【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。   作:味音ショユ

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爵位授与、そして王宮の人々。権力より責任のない自由が現代日本人の欲しいもの

「お父様からです。これを読んだら王宮の方へ来ていただきたいとの事です」

 

 さっき銀月へ早馬で届いた手紙。それを見るなりユミナは僕にそう言ってきた。

 

「何でまた?」

「例の事件解決の謝礼として、冬夜さんに爵位を授与したいと」

「「「爵位!?」」」

 

 エルゼ達が驚きの声を上げる。爵位、僕に爵位……。

 一応、一国の姫であるユミナの結婚相手には、それなりの身分が必要になってくる。婚約者(仮)の僕を公式発表する気は今の所無いらしいが、それまでにどうにか体裁を整えたい、とかそんな感じかな。

 

「正気でござるか王様は!?」

「そうですよ! 爵位持って領地手にいれてしまったら、女性領民のスカートの長さを下着が見える短さに規制したりしますよ冬夜さんは!」

「そんな事しないよ!?」

 

 僕がするなら見えるか見えないかギリギリの長さにする。チラリズムの無いパンチラはただ下品なだけだからね。

 というか八重とリンゼが酷い、凄く酷い。

 

「それで一応聞くけど、断ってもいいの?」

「断ってもいいそうですが、その場合きちんと公式の場で理由を挙げて辞退して頂きたいとの事です」

「「辞退!?」」

 

 またも驚きの声を上げる3人、ではなく2人。驚いていないのはエルゼだ。

 

「辞退するんですか冬夜さん!?」

「嬉々として受けると思っていたでござる……」

「いや、僕どっちかっていうとアウトロー側だし……」

 

 というか君達は僕にどうなって欲しいんだ。

 

「第一貴族になるって事は、国に仕えるわけじゃん。領地を治めなきゃいけないわけじゃん。僕には無理だって」

「ま、あんたならそう言うでしょうね」

 

 僕の言葉に同意してくれるエルゼ、分かってるう。

 

「それで、なんと言って断るつもりでござるか?」

「うーんと、自分には冒険者稼業があっていますので、とか? 嘘くさいけど」

「あながち嘘ではないと思いますが……」

 

 リンゼの呟きはさておき、それ位しか思いつかない。両親の仇! をやってもいいけどややこしい事この上なくなる。

 

「それで構わないと思います。お父様も無理強いはしてこないでしょうから」

「いいんだ……」

 

 まあ、それでいいなら僕もいいけど。それとエルゼ達にも王宮に来て欲しいらしい。流石に授与式に出席しろという事ではなく、単に娘が世話になっている相手に会いたいとの事。最初は恐れ多いと拒否していた3人だが、王様と知り合いになっておけば何かと便利なので最終的には折れた。

 

「琥珀はどうする?」

『私ですか? 正直どちらでも――』

「何言ってるのよ冬夜、琥珀を置いていく事なんて出来ないわ」

「可哀想です」

「この子も仲間でござろう?」

「琥珀ちゃんの面倒は私が見ますから、お願いです、冬夜さん」

 

 琥珀を擁護しているようで実際は自分の意思を優先させる女性陣。というかユミナ、別に琥珀は面倒見なくても大丈夫だと思う。そうまで言うなら連れていこう、別に連れて行きたくない訳じゃない。

 早速ゲートを開き、王宮のユミナの部屋へ出る。

 ユミナの部屋と言ったが、寝室とかではなく、何個かあるお客を迎えるための部屋だ。前もってゲートを使う時は、この部屋を使うよう王様から言われている。

 部屋を出ると、警備の騎士達が怪訝そうな顔で僕らを見るが、先導するユミナを見て騎士達は態度を改める。

 しばらく歩いて回廊の奥にある部屋の扉をユミナが開けると、そこには国王陛下とレオン将軍、それとミスミド大使であるオリガさんがお茶を楽しんでいた。

 

「お父様!」

「おお、ユミナか」

 

 ユミナの姿を見た王様が椅子から立ち上がり、駆け寄ってきた娘をしっかりと抱きしめる。

 

「元気そうで何よりだ」

「冬夜さんの傍にいるのですから、元気がないなんてことはありません」

 

 恥ずかしいこと言うな……。ユミナの発言に1人赤面していると、王様に声を掛けられた。

 

