【完結】紳士的な異世界はスマートフォンとともに。   作:味音ショユ

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家令、そして使用人雇用。面白いように凄い人が屋敷に集まってるこの状況が凄い

 僕らが王都へ引っ越す日がやってきた。銀月のミカさんやドランさん、パレントのアエルさん、ファッションキングのザナックさん、武器屋熊八のバラルさん、その他にも御世話になった人達に別れの挨拶をしてリフレットの町を旅立つ。

 初めてこの世界に来て住んだ町。思い入れは色々あるけど少々悪評が広まり過ぎた。離れるにはいい機会だったのかもしれない。

 

「いやそれあんたの自業自得」

 

 聞こえない。エルゼの言葉なんて聞こえない。

 ドランさんはこの町を将棋の町にしてやると意気込んでいた。名物があるのはいいと思うけど、一過性にならないだろうか……。

 ザナックさんには別れの餞別として、色んな服のデザインをプリントした紙を渡した。ナース服やセーラー服に食いついていたので全力でPRしておいた。その内置くかもしれないそうだ。置いたら絶対に買いに行こう。

 アエルさんにはお菓子レシピと、それらを作る為の道具をモデリングで造りいくつかあげた。アイスサーバー、丸やハートや星形の型抜き、トルテカッターなどだ。

 

「ありがとうございます冬夜さん」

「いえ、あなたの為ですから」

「新作が出来たらまた食べに来てくださいね」

「ええ、勿論」

 

 アエルさんが僕の手を強く握りながら言う。あの、何か痛いんですけど……。

 

「でもお別れは寂しいですね……。何か思い出の様な物を残したいです……」

「ミカさん! 部屋貸して!!」

「ウチ連れ込み宿じゃないから」

 

 僕の懇願はミカさんにあっさり却下される。

 

「冬夜? 流石にそれは冗談の域を超えてるわ」

「痛い痛い! 決まってるこれ決まってる!」

 

 そして僕はエルゼに関節技を掛けられていた。リンゼと八重も冷たい眼で僕を見る。やめて、アエルさんが握っていた僕の手を振りほどいて関節技を掛けないで。痛い!

 

「…………」

 

 アエルさんが何か言ってる気がしたが、痛さのせいであいにく聞こえなかった。

 しばらくすると解放されたので、ミカさんには穴あき包丁、ピーラー、果汁絞り、おろし金、そして色々な料理レシピをあげた。これで銀月の食事はさらに破壊力を増すだろう。

 

「ん、ありがと。たまには食べに来てね」

「週1で来ますよ」

「そんなには来なくていい」

 

 ミカさんににべもなくフラれながら、皆と別れ僕らは王都へ戻る。すると家の前に数台の馬車が停まっていて、いくつかの家具を運び込んでいた。家具の搬入を指示していたユミナが家の前に現れた僕らに気が付くと足早にかけてくる。

 

「冬夜さん丁度良かった。この家の家令に雇って頂きたい者が今来ているのですが、在って頂けますか?」

「今?」

 

 僕が驚いていると屋敷のテラスから全身黒の礼服で固めた、白髪と髭の老人が歩み寄ってきた。この人確か、僕に王様の謝礼金と目録を持ってきた人だ。

 

「お初、いや二度目でございましたな。ライムと申します、お見知りおきを」

 

 深々と頭を下げるライムさん。歳は60代後半といった所か。その割には動きが若々しい。

 

「じいやはお父様の世話係を長年務めてきた者です。彼には申し分ないですよ」

「何か凄い人来ちゃった!?」

 

 それって王様の元世話係だったって事だよね? とんでもない人引っ張って来たなユミナ。

 

「何でまたうちなんかに……」

「いえ、寄る年波には勝てずこの度お役を息子に譲りまして。そこへ姫様がお誘いくださったのです。残りの人生、弟の命の恩人に仕えるのも悪くないと思いまして」

「……弟?」

「レイムと申します。オルトリンデ公爵殿下に仕えております」

「ああ、スゥの所の」

 

 誰かに似てるなー、とちょっと思ってたんだけどレイムさんか! 執事兄弟だったんだ、執事兄弟ってBL漫画のタイトルにありそう。

 

