【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。 作:味音ショユ
「1つ聞きたいのだが、君はイーシェンの出身なのかね?」
「イーシェン?」
ザナックさんと居る馬車の中、最初は雑談と言うかこの世界についてそれとなく聞いていたのだが、色々話しているうちに僕の出身地についての話になっていた。
「いえ、違いますが……」
「そうか。いや私も話でしか知らないが、イーシェンという所は家名が先に来る珍しい地域だと昔聞いたことがあってな。だから君もてっきりそうなのかと……」
どうやらこの世界にも日本によく似た国があるらしい。ドラ○エ3でいうならジパングみたいなものだろうか。行く機会が出来たらそのうち行ってみよう。
その後3時間ほど馬車に揺られているとリフレットの町に到着した。
町の門番の兵士に挨拶された後軽い質問を受け、適当に答えると早々に中に入れてもらえた。どうやらザナックさんが有名人らしく、その恩恵を連れである僕も受けたらしい。
そして馬車が町中を進んでいく。その町の風景は人が多く、活気づいていることからいい町だとすぐに分かった。
やがて馬車が止まり、ザナックさんは馬車を下り僕もそれに続く。
「さあ、ここが私の店だ。ここで君の服を揃えよう」
そう言ってザナックさんは僕を店の中に招き入れる。僕はその誘いに答え中に入る、前に何気なく店の看板を見た。針と糸という服屋だとわかりやすいロゴマークがあったが、その下の文字が読めない。
「そっか、文字が違うのか……」
言葉が通じるからてっきり文字も日本語かと思ったが、そこまで甘くは無いらしい。
まあこの問題は後で考えるとして、僕は店の中に入った。
「お帰りなさいませ、オーナー」
店内に入ると数人の店員がザナックさんを迎え入れる。
正直センスを疑っていたが、店員の制服を見る限り杞憂だったらしい。緑色のワンピースにフリルの付いた白いエプロンを組み合わせたその服装は、正しくエプロンドレス。そして何よりスカートの長さが素晴らしい。黒のブーツを履いているが、スカートの長さ膝くらいであることとブーツの長さが膝下であることの兼ね合いで、膝裏がチラリと見えている、まさしく絶対領域。実にエロス。それでいて数人いる店員全員が綺麗な女性ときたもんだ、これは常連にならずにはいられないね!
「うむ。おい誰か、彼に見合う服を見繕ってくれ! では冬夜君も服を着替えたまえ」
ザナックさんは当然だが僕の脳内批評など知る由も無いので、店員の1人に僕の着替えを用意させる。そして僕を急かすように試着室へと押し込んだ。その後、店員が何着かの服を持ってきてくれたので、着替える為にブレザーの上着の脱いでネクタイを外し、ワイシャツを脱ぐ。その下には黒のTシャツを着ているので、これは部屋着にでもしようか。
「!? き、君!」
と思ってたら後ろからいきなりザナックさんの声がした。あれ、僕この試着室に1人だったよね?
「その服も売ってくれ! あとその靴もその下に着ている物も、それと下着も全てだ!!」
全部かよ! 追い剥ぎもビックリだよ!!
結局僕は身ぐるみ全部をザナックさんに売り飛ばした。いや使用済みの下着とかどうすんの? 需要あるの? あったらあったで嫌だなこれ、トランクスは売らなきゃ良かったかも。
とはいえ代わりに用意してもらった服や靴は、動きやすくて丈夫そうで、それでいて黒を基調としたシックな感じがなかなか悪くない。
「それでいくらで君の服を売ってもらえるのかね。金に糸目は付けんが、君の希望を聞こう」
「希望と言われましても、相場が分からないので何とも言い難くて……。出来れば高めでお願いします、正直この町で宿にも泊まれそうにない位しか金銭を持っていなくて」
実際は一文無しなのだが、ちょっと見栄を張る僕。まるで張れてないけど気にしない。
「そうかね、それならば金貨10枚にしよう。気の毒であるし、私の頼みを快く聞いてくれた礼だ」
正直貨幣価値が分からないので何も言えないが、とりあえずザナックさんの善意を信じよう。
「ではそれで」
「うむ、これを」
ザナックさんから金貨10枚を手渡された。大きさは500円玉位で何かライオンのようなレリーフが彫ってある。この世界の加工技術どうなってるんだろうか。
「ところで一ついいですか?」
「何かね」
「この町に宿屋の様な所はありませんか、早めに宿を確保したいので」
「ここから1番近い宿屋は前の道を右手に真っ直ぐ行けばあるぞ。看板に銀月と書いてあるからすぐに分かるはずだ」
読めないよ、まあどうにでもなるだろう。人に聞くもよし、いざとなればスマホでマップを開けば多分分かるはずだ。前見たときに町の名前が日本語で表示されてたし。
「ありがとうございます、それではまた」
「ああ、珍しい服を見つけたら持ってきてくれたまえ。言い値で買わせてもらうよ」
「分かりました、覚えておきますよ」
ザナックさんに別れの挨拶をして、外へ出る。日はまだ高いので宿の込み具合の心配は無いだろう、多分。
「よし、マップを開いてみよう」
マップを開くと、町中の地図が現れる。現在地や店の名前も表示されている。これなら迷う心配は無い。
そしてある確信をした。
「他の店の名前は別に僕目線でもダサくないのにね……」
ザナックさんの店名だけ、なんか浮いていた。
オーナー本人が良い人だから、言いにくいのかもしれないな。僕も言えないし。