【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
王様がお休みしている寝室に戻った僕は、その場にいた皆にこれから犯人を明らかにする、と言い誰なんだ、と迫る皆を押しとどめた。まだ小道具も役者も揃えてないのにショーを始めるわけにはいかない。
やがてレオン将軍と共に、僕が将軍に頼んでおいた物がメイドさんの手でやってくる。オリガさんが贈ったワインと新品の別のワイン、それと新しいワイングラシ。そして僕の手には王様が使っていたグラス。これで小道具はバッチリ。後は役者だけだ。
「陛下、お身体の方はもうなんともないのですか!?」
「おう、バルサ伯爵。この通り何ともない。心配をかけたようだな」
寝室にバルサ伯爵が飛び込んで、まるで王様を心配するような言動を見せる。よし、これで役者もばっちりだ。
「そう……ですか……。ハハハ、それは何よりです……」
冷や汗を流しながら、引きつった笑顔を見せるバルサ伯爵。もうちょっと演技力身に付けて、どうぞ。金田一の犯人見習ったら? あいつら自然に嘘吐くし、表情も自然だぞ。
「それで冬夜さん、バルサ伯爵がいらっしゃったら犯人を明らかにするとおっしゃいましたが、どうするつもりですか?」
錫杖を持った女性、宮廷魔術師のシャルロッテさんが僕に尋ねる。
「もちろんこの場で明らかにします。とはいえ、いきなり犯人を言っても犯人が認めないでしょうから、順を追って1からお話しいたします」
その言葉に分かりました、と言うシャルロッテさん。
皆を前に、僕は語りだす。
「皆様もご存じの通り、国王陛下に毒が盛られました。さて、それについてですが――」
たっぷり間を空けて、僕は口を開いた。
「犯人は、この中に居ます!」
何気に言ってみたかった、この台詞。
ざわ・・・ざわ・・・と雰囲気が変化し、オリガさんの顔色が変わる。違う、自分じゃないと訴えかけている。
その隣に居たバルサ伯爵はオリガさんを見て口元を釣り上げている、しめしめとでも思っているのだろうか。
そして他の皆はバルサ伯爵を見て、こいつだろ? と言いたげな目をしていた。
……何この空間。
やめよう、さっさと推理パート終わらせよう。推理してないけど。
「まず、この毒の入ったとされるワインですが。これはオリガさんが贈ったもので間違いありませんね?」
「確かに私が贈ったものだが、毒など私は……!」
「黙れこの獣人風情が! まだシラを切るとは、恥知らずにもほどがあ――」
バルサ伯爵の聞くに堪えない罵声を打ち切るため、僕はそのワインをラッパ飲みで一気にあおる。
ワインなんて初めて飲んだけど、正直よく分からない。
「うん、美味い!」
でも美味いと言いつつ、空になった瓶を置く。実に味わい深い、でいいのかな? ワインの品評なんて出来ない。
周りを見渡すと、皆口を開けて僕の方を見ていた。
「冬夜君。その、ラッパ飲みはワインの飲み方としてふさわしくないと思うのだが……」
「言うべきなのはそこではないだろう、アルフレッド」
アルフレッド様のずれた言動にツッコミを入れる王様。いやそこじゃなくて。
「と、冬夜殿!? 大丈夫なのか!?」
レオン将軍が僕を見て驚きながら心配する。そうだよ、これが欲しかった反応だよ!
「大丈夫ですよ将軍。というより毒なんか入っていないんですよ、このワイン」
「何!?」
僕の言葉に疑問を浮かべる一同、ただし伯爵は除く。というか、ここまで言えば分かりそうなものなんだが。
それなら、最後までショーを続けようか。
「すいませんメイドさん、新しいワインを貰えますか」
僕がレオン将軍に頼んで用意してもらっていたワインをメイドさんから受け取る。それを持ってきた王様のグラスに入れる。
「では今度はこれも僕が……、と言いたいですが少々酔ってしまいまして、ちょっと飲めそうにないです。ですから代わりに、そうですね……」
そこで僕はバルサ伯爵を指差して言う。
「バルサ伯爵、良かったら飲んでみてもらえますか?」
「い、いや私は……」
「このワインは遥か東方で作られた僕の知る限り最高級のワインだそうです。それを国王陛下のグラスで飲める機会などこの先二度とないと思いますよ」
「う、うむ……。しかし……」
言いよどむバルサ伯爵、何とか断る糸口を探そうと必死だ。すると横からレオン将軍が話しかけてきた。ありがたい、こっちから言う手間が省けた。
「それほどの物なら私が是非欲しいのだが」
「そう思いますか? ではなぜバルサ伯爵は遠慮するのでしょうね」
「さて、私には分からんな」
「ではこちらを」
そう言って僕は新しいグラスをメイドさんから貰い、ワインを入れてレオン将軍に渡す。
「どうです?」
「うむ、いい味だ!」
「それは何より。では改めて、伯爵。どうぞ」
「い、いやだから……」
「どうした伯爵。なぜ飲まない?」
焦れたのか王様がバルサ伯爵に問いかける。一方の伯爵は押し黙るのみ。まあ当然だ。
「ははは、それは飲めませんよね。僕が今持っているワインには毒が入っているんですから」
「何!?」
僕の言葉に驚くアルフレッド様、他の皆も声を出さないだけで同じ様子だ。
「どういうことだ!? 私が飲んだ時は何も起きていないぞ!」
「レオン将軍。毒はオリガさんが贈ったワインではなく、国王陛下のグラスの中に塗られていたんですよ」
「な、成程……」
というかここまで来たら言わなくても分かると思っていた。
「僕は毒を検知する魔法が使えるので、それはすぐ分かりました。実行犯は、まあコックかそこらでしょう。そしてそれを命じたのは、言わなくても分かりますよね」
犯人候補、1人しか居ないからなあ。
「くっ……!」
犯人候補、もとい犯人であるバルサ伯爵は状況を見て逃げ出した。逃げてどうなる問題ではないと思うが、逃がす理由は無い。
「スリップ」
「うおわっ!?」
僕が伯爵の足元の摩擦係数を0にした、これで伯爵は転び事件は終わり――
「舐めるな小僧!」
にならず、なんと伯爵はその場で転ぶことなくまるでフィギュアスケートのようなスピンを見せ始めた。そのスピンには一片のよどみも無く、回っているのはバルサ伯爵なのに、なぜか神々しさすら感じられた。今僕は、間違いなく美の極致を目撃している!
「ぐわっ!」
あ、スリップの効果時間が切れて普通にこけた。
こけた伯爵は観念したのか、その場から起き上がることなく僕にこう問い始めた。
「なぜだ、なぜ分かった……」
むしろなぜバレないと思ったのか。
「この城には今、知能を落とすアーティファクトを仕掛けているのだぞ。だから平常なら気付けて当然の仕掛けが誰にも解けない難問と化したのだ。それなのに、なぜ……」
「何かとんでもないこと言ってる!?」
国家の中枢に何仕掛けてんの!?
「まさか貴様、人間ではないのか……」
「人間だよ!」
思わず伯爵のお腹にパンチを一発叩きこむ。それにより伯爵は気絶した。色々思うところはあるけど、とりあえず。
「サーチ:アーティファクトォォォォォォ!!」
この後滅茶苦茶捜索した。