「いかがでしょう。雇って頂けるでしょうか?」

「いや、正直こっちから頼みに行くレベルなんですけど……。いいんですか? もっと待遇のいい所ありますよ?」

「いえ、こちらでお世話になりたいのです。よろしくお願いいたします」

 

 再び頭を下げるライムさん。そこまで言われて断る理由は無いので、家の管理や雇い人の監督をお願いする事にした。この家の管理業務を一手に任せることになる。

 

「それでは早速ですが旦那様」

「旦那様って……、僕そんな大層な人間じゃありませんよ」

「いえ、あなたは2つの国を救った人。それに雇われている以上主従の関係はきちんとせねばなりません。それで旦那様、何名か雇用したい人材がいるのですが、会って頂けますでしょうか?」

「そりゃ、会いますけど……」

 

 僕の言葉と同時に、その人たちを連れてくるという事で屋敷を出て行った。行動速いな。

 

「いい執事が見つかったじゃない」

「全くだよ」

 

 エルゼが手荷物を持って屋敷の中へ入っていく。リンゼと八重も続き、ユミナは再び家事の搬入の指示に戻る。

 僕も自分の部屋に向かい、荷物を降ろして搬入を手伝うことにした。

 一応僕の部屋は2階の1番広い部屋であるが、取付であるベッドとクローゼット以外、まだ何もない。何ならベッドはるけど布団が無い。タンスに机と椅子、後本棚が今日搬入される予定だ。勿論布団も。

 どれ、荷卸しを手伝いに行くか。重い家具ばかりで困って……なさそうだな。まあいいや、手伝ってこよう。

 予想通り、エルゼがブーストを使って、思い家具を難なく運んでいた。僕も同じくブーストを使い家具を運び始めた。

 

 

 家具の搬入が終わると、一休みとばかりにテラスに集まりお茶にすることにした。

 とりあえず自分達の部屋とリビング、キッチン、応接室などの主要な部屋には家具類を運び終えた。後は持ってきた服やら本などを整理するだけだ。

 エルゼとブーストを使って争うように家具を運んだが、軍配はエルゼに上がった。身体能力を数倍に跳ね上げるブーストだが、同じ魔法を使っている以上結局は元々の能力がものをいう。

 女子に負けるのか、僕。

 考えてみたら、身体能力ではエルゼに及ばず、魔法の知識と修練度ではリンゼに及ばず、剣術では八重に及ばず、弓術と礼儀作法ではユミナに及ばない。僕のとりえって魔力量と無属性魔法しかない……!?

 

「やっと落ち着いたわね」

「まだ色々と買わねばいけない細かい物があるでござる」

「それは少しずつ買って揃えましょう」

「そうですね、今日はここまでで」

 

 確かにまだまだ細かい物が不足している。食器とかの日用雑貨。後は洗剤か、この世界の洗剤ってどんなだ。あと風呂桶に、掃除道具とゴミ箱とかも足りないな。

 何が必要か皆で話し合い、リストにしていく。後で纏めて買ってこよう。そんな風に皆が意見を出し合っていると、門の方からライムさんが数人の男女を連れてやってきた。

 

「旦那様、こちらが先程話した者達でございます。身元も確かな者たちですので、どうか雇って頂けないでしょうか」

「メイドギルドから派遣されました、ラピスと申します。どうぞよろしくお願いします」

「同じくメイドギルドから参りましたぁ、セシルと申しますぅ。よろしくお願いしま~す」

 

 メイドの服を着た2人が僕に頭を下げる。黒髪のボブカットで真面目そうなふいんき(←なぜか変換できない)の人がラピスさん、明るい茶髪で柔らかな笑顔をした人がセシルさん。どっちも20歳前後といった所だろうか。

 にしてもメイドギルドなんてあるのか。と思いライムさんに聞くと、メイドによる犯罪がある為、厳しい身元調査と教育を施すのがメイドギルドらしい。ギルド公認のメイドは重宝されているとか。

 彼女達は家の掃除や管理をライムさんの下、やってくれるという。

 

「庭師のフリオと申します。こっちは妻のクレアです」

「調理師のクレアです」

 