「久しぶりだな、冬夜殿」

「お久しぶりです」

「後ろの方々はお仲間かな? そう固くなんでいい、顔を上げてくれ」

 

 王様の声に振り返ると、既に3人とも土下座状態だった。ちなみに僕は今更する気は無い、というかしたら向こうが怪しみそうだ。

 

「冬夜殿」

 

 いつの間にかオリガさんが傍に来ていた。今日も狐と耳と尻尾が眩しい。琥珀なんかよりよっぽどモフモフしたい。

 

「今回の件は本当に感謝しています。あなたはこの国の国王陛下の恩人であると同時に、我がミスミド王国の恩人であります。いつか我が国に来られることがあれば、国を挙げて歓迎いたします」

 

 深々と頭を下げるオリガさん。いや、国交断裂を阻止した訳だからそれだけ歓迎されるのも分かる。分かるけど僕の心が縮み上がりそうだ。

 

「僕としては、国を挙げてよりあなたと2人きりになって歓迎される方がうれ――」

 

 僕の言葉が終わるより早く、いつの間にかエルゼが肘を僕の脇腹に叩きこんでいた。

 僕は思わず崩れ落ちる。

 

「ぐ、ぐおお……」

「だ、大丈夫ですか冬夜殿!?」

 

 僕を心配してくれるオリガさん。

 

「大丈夫、いつものことよ」

「いつもの事です」

「いつもの事でござる」

 

 しかし女性陣3人は当然の様にスルー。

 

「ユミナ、あれがいつもの事なのかね?」

「いつもの事ですわ、お父様」

 

 そしてユミナは王様にこれが日常だと説明していた。いや、確かにこれは僕に非がある。隣国の使者をいきなり口説くのは問題しかないだろう。

 

「大丈夫ですオリガさん、よくある事ですから」

「そ、そうですか……」

 

 少々引き気味に僕を見ていたオリガさんの表情が一瞬固まる。どうしたのかと目線を追うと、その先には僕らの後をついてきた琥珀がいた。

 

「……冬夜殿、その子は?」

「ああ、僕が飼っている虎の子で琥珀といいます。ほら琥珀、ご挨拶」

『がががーが・がーががう』

 

 予め打ち合わせた通り、琥珀に虎の子供の振りをさせる。でもそんな鳴き声は指示していない。

 その琥珀を眺めながら、オリガさんは怪訝そうに首を傾げた。そりゃこんな鳴き方する虎見たらそう思うよね。

 

「どうかしました?」

「あ、いや、我がミスミド王国では白い虎は神の使いとされ、神聖視されているもので。白虎は神獣白帝の眷属とも言われていますから」

 

 本人、いや本体だよ! と内心で思ったが流石に言う訳にはいかない。というか琥珀連れてミスミド王国行って大丈夫か?

 といきなり背中に衝撃が走る。レオン将軍だ、あんまり叩かないでほしい……。

 

「久しぶりだな冬夜殿! まさか姫様の婿に収まるとは予想外だったぞ! 中々お前さんは見所がある! どうだ、儂が鍛えてやるぞ?」

「いや、まだ婿じゃないんで」

 

 この人に鍛えられたら、強くなる前に身体を壊しそうだ。僕はそこまで体育系じゃない……おや?

 将軍の腰に、赤銅色のガントレットが吊るされている。武骨で飾り気のないそれは、まるで歴戦の勇者の様な雰囲気を醸し出していた。

 

「将軍、それって……」

「ん? ああ、この後軍部での訓練があるのでな。儂は武闘士だからガントレットくらい……って知らんのか? 火焔拳レオンの名を?」

 

 すみません、全く知りません。ところが将軍に対し無反応の僕と違い、過剰に反応した者が横にいた。

 

「あ、あたし知ってます! 炎を纏うその拳で、メリシア山脈に巣食う大盗賊団をたった1人で壊滅させた火焔拳の使い手! 他にもストーンゴーレムとの死闘とか色々!」

「おう、よく知っているじゃないか! お前さんも武闘士か。女で武闘士ってのは珍しいな!」

 

 興奮するエルゼの腰に下げられた、流線形の左と鋭角な右。左右非対称のガントレットを見て、将軍は嬉しそうに笑った。

 

「どうだ? お前さん、この後の訓練に参加せんか?」

「参加させて頂けるのですか!?」

 

