴族達にとって兄上は目の上のたんこぶなのさ」
「つまらない考えですね」
「全くだ」
その古い貴族が国王様暗殺の黒幕かもしれない、っていうのは分かった。けど王を失えばその貴族も困るんじゃないの? この国の政治形態が今一つ分からないから何も言わないけど。
「兄上が亡くなれば、王位は1人娘の王女ユミナの物になる。その貴族達はおそらく、王女に自分の息子か一族の者を婿として迎えるよう迫る気だろう。こうなると、この前のスゥへの襲撃も誘拐し、ネタに兄上を脅迫しようとしていたのかもしれないな」
姪の命が惜しければ我らの言うとおりにしろ、って所か。何だか杜撰な悪巧みだ。
「それで、僕は何をすればよろしいのですか? 国王陛下の治療と、その古い貴族の暗殺ですか?」
「いや暗殺を頼むつもりは無いのだが……」
何だ、違うのか。まあ人殺しなんてやりたくはないけど。
そうこうしてる間に、公爵家の馬車は城門を抜け、跳ね橋を渡り、王城へたどり着いた。
アルフレッド様に連れられ、城の中へ入る。真っ赤な絨毯が敷き詰められ、天井には豪華なシャンデリア。まるで御伽噺のお城の中だ。正しく城の中には居るけど。
公爵と共に絨毯で敷き詰められた階段を駆け登ると、1人の男とすれ違う、
「これはこれは公爵殿下。お久しぶりでございます」
「バルサ、伯爵……!」
睨むような目でアルフレッド様は伯爵を睨む。小太りで派手な服を着た頭の薄い男だ、どうみても主人公側の人間ではない。
「ご安心下さい。陛下の命を狙った不届きものは取り押さえました」
「何!? それで下手人は!?」
「ミスミドからの大使です。陛下はワインを飲んでお倒れになられました。そのワインがミスミドの大使が贈ったワインだったのです」
「なん……だと……!?」
公爵がブ○ーチ風に驚く。それが事実なら国交など生まれるはずも無く、戦争のきっかけにもなるだろう。
ただ、あまりにも茶番すぎる。三流の脚本だ。
「大使は別室にて拘束しております。獣人風情が大それたことをしたものです。首を刎ね、ミスミドに送り付けてやりましょうか」
「ならん! 全ては兄上が決めることだ! 大使は部屋に留めておくだけにしろ!」
「そうですか。獣人如きに随分な温情を……。ではそのように致します。しかし、陛下にもしもの事があらば、他の貴族の方々も同じことを言うでしょうな。その時は流石に私も止めることは出来ませんぞ」
嫌な笑みを浮かべる伯爵。こいつが獣人を差別する古い貴族の筆頭って所か……。
犯人こいつだろ。顔を見る限りアルフレッド様もそう思っているみたいだし。
「では私はこれで。これから忙しくなりそうですからな」
そう言って伯爵は長い階段を降り始める。国王陛下の死が決まっているから忙しくなるって? それを決めるのはお前じゃない、僕だ。あれ? 国家の存亡が本気で懸かってる?
伯爵を見送る公爵の手が、今にも血が出そうなほど握り締められて震えていた。
「早く国王陛下の下へ行きましょう」
「ああ……」
今は見逃すしかないだろう、だけど国王を治した後は……。
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