 次に挨拶してきたのは20代後半位の夫婦だった。

 人のよさそうなくすんだ金髪の青年と、同じく人のよさそうな赤毛の女性。のんびりとした夫婦なんろうか。

 フリオさんはライムさんの友人の息子なんだそうだ。花の手入れから家庭菜園まで庭の管理業務をしてもらう。奥さんにはこの家の食事を一手に引き受けてもらう。

 何でも今までは王都のある貴族に仕えるコックの下で、見習いとして修行をしていたそうだ。今度ミカさんにも渡したレシピを渡してみようかな。

 

「トマスです。元・王国重装歩兵をしとりました」

「ハックです。元・王国軽騎兵で」

 

 なんと分かりやすい重と軽。体型もそのまんまだ。どちらも50代くらいか。2人とも最近王国騎士団を引退したそうで、そこにライムさんが声をかけたらしい。屋敷の門番と警備を交代でしてくれるそうだ。大丈夫? 軽騎兵って門番向いて無くない? 後2人って辛い様な、いやそこはライムさんを信じよう。場合によっては追加の人員を雇うようにライムさんに言っておこう。ブラック企業になられても困るし。

 

「トマスとハックは王都に自宅がありますので通いとなります。他の4人と私はここに住み込みをしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「かまいませんよ」

 

 ライムさんの申し入れを僕は受け入れた。部屋は沢山あるし、何も問題は無い。

 フリオさんとクレアさんは夫婦なので、ひとつの部屋でいいとの事だったが、それならいっその事、と離れに住んでもらう事にした。これで子供を作っても大丈夫ですね、と僕がいったらクレアさんは顔を赤くした。そして僕はエルゼに殴られた。なぜだ!?

 

「夫婦気兼ねなくと思って純粋に配慮したのに!」

「その配慮を口に出すのが悪いのよ」

 

 成程、これもセクハラの範疇なのかもしれない。反省、と僕は壁に手を付ける。反省猿って読者知ってるの?

 

「あの、驚くかもしれませんが割と日常の光景ですから……」

「ちょっとデリカシーが足りなくて、美人を見るや直に口説くのがこの家の主でござるが悪人ではござらん。親しみやすくて付き合いやすい、見てて気持ちのいい御仁でござるよ」

 

 その横では、いきなり殴られた僕を見て驚く屋敷で働く一同にリンゼと八重がフォローしていた。ありがたいけど、何かフォローの方向性がおかしい。

 ともかくそれぞれに支度金を渡し、必要な物を買い揃えるようにお願いする。それとは別のお金をラピスさんとクレアさんに改めて渡し、ラピスさんにはさっきリストアップした雑貨を、クレアさんには食料や調理器具の買い出しを頼んだ。

 ライムさん以外の皆はすぐに買い物に出たが、ライムさんは屋敷の点検をしたいと言って家の中に入って行った。ここで働く以上、細かいところまで自分で確認しておきたいそうだ。頭が下がる。

 

「何かどんどん決まっていくなあ」

 

 まだ家にも慣れてないのに、使用人が7人に増えた。お金ならしばらく大丈夫だろうけど、いつまで雇っていられるだろうか。

 まあ、気にしても仕方ない。

 

「じいやに任せておけば問題ありませんよ。伊達にお父様が子供の頃から仕えているわけじゃありませんから」

「何だか偉いことになったなあ」

「それだけ冬夜さんを見込んだという事でしょう」

「僕そこまで見込まれることしたっけ?」

 

 当然、という顔で紅茶を飲むユミナ。何だかプレッシャーが重い。

 

「……でも私達だけではどのみち管理できませんし、有能な執事さんがいてくれるのは正直ありがたいです」

 

 テーブルの上に並べられたクッキーを、膝の上で寝転ぶ琥珀に与えながらリンゼが呟く。確かにその通りだ、これからも頼りにさせてもらおう。

 ん? 門の方で馬車が停まった男がした。メイドのラピスさん達が帰って来たのかな? 荷物は多くなるのは分かっているし、馬車を頼むようには指示していたな。ライムさんが。

 そんな事を考えていたら、屋敷の奥からライムさんがこっちにやって来た。

 

「旦那様、オルトリンデ公爵殿下とスゥシィお嬢様がいらっしゃいました」

「え、オルトリンデ様とスゥが?」

 

 引っ越し当日に公爵様のお越しとは。一体何の用だろうか?

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