 満面の笑みで頷くエルゼ。同じ武闘士のレオン将軍に師事出来るのが嬉しいのだろう。そんなエルゼ達を眺めていた僕に王様が声をかけてきた。

 

「ところで冬夜君、爵位授与の件だが……」

「御厚意は大変ありがたいのですが……」

 

 王様には悪いが断りの言葉を返す。権力に心惹かれる部分はあるが、やっぱり僕向きではない。これを受けないからと言って果たすべき責任を放棄する訳じゃないし、わがままを言わせてもらおう。

 

「まあ、そう言うと思っていたのだがね。国王が命の恩人に対して、何も報いないというのもイメージが悪いのでな。一応爵位を授与しようとしたという形が欲しかったのだよ。無論、本当に受けてくれるのならそれに越した事は無いが」

 

 国王ともなると体裁とかを取り繕わなければならないのか、大変なんだな。そんな王様に一方的な同情を向けて居ると、突然大きな音と共に扉が開かれ、誰かが部屋に飛び込んで来た。

 

「ここに冬夜さんが来ていると聞いたのですが!」

 

 誰かと思ったらシャルロッテさんだった。以前と様子が違いすぎて分からなかった。せっかくの美しい翡翠色の髪はボサボサになり、目の下には大きな隈が出来ていた。足早にこちらの方に歩いてくるが、僕があげた眼鏡越しに見える目は赤く充血している。怖い怖いって!

 逃がさないとばかりに僕のコートを片手で掴み、もう片方の手で数枚の銀貨が入ったいくつかのグラスを差し出してきた。

 

「あの、この眼鏡! あと2つ3つ頂けませんか!? こないだトランスファーの事教えてあげましたよね!? ねえ!!」

「そ、そうですね! ありがとうございました! でも、何で眼鏡いるんですか!?」

 

 鬼気迫るシャルロッテさんに引きながらも、僕は疑問に思った事を尋ねる。

 

「何で? 解読が全然追いつかないからに決まっているでしょう! 1人でやるにも限界があります! 無理、もう無理! いくら解読しても終わらないし! どれだけある思ってるんですか!? どれだけあると思ってるんですか!?」

「あなたそれを僕にやらせようとしてましたよね!?」

 

 というか何で2回!? 逆切れで僕にまくしたててくるシャルロッテさんにツッコミを入れるも、逆らうのが怖いので素直にグラスと銀貨を受け取り、モデリングとエンチャントを発動させ、翻訳眼鏡をさらに3個作った。

 

「ありがとうございます!」

 

 もう用はないとばかりに眼鏡をひったくり、来た時と同じ速さで部屋を出て行こうとするシャルロッテさん。

 

「一応それの管理はきちんとしておけよ、シャルロッテ。もし帝国にでも流れたら面倒な事になりかねんからな」

「了解です!」

 

 王様に元気よく返事をしながら風の様に去っていく。なんて騒がしい人なんだ……。

 

「全くシャルロッテにも困ったものだ。あの眼鏡を手に入れてから、研究室に籠りっきりだしそのうち本当に体を壊すぞ。このままでは冬夜君にリカバリーをかけてもらう事になりかねん」

 

 どうやら僕は意図せず1人の引きこもりを生み出してしまったようだ。夢中になると本当に一直線な人だな。

 

「……今の、宮廷魔術師のシャルロッテ様?」

 

 リンゼが扉の方を見ながら呟く。あれを王国1の魔法使いと見るのは無理があるだろう。

 

「魔法の話とかしたかったです……。残念」

「やめとけやめとけ。今のシャルロッテ殿にそんな事言ったら、半日は古代精霊魔法の話を聞かされて、実験に付き合わされるぞ。落ち着くまで待つんだな」

 

 将軍が首を横に振る。確かにあの状態で話が通じたら逆に怖い。

 

「さて、後日の授与式の用意をせねばな。冬夜君には当日着替える服を選んで合わせてもらおう」

 

 王様が手を叩くと、奥の扉から2人のメイドが現れた。メイドさんに着替えを見られるとか新手のプレイにしか思えないんだけど。

 

「リンゼと八重はどうする? ここで待ってる?」

「私はお姉ちゃんの訓練を見学に行きます」

「拙者もそうさせてもらうでござる」

 

 ユミナ以外は訓練行きか。琥珀はユミナに預けたし、さっさと服を選ぼう。

 いや待て、メイドさん2人を口説く隙はあるのでは……!